いずれ最強の錬金術師?

小狐丸

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6巻

6-3

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 僕は一息つくと、手の中のエールを魔法で冷やして喉を潤す。バーガードでは我慢してたけど、魔法が得意な人の多いアキュロスでなら目立たないから平気だ。
 アキュロスのお酒は他の都市国家に比べて安くて良い。特にエールは庶民のお酒という位置づけで、出来るだけ安く提供出来るようにしているみたい。
 ちなみに、この酒場にいるのは、サキュバス族、鬼人族、悪魔族など。少数の獣人族と、さらに少数だけど人族もいる。
 多様性のある街だからか、長くいても飽きない。

「さて、アキュロスの武具屋や道具屋とかはまだ見てなかったよね。回ってみようかな」

 酒場での情報交換を終えて僕がそう提案すると、ソフィアとマーニも興味津々みたいだった。

「この街は魔大陸の交易の中心地。市場調査をしても楽しそうです」
「そうですね。旦那様、私は魔大陸ならではの食材にも興味あります」
「じゃあ、ぶらりと行こうか」

 こうして僕達は酒場を出て、武具屋や道具屋や服屋を見たあと、食べ物を売る露店を見て回る事にしたのだった。


「武具は魔鋼まこう製が精いっぱいかな?」
「そうですね。サマンドール王国も、さすがにミスリルやアダマンタイトの武具は輸出していないのでしょう」

 店に並ぶ武具は、荒い使い方にも耐えられる頑丈そうな物が多かった。
 魔鋼製の物が主で、ミスリルやアダマンタイト製の武具は見かけない。輸出されていない以前に、そもそもミスリルやアダマンタイト製の武具ってあっちの大陸でも少ないからね。
 武具屋から服屋に向かおうとすると、ソフィアが顔を赤らめて首を横に振る。
 魔大陸の他の国も結構セクシーな服屋が多かったけど、ここはサキュバス族の女王が治める国だからか……前世のアダルトショップみたいだった。いや、僕はアダルトなお店なんか行った事ないんだけど。

「……この街の服屋には、私は入れません」
「獣人族の私も抵抗があります」

 元々露出度の高い服を着ているマーニが抵抗あるなんて、さすがはサキュバス! と思ってしまう。

「そう? セクシーでいいと思うけどな」

 ソフィアとマーニがサキュバス族の服を着ているのも見てみたいなと思いつつ、服屋を通りすぎる。
 様々な文化の入り混じった不思議な街並みを散策していると、ふとある事に気がついた。

「サキュバス以外の種族は男の人が多いね」
「旦那様、サキュバス族は女性のみの種族です。そのためアキュロスでは、他種族の男性が求められているのです」

 男性が求められているなんてすごい話だな。マーニに言われて改めて見渡してみると、確かに他種族の男性がかなりいる事に気づいた。
 ソフィアがさらに詳しく教えてくれる。

「タクミ様、サキュバス族はその昔、種を絶えさせないために他種族の男をさらってさえいたと聞きます」

 サキュバス族と他種族の男性の組み合わせだと、女の子はサキュバス族、男の子は父親側の種族で生まれるそうだ。でも、女の子ばかり生まれてしまい、アキュロスの人口における男性の割合は少なくて、なんと一夫多妻制を推奨しているらしい。
 ソフィア達の前では口が裂けても言えないけど……ザ・ハーレムだ、羨ましい。
 そんな事を考えながら歩いていたら、何者かが僕らを包囲しているのに気がついた。やばい、少し気を抜きすぎだった。
 ただ、敵意は感じない。完璧に気配を絶っているのかもしれないけど、たぶん大丈夫だろうと思う。
 さてどうしようかと考えていると、向こうから話しかけてきた。

「お待ちください。怪しい者ではございません」

 鬼人族の女性だ。
 僕らを囲んでいる人達を見ると、サキュバス族、鬼人族、悪魔族、獣人族と様々な種族が交じっている。鬼人族の女性とサキュバス族以外は男性の兵士だ。
 鬼人族の女性がさらに続ける。

