いずれ最強の錬金術師?

小狐丸

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3巻

3-3

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 ボルトン辺境伯とその隣の領を治めるロックフォード伯爵が、これとは別の開拓事業が失敗した事で難民となってしまった人々を保護しており、新たに未開地の開拓をさせようと思っているとの事だった。
 ボルトン辺境伯が神妙な面持ちで言う。

「彼らには三年は税金を免除すると告げてある。ただ一度開拓村を潰しているからな、そのまま任せるわけにはいかん。そこで、イルマ殿に助けてもらいたいのだ」

 聞けば、彼らの開拓村が失敗したのは、馬鹿な貴族が重税をかけたかららしい。

「彼らのためにも、出来れば村と言わずもっとしっかりしたものを造ってくれると助かる」

 トリアリア王国には、ユグル王国へ侵攻したという前科がある。
 今回の開拓は、そんなトリアリア王国に対して防備を固める意味もある、とボルトン辺境伯は付け加えた。

「それとこれは国家事業だからな、陛下から予算を付けてもらっている。開拓民の移動や護衛はこちらに任せてくれ」

 ここまで決まっているのに、僕が断れるわけがない。
 実際やるとしたらボルトンから通いで作業をしようと思う。今のツバキならボルトンと開拓地の距離なんて楽勝だし。そうそう、実はアースドラゴン戦の後、ツバキはレベルが上限に達して存在進化したのだ。
 その進化した種族というのは、ドラゴンホース。
 鱗の色が深くなり、その強度が上がった。能力値は全体的に上昇し、ドラゴンのように炎のブレスを吐けるようになっている。
 改めて僕は、ボルトン辺境伯に尋ねる。

「これって村の開拓っていうより、造りたいのは最前線のとりでですよね」
「おっ、さすがにわかるか。あの位置に我が国が砦を築けば、国防が強化されるからな」

 防壁が造られ、水路や井戸がある程度完成した頃に、開拓民を移送する予定らしい。ボルトン辺境伯が思い出したように付け加える。

「あっ、出来れば、下水道と浄化槽も設置してくれ」
「は、はあ。ところで、村の規模はどの程度になるんですか?」
「将来的には、兵士を二千人常駐させたい」
「いや、村じゃないですよ、それ」

 要望がどんどん付け加えられてるし、兵士だけで二千人なら開拓民と兵士の家族を含めたら立派な街だ。

「まぁそれは将来的な話だ。頭に入れておいてくれ」
「……じゃあ街道工事も予算に入れておいてください」

 頼み事が大雑把おおざっぱなくせに大掛かりなものばかりなので、僕からも要望を出しておく事にした。道を整備しておかないと不便だもんね。
 すると、ボルトン辺境伯は嬉しそうに言う。

「おっ、街道工事まで引き受けてくれるのか! よし、ボルトン辺境伯家からも予算を出そう。上手くいけば、ロマリア王国へ街道も通さなければならないからな」

 何だか、話がますます大きくなってる気がするんだけど。
 ちなみに、開拓予定地からロマリア王国国境までは直線距離で300キロもある。ボルトン、開拓予定地、ロマリア王国、それらが街道で繋がるのは、経済・軍事的意味合いから見て、その効果は相当大きいようだ。
 ボルトン辺境伯がニヤけながら呟く。

「陛下にお願いして、ロマリア王国へ話をつけてもらわねばな」

 う、やっぱり、話が大きくなりすぎてる気がする。


 ◇


 ボルトン辺境伯の城から戻った僕は、みんなに今日の話を伝えた。
 すると、ソフィアが申し訳なさそうに言う。

「作業は土属性魔法で行う事になりそうですね。という事は、中心となって働くのはタクミ様とマリア。私も土属性の精霊と契約していれば、お手伝い出来たのですが……」
「ソフィア、レーヴァ、カエデ、タイタンにも大事な役目があって、作業をする僕とマリアを護衛してもらいたいんだ」
『マスター、ワタシモ、ツチヤイシヲアヤツレル』

