280 / 308
連載
五話 勘違い国家の馬鹿
しおりを挟む
ハジン視点
あの奇妙な三人の女とは別のクラスだな。
まあ、当然か。エルフや獣人族が、教養科な訳がない。
同じクラスには、我がトリアリア王国のカクシュール侯爵家のベリス嬢と、ラシュール子爵家のドリス嬢がいる。トリアリア王国からの留学生を一纏めにしたようだな。
ベリス嬢は、トリアリア王国の高位貴族の中でも名家で知られる家の長女だ。爵位も我がヘドロック伯爵家よりも高い。
もう一人のドリスは子爵家で、爵位の上ではヘドロック家が上だが、奴の家は裕福で派閥の力も強い。癪だが、力関係ではヘドロック家は部が悪い。
そしてバーキラ王国関係では、なんと王族が居やがる。
クローディア・バーキラ。バーキラ王国の第三王女。まごう事なき王族だ。
そのクローディアの側に居るのが、メルティアラ・バーティア。バーティア侯爵家次女だった筈だ。
爵位は向こうが上だが、バーキラ王国と我がトリアリア王国が同列などあり得ない。実質、同列か俺が上の筈だ。
あとのバーキラ王国の貴族は、名前を憶える必要もない有象無象だ。
いや二学年上に、ランカート・バーキラがいたな。確か第三王子だったな。
バーキラ王国と我がトリアリア王国とは戦争中である。今は滅びたシドニア神皇国と我が国の合同軍と、バーキラ王国、ロマリア王国、ユグル王国の三国と未開地において戦闘が行われた。遡ること六十年程前にもユグル王国と戦闘があったらしいが、俺が生まれる前の話だ。まあ、その三国との戦争も俺の生まれる前の話なんだがな。
その戦争で、我がトリアリア王国はユグル王国からエルフの奴隷を獲るという目的を果たせなかった。
同時に、聖域の占領というもう一つの目的も果たせず撤退したと聞く。
それ以来、我がトリアリア王国とバーキラ王国、ロマリア王国、ユグル王国の三国とは停戦も休戦もなされていない。
その後、三国との戦闘も行われていないのだが、我がトリアリアも三国と戦争しているどころではなかったのだ。
俺がまだ幼い頃、突然旧シドニア神皇国から黒い魔物が溢れた。いわゆるスタンピードというやつだ。
そのスタンピードで、この大陸に在る国の中でも、我がトリアリアは一番大きな被害を受けた。
ドワーフの国は、山脈に護られたいした被害は無かったし、ユグル王国は大陸の北西端で被害は無かっただろう。だがバーキラ王国やロマリア王国にほとんど被害が無かったのは納得できない。トリアリア王国よりも優れた国など存在しないのだから。
そうだ。あのエルフと獣人族の女。俺の奴隷にしてやろう。奴らも俺の奴隷となるのだ。光栄に思うことだろう。
エトワール視点
廊下を春香とフローラと三人で歩いていると、前からニヤニヤと気持ち悪い顔で近付いて来る男がいた。
「おい! お前!」
偉そうに話し掛けてくるけど勿論無視する。
「おい! 俺が声を掛けてやってるのだぞ!」
無視、無視。
「おい! お前達を俺の奴隷にしてやろうと言ってるんだ!」
こいつ気でも狂ってるのかしら。ああ、確かパパに聞いた事があるわ。トリアリア王国は人族至上主義で、エルフや獣人族を不法に奴隷にしているって。
あまりの馬鹿さ加減に、無視して横をすり抜けようとすると、気持ち悪い事に肩を掴もうと手を伸ばしてきた。
ズダァーン!!
