いずれ最強の錬金術師?

小狐丸

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3巻

3-2

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 それからさらに進んで、森林タイプの階層を歩いていた時、カエデが声をかけてきた。

「マスター! 宝箱見つけたー!」

 倒木に隠されるように配置されていたのは、銀色に輝く宝箱だった。
 宝箱……だからといって迂闊うかつには開けない。さすがの僕も、何かあるって事くらいは学習するさ。

「……罠があるよね」
「……おそらくは」

 慎重に調べてから開けよう。当然、その役割を担うのは僕だ。
 直感スキルをフル回転させ、アイテムボックスから取り出した小さな鉄のかたまりを鍵穴に入れ、錬金術で鍵の形に変形させていくんだけど、なかなか大変な作業だ。
 強引にならないよう慎重に慎重に……精神を集中させて正解の鍵の形を探る。
 ガチャ!

「ふぅ~、成功したみたいだね」
「お疲れ様です」
「マスター! 早く開けよう!」

 ソフィアが僕をねぎらい、ひたいに浮かんだ汗を拭いてくれた。カエデは宝箱の中身が気になるようで、ぴょんぴょん跳ねて早く開けようとかす。

「じゃあ開けるね。一応、みんなは少し離れていてね」

 宝箱を開けた途端、毒ガスが吹き出すかもしれないしね。僕なら毒耐性があるからなんとかなるけど、他のみんなはそうはいかない。
 宝箱に手をかけ、ゆっくりと開けていく。

「……一応、アタリなんだよね」
「そうですね。私達以外の方にとっては大アタリでしょうね」
「あー、ポーションですかー! タクミ様の作れるグレードですね、コレ」

 中に入っていたのは、ヒールポーションとマナポーションだった。
 質も良く回復量もかなりのものだったので、他の冒険者なら諸手もろてを挙げて喜んだだろう。自分達で使わなくても、ギルドに売れば高額で買い取ってくれるだろうし。
 ……でも、このグレードのポーションなら、僕でも作れるんだよなぁ。
 若干の徒労感を覚えながらも、僕達は先を急いだ。それからしばらくは何事もなく順調に進んでいたが――

「タイタン! ストップ!!」

 罠に慣れてきたのか、僕の直感スキルに何かが引っかかった。
 違和感のある場所へ土属性魔法を放つと、魔法に触れた地面が崩れて落ちてしまった。

「危なかった。全員落ちるところだったね」

 僕が胸をなで下ろしながらそう言うと、ソフィアが困ったように話す。

「罠の解除が出来ないので、事前に罠がある事がわかっても、無理やり作動させてしまうか、迂回するしか方法がないんですよね」
「でもこの穴どうします? 戻って迂回するルートってありましたっけ?」

 マリアが穴を覗きながら言った。

「いや、飛び越えよう」

 5メートル程度の幅だから僕達なら大丈夫だ。念のため、カエデの糸を命綱いのちづなにしてジャンプして渡る。タイタンは背中の魔力ジェット推進器を噴かして低空飛行していた。
 さっき決めたんだけど、今回のダンジョンアタックは、地下二十階層までにしておく事になった。それ以上に深い階層になると、この様子じゃ罠が凶悪になってくると予想される。罠の専門家がいない今の僕達には、無理だと判断したのだ。
 誰だ、このダンジョンは罠の種類が少なく、致死性の高い罠はないって言ったのは!
 でも、僕の運が悪いだけなのだろうか?


 それは、地下十八階層を探索していた時だった。
 タイタンでも余裕があるほど広い通路と小部屋が組み合わされた、オーソドックスなダンジョンの階層だったんだけど……

「下への階段が見つからないな」

 この階層の地図までは用意してなかったので、自分達でマッピングしながら隅々まで探索する。

「どう見ても行き止まりだね」

 それから何時間も探索したにもかかわらず、行き止まりにぶち当たったままだった。

「隠し扉でもあるのかなぁ」

 マリアがそう呟きながら壁を触っていると――
 カチッ。
 何かのスイッチが押された音がした。

「へっ!?」

 ゴゴゴゴゴォォォォーー!!
 壁面がスライドして現れたのは、体育館ほどの大きな部屋である。

「ははっ、マリアお手柄だね」
「でも、中には何もありませんよ」

 マリアが言うように、見つかった隠し部屋の中には階段どころか魔物もいなかった。ガラーンとした部屋がただ広がっているだけだ。
 罠対策にタイタンを先頭にして部屋の中へ入っていき、部屋の中央辺りまで行く。
 すると、地面に巨大な魔法陣が浮き上がり、光り始めた。
 嫌な予感がした僕は咄嗟に叫んだ。

