いずれ最強の錬金術師?

小狐丸

文字の大きさ
上 下
308 / 312
連載

二十九話 郊外演習1

しおりを挟む
 通常の馬車では出せない速度で西へと進む。郊外演習だ。

 私は知らなかったんだけど、一学年以外は全生徒が参加している訳じゃないみたい。

 特に教養科の上級生は、不参加の人が多いらしい。

 それで単位は大丈夫なのかと思うけど、それが全然大丈夫なんだとか。

 そもそもこの郊外演習は、一年生の為に行われる意味合いが強いそうだ。

「凄いスピードだな。それに揺れないし」
「ルディの家の馬車は、普通の馬車なんだな」
「ユークス。言っておくけど、僕の家の規模じゃ、イルマ様の馬車なんて買えないからね」

 ルディ君とユークス君が、流れる風景を見ながら馬車の性能について話している。

 今回、学園が用意したのは、パパが昔開発してパヘック商会から売り出された馬車だ。

 サスペンションやダンパーを装備し、揺れないし少々スピードを出しても故障する心配もない。その馬車を轢くのも魔馬なので、普通の馬車とは比べ物にならないスピードで進む。

 それに加えて、王都からロックフォード伯爵領、そしてボルトン辺境伯領に続く街道は、綺麗に整備されているので、それも馬車のスピードが速い理由だったりする。

「あ~あ。どうせならサラマンダーを出してくれたらいいのになぁ」
「それは無理よ、フローラ。バーキラ王国にも何台もないんだから」

 とはいえ、そんなルディ君やユークス君にとっては速いスピードでも、私達には不満しかない速度だ。

 先ず、ツバキの轢く馬車のスピードは、こんなものじゃないし、聖域では私達用のグライドバイクだってあるんだもの。フローラが、遅くてイライラする気持ちも分かる。

 それに陸戦艇サラマンダーは、学園の校外行事に使っていいものじゃない。



 王都から未開地までは、たった三日の行程なのだけど、私達姉妹にとってはとても退屈な時間なのには変わらない。

 それと郊外演習が、未開地で行われるのも、何となく理由は分かった。

 王都からロックフォード伯爵領、そしてボルトン辺境伯領と、国王派の有力貴族家の領地で一泊する予定になっている。ボルトン辺境伯領を出ると、ウェッジフォートまで一日で到着する。まあ、私達はウェッジフォートには寄らないし、ウェッジフォートもボルトン辺境伯の管轄だから、ボルトン辺境伯領と言えなくはないが、それは置いておいて、王子や王女が参加する行事で、信頼の置けない貴族派の領地を経由しないというのは大きいのだろう。




 その後、何事もなくロックフォード伯爵領で一泊し、次の日はボルトン辺境伯領で一泊。私達は遂に未開地へと足を踏み入れた。馬車に乗ってるだけだけど。

「ねえねえエトワールちゃん。未開地では魔物が多いの?」
「大丈夫よシャルル。まったくいない訳じゃないけど、魔境に近寄らなければ、そうそう遭遇する事はないと思うわよ」
「そうだね。同盟三ヶ国の騎士達が巡回警備しているし、聖域騎士団の巡回もあるしね」
「そうなんだ。よかった」

 馬車が未開地に入ると、シャルルが不安そうに聞いてきたけど、実際それ程魔物を心配しなくてもいいと思っている。

 パパが言うには、聖域が出来て精霊樹が地脈や大気中の魔力を浄化するようになってから、未開地でも魔境以外では魔物の遭遇率はぐんと下がったらしい。

 まあ、それでもトリアリア王国が、聖域から比較的遠い南の海沿いを開拓した時は、結構魔物の氾濫があって被害を出したそうだけど、ウェッジフォート付近なら大丈夫だとパパは言う。

「最初にウェッジフォートを造った時に、大規模なスタンピートがあったからね。それ以来、あの規模の魔物の氾濫はないかな」って言っていた。

 サラッと大規模なスタンピートがあったって言ってるけど、それをパパ達は何時ものメンバーで殲滅したって言うんだから凄いよね。

 まあ、パパ達の強さは今更だから置いておいて、私達はウェッジフォートへ向かう街道を南にそれて、演習予定地へと向かう。

 ウェッジフォート付近なら、魔物も出没する事なく安全なんだろうけど、それじゃ郊外演習にならない。この郊外演習では、生徒達が協力して魔物に対処し、力を合わせて野営する。魔物と一匹も遭遇しないのでは意味がない。