 力強くそう言ってくれたのはタイタン。そういえば、元々ストーンゴーレムだったタイタンは、土などを自由に変形させたり固めたり出来るのだ。
 また、ソフィアも土精霊と契約すれば土を操れるらしい。適性のない精霊との契約は魔力効率が悪いので、これまでやってなかったみたいなんだけど、レベルの上がった今のソフィアなら、魔力効率が悪くても問題ないかもね。
 それから僕達は、食料の調達など準備を進める事にした。
 ソフィアとマリアで買い出しに行ってもらい、僕とレーヴァは必要な材料の書き出し、そして設計図作りに精を出す。
 そんな感じで下準備が済んだところで、ついに村造りに乗り出すのだった。



 5 千里の道も一歩から


 本格的に村を造る前に、まずは街道から造ってしまおう。
 僕が街道で使う大量の石材を確保している間、ソフィアとマリアには基礎工事をやってもらう事にした。ちなみに、二人の護衛はタイタンとレーヴァ。僕の護衛はカエデが務めてくれた。
 僕が石材を集める事、二日。その間に、ソフィアとマリアの頑張りで、街道の基礎は半分まで完成した。
 石材集めから戻ってきた僕は、二人に労いの言葉をかける。

「おお、随分進んだね。頑張ったじゃない」
「はい。私が新たに契約した土属性の精霊魔法で大まかに地形を整え、マリアが細かな作業をしてくれました」
「タクミ様、頑張りました!」
「凄いよ、マリア。レーヴァとタイタンも護衛ご苦労様」

 僕が合流してからは、作業速度がグンッと速くなった。
 そんなわけで、その翌日にはボルトンの街から続く全長100キロの立派な街道が出来上がった。
 大型の馬車がすれ違えるほど道幅があり、石畳の厚さは20センチ。その表面は、滑りにくいように処理してある。
 続いて僕らは、そのまま開拓予定地に向かう。
 初めて訪れたそこは、ボルトン辺境伯に事前に説明されていた通りの場所だった。小さな丘があり、その周りには雑木林ぞうきばやし。近くを川が流れていた。

「確かに川も泉もあるね」
「環境だけ見れば、開拓村に絶好の場所……なんでしょうけど」

 ソフィアが言葉を濁したのには理由がある。索敵すると、ボルトン周辺の倍以上の魔物が棲息しているのがわかったのだ。
 僕はため息を吐いて言う。

「この辺りは魔物が多くないって話だったんだけど……それで、コレなんだよな」
「さすがに、どの国も手を出せないわけですね」

 それから僕達は休憩を挟んで、一気に作業に取りかかる事にした。
 僕は土属性魔法を使い、街の周りを囲む城壁を造り出す。


 ゴゴゴゴゴォォォォーー!!


 突如として、高さ15メートル、厚さ3・5メートルの壁が現れた。
 さらにその外側に、深さ5メートル、幅10メートルの堀を造っていく。土は硬い石に変化させ、錬金術の『硬化こうか』をかけて、より頑強な城壁へと地道に仕上げていった。
 僕がマナポーションで魔力の補給をしながら城壁造りに没頭している間、マリアは内部の街道造りをしてくれる。
 ドラゴンホースに進化したツバキは、そんな僕らをしっかり護衛してくれた。近寄ってくる魔物を、カエデと一緒になって狩っている。
 一方タイタンは、川の水を引く水路をコツコツと造ってくれた。


 それから十日後。
 東西2キロ、南北3キロの巨大城壁がようやく完成した。側防塔そくぼうとうを一辺に二ヶ所ずつ建てたり、城門を造ったりするのに、さらに三日かかってしまった。
 この時点でもはや開拓村じゃない……と思ったけど、砦として利用するみたいだし、それなら最初からその規模で造った方が無駄がないよね。
 ちなみに、東西に対して南北に1キロほど伸ばしたのは、南側に伸ばしたそこを農地にするため。
 城壁を造り終えた僕は、続いて水回りの作業に入る事にした。
 マリアと協力して、下水道と浄化槽の建造、井戸の掘削くっさく、城壁内への水の引き入れ、農水路造りなどをこなしていった。
 続いて、レーヴァに浄化槽への魔導具設置を頼んでおき、僕は井戸に手押しポンプを取り付けていく。
 それが済むと、外壁内の小さな丘を囲うように城壁を造り、その丘の上に城を建てた。
 ようやくこの都市の全容が見えてきた。
 ここまで造れば、もう完成も間近だろう。そう思った僕は、ソフィアにボルトンへお使いに行ってもらう事にした。