「た、退避ーー!」

 慌てて入り口へ向かって走るが、入り口に岩の壁が音を立てて現れ、ガシッと閉まる。
 ゴゴゴゴゴォォォォ!!
 これで僕達は完全に閉じ込められてしまった。
 この展開……何となく次に起こる事が想像出来る。

「戦闘準備! タイタンは先頭! 僕は右! ソフィアは左! マリアはレーヴァをカバーして! カエデは好きに暴れていい!」

 僕が叫び終えたと同時に、部屋の中央で光っていた魔法陣から魔物が溢れ出した。

「モンスターハウスだ!」

 ゴブリン、オーク、コボルト、オーガ、トロール、殺傷能力が高い蟷螂かまきりの魔物であるキラーマンティスや、凶悪な蛇の魔物タイラントバイパーなどなど。
 上位種も含めて、大量の魔物が次々と湧き出してくる。

「狐火乱れ撃ち!」

 ドガガガガァァァァーーン!!
 レーヴァの撃ち出した大量の火の玉がばら撒かれる。

「風の精霊よ、お願い。我らにあだなすモノを切り刻め!」

 続いてソフィアの精霊魔法が発動し、風の刃が魔物の密集地点で暴れ回り、多くの魔物を葬っていく。
 ガァァァァン!!
 さらに、タイタンが巨大な大盾で繰り出すシールドバッシュが、魔物をまとめて叩き潰す。
 僕とソフィアは、それぞれ氷槍ひょうそう氷魔槍アイスブリンガー】と風槍ふうそう暴風槍テンペスト】を持ち、片っ端から魔物を斃していった。
 そんな僕とソフィアの脇を抜けて、後衛にいたレーヴァに向かおうとする魔物が……突然バラバラになって地面に落ちる。
 カエデの糸だ。
 糸をたくみに操り、鉤爪で突き刺す。そうやって攻撃しながら立体的な動きを見せるカエデを、止められる魔物はいない。
 僕は、アイスブリンガーをアイテムボックスに収納すると、腰から剣を抜いた。剣と、錬金術を併用した体術で戦う事にしたのだ。
 タイタンと並んだ僕は、そのまま魔物の中へ飛び込み暴れ回る。
 僕の斜め後ろでは、ロングソードとラウンドシールドの装備に持ち替えたソフィアが、僕をサポートするように戦ってくれた。
 レーヴァは連戦の影響で魔力の残量が少なくなってしまったらしい。エルダートレントの芯材をミスリル合金で補強した杖を取り出して戦い始めた。

「しつこいであります! いい加減に沈むであります!」

 ゴンッ!
 既にボロボロになっていた魔物に、レーヴァが杖でトドメを刺していく。レーヴァの一撃でオークの頭が破裂し、オークは膝から崩れ落ちた。
 ちょうどその時、魔物を排出し続けていた魔法陣が光を失った。
 僕はみんなを鼓舞こぶするように叫ぶ。

「あとは残った魔物を斃せば終わる! みんな頑張れぇ!」

 僕は魔法を放ち、剣で斬り裂き、体術と錬金術を合わせた『分解』を駆使して、残敵ざんてきの掃討をしていった。


 戦闘を開始してから、どれくらいの時間が経っただろう。
 大きな部屋の中は、魔物の死体で溢れ返っていた。
 最後の一体、レッドオーガを、タイタンがアダマンタイト合金のメイスで叩き潰し、ようやくモンスターハウスは終わりを告げた。

「お、終わったぁ~」

 さすがに疲れた僕は、その場にへたり込んでしまった。周りを見渡すと、ソフィア、マリア、レーヴァも座り込んでいる。それでも、みんな怪我はなさそうだ。

「うーん、いっぱいいたねー!」

 一人元気なカエデが、魔物が落としたアイテムを拾い集めている。どうしてあんなに体力があるんだよ。
 少し休んでから、僕達もドロップアイテムの回収を手伝う。
 しばらくすると、魔物の死体は光の粒となって消え、ドロップアイテムを残した。死体で溢れていた部屋の中は、いつの間にか血の跡すら綺麗になくなっていた。
 そのまま下の階層に進む気力も体力もなかったので、今日はここで食事をとり、野営する事にした。