「突然申し訳ございません。私はとある方に仕える者です。我が主人より、あなた方に依頼したい事があります」
「……どうして僕達に?」

 鬼人族の女性はどこか言いづらそうにしていたものの、ゆっくりと口を開いた。

「実は数日前に、あなた方と街ですれ違っています。我が主人は、あなた方が北からの商人でもこの大陸の者でもないと気がつき、出来れば一度お会いして話したいと申しております」
「……はあ」

 そういえばこの女の人、なんだか見覚えがある。
 たぶんこの前アキュロスに来た時、かなり強そうなサキュバス族のお姉さんと一緒に歩いていた人じゃないかな。
 ここは拒否しない方が良い気がするな。そう思った僕は、少し警戒しながら返答する。

「分かりました。案内してもらえますか」
しつけなお願いを聞いていただきありがとうございます。では、私が先導いたしますので」
「タクミ様」
「旦那様」

 不安そうにするソフィアとマーニを安心させるように、僕は声をかける。

「大丈夫だよ、二人とも。あの人達に敵意はなさそうだしね」

 僕達は、その鬼人族の女性についていく事にした。


 ◇


 鬼人族の女性と一緒に歩いていく。露店の並ぶ城壁付近から離れ、街の中心部へ向かっているみたいだった。
 僕はソフィアに聞いてみる。

「ねえ、ソフィア。これってどんどん栄えてる方に行ってるよね」
「そうですね」
「もしかすると、お城に向かっていたりするのかな?」
「間違いないと思います」

 今さらだけど、僕達はこの国に不法侵入している状態だ。
 お城へ向かってるという事は、これから会わせられる人がお偉いさんなのは確定なんだよな。コッソリと偵察していた手前、さすがに気まずいよ。
 案の定、王城が目の前に見えてきた。

「はぁ~、やっぱりか~」
「……ですね」

 道中、鬼人族の女性はリュカさんと名乗った。リュカさんが王城の門を顔パスで通り抜け、後に続く僕達もチェックされずに通される。

「こちらでお待ちください」
「……はい」

 リュカさんに案内されたのは、豪華な応接セットの置かれた部屋だった。すぐにサキュバス族と悪魔族の侍女がやって来て、お茶を淹れてもてなしてくれる。

「……メイド服にしては、露出が多いんだけど……」

 侍女達が着ているメイド服は、メイド喫茶なんて感じじゃなかった。僕がそれを見て目を輝かせていたのを、ソフィアとマーニに感づかれてしまう。

「タクミ様がお望みなら……」
「私も、旦那様がお好きな衣装を着る事に抵抗はありませんよ」

 また怒られるかと思ったら……
 二人の反応が前向きなので嬉しさのあまり飛び上がりたくなるけど、いやそんな事をしてる場合じゃない。ひとまず落ち着こうとお茶を一口飲んだ。
 その時、二つの気配が部屋に近づいてくるのを感じた。一つは鬼人族のリュカさんのだけど、もう一つの気配もなんとなく知っている。
 扉を開けて入ってきたのは、リュカさんとサキュバス族の女性だった。
 サキュバス族の女性は、街中ですれ違ったかなり強そうなお姉さんだと思う。雰囲気が違うのは、幻術を使っていたのだろう。あの存在感や魔力の波長は忘れようもない。
 僕達が立ち上がって迎えると、サキュバス族の女性とリュカさんが口にする。

「どうぞお座りください」
「失礼します」

 サキュバス族の年齢は僕じゃ分からないけど、見た目からすると二十代半ばだろうか。すごく美人なのは間違いない。
 サキュバス族の女性が慎ましげに言う。

「ワタクシはアキュロスの女王、フラールと申す者」
「タクミ・イルマと申します。彼女はソフィア、彼女がマーニです」

 そう言って僕がソフィアとマーニを紹介する。
 挨拶もそこそこに、フラールと名乗った女性が尋ねてくる。

「イルマ殿達は北の大陸から来られたのでしょう?」
「……はい。事情がありまして……魔大陸の調査をしています」
「サマンドールの船で来たわけでもなさそうね。調査するのは構いませんわ。イルマ殿は我らに敵意もなさそうですし。ところでイルマ殿に、一つ依頼したい事がありますの」
「依頼ですか?」

