いずれ最強の錬金術師?

小狐丸

文字の大きさ
上 下
307 / 308
連載

三十二話 不自然な襲撃

しおりを挟む
 それは、日付が変わって二時間くらいした頃だった。フローラの声で跳ね起きる。

「お姉ちゃん! スタンピード!」
「春香は普通科の皆んなをお願い! フローラは、騎士科と教養科に報せて!」
「うん! 分かった!」

 フローラと春香がテントから駆け出す。私もサティやシャルル、ミュゼを起こして迎撃の準備をする。


 フローラの索敵範囲は広いので、接敵までには少し余裕がある筈。

 私はシールドペタルズを装備し、空に向け照明の魔導具を投げる。

 魔導具は、地上から十五メートルくらいで滞空すると、周囲を明るく照らす。

 少し遅れて騎士科や教養科の集まるテント付近や、護衛の騎士団や冒険者達が集まる場所も明るくなる。


 人は暗いというだけで不安を感じる。緊急事態が起きれば、ただでさえ冷静に行動するのが難しいのに、そこに暗闇がプラスされると、戦いに慣れた騎士や冒険者でも普段通りの動きを出来る人は少ないと思う。

 現に、私も明るくなった事で幾分気持ちが軽くなった。魔力感知に優れた私や五感の鋭いフローラでもそうなんだから、学園の生徒、ましてや一年生は不安で仕方ないだろうな。



「悪い。遅れた!」
「クソッ! ハード過ぎるだろう!」

 ユークス君とルディ君が、装備を着込んでテントから飛び出して来た。

「エ、エトワールちゃん!」
「どうしよう!」
「シャルル! ミュゼ! 大丈夫だから落ち着いて!」

 シャルルとミュゼも合流したけど、夜中にスタンピートという事で、慌ててしまっているのを声を掛けて落ち着かせる。

 武術研究部との合同訓練はしていたけど、この演習で初めて魔物と戦った二人なので、パニックになるのも仕方ない。だから私はこっそりと闇属性魔法の鎮静を使う。

「春香がトップで、フローラは遊撃、全体のフォローをよろしく! ユークス君とルディ君、サティは、前衛でスリーマンセルで! ミュゼは、余裕があれば仲間に当たらないよう魔法攻撃。シャルルは、ポーションで皆んなのサポートをお願い!」
「了解!」
「は~い!」
「「「分かった!」」」
「が、頑張る!」
「は、はい!」

 事前に決めていたフォーメーションと役割を確認し、念の為指示を出しておく。

 そして私は、シールドペタルズを展開する。

「咲き乱れろ!」

 六枚の花びらが空中で待機状態となり、台座部分が分裂し私を護る。

「エトワールお姉ちゃん。最初は、脚の速い狼系の魔物だと思う。その後ろに、人型? うーん、ゴブリンやコボルトでもなさそうだし、オークやオーガにしては足が速いんだよね」
「猿系かもしれないわね」
「あー、そうかも」

 フローラから襲ってくる魔物についての情報が報される。

「ミュゼ! 当たらなくてもいいから、フローラの合図で魔法を撃ちまくって!」
「分かった!」

 フローラが、ミュゼの射程を考慮して合図を送る。

「今っ!」

 それに合わせて、ミュゼと私が魔法を乱射する。勿論、私は一発も外すつもりはない。この程度の狼系の魔物のスピードについていけないなんてなると、ママに叱られる。

 同時に、騎士科や教養科でも魔法攻撃が始まり、同時に合流するよう移動し始める。

 護衛の騎士や冒険者達も戦い始めているのが分かる。特に、近衛騎士団から派遣されている人達は、バッタバッタと魔物を葬っていく。

「ねぇ。エトワールお姉ちゃん」
「どうしたのフローラ!」

 一足早く飛び出して暴れていたフローラが戻って来た。

「何故だか、こっちばっかり魔物が襲ってきてる気がするよ」
「……変ね。もし、このスタンピートが人為的だとしても、狙うなら王族じゃないの? もしかして、私達?」

 自前の魔法に加え、シールドペタルズから六つの魔法が放たれる。

 圧倒的な手数で多少の余裕が出来たので、普通科のみんなを予定されていた合流地点へと誘導できた。



「護れ!」

 ガガガガンッ!!

 投擲された槍が、シールドペタルズにより防がれる。

「数が多いわね!」
「お姉ちゃん! お猿が混じり始めたよ!」

 何故か、槍の投擲が私達の所に集中している気がするのは気の所為じゃないだろう。魔物が投げ槍を投擲してくる事自体が異常なんだけど、今それを言っていても仕方ない。

 シールドペタルズを皆んなの防御に専念させ、私は自前の魔法のみで攻撃。フローラは、巨大な三日月刃を振り回し、時に投げつけ魔物を殲滅している。

 ドーーンッ!!

