いずれ最強の錬金術師?

小狐丸

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六話 王族の戸惑い

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 バーキラ王国の誇るべき美しい王城で、その城の主人が第三王子と第三王女の二人を、謁見の間ではなく、私室に呼び出していた。

「父上、ランカート参上しました」
「お父さま、クローディア参りました」
「入れ」

 今年成人である十五歳になる学園の三年生、第三王子のランカートと、エトワールと同様今年学園に入学した第三王女のクローディアが部屋に入る。

「ランカート、クローディア、まあ、座れ」
「「はい」」

 父親であり、この国の王ロボス・バーキラがソファーに座るよう促す。

 ランカートは、部屋に居るメンバーに首を傾げる。

 部屋の中には、父のロボスと宰相のサイモン。そして近衛騎士団団長のギルフォード。長男で王を継ぐべく勉強中のロナルド。二番目の兄で、騎士団に入り武の方向から国を支えようと努力しているリッグル。

 国の重鎮と二人の兄。何の話があるのか不安になるのも仕方ない。

「話は他でもない。今年学園に入学した、イルマ殿の三人の娘についてだ」
「イルマ殿ですの?」

 ロボス王が話し始めるが、クローディアが首を傾げる。ランカートも同様だ。

「父上、イルマ殿の名は、我らからすれば大陸の誰よりも有名ですが、ランカートやクローディアは無理でしょう」
「そうだな。俺も訓練がなかったら知らなかったくらいだしな」
「そうだったか。ではそこからだな」

 ランカートとクローディアも王族なので、国内は勿論同盟国や交易国、そして敵対国について学んでいる。当然、大陸の西端に存在すると言われる聖域についても学んでいた。ただ、タクミは目立つ事を嫌うし、周辺もそれを尊重しているので、未だに知る人ぞ知る人物だった。

「陛下、ここからは私が説明しましょう」
「ああ、頼む」

 宰相のサイモンが説明を引き継ぐ。この中で、もっとも頻繁に聖域へ足を運んでいるのはサイモンなのだから。

「聖域が何かはお二方共ご存知でしょう」
「ああ、精霊樹があり、大精霊様方が顕現されている地だろう?」
「大精霊様方の強力な結界で、誰もが入れる地ではないと教わりました」

 ランカートとクローディアの認識が、ある程度知識のある人間の知り得るところだ。

「ええ、その通りです。その事で、国内の貴族派の愚か者が、高貴な自分達を入れないなど不敬だと騒いでおるのもご存知だと思います」
「馬鹿な奴らだ。大精霊様の為さる事に不敬など、自分が神にでもなったつもりか」

 聖域について、今も貴族派からは非難する声が多い。その事を聞いていたランカートは、大精霊様に対しての暴言だと憤っていた。

「貴族派の事は今はいいでしょう。それで両殿下は、精霊樹の守護者にして聖域の管理者が存在しているのはご存知ですかな?」

 ランカートとクローディアが首を横に振る。

 近衛騎士やボルトン辺境伯家の関係者、ロックウッド伯爵関係者なら、タクミ・イルマの名を知らない者は居ないだろうが、王族には成人している者のみに情報解禁していた所為で、ランカートとクローディアは知らなかった。

「それがタクミ・イルマ殿なのです」
「「えっ!?」」

 ランカートとクローディアが驚きの声を上げる。確かロボスは、イルマ殿の娘が学園に入学したと言わなかったか。

「宰相、先ずはイルマ殿が、どの様な方かを話した方がいい。それを知らなければ始まらない」
「そうでしたな。私や陛下は付き合いも長くなりましたが、両殿下にはそこからですな」