 フラール女王のメリハリのありすぎる肢体は目に毒だと思う。僕は必死に目を逸らしながら返事をした。
 それから僕は、ひと通り話を伺った。
 どうやら依頼というのは、僕達の調査とも無関係じゃなかったらしい。
 都市国家の王達も、最近になって魔物が増えたという認識を持っているとの事。そこで、悪魔王ガンドルフと獣王グズルとフラール女王の三人で会談を開き、情報の共有を行った。その集まりがソフィア達が街で聞いてきた話だったみたいだ。
 フラール女王が真剣な表情で言う。

「最近の魔物の増加には不自然さを感じるわ。だけど、我らには原因調査に人員を割く余裕がないのです。それぞれの国の周辺の調査くらいしか出来ず……」
「そ、それで僕ですか?」

 僕が少し怯えながら口を挟むと、フラール女王はこくりと頷く。

「ええ。新しいダンジョンが発生していた場合、さらに爆発的に魔物が増えてしまう危険性がありますわ。イルマ殿には、魔物の増加の原因を突き止めていただきたいの」

 この大陸にはダンジョンがそれなりにあり、六ヶ国それぞれが管理しているそうだ。
 魔物の素材などが採れるダンジョンは魔物を間引いたりして管理するものの、何も採れないダンジョンはコアを破壊して潰すという。
 ソフィアがひそひそ声で耳打ちしてくる。

「……やはり邪精霊と教皇が関係しているのかもしれませんね」
「各国の王達まで気づいてるんだから、ただ事じゃないよね」

 そこで僕は、色々迷ったんだけど、フラール女王にシドニア神皇国について伝える事にした。
 シドニア神皇国が関わっているというのは、まだ可能性に過ぎないんだけど、説明を聞いたフラール女王はほぼ確信しているようだ。
 フラール女王が特に食いついたのが、ヤマトについてだった。

「なんですって。人と魔物を混ぜて人工の魔人族を作ろうとしたとは……魔物と魔人族の区別も付いていないのか」
「あれはもう人ではなく、魔物そのものでした」

 その後、もろもろの状況について説明すると、フラール女王なりに納得したようだった。彼女は自信を持ったように言う。

「ではイルマ殿にとっても、たびの依頼は渡りにふね。しかもイルマ殿達の実力は、ワタクシ達よりもはるかに高いとご推察しますわ。この大陸の異変を調査するにはうってつけと言えます」
「……元々調査するためにこの大陸へ来ていますから、フラール女王陛下からのご依頼に否やはありません」

 僕の返答に、フラール女王は首を横に振る。

「イルマ殿、ワタクシにかしこまった口調は必要ありませんわ。国とも言えない程度の街の責任者だと思ってくださいませ」
「いえ、さすがにそれは」

 僕が謙遜しようとしたら、フラール女王は少しだけ強い口調になった。

「これがこの大陸の流儀りゅうぎですの」
「……はあ」

 ともかく出来る限りの協力を約束してくれた。おかげでこそこそ街に潜入しなくて良くなったんだけど……ちょっとおおごとになってきたな。
 後日、さらに調査の進め方について話し合うという約束をし、僕達は拠点へ戻った。