 それからさらに階層を下った僕達の前に現れたのは――
 30センチはある巨大な牙で襲いかかってくる、サーベルトゥースドレイク。全長5メートル近い、巨大な蜥蜴とかげだ。名前にドレイクとあるが、竜種ではない。
 ガキィ! アダマンタイト合金製の大盾でタイタンがサーベルトゥースドレイクを受け止めると、その頭にメイスを振り下ろす。
 ボクッ!!
 ザシュ!
 タイタンの攻撃に合わせて、カエデが糸でサーベルトゥースドレイクの尻尾を切り飛ばした。

『ギヤァァァァァァーー!!』
「今だ!」

 ザシュ!! タイタンの左右から飛び出した僕とソフィアの剣が、サーベルトゥースドレイクの頭を斬り落とす。
 サーベルトゥースドレイクの身体が光の粒となり霧散していく。そこには、魔石と巨大な二本の牙が残されていた。

「地下十九階層にもなると、魔物が出現する頻度が高いね。この辺りの階層は、あまり探索されていないのかな?」

 地下十九階層に下りてから魔物とのエンカウント率が随分上がっていた。狼系、猿系、2メートルを超える蟷螂かまきりのヒュージマンティスなどの虫系、へび蜥蜴とかげの爬虫類系など、様々な魔物が群れて襲ってきていた。
 僕の疑問にソフィアが答える。

「高難度ダンジョンですからね。普通、この階層までは探索しないのかもしれませんね」

 ドロップアイテムの回収を終えた僕達は、下への階段がありそうな方角へ歩き出した。
 罠はタイタンが漢解除で潰し、魔物は索敵スキルで見つけ、先制攻撃を仕掛けて討伐していった。所謂いわゆるサーチアンドデストロイである。そうしてしばらく探索したところで、やっと下への階段を見つけた。
 地下二十階層は、レッサーワイバーンやレッサードレイクなど、下級の竜種が単体で出現した。あまり戦いたくない敵だったんだけど、ボス部屋まで一本道だったので、戦闘を避ける事は出来なかった。
 ただ相手は単体だったので、タイタンが受け止めみんなでタコ殴りするという作戦を繰り返した。


 そんなこんなで、僕達はボス部屋の前にたどり着く。部屋に入る前に、最後の休憩を取った。

「タクミ様、お茶をどうぞ」
「ありがとうマリア」

 簡単な軽食で空腹を満たし、ボス戦前に体調を整える。
 準備が出来たようなので、僕はみんなに告げる。

「作戦は今まで通り、タイタンが前面で大盾を持ってみんなをまもる。それからみんなで一気に魔法を撃ち込んで、レーヴァとマリアはそのまま魔法で遠距離攻撃。カエデは二人の護衛をしながら余裕があれば遊撃ね。僕とソフィアは左右から突っ込む。これで良いね?」

 全員が頷く。

「よし! さっさとボスを斃して帰ろう」
「「「「「はい!(はーい!)」」」」」

 ゴゴゴゴゴォォォォーー!!
 重厚な扉が開き、僕達は中へ入る。漂う黒い霧の中から現れたのは――
 全長20メートルを超える巨体に、それを支える太い四本の脚、生半可な攻撃ははね返してしまうであろう強靭きょうじんな鱗をその身に纏うSランクモンスター、ドラゴンである。
 思わず僕は声をあげる。

