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13巻
13-3
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8 頑張る候補生
ダン、マッド、ビルの三人だけでなく、騎士候補の若者達全員が、ワッパとの模擬戦で地面を這った。
そのワッパも、ソフィアに注意を受けていた。
「ワッパ、動きが雑ですよ。自分の身体能力に頼った戦いはやめなさい」
「ごめんよソフィア姉ちゃん。タクミ兄ちゃんに教えてもらった体術を忘れてたよ」
「自分よりも力の強い者、動きの速い者などに相対した時、技をもって立ち向かわないといけませんからね」
「うん、分かったよ」
そんなやり取りを呆然と見ていた騎士候補達の思いは複雑だっただろう。
ダン達三人が簡単に倒された事で、ワッパを侮る者はいなかったが、結局彼といい勝負に持ち込めた者は皆無だった。
そのワッパが注意を受けている状況を見て、少なからず心が折れかけていたものの、流石は大精霊が見込んでスカウトした者達。自分達ももっと強くなれるのだと前向きに訓練に向き合っていく。
その後、タクミ達によるパワーレベリングのお陰で、ワッパが並の冒険者には負けないほどの高レベルで、色々なスキルを習得している事をソフィアから知らされた騎士候補達は納得する。
それを聞いたマッドがソフィアに確認する。
「では拙者達もレベル上げを助けていただけるのですか?」
「ええ、騎馬となるバトルホースを含め、全員のレベルとスキルは上げてもらいます。まあ、そのための最低限のスキルを習得してからですが」
「バトルホースもでござるか?」
「ええ、バトルホースも魔物ですから、レベルアップとその先の進化を目指します。進化までは簡単には出来ないでしょうが、バトルホースの能力アップは、騎馬兵の戦闘力アップに直結しますから」
「な、なるほど……」
次にダンテが今後のスケジュールの説明を始める。
「これからお前達には、武術スキルを獲得してもらう。体術は勿論の事、剣術、盾術は全員必須だからな」
「俺達ドワーフもですか?」
人族、エルフ、獣人族、ドワーフと、様々な種族が混在する騎士団だが、ダンテは全員に剣術と盾術のスキル習得を義務付けた。
それに疑問を持ったドワーフの青年の質問にダンテが答える。
「ああ、海上や海中を主戦場とする水精騎士団の人魚族以外、陸上を主戦場とする騎士団員全員に、最低限盾術は獲得してもらう」
「私からも補足しましょう。盾を使わない水精騎士団は別として、騎士とは護ってこその存在だと理解してください。各々の得意武器もあるでしょうけど、そこは納得してもらうしかないですね」
聖域の守護のために設立される騎士団なので、護る事を重要視しているとソフィアから説明されると、全員が納得して頷いた。
これはどの国であっても大差ない。
騎士とは護るものだ。
それと同時に、騎士団は集団戦闘が基本なので、大剣などの密集陣形に不向きな武器の習熟訓練は、個人的に自分の時間の中で行う事を説明され、全員が理解したようだ。
「レベル上げですが、最初に聖域近くの魔物の領域で、向上した自身の戦闘技術やスキルに慣れながら進めてもらいます」
精霊樹の浄化の力により、聖域の近くならそれほど危険な魔物は出没しなくなっているので、まずは小さな魔境で少しずつ身体を慣らしながらレベルアップを図るとソフィアが説明した。
「ある程度、お前達の実力がついたところで、死の森の浅い領域でのレベルアップに移ります」
「し、死の森!」
死の森と聞いて多くの者が顔を引きつらせる。
「心配いりません。死の森とは言っても浅い領域は、それほど危険な魔物も滅多に出てきません」
「滅多にという事は、たまには出没するのではないですか?」
一人の青年がソフィアの言葉の中で引っかかったワードについて確認すると、彼女は頷いた。
「勿論、浅い領域とはいえ死の森。イレギュラーな事態が起こる可能性は当然あります。ですが、死の森の深層まで踏破した事のある者が複数人でお前達をサポートするのです。まあ、滅多な事はないでしょう」
ソフィアが放った、死の森の深層まで踏破したという言葉に、その場の全員が驚愕の表情を浮かべる。
それほどまでに、この大陸の人間にとって死の森という魔境は、危険で死と同義とも言える場所だった。
「ソフィア様も死の森の深層まで踏破されたのですか?」
「ええ、深層は魔物のランクが高いのは当たり前なのですが、それよりもエンカウントする率が高いのが面倒でしたね。休む暇がないのが困りました」
「………………」
それを聞いて全員が絶句する。
その場にいるほとんどの者にとって、出没する魔物が高ランクで強力な事が最大の問題なのだ。にもかかわらず、ソフィアはその出没する頻度が高い事を面倒だと言う。
目の前にいるソフィアが、自分達と比べて遥かな高みに到達している事を改めて知らされたのだった。
9 デスマーチ?