「ソフィア、ボルトン辺境伯に開拓民の移送をお願いしてきてくれる?」
「わかりました」

 ソフィアはツバキに乗り、カエデを護衛にしてボルトンへ向かった。
 その間に僕は石材を使って住居を建てていく。開拓民用の住居造りを終えると、駐屯ちゅうとんする兵士用の兵舎を建てていった。
 最後の仕上げとして、僕が建てた住居に、レーヴァが浄化魔導具付き便器を取り付けていった。


 ◇


 開拓民達がこの地に着いたのは、僕が農地を土属性魔法で耕している時だった。
 ちなみに農地の土は、刈り取った草と、魔物の内臓を錬金術で発酵させたものを混ぜて込んで作っている。
 堀の跳ね橋を渡って城壁の中に入ってきた開拓民達は、目の前に広がる光景を見て、大きく口を開けて呆然ぼうぜんとしていた。

「「「「「…………」」」」」

 開拓民の護衛として同行していた、ボルトン辺境伯領騎士団長ドルンさんが、僕に説明を求めてくる。

「……こ、これはどういう事ですか! イルマ殿!」

 僕は焦るドルンさんを落ち着かせ、まずは外の城壁について話す。

「魔物の襲撃に備えて、城壁で囲み堀を張り巡らせました。これで、ドラゴンの襲来でもなければ大丈夫だと思います」

 続いて城壁内部について。

「街の区画整理をして、政務をつかさる人達のために城を建設しておきました。開拓民の皆さんの住居と駐屯する兵士用の兵舎も建設してあります。そして最後に、つい先ほど農地が一応完成したところです。まぁ土は僕の専門じゃないので後はお任せします。あっ、それと、この街は下水道や下水の浄化槽も設置済みですし、各住居には浄化の魔導具付きトイレを設置してあります」

 ドルンさんが慌てて言う。

「いや、いや、いや、待ってくれイルマ殿! この城塞都市を、この短期間で、この人数で造り上げたのか!?」
「いえ、まだまだ未完成ですよ。建物は最小限のものしか建てていませんし、他にも手を加えたい場所は多いんです。さすがに時間が足りなくて……」

 マナポーションを飲みながらの作業になったし、僕達にも限界がある。
 レベルが上がって魔力量も増えたけど、一つの街を造るのに一ヶ月はさすがに無理だったしね。そういえば、ストレス発散にローテーションで魔物の討伐に出掛けたりしたんだよね。そのせいもあって、余計に時間が足りなかった。
 ドルンさんがさらに前のめりになる。

「いや、それはおかしい! 我らは開拓民と一緒に、街の建設資材や職人も連れてきているのだ! それが着いた時点で、ボルトンにも匹敵する街が出来ているなんて我らが驚愕きょうがくするのも仕方あるまい。いや、この辺境にあって、バーキラ王国一の城塞都市であるボルトンよりも堅固な街が出来ているとは……」

 どうやらやりすぎてしまったようだ。
 でも、今さら縮小する事も出来ないからそのままで良いよね。
 いつまでもザワザワとしている開拓民の皆さんを落ち着かせるため、住居を見てくるように案内しておく。それからドルンさんに声をかける。

「ドルンさん、城を案内します」
「……頼む」

 ドルンさんも考えるのを放棄してくれたみたい。
 僕はソフィア達に開拓民の皆さんの案内を任せ、ドルンさんと一部の騎士達と一緒に城に向かうのだった。



 6 ボルトンの南に、城塞都市が出現


 夢でも見ているのか?
 ボルトン辺境伯家の騎士団長であるわし、ドルンが開拓民達を引き連れてボルトンの南門を出た瞬間、最初の驚きがあった。
 儂の目の前に、まっすぐ南に延びる立派な街道が出来ていたのだ。大型の馬車が行き違えるほどの広い道幅に、段差なく詰められた石畳。
 実際にその上を走ってみると、馬車の揺れが小さかった。
 100キロの道程は、魔馬まばといえど一日ではたどり着かない。そう考えて儂達は、二日の日程を予定していたのだが……
 まだ陽が高いうちに、現地に到着してしまった。
 さらに、開拓村予定地が見えてきて驚きがあった。

