いずれ最強の錬金術師?

小狐丸

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6巻

6-1

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  ◇


 僕タクミは、ついにシドニア神皇国と激突した。
 シドニア神皇国は僕やアカネを勇者召喚に巻き込んだ国で、僕らにとっては因縁いんねんの敵みたいな存在だ。
 そのシドニア神皇国を、バーキラ王国やロマリア王国など各国の協力もあって、ようやく追いつめる事が出来たんだけど……あと一歩というところで取り逃がしてしまった。
 シドニア神皇国は、皇都を異界化いかいかさせたり日本人勇者のヤマトをバケモノ化させたり、とんでもない手を使ってきたんだ。
 それで奴らの残党が逃げ着いたのが、はるか南方にある謎の大陸。


 ――魔大陸またいりく


 さっそく僕らは巨大高速飛行艇ひくうてい「ウラノス」を完成させ、その地へ向かった。そして拠点を作り、現地の調査を始めてみた。
 でも獣人族や魔人族ばかりが暮らすというこの魔大陸は、僕が思ってた以上に大変な場所みたいで……



 1 獣王じゅうおうの国


 魔物が跳梁跋扈ちょうりょうばっこする魔大陸。
 大陸中央部から南にかけて、けわしい岩山が連なっている。そうした山々の山頂はたいらで、いわゆるテーブルマウンテンといった感じの山がいくつも並んでいた。
 そんな岩山の一つの頂上に、街が作られている。
 普通の人が暮らすには過酷な環境だろうが、この街に住むほとんどの人達は問題にしていない。というのも、住民全員が身体能力の高い獣人族で、さらに戦闘に特化した種族が多いから。
 この街の名は、アトロポリス。
 獣人じゅうじんの王に治められ、国民の大半を戦士が占める。少人口ながら高い戦力を有する、魔大陸ならではの都市国家である。


 ◇


 僕、エルフ族のソフィア、兎人族うさぎじんぞくのマーニは、三人でアトロポリスに潜入していた。
 街中では獣人族以外の種族は目立ってしまうので、僕とソフィアは外套がいとうのフードをぶかに被っている。
 マーニにも一応フードを被ってもらった。彼女は獣人族なのでこそこそする必要はないんだけど、兎人族にはちょっと厄介な事情がある。兎人族は戦闘に向かないので娼婦しょうふや踊り子になるしかなく、昼間の街中ではほとんど見かけないのだ。
 ちなみに通りを歩く獣人は、見るからに獣っぽい者が多い。
 マーニ、狐人族きつねじんぞくのレーヴァ、猫人族ねこじんぞくのルルちゃんのように、身体の一部にしか獣の特徴が表れないタイプは珍しいようだ。


 その後、僕達は昼間からにぎわう酒場に潜り込んだ。
 フードを被った明らかに怪しい僕らに、酒場の人達が見向きもしないでいてくれるのは、外套の認識阻害が利いているため。
 そんなふうに情報収集する事で、アトロポリスについての色々な情報を得られた。
 この都市国家を治めている王は、第十三代獣王じゅうおうのライバー。彼は獅子人族ししじんぞくで、その戦闘力は歴代でも上位に入るとの事。
 なお、この国の王の選出の仕方は特殊で、血筋ではなく純粋な強さ、つまり戦闘力で決まるのだという。
 なんてのうきんな国なんだ……
 とか驚いていると、ソフィアが窓の外に目をやりながら話しかけてくる。

「しかし、すごい場所にある国ですね」
「そうだね、僕達は問題なかったけど、あの岩山を登ってここまでたどり着くのは、普通無理だと思うよ」

 僕の言葉に反応して、マーニがひそりと言う。

「旦那様、獣人族すべてが高い身体能力を持つわけではありません。獣人族でも戦士クラスでなければ、ここへは来られないでしょう」

 会話していてもやはり認識阻害の外套と隠密おんみつスキルが相乗効果を発揮しているおかげで、僕達を怪しむ者達はいない。
 ふいにすぐ側のテーブルから、興味深い話が聞こえてきた。

