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十六話 驚きの入部希望者
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エトワール視点
相変わらず、私エトワールとフローラ、春香は余った時間を持て余し気味だ。
私とミュゼ、シャルルの薬学研究部は何時もと変わらない。問題は、春香とフローラの武術研究部だった。
その日は、私とミュゼ、シャルルも武術研究部と合流して基礎の訓練をしていた。
ミュゼとシャルルには、最低限の護身の技術を身に付けて欲しいから。それに、魔力操作や魔力感知のスキルは、武術系の訓練も平行して行った方が身に付くかと思ったの。
そこに近付いて来る気配を感じたけど、敵対的でもないし、悪意も感じなかったから無視してたんだけど……
「なぁ、君達は武術研究部なんだろう? 俺も入部を希望するが、構わないか?」
「えっと、どなたですか?」
「おお、悪い。名乗ってなかったな。俺は、バスク・フォン・ロードラッシュ。ロードラッシュ伯爵家の嫡男だが、学園内では貴族だの平民だのは関係ないからな。バスクと呼んでくれ」
「「き、貴族様!?」」
「伯爵家!!」
春香に声を掛けたのは、バーキラ王国の伯爵家の人間だった。ユークスやルディは、商人の子供だけあり知っているのか、緊張で体を強張らせ、サティは男爵家の四女だからか、その身分差に悲鳴を上げた。
「ふ~ん。わざわざ私達の部活に入部したいなんて、理由はなに?」
ただ、フローラは相手が誰であろうと何時も通りね。聖域じゃユグル王国のミーミル王女やルーミア王妃を普段から見ているものね。それにサイモンおじさまもよく訪ねて来るし、ガラハットおじさんもギルフォードさんに家督は譲ったけど元は貴族だし、フローラの性格で貴族に対して物怖じするなんてないか。
まあ、パパもその辺を心配しての普通科だったんだろうね。
「理由なんて決まってる。俺は強くなりたいからな。そこの彼女、男爵家の人間だろう。サティと言ったか。彼女の動きを授業で見掛けてな。十分、騎士科で通用するレベルだった。あんた達はもっと強いんだろう?」
「ふ~ん。嘘は無さそうだね」
「ああ、嘘をついて近付こうなんて思ってないさ。俺の家は国王派だからな」
「国王派?」
バスクと名乗った男の子の口にした理由はシンプルだった。「強くなりたい」理由としては、分かりやすいくらい。切っ掛けは、武術の授業でサティを見掛けたかららしい。
サティ、春香やフローラと訓練するようになって、凄く伸びたものね。バスクが騎士科でも十分やっていけると言う言葉は正しい。
でも、フローラはバスクが言った国王派という言葉に首を傾げている。はぁ、前に教えた筈なのに……
「フローラ、派閥の話はパパから聞いたでしょう。私も教えたわよ」
「そうだっけ?」
「もう。ゴドウィンのおじさまや、ルードおじさまの所属する派閥よ」
「ああ! ゴドウィンおじさんとルードおじさんと一緒かぁ。分かったよ」
「ちょっと待て! ゴドウィンとは、ボルトン辺境伯閣下の事だよな。もしかして、ルードとはロックフォード卿か。ボルトン辺境伯閣下とロックフォード卿をおじさん呼び……」
快活な感じのバスクが、フローラのおじさん呼びに顔を引き攣らせてる。
これに関しては、うちのメンバーも言葉をないみたいね。ユークスなんて、パペックおじさんのマゴなんだから、ゴドウィンおじさまやルードおじさまを知ってると思ったんだけど、顔を青くしているから、どの程度親しいのかは知らなかったのね。
「う~ん。ゴドウィンおじさんやルードおじさんと同じ派閥なのは分かったけど、だから何って感じなんだけど。ねぇ春香お姉ちゃん、フローラ間違ってる?」
「間違ってはないわね。でも、彼も学園の生徒なんだから、部活動をする権利はあるわね。まあ、私達の武術研究部に入部させるかは別にして」
「ちょ、ちょっとフローラ。春香も。エトワールも何か言ってよ!」
フローラと春香は通常運転ね。流石にサティは、男爵家の人間だから、二人の態度が気が気で仕方ないみたい。とうとう私に助けを求めてきた。
「そうね。なら、仮入部でどうかしら。暫く様子を見て、問題なければ入部でどう?」
「ああ、俺はそれで構わないぜ」