聖域に設立された騎士団の団員にとって最初のパワーレベリングは、未開地の魔境でソフィアやダンテさんの引率で行われた。
ソフィアの従魔であるサンダーイーグルのグロームも助っ人として参加していたので、さほど危険はなかっただろう。
そして、未開地の魔境である程度のレベリングを終えた騎士候補達を、死の森へと連れてきた。
水精騎士団以外の三つの騎士団の団員……いや、団員見習いかな、彼らに五人でひと組のチームを組ませる。そのチームを僕――タクミ、ソフィア、マリア、マーニ、レーヴァ、アカネにルルちゃん、そしてカエデとゴーレムのタイタンが引率する。
さらにソフィアの従魔のグローム、アカネの従魔フェリル、レーヴァの従魔セルも索敵と団員見習い達の補助をしてくれる。
僕も五人組のグループを四隊二十人引き連れて、死の森の浅い領域を進んでいた。
「おっ、ちょうどいい。トレントが二体いるね。順番に防御の訓練をしようか」
「ぼ、防御の訓練でござるか?」
ござる口調のダン君が驚いて聞いてくる。
確かに魔物にワザと攻撃させて訓練なんて、普通はしないだろうけど、相手が普通のトレントなら、今の彼らにはちょうどいい訓練相手だ。
「ああ、トレントの攻撃範囲に侵入して、トレントの攻撃をしばらく捌く訓練だ。実戦で比較的安全に練習出来る」
「……ハハッ、スパルタでござるな」
「そう? 普通のトレントだからそんなに攻撃力もないし、何より素早く動き回らないから楽だよ。流石にエルダートレントならこうはいかないからね」
「エ、エルダートレントでござるか……」
「エルダートレントは別格だからね。単純にトレントの上位種なんて考えてたら大変な目に遭うよ」
「いや、そもそもエルダートレントは立ち向かってはいけない魔物でござるよ」
ダン君が呆れたように言った。
あれ? 皆んな引いてる?
確かに前に戦った時は僕も死ぬかと思ったけど、今みたいに二十人もいれば、エルダートレントでもなんとかなるんじゃないかな。
「怪我は僕が回復魔法で治すから、頑張って防御と回避の技術を磨いてくれ」
「「「「…………」」」」
「クッ! やってやるでござる!」
「拙者も負けんぞ!」
ダン君とマッド君が決死の形相でトレントに向かっていった。
そんなに悲愴感を纏いながら戦闘しなくても、怪我は直ぐに治すし、危険なら僕も手を出すから大丈夫なんだけどな。
それに、スキルの習得や熟練度の上昇には、実戦の方が効果的だ。
特に死線をくぐるような戦いの中ではその傾向が強い。これは僕の経験上間違いないと自信を持って言えるからね。
時々近づいてくる他の魔物を魔法で始末しながら、トレント相手の戦闘訓練を続ける。
彼らの使っている武器は、まだ街売りの武器なので、それほど良いモノじゃない。
街売りの武器がダメなわけじゃない。彼らが買えるレベルの武器なので、トレントを一振りで斬り倒せる武器ではないのだ。
そのお陰でトレント相手でも戦闘が長引き、とても良い訓練になっている。
僕やソフィア達がサポートしている事が前提だけど、実戦で比較的安全にこんな経験を積めるなんてラッキーだよね。
「よし! ダン君とマッド君は交代!」
「「りょ、了解です!」」
二人の疲労具合を見定めて、他のメンバーにスイッチさせる。
「待機しているメンバーもしっかり見ておくように。見る事も訓練だからね」
「「「「はい!」」」」
「いや、もう少し声を抑えてね。ここは浅い領域だけど一応大陸一の魔境だから」
本当は、他人の戦闘を観察して考察するだけじゃなく、周辺の警戒まで同時に出来るようになればいいんだけどね。
二体のトレントを相手に順番に経験を積み、だんだんと様になっていくダン君達。
「やったぞ!」
「こっちもでござる!」
やっと二体のトレントを倒せたみたいだ。
少し時間はかかったけど、合格点かな。
「じゃあ僕が収納したら、次を探そうか」
「「「「えっ‼」」」」
どうして皆んな、愕然とした表情で僕を見るんだろう。
まだ始まったばかりだから、次のトレントを探すに決まってるじゃないか。
都合のいい事に、死の森の浅い領域には多くのトレントが生息している。
探すのに困らないから、効率よく訓練出来てラッキーだね。
手早くトレントをアイテムボックスに収納し、次の獲物を探すために歩き出す。