「グッ!!」
無意識に投げちゃたじゃない。
「お、お前っ……」
「口を開けるな。うじ虫が」
「便所虫」
「ゴミ虫」
ママが見てたら、女の子が口が悪いって怒られそうね。でも春香とフローラも汚物を見るような目で追撃の言葉を投げ掛けてるわ。
本当、どこの子供かしら。頭が悪過ぎるわ。
ハジン視点
教養科のオリエンテーションが終わり、今日はこれで寮に戻る。その教室から出ると廊下の向こうに、あのエルフと人族、獣人族の姉妹が歩いて来るのを見つけた。
(ククッ、丁度いい。俺の物にしてやろう。光栄に思うがいい)
「おい! お前!」
声を掛けてやったのに視線も動かさず無視しやがった。
カアっと頭に血が昇る。
「おい! 俺が声を掛けてやってるのだぞ!」
亜人の分際で、貴族である俺を無視するなど、万死に値する。
「おい! お前達を俺の奴隷にしてやろうと言ってるんだ!」
高貴な俺の奴隷にしてやると言っているのに、更に無視して通り過ぎようとしやかった。
俺は先頭を歩くエルフの女の肩を掴もうと手を伸ばした。
ズダァーン!!
「グッ!!」
気が付いた時には、床に投げ付けられていた。何時投げた? どうやって? 痛みで息が出来ない。
「お、お前っ……」
「口を開けるな。うじ虫が」
「便所虫」
「ゴミ虫」
奴ら、あろう事か、俺を蔑んだ目で見て暴言を吐いて去って行きやがった。
何とか動けるようになった俺は、学園長室に怒鳴り込んだ。
「学園長! エルフと獣人族の女を捕らえろ!」
「捕らえられるのは君の方だよ。ハジン君」
「なに!?」
俺の聞き間違いか?
「俺は、トリアリア王国の伯爵家の人間だぞ! 無礼を働いた奴らを死罪にするのは当然だろう!」
「それはあり得ませんな」
そう言うと学園長は、何かの魔導具を取り出し俺に見せた。そこには、先程の様子が映っている。
「なんだ。証拠があるではないか。これで奴らを捕らえる理由になるな」
「ええ、ハジン君を捕縛する証拠ですね」
そう学園長が言うと、部屋に騎士が入ってきて俺を拘束する。
「どうして俺を拘束する! 拘束するのは、あの女達だろう!」
「はぁ、我が国では借金奴隷と犯罪奴隷以外を認めていません。そしてここは、バーキラ王国の王立高等学園です。当然、何の罪もない生徒を奴隷になど許されません」
こいつ、何を言っている。
「ハジン君。君は我が校の規則を理解していますか? 我が校では、身分を振りかざすのも禁止しているのですよ。それは王族でも変わりません」
「そんな事知るか! 俺を放せ!」
校則? 貴族が亜人を奴隷にして何が悪い!
「それに何より、ハジン君が侮辱した相手が悪い」
「エルフと獣人族に平民の人族だろう。俺の奴隷となれるのだ。光栄に思って当然だろう!」
「彼女達はね、バーキラ王国のみならず、ロマリア王国やユグル王国でも最重要人物なのだよ。奴隷などととんでもない」
「何だと……」
何故、エルフや獣人族が最重要人物なのだ。
「この事がユグル王国に知れば、同盟国であるバーキラ王国やロマリア王国に、トリアリア王国征伐軍を起こす提案がされても不思議ではありませんよ」
「なっ!?」
何故、三カ国からトリアリア王国が攻められる話になる。
「それよりも彼女達の父親や母親に知られる事の方が怖いですね。一般の国民を殲滅などはないでしょうが、トリアリア王国が滅んでも私は驚きません」
「何を世迷言を……」
平民の父親が、どうだと言うのだ。何人も囲う財力はあるのだろうが、所詮は商人だろう。貴族である俺に対する不敬で親も死罪にすればいい。
「取り敢えず、ハジン君、あなたは退学です」
「ふざけるなぁ!」
「ふざけてなどいませんよ。それだけではありません。あなたを捕虜として収監します。トリアリア王国が、引き取ってくれる事を祈っていてください」
捕虜だとぉ! ふざけるな! 俺は怒りのあまり暴れようとするが、騎士に拘束されピクリとも動けない。
「連れて行ってください」
「放せ! 捕まえるのは亜人どもだろう!」
拘束されたまま、引き摺られて連れて行かれる。
こんな事が許されるのか! 許されていい訳がない。叫ぼうとすると、口に猿轡を噛まされ声も上げれなくなる。
何故だ! どうして俺がこんな目に遭う!
