いずれ最強の錬金術師?

小狐丸

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二十四話 帰省

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エトワール視点

 夏休みに入り、私達は聖域に戻って来ていた。

 面倒だったのは、転移陣で移動出来なかった事くらい。王都の人間の出入りはある程度把握されているから、私達みたいにバーキラ王国にとって重要人物とされている人間が、痕跡なく消えるのはよろしくない。

「面倒だよね」
「仕方ないよ。ボルトンを出る辺りまでは」
「街道もきれいになったみたいだから、そう時間は掛からないけどね」

 フローラが退屈そうに、わざわざ馬車で帰省しなければいけない事に愚痴を言い、それを春香が宥めている。実際、聖域が出来て未開地が開発され、王都からボルトン、ウェッジフォート、バロル、聖域までの街道が整備され、迅速に移動可能になったらしい。

 だからパパの従魔のツバキが轢く馬車なら、そんなに時間は掛からない。

「カエデちゃんがいるから、何があっても大丈夫だしね」
「ツバキも賢いから馭者もいらないから、退屈さえ我慢すれば楽なんだけどね」

 フローラや春香が言うように、ツバキの背にはカエデちゃんがいる。それだけで、仮に盗賊に襲われても平気だ。何よりツバキの姿を見て襲い掛かるガッツのある盗賊や魔物は少ない。

 パパの従魔でも一番の古参であるカエデちゃんは、アラクネの特異種。普通なら災害と同じようなもの。ツバキにしてもこんな強力な龍馬を従魔にしているのは、パパくらいと言い切れる。



 馬車の窓から見える景色が飛ぶように流れる。ツバキのスピードに慣れている私達なら何ともないけど、初めて見るとビックリするだろうな。

 その時、ツバキの背に乗っているカエデちゃんから声が掛かる。

「マスターが、ボルトンを出た辺りまで迎えに来るって!」
「うん! 分かった!」

 カエデちゃんにパパから念話が入ったみたい。迎えに来てくれるのは有り難い。流石の私も退屈だもの。

「パパが迎えに来てくれるって」
「やった! もっと飛ばそうよ!」
「そうだね」

 パパが迎えに来ると言うと、フローラと春香も嬉しそう。勿論、私も凄く嬉しい。

「じゃあ、飛ばすよ! 行けぇ! ツバキ!」

 カエデちゃんがツバキに指示を出すと、ツバキも嬉しそうにスピードを上げる。

 ツバキは、馬車を轢いて走る時はスピードを抑えている。だから周りさえ気にしなければ、もっと速く走れるの。




 ボルトンの家で一泊して、朝早くに出発すると直ぐに未開地へ入る。

 このきれいに整備された街道もパパが造ったらしい。ウェッジフォートを造った時に、一緒にボルトンからの街道を通したって聞いている。

 そして直ぐにパパの気配を感じた。

 わざわざ私達に察知できるよう気配を漏らしているから分かる。そうじゃなきゃパパの気配を捉えるのは、今の私達では無理だ。

 フローラがパパと一緒にいる存在を指摘する。

「あれ、セルトとユーリ、クルスの気配もあるね」
「うん。リューカとセッテは居ないね」
「きっと海と空だね」
「そうでしょうね」

 パパと一緒にいるのは、私達の三人の弟達だ。春香が言うように妹達はいない。フローラが言うように、海の中と天空島に行ってるのだろう。

 セルトはソフィアママが産んだ私の弟。ユーリはマリアママが産んだ春香の弟。クルスはマーニママが産んだフローラの弟。でも母親が違っても私達の弟達なのは変わらない。

 リューカは人魚族の妹だけど、人魚族としての能力を鍛える為に、よくフルーナさんに海に連れて行かれている。セッテは有翼人族の妹だけど、あの娘はベールクトさんが原因じゃなく有翼人族のアイドルだから、天空島や魔大陸の拠点にいる事が多い。