「……何だあれは」

 一瞬、儂らの目がおかしくなったのかと疑ってしまった。
 それはそうだろう。そこにあったのは、ボルトンにも負けないくらい高い城壁に護られた、巨大な城塞都市だったのだから。
 その城壁が近づくにつれ、儂らの驚きは大きくなっていく。
 高い城壁の周りには、水堀が張り巡らされていた。川から水路を引いているようだが、その水路は地下に造っているのだろうか、地上からは見つける事は出来なかった。
 北門に当たる場所には、跳ね橋がかかっている。そこから街へ入ると、綺麗に区画整理された大通り、ならされた土地が見えた。さらには、小さな丘の上に城壁に囲まれた立派な城が建っている。
 もう、何度目の驚愕なのかわからない。
 丘の上の城は気品すら感じさせた。その造形が美しいだけでなく、護りもしっかりとしており、堅固な様子がうかがえる。

「あっ、ドルン騎士団長殿」
「おお、これはシルフィード殿、イルマ殿は何処に?」
「タクミ様は農地の造成中だったと思います」

 ソフィア・シルフィード殿に案内されてやってきた儂達が見たのは――見事な農地だった。

「「「「「…………」」」」」
「……こ、これはどういう事ですか! イルマ殿!」

 イルマ殿を見つけた儂は、慌てて声をかける。
 見せてもらった農地は、用水路が張り巡らされており、完璧に整備されていた。
 儂も驚いていたが、開拓民達の反応はそれ以上だった。
 一度、開拓事業に失敗している彼らには後がなかった。相応の覚悟を持って来ていたはずだったが、現地に着いてみれば、住居は完成しているし、しかも浄化の魔導具付きトイレまで設置されている。農地はすぐにでも種蒔きが出来そうな状態だ。

「……農地が出来てる」
「ああ、土がフカフカだぞ」
「用水路の水も綺麗よ」

 開拓民達は農地の土を触ったり、水路の水を手ですくったりしながら、すぐに現実が受け止められない様子だった。
 子供達は、割り当てられた住居に大喜びしていた。
 それはそうだ。これまでの住居など、ボロ小屋と呼んでもいい出来だったのだ。それが、石造りの立派な住居が割り当てられたのだから、喜ばないわけがない。
 ここに集められた開拓民達は、愚かな貴族の無策のせいで全ての財産を失った者達だ。潰されたのは、一つの村だけではない。三つの村が廃村に追い込まれ、彼らは集められたのだ。
 三つの開拓村を潰した領主にはいきどおりを感じるが、我が主人、ボルトン辺境伯ゴドウィン様のように、じんれいしんを兼ね備えた貴族はまれだろう。
 寄せ集められた開拓民は、我が主人とロックフォード伯爵によって借金奴隷に落とされるところを救われた。エルフこそいないが種族も様々で、人族から獣人族、ドワーフ、少数の魔族までいる。
 開拓村という性質上、基本的には夫婦や家族が多いのだが、寡婦かふも少数いる。その者達の処遇は、イルマ殿と相談せねばなるまい。
 兵舎に案内された兵士達は、その建物の立派さに驚いていた。
 イルマ殿が彼らに声をかける。

「兵士の皆さんの住居はこの後も増築する予定ですが、とりあえず千人分の住居があれば良いかと思いまして」

 兵舎は、二~四人が相部屋で生活出来るようになっており、三階建ての大きな建物が建っていた。隊長クラスのために個室もいくつか造られているという気の使いようだ。
 シルフィード殿が儂に耳打ちしてくる。

「ドルン団長、ボルトンの城よりも立派じゃないですか?」
「ああ、間違いなくこの城の方が堅固だろうな。しかも、街の住民が避難して籠城ろうじょう出来るようになっている」