「おっ、今度は三体だけど、皆んなもだいぶ慣れたから大丈夫だね」
死の森は、やっぱりトレントの密度が高くていい。直ぐに次が見つかった。
最初の戦闘で、ダン君達もスキルの熟練度やレベルが上がっているだろうから、さっきより楽になるだろう。
「さあ、アレとアレとアレが擬態したトレントだから。頑張っていこう」
「クソッ、やってやるでござる!」
「拙者も行くでござる!」
「某も!」
僕が擬態したトレントを指差すと、ダン君、マッド君、ビル君の三人組がトレントに突撃した。
うん、この調子だと、だんだんと討伐スピードも早くなるから、ボルトンで商会をやっているパペックさんのところにもトレント材を卸せるかな。
バーキラ王国やロマリア王国だけじゃなく、サマンドール王国や復興途中の旧シドニア神皇国でも木材需要は高いからなぁ。
10 魔大陸で訓練
大きな洞窟の入り口のような場所の前で、白銀ベースに赤い装飾、黄土色の装飾、黄緑色の装飾、他とはデザインが違うが青色の装飾を施した鎧に身を包んだ集団と、マント姿の一団が整列していた。
勿論聖域に設立された四つの騎士団と一つの魔法師団の団員だ。
ここは魔大陸にあるダンジョンの一つ。
ダンジョンとしての難度はほどほどだけど、中の構造がそれほど複雑ではなく広い。それに罠も単純で凶悪な物がないので、今の聖域騎士団にはちょうどいいと思って連れてきた。
死の森の浅い領域で、トレントを中心にレベル上げと技術の習得に励んでいた彼らだけど、ここからは段階を踏んで強化していこうと思っている。
装備は、鎧は勿論、武器も正式な騎士団や魔法師団の装備に変わっている。
今回、聖域騎士団と魔法師団の団員には、レンタルで収納の魔導具が支給されている。
スペースとしては二畳ほどの広さで、予備の武器や水や食料を入れておくためのものだ。
武器の変更が出来るのと出来ないのとでは、戦術の幅が違うからね。
整列する騎士団を感慨深く見ていると、ソフィアが近づいてきた。
「タクミ様、準備が整いました」
「タクミ、こっちも準備オーケーだ」
「了解です」
ソフィアの後から来たのは、短めの金髪に二メートル近い身長、鍛えあげられた肉体のベテラン冒険者で、パーティー「獅子の牙」のリーダー、ヒースさんだ。
ダンジョンアタックという事で、引率役が足りなくなったので「獅子の牙」のメンバーに急遽お願いしたんだ。
今回は、ソフィアの父親で僕の義父のダンテさんもパワーレベリングの対象だから、引率する人数が足りなかった。
真面目なヒースさんとボガさんなら、安心して団員を任せられる。普段軽いライルさんも戦闘となると雰囲気が変わるから大丈夫だろう。
ダンテさんがレベル上げする側なのは、騎士として戦う技術や経験はあっても、今までは意識してダンジョンや魔境でレベルを上げる機会がなかったからだ。
「じゃあ安全重視で、罠の感知にも慣れるように」
「「「はい!」」」
「では私も行ってきます。タクミ様もお気をつけて」
「ああ、ソフィアもね」
「「行ってきます、タクミ様」」
「マリアとマーニも怪我しないようにね」
前と同じく五人のチームに分かれてダンジョンアタックを開始する。
子供の世話をメイド達とフリージアさんに任せ、今回は僕達もフルメンバーで参加している。
それだけじゃ足りなくてヒースさん達に助っ人を頼んでいるんだけど、他にも助っ人をお願いしていた。
ダンジョンはどんなイレギュラーな事態があるか分からないからね。
「タクミ様ー! こっちの準備もオーケーです!」
「ああ、気をつけて頼むよ」
元気よく声をかけてきたのは、有翼人族の少女ベールクト。
彼女は、今や有翼人族の中でも一番の実力者となっていて、さらに僕が渡した装備もあり、魔大陸の拠点周辺での狩りでもダントツの討伐数を記録しているらしい。
まあベールクトは、僕達と何度もダンジョンに潜っているし、普段から仲間と連携しているので心配ないだろう。
「さて、僕達も行こうか」
「「「「「はい!」」」」」
僕も五人を連れてダンジョンへと向かう。
ヒースさん達やベールクトを助っ人にしても、流石に一度に全員は連れていけないので、半数はダンジョンの入り口付近にテントを設営した仮の拠点で待機している。
