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二十三話 装備調達
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エトワール視点
パパにサティやユークス君達が買えそうな装備を頼んだ翌日、もう王都のパパのお店に届いたと連絡があった。
早過ぎる気もするけど、聖域の家と王都のお店は、転移陣で結ばれているから、荷物を持って来るだけなら直ぐなのよね。マジックバッグに入れて持って来ればいいだけだから。
ただ、聖域とボルトンの家やウェッジフォートや王都のお店、天空島や魔大陸と転移陣で繋がっているのは秘密。聖域の人間がそんな事するなんて有り得ないけど、王都に直接戦力を送り込めるなんて不味すぎるものね。
「へぇ。ここがエトワール達の親父の商会か」
「バスク君。イルマ様の事を親父なんて失礼だよ。僕らパヘック商会の関係者にとって、足を向けて寝れない存在なんだからね」
「分かった。分かったって。俺も聖域騎士団には憧れはあるから分かってるさ」
バスク君が商会の建物を見上げて声を上げた。ただ、パパの事を親父なんて呼ぶものだから、ユークス君に注意されている。
ユークス君が言うよに、パペック商会飛躍の原動力はパパの発明なのは間違いない。だから、パペック商会の関係者は、パパを崇拝しているのよね。
それより、バスク君はもう買う必要ないのに急遽参加したのよね。本当、男の子って武具が好きなのね。
「でも、パペック商会の方が建物は立派だな。勿論、僕の家よりは立派だけどさ」
「ルディ。そんなの当たり前じゃないか。うちと違い、イルマ様の商会は売る相手を選ぶからね」
実家が王都で商会を営むルディ君も、パパの商会の建物が規模が意外にも小さいと感じたみたい。
ただ、ユークス君が言うように、パパのお店は小売はあまりしていないからね。
「まあまあ、そんな事より早く入ろうよ」
「そうね。サティちゃん、ミュゼちゃん、シャルルちゃん、行こう」
「緊張するなぁ」
「う、うん」
「分かったから、引っ張らないでフローラちゃん!」
フローラが早くお店に入ろうとサティを引っ張っり、春香もサティ達を中に誘う。シャルルやミュゼも興味はあるけど、初めてのお店だからか緊張気味ね。
私も慌ててフローラ達の後を追う。
「これはお嬢様方。お父様からの荷物は届いていますよ」
「そう。部屋は奥なのね。じゃあ、勝手に見せてもらうわね」
「ごゆっくりどうぞ」
「みんな、こっちの部屋みたい。着いて来て」
出迎えてくれた店員に声を掛け、パパが用意してくれた武具類が置かれた部屋に向かう。
広めの部屋に、パパやレーヴァさん他、聖域のドワーフ達が作った武具が置いてあった。
「うわぁ! 凄い!」
「おおっ! 王都の武具屋なんて目じゃないな」
「凄ぇ。どうしよう。俺も新しい剣が欲しい」
ユークス君やルディ君は、商人の息子としての感想ね。バスク君は買う予定がなかったのに欲しくなったみたい。
「杖といっても色々あるのね」
「どうしよう。選べないよ」
シャルルやミュゼは、初めての装備だからアドバイスがいるわね。
少し短めの片手剣。ショートソードが置かれた場所で、何本か見繕って春香とフローラがサティに勧めている。
「サティの体格なら、この辺りじゃないかな」
「それか、もう少し長いこの辺りじゃない?」
「春香ちゃん。フローラちゃん。そ、その、凄く高そうな業物に見えるんだけど」
サティは、春香とフローラが勧める剣を見て尻込みしている。確かに、ここに置かれた武具類は、全て他所に持って行けば、凄い値段で取引されるんでしょうね。
パパやレーヴァさんは勿論、ドガンボおじさんや神匠と呼ばれるゴランおじさん作の武具類は、普通の武器屋ではお目に掛かれないレベルだもの。
「な、なぁ、これってもしかして魔鋼製だよな?」
「多分そうだと思うよ。流石にミスリル合金やアダマンタイト合金のは持って来ていないと思うから」