 次期国王であるロナルドが、先ずはタクミが何者かを説明するべきだとサイモンに言い、サイモンもそれはそうかと、先ずはタクミについて話し始める。

「では、大きな功績から……」

 そうして話し始めたサイモンの話を、ランカートとクローディアは、呆然として聞いていた。

 未開地でのシドニア神皇国とトリアリア王国との戦争での最大の功績者。

 滅亡した旧シドニア神皇国から端を発した黒い魔物の氾濫。それを解決し、加えてバーキラ王国とロマリア王国の被害が最小限で抑えられたのもタクミのお陰であるという事。

 その後の旧シドニアの復興にも多大な貢献をしている。

「まさか……、それが個人の功績だと言うのですか?」
「はい。イルマ殿個人と周囲の武は勿論ですが、王国の近衛騎士団やボルトン辺境伯家の騎士団、ロックフォード伯爵家騎士団も、我が国で精鋭と言われている騎士団が精鋭たるのは、イルマ殿のお陰ですからな」

 そしてサイモンが説明する。魔大陸のダンジョンを使用してのパワーレベリングに、今では騎士団の象徴とも言える陸戦艇サラマンダーの開発と販売。

「サラマンダーは、イルマ殿が開発したものでしたか!」
「他にも身の回りにはイルマ殿がもたらした魔導具類は多いですぞ」

 そうしてサイモンの口から、浄化の魔導具付き便器など、生活に寄り添った魔導具があげられていった。

 クローディアも驚きで声も出ない。彼女の年齢では、生まれた時から浄化の魔導具は身近に有り、王都や王城の衛生状態は改善されていた。今、それが無かったと思うとゾッとする。

「魔導具だけでなく、イルマ殿は希少で貴重なポーション類も我らにもたらしてくれた。殿下達もその恩恵は受けておると思いますぞ」
「…………」

 ロックフォード伯爵家のエミリアを癒した秘薬を始め、聖域産の希少な薬草から作られるポーション類は、バーキラ王国のみならず、多くの命を救った。

「そんな方の娘が学園に入学したのですね」
「ですが、私のクラスには居ませんでしたわ」

 自分がわざわざ呼び出されたのを納得したようにランカートが頷く。しかしクローディアは疑問を口にする。自分のクラスはもとより、教養科では見た事がないと。

 サイモンもそれは当然と頷く。

「イルマ殿の娘達は普通科だからな」
「えっ、何故……」

 ランカートがタクミの娘の入学を、何故わざわざ父親が話したのか理解した。そこでクローディアが自分のクラスには居なかったと疑問を言うと、返ってきたのは彼女達が受験したのは普通科だという応え。

「実際問題、彼女達に王国の学園で学ぶ意味はないのですよ。そこを陛下や私がイルマ殿に頭を下げてお願いし、入学してもらったのです」
「学園で学ぶ意味がない?」

 サイモンがエトワール達は、学園で学ぶ意味はないと言われランカートは困惑する。バーキラ王国の王立高等学園は、大陸一と自慢できるものだと信じていたから。

「ランカート、聖域の学校のレベルは、王立高等学園のレベルなど、幼年学校で済ましているのさ」
「そうだぜ。武術や魔法に関しても、聖域は王国の何歩も先を行っているんだ。実際、大陸最強は少数精鋭の聖域騎士団だって断言できるぜ」
「なっ!?」

 兄であるロナルドとリッグルから聖域の高い教育レベルや騎士団の強さを聞かされ、驚きでランカートは言葉が出てこない。

「リッグル兄上、ひょっとして聖域へ行った事があるのですか?」
「おう。俺は近衛騎士団だからな。聖域の結界を抜けれるかどうか、心配で流石に前の日は寝れなかったぜ」

 リッグルが聖域の騎士団に詳し過ぎると感じたランカートは、もしかして聖域に行った事があるのか聞いてみると、当然だと言わんばかりに簡単に認めた。

 実はこれ、かなり危険な行為で、もし王族が聖域の結界を抜けれなかったとしたら、貴族派からの格好の攻撃材料になるからだ。まあ、もしそうなら、そうなる前に大精霊から忠告があるだろう。