「それにしても、最近魔物が多い気がするんだよ」
「魔物なんて昔から多いじゃねえか。ここは魔大陸だぞ」
「いや、違うんだよ。この前狩りに行ったらよ、普段の三倍の獲物を狩れたんだ」
「なんだなんだぁ? 自慢か?」
ちげぇよ。それで俺達は死にかけたんだぜ」

 酒を飲みながら話していたのは、犬人族いぬじんぞくと猫人族の男達だ。どうやら最近、魔物が増えてしまうような異変が起こっているらしい。
 これだけじゃ断言出来ないけど、僕は何となく、シドニア神皇国が関わっている気がしていた。奴らは瘴気しょうきを撒き散らすから、それによって魔物が増えてしまったのかもしれないかなと。

「魔大陸の魔物が増えたのには、邪精霊じゃせいれいが関わっているのでしょうか?」

 ソフィアも僕と同じ事を考えたのだろう。シドニア神皇国が信奉しんぽうする神光教しんこうきょう、その女神であるアナトをかたる存在の影響を指摘してきた。

「どうだろうね。シルフやセレネーの力で見つけられれば良かったんだけど」

 そう、実はすでに聖域の大精霊には協力してもらっていた。
 しかし、それでも邪精霊の居場所は特定出来なかった。
 ウィンディーネの話では、邪精霊は身を隠す能力が高いらしい。シドニア神皇国の皇都に発生したダンジョンみたいな所に隠れられると、発見は不可能だという。異界化したダンジョンは、大精霊といえど外からでは探れないのだ。

「まあ、魔物が増えた理由は置いておくにしても、シドニア神皇国の残党は各地に痕跡を残してるはずなんだよね。奴らの居場所を突き止めるには、地道にいろんな国を調査しないと……だね」
「そうですね。ちなみに、獣人族が治める国だけでも、あと二つあるみたいです」

 ソフィアの言う通り、魔大陸には獣人族の国が三つある。


 獅子人族の獣王ライバーが治めるこの都市、アトロポリス。
 熊人族くまじんぞくの獣王が治める都市、バーガード。
 虎人族とらじんぞくの獣王が治める都市、レーブンスタン。


 獣人族の国であるこれら三つに加えて、さらに魔人族の治める国が三つ、合計六つの城塞都市がこの大陸には存在しているという。
 ソフィアがため息をつきながら続ける。

「この大陸には冒険者ギルドがないですから、情報を集めるのに苦労しますね」
「そうだね。それに残念だけど、ここにも奴隷はいたね」
「犯罪奴隷や借金奴隷が存在するのは、どこでも一緒なのですね」

 便利な冒険者ギルドはないくせに、奴隷という嫌な文化は魔大陸でもしっかり存在していた。
 とはいえ、魔大陸の奴隷事情はそれほど酷くはないらしい。
 犯罪に手を染めて奴隷に落ちてしまう犯罪奴隷、借金のために奴隷になってしまう借金奴隷はいる。しかし、お金を得るために奴隷狩りをする者はいないし、奴隷に落ちた者の扱いもそれほど悪くないとの事だった。


 それから酒場を出た僕達は、市場や武具屋を見て回る事にした。
 ざっと見た感じだけど、この国では鍛冶師かじしのレベルがあまり高くないようだ。剣、おのやり棍棒こんぼう、どの武器も作りが大雑把おおざっぱな印象を受ける。
 一部には質の高い武具があったけど……

「魔大陸で作られた物じゃない武具があるね。サマンドール王国からの輸入品なのかな」
「随分割高ですね。魔大陸側はアキュロスが窓口なんでしたっけ」

 ソフィアの言ったアキュロスとは、魔人族の国だ。
 魔大陸にある都市国家で、唯一港を持っている。僕達が暮らしている大陸にある、サマンドール王国と交易をしているのだ。
 魔大陸が輸入しているのは、武具と小麦。輸出しているのは、香辛料と魔物から採れた素材など。
 胡椒こしょうをはじめとする香辛料は、魔大陸からの交易品として高い需要があるらしい。あと、コーヒー豆も人気だとサマンドール王国で聞いた。
 ただ、この交易はサマンドール王国にとってかなりリスクがある。海の魔物から船を守りながらの命がけの航海となるのだ。当然ながら、輸入品の値段は跳ね上がる。
 値段が高くなってしまうのは魔大陸側も同じで、今いるアトロポリスでも小麦は目が飛び出るほど高価だった。
 僕は市場を歩きながら口にする。

