いずれ最強の錬金術師?

小狐丸

文字の大きさ
上 下
290 / 316
連載

七話 違い過ぎる実力

しおりを挟む
 入学から二日目。本格的に授業がスタートする。

「エトワール、春香、フローラ、おはよう!」
「お、おはよう」
「あっ、サティとシャルル。おはよう!」
「おはよう!」
「おっはよう!」

 エトワール達に声を掛けたのは、同じクラスのサティとシャルル。

 エトワールと春香、フローラも笑顔で挨拶を交わす。

 そこに慌てて教室に入って来た二人。

「ま、間に合った。あ、おはよう皆んな」
「待ってよユークス。あ、おはよう」

 パペック商会会頭のパペックの孫ユークスと、王都の中堅商会の次男ルディだ。



 それぞれ決められた席に着くと、早速授業の話になる。ユークスがエトワール達に聞く。

「確かエトワール達は魔法や武術の授業を取らないんだったよね」
「それがねぇ」
「一回だけ受けて欲しいって頼まれちゃったんだよね」
「そうそう」
「えっ!? 誰に?」

 昨日、学ぶべき授業がないと言っていたエトワールが、ユークスの問いに微妙な顔をし、春香が魔法や武術の授業を一度だけ受けて欲しいと頼まれたと言う。

 驚くユークスが、誰から頼まれたのか聞くと、驚きの学園長から頼まれたと言う。

「えっと、どうしてそうなったのか、怖くて聞きたくないんだけど」
「サティちゃん。怖いってどういう事?」
「それをこれから聞くんじゃない」

 エトワールは、興味津々のサティに昨日あった事を話す。

 だいたいエトワール達三姉妹で、この手の話をするのはエトワールの役目だ。

「何よそれ! トリアリアの貴族って、馬鹿なの!」
「お、落ち着いてサティちゃん」

 昨日の顛末をエトワールから聞いたサティが立ち上がって怒り、それをシャルルがなだめる。

「でもエトワールさん達に、正気とは思えないね」
「エトワールさん達にってのは分からないけど、よくそんな人を留学させたよね」

 パペックの孫であるユークスは、祖父であるパペックからタクミの武勇伝を含め色々と聞いている。それだけに、そのタクミの娘達に喧嘩どころか、奴隷にしてやる発言が信じられなかった。

 ルディの家は、王都に店を持つ商会だが、パペック商会の先に居るタクミをよく知らない。ルディの父親なら少しは知っているかもしれないが、息子にまで情報共有は出来ていないようだ。

「学園の中には、録画機能の付いた監視カメラの魔導具が有るの知らないんだろうな」
「何処が悪いのか分からない感じだったから、監視カメラが有っても無かっても一緒だったと思うわよ」

 ユークスは、この学園の至る所に録画機能付き監視カメラの魔導具が設置されているのを知っていた。当然だ。パペック商会が扱っているのだから。

 ただエトワールは、ハジンの言動から根本的な問題だと思っていた。あの手の子供を、この国に留学させた方に問題があるのだ。せめて最低限のこちらの情報とルールを教えておくべきだ。

 商人の息子だけあり、ルディの興味は監視カメラの魔導具に移る。

「その魔導具ってユークスの所で扱っている商品だろう? 少しは家の商会にも回してくれって父さんが言ってたよ」
「お祖父ちゃんがイルマ様の魔導具を他の商会に回すなんてないだろうな」
「えっ!? イルマ様?」

 魔導具の話の中で、ユークスの口からイルマとエトワール達の姓が出ると、ルディは困惑の声を上げる。

「何だ。ルディ、知らなかったのか? エトワールさん達のお父さんが、パペック商会躍進の原動力になった魔導具の製作者だよ」
「「「ええぇぇぇぇーー!!」」」

 ユークスから聞かされ叫んだのは、ルディだけじゃなく、サティとシャルルも一緒だった。

「凄い! 超お金持ちじゃない!」
「サティちゃん、そこじゃないと思うよ」

 エトワール達が、タクミの娘だと知って最初の一言が間違ってるとシャルルに突っ込まれるサティ。実際、大陸の富が集まり過ぎるのに苦労しているタクミを知っているエトワールは苦笑いするしかない。

 更に話を聞こうとサティがしようとした時、学園のチャイムが鳴り、授業の始まりを告げる。

「あっ、もう授業の時間ね。仕方ない。話はまた後でね」
「まだするんだ」

 残念と話を切り上げるサティ。だが続きはまた後でするみたいだとユークス達が呆れ顔になる。普通科は今日も平和な時間が流れていた。







エトワール視点

 パパの話で皆んなが驚いてたけど、私達からしたら娘に激甘なパパだ。

 でもパパが一番強くて凄いって、聖域の皆んなが知っている。

 それで授業だけど、学科はやっぱり簡単過ぎて退屈でしかなかったわ。こんなレベルでバーキラ王国大丈夫かしら。まあ、私達はバーキラ王国の国民じゃないから関係ないんだけどね。