「いやいやいや。普通は鉄だから。鍛造の鋼鉄製でも高級品だから」
「「「ええっ!?」」」
バスク君が、一振りの剣を持ちその素材を聞いてきた。流石に伯爵家の人間だけあって、その辺は詳しいのかな。パパも学生だから、余り高価なものは買えないだろうと、剣や槍は魔鋼製の物を送ってくれている。
「聖域じゃ訓練用の模擬武器でも魔鋼製だよ」
「「なっ!?」」
フローラがそう言うと、バスク君とルディ君が絶句する。ユークス君は流石にパヘックおじさんに聞いてるのかな。知ってたみたい。
「なんて贅沢な」
「うちの店じゃ魔鋼製の武具なんて最高級品だよ」
「ルディ。聖域にはイルマ様だけじゃなく、熟練のドワーフの鍛治師が居るんだよ。そのくらいで驚いていちゃダメだよ」
バスク君が舐めるように手に持つ剣を眺める。ルディ君の商会では、魔鋼製でも高級品みたい。言えないわね。私達姉妹の装備にオリハルコンが使われているなんて……
男の子達とサティの剣を見にきたチームは、春香とフローラに任せて、私はシャルルとミュゼの装備選びを手伝おう。
「ねぇ、エトワールちゃん。長杖と短杖、どっちがいいかな?」
「うん。私達じゃ違いが分からないの」
「ああ、それね」
私もそうだけど、純粋な魔法使いタイプの二人なら答えは決まっている。
「シャルルとミュゼなら長杖がいいでしょうね」
私は長杖と短杖の違いを説明する。
「魔力操作の補助や魔法の威力を増幅するのは、長杖の方が優れているの。短杖は長杖には及ばないけど、持ち歩くのが楽というメリットがあるわ。魔法を補助的にしか使わない戦士が持つなら短杖がいいんでしょうね」
「そうなんだ。なら私達なら長杖がいいのね」
シャルルとミュゼが考えるのは、杖の素材をどうするかよね。
「お勧めは、このトレント材に無属性の魔晶石が付いた杖かな。これがエルダートレントになると丈夫さも杖としての性能も一段も二段も上がるんだけど、その分値段が高くなるから」
トレント材なら死の森なら簡単に手に入るけど、エルダートレントの素材はパパでも一度狩ったのがストックとして持っているだけだって言ってたから、学生が買える値段じゃないのよね。
「エトワールちゃんの杖も長杖なんだよね。どんな素材なの?」
「あっ、それ私も知りたい」
「う~ん。私達の本気装備は参考にならないからなぁ」
ミュゼが私の杖の素材を聞いてきた。シャルルも興味があるみたいだけど、私達の装備は本当に参考にならないのよね。
パパの方針として、訓練は別にして実戦用の装備には手を抜かない。
それはどんなイレギュラーがあっても生き残れる事が大事だから。
パパやママ達も、その時点で最高の装備を更新しながら使っている。
偶に技量に合わない良過ぎる武具は、本人の成長に悪影響があるって言う人がいるけど、そんなのは命の危険が無いシュチュエーションでの話だというのがパパの考え方。
自分や仲間の命を担保に、わざわざ性能が落ちる武具を使うなんてナンセンスだというパパの言い分は正しいと私達も思うもの。
だから私の杖は普通じゃないから、ミュゼやシャルルにはねぇ。
「一応、これが私の本気装備だけど……」
アクセサリー型のアイテムボックスから杖を取り出しミュゼとシャルルに見せる。
「えっ、金属製なの?」
「凄く綺麗な杖なのね」
「ま、まあね」
私の長杖はオリハルコン合金製。魔力親和性が高く、魔力操作性や威力の増幅度も高い。しかも固くて靭性も高いから近接戦闘でも威力はエルダートレント材を使った杖よりもずっと上になる。
世間では、伝説級の金属であるオリハルコンも、聖域にはそれなりに有る。昔、パパが海底遺跡から回収したものが、まだまだストックしてあると聞いている。
お陰で、私の長杖だけじゃなく、春香の槍やショートソード。フローラの双剣もオリハルコン合金製だ。
私達の体が成長したら、その時は打ち直してくれる予定。過保護だけど嬉しい。
「確かに参考にならないね」