 丘の上に建てられた城は、その城壁や城の造りの随所に工夫がなされ、造形も美しいものだった。内装や調度品までは手が回っていないようだったが、それは当然の事だろう。これは早急にゴドウィン様に報告しなくてはならんな。
 この街の代官を派遣してもらうにしろ、男爵程度では荷が勝ちすぎるであろう。せめて子爵クラスでなければ。
 まさか、開拓村が上手く行きすぎて、逆に頭を悩ませる事になるとは……なんと贅沢な悩みだろう。



 7 くさびの街


 ボルトンの街から開拓民を護衛していたドルン騎士団長が、開拓地から戻ってきた。彼は早速、ボルトン辺境伯に報告をするために城へと上がる。
 報告書を受け取ったゴドウィンが、ドルンに確認を取る。

「ドルン、この報告書に書いてある事は、本当なのか?」

 ゴドウィンが疑うのも当然の事だろう。
 ドルンはその目で見たからこそ信じられるが、その報告書には、読んでハイそうですか、とはいかないような事が書かれていた。 
 ドルンがかしこまって告げる。

「街の規模としてはボルトンよりは小さいですが、それでも城塞都市としては大きな部類に入ります。何より高い城壁と堀が張り巡らされたあの街の防御力は、ボルトンのそれを超えるでしょう」

 本来城塞都市は壁で取り囲む必要があるため、それほど大きな規模で造れるものではない。しかし、それは地球での話であって魔法があるミルドガルドでは事情が違う。土属性魔法で城壁を建設出来るため、ボルトンのような人口が多い大きな街が存在する。
 だとしても、僅か一月足らずで強固な城塞都市がほぼ完成するというのは、非常識もはなはだしかった。
 ボルトン辺境伯家の家宰かさい、セルヴスがゴドウィンに言う。

「旦那様、これは一度視察に向かう必要があるかと」
「……我が目で見んと始まらんか」

 ゴドウィンは頷くと、ドルンに向き直った。

「で、ドルンよ。仮に攻めるとしたら、どれだけの兵が必要だと思う」
「……駐屯する兵士が予定通り二千人ともなれば、二万人で攻めても崩す事は厳しいでしょうな」

 ドルンは、城壁には『硬化』と『魔法耐性』が付与されているとタクミより説明を受けていた。そのため、二万人というのは通常では考えられない計算だが、それほどおかしなものではない。

「十倍以上の兵で攻めないと無理か」
雑兵ぞうひょうを集めたような軍隊なら、何も出来ずに敗れる事になるでしょう。イルマ殿は数万の魔物が襲いかかっても耐え切れる街をイメージしているようですから」

 ゴドウィンは一瞬だけ沈黙すると、ゆっくりと口を開いた。

「楔になりえるか……」
「はい、十分に楔たりえるでしょう」

 元々、あの場所に開拓村を築いたのは、トリアリア王国へ睨みを利かせるため。
 タクミが過剰に張り切った結果、バーキラ王国の王ロボスが考え、ゴドウィンに任されていたこの地に楔を打つという計画は、十年も前倒して進める事が出来てしまった。
 ゴドウィンがドルンに告げる。

「王都からも視察を出してもらった方が良いだろうな」
「でしょうな。あの街を起点に、他の未開地を領有出来る可能性も出てきましたから。トリアリア王国があの街を攻めるには、ロマリア王国を通るか、魔物が跳梁跋扈ちょうりょうばっこする未開地を通らねばなりません。しかしそれは、トリアリア王国といえど、五十年前のユグル王国への侵攻でりているでしょう」

 五十年前、トリアリア王国はユグル王国に侵攻した。
 トリアリア王国はその際、未開地を行軍するという作戦を採ったが、それが仇となった。兵の一割以上を損耗してしまったのだ。そのせいもあって、トリアリア王国は敗戦に近い結果へと追い込まれたのである。

「これで、トリアリアも迂闊に動けんだろう」

 ただこの楔が、トリアリア王国の野望を止めるのか、それとも暴発へのきっかけとなるのかは、誰にもわからないのだった。

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