「エトワールお姉ちゃんが、そう言うならフローラはいいよ」
「私もそれでいいわ」
武術研究部とはいえ、パパやママから特別な流派を学んだ訳じゃないもの。見られて困るものはないわ。
「よろしくなサティ」
「は、はいっ!」
まあ、サティも直ぐに慣れるでしょう。
◇
バスクが武術研究部への仮入部を勝ち取った頃、学園から帰宅したクローディアは、家族団欒の時を過ごしていた。
王や王妃は勿論、学園を卒業した二人の兄も忙しく、全員が揃う事は珍しい。
「お父さま。少しよろしいですか?」
「なんだクローディア」
「学園での部活動のお話なのですが」
クローディアが父親に相談を持ち掛ける。
「王族とはいえ、学園在学中は一人の学生だ。クローディアの入りたい部活を選ぶといい」
「本当ですかお父さま!」
「ああ、因みにどんな部活なのだ?」
「はい。薬学研究部です」
「うん……」
学園の理念により、学園在学中は身分に囚われないというのが決められている以上、王族も平民も自由に活動するべきとロボス王がクローディアに言う。
それを聞いて嬉しそうなクローディアに、ロボスがどのような部活なのか聞くと、クローディアの口からつい最近報告を受けたワードが聞こえてきた。
「へぇ、クローディアが薬学ねぇ。王族の僕達には不要だと思うけどね」
「ロナルドお兄さま。学びは無駄にはなりませんわ」
そのクローディアに、王族が薬学を学ぶ部活はどうかと言ったのが第一王子のロナルド。そのロナルドに、どんな学問も無駄なものはないとクローディアが言い返す。
「薬学か。ならクローディアにポーションでも作って貰おうかな。僕は怪我をする事が多いからな」
「ええ。効果の高いポーションが作れるようになれば、リッグルお兄さまに差し上げますわ」
その様子を面白そうに見ていたリッグルが、ポーションが出来たなら欲しいと言うと、クローディアも嬉しげに約束する。第二王子のリッグルは、兄のロナルドと違い暇があれば剣を振っていたいタイプだ。お陰で生傷が絶えない。
そこで学園の三年生である第三王子のランカートが、薬学研究部という名前にピンとくる。
「薬学研究部……、確かイルマ殿のご息女が立ち上げた部活だったよね」
「はい。エトワール様が中心となって設立したと聞いていますわ」
「そうか。思い出した。イルマ殿の娘達の設立した部活が、薬学研究部と武術研究部だったな。う~ん。王族とはいえ部活動は自由なのだが……」
どこかで聞いたと思ったら、タクミの娘が設立した部活だと報告を受けたばかりだ。ロボスもクローディアに、自由にしてもいいと言った手前、今更ダメだとは言えない。とはいえ聖域に自国だけ抜け駆けするように、関係強化するのは気が引ける。
そこにクローディアの味方をする存在が現れる。クローディア達の母親プリムローズ王妃だ。
「陛下。よろしいではありませんか。イルマ殿はもともと我が国のボルトンを拠点に活動していたのです。今もボルトンやこの王都に拠点があるのですから、少しくらい距離が近付いても今更です」
「そうですね。聖域との関係は、今後も我が国にとって重要ですから。クローディアとイルマ殿のご息女が仲良くなれればと私は思いますがね」
「イルマ殿かぁ。剣を教えて欲しいな、僕は」
「むっ、むぅ。……分かった分かった。一応、サイモンには話しておくからな」
王妃とロナルドにそう言われると、ロボスも首を横には振れない。
そこにクローディアが忘れてたていう様に、バスクの話を持ち出す。
「そうそうお父さま。バスクが武術研究部に入部すると言ってましたわ」
「どうしてそうなる」
「バスクというと、ロードラッシュ伯爵家の嫡男だったか」
その事実にロボスは声を上げ、リッグルはバスクを知っているのか、面白そうにニヤニヤしている。武術研究部という名称の部活に興味があるのだろう。既に卒業した身故無理なのは分かっているが、可能なら自分も参加したいと考えていた。
ロボスはというと、国王派のロードラッシュ伯爵家の嫡男が、タクミの娘達と必要以上に接近する事に頭を痛める。
ロボスは派閥の存在自体は必要だと思っている。誰も彼もが、王の意向に無条件で従うような組織は危ういと理解している。時には反対勢力の存在は必要なのだ。
問題は、そのバランスだ。
現在、タクミのお陰もあり国王派は安定して確固とした立ち位置を築いている。