 ツバキはパパの従魔なので、何処にパパが居るのか分かる。だから街道から外れてパパが待つ場所へと向かう。ツバキの脚が速くなったのは、主人であるパパに会いたいからだ。

「お姉ちゃーん!」
「ヤッホー! お姉ちゃん、久しぶりぃ!」
「迎えに来たよぉー!」

 セルト、ユーリ、クルスが、ブンブンと手を振っているのが見えてきた。

 春に王都に行って今は夏だから、季節一つぶりになる。今までそんなに離れた事がなかったので、私や春香、フローラの表情も嬉しさが隠せない。

 そして誰よりブンブンと手を振るパパを見て、もう我慢できずに馬車から飛び出す私達。

「おかえり」
「「「パパ!」」」

 一番足の速いフローラがパパに飛び付き、春香、私と飛び付く。

「三人共、元気そうだね」
「うん!」
「元気だよ!」
「学園は色々とあるけど、それは帰ってから話すね」

 パパも忙しいから、そう王都の屋敷に来る時間は取れない。だから、こうして会うのは二週間ぶり……


 そう。たった二週間ぶりなのよね~。


 パパは、少しの時間でも私達の顔を見ようと、王都の屋敷に来る。そしてメイドのメリーベルやマーベルに連れ戻されるまでがお約束。

 ソフィアママやマリアママ、マーニママも偶に顔を見に来るけど、母親達は私達を信頼しているのか、パパほど過保護じゃないからね。

「じゃあ馬車を収納するね」

 パパは、私達を三人ぶら下げたまま、ツバキを馬車から外し馬車を収納する。

 ツバキは、そのままパパの亜空間に入って行った。

「このまま転移するからね。セルト、ユーリ、クルス」
「「「はーい!」」」

 セルトとユーリ、クルスもパパにひっつく。

「転移」

 一瞬で風景が変わり、見慣れた聖域の我が家が目に飛び込んでくる。

「ママ! お姉ちゃん達、帰って来たよー!」

 セルト達が家に駆け込んで行った。ああ、まだメリーベルやマーベルに叱られるわね。家の中で走っちゃダメって言われてるのにね。



 家の中からママ達が出て来て迎えてくれる。

「お帰りなさい。さあ、三人共中に入りなさい」
「先に、お風呂に入ってね」
「その後、みんなでご飯にしましょう」
「「「ママ!」」」

 私達は、パパから飛び降りると、ソフィアママ、マリアママ、マーニママに掛け寄り抱きつく。


 ああ、帰って来たって実感できる。

 姉妹じゃエルフの私しか見えない光景だけど、私達の帰省を喜んで踊る精霊達。精霊樹も小さな下級精霊や生まれたばかりの精霊が集まり、優しく光っているよう。


 その日の夜は、ルーミア様やミーミル様は勿論、フリージアお祖母ちゃん、ダンテお祖父ちゃん、バーキラ王国の宰相夫人でありながら既に聖域の住人のロザリーおばさまや、同じくバーキラ王国の名誉男爵ながら、聖域で文官を務めるシャルロットさんを言い訳に、聖域に住み着いたエリザベスおばさま。他にも聖域の住民で仲の良い人達が集まって大宴会になった。

 やっぱり王都よりも聖域が私には会う。これは、私がエルフって事もあるだろうけど、春香やフローラも王都に居る時より、のびのびしている気がするのは気の所為じゃないと思う。






 次の日、弟達は外に遊びに行ってしまい、私達はパパとママ達、それとアカネさんに学園での事を報告というか、話していた。

「う~ん。王族かぁ。……どう思うソフィア」
「ロボス王やサイモン様からの指示ではないと思います」
「その王女さまの考えじゃない。エトワール達の部活も客観的に見ても楽しそうだし」
「確かに。ロボス王やサイモン様なら迂闊に動かないか」

 パパの問いに、ソフィアママは姫様やメルティさんの独断じゃないかと言うと、アカネさんは私達の部活がただ単に魅力的だったんじゃないかと言う。

「でも私達は別にして、落ち着かないのは本音かな。みんな平民か下級貴族だから」
「まあ、伯爵家の嫡男に侯爵家のご令嬢。とどめに王族だからね」

 私達は日頃から、ルーミア様やミーミル様というユグル王国の王妃様と王女様に可愛がられているからみんなとは少し違う。特に私は、エルフだからなのか、お二人から可愛がられている自覚もあるもの。ただ、ユークス君達は暫く困るでしょうね。

「学園内では身分関係ないとはいえ、周りの目は違うもん。私は気にしないけどね」
「まあ、フローラはそうよね。もう少し周りに気を配ってもいいと思うけど」

 フローラはもの凄くマイペースだから、相手が王族であれ平民であれ、関係ないからね。マーニママが困ったように言ってるけど、実はマーニママも凄くマイペースな性格だから、似たもの親子って事ね。



 姫様達の話は、様子見するしかないって結論になった。仕方ないわよね。

 そして話は、夏休み明けの郊外演習の話に移る。

「未開地で演習か。危なくないか?」
「ボルトンとウェッジフォートの間で、少し街道から外れた所だから大丈夫じゃないかな」
「春香、魔境の中じゃなくても安全な訳じゃないんだよ」

 パパは未開地で演習と聞いて顔を顰めている。春香がボルトンとウェッジフォートの間だから危険はないんじゃと言うと、パパはそうじゃないと言う。

「あれはウェッジフォートの建設を大々的に実行してた時だったかな」
「そうでしたね。春香、未開地では魔境の外でも魔物の氾濫はあるのよ」
「あの時は大変でしたね。まあ、みんな大きな怪我をする事なく切り抜けられましたからよかったですが」
「へぇ。そうなんだ」

 パパやマリアママ、ソフィアママが懐かしむように言う事には、ウェッジフォート建設で刺激された魔物が溢れ襲って来たらしい。それを聞くとパパが未開地での演習を気に掛けるのは理解できる。

「まあ、その後聖域が出来たり、バロルや街道も整備されて、各国の騎士団によりあの近辺の魔物は少なくなってはいるけど……一度ガラハットさんに相談してみるか」
「それがいいかもしれませんね」

 パパはガラハットおじさんにも話すみたい。聖域騎士団が動くような案件なのかな? まあ、パパが心配するのは分かるし、学園の生徒には戦闘が苦手な子もいるから、石橋を叩くくらいが丁度いいのかもね。




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