「香辛料は聖域でも作られているけど、魔大陸のは風味も違いそうだし、たくさん買って帰りたいね」
「そうですね。ですが、まずはアキュロスで両替する必要がありますよ」
「あっ、それがあったね」

 ソフィアに言われて気がついたんだけど、僕らはまだ両替を済ませてなかった。
 魔大陸の玄関口の役割を果たすアキュロスでは、二大陸間のお金を良いレートで両替出来る。先にアキュロスへ行った方が良かったかもと、少しだけ後悔した。



 2 魔人族の国


 アトロポリスで情報収集した翌日。
 僕達は魔大陸の北端にある、アキュロスに潜入した。
 アキュロスを治めるのは、サキュバス族のフラール女王。アキュロス内の酒場で聞いた噂によると、魔法の扱いにけ、国内には善政を敷くという、優秀な女王みたいだ。
 実力主義のアトロポリスと違って、アキュロスの王は世襲制となっている。フラールは八代目に当たりまだ若い国のようだけど……魔人族は寿命が長い。アキュロスの建国は、アトロポリスよりはるか昔にさかのぼるらしい。


 僕がアキュロスの街を歩いていると、ソフィアとマーニからお叱りを受けた。

「タクミ様、見すぎです」
「そうです、旦那様。鼻の下が伸びてます」
「えっと、あの、ごめんなさい」

 大陸自体が南にあるという事もあって、魔大陸はとにかく暑い。
 だからなのか、男女問わず衣服の露出度が高かった。
 アトロポリスで見かけた獣人族もミニスカートにチューブトップがデフォルトだったしすごかったけど、アキュロスの魔人族はもっと扇情的せんじょうてき。極端に面積の少ない、下着のような格好で歩く女性までいた。
 魔人族の中でもサキュバスは刺激的で、種族の特徴なのかもしれないけど、けしからんスタイルの女性ばかりで目のやり場に困った。
 エッチなアニメやマンガから飛びだしてきたのかと思うくらいだ。

「獣人族は軽装を好みますから、ああいった格好になるのでしょうね。魔人族を見るのは初めてですが……あれ、服の意味あるんですかね」
「……は、ははっ、そうだね」

 マーニの話に相槌あいづちを打ちながら、僕は視線を彷徨さまよわせるけど……
 ダ、ダメだ。どうしても見てしまう。
 ソフィアとマーニに気づかれないようにしているつもりでもバレバレだ。僕が本能と戦っていると、ソフィアがちょうど話を変えてくれた。

「……それにしても、アトロポリスの獣人族もでしたが、魔大陸は強者ばかりですね」
「そ、そうかも。一般の人でこうなんだから、兵士や騎士はもっと強いんだろうね」

 街行く人を見ながら楽しそうにしているソフィアに向かって、僕は返答する。
 僕は基本的に、他人に対して鑑定スキルを使わない。のぞき見しているようで嫌というのもあるんだけど、経験による勘で鑑定せずとも大体の強さは分かるようになってきたのだ。
 ソフィアが言った通り、一般人の戦闘力ですら驚くほど高い。
 今もサキュバス族の女性が目の前を通り過ぎていったけど……鑑定を用いるまでもなくその強さが分かった。
 いや、もし鑑定を使っていたら、気づかれてトラブルになっていたかもしれないな。

(魔大陸ってハンパないな。あんなに綺麗でエッチなお姉さんなのに、メチャメチャ強そうだ)