ベリス視点
我が国から留学生として入学した筈のヘドロック伯爵家の次男ハジンが退学となり、しかも収監されたと報告を受けたわ。
それを聞いて溜息しか出なかった。
詳細な報告を受けたけど、あまりに馬鹿な内容に、騙されているのかしらとすら思ったわ。
昔、我が国にはエルフや獣人族の奴隷がいた。奴隷狩りという部隊が、他国から狩って来ると聞いた事がある。バーキラ王国、ロマリア王国、ユグル王国の三ヶ国と戦争中だから、敵国の民を攫う事自体はおかしな話ではないけれど、今の私達はバーキラ王国に留学しているのよ。そこでバーキラ王国の民を奴隷になど出来る訳がないじゃない。
「ベリス様、一応本国へ連絡しておきました」
「ご苦労様ドリス」
そこにラシュール子爵家の次女ドリスが戻って来た。今回、私が留学するにあたり側近として着いて来てくれました。
「ヘドロック家は何を考えているのでしょう? あの様な人間を送るなんて」
「カクシュール侯爵家に対抗したいんでしょうけど、馬鹿を寄越して台無しよね」
我がトリアリア王国は、大陸で孤立しています。
南のサマンドール王国とは交易していますが、バーキラ王国、ロマリア王国、ユグル王国とは敵対していますから。
前回の戦争から十年以上経ちますが、国内は疲弊したまま。黒い魔物のスタンピードの影響も未だ大きく、発展著しい三ヶ国との差は開き続けています。
あの十年以上前にあった未開地での戦争も、本国では痛み分けと国民には報されていますが、実際には大敗し逃げ帰ったのが真実です。
決して本国では言えませんが、それを知る貴族は多いでしょう。這う這うの体で逃げ帰った貴族家の当主も多いのですから。
「あんな馬鹿は置いておいて、寮の魔導具を見ましたか?」
「ええ、灯りの魔導具。トイレの魔導具。浴室にも水とお湯が出る魔導具と、学生が住む寮にですよ」
「ですよね。あのトイレの魔導具を是非売ってくださらないかしら」
「ええ、それはもう切実にですわね」
お父さまからバーキラ王国の内情を探るよう言われて来たけれど、この国は我が祖国と違い過ぎる。
寮の魔導具は貴族用の施設だからかと思いきや、平民の部屋にも同じ物が有るそうです。違いと言えば、使用人用の部屋の有る無しと広さくらい。驚くことしか出来ません。
貴族の乗る馬車にしても、バーキラ王国の物は揺れずにお尻が痛くならないと聴きました。この国はどうなっているのでしょう。昔からトリアリア王国とそれ程の差があったのでしょうか?
「ベリス様、満遍なく授業を取ったのですね」
「ええドリス。この国の魔法のレベルや武術のレベルを知りたいですから」
ドリスがオリエンテーションで、私が選択した授業のリストを見て言う。
黒の氾濫と呼ばれているスタンピードに於いて、この国はほぼ被害を抑え込めている。その理由を調べないといけない。
「宗教学だけは取れませんわね」
「ええ、人族至上主義を掲げる我が国は、他国の宗旨とは違いますから」
トリアリア王国民として、選択出来ない授業もあるわ。
「丁度このクラスには、この国の第三王女も居る事ですし、可能な限り情報収集に努めましょう」
「はい。ベリス様」
馬鹿なハジンのお陰で、余計に目立った動きがし辛くなってしまったけど、私たちなりに頑張るしかないわね。
あの奇妙な三人の女とは別のクラスだな。
まあ、当然か。エルフや獣人族が、教養科な訳がない。
同じクラスには、我がトリアリア王国のカクシュール侯爵家のベリス嬢と、ラシュール子爵家のドリス嬢がいる。トリアリア王国からの留学生を一纏めにしたようだな。
ベリス嬢は、トリアリア王国の高位貴族の中でも名家で知られる家の長女だ。爵位も我がヘドロック伯爵家よりも高い。
もう一人のドリスは子爵家で、爵位の上ではヘドロック家が上だが、奴の家は裕福で派閥の力も強い。癪だが、力関係ではヘドロック家は部が悪い。
