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第一章
三十話 婿養子、カチコム
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陽が暮れつつある森の中は、普段でも薄暗いのに更に視界が悪くなる。
それをものともせず猛スピードで樹々の間をスラロームするフーガ。
時折、相手の実力を計れない知能の低い魔物が襲って来るが、僕とお義父さん、フーガによって瞬殺されている。
勿論、急いでいるので素材の剥ぎ取りどころか、死体の回収すらしていない。
休憩する事なく全力で飛び続けたフーガは、日付が変わる頃に森を抜けた。
途中、暗くなってから森の上を飛んだので、余計に早かったようだ。
国境に近い幾つかの街の近くを飛んでいると、フーガがフェルミアに似た匂いを掴んだ。
その方向へと進むと、森の近くだからだろう、高い頑丈そうな石の塀に囲まれた街が見つかった。
『主人、間違いありません。フェルミアとヘティスと似た匂いがします。もう少し近付けば、魔力の波長で確定できるでしょう』
「分かった。忍び込見ましょう」
「修二君、気配を絶つと同時に、相手の気配も探知するのを忘れるなよ」
「はい」
気配を絶って、人の気配が感じない場所から空を飛び塀を乗り越える。
フーガから降りた僕とお義父さんは、フーガの先導で目的地へと慎重に移動する。
異世界の街の夜は、街灯など無く真っ暗な闇が支配している。
僕とお義父さんは、気配察知と魔力感知、観法を駆使して闇夜を進む。
実は僕やお義父さんは、夜目が効く。
日本で鍛えていたのもあるが、この世界に来てからは、夜行性動物並みに夜目が効くようになった。
勿論、聖霊獣であるフーガに夜の闇は障害にならない。
辿り着いたのは、この街では珍しい三階建ての建物。
恐らく奴隷を売り買いする商会なんだろう。
「(ここのようですね)」
『(間違いありません。匂いはここからです。魔力の波長もフェルミア達と酷似しています)』
「(他に外道な方法で連れて来られた人が居たらどうします?)」
「(ケースバイケースだな。見付けてから考えよう)」
お義父さんの表情が、冷たい凍りつくように変わる。
それを見て、僕も覚悟を決める。
この世界で佐那を、家族を護る為に、僕は望んで修羅と成ろう。
「(では制圧するぞ)」
僕は頷いてお義父さんとフーガの背に乗り、三階の板窓へと向かう。
空を滞空しながら、窓から中の様子を伺うと、部屋の中には太った男が豪華な椅子に座り、ふんぞり返って酒を飲んでいた。
「クソッ、今月は大損だな。折角、ケモノ臭いのを我慢してまで襲撃して、手下は殺されるは、女はボロボロで死にかけだ。ガキも大した金にならなかったし、ツイてねえなぁチクショウ」
ブツブツと独り言を言う男が、生かしておく価値がないと分かり、お義父さんを見て頷く。
お義父さんとアイコンタクトして、僕は窓を音を立てずに開ける準備をし、お義父さんは窓から部屋に飛び込む体勢をとる。
ソッと窓を開けた瞬間、お義父さんがフーガの背から部屋の中へと飛び込んだ。
お義父さんは、音を立てる事なく素速く男の背後に回り込み、手で口を塞いで首を一気に捻る。
ゴキッ!