「どうしよう。このトレント材の杖が無難かな。この魔晶石ってどういう効果があるの?」
「ああ、魔晶石わね。主に魔法の威力を上げるの。本当は、火の魔法なら火属性の魔晶石が一番効果が高いんだけど、一つの属性しか使えない杖は使い難いから」
「「へぇ~」」
王都の武具屋で売られている魔法使い用の杖で、このクオリティの魔晶石を使っているものは多分ないかもしれない。普通は、魔石を嵌め込んだ杖も高価だからね。
その魔石を加工した高価な魔晶石を嵌め込むなんて、パパやレーヴァさんしかしないんじゃないかな。
結局、シャルルとミュゼは魔晶石を嵌め込んだトレント材の長杖を購入した。他にもローブや丈夫なブーツと肩掛け鞄なんかも一緒に買った。
ユークス君達もそれぞれ体に合わせた剣を購入。それとユークス君とルディ君は軽い革鎧とブーツに盾も購入。二人は自分達のお店で揃えなくてもいいのかしら。
そしてサティも重過ぎない片手剣と小盾に、金属製の胸当、籠手、頑丈なブーツを買ったみたい。
「バスク君も買うの?」
「ああ、今持ってる剣よりもずっといいからな」
見に来ただけだったバスク君まで魔鋼製の剣を一振り買うらしい。
あれはゴランおじさんの打った剣かな。付与はパパかレーヴァさんだと思う。街売りの魔鋼製の剣で、付与までしてある物は超高級品だからお勧めではある。とはいえ、ここにある武具類にはみんな付与魔法が施されているけどね。
パパやレーヴァさん、ドガンボおじさんやゴランおじさん達は職人だから、どんな物でも手を抜かないのよね。
それぞれが買う装備が決まったところで、お会計の時間だ。
「嘘だろぉ! この値段じゃタダ同然じゃないか!」
「ユークス。これって素材の値だけでももっとするよ」
「えっ、エトワールちゃん。これって大丈夫なの?」
商人の息子であるユークス君やルディ君じゃなくても、値段の安さに気付くレベルでバカ安い。サティが心配顔で聞いてくるけど問題ない。
「大丈夫よ。これを他で売り出す訳じゃないもの。倉庫の肥やしを放出しただけよ」
「本当に大丈夫なの? この価格、私達のお小遣いでも買える値段よ」
「魔法使い用の杖って、魔導具扱いだから高いって聞いてるよ」
シャルルやミュゼも安過ぎて逆に不安そうね。確かに魔法使い用の杖は高いらしいからね。
「シャルルとミュゼも心配しなくて大丈夫よ。パパの収納に腐らせるよりも使って貰える方がいいわ」
「そう?」
「エトワールちゃんがそう言うなら……」
シャルルやミュゼも安く済むなら、それに越した事はないもの。
「……うちの家の分とかは無理なんだろうな」
「近衛騎士団ならこのレベルの装備は普通じゃないかな。団長のギルフォードさんのはミスリル合金だったと思うわよ」
「いや、近衛騎士団の団長と比べるのはおかしい」
バスク君が自家の兵達の装備に欲しいみたいだけどそれは無理だわ。その辺は適正価格で買って貰わないと。ギルフォードさんは、聖域騎士団の団長であるガラハットさんの息子さんだから、知らない仲でもないのよね。
全員、それぞれ支払いを済ませて次の予定に移る。因みに、今日買った物は寮や自宅に配達する。剣や杖ならまだしも、鎧やブーツなんかを持ち歩くのは大変だもの。
「じゃあ、保存食なんかの必要な物を買いに行きましょうか」
「うん。それはパヘック商会にお任せだよ。お祖父様が格安でって言ってたから安心していいよ」
「僕もユークスの所で買おうかな」
「いや、それは父親が悲しむんじゃないか」
「パヘック商会の方が品揃えが良いから、それを格安でってなると、父さんもパヘック商会で買うと思う」
「ある意味、商人の息子らしいね」
郊外演習では野営もするので、色々と準備が必要になる。学園から支給される物も勿論あるけど、それ以外は個人で用意しないといけない。そこまでが郊外演習のうちだから。
外套や火起こしの道具。小さな鍋やナイフなど必要な物は細々とある。
まあ、パペック商会でも私達姉妹は買う物はないんだけどね。