 6 魔物の国


 拠点に戻った僕を迎えてくれたのは、アカネとルルちゃんだった。

「話が分かる女王で良かったわね」
「アカネさま、お茶をどうぞですニャ」
「あら、ありがとう、ルル」

 ルルちゃんは僕にお茶をくれないで、アカネにあげるんだね……それはさておき、僕は拠点で留守番をしてくれていたみんなに尋ねる。

「ところで、みんなはどうしてたの?」
「レーヴァはボルトンでポーション作りであります。パペック商会には納品済みなのであります」
「ありがとう、レーヴァ」

 レーヴァの勤勉さにはいつも頭が下がるね。
 続いて、マリアとカエデが口を開く。

「私はカエデちゃんと拠点周辺の魔物討伐をしてました。ねー、カエデちゃん」
「うん、マスター、魔物いっぱいやっつけたよ!」

 すると、アカネが口を挟む。

「あっ、私とルルも時々一緒に行ってたわよ」
「はい、レベルも上がったですニャ」
「頑張ったね、ルルちゃん」
「ちょっと、私も一緒って言ったわよね」
「あ、ああ、アカネも頑張ったんだね。えっと、お疲れ様」

 ルルちゃんだけ褒めたら、アカネが頬を膨らませて拗ねてしまった。慌ててなだめると、それを見たカエデも褒めて褒めてと僕に突撃してくる。
 ちなみにこの場には、聖域から連れてきた従魔達がいる。
 ソフィアの従魔でサンダーイーグルのグローム、アカネの従魔でルナウルフのフェリル、レーヴァの従魔で巨大な山猫型魔物セルヴァルのセルだ。

「クルゥ」
「ウォン」
「ガゥ」

 グロームはソフィアのもとへ飛んでいくと、彼女が差しだした腕に止まった。ソフィアが目尻を下げて話しかける。

「良い子にしてましたか? グローム」
「クルゥ」

 アカネがフェリルをモフりつつ、ソフィアに向かって胸を張る。

「大丈夫よ、私のフェリルと一緒に魔物の討伐を頑張ってたわ」
「レーヴァのセルちゃんも頑張ってたであります」
「ギニャアァ」

 レーヴァの言葉に、セルもそうだと言わんばかりに顔を上げる。
 アカネとレーヴァは留守番の間、テイムした眷属けんぞく達を鍛えてもいたらしい。

「魔大陸は、この子達のレベル上げにちょうど良かったわ」
「なるほどね。でも、フェリルはシャドウウルフのボスなんだから、ずっとこっちにいたら問題あるんじゃない?」
「大丈夫よ。サブのボスを置いてきたから」
「そ、そう? まあ、大丈夫ならいいんだけど。あ、そうだ、どうせならフェリルの広い探索能力を借りようかな……」

 僕が迂闊にもそんな事を言ってしまったら、アカネとソフィアが前のめりで反応する。

「任せておいて。フェリルにかかれば、邪精霊の居場所なんてすぐよ」
「タクミ様、グロームの方が上空からの探索範囲は広いと思います」
「そんな事ないわよ」

 なぜか二人は、自分の従魔自慢合戦を始めてしまい……レーヴァまで参戦して収拾がつかなくなってきた。
 僕が呆れていると、マリアが声をかけてくる。

「タクミ様、お風呂にします?」
「うん、そうしようかな」
「マスター、カエデも、カエデも」
「では、私もご一緒します」
「ルルも行くニャ」

 カエデ、マーニ、ルルちゃんもついてきた。

「じゃあ、行こうか」

 こうしてアカネ達三人を除いた僕らは、ぞろぞろとお風呂へ向かった。アカネ達は眷属自慢合戦が白熱して気づきもしないみたい。
 拠点にも、聖域やボルトンの屋敷に負けないくらい大きなお風呂を作ってある。全員で入っても余裕があるほどのサイズなのだ。
 この後、お風呂から上がってきた僕達を見て、ソフィアが激しく落ち込んでいた。

「私は護衛失格です」

 いや、そこまでの事じゃないと思うよ。


 ◆


 魔大陸にある魔境の一つ、深い森の中に、不気味な大聖堂が立っていた。
 そこが、シドニア神皇国の残党がたどり着いた終着点である。彼らはその地を「新生シドニア神皇国」としていた。
 しかしそこに人間はいない。かつてシドニアの民だった神官達は、すでに人の範疇はんちゅうを超えた異形いぎょうの存在となっている。
 大聖堂はダンジョンの入り口でしかない。ダンジョンはその外見以上に、深く広く成長し続けていた……