 火柱が上がり、幾条もの炎の軌跡を描く。春香の魔法と焔槍だ。春香は皆んなのフォローをしながらも魔物を後ろへ通さない。

 それにしても、魔物の数が多い。パパがウェッジフォートを建設した後、起きたスタンピートは、こんなものじゃなかったらしいけど、私達学園生には少々厳しいと思う。

 聖域騎士団との合同訓練で、パワーレベリング済みの近衛騎士がいてくれなきゃ危なかったかも。

 それと、もともと群れで狩りをする狼系の魔物は兎も角、この猿系の魔物も統率が取れすぎてる。

「エトワールちゃん、マナポーション!」
「ありがとう、シャルル!」

 シャルルは、ユークス君やルディ君、サティにヒールポーションを配っている。怪我はしていないみたいだけど、ヒールポーションで体力も回復する事が出来るから。そして、私にはマナポーション。これは、パパがくれた特製のやつ。回復量と効き目が違うの。

 照明の魔導具の効果が切れる前に、スタンピードが収まればいいのだけど……





 ルディとユークスは、サティと共に前線で討ち漏らした魔物を攻撃していた。

「なぁ、フローラちゃん、ヤベェな」
「春香ちゃんも、信じられないくらい凄いよ」
「あなた達、喋ってないで、手を動かしなさい!」

 巨大な三日月刃で纏めて狼の魔物を斬り裂くフローラ。大人でも持ち上げるのに苦労しそうなソレを、フローラは楽々振り回し、時には投擲して多くの魔物を蹂躙していた。

「あれ、魔物の方が可哀想になるな」
「ルディ、無駄口はダメだよ」

 フローラが振り回す、クレセントムーンの餌食になった魔物は、それこそ肉片となるものも多く、ルディがドン引きするのも多少は仕方ない。

 また、別の場所では焔槍を繰り出し、魔法を放ち、バックラーからワイヤーアンカーを撃ち出し、貫かれた魔物を振り回して魔物が群で襲い掛かるのを牽制する春香がいた。

 ルディやユークスが引く程の活躍なので仕方ない部分もあるが、サティは二人の尻を叩く。

 騎士を目指すサティとしては、エトワール達姉妹におんぶに抱っこではいけないと頑張る。

 三人の頑張りもあり、他の普通科の生徒も落ち着いて避難ができた。





 教養科のテントが集まった場所でも、魔物からの避難は迅速に進んでいた。

「姫様! お早く!」
「メルティ! 私は王族です! 皆を置いて逃げるなど出来ません! 皆んな、慌てず騎士の指示に従ってください!」

 メルティアラがクローディア姫に、逃げるよう言うが、クローディアはそれを拒否。他の教養科の生徒を纏めて合流地点へと向かう。

 しかし、教養科にはクローディアが居た事で、近衛騎士団から精鋭が護衛についている。魔大陸の高難易度ダンジョンで、パワーレベリング済みの騎士達にとって、未開地の魔物など鎧袖一触だ。

 それでも戦いに慣れていない低レベルの生徒が多い教養科。しかもスタンピートとなると、護衛する対象が対象だけに油断は出来ない。

 とはいえ、何故か魔物の多くがエトワール達へと集まっているので、騎士達は後ろに魔物を通す事なく、騎士科と合流を果たす。




 騎士科では、生徒達が魔物を相手に奮闘していた。

 これが闇夜の中、襲撃されていたなら、おそらく犠牲者は出ただろうが、早い段階で打ち上げられた照明の魔導具のお陰で、生徒達は普段通りの実力を発揮していた。

「チッ! 数が多いな! 近くに教養科もいる! 一匹も後ろに行かせるな!」
「「オオ!!」」

 期間は短いものの、サティ達と共に武術研究部でフローラや春香から鍛えられているバスクが仲間にゲキを飛ばす。

 実際問題、騎士科は問題なかった。魔物との戦闘など全員が何度も経験している。あとはパニックさえ起こさず、普段の実力を出せれば大丈夫だろう。

 それに加え、上級生には王族もいる。割り当てられた近衛騎士の人数も多い。

 集団戦闘自体、授業で学んでいる事なので、バスクは寧ろ張り切っていた。



 一番苛烈に襲われている普通科が、安定した戦いが出来ている事で、教養科と騎士科の状況も好転し始める。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

いずれ最強の錬金術師?の15巻が発売されました。

よろしくお願いします。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界立志伝

小狐丸
ファンタジー
 ごく普通の独身アラフォーサラリーマンが、目覚めると知らない場所へ来ていた。しかも身体が縮んで子供に戻っている。  さらにその場は、陸の孤島。そこで出逢った親切なアンデッドに鍛えられ、人の居る場所への脱出を目指す。

不死王はスローライフを希望します

小狐丸
ファンタジー
 気がついたら、暗い森の中に居た男。  深夜会社から家に帰ったところまでは覚えているが、何故か自分の名前などのパーソナルな部分を覚えていない。  そこで俺は気がつく。 「俺って透けてないか?」  そう、男はゴーストになっていた。  最底辺のゴーストから成り上がる男の物語。  その最終目標は、世界征服でも英雄でもなく、ノンビリと畑を耕し自給自足するスローライフだった。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー  暇になったので、駄文ですが勢いで書いてしまいました。  設定等ユルユルでガバガバですが、暇つぶしと割り切って読んで頂ければと思います。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】  最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。  戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。  目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。  ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!  彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!! ※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。