お義父さんを追うように部屋に飛び込んだ僕は、男が手にしていた酒の入ったグラスが落ちる前にキャッチする。
僕とお義父さんが三階から侵入したのは、この商会のボスの部屋が最上階にあると予測したからだ。
お義父さんは男の死体をゆっくりと床に横たえた後、机や本棚をあさり片っ端から収納していく。
僕もお義父さんに倣い、書類や契約書などをあさって収納していく。
ひと通り収納すると、三階の他の部屋へ移動する。
三階には他に人の気配が無かったので、部屋を一つ一つ周り、犯罪の証拠となりそうな物から、金庫やお金、武器や防具なんかを収納していく。
三階の探索を終えて二階へと向かう。
二階に降りると、大きな声で騒ぐ男達の気配を正確に捉える。
「次の襲撃は何処なんだ?」
「ん~、確か、兎だったかな。猫だったかな」
「兎は張り合いがねぇから、まだ猫の方がいいな」
「いや、戦えねぇ奴らの方が楽でいいじゃねぇか。この前みたいに、何人も殺られるよりマシだろう?」
「ガッハッハ、あの狼野郎を殺すのは楽しかったぜぇ!」
「言ってろ」
お義父さんがドアの前で、指を四本立て、二本にする。
僕とフーガはそれを見て頷く。
部屋の中には四人の男が居て、その内の二人をお義父さんが、残りの二人を僕とフーガが受け持つという事だ。
ドアを音を立てずに素早く開けると、間髪いれずにお義父さんが飛び込み、僕とフーガが続く。
お義父さんは一人目の男の喉にナイフを突き立て、素早く次の男に瞬足の踏み込みで近付き首を捻る。更に喉をナイフで突かれた男が最後の足掻きで暴れて音を立てぬよう首を捻り仕留める。
僕は部屋に飛び込むと一人の男の口を塞ぎ、捻じ切る勢いで捻る。
フーガも残った男の喉に噛みつき仕留めていた。
二階の各部屋を周り、人間の皮を被った野獣を殺してまわる。
夜の遅い時間だったからか、一階には二人しか居なかった。
僕の精神衛生上助かったのは、建物の中に居た全員が屑だった事か。
『(地下の人数も少ないですね。仕入れた奴隷は殆ど売れたのかもしれません)』
「(見張りは二人か)」
「(では修二君と私で一人ずつだな)」
ヒソヒソと一階を制圧した後、めぼしい物を収納しながら相談する。
この奴隷商会は、本当に腐った商会だったらしく、真っ当な商売をする事なく、仕入れを全て奴隷狩りに頼っていたようだ。
その所為で、フェルミア達の村を襲った後、ボロボロで売れないフェルミアちゃんのお母さんが残っている以外、奴隷の気配が余り感じ取れないのだろう。
音を立てずに階段を降りる。
もう音を立てずに行動する必要はない。
「なっ! 何だ、お前たちは!」
ザンッ!
「ギャ!」
顔を黒い布で隠した見るからに怪しい僕達を見て、見張りの男が喚くが、次の瞬間間合いを詰めた僕のナイフが男の心臓を貫いた。
お義父さんはもう一人の見張りの喉を斬り裂き、ナイフを死んだ男の服で拭っていた。
『主人、こっちです』
フーガの先導で移動すると、分厚い扉の部屋があった。
『ここです。どうやらもう一人居るようですね』
「確かに、二人の気配を感じるな」
ゴツい鎖と鍵がかけられた扉に手をかざす。
最近練習している錬金術ではなく、土魔法での鉄の変形だ。
ガチャン!
石の床に鎖と鍵が落ちる。
扉を開けると、カビ臭い臭いが鼻をつく。
狭い窓もない部屋の中に、二つの塊が横たわっていた。
僕は急いで駆け寄ると、クリーンで汚れを落とした後、ヒールを連続でかける。
『危ないところでしたね。生命力が強い獣人でなければ助からなかったでしょう』
「はぁ、間に合ったか」
二人の首にある首輪を解呪して取り除くと、安堵からか疲れがドッとくるのを感じる。
「修二君、急ごう」
「はい」
お義父さんと僕で一人ずつ抱き上げてフーガの背に乗る。
フーガが夜の闇の中、森の上空を樹々スレスレに飛ぶ。
助け出したのは、二人とも狼の獣人だった。
一人はフェルミアちゃんのお母さんだろう。もう一人は、年齢的に小学生の高学年くらいだろうか。
二人に共通して言えるのは、二人とも酷い怪我をしていたという事だ。
二人は全身が傷だらけで、顔にもキズがあるのが確認できる。
フェルミアちゃん達のお母さんは、フェルミアちゃんに良く似た美人なので、このままでは余りにも不憫だと思う。
僕のヒールで小さな傷は治り、他の怪我も出血は止まっているが、よくこれで生きていると感心させられる。フーガが獣人の生命力が強いと言うが、狼の獣人は特にそうなのかな?
