いずれ最強の錬金術師?

小狐丸

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三十三話 それは終わりか、始まりか

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タクミ視点

 未開地で巻き起こったスタンピード。

 魔境が幾つも点在する未開地だから、不自然じゃない……とも言えない。普段から巡回警備と魔物狩りが行われている、ウェッジフォートにこんなに近い場所でとなると、そうは言ってられない。

「マスター。数は多いね。でも、種類が狼系と猿系だけって珍しいね」
「だね。取り敢えず僕達は数を減らそうか」
「了解!」

 僕とカエデは、スタンピードの外側から魔物の数を減らしていってる最中だ。

 カエデが姿を現す度に、何匹もの魔物が切り刻まれる。カエデの糸に抗える魔物は少ない。未開地で集め多少育てた程度では、何の意味もなかった。

 おおっぴらに手助けするのは最終手段。僕とカエデは、気配を消して魔物を葬る。これもハイド技術の高い僕とカエデだから可能な事だ。

「エトワール達、頑張ってるね」
「だね。エトワールは安定しているから安心して見てられるし、春香も器用に攻めと護りをこなしている。フローラは、まぁ、少し元気過ぎる気もするけどね」

 距離的には遠いけど、僕とカエデにはエトワール、春香、フローラの活躍は手を取るように分かる。

「……ねえ、マスター」
「なんだい」
「一匹だけ遠くで見ている魔物がいるよ」
「……統率個体か。遠くから見てるなんて慎重だな」

 カエデから、このスタンピードを企てた統率個体らしき気配を教えられ、カエデが意識を向けた方向に意識を向けると、確かに一匹いるみたいだ。

「あれっ、逃げたね」
「うん。逃げるのが早いね。どうするマスター。追っ掛けようか?」
「いや、生徒達の安全が優先かな」
「了解!」

 僕が察知したのを感じたのか、統率個体は逃げてしまった。本当は、原因の究明を考えれば、可能なら捕獲。無理なら討伐するのが望ましいんだけど、子供達の命を護るのが優先だからね。


 とはいえ、未開地にある魔境の魔物程度では、僕とカエデには草刈りと変わらない。学園の子供達に危険がないよう、数を調整しながら魔物を狩る。

「これはこれで、子供達のレベリングになってるのかな」
「そうだね。特にエトワール達のいる場所の子達は、安定してレベル上げが出来ているみたいだよ」

 エトワール、春香、フローラという戦力があり、尚且つ照明の魔導具の用意。しかも、近衛騎士団からも人員がいるこの状況。パワーレベリングとしては悪くないんじゃないかと思ってしまう。

「まあ、魔物のスタンピードってだけで、トラウマになる子もいるかもしれないか」
「大丈夫じゃないかな。マスターとカエデが間引いてるもん」
「じゃあ、早く終わらせようか」
「了解!」

 エトワールや春香、フローラの活躍をもっと見たい気もするけど、間違っても他の生徒に何かあるといけないしね。







 タクミに意識を向けられただけで、野生の勘で一目散に逃げ出したのは、マッドな研究者ジャッジから208号と呼ばれていた大猿の魔物。

 208号は、ただひたすら駆け、未開地の南端に位置するトリアリア王国が領有する街へと帰還した。

「おや、その様子じゃあ失敗のようだな。208号」
「アレ、ムリ。テキノ ボス オレジャ ムリ」

 驚いた事に、大猿の魔物は言語を習得する程に進化していた。それだけに、途中で参戦したタクミとカエデの強さを訴える。

 勿論、タクミやカエデの正確な強さが分かる訳じゃないが、それでも格が違うのは人間よりも魔物である208号は強く感じたようだ。

「あぁ~、聖域のボスが出張って来たか。そりゃ無理か。やっぱり場所が不味かったかな。聖域と近過ぎたか。それで、奴の娘達はどうだった?」
「アレモ オレジャ ムリ」

 装備の性能もあるだろうが、タクミとカエデが参戦しなかったとしても、現状でエトワール達三姉妹をどうにも出来なかったと報告される。ただ、それを聞いたジャッジの反応は喜びだった。

「……素晴らしい。やはり聖域のボスは、勇者以上という事か。その娘達も然り。そうなると、余計に欲しくなるな」



 その後、トリアリアの本国からジャッジは注意を受けるのだが、勿論ジャッジは気にもしない。本国側の言う事は当然だ。トリアリア王国からの留学生は貴族の子息子女なのだ。抗議の一つもするだろう。

 今回の人為的なスタンピードでは、生徒、護衛を含めて、怪我人が少しでた程度で、死亡者はいなかった為、責任問題にはならなかったが、責任を問われたとしても、ジャッジは毛ほども気にしないだろう。

 彼の頭の中は、208号の更なる強化と、それの人間への転用。それしかないのだから。





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いずれ最強の錬金術師?の15巻が発売されました。

よければお手に取って頂けると嬉しいです。


諸事情により、またお話は暫く後日談の続きに戻ります。

よろしくお願いします。


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