「可能なら、我が子を聖域で学ばせたいくらいだ」
「殿下、流石にそれは難しいでしょうな」
「分かってるさ」

 ロナルドは、子供を聖域で学ばせたいと半ば本気で考えた時期もあるほどだ。流石にそれは難しいとサイモンに言われる。

「そうだ。クローディアは桜の花が好きだったよな」
「ええ、もしかして……」
「そうだ。桜もイルマ殿が拡めたものだ」

 不意にロボス王がクローディアに桜の花が好きだった事を聞いた。

 クローディアは、春になると城に咲く桜の花が大好きだった。厳しい冬が終わると、春の訪れと共に一斉に咲き誇る薄桃の花。そしてあっという間に風に散る様も、そのもの哀しい美しさが好きだった。

 あの桜もタクミがもたらしたものだと聞き、最早理解が追いつかないクローディアとランカート。

「聖域との関係強化は、バーキラ王国にとっても最重要事項です。幸い聖域には、我が国と縁のある者も多く、ユグル王国と共に良い関係を築けていると言えますが、イルマ殿の次代との信頼構築も重要なのです」
「縁のある者ですか?」

 ランカートはサイモンの話の中で、我が国と縁のある者が多いというワードが気になった。

「ああ、主なところでは、宰相夫人のロザリー殿。近衛騎士団団長のギルフォードの父親であり、前近衛騎士団団長のガラハットとその妻のコーネリア夫人。ボルド女男爵だな」
「宰相夫人とガラハットが?」

 ロナルドから宰相夫人のロザリーやガラハットとコーネリア夫人の名前が出て、ランカートは目を見開く。
 ランカートは、幼い頃にガラハットと面識があるのだから。

「ユグル王国は、ミーミル王女が聖域の最初期から滞在しているし、ルーミア王妃もほぼ聖域で滞在している」
「それで我が国とユグル王国が聖域と関係が深いと言えるのですね」
「まあ、ロマリア王国の手前、あからさまな贔屓は無いがな」

 続けてユグル王国の王女と王妃が、ほぼ聖域で暮らしている事を聞き納得する。大精霊様が顕現している地なのだ。精霊信仰が厚いエルフであるユグル王国が聖域との関係を最重要視するのは当然だ。




 タクミに関しての情報をある程度開示し終え、本題はここからだ。

「イルマ殿の娘は、エルフのエトワール嬢。人族の春香嬢。兎人族のフローラ嬢だ。当然、母親は別々だな」
「エルフと人族に獣人族ですか。貴族派やトリアリア王国からの留学生が騒ぎそうですね」
「もう騒ぎを起こして退学になった馬鹿がいる」
「なっ!?」
「えっ!?」

 ロボス王がエトワール達の紹介をすると、ランカートが問題が起きそうだと嫌な顔になる。
 種族差別を撤廃する立場の王族であるランカートやクローディアは、幼い頃からその辺の教育は徹底されている。それだけに、国王派と対立する貴族派の生徒に危機感を覚える。

 ところが、既に問題を起こした者がいると言う。

「ハジン・ヘドロックだったか。何をトチ狂ったか、エルフのエトワール嬢と兎人族のフローラ嬢を自分の奴隷にしようとした」
「えっ!? それは本気ですか? いえ、彼はトリアリア王国の伯爵家でしたね。なら本気だったのですね」

 僅か一日とはいえ、クラスメイトだったクローディアの衝撃は大きい。ただ、クローディアが納得したように、トリアリア王国の貴族ならあり得る考えだった。

「有象無象の貴族など、エトワール嬢達なら障害にもならんだろうが、我が国と聖域の関係が拗れるのだけは避けねばならん」
「まあ、クローディアも教養科だから直接接する機会もないだろうし、学年の違うランカートは尚更だ。だから何かトラブルがあり、お前達が対処可能だと判断した場合に動く心づもりで居てくれればいい」
「「分かりました」」

 ロボス王とロナルドからの言われた事に気を引き締めて返事するランカートとクローディア。二人は、国王派のクラスメイトとも情報を共有しておく事を決める。

 何かがあった場合、王族の二人が直接動くのは最後にするべきだから。






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