フーガの背中の上で、フェルミアちゃん達のお母さんを抱きかかえたまま、する事もないので、僕の光魔法の練習に付き合って貰おう。
お母さんの傷だらけの顔に手をかざし、傷が無くなるように強くイメージして、回復魔法を発動する。
「クッ! ヤバイヤバイ、魔力の消費がハンパない」
「修二君、無理はするなよ」
「は、ハハッ、皐月に任せたほうが良さそうです」
僕の回復魔法で、大きな傷が薄っすらと分かる程度には出来た。小さな傷は完全に治せたみたいだ。
ただ、僕の光魔法のスキルレベルが足りないのだろう。ジョブによる補正も少ない僕ではこれ以上は無理だ。素直に皐月に任せよう。
それをものともせず猛スピードで樹々の間をスラロームするフーガ。
時折、相手の実力を計れない知能の低い魔物が襲って来るが、僕とお義父さん、フーガによって瞬殺されている。
勿論、急いでいるので素材の剥ぎ取りどころか、死体の回収すらしていない。
休憩する事なく全力で飛び続けたフーガは、日付が変わる頃に森を抜けた。
途中、暗くなってから森の上を飛んだので、余計に早かったようだ。
国境に近い幾つかの街の近くを飛んでいると、フーガがフェルミアに似た匂いを掴んだ。
その方向へと進むと、森の近くだからだろう、高い頑丈そうな石の塀に囲まれた街が見つかった。
『主人、間違いありません。フェルミアとヘティスと似た匂いがします。もう少し近付けば、魔力の波長で確定できるでしょう』
「分かった。忍び込見ましょう」
「修二君、気配を絶つと同時に、相手の気配も探知するのを忘れるなよ」
「はい」
気配を絶って、人の気配が感じない場所から空を飛び塀を乗り越える。
フーガから降りた僕とお義父さんは、フーガの先導で目的地へと慎重に移動する。
異世界の街の夜は、街灯など無く真っ暗な闇が支配している。
僕とお義父さんは、気配察知と魔力感知、観法を駆使して闇夜を進む。
実は僕やお義父さんは、夜目が効く。
日本で鍛えていたのもあるが、この世界に来てからは、夜行性動物並みに夜目が効くようになった。
勿論、聖霊獣であるフーガに夜の闇は障害にならない。
辿り着いたのは、この街では珍しい三階建ての建物。
恐らく奴隷を売り買いする商会なんだろう。
「(ここのようですね)」
『(間違いありません。匂いはここからです。魔力の波長もフェルミア達と酷似しています)』
「(他に外道な方法で連れて来られた人が居たらどうします?)」
「(ケースバイケースだな。見付けてから考えよう)」
お義父さんの表情が、冷たい凍りつくように変わる。
それを見て、僕も覚悟を決める。
この世界で佐那を、家族を護る為に、僕は望んで修羅と成ろう。
「(では制圧するぞ)」
僕は頷いてお義父さんとフーガの背に乗り、三階の板窓へと向かう。
空を滞空しながら、窓から中の様子を伺うと、部屋の中には太った男が豪華な椅子に座り、ふんぞり返って酒を飲んでいた。
「クソッ、今月は大損だな。折角、ケモノ臭いのを我慢してまで襲撃して、手下は殺されるは、女はボロボロで死にかけだ。ガキも大した金にならなかったし、ツイてねえなぁチクショウ」
ブツブツと独り言を言う男が、生かしておく価値がないと分かり、お義父さんを見て頷く。
お義父さんとアイコンタクトして、僕は窓を音を立てずに開ける準備をし、お義父さんは窓から部屋に飛び込む体勢をとる。
ソッと窓を開けた瞬間、お義父さんがフーガの背から部屋の中へと飛び込んだ。
お義父さんは、音を立てる事なく素速く男の背後に回り込み、手で口を塞いで首を一気に捻る。
ゴキッ!
