74 / 82
第七十二話 饕餮
しおりを挟む
少し落ち着いたメフィス教授にうながされ、ホクトが魔法陣に向かい、召喚術の発動準備にかかる。
ホクトは、目を瞑ると精神を統一する。
『臨兵闘者 皆陣列前行、我は求め訴える、四凶が一角、魔を喰らい尽くす貪欲なる獣、阿耨多羅 三藐三菩提、その身を浄化し聖なる獣となり、我の元へ顕現せよ。急急如律令、姿を現せ貪るモノよ!』
ホクトの口から出て来たのは、この世界の大陸言語ではなく、古代エルフ語でもない。
それは、遠い遠い世界の言葉。
日の本の言葉で呪文を紡ぐ。
呪文であり、祝詞であり、強力な言霊である言葉を紡ぎながら大量の魔力が魔法陣に流れ込む。
魔法陣から、強大な存在が顕現しようとしているのが、その場の全員が気が付いた。
魔法陣に黒い体毛に覆われた、巨大な牛の様なシルエットが浮かび上がる。
太く捻れた二本の角。
鋭い牙を覗かせ、尻尾には太く長い竜の尾が。
伝承に残る姿とは、少し違う部分もあるが、それは凶たる存在を召喚術で改変した影響だろう。
多少、姿は違えど、それは正しく饕餮と呼ばれ、竜生九子(りゅうせいきゅうし)のひとつとも、四凶のひとつに数えられる怪物だった。
魔法陣に現れた、尋常ならざるモノを前にして、メフィス教授とフランソワの身体が硬直する。
不味い、その魔物は不味過ぎる。
ホクトとサクヤは平然としているが、メフィスとフランソワにとって、饕餮と言う存在は、あまりにも規格外過ぎた。
ホクトが、全身に魔力と闘気を濃密に纏い、饕餮を威圧する。
饕餮とホクトの気と魔力がぶつかり合い、部屋の中を風が吹き荒れる程の物理現象が起こる。
ホクトの額から汗が流れる。
これはもう、戦い屈伏させるしか方法はないかと周りで見ていたメフィスやフランソワが緊張した時、急に饕餮からの圧力が弱くなる。
「我に下れ!【シユウ】!」
ホクトの召喚術を 受け入れた饕餮がホクトへ頭を下げて臣従の意思を見せた。
「ふぅ~」
額から流れる汗を拭い、深く息を吐くホクト。
「ふぅ~じゃありません!
何なんですかこの魔物は!
それに、サクヤさんも同じ様な呪文を唱えていましたが、召喚術を発動する時に、何かとても力のある呪文を唱えていましたね。大陸共通言語ではありませんし、古代エルフ語でもありませんでした。ただ、言葉自体がとても力を持っている様に感じました。あれは何なんですか!」
メフィスがホクトの元に走り寄り、矢継ぎ早に質問を投げかけ、説明を求める。
サクヤが召喚した八咫烏にも衝撃を受けたメフィスだが、八咫烏は神の御使と言う性質上、危険な感じを受けなかったが、ホクトの召喚した魔物を見て、背筋を冷たい汗が流れるのを止める事が出来なかった。
初めて見る魔物だという事を抜きにして、それはあまりにも異質で強大な力を持つ事が、メフィスには分かった。
長く生きるバンパイヤのメフィスは、長年の研究に自信を持っている。全ての魔物を知っているとは言えないが、八咫烏や饕餮の様な規格外の強力な魔物ならば、知らない方が不自然だった。
「えっと、呪文に使用した言語に関しては秘密です。僕がシユウと名付けた魔物は、饕餮と言う異界の怪物です。四凶の一つに数えられ、竜が生んだ九つの子供の一つとも言われている強大な魔物です。
思ったより抵抗が激しくて、戦って屈伏させなきゃダメがと思いました」
「トウテツなんて、初めて聞きます。
…………何度見ても尋常ならざる力を秘めているのが分かりますね」
メフィスに四凶を説明するのに手間取ったが、何とか無事に召喚を終えてホクトもホッとする。
饕餮は、中国で四凶と呼ばれる怪物だけあって、その性質は神聖な御使いの八咫烏とは対極にある。召喚術で契約出来た今は問題ないが、もし契約に失敗した場合、ホクトやサクヤが全力で戦って、学園の施設に大きな被害が出ただろう。
まだ何か聞きたそうなメフィスを一旦置いといて、ホクトはシユウに話し掛ける。
「シユウ、身体の大きさを変えたり出来るか?」
『是、シカシ、主、我ハ、主ノ影ニ、ヒソメル。ツネニ、主ノソバデ、マモル』
「それは便利だな。なら普段は僕の影に潜んで居てくれ」
『ショウチシタ』
そう言うとシユウはホクトの影に潜り込んだ。
シユウは、ミニバン程のサイズが有り、サイズが変えられたり、影に潜めるなら都合が良い。毎回、召喚術で呼び出すコストを節約出来る。
「おほんっ、取り敢えず、そのヤタガラスとトウテツの検証は改めてするとして、今日の召喚術に関して、それぞれレポートを提出して下さい」
メフィスは八咫烏と饕餮に関して、シェスター教授と連携して検証しようと決めた。
ホクトは、目を瞑ると精神を統一する。
『臨兵闘者 皆陣列前行、我は求め訴える、四凶が一角、魔を喰らい尽くす貪欲なる獣、阿耨多羅 三藐三菩提、その身を浄化し聖なる獣となり、我の元へ顕現せよ。急急如律令、姿を現せ貪るモノよ!』
ホクトの口から出て来たのは、この世界の大陸言語ではなく、古代エルフ語でもない。
それは、遠い遠い世界の言葉。
日の本の言葉で呪文を紡ぐ。
呪文であり、祝詞であり、強力な言霊である言葉を紡ぎながら大量の魔力が魔法陣に流れ込む。
魔法陣から、強大な存在が顕現しようとしているのが、その場の全員が気が付いた。