そしてバーキラ王国関係では、なんと王族が居やがる。
クローディア・バーキラ。バーキラ王国の第三王女。まごう事なき王族だ。
そのクローディアの側に居るのが、メルティアラ・バーティア。バーティア侯爵家次女だった筈だ。
爵位は向こうが上だが、バーキラ王国と我がトリアリア王国が同列などあり得ない。実質、同列か俺が上の筈だ。
あとのバーキラ王国の貴族は、名前を憶える必要もない有象無象だ。
いや二学年上に、ランカート・バーキラがいたな。確か第三王子だったな。
バーキラ王国と我がトリアリア王国とは戦争中である。今は滅びたシドニア神皇国と我が国の合同軍と、バーキラ王国、ロマリア王国、ユグル王国の三国と未開地において戦闘が行われた。遡ること六十年程前にもユグル王国と戦闘があったらしいが、俺が生まれる前の話だ。まあ、その三国との戦争も俺の生まれる前の話なんだがな。
その戦争で、我がトリアリア王国はユグル王国からエルフの奴隷を獲るという目的を果たせなかった。
同時に、聖域の占領というもう一つの目的も果たせず撤退したと聞く。
それ以来、我がトリアリア王国とバーキラ王国、ロマリア王国、ユグル王国の三国とは停戦も休戦もなされていない。
その後、三国との戦闘も行われていないのだが、我がトリアリアも三国と戦争しているどころではなかったのだ。
俺がまだ幼い頃、突然旧シドニア神皇国から黒い魔物が溢れた。いわゆるスタンピードというやつだ。
そのスタンピードで、この大陸に在る国の中でも、我がトリアリアは一番大きな被害を受けた。
ドワーフの国は、山脈に護られたいした被害は無かったし、ユグル王国は大陸の北西端で被害は無かっただろう。だがバーキラ王国やロマリア王国にほとんど被害が無かったのは納得できない。トリアリア王国よりも優れた国など存在しないのだから。
そうだ。あのエルフと獣人族の女。俺の奴隷にしてやろう。奴らも俺の奴隷となるのだ。光栄に思うことだろう。
エトワール視点
廊下を春香とフローラと三人で歩いていると、前からニヤニヤと気持ち悪い顔で近付いて来る男がいた。
「おい! お前!」
偉そうに話し掛けてくるけど勿論無視する。
「おい! 俺が声を掛けてやってるのだぞ!」
無視、無視。
「おい! お前達を俺の奴隷にしてやろうと言ってるんだ!」
こいつ気でも狂ってるのかしら。ああ、確かパパに聞いた事があるわ。トリアリア王国は人族至上主義で、エルフや獣人族を不法に奴隷にしているって。
あまりの馬鹿さ加減に、無視して横をすり抜けようとすると、気持ち悪い事に肩を掴もうと手を伸ばしてきた。
ズダァーン!!
「グッ!!」
無意識に投げちゃたじゃない。
「お、お前っ……」
「口を開けるな。うじ虫が」
「便所虫」
「ゴミ虫」
ママが見てたら、女の子が口が悪いって怒られそうね。でも春香とフローラも汚物を見るような目で追撃の言葉を投げ掛けてるわ。
本当、どこの子供かしら。頭が悪過ぎるわ。
ハジン視点
教養科のオリエンテーションが終わり、今日はこれで寮に戻る。その教室から出ると廊下の向こうに、あのエルフと人族、獣人族の姉妹が歩いて来るのを見つけた。
(ククッ、丁度いい。俺の物にしてやろう。光栄に思うがいい)
「おい! お前!」
声を掛けてやったのに視線も動かさず無視しやがった。
カアっと頭に血が昇る。
「おい! 俺が声を掛けてやってるのだぞ!」
亜人の分際で、貴族である俺を無視するなど、万死に値する。
「おい! お前達を俺の奴隷にしてやろうと言ってるんだ!」
高貴な俺の奴隷にしてやると言っているのに、更に無視して通り過ぎようとしやかった。
俺は先頭を歩くエルフの女の肩を掴もうと手を伸ばした。
ズダァーン!!