だって結界付きのテントから、野外用の簡易コンロの魔導具に、簡易トイレの魔導具などなど、パパが用意してくれた物がマジックバッグに入っているもの。
マジックバッグには、他にも調味料から食材まで、保存食なんて食べなくても大丈夫なくらい入っている。時間経過の無いマジックバッグは、高級品というか国宝級らしいから内緒だけどね。
さあ、もう直ぐ夏休み。久しぶりに弟や妹達と会えるのが楽しみだわ。
パパにサティやユークス君達が買えそうな装備を頼んだ翌日、もう王都のパパのお店に届いたと連絡があった。
早過ぎる気もするけど、聖域の家と王都のお店は、転移陣で結ばれているから、荷物を持って来るだけなら直ぐなのよね。マジックバッグに入れて持って来ればいいだけだから。
ただ、聖域とボルトンの家やウェッジフォートや王都のお店、天空島や魔大陸と転移陣で繋がっているのは秘密。聖域の人間がそんな事するなんて有り得ないけど、王都に直接戦力を送り込めるなんて不味すぎるものね。
「へぇ。ここがエトワール達の親父の商会か」
「バスク君。イルマ様の事を親父なんて失礼だよ。僕らパヘック商会の関係者にとって、足を向けて寝れない存在なんだからね」
「分かった。分かったって。俺も聖域騎士団には憧れはあるから分かってるさ」
バスク君が商会の建物を見上げて声を上げた。ただ、パパの事を親父なんて呼ぶものだから、ユークス君に注意されている。
ユークス君が言うよに、パペック商会飛躍の原動力はパパの発明なのは間違いない。だから、パペック商会の関係者は、パパを崇拝しているのよね。
それより、バスク君はもう買う必要ないのに急遽参加したのよね。本当、男の子って武具が好きなのね。
「でも、パペック商会の方が建物は立派だな。勿論、僕の家よりは立派だけどさ」
「ルディ。そんなの当たり前じゃないか。うちと違い、イルマ様の商会は売る相手を選ぶからね」
実家が王都で商会を営むルディ君も、パパの商会の建物が規模が意外にも小さいと感じたみたい。
ただ、ユークス君が言うように、パパのお店は小売はあまりしていないからね。
「まあまあ、そんな事より早く入ろうよ」
「そうね。サティちゃん、ミュゼちゃん、シャルルちゃん、行こう」
「緊張するなぁ」
「う、うん」
「分かったから、引っ張らないでフローラちゃん!」
フローラが早くお店に入ろうとサティを引っ張っり、春香もサティ達を中に誘う。シャルルやミュゼも興味はあるけど、初めてのお店だからか緊張気味ね。
私も慌ててフローラ達の後を追う。
「これはお嬢様方。お父様からの荷物は届いていますよ」
「そう。部屋は奥なのね。じゃあ、勝手に見せてもらうわね」
「ごゆっくりどうぞ」
「みんな、こっちの部屋みたい。着いて来て」
出迎えてくれた店員に声を掛け、パパが用意してくれた武具類が置かれた部屋に向かう。
広めの部屋に、パパやレーヴァさん他、聖域のドワーフ達が作った武具が置いてあった。
「うわぁ! 凄い!」
「おおっ! 王都の武具屋なんて目じゃないな」
「凄ぇ。どうしよう。俺も新しい剣が欲しい」
ユークス君やルディ君は、商人の息子としての感想ね。バスク君は買う予定がなかったのに欲しくなったみたい。
「杖といっても色々あるのね」
「どうしよう。選べないよ」
シャルルやミュゼは、初めての装備だからアドバイスがいるわね。
少し短めの片手剣。ショートソードが置かれた場所で、何本か見繕って春香とフローラがサティに勧めている。
「サティの体格なら、この辺りじゃないかな」
「それか、もう少し長いこの辺りじゃない?」
「春香ちゃん。フローラちゃん。そ、その、凄く高そうな業物に見えるんだけど」
サティは、春香とフローラが勧める剣を見て尻込みしている。確かに、ここに置かれた武具類は、全て他所に持って行けば、凄い値段で取引されるんでしょうね。
パパやレーヴァさんは勿論、ドガンボおじさんや神匠と呼ばれるゴランおじさん作の武具類は、普通の武器屋ではお目に掛かれないレベルだもの。