中立派は、バランサーとしてその数や力関係は変わらない。しかし貴族派はこの十年不遇を被っていた。
国王派のボルトン辺境伯家を起点に、大陸中に進出したパペック商会。当然、貴族派にもお抱えの商会はあるが、革新的な魔導具や希少なポーションは全てパペック商会からとなると、貴族間に格差が生じる。
騎士団の差はもっと顕著だ。
魔大陸の高難易度ダンジョンでのパワーレベリングに加え、陸戦艇サラマンダーというトンデモ兵器。貴族派の戦力では逆立ちしても対抗できない。
そして最も大きなものが、ウェッジフォートとバロルという未開地に出現した二つの城塞都市だ。
ウェッジフォートは、ボルトン辺境伯の飛び地扱い。バロルこそ、同盟三ヶ国が出資して共同で運営しているが、ウェッジフォートの意味は大きい。そこに貴族派や中立派すら関与できていないのだから。
ロボスは、この貴族派の縮小傾向に頭を痛めている。集団というものは、少数になる程より過激に先鋭化していくものだ。
「父上。学園が開かれた場所であるなら、貴族派も独自に動けばいいだけの話です。まあ、選民思考に凝り固まっているからこその貴族派ですから、イルマ殿のご息女達に意地でも接触しないでしょうけどね」
「はぁ、放置するしかないか。学園に不穏な空気が流れると、厄災級の従魔が顔を出しかねん。そうなったらイルマ殿しか止めれんからの。貴族派の子供達にトラウマが刻まれる事のないよう祈るしかないか」
ロナルドからも学園では放置するしかないと言われ、ロボスも諦める。
ただ、もし貴族派が学園で暗躍し、エトワール達に敵意を向けようものなら、厄災級の従魔が世直しだぁー! と明るい声で出張って来る可能性がある事を恐れていた。
そう。趣味が悪者退治のカエデだ。
ボルトンの街では、時折り街中で宙吊りにされる犯罪者が現れる。何時、誰がやったのか、誰も見ていないが、蜘蛛の糸でグルグル巻きにされている時点で、ボルトンでは誰の仕業かは一目瞭然だ。
基本的に、悪人でなければ怖がる必要はないのだが、ロボスは王都の学園で、貴族派の子息子女が吊るされる事がないよう願うのみだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『いずれ最強の錬金術師?』のコミック版6巻が、7月19日より順次書店にて発売予定です。
お手に取って頂けると嬉しいです。
よろしくお願いします。
相変わらず、私エトワールとフローラ、春香は余った時間を持て余し気味だ。
私とミュゼ、シャルルの薬学研究部は何時もと変わらない。問題は、春香とフローラの武術研究部だった。
その日は、私とミュゼ、シャルルも武術研究部と合流して基礎の訓練をしていた。
ミュゼとシャルルには、最低限の護身の技術を身に付けて欲しいから。それに、魔力操作や魔力感知のスキルは、武術系の訓練も平行して行った方が身に付くかと思ったの。
そこに近付いて来る気配を感じたけど、敵対的でもないし、悪意も感じなかったから無視してたんだけど……
「なぁ、君達は武術研究部なんだろう? 俺も入部を希望するが、構わないか?」
「えっと、どなたですか?」
「おお、悪い。名乗ってなかったな。俺は、バスク・フォン・ロードラッシュ。ロードラッシュ伯爵家の嫡男だが、学園内では貴族だの平民だのは関係ないからな。バスクと呼んでくれ」
「「き、貴族様!?」」
「伯爵家!!」
春香に声を掛けたのは、バーキラ王国の伯爵家の人間だった。ユークスやルディは、商人の子供だけあり知っているのか、緊張で体を強張らせ、サティは男爵家の四女だからか、その身分差に悲鳴を上げた。
「ふ~ん。わざわざ私達の部活に入部したいなんて、理由はなに?」
ただ、フローラは相手が誰であろうと何時も通りね。聖域じゃユグル王国のミーミル王女やルーミア王妃を普段から見ているものね。それにサイモンおじさまもよく訪ねて来るし、ガラハットおじさんもギルフォードさんに家督は譲ったけど元は貴族だし、フローラの性格で貴族に対して物怖じするなんてないか。
まあ、パパもその辺を心配しての普通科だったんだろうね。
「理由なんて決まってる。俺は強くなりたいからな。そこの彼女、男爵家の人間だろう。サティと言ったか。彼女の動きを授業で見掛けてな。十分、騎士科で通用するレベルだった。あんた達はもっと強いんだろう?」