「アースドラゴン!」

『GUAAAAAーーーー!!』


 アースドラゴンの咆哮ほうこうが、広いボス部屋に響く。

「いくぞ!」

 僕の一声を合図に、みんなが動きだす。

「アイスランス!」
「ファイヤーランス!」
「ロックランス!」
「ウィンドカッター!」

 氷の槍、炎の槍、岩の槍、風の刃が一斉にアースドラゴンに襲いかかる。さらに、タイタンがレーザー光線『さばきのひかり』を放った。

『GYAAAAA!!』

 アースドラゴンが悲鳴をあげた。すかさずアースドラゴンは巨大な口を開き、魔力を集めてブレスを吐き出す。
 前に出たタイタンが大盾で受け止める。
 タイタンの持つアダマンタイト合金製の大盾は、ただの大盾ではない。物理耐性や魔法耐性がついているのは勿論、魔力を流せば、物理障壁と魔法障壁を張る事まで出来るのだ。タイタンはそれで、僕達を強力なブレスから防ぎきってくれた。
 ブレスを吐き終えたアースドラゴンは、僕達が全くダメージを負っていないのを見て困惑しているようだった。ただ、アースドラゴンも僕達の攻撃を受けてそれほどダメージを負っていないらしい。
 タイタンの背中の魔力ジェット推進器が火を噴き、大重量の巨大なアダマンタイト合金の弾丸となって、アースドラゴンに突撃する。
 ドオゴォォォォーーーーン!!
 強烈な衝撃に、アースドラゴンの巨体が浮き上がる。
 痛みに悲鳴をあげ、暴れるアースドラゴン。再びブレスを吐く準備に入ったがその下顎を、タイタンが大盾でかち上げる。
 アースドラゴンは苦しげに暴れようとしたが、タイタンがガッチリと押さえ込んだ。
 アースドラゴンの四肢には、いつの間にかカエデの糸が絡みついていた。

『GYAAAAA!!』

 レーヴァの放った狐火がアースドラゴンの右目に当たり、アースドラゴンの悲鳴がボス部屋に響き渡る。
 そこからの戦いは一方的だった。
 僕とソフィアが魔槍を振るう。カエデの糸がさらに雁字搦がんじがらめにアースドラゴンを縛るとタイタンも攻撃に加わる。タイタンがシールドバッシュでアースドラゴンの頭部を叩き、メイスで追撃。カエデの糸がアースドラゴンを拘束しながらも、麻痺毒まひどくでさらに自由を奪う。マリアとレーヴァが隙を見て魔法を放つ。
 僕が亜空間から従魔じゅうまのドレイクホース、ツバキを呼び出すと、ツバキはアースドラゴンの横っ腹に角で突撃した。
 ドゴォォォォーーン!!

『GYAAAAAーーーー!!』

 断末魔だんまつまの雄叫びをあげ、ついにアースドラゴンの巨体が地に沈んだ。ソフィアとタイタンが僕に声をかけてくる。

「やりましたね」
『オツカレサマデス』
「あぁ、竜種を僕達だけで、この短時間で討伐出来るなんて……」

 そう感慨深く呟いていると、マリアが横たわるアースドラゴンを指差す。

「あっ! 見てくださいタクミ様!」

 アースドラゴンが光の粒になって消えていき、白銀に輝く宝箱、竜の牙、鱗が大量にドロップしていた。その他にも、巨大な骨やこれまた巨大な魔石が散らばっている。
 それを目にして改めて僕は、呆然としていた。
 何の取り柄もなかったサラリーマンだった僕が、ファンタジーな世界でそのファンタジーの代表格である竜を斃したんだ。なかなか実感が湧かなくても仕方ないよね。
 宝箱の中には、数点のマジックアイテムとインゴット、宝石や金貨がたくさん入っていた。

「竜素材で何か造れるかな」

 そんな事を思ってしまう僕は、結局、何処までいっても生産職なんだよね。
 ボス部屋を抜けた場所には、一階層へ繋がる転移魔法陣が現れていた。前に決めた通り、今回はここまでにしよう。その魔法陣に飛び込み、僕達の初めてのダンジョン探索は終わりを告げた。
 よくよく考えてみると何のためにダンジョンに潜ったのか疑問だけど、竜素材を含め色々ドロップアイテムも手に入ったし良しとする。
 最後に、ステータスを確認しておく。


【名 前】タクミ・イルマ
【種 族】人族
【年 齢】16歳
【職 種】魔法剣士52‌Lv、格闘家50‌Lv(魔術師32‌Lv、付与魔法師52‌Lv、大工24‌Lv‌、裁縫職人52‌Lv、錬金術師86‌Lv、鍛冶師78‌Lv)
【レベル】82
【状 態】健康