「な、なぁ、これってもしかして魔鋼製だよな?」
「多分そうだと思うよ。流石にミスリル合金やアダマンタイト合金のは持って来ていないと思うから」
「いやいやいや。普通は鉄だから。鍛造の鋼鉄製でも高級品だから」
「「「ええっ!?」」」
バスク君が、一振りの剣を持ちその素材を聞いてきた。流石に伯爵家の人間だけあって、その辺は詳しいのかな。パパも学生だから、余り高価なものは買えないだろうと、剣や槍は魔鋼製の物を送ってくれている。
「聖域じゃ訓練用の模擬武器でも魔鋼製だよ」
「「なっ!?」」
フローラがそう言うと、バスク君とルディ君が絶句する。ユークス君は流石にパヘックおじさんに聞いてるのかな。知ってたみたい。
「なんて贅沢な」
「うちの店じゃ魔鋼製の武具なんて最高級品だよ」
「ルディ。聖域にはイルマ様だけじゃなく、熟練のドワーフの鍛治師が居るんだよ。そのくらいで驚いていちゃダメだよ」
バスク君が舐めるように手に持つ剣を眺める。ルディ君の商会では、魔鋼製でも高級品みたい。言えないわね。私達姉妹の装備にオリハルコンが使われているなんて……
男の子達とサティの剣を見にきたチームは、春香とフローラに任せて、私はシャルルとミュゼの装備選びを手伝おう。
「ねぇ、エトワールちゃん。長杖と短杖、どっちがいいかな?」
「うん。私達じゃ違いが分からないの」
「ああ、それね」
私もそうだけど、純粋な魔法使いタイプの二人なら答えは決まっている。
「シャルルとミュゼなら長杖がいいでしょうね」
私は長杖と短杖の違いを説明する。
「魔力操作の補助や魔法の威力を増幅するのは、長杖の方が優れているの。短杖は長杖には及ばないけど、持ち歩くのが楽というメリットがあるわ。魔法を補助的にしか使わない戦士が持つなら短杖がいいんでしょうね」
「そうなんだ。なら私達なら長杖がいいのね」
シャルルとミュゼが考えるのは、杖の素材をどうするかよね。
「お勧めは、このトレント材に無属性の魔晶石が付いた杖かな。これがエルダートレントになると丈夫さも杖としての性能も一段も二段も上がるんだけど、その分値段が高くなるから」
トレント材なら死の森なら簡単に手に入るけど、エルダートレントの素材はパパでも一度狩ったのがストックとして持っているだけだって言ってたから、学生が買える値段じゃないのよね。
「エトワールちゃんの杖も長杖なんだよね。どんな素材なの?」
「あっ、それ私も知りたい」
「う~ん。私達の本気装備は参考にならないからなぁ」
ミュゼが私の杖の素材を聞いてきた。シャルルも興味があるみたいだけど、私達の装備は本当に参考にならないのよね。
パパの方針として、訓練は別にして実戦用の装備には手を抜かない。
それはどんなイレギュラーがあっても生き残れる事が大事だから。
パパやママ達も、その時点で最高の装備を更新しながら使っている。
偶に技量に合わない良過ぎる武具は、本人の成長に悪影響があるって言う人がいるけど、そんなのは命の危険が無いシュチュエーションでの話だというのがパパの考え方。
自分や仲間の命を担保に、わざわざ性能が落ちる武具を使うなんてナンセンスだというパパの言い分は正しいと私達も思うもの。
だから私の杖は普通じゃないから、ミュゼやシャルルにはねぇ。
「一応、これが私の本気装備だけど……」
アクセサリー型のアイテムボックスから杖を取り出しミュゼとシャルルに見せる。
「えっ、金属製なの?」
「凄く綺麗な杖なのね」
「ま、まあね」
私の長杖はオリハルコン合金製。魔力親和性が高く、魔力操作性や威力の増幅度も高い。しかも固くて靭性も高いから近接戦闘でも威力はエルダートレント材を使った杖よりもずっと上になる。
世間では、伝説級の金属であるオリハルコンも、聖域にはそれなりに有る。昔、パパが海底遺跡から回収したものが、まだまだストックしてあると聞いている。
お陰で、私の長杖だけじゃなく、春香の槍やショートソード。フローラの双剣もオリハルコン合金製だ。