ここには指導と魔物が出没した時のサポートとして有翼人族の族長バルカンさんと、普段魔大陸の拠点付近で魔物を狩っている、有翼人族の戦士数人もいた。
「族長自ら大丈夫なんですか?」と聞いてみたんだけど「最近暇で困っていましたからな。ベールクトに便乗させてもらいました」と言って逆に張り切っていた。
彼らが住む天空島に生息する魔物は、今のバルカンさん達にとって既に雑魚でしかないらしく、族長としての仕事も兄のバルザックさんがいるため、自由な時間が多いらしい。
バルカンさんと有翼人族の戦士達には、ダンジョン付近での仮拠点設置と、周辺の魔物の討伐をお願いしてある。
魔大陸はダンジョンが多い。
例外はあれど、普通ダンジョンは魔境の中に出来るので、それだけここには魔境が多いという事だ。
当然、このダンジョンも魔境の中に存在するので、入り口付近で仮の拠点を設置する際には、周辺の魔物の討伐が必要になってくる。
僕が建設した魔大陸の拠点周辺で普段から狩りをしている有翼人族の戦士は、居残り組の指導にうってつけだった。
さて、とりあえず全員が高難度ダンジョンに潜れるようになるまで鍛えないと。
11 頑張れ候補生
二メートル近くの巨体から棍棒が振り下ろされる。
『ヴゥフゥゥゥゥーー‼』
ガンッ‼
「ブタ野郎の攻撃など某に通用せん!」
オークが振り下ろした棍棒を、ダン君が盾で上手く受け流すとオークの体勢が崩れた。そこにマッド君やビル君達が一斉に攻撃を加え、オークは断末魔の叫びを上げて倒れる。
「ほら、次が来てるよ。常に周りの状況を把握する!」
「「「「「はい!」」」」」
僕は、ダン君、ビル君、マッド君の三人組を含む五人を引き連れてダンジョンを進んでいた。
ダン君達は騎士団設立のきっかけとなった三人なので、最初からソフィアにしごかれていただけあり、この程度のダンジョンの浅い階層なら安心して見ていられる。
それに加え、今は騎士団の鎧や武器を装備しているのだから、この難度のダンジョンならよほど油断しない限り大怪我をする事はないだろう。
多少の怪我ならポーションを支給しているし、死ぬほどの思いをする事はあっても、実際に命の危険はないはずだ。
「おっ、次はオーガっぽい気配が二体だな。もう直ぐ右の通路から現れるから、先制攻撃してから突撃しようか」
「「「「「了解です」」」」」
ござる口調の三人組が、いつでも突撃出来る体勢を整える。
その後ろで弓を引き絞る二人。
やがて右側の通路からオーガの赤い肌が見えた。
シュ! シュ! シュ! シュ!
『グゥオォォォォーー‼』
それぞれに二射ずつ矢を射ると、二体のオーガの顔に矢が見事に突き刺さる。
痛みと怒りで咆哮するオーガに、ダン君達が駆け出し、収納の魔導具から取り出した槍に装備を変更した二人も後に続く。
「ウオォォォォ‼」
「クタバレェ!」
「フンッ‼」
『ガアァァァァーー‼』
オーガの方が可哀想になるくらいの蹂躙劇を少し離れた場所で見ながら、もう少し深い階層まで潜った方がいいかと考えていた。
これは僕が直接見ていないグループも含めてだろうけど、予想よりも若干成長スピードが速い気がする。
確かに、騎士団の団員が装備する鎧にしても武器にしても、僕やレーヴァ、ドガンボさんやゴランさんの手による一品だ。それのお陰で戦闘が有利になるのは分かるけど、成長スピードは別の問題だからね。
聖域の騎士団や魔法師団だからなんだろうな。
いわゆる大精霊の加護ってやつだ。
そんな事を考えていると戦闘が終了し、既に素材の剥ぎ取りも終了していたみたいだ。
「素材の回収完了しました!」
「ご苦労様。じゃあ、もう少し深い階層まで潜ってみようか。まだまだ余裕がありそうだからね」
「「「「「はい!」」」」」
その後も積極的に魔物を探知して討伐していく、いわゆるサーチアンドデストロイで深層を攻略した。
魔物の強さ的には不満は残るが、戦闘経験は濃密なものだったから良しとしよう。
ダン、マッド、ビルの三人だけでなく、騎士候補の若者達全員が、ワッパとの模擬戦で地面を這った。
そのワッパも、ソフィアに注意を受けていた。
「ワッパ、動きが雑ですよ。自分の身体能力に頼った戦いはやめなさい」
「ごめんよソフィア姉ちゃん。タクミ兄ちゃんに教えてもらった体術を忘れてたよ」
「自分よりも力の強い者、動きの速い者などに相対した時、技をもって立ち向かわないといけませんからね」