「はぁ、やっと武術の実技だねお姉ちゃん」
「フローラ、やり過ぎはダメよ。皆んなとはレベルもスキルも違い過ぎるんだから」
「ぶぅ~、分かってるよ」

 武術の実技授業の為に、闘技場に向かう私達だけど、教室でストレスが溜まってたフローラがウキウキしているので、一応釘を刺しておく。

 実技の授業は、普通科だけじゃなく他の科と合同だから、あまり目立つのもね。



 闘技場で私達普通科の授業は、それぞれの得意な武器を持って、武術教師と打ち合い、アドバイスをもらいながら技術アップに努めるというもの。

 ……どの教師も私達姉妹に近付かないのはどうかと思うわ。

「自習って、もう教師失格だと思うのは私だけかしら」
「だよね。確かに、どの先生も弱そうだけど……」
「うーん。体を一杯動かせるとおもったのに~」

 私の愚痴に春香とフローラも不満を漏らす。

 こうなったら近衛騎士団の人達と訓練できないかしら。

「仕方ないわね。三人で模擬戦しましょう」
「どういう設定にする?」

 私が春香とフローラに三人で模擬戦をしようと誘うと、春香からどんな設定でするか聞かれ少し考える。

 私達の中で、身体能力が一番高いのはフローラだけど、春香はその差を技術で埋める。私はと言うと、流石に身体能力では春香にも勝てない。ただ、魔力での身体強化技術は私が頭一つ抜けている。春香は良い意味でオールラウンダーだから隙が無い。

「三人同時にしましょうか」
「うん。それがいいかも」
「やった。面白そう」

 有利不利はあるけど、三人が入り乱れての乱戦なら良い勝負が出来そう。

 それぞれに模擬戦用の武器を取り出す。

 私は自分の身長よりも少し長い棒。魔法使いタイプの私は、パパから杖術と棒術、槍術を学んだ。この棒の長さは、パパが私専用に造ってくれた長杖に合わせてある。

 春香は、マリアママの得意武器と同じ槍。オールラウンダーの春香は、パパに剣術や体術も習っているけど、やっぱり基本使うのは槍が多い。

 そしてフローラは、マーニママみたいに多彩な武器と体術が持ち味。今手にしているのは二本の短剣。今日は手数で勝負する気らしい。聖域じゃ、大きな刃物のオバケみたいなのを振り回してた時もあったわね。



 一旦、三人が等間隔に距離を取り、そして突然加速し模擬戦が開始される。


 模擬戦だから全力っていう訳じゃないし、魔法も使わないけれど、大きな怪我をしないギリギリの加減。私達三姉妹、何時も一緒に過ごしたからこそ出来るレベルの訓練。

 だんだんと模擬戦へと集中していく。

 勿論、それでも周囲に気を配るのは忘れない。家のママは、そういうところ厳しいから。

 でも私に限定すれば、不意打ちはほぼ通用しない。そんな時には精霊が教えてくれるから。

 フローラは、別の意味で不意打ちに強い。兎人族ならではの耳の良さと、獣人族ならではの五感を潜り抜けての不意打ちは難しい。

 そんな中、種族的に平凡だと言われる人族の春香は、パパとマリアママから受け継いだ才能を努力で磨き、まだ子供と呼べる歳で高いレベルで武術を身に付けた。



 カンカンと甲高い音が闘技場に響く。

 不規則に鳴る攻防をあらわす音が、だんだんと激しくなっていく。

 私達姉妹三人での模擬戦は久しぶりだけど、そこは同じ歳の姉妹だけあり、息はぴったり合っているわ。

 聖域では、パパやママ達みたいな私達よりも強い相手ばかりと訓練してたけど、たまには姉妹でするのも楽しいわね。

「そこ!」

 カンッ!

「甘い!」

 ガッ!

「ヤァ!」

 カカンッ!

 フローラがドンドンのりのりになってくるのが分かる。よっぽどストレス溜まってたのかしら。

 確かに王都では、聖域みたいに駆け回るなんて無理だものね。

 フローラは、姉妹一番の元気っ子だから、聖域では森を草原を山を海岸を駆け回り飛び回ってた子だから。

 春香も槍捌きは流石ね。

 パパに似てオールラウンダーの春香だけど、マリアママ直伝の槍が一番得意のような気がする。

 でも、私だって簡単に負けないわよ。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

散々利用されてから勇者パーティーを追い出された…が、元勇者パーティーは僕の本当の能力を知らない。

アノマロカリス
ファンタジー
僕こと…ディスト・ランゼウスは、経験値を倍増させてパーティーの成長を急成長させるスキルを持っていた。 それにあやかった剣士ディランは、僕と共にパーティーを集めて成長して行き…数々の魔王軍の配下を討伐して行き、なんと勇者の称号を得る事になった。 するとディランは、勇者の称号を得てからというもの…態度が横柄になり、更にはパーティーメンバー達も調子付いて行った。 それからと言うもの、調子付いた勇者ディランとパーティーメンバー達は、レベルの上がらないサポート役の僕を邪険にし始めていき… 遂には、役立たずは不要と言って僕を追い出したのだった。 ……とまぁ、ここまでは良くある話。 僕が抜けた勇者ディランとパーティーメンバー達は、その後も活躍し続けていき… 遂には、大魔王ドゥルガディスが収める魔大陸を攻略すると言う話になっていた。 「おやおや…もう魔大陸に上陸すると言う話になったのか、ならば…そろそろ僕の本来のスキルを発動するとしますか!」 それから数日後に、ディランとパーティーメンバー達が魔大陸に侵攻し始めたという話を聞いた。 なので、それと同時に…僕の本来のスキルを発動すると…? 2月11日にHOTランキング男性向けで1位になりました。 皆様お陰です、有り難う御座います。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

卒業パーティーで魅了されている連中がいたから、助けてやった。えっ、どうやって?帝国真拳奥義を使ってな

しげむろ ゆうき
恋愛
 卒業パーティーに呼ばれた俺はピンク頭に魅了された連中に気づく  しかも、魅了された連中は令嬢に向かって婚約破棄をするだの色々と暴言を吐いたのだ  おそらく本意ではないのだろうと思った俺はそいつらを助けることにしたのだ

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。