【生命力】820  【魔 力】1020  【 力 】440  【俊 敏】410
【体 力】510  【器 用】440   【知 力】520


【ユニーク スキル】 [鑑定EX][アイテムボックスEX(隠匿いんとく)]
【パッシヴ スキル】 [怪力5Lv][直感8Lv][毒耐性2Lv][麻痺耐性2Lv][回避8Lv][身体制御7Lv][魔力回復速度上昇3Lv][高速思考3Lv]
【アクティブスキル】 [槍術9Lv][斧術5Lv][剣術9Lv][投擲7Lv][体術10‌Lv][拳王術3Lv][魔闘術9Lv][索敵7Lv][気配察知9Lv][隠密7Lv][テイム3Lv][身体能力強化7Lv][魔力感知9Lv][魔力操作10‌Lv][術式制御6Lv][光属性魔法7Lv][火属性魔法6Lv][水属性魔法7Lv][風属性魔法7Lv][土属性魔法8Lv][氷属性魔法7Lv][雷属性魔法8Lv][時空間属性魔法7Lv][付与魔法8Lv][錬金術10‌Lv][鍛冶9Lv][木工細工8Lv][大工5Lv][採取6Lv][伐採5Lv][解体4Lv][採掘4Lv][金属細工8Lv][裁縫7Lv][料理4Lv]
【  加  護  】 [女神ノルンの加護(隠匿)]
【  従  魔  】 [アルケニー特異種(カエデ)][ドラゴンホース(ツバキ)][ガーディアンゴーレム(タイタン)]
【  称  号  】 [ジャイアントキリング][ドラゴンスレイヤー]



 4 タクミ、村長にジョブチェンジ?


 初めてのダンジョン探索を無事終えた僕達は、ボルトンの街に帰ってきた。
 大量のドロップアイテムのうち必要のない物は、冒険者ギルドとパペック商会で売却する。
 宝箱に入っていた宝石にソフィア達は興味を示さなかったので半分くらいは売り払ったし、金貨も大量に手に入ったので、またしても僕の資産は増えてしまった。
 しばらくゆっくりしようと思っていたんだけど、ボルトン辺境伯から呼び出しがかかる。早速、彼のお城を訪れると、口早に告げられた。

「今日はわざわざすまない。実は、イルマ殿に頼みたい事があるんだ。イルマ殿も知っているだろうが、我が領の南側は人が住めない未開地になっているんだ……」
「はい、確か、魔物が多く土地も荒れているので、どの国も見向きもしない土地だと聞いた事があります」

 バーキラ王国から南、ロマリア王国の西、そして、トリアリア王国の北。その三国に囲まれた場所に、未開のまま放置されている土地があった。

「過去に、トリアリア王国が侵攻したんだが、結局失敗して国が傾くという事態にまでなっている。それが今から六百年前。以来、その土地は放置され続けて今に至る。それで、イルマ殿に頼みというのは他でもない。そこに開拓村を造ってくれないか?」

 ボルトン辺境伯の突然のお願いに、僕は慌ててしまう。

「……えっと、今領主様は、どの国も手を出さない土地だと言ったと思うんですけど」

 ボルトン辺境伯はニヤリと笑う。

「ボード村の報告は聞いているぞ。あっという間に、強固な防壁を造り上げたらしいではないか。君なら大丈夫だろう。ボルトンからまっすぐに南へ100キロの場所に、川と泉があるのだ。その水場を中心に、村造りを始めてほしい」

 つまり、ボード村で実績のある僕なら、素早く開拓出来ると思ったらしい。
 ちなみに、この三国に囲まれた未開地は、軍隊を動員するのは難しいという事情がある。というのも、ごく小規模な魔境まきょうが複数集まった土地なので、人の気配を察知した魔物が際限なく集まってきてしまうそうだ。
 そんな話を聞かされ、ふと疑問に思った事を聞いてみる。

「結界を張って作業は出来なかったんですか? そうすれば魔境でも開拓出来るかなって思うんですが」
「イルマ殿、そんな広範囲に張れる結界魔法の使い手はいないし、防壁を造り上げる長い期間、魔物からの襲撃に耐える事なんて出来ないのだ。しかし、ボルトンから南に100キロの場所なら、まだ魔物の棲息数はボルトン近郊とそう変わらない。ここであれば、イルマ殿と協力して開拓も可能だと踏んでいるんだ」
「なら、何故手つかずだったんですか?」
「色んな事情があるんだが、正直な話、コストに見合わんのだ。土地が荒れているから、土作りから始めなければ農業は出来ないし、ボルトンから街道も通ってないしな」

 さらにこの話には、別の事情もあるらしい。

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