「うん、分かったよ」
そんなやり取りを呆然と見ていた騎士候補達の思いは複雑だっただろう。
ダン達三人が簡単に倒された事で、ワッパを侮る者はいなかったが、結局彼といい勝負に持ち込めた者は皆無だった。
そのワッパが注意を受けている状況を見て、少なからず心が折れかけていたものの、流石は大精霊が見込んでスカウトした者達。自分達ももっと強くなれるのだと前向きに訓練に向き合っていく。
その後、タクミ達によるパワーレベリングのお陰で、ワッパが並の冒険者には負けないほどの高レベルで、色々なスキルを習得している事をソフィアから知らされた騎士候補達は納得する。
それを聞いたマッドがソフィアに確認する。
「では拙者達もレベル上げを助けていただけるのですか?」
「ええ、騎馬となるバトルホースを含め、全員のレベルとスキルは上げてもらいます。まあ、そのための最低限のスキルを習得してからですが」
「バトルホースもでござるか?」
「ええ、バトルホースも魔物ですから、レベルアップとその先の進化を目指します。進化までは簡単には出来ないでしょうが、バトルホースの能力アップは、騎馬兵の戦闘力アップに直結しますから」
「な、なるほど……」
次にダンテが今後のスケジュールの説明を始める。
「これからお前達には、武術スキルを獲得してもらう。体術は勿論の事、剣術、盾術は全員必須だからな」
「俺達ドワーフもですか?」
人族、エルフ、獣人族、ドワーフと、様々な種族が混在する騎士団だが、ダンテは全員に剣術と盾術のスキル習得を義務付けた。
それに疑問を持ったドワーフの青年の質問にダンテが答える。
「ああ、海上や海中を主戦場とする水精騎士団の人魚族以外、陸上を主戦場とする騎士団員全員に、最低限盾術は獲得してもらう」
「私からも補足しましょう。盾を使わない水精騎士団は別として、騎士とは護ってこその存在だと理解してください。各々の得意武器もあるでしょうけど、そこは納得してもらうしかないですね」
聖域の守護のために設立される騎士団なので、護る事を重要視しているとソフィアから説明されると、全員が納得して頷いた。
これはどの国であっても大差ない。
騎士とは護るものだ。
それと同時に、騎士団は集団戦闘が基本なので、大剣などの密集陣形に不向きな武器の習熟訓練は、個人的に自分の時間の中で行う事を説明され、全員が理解したようだ。
「レベル上げですが、最初に聖域近くの魔物の領域で、向上した自身の戦闘技術やスキルに慣れながら進めてもらいます」
精霊樹の浄化の力により、聖域の近くならそれほど危険な魔物は出没しなくなっているので、まずは小さな魔境で少しずつ身体を慣らしながらレベルアップを図るとソフィアが説明した。
「ある程度、お前達の実力がついたところで、死の森の浅い領域でのレベルアップに移ります」
「し、死の森!」
死の森と聞いて多くの者が顔を引きつらせる。
「心配いりません。死の森とは言っても浅い領域は、それほど危険な魔物も滅多に出てきません」
「滅多にという事は、たまには出没するのではないですか?」
一人の青年がソフィアの言葉の中で引っかかったワードについて確認すると、彼女は頷いた。
「勿論、浅い領域とはいえ死の森。イレギュラーな事態が起こる可能性は当然あります。ですが、死の森の深層まで踏破した事のある者が複数人でお前達をサポートするのです。まあ、滅多な事はないでしょう」
ソフィアが放った、死の森の深層まで踏破したという言葉に、その場の全員が驚愕の表情を浮かべる。
それほどまでに、この大陸の人間にとって死の森という魔境は、危険で死と同義とも言える場所だった。
「ソフィア様も死の森の深層まで踏破されたのですか?」
「ええ、深層は魔物のランクが高いのは当たり前なのですが、それよりもエンカウントする率が高いのが面倒でしたね。休む暇がないのが困りました」
「………………」
それを聞いて全員が絶句する。
その場にいるほとんどの者にとって、出没する魔物が高ランクで強力な事が最大の問題なのだ。にもかかわらず、ソフィアはその出没する頻度が高い事を面倒だと言う。
目の前にいるソフィアが、自分達と比べて遥かな高みに到達している事を改めて知らされたのだった。
9 デスマーチ?