 そんな事を考えつつ、お姉さんの背中を目で追っていると。

「タクミ様、移動しましょう」
「う、うん」

 なぜか不機嫌なソフィアに引っ張られてしまった。
 その後、ソフィアとマーニに左右から両腕を持たれた僕は、引きずられるようにして探索を続けるのだった。


 ◆


「フラール様、どうされました?」

 鬼人族きじんぞくの女が、前を歩くサキュバス族の女に話しかける。鬼人族は種族の特徴として筋肉質で肌が赤く、ひたいに二本の角を生やしている。

「……いいえ、なんでもないわ」

 サキュバス族の女は悩ましげな表情をし、少し間を置いて答えた。
 抜けるような白い肌、メリハリのあるバツグンのスタイル。サキュバス族の女はそのなまめかしい肢体に、極端に面積の少ない衣装をまとっていた。
 彼女こそが、アキュロス最強の戦士にしてこの国を治める女王、フラールその人である。
 フラールは、おしのびで街の視察に来ていた。
 幻術を使っているため、誰も女王だと気づかない。そんな視察の最中、フラールはに遭遇したのである。

(我が国に害なす者なら、ワタクシの命にかけても止めなければね……)

 フラールは少し前、不自然に気配が希薄な存在を発見していた。
 いや、偶然気がついたというのが本音だった。しかし認識してしまうと、その異様さに背筋が冷たくなった。

(あれほどの強者がいるなんて)

 ステータスを見通す能力を持つ、フラールの魔眼まがんは呆気なく弾かれた。それは、相手がフラールよりもはるかに上位であると示している。
 これまでフラールはどんなに強大な魔物であろうと、おくさず先頭に立って戦ってきた。そんな彼女が恐怖を覚えるほどの存在である。
 鬼人族の女が、考え込んだまま動こうとしないフラールに声をかける。

「フラール様?」
「あ、ああ。少し考え事をしていただけよ。ごめんなさいね、リュカ」
「いえ、では次の区画に参りましょう」

 鬼人族の女――リュカに促されたフラールは、その場でもう一度周囲の気配を探る。だが、正体不明の存在はかすみのように消えていた。
 フラールは首を横に振り、諦めたように歩きだす。
 その存在が、どうかアキュロスにあだなす者でありませんように、と願いながら――


 ◇


「おかえりなさい」
「ただいま」

 調査を終えた僕達を出迎えてくれたのは、メイドとして僕の身の回りの世話をしてくれているマリアだ。マリアは僕が築いた拠点で留守番してくれていた。

「アカネとかは聖域かな?」
「はい! ここだとやる事がないみたいで」

 拠点の地下室には、聖域に転移出来るゲートを作ってある。拠点は安全ではあるんだけど、アカネには退屈すぎたみたいだ。
 マリアがにこにこしながら続ける。

「確か今日は、ミーミル様に本を借りるって言ってましたよ」
「拠点にも暇つぶし出来るものが必要かな」

 アラクネのカエデは魔物を狩るのが好きなので、時間があれば狩ってるけど……アカネやルルちゃんはここじゃやる事もないもんな。


 それからしばらく待っていると、エルフの王女様のミーミルのもとに行っていたというアカネ達が戻ってきた。
 テーブルを囲み、僕達が集めてきた情報をアカネ達にも聞いてもらう。

「……といった感じで、アトロポリスは想像通り、獣人族らしい国だったよ」
「脳筋の国ね」
「……うん、まあ、簡単に言うとそうだよね」

 アカネの言い方はひどいけど……まあ否定は出来ないか。
 さらにアカネの毒舌は続く。

「一番の強者が国王になるなんて、どこの戦闘民族なのよ」
「戦闘民族という意味では、アキュロスもそんな感じだったよ」

 そう言って僕は、アカネに魔人族の国の様子も教えてあげた。

「街を歩いていた時、すごく強そうなサキュバスの女性とすれ違ったんだ。あんなレベルの人が普通に街中にいるなんて……」

 そう、アキュロスはアキュロスですごかったのだ。
 サキュバスのお姉さんも強そうだったけど、一緒にいた鬼人族の女性もなかなかだった。たぶん、ルルちゃんと同じくらいなんじゃないかな。ルルちゃんはこの前のパワーレベリングでレベル60超えになったはずだから……つまりバーキラ王国の騎士団なんかよりも強い。
 サキュバスのお姉さんの方は、幻影と認識阻害の魔法を使っていたからか、正確には分からなかった。それでも僕が魔大陸で遭遇した者の中でずば抜けて強いのは間違いなかった。