お義父さんを追うように部屋に飛び込んだ僕は、男が手にしていた酒の入ったグラスが落ちる前にキャッチする。
僕とお義父さんが三階から侵入したのは、この商会のボスの部屋が最上階にあると予測したからだ。
お義父さんは男の死体をゆっくりと床に横たえた後、机や本棚をあさり片っ端から収納していく。
僕もお義父さんに倣い、書類や契約書などをあさって収納していく。
ひと通り収納すると、三階の他の部屋へ移動する。
三階には他に人の気配が無かったので、部屋を一つ一つ周り、犯罪の証拠となりそうな物から、金庫やお金、武器や防具なんかを収納していく。
三階の探索を終えて二階へと向かう。
二階に降りると、大きな声で騒ぐ男達の気配を正確に捉える。
「次の襲撃は何処なんだ?」
「ん~、確か、兎だったかな。猫だったかな」
「兎は張り合いがねぇから、まだ猫の方がいいな」
「いや、戦えねぇ奴らの方が楽でいいじゃねぇか。この前みたいに、何人も殺られるよりマシだろう?」
「ガッハッハ、あの狼野郎を殺すのは楽しかったぜぇ!」
「言ってろ」
お義父さんがドアの前で、指を四本立て、二本にする。
僕とフーガはそれを見て頷く。
部屋の中には四人の男が居て、その内の二人をお義父さんが、残りの二人を僕とフーガが受け持つという事だ。
ドアを音を立てずに素早く開けると、間髪いれずにお義父さんが飛び込み、僕とフーガが続く。
お義父さんは一人目の男の喉にナイフを突き立て、素早く次の男に瞬足の踏み込みで近付き首を捻る。更に喉をナイフで突かれた男が最後の足掻きで暴れて音を立てぬよう首を捻り仕留める。
僕は部屋に飛び込むと一人の男の口を塞ぎ、捻じ切る勢いで捻る。
フーガも残った男の喉に噛みつき仕留めていた。
二階の各部屋を周り、人間の皮を被った野獣を殺してまわる。
夜の遅い時間だったからか、一階には二人しか居なかった。
僕の精神衛生上助かったのは、建物の中に居た全員が屑だった事か。
『(地下の人数も少ないですね。仕入れた奴隷は殆ど売れたのかもしれません)』
「(見張りは二人か)」
「(では修二君と私で一人ずつだな)」
ヒソヒソと一階を制圧した後、めぼしい物を収納しながら相談する。
この奴隷商会は、本当に腐った商会だったらしく、真っ当な商売をする事なく、仕入れを全て奴隷狩りに頼っていたようだ。
その所為で、フェルミア達の村を襲った後、ボロボロで売れないフェルミアちゃんのお母さんが残っている以外、奴隷の気配が余り感じ取れないのだろう。
音を立てずに階段を降りる。
もう音を立てずに行動する必要はない。
「なっ! 何だ、お前たちは!」
ザンッ!
「ギャ!」
顔を黒い布で隠した見るからに怪しい僕達を見て、見張りの男が喚くが、次の瞬間間合いを詰めた僕のナイフが男の心臓を貫いた。
お義父さんはもう一人の見張りの喉を斬り裂き、ナイフを死んだ男の服で拭っていた。
『主人、こっちです』
フーガの先導で移動すると、分厚い扉の部屋があった。
『ここです。どうやらもう一人居るようですね』
「確かに、二人の気配を感じるな」
ゴツい鎖と鍵がかけられた扉に手をかざす。
最近練習している錬金術ではなく、土魔法での鉄の変形だ。
ガチャン!
石の床に鎖と鍵が落ちる。
扉を開けると、カビ臭い臭いが鼻をつく。
狭い窓もない部屋の中に、二つの塊が横たわっていた。
僕は急いで駆け寄ると、クリーンで汚れを落とした後、ヒールを連続でかける。
『危ないところでしたね。生命力が強い獣人でなければ助からなかったでしょう』
「はぁ、間に合ったか」
二人の首にある首輪を解呪して取り除くと、安堵からか疲れがドッとくるのを感じる。
「修二君、急ごう」
「はい」
お義父さんと僕で一人ずつ抱き上げてフーガの背に乗る。
フーガが夜の闇の中、森の上空を樹々スレスレに飛ぶ。
助け出したのは、二人とも狼の獣人だった。
一人はフェルミアちゃんのお母さんだろう。もう一人は、年齢的に小学生の高学年くらいだろうか。
二人に共通して言えるのは、二人とも酷い怪我をしていたという事だ。
二人は全身が傷だらけで、顔にもキズがあるのが確認できる。
フェルミアちゃん達のお母さんは、フェルミアちゃんに良く似た美人なので、このままでは余りにも不憫だと思う。
僕のヒールで小さな傷は治り、他の怪我も出血は止まっているが、よくこれで生きていると感心させられる。フーガが獣人の生命力が強いと言うが、狼の獣人は特にそうなのかな?
フーガの背中の上で、フェルミアちゃん達のお母さんを抱きかかえたまま、する事もないので、僕の光魔法の練習に付き合って貰おう。
お母さんの傷だらけの顔に手をかざし、傷が無くなるように強くイメージして、回復魔法を発動する。
「クッ! ヤバイヤバイ、魔力の消費がハンパない」
「修二君、無理はするなよ」
「は、ハハッ、皐月に任せたほうが良さそうです」
僕の回復魔法で、大きな傷が薄っすらと分かる程度には出来た。小さな傷は完全に治せたみたいだ。
ただ、僕の光魔法のスキルレベルが足りないのだろう。ジョブによる補正も少ない僕ではこれ以上は無理だ。素直に皐月に任せよう。
応援ありがとうございます!
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