聖域に設立された騎士団の団員にとって最初のパワーレベリングは、未開地の魔境でソフィアやダンテさんの引率で行われた。
ソフィアの従魔であるサンダーイーグルのグロームも助っ人として参加していたので、さほど危険はなかっただろう。
そして、未開地の魔境である程度のレベリングを終えた騎士候補達を、死の森へと連れてきた。
水精騎士団以外の三つの騎士団の団員……いや、団員見習いかな、彼らに五人でひと組のチームを組ませる。そのチームを僕――タクミ、ソフィア、マリア、マーニ、レーヴァ、アカネにルルちゃん、そしてカエデとゴーレムのタイタンが引率する。
さらにソフィアの従魔のグローム、アカネの従魔フェリル、レーヴァの従魔セルも索敵と団員見習い達の補助をしてくれる。
僕も五人組のグループを四隊二十人引き連れて、死の森の浅い領域を進んでいた。
「おっ、ちょうどいい。トレントが二体いるね。順番に防御の訓練をしようか」
「ぼ、防御の訓練でござるか?」
ござる口調のダン君が驚いて聞いてくる。
確かに魔物にワザと攻撃させて訓練なんて、普通はしないだろうけど、相手が普通のトレントなら、今の彼らにはちょうどいい訓練相手だ。
「ああ、トレントの攻撃範囲に侵入して、トレントの攻撃をしばらく捌く訓練だ。実戦で比較的安全に練習出来る」
「……ハハッ、スパルタでござるな」
「そう? 普通のトレントだからそんなに攻撃力もないし、何より素早く動き回らないから楽だよ。流石にエルダートレントならこうはいかないからね」
「エ、エルダートレントでござるか……」
「エルダートレントは別格だからね。単純にトレントの上位種なんて考えてたら大変な目に遭うよ」
「いや、そもそもエルダートレントは立ち向かってはいけない魔物でござるよ」
ダン君が呆れたように言った。
あれ? 皆んな引いてる?
確かに前に戦った時は僕も死ぬかと思ったけど、今みたいに二十人もいれば、エルダートレントでもなんとかなるんじゃないかな。
「怪我は僕が回復魔法で治すから、頑張って防御と回避の技術を磨いてくれ」
「「「「…………」」」」
「クッ! やってやるでござる!」
「拙者も負けんぞ!」
ダン君とマッド君が決死の形相でトレントに向かっていった。
そんなに悲愴感を纏いながら戦闘しなくても、怪我は直ぐに治すし、危険なら僕も手を出すから大丈夫なんだけどな。
それに、スキルの習得や熟練度の上昇には、実戦の方が効果的だ。
特に死線をくぐるような戦いの中ではその傾向が強い。これは僕の経験上間違いないと自信を持って言えるからね。
時々近づいてくる他の魔物を魔法で始末しながら、トレント相手の戦闘訓練を続ける。
彼らの使っている武器は、まだ街売りの武器なので、それほど良いモノじゃない。
街売りの武器がダメなわけじゃない。彼らが買えるレベルの武器なので、トレントを一振りで斬り倒せる武器ではないのだ。
そのお陰でトレント相手でも戦闘が長引き、とても良い訓練になっている。
僕やソフィア達がサポートしている事が前提だけど、実戦で比較的安全にこんな経験を積めるなんてラッキーだよね。
「よし! ダン君とマッド君は交代!」
「「りょ、了解です!」」
二人の疲労具合を見定めて、他のメンバーにスイッチさせる。
「待機しているメンバーもしっかり見ておくように。見る事も訓練だからね」
「「「「はい!」」」」
「いや、もう少し声を抑えてね。ここは浅い領域だけど一応大陸一の魔境だから」
本当は、他人の戦闘を観察して考察するだけじゃなく、周辺の警戒まで同時に出来るようになればいいんだけどね。
二体のトレントを相手に順番に経験を積み、だんだんと様になっていくダン君達。
「やったぞ!」
「こっちもでござる!」
やっと二体のトレントを倒せたみたいだ。
少し時間はかかったけど、合格点かな。
「じゃあ僕が収納したら、次を探そうか」
「「「「えっ‼」」」」
どうして皆んな、愕然とした表情で僕を見るんだろう。
まだ始まったばかりだから、次のトレントを探すに決まってるじゃないか。
都合のいい事に、死の森の浅い領域には多くのトレントが生息している。
探すのに困らないから、効率よく訓練出来てラッキーだね。