 特に、教養科の貴族子女と普通科の平民出身の生徒は、レベルを上げるという目的があるのだから。

 騎士科は知らない。だって、騎士を目指す貴族のボンボンは、だいたい子供の頃から護衛付きでパワーレベリングしているから。まあ、角ウサギやゴブリン、コボルトなんかの弱い魔物に、トドメを刺すだけらしいけどね。

 バスク君は、近衛騎士団を目指しているだけあって、そんな促成栽培みたいなパワーレベリングじゃなかったって聞いた。ロードラッシュ伯爵家は、一応国王派で武に偏った家柄らしく、普通に魔物とは戦ってレベルを上げてたんだって。だから、対人戦以外にも魔物との戦闘も問題ないと言っていた。

 まあ、バスク君も武術研究部に入ってから、春香やフローラにこてんぱんにやられながら、訓練に励んでいるから大丈夫だろう。


 そして大きな問題もなく、私達は野営地へと到着した。

 それぞれ学園から支給された、魔物除けの魔導具を設置し起動させる。

 この手の魔導具も、パパが作った物なので、この未開地に出没する魔物程度なら余裕で防げる。


 そして、それぞれクラスごとに分かれてテントを張り、郊外演習の準備をする。

 教養科は、貴族家の令嬢達に自炊の準備など無理なので、従者や護衛が代わりにしているけど、騎士科や普通科は勿論自分達の事は自分達で行う。

 その後、グループの中から人選し、それぞれ装備を整え、今日の夕飯の獲物を狩りに行く。まったく獲物を狩れない場合には、学園側から支給されるけれど、減点になるらしい。

「さて、自分達の食べる分だけなら簡単だね」
「フローラ、今日は魔境に入っちゃダメよ」

 手早く装備を整えたフローラが張り切っている。でも今日は魔境に入るのは禁止されているので、一応言っておかなきゃ。

「分かってるよ。でもこの辺の魔境は小さくて強い魔物もいないよ」
「フローラ。私達は平気でも、まともに戦った事のない人もいるんだから、強い弱いじゃないよ」
「分かったよ、春香お姉ちゃん」

 普通科は特に平民ばかりなので、魔物と戦った経験のない人がほとんどだ。そんな人達をサポートして欲しいって先生達からお願いされてるから、安全第一でいかなきゃね。





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

いずれ最強の錬金術師?の15巻が発売されました。

よろしくお願いします。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

死んだら男女比1:99の異世界に来ていた。SSスキル持ちの僕を冒険者や王女、騎士が奪い合おうとして困っているんですけど!?

わんた
ファンタジー
DVの父から母を守って死ぬと、異世界の住民であるイオディプスの体に乗り移って目覚めた。 ここは、男女比率が1対99に偏っている世界だ。 しかもスキルという特殊能力も存在し、イオディプスは最高ランクSSのスキルブースターをもっている。 他人が持っているスキルの効果を上昇させる効果があり、ブースト対象との仲が良ければ上昇率は高まるうえに、スキルが別物に進化することもある。 本来であれば上位貴族の夫(種馬)として過ごせるほどの能力を持っているのだが、当の本人は自らの価値に気づいていない。 贅沢な暮らしなんてどうでもよく、近くにいる女性を幸せにしたいと願っているのだ。 そんな隙だらけの男を、知り合った女性は見逃さない。 家で監禁しようとする危険な女性や子作りにしか興味のない女性などと、表面上は穏やかな生活をしつつ、一緒に冒険者として活躍する日々が始まった。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

冤罪を掛けられて大切な家族から見捨てられた

ああああ
恋愛
優は大切にしていた妹の友達に冤罪を掛けられてしまう。 そして冤罪が判明して戻ってきたが

異世界立志伝

小狐丸
ファンタジー
 ごく普通の独身アラフォーサラリーマンが、目覚めると知らない場所へ来ていた。しかも身体が縮んで子供に戻っている。  さらにその場は、陸の孤島。そこで出逢った親切なアンデッドに鍛えられ、人の居る場所への脱出を目指す。

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。