魔法陣に黒い体毛に覆われた、巨大な牛の様なシルエットが浮かび上がる。
太く捻れた二本の角。
鋭い牙を覗かせ、尻尾には太く長い竜の尾が。
伝承に残る姿とは、少し違う部分もあるが、それは凶たる存在を召喚術で改変した影響だろう。
多少、姿は違えど、それは正しく饕餮と呼ばれ、竜生九子(りゅうせいきゅうし)のひとつとも、四凶のひとつに数えられる怪物だった。
魔法陣に現れた、尋常ならざるモノを前にして、メフィス教授とフランソワの身体が硬直する。
不味い、その魔物は不味過ぎる。
ホクトとサクヤは平然としているが、メフィスとフランソワにとって、饕餮と言う存在は、あまりにも規格外過ぎた。
ホクトが、全身に魔力と闘気を濃密に纏い、饕餮を威圧する。
饕餮とホクトの気と魔力がぶつかり合い、部屋の中を風が吹き荒れる程の物理現象が起こる。
ホクトの額から汗が流れる。
これはもう、戦い屈伏させるしか方法はないかと周りで見ていたメフィスやフランソワが緊張した時、急に饕餮からの圧力が弱くなる。
「我に下れ!【シユウ】!」
ホクトの召喚術を 受け入れた饕餮がホクトへ頭を下げて臣従の意思を見せた。
「ふぅ~」
額から流れる汗を拭い、深く息を吐くホクト。
「ふぅ~じゃありません!
何なんですかこの魔物は!
それに、サクヤさんも同じ様な呪文を唱えていましたが、召喚術を発動する時に、何かとても力のある呪文を唱えていましたね。大陸共通言語ではありませんし、古代エルフ語でもありませんでした。ただ、言葉自体がとても力を持っている様に感じました。あれは何なんですか!」
メフィスがホクトの元に走り寄り、矢継ぎ早に質問を投げかけ、説明を求める。
サクヤが召喚した八咫烏にも衝撃を受けたメフィスだが、八咫烏は神の御使と言う性質上、危険な感じを受けなかったが、ホクトの召喚した魔物を見て、背筋を冷たい汗が流れるのを止める事が出来なかった。
初めて見る魔物だという事を抜きにして、それはあまりにも異質で強大な力を持つ事が、メフィスには分かった。
長く生きるバンパイヤのメフィスは、長年の研究に自信を持っている。全ての魔物を知っているとは言えないが、八咫烏や饕餮の様な規格外の強力な魔物ならば、知らない方が不自然だった。
「えっと、呪文に使用した言語に関しては秘密です。僕がシユウと名付けた魔物は、饕餮と言う異界の怪物です。四凶の一つに数えられ、竜が生んだ九つの子供の一つとも言われている強大な魔物です。
思ったより抵抗が激しくて、戦って屈伏させなきゃダメがと思いました」
「トウテツなんて、初めて聞きます。
…………何度見ても尋常ならざる力を秘めているのが分かりますね」
メフィスに四凶を説明するのに手間取ったが、何とか無事に召喚を終えてホクトもホッとする。
饕餮は、中国で四凶と呼ばれる怪物だけあって、その性質は神聖な御使いの八咫烏とは対極にある。召喚術で契約出来た今は問題ないが、もし契約に失敗した場合、ホクトやサクヤが全力で戦って、学園の施設に大きな被害が出ただろう。
まだ何か聞きたそうなメフィスを一旦置いといて、ホクトはシユウに話し掛ける。
「シユウ、身体の大きさを変えたり出来るか?」
『是、シカシ、主、我ハ、主ノ影ニ、ヒソメル。ツネニ、主ノソバデ、マモル』
「それは便利だな。なら普段は僕の影に潜んで居てくれ」
『ショウチシタ』
そう言うとシユウはホクトの影に潜り込んだ。
シユウは、ミニバン程のサイズが有り、サイズが変えられたり、影に潜めるなら都合が良い。毎回、召喚術で呼び出すコストを節約出来る。
「おほんっ、取り敢えず、そのヤタガラスとトウテツの検証は改めてするとして、今日の召喚術に関して、それぞれレポートを提出して下さい」
メフィスは八咫烏と饕餮に関して、シェスター教授と連携して検証しようと決めた。
0
お気に入りに追加
1,454
あなたにおすすめの小説
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
私は、忠告を致しましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。
ロマーヌ様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
【完結】彼女以外、みんな思い出す。
❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。
幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。
[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。
断罪される1か月前に前世の記憶が蘇りました。
みちこ
ファンタジー
両親が亡くなり、家の存続と弟を立派に育てることを決意するけど、ストレスとプレッシャーが原因で高熱が出たことが切っ掛けで、自分が前世で好きだった小説の悪役令嬢に転生したと気が付くけど、小説とは色々と違うことに混乱する。
主人公は断罪から逃れることは出来るのか?
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる