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第四十二話 闘い終わって

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 カジムはふと黒いオーガと闘うホクトの方を見た。そこで衝撃を受ける。
 4メートルを超えるオーガの上位種が振り下ろした棍棒を、自分より小さなホクトが片手で受け止めるのを目の当たりにしたのだ。
 それは氣と魔力による身体強化だと教えて貰ってはいるが、それでも信じ難い光景だった。
 カジムの目には、ホクトの身体から立ち上がる闘気が見えた気がした。

「凄え~」

 そして次の瞬間、簡単に腕と足を切り落としたホクトを見て、尊敬の念が益々強くなる。カジムが苦労して斬り落とした、丈夫なオーガ皮膚や筋肉を、骨ごと簡単に斬り落としている。

 少しでも目標とするホクトへ近付けるよう、一層鍛錬を重ねる決意をする。



「どうする?解体はギルドの倉庫を借りてするか」

「そうね、アルバン様も早く結果を知りたいでしょうし」

 上位種が率いるオーガの群れを討伐したとは思えない程、通常運転のホクトとサクヤの会話を呆れながら聞いているカジム。

「なぁ、アニキと姐さんに掛かったらオーガの群れもゴブリンも変わらねえな」

「まぁ同じ人型だしな」

「いや、そう言う事じゃないんだけど……」

 トンチンカンな返しをするホクトに、アニキって意外と天然?と思うカジムだった。




「さすがホクト、仕事が早いね」

 屋敷へ戻ったホクト達は、領主代理アルバンへ報告の為に執務室へと来ていた。

「まぁ想定内でした」

 ホクトはオーガの数と上位種の情報をアルバンへ報告する。

「やっぱり上位種が居たか……。
 それで、オーガはこの街のギルドへ卸してくれるんだろう」

 ヴァルハイム領では、滅多に出回らないオーガの素材を、この街の冒険者ギルドで卸して欲しいと言うのは、領主代理としてのアルバンの正直な気持ちだった。

「兄上、通常のオーガは全てギルドの買取に出しますが、上位種は僕達の装備に使うかもしれないので、申し訳ないのですが…………」

 オーガの皮は非常に丈夫で、良い防具の素材となる。金属鎧の裏に張ったり、高級な革鎧の材料となる。特に今回、ホクト達が倒した上位種のオーガは、本来なら鋼の剣では刃が立たない程の強度と柔軟性を持つ。
 ホクトとしては、このオーガの皮に、ワイバーンの皮を貼り合わせた革鎧を目指しているのだが。

「仕方ないね。私達なら大きな被害が出ていた案件を、ホクト達が解決してくれたんだものね」

「申し訳ありません」

 アルバンも一応叶えば儲けもの程度の要望だったので、それ程気にしていない。何よりホクト達が良くこのタイミングで帰省してくれたと思っていた。

「それで、ホクト達はいつ迄コッチに滞在するんだい?」

 アルバンに聞かれてホクトは腕を組んで考え込む。

「……実は余り考えてなかったんですよね。
 サクヤはバグスさんとエヴァさんと家族団欒を楽しんで貰う積もりでしたが、さて、僕はと言えば、アルバン兄上とジョシュア兄上と団欒って変ですよね」

「だよなぁ、男兄弟なんてそんなもんだよな。しかも私もジョシュアも忙しいからね」

 ホクトと兄達の仲は悪くない。寧ろ仲は良い方だ。アルバンやジョシュアは、ホクトが赤ちゃんの頃から非常に可愛いがってきた。

「そうですね。5日後に王都へ帰りますか」

「私はそれで構わないわよ。
 その気になれば、お母さんとお父さんには何時でも会えるんだから」

 サクヤ自身も長距離転移を使えるので、会いたい時に会うことが出来る。

「俺はアニキと姐さんが良いなら問題ないぜ」

 カジムは基本的にホクトとサクヤ次第だ。

「と、言う事で、兄上、僕達は5日後に王都へ帰ります」

「分かった。では、帰る時に父上へ細々とした報告があるから持って行ってくれ」

 兄への報告を済ませ、依頼が完了した事を依頼書へサインを貰う。後はこれをギルドへ提出すれば指名依頼は完了だ。





 ホクト達は冒険者ギルドでオーガ討伐の指名依頼を完了した事を報告し、10体のオーガを買い取ってもらう。

「魔石の半分はコッチで使うから。あとは買取で大丈夫です」

「わかりました。
 直ぐに査定しますのでお待ち下さい」

 買取の結界は、魔石なしのオーガが一体金貨十枚、魔石込みのオーガが金貨十二枚、合計百十枚になった。
 オーガの素材は、防具や武器にも使える。内臓や睾丸も錬金術に使用出来る為に買取対象だ。

 討伐報酬は、アルバンから金貨五十枚で頼むと言われているので、それも一緒にアイテムボックスへ収納する。

 オーガ10体とオーガの上位種1体の討伐報酬が、日本円にしておよそ五百万円というのが、高いのか安いのか判断に困るホクトだが、上位種が率いるオーガ10体以上の群れを相手にするには、通常、軍隊を100人規模で動かさなければならない事を思えば、安いのかもしれない。

 冒険者へ依頼する場合でも、Cランク以上の冒険者パーティーを最低でも10パーティーは招集する必要がある事を思えば、高くない報酬なのだろう。




「いやー、悪いなアニキ、こんなに貰っちゃって」

 カジムがギルドからの帰り道、ホクホク顔で今にもスキップしだしそうだ。

 仲間内の分配は、ホクトが金貨六十枚、サクヤとカジムが金貨五十枚で分けた。
 ホクトが金貨十枚多いのは、上位種を討伐したと言うのもあるが、カジムがこのパーティーのリーダーだからと譲らなかったからだ。
 最初、カジムは自分はそこまで活躍出来なかったと、報酬の減額を希望したくらいだ。

「それで夏季休暇はまだ一月半残ってるけど、この後どうするの?」

 サクヤからの問い掛けに、困った様な顔をするホクト。

「う~ん、実は何も考えてないんだよな」

「なぁアニキ、それならベルンに行かねえか」

 考え込むホクトにカジムが提案する。

「ベルン?それは確かベルバッハ伯爵領の領都だったよね」

「さすがアニキ、良く知ってるな。
 ベルバッハ伯爵領は、バーキラ王国に近い場所に在るんだ。そして死の森にも近いんだ」

「死の森か……、確か下級竜種も豊富だった筈だな」

「そうね、ベルバッハ伯爵領の東には、ロドム山脈があるから、飛竜種が時々飛来しては家畜に被害が出るって聴いたことがあるわ」

 どうやら三人の狙いは、竜種を狩ることらしい。
 誰かが聞いていれば正気を疑う発言だが、三人が三人供本気なのがわかる。

「ならベルンに行くのは確定として、カジムの大剣をもう少しましなモノに変える必要があるな」

「じゃあガンツに相談してみましょうよ」

 ホクト達はベルバッハ伯爵領のベルンへ行く事を決め、死の森周辺やロドム山脈周辺での素材収集を目指す事になった。






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