「すれ違う人すべて、戦闘力が高かったですね」
「アトロポリスもアキュロスも人口は少ないですけど、魔物に抗う力を持った国のようでした」

 ソフィアとマーニの感想を聞いて、アカネは呆れたような表情を浮かべた。そして、僕に向かって口を開く。

「……まあ、それもそうか。ほとんど魔境みたいな土地で暮らしてるんだもん、戦闘民族になるのも当然よね。それはさておき、何か邪精霊に繋がる情報はあったの?」
「邪精霊が関係しているか分からないけど、アトロポリスでもアキュロスでも、最近、魔物の数が増えているっていう話が聞かれたんだ。魔大陸だからそういうものなのかな、とも思っていたんだけど……」

 続いてソフィアが言う。

「魔物が増えたという話は、私も気になっていました。ですが、まだデータが少なすぎます。残りの国も調査した方が良いと思います」
「だね。他の国の状況も知りたいし、各国に潜入しながら、魔物の増加が本当なのかも探ってみようか」

 僕とソフィアが頷き合っていると、なぜかアカネが沈痛な面持ちで呟く。

「……私は、アキラを元に戻す方法を調べてみるわ」

 シドニア神皇国の残党達とともに姿を消した、日本人の少年アキラ。彼はアカネの同級生だった。アキラは罪のない人々を虐殺ぎゃくさつし、正気を失って暴走した。アカネは必ずしも彼と仲が良かったわけではない。だけどそれでも、救ってあげたいのだろう。
 アキラと聞いてふと思い出したんだけど、魔大陸に来て気づいた事がある。
 シドニア神皇国が、魔物になって死んだヤマトにどんな改造を施していたのか、何となく分かった気がするのだ。
 おそらくシドニア神皇国は、高い魔力と身体能力を併せ持つ、魔人族を作りだそうとしていたんじゃないかと思う。それで、魔人族は魔物の血を引いた者という認識を持っていた彼らは、ヤマトの肉体に魔物を混ぜたのではないか。
 でも、魔物と魔人族には繋がりはない。魔人族の一種である悪魔族とデーモン系の魔物には何の関係もないし、同じく魔人族の一種である鬼人族とオーガにも血の繋がりはないのだ。
 僕達の大陸の者は、魔大陸の魔人族についてほとんど知らない。だから、魔物を祖先に持つ種族が魔人族だと誤解してしまっているのだと思う。
 その後、色々話し合った結果、引き続き魔大陸の国々を調べる事に決まった。
 ちなみに、拠点に残るカエデとレーヴァ達には、魔物の調査を兼ねた狩りをお願いしておいた。



 3 国を巡る


 魔大陸には六つの都市国家がある。
 僕達がすでに訪れているのは、獅子人族のライバー王が治めるアトロポリス、サキュバス族のフラール女王が治めるアキュロスの二つ。
 残る四つの都市国家は、熊人族のグズル王が治めるバーガード、虎人族のディーガ王が治めるレーブンスタン、悪魔族のガンドルフ王が治めるロドス、鬼人族のジャイール王の治めるシュミハザール。


 僕らは、情報収集するため、アトロポリスの酒場を再び訪れた。集められたのは、残る四つの都市国家の王についての情報だった。
 バーガードを治める熊人族の獣王グズルは、3メートルを超える巨体のきょうじんな戦士。しかし気性は穏やかで、賢王けんおうと呼ばれているらしい。その王の人柄のおかげなのか分からないが、バーガードは獣人族の国にもかかわらず、人族やドワーフ族が暮らしている。そういう国は珍しく、バーガードの他では、サマンドール王国と交易しているアキュロスぐらいだという。
 グズルとは対照的に、レーブンスタンを治める虎人族の獣王ディーガは、気性が荒く、好戦的。他国との関係はあまり良くない。国民の大半は虎人族と狼人族おおかみじんぞくで、戦士向きの獣人族ばかりのようだ。
 悪魔族のガンドルフ王、鬼人族のジャイール王については大して集まらなかった。
 ちなみに、ガンドルフ王のロドス、ジャイール王のシュミハザールは、それぞれその種族だけの国らしい。とはいえ細々と他国と交易で繋がっており、他種族の商人や護衛の戦士も一定数住んでいるようだ。


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