「ふ~ん。嘘は無さそうだね」
「ああ、嘘をついて近付こうなんて思ってないさ。俺の家は国王派だからな」
「国王派?」
バスクと名乗った男の子の口にした理由はシンプルだった。「強くなりたい」理由としては、分かりやすいくらい。切っ掛けは、武術の授業でサティを見掛けたかららしい。
サティ、春香やフローラと訓練するようになって、凄く伸びたものね。バスクが騎士科でも十分やっていけると言う言葉は正しい。
でも、フローラはバスクが言った国王派という言葉に首を傾げている。はぁ、前に教えた筈なのに……
「フローラ、派閥の話はパパから聞いたでしょう。私も教えたわよ」
「そうだっけ?」
「もう。ゴドウィンのおじさまや、ルードおじさまの所属する派閥よ」
「ああ! ゴドウィンおじさんとルードおじさんと一緒かぁ。分かったよ」
「ちょっと待て! ゴドウィンとは、ボルトン辺境伯閣下の事だよな。もしかして、ルードとはロックフォード卿か。ボルトン辺境伯閣下とロックフォード卿をおじさん呼び……」
快活な感じのバスクが、フローラのおじさん呼びに顔を引き攣らせてる。
これに関しては、うちのメンバーも言葉をないみたいね。ユークスなんて、パペックおじさんのマゴなんだから、ゴドウィンおじさまやルードおじさまを知ってると思ったんだけど、顔を青くしているから、どの程度親しいのかは知らなかったのね。
「う~ん。ゴドウィンおじさんやルードおじさんと同じ派閥なのは分かったけど、だから何って感じなんだけど。ねぇ春香お姉ちゃん、フローラ間違ってる?」
「間違ってはないわね。でも、彼も学園の生徒なんだから、部活動をする権利はあるわね。まあ、私達の武術研究部に入部させるかは別にして」
「ちょ、ちょっとフローラ。春香も。エトワールも何か言ってよ!」
フローラと春香は通常運転ね。流石にサティは、男爵家の人間だから、二人の態度が気が気で仕方ないみたい。とうとう私に助けを求めてきた。
「そうね。なら、仮入部でどうかしら。暫く様子を見て、問題なければ入部でどう?」
「ああ、俺はそれで構わないぜ」
「エトワールお姉ちゃんが、そう言うならフローラはいいよ」
「私もそれでいいわ」
武術研究部とはいえ、パパやママから特別な流派を学んだ訳じゃないもの。見られて困るものはないわ。
「よろしくなサティ」
「は、はいっ!」
まあ、サティも直ぐに慣れるでしょう。
◇
バスクが武術研究部への仮入部を勝ち取った頃、学園から帰宅したクローディアは、家族団欒の時を過ごしていた。
王や王妃は勿論、学園を卒業した二人の兄も忙しく、全員が揃う事は珍しい。
「お父さま。少しよろしいですか?」
「なんだクローディア」
「学園での部活動のお話なのですが」
クローディアが父親に相談を持ち掛ける。
「王族とはいえ、学園在学中は一人の学生だ。クローディアの入りたい部活を選ぶといい」
「本当ですかお父さま!」
「ああ、因みにどんな部活なのだ?」
「はい。薬学研究部です」
「うん……」
学園の理念により、学園在学中は身分に囚われないというのが決められている以上、王族も平民も自由に活動するべきとロボス王がクローディアに言う。
それを聞いて嬉しそうなクローディアに、ロボスがどのような部活なのか聞くと、クローディアの口からつい最近報告を受けたワードが聞こえてきた。
「へぇ、クローディアが薬学ねぇ。王族の僕達には不要だと思うけどね」
「ロナルドお兄さま。学びは無駄にはなりませんわ」
そのクローディアに、王族が薬学を学ぶ部活はどうかと言ったのが第一王子のロナルド。そのロナルドに、どんな学問も無駄なものはないとクローディアが言い返す。
「薬学か。ならクローディアにポーションでも作って貰おうかな。僕は怪我をする事が多いからな」
「ええ。効果の高いポーションが作れるようになれば、リッグルお兄さまに差し上げますわ」
その様子を面白そうに見ていたリッグルが、ポーションが出来たなら欲しいと言うと、クローディアも嬉しげに約束する。第二王子のリッグルは、兄のロナルドと違い暇があれば剣を振っていたいタイプだ。お陰で生傷が絶えない。
そこで学園の三年生である第三王子のランカートが、薬学研究部という名前にピンとくる。
「薬学研究部……、確かイルマ殿のご息女が立ち上げた部活だったよね」
「はい。エトワール様が中心となって設立したと聞いていますわ」