 大聖堂の最奥さいおうの一室で、テーブルを囲む人影があった。
 いや、正確にははいない。
 そこにいたのは、シドニア神皇国の教皇ワルバール、筆頭魔術師のホメロス、シドニア聖騎士団団長パッカード、宰相のムスダン、そして皇女エリザベスである。

「……ヤマトの犠牲は無駄ではなかったな」

 ワルバールの呟きに、ホメロスやパッカード達が頷く。
 彼らはすでに人ではなくなっていた。
 ここに集まった者の中で以前と変わらぬ姿なのは、皇女エリザベスだけ。肌の色が赤くなった者、青くなった者、角が生えた者……彼らはもはや人の姿ではない。すでにその見た目は魔物のくくりに入り、心臓の近くには魔石ませきが出来ていた。
 ホメロスが、ワルバールに報告する。

「人と魔物を同化させた兵の統制には、まだしばらくかかると思われます」
「ふむ、同化させたのは知能の低い魔物だからの。研究を進めよ」
「はっ、かしこまりました」

 続いて、パッカードが告げる。

「アキラの調整は順調であります」
「うむ、壊すでないぞ」
御意ぎょい

 ムスダンがうつろな目をして言う。

「陛下、ダンジョンは階層の深さ、広さともにまだまだです。現在、やっと五階層に成長しました」
にえを増やして成長を促せ」
「かしこまりました」

 最後にエリザベスが、ワルバールに話しかける。

「お父様。私達の態勢が整わないうちは、このダンジョンから森へ魔物を溢れさせるのをやめるべきですわ。すでに何ヶ国かが、魔物の不自然な増加を調査しているので」
「ふむ……ちょうどいい。そやつらも贄に使えるだろう。しかし、まだこの場所を見つけられるわけにはいかんからな。魔物の増加は抑制しておくか。おい、ムスダン」
「では、そのように」

 こうして魔大陸の誰一人気づかない間に、シドニアによるダンジョンの国――新生シドニア神皇国が生みだされた。



 7 拠点への招待


 急な話なんだけど、フラール女王の側近のリュカさんを拠点に招く事になった。
 フラール女王とは、魔大陸の調査の仕方を詰めようと話し合っていて、それをさっそく行う事になったのだ。ちなみにこの交流の場所には、アキュロスと拠点を交互に使う。


 そして約束の当日。
 リュカさんと護衛の兵士達が拠点近くまで来ている気配を感知した。僕達は拠点を囲む森で魔物を討伐しながら出迎える。
 ちょうど森を抜けた所で出会えたリュカさんは、口をあんぐりと開けて呆然としていた。

「なっ、高位の魔物を使役しているのですか!?」

 リュカさんの見つめる先にいたのは、森の魔物を派手に討伐する獣魔達である。
 サンダーイーグルのグロームが雷を落とし、ルナウルフのフェリルが巨体に似合わぬ素早さで駆け抜け、セルヴァルのセルが爪を振るっている。おまけに、僕の従魔でドラゴンホースのツバキまで参戦していた。
 恐怖に顔を強張こわばらせるリュカさんにトドメを刺したのは、音もなく姿を現したカエデだった。

「ア、ア、アラクネ……」

 リュカさんは泡を噴いて倒れてしまった。彼女の周囲で護衛していた兵士達も同じように泡を噴いている。

「あっ! リュカさん! 大丈夫ですか!」

 僕はリュカさん達を助け起こして、拠点の中へ転移で連れていった。そしてベッドに寝かせて介抱する。
 一方、カエデはというと――

「赤い角のお姉ちゃん、どうしたのかな? 病気かな?」

 何で驚かれたのか分からないみたいで、不思議そうに首を傾げていたんだけどね。


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