手早くトレントをアイテムボックスに収納し、次の獲物を探すために歩き出す。
「おっ、今度は三体だけど、皆んなもだいぶ慣れたから大丈夫だね」
死の森は、やっぱりトレントの密度が高くていい。直ぐに次が見つかった。
最初の戦闘で、ダン君達もスキルの熟練度やレベルが上がっているだろうから、さっきより楽になるだろう。
「さあ、アレとアレとアレが擬態したトレントだから。頑張っていこう」
「クソッ、やってやるでござる!」
「拙者も行くでござる!」
「某も!」
僕が擬態したトレントを指差すと、ダン君、マッド君、ビル君の三人組がトレントに突撃した。
うん、この調子だと、だんだんと討伐スピードも早くなるから、ボルトンで商会をやっているパペックさんのところにもトレント材を卸せるかな。
バーキラ王国やロマリア王国だけじゃなく、サマンドール王国や復興途中の旧シドニア神皇国でも木材需要は高いからなぁ。
10 魔大陸で訓練
大きな洞窟の入り口のような場所の前で、白銀ベースに赤い装飾、黄土色の装飾、黄緑色の装飾、他とはデザインが違うが青色の装飾を施した鎧に身を包んだ集団と、マント姿の一団が整列していた。
勿論聖域に設立された四つの騎士団と一つの魔法師団の団員だ。
ここは魔大陸にあるダンジョンの一つ。
ダンジョンとしての難度はほどほどだけど、中の構造がそれほど複雑ではなく広い。それに罠も単純で凶悪な物がないので、今の聖域騎士団にはちょうどいいと思って連れてきた。
死の森の浅い領域で、トレントを中心にレベル上げと技術の習得に励んでいた彼らだけど、ここからは段階を踏んで強化していこうと思っている。
装備は、鎧は勿論、武器も正式な騎士団や魔法師団の装備に変わっている。
今回、聖域騎士団と魔法師団の団員には、レンタルで収納の魔導具が支給されている。
スペースとしては二畳ほどの広さで、予備の武器や水や食料を入れておくためのものだ。
武器の変更が出来るのと出来ないのとでは、戦術の幅が違うからね。
整列する騎士団を感慨深く見ていると、ソフィアが近づいてきた。
「タクミ様、準備が整いました」
「タクミ、こっちも準備オーケーだ」
「了解です」
ソフィアの後から来たのは、短めの金髪に二メートル近い身長、鍛えあげられた肉体のベテラン冒険者で、パーティー「獅子の牙」のリーダー、ヒースさんだ。
ダンジョンアタックという事で、引率役が足りなくなったので「獅子の牙」のメンバーに急遽お願いしたんだ。
今回は、ソフィアの父親で僕の義父のダンテさんもパワーレベリングの対象だから、引率する人数が足りなかった。
真面目なヒースさんとボガさんなら、安心して団員を任せられる。普段軽いライルさんも戦闘となると雰囲気が変わるから大丈夫だろう。
ダンテさんがレベル上げする側なのは、騎士として戦う技術や経験はあっても、今までは意識してダンジョンや魔境でレベルを上げる機会がなかったからだ。
「じゃあ安全重視で、罠の感知にも慣れるように」
「「「はい!」」」
「では私も行ってきます。タクミ様もお気をつけて」
「ああ、ソフィアもね」
「「行ってきます、タクミ様」」
「マリアとマーニも怪我しないようにね」
前と同じく五人のチームに分かれてダンジョンアタックを開始する。
子供の世話をメイド達とフリージアさんに任せ、今回は僕達もフルメンバーで参加している。
それだけじゃ足りなくてヒースさん達に助っ人を頼んでいるんだけど、他にも助っ人をお願いしていた。
ダンジョンはどんなイレギュラーな事態があるか分からないからね。
「タクミ様ー! こっちの準備もオーケーです!」
「ああ、気をつけて頼むよ」
元気よく声をかけてきたのは、有翼人族の少女ベールクト。
彼女は、今や有翼人族の中でも一番の実力者となっていて、さらに僕が渡した装備もあり、魔大陸の拠点周辺での狩りでもダントツの討伐数を記録しているらしい。
まあベールクトは、僕達と何度もダンジョンに潜っているし、普段から仲間と連携しているので心配ないだろう。
「さて、僕達も行こうか」
「「「「「はい!」」」」」
僕も五人を連れてダンジョンへと向かう。