「グッ!!」
気が付いた時には、床に投げ付けられていた。何時投げた? どうやって? 痛みで息が出来ない。
「お、お前っ……」
「口を開けるな。うじ虫が」
「便所虫」
「ゴミ虫」
奴ら、あろう事か、俺を蔑んだ目で見て暴言を吐いて去って行きやがった。
何とか動けるようになった俺は、学園長室に怒鳴り込んだ。
「学園長! エルフと獣人族の女を捕らえろ!」
「捕らえられるのは君の方だよ。ハジン君」
「なに!?」
俺の聞き間違いか?
「俺は、トリアリア王国の伯爵家の人間だぞ! 無礼を働いた奴らを死罪にするのは当然だろう!」
「それはあり得ませんな」
そう言うと学園長は、何かの魔導具を取り出し俺に見せた。そこには、先程の様子が映っている。
「なんだ。証拠があるではないか。これで奴らを捕らえる理由になるな」
「ええ、ハジン君を捕縛する証拠ですね」
そう学園長が言うと、部屋に騎士が入ってきて俺を拘束する。
「どうして俺を拘束する! 拘束するのは、あの女達だろう!」
「はぁ、我が国では借金奴隷と犯罪奴隷以外を認めていません。そしてここは、バーキラ王国の王立高等学園です。当然、何の罪もない生徒を奴隷になど許されません」
こいつ、何を言っている。
「ハジン君。君は我が校の規則を理解していますか? 我が校では、身分を振りかざすのも禁止しているのですよ。それは王族でも変わりません」
「そんな事知るか! 俺を放せ!」
校則? 貴族が亜人を奴隷にして何が悪い!
「それに何より、ハジン君が侮辱した相手が悪い」
「エルフと獣人族に平民の人族だろう。俺の奴隷となれるのだ。光栄に思って当然だろう!」
「彼女達はね、バーキラ王国のみならず、ロマリア王国やユグル王国でも最重要人物なのだよ。奴隷などととんでもない」
「何だと……」
何故、エルフや獣人族が最重要人物なのだ。
「この事がユグル王国に知れば、同盟国であるバーキラ王国やロマリア王国に、トリアリア王国征伐軍を起こす提案がされても不思議ではありませんよ」
「なっ!?」
何故、三カ国からトリアリア王国が攻められる話になる。
「それよりも彼女達の父親や母親に知られる事の方が怖いですね。一般の国民を殲滅などはないでしょうが、トリアリア王国が滅んでも私は驚きません」
「何を世迷言を……」
平民の父親が、どうだと言うのだ。何人も囲う財力はあるのだろうが、所詮は商人だろう。貴族である俺に対する不敬で親も死罪にすればいい。
「取り敢えず、ハジン君、あなたは退学です」
「ふざけるなぁ!」
「ふざけてなどいませんよ。それだけではありません。あなたを捕虜として収監します。トリアリア王国が、引き取ってくれる事を祈っていてください」
捕虜だとぉ! ふざけるな! 俺は怒りのあまり暴れようとするが、騎士に拘束されピクリとも動けない。
「連れて行ってください」
「放せ! 捕まえるのは亜人どもだろう!」
拘束されたまま、引き摺られて連れて行かれる。
こんな事が許されるのか! 許されていい訳がない。叫ぼうとすると、口に猿轡を噛まされ声も上げれなくなる。
何故だ! どうして俺がこんな目に遭う!