「そうか。思い出した。イルマ殿の娘達の設立した部活が、薬学研究部と武術研究部だったな。う~ん。王族とはいえ部活動は自由なのだが……」
どこかで聞いたと思ったら、タクミの娘が設立した部活だと報告を受けたばかりだ。ロボスもクローディアに、自由にしてもいいと言った手前、今更ダメだとは言えない。とはいえ聖域に自国だけ抜け駆けするように、関係強化するのは気が引ける。
そこにクローディアの味方をする存在が現れる。クローディア達の母親プリムローズ王妃だ。
「陛下。よろしいではありませんか。イルマ殿はもともと我が国のボルトンを拠点に活動していたのです。今もボルトンやこの王都に拠点があるのですから、少しくらい距離が近付いても今更です」
「そうですね。聖域との関係は、今後も我が国にとって重要ですから。クローディアとイルマ殿のご息女が仲良くなれればと私は思いますがね」
「イルマ殿かぁ。剣を教えて欲しいな、僕は」
「むっ、むぅ。……分かった分かった。一応、サイモンには話しておくからな」
王妃とロナルドにそう言われると、ロボスも首を横には振れない。
そこにクローディアが忘れてたていう様に、バスクの話を持ち出す。
「そうそうお父さま。バスクが武術研究部に入部すると言ってましたわ」
「どうしてそうなる」
「バスクというと、ロードラッシュ伯爵家の嫡男だったか」
その事実にロボスは声を上げ、リッグルはバスクを知っているのか、面白そうにニヤニヤしている。武術研究部という名称の部活に興味があるのだろう。既に卒業した身故無理なのは分かっているが、可能なら自分も参加したいと考えていた。
ロボスはというと、国王派のロードラッシュ伯爵家の嫡男が、タクミの娘達と必要以上に接近する事に頭を痛める。
ロボスは派閥の存在自体は必要だと思っている。誰も彼もが、王の意向に無条件で従うような組織は危ういと理解している。時には反対勢力の存在は必要なのだ。
問題は、そのバランスだ。
現在、タクミのお陰もあり国王派は安定して確固とした立ち位置を築いている。
中立派は、バランサーとしてその数や力関係は変わらない。しかし貴族派はこの十年不遇を被っていた。
国王派のボルトン辺境伯家を起点に、大陸中に進出したパペック商会。当然、貴族派にもお抱えの商会はあるが、革新的な魔導具や希少なポーションは全てパペック商会からとなると、貴族間に格差が生じる。
騎士団の差はもっと顕著だ。
魔大陸の高難易度ダンジョンでのパワーレベリングに加え、陸戦艇サラマンダーというトンデモ兵器。貴族派の戦力では逆立ちしても対抗できない。
そして最も大きなものが、ウェッジフォートとバロルという未開地に出現した二つの城塞都市だ。
ウェッジフォートは、ボルトン辺境伯の飛び地扱い。バロルこそ、同盟三ヶ国が出資して共同で運営しているが、ウェッジフォートの意味は大きい。そこに貴族派や中立派すら関与できていないのだから。
ロボスは、この貴族派の縮小傾向に頭を痛めている。集団というものは、少数になる程より過激に先鋭化していくものだ。
「父上。学園が開かれた場所であるなら、貴族派も独自に動けばいいだけの話です。まあ、選民思考に凝り固まっているからこその貴族派ですから、イルマ殿のご息女達に意地でも接触しないでしょうけどね」
「はぁ、放置するしかないか。学園に不穏な空気が流れると、厄災級の従魔が顔を出しかねん。そうなったらイルマ殿しか止めれんからの。貴族派の子供達にトラウマが刻まれる事のないよう祈るしかないか」
ロナルドからも学園では放置するしかないと言われ、ロボスも諦める。
ただ、もし貴族派が学園で暗躍し、エトワール達に敵意を向けようものなら、厄災級の従魔が世直しだぁー! と明るい声で出張って来る可能性がある事を恐れていた。
そう。趣味が悪者退治のカエデだ。
ボルトンの街では、時折り街中で宙吊りにされる犯罪者が現れる。何時、誰がやったのか、誰も見ていないが、蜘蛛の糸でグルグル巻きにされている時点で、ボルトンでは誰の仕業かは一目瞭然だ。
基本的に、悪人でなければ怖がる必要はないのだが、ロボスは王都の学園で、貴族派の子息子女が吊るされる事がないよう願うのみだ。
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