私達の体が成長したら、その時は打ち直してくれる予定。過保護だけど嬉しい。
「確かに参考にならないね」
「どうしよう。このトレント材の杖が無難かな。この魔晶石ってどういう効果があるの?」
「ああ、魔晶石わね。主に魔法の威力を上げるの。本当は、火の魔法なら火属性の魔晶石が一番効果が高いんだけど、一つの属性しか使えない杖は使い難いから」
「「へぇ~」」
王都の武具屋で売られている魔法使い用の杖で、このクオリティの魔晶石を使っているものは多分ないかもしれない。普通は、魔石を嵌め込んだ杖も高価だからね。
その魔石を加工した高価な魔晶石を嵌め込むなんて、パパやレーヴァさんしかしないんじゃないかな。
結局、シャルルとミュゼは魔晶石を嵌め込んだトレント材の長杖を購入した。他にもローブや丈夫なブーツと肩掛け鞄なんかも一緒に買った。
ユークス君達もそれぞれ体に合わせた剣を購入。それとユークス君とルディ君は軽い革鎧とブーツに盾も購入。二人は自分達のお店で揃えなくてもいいのかしら。
そしてサティも重過ぎない片手剣と小盾に、金属製の胸当、籠手、頑丈なブーツを買ったみたい。
「バスク君も買うの?」
「ああ、今持ってる剣よりもずっといいからな」
見に来ただけだったバスク君まで魔鋼製の剣を一振り買うらしい。
あれはゴランおじさんの打った剣かな。付与はパパかレーヴァさんだと思う。街売りの魔鋼製の剣で、付与までしてある物は超高級品だからお勧めではある。とはいえ、ここにある武具類にはみんな付与魔法が施されているけどね。
パパやレーヴァさん、ドガンボおじさんやゴランおじさん達は職人だから、どんな物でも手を抜かないのよね。
それぞれが買う装備が決まったところで、お会計の時間だ。
「嘘だろぉ! この値段じゃタダ同然じゃないか!」
「ユークス。これって素材の値だけでももっとするよ」
「えっ、エトワールちゃん。これって大丈夫なの?」
商人の息子であるユークス君やルディ君じゃなくても、値段の安さに気付くレベルでバカ安い。サティが心配顔で聞いてくるけど問題ない。
「大丈夫よ。これを他で売り出す訳じゃないもの。倉庫の肥やしを放出しただけよ」
「本当に大丈夫なの? この価格、私達のお小遣いでも買える値段よ」
「魔法使い用の杖って、魔導具扱いだから高いって聞いてるよ」
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「そう?」
「エトワールちゃんがそう言うなら……」
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「じゃあ、保存食なんかの必要な物を買いに行きましょうか」
「うん。それはパヘック商会にお任せだよ。お祖父様が格安でって言ってたから安心していいよ」
「僕もユークスの所で買おうかな」
「いや、それは父親が悲しむんじゃないか」
「パヘック商会の方が品揃えが良いから、それを格安でってなると、父さんもパヘック商会で買うと思う」
「ある意味、商人の息子らしいね」
郊外演習では野営もするので、色々と準備が必要になる。学園から支給される物も勿論あるけど、それ以外は個人で用意しないといけない。そこまでが郊外演習のうちだから。
外套や火起こしの道具。小さな鍋やナイフなど必要な物は細々とある。
まあ、パペック商会でも私達姉妹は買う物はないんだけどね。
だって結界付きのテントから、野外用の簡易コンロの魔導具に、簡易トイレの魔導具などなど、パパが用意してくれた物がマジックバッグに入っているもの。
マジックバッグには、他にも調味料から食材まで、保存食なんて食べなくても大丈夫なくらい入っている。時間経過の無いマジックバッグは、高級品というか国宝級らしいから内緒だけどね。
さあ、もう直ぐ夏休み。久しぶりに弟や妹達と会えるのが楽しみだわ。
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