ベリス視点
我が国から留学生として入学した筈のヘドロック伯爵家の次男ハジンが退学となり、しかも収監されたと報告を受けたわ。
それを聞いて溜息しか出なかった。
詳細な報告を受けたけど、あまりに馬鹿な内容に、騙されているのかしらとすら思ったわ。
昔、我が国にはエルフや獣人族の奴隷がいた。奴隷狩りという部隊が、他国から狩って来ると聞いた事がある。バーキラ王国、ロマリア王国、ユグル王国の三ヶ国と戦争中だから、敵国の民を攫う事自体はおかしな話ではないけれど、今の私達はバーキラ王国に留学しているのよ。そこでバーキラ王国の民を奴隷になど出来る訳がないじゃない。
「ベリス様、一応本国へ連絡しておきました」
「ご苦労様ドリス」
そこにラシュール子爵家の次女ドリスが戻って来た。今回、私が留学するにあたり側近として着いて来てくれました。
「ヘドロック家は何を考えているのでしょう? あの様な人間を送るなんて」
「カクシュール侯爵家に対抗したいんでしょうけど、馬鹿を寄越して台無しよね」
我がトリアリア王国は、大陸で孤立しています。
南のサマンドール王国とは交易していますが、バーキラ王国、ロマリア王国、ユグル王国とは敵対していますから。
前回の戦争から十年以上経ちますが、国内は疲弊したまま。黒い魔物のスタンピードの影響も未だ大きく、発展著しい三ヶ国との差は開き続けています。
あの十年以上前にあった未開地での戦争も、本国では痛み分けと国民には報されていますが、実際には大敗し逃げ帰ったのが真実です。
決して本国では言えませんが、それを知る貴族は多いでしょう。這う這うの体で逃げ帰った貴族家の当主も多いのですから。
「あんな馬鹿は置いておいて、寮の魔導具を見ましたか?」
「ええ、灯りの魔導具。トイレの魔導具。浴室にも水とお湯が出る魔導具と、学生が住む寮にですよ」
「ですよね。あのトイレの魔導具を是非売ってくださらないかしら」
「ええ、それはもう切実にですわね」
お父さまからバーキラ王国の内情を探るよう言われて来たけれど、この国は我が祖国と違い過ぎる。
寮の魔導具は貴族用の施設だからかと思いきや、平民の部屋にも同じ物が有るそうです。違いと言えば、使用人用の部屋の有る無しと広さくらい。驚くことしか出来ません。
貴族の乗る馬車にしても、バーキラ王国の物は揺れずにお尻が痛くならないと聴きました。この国はどうなっているのでしょう。昔からトリアリア王国とそれ程の差があったのでしょうか?
「ベリス様、満遍なく授業を取ったのですね」
「ええドリス。この国の魔法のレベルや武術のレベルを知りたいですから」
ドリスがオリエンテーションで、私が選択した授業のリストを見て言う。
黒の氾濫と呼ばれているスタンピードに於いて、この国はほぼ被害を抑え込めている。その理由を調べないといけない。
「宗教学だけは取れませんわね」
「ええ、人族至上主義を掲げる我が国は、他国の宗旨とは違いますから」
トリアリア王国民として、選択出来ない授業もあるわ。
「丁度このクラスには、この国の第三王女も居る事ですし、可能な限り情報収集に努めましょう」
「はい。ベリス様」
馬鹿なハジンのお陰で、余計に目立った動きがし辛くなってしまったけど、私たちなりに頑張るしかないわね。
489
お気に入りに追加
35,604
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
不死王はスローライフを希望します
小狐丸
ファンタジー
気がついたら、暗い森の中に居た男。
深夜会社から家に帰ったところまでは覚えているが、何故か自分の名前などのパーソナルな部分を覚えていない。
そこで俺は気がつく。
「俺って透けてないか?」
そう、男はゴーストになっていた。
最底辺のゴーストから成り上がる男の物語。
その最終目標は、世界征服でも英雄でもなく、ノンビリと畑を耕し自給自足するスローライフだった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
暇になったので、駄文ですが勢いで書いてしまいました。
設定等ユルユルでガバガバですが、暇つぶしと割り切って読んで頂ければと思います。
異世界立志伝
小狐丸
ファンタジー
ごく普通の独身アラフォーサラリーマンが、目覚めると知らない場所へ来ていた。しかも身体が縮んで子供に戻っている。
さらにその場は、陸の孤島。そこで出逢った親切なアンデッドに鍛えられ、人の居る場所への脱出を目指す。
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る
早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」
解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。
そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。
彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。
(1話2500字程度、1章まで完結保証です)
異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい
増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。
目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた
3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ
いくらなんでもこれはおかしいだろ!
スキルポイントが無限で全振りしても余るため、他に使ってみます
銀狐
ファンタジー
病気で17歳という若さで亡くなってしまった橘 勇輝。
死んだ際に3つの能力を手に入れ、別の世界に行けることになった。
そこで手に入れた能力でスキルポイントを無限にできる。
そのため、いろいろなスキルをカンストさせてみようと思いました。
※10万文字が超えそうなので、長編にしました。
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。