ヒースさん達やベールクトを助っ人にしても、流石に一度に全員は連れていけないので、半数はダンジョンの入り口付近にテントを設営した仮の拠点で待機している。
ここには指導と魔物が出没した時のサポートとして有翼人族の族長バルカンさんと、普段魔大陸の拠点付近で魔物を狩っている、有翼人族の戦士数人もいた。
「族長自ら大丈夫なんですか?」と聞いてみたんだけど「最近暇で困っていましたからな。ベールクトに便乗させてもらいました」と言って逆に張り切っていた。
彼らが住む天空島に生息する魔物は、今のバルカンさん達にとって既に雑魚でしかないらしく、族長としての仕事も兄のバルザックさんがいるため、自由な時間が多いらしい。
バルカンさんと有翼人族の戦士達には、ダンジョン付近での仮拠点設置と、周辺の魔物の討伐をお願いしてある。
魔大陸はダンジョンが多い。
例外はあれど、普通ダンジョンは魔境の中に出来るので、それだけここには魔境が多いという事だ。
当然、このダンジョンも魔境の中に存在するので、入り口付近で仮の拠点を設置する際には、周辺の魔物の討伐が必要になってくる。
僕が建設した魔大陸の拠点周辺で普段から狩りをしている有翼人族の戦士は、居残り組の指導にうってつけだった。
さて、とりあえず全員が高難度ダンジョンに潜れるようになるまで鍛えないと。
11 頑張れ候補生
二メートル近くの巨体から棍棒が振り下ろされる。
『ヴゥフゥゥゥゥーー‼』
ガンッ‼
「ブタ野郎の攻撃など某に通用せん!」
オークが振り下ろした棍棒を、ダン君が盾で上手く受け流すとオークの体勢が崩れた。そこにマッド君やビル君達が一斉に攻撃を加え、オークは断末魔の叫びを上げて倒れる。
「ほら、次が来てるよ。常に周りの状況を把握する!」
「「「「「はい!」」」」」
僕は、ダン君、ビル君、マッド君の三人組を含む五人を引き連れてダンジョンを進んでいた。
ダン君達は騎士団設立のきっかけとなった三人なので、最初からソフィアにしごかれていただけあり、この程度のダンジョンの浅い階層なら安心して見ていられる。
それに加え、今は騎士団の鎧や武器を装備しているのだから、この難度のダンジョンならよほど油断しない限り大怪我をする事はないだろう。
多少の怪我ならポーションを支給しているし、死ぬほどの思いをする事はあっても、実際に命の危険はないはずだ。
「おっ、次はオーガっぽい気配が二体だな。もう直ぐ右の通路から現れるから、先制攻撃してから突撃しようか」
「「「「「了解です」」」」」
ござる口調の三人組が、いつでも突撃出来る体勢を整える。
その後ろで弓を引き絞る二人。
やがて右側の通路からオーガの赤い肌が見えた。
シュ! シュ! シュ! シュ!
『グゥオォォォォーー‼』
それぞれに二射ずつ矢を射ると、二体のオーガの顔に矢が見事に突き刺さる。
痛みと怒りで咆哮するオーガに、ダン君達が駆け出し、収納の魔導具から取り出した槍に装備を変更した二人も後に続く。
「ウオォォォォ‼」
「クタバレェ!」
「フンッ‼」
『ガアァァァァーー‼』
オーガの方が可哀想になるくらいの蹂躙劇を少し離れた場所で見ながら、もう少し深い階層まで潜った方がいいかと考えていた。
これは僕が直接見ていないグループも含めてだろうけど、予想よりも若干成長スピードが速い気がする。
確かに、騎士団の団員が装備する鎧にしても武器にしても、僕やレーヴァ、ドガンボさんやゴランさんの手による一品だ。それのお陰で戦闘が有利になるのは分かるけど、成長スピードは別の問題だからね。
聖域の騎士団や魔法師団だからなんだろうな。
いわゆる大精霊の加護ってやつだ。
そんな事を考えていると戦闘が終了し、既に素材の剥ぎ取りも終了していたみたいだ。
「素材の回収完了しました!」
「ご苦労様。じゃあ、もう少し深い階層まで潜ってみようか。まだまだ余裕がありそうだからね」
「「「「「はい!」」」」」
その後も積極的に魔物を探知して討伐していく、いわゆるサーチアンドデストロイで深層を攻略した。
魔物の強さ的には不満は残るが、戦闘経験は濃密なものだったから良しとしよう。
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