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第一章

八話 婿養子、西へ東へと

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 次の日、朝早くから北へ向かって走る僕が居た。

 あれ? お義父さんと交代じゃなかった? なんて言っちゃいけない。自ら率先して走るのが、弟子兼婿養子としての正しい選択なのだから。



 今回は、朝一から出発した事もあり、昨日よりも遠くまで探索すると言ってある。

 それに、走りながら魔物を何度か討伐していると、レベルが一つだけ上がった。

 それに加え、レベルアップ以外にも、走り続ける事による僕自身の変化があった。

 これはレベルアップで身体能力が上がるのではなく、筋トレや走り込みによって、能力の上昇があるという事だろう。

 考えてみれば普通の事なんだろうけど、実感できるくらいなのは、この世界故だと思っておこう。

 三十歳を超えて明らかに上がった能力に戸惑う気持ちはあるけど、レベルアップのある世界で、それを言ってもな。



 北へと走り続ける事二時間ほど。

 昨日は、二時間で100キロくらいの移動距離だったのが、今日は多分だけど120キロは走ったと思う。

 立ち止まり、収納から水筒を取り出し休憩している。

 まだこの程度の移動距離じゃ、周辺の環境に変化はない。

 昨日、100キロ程度で砂漠になりつつある環境の変化に辿り着いたのは、ただ単にラッキーだったんだろうな。

 更に二時間走り続けると少しだけ風景が変わった。

「所々に木は生えているみたいだけど、針葉樹しかなさそうだな」

 疎らに生える雑草? の種類も違う気がする。

 それに気が付くと、気温も下がってきているのに気が付いた。

「ん? あれは…………山か」

 遥か前方に山が連なっているのが目視できる。

 本来の僕の視力では無理だっただろうが、レベルアップの恩恵は、こんな所にも現れていた。

 千里眼とまでは大袈裟だろうけど、鷹の目と呼んでもいいくらいには遠くが見える。

 その上がった視力で、遠くに霞む山々が白く化粧しているのが確認できた。

「寒いのはナシだな。佐那が風邪引くと困るし、皐月も寒いのは苦手だからな」

 あの山脈の麓に人の住む町や村があったとしても、寒冷地の可能性があるならナシだと判断した。

 此処までに遭遇した魔物は、大型犬サイズのウサギ。しかも肉食なのか、魔物とはそういうものなのか、僕を見つけると積極的に襲って来た。


 ・キラーラビット Dランク

  地面に穴を掘り隠れ棲む。強力で大きな牙が武器。肉食性で凶暴。
 肉は上質で美味しく、更にその毛皮は高級品として高値で取引される。


 勿論、死体は丸ごと収納してある。

  血抜きをして毛皮を剥ぐ必要はあるが、無限収納の中は時間停止状態なので、血抜きを急ぐ必要もないのが幸いだ。


 往復8時間かけて北側の探索を終え、戻った僕は佐那と皐月に癒され、早々に眠りについた。

 4時間後には、お義父さんと交代して周辺の警戒をしていたのは仕方のない事だ。皐月やお義母さんには無理だろうからね。



 次の日は、東側へと走る。

 ただ東側はそれ程進む事なく、僕の足は止まった。

「海かぁ……、皐月が錬金を持ってたな。塩を確保する為に、一度来てもいいかな」

 潮風を受けながら青い海原を眺めていると、沖の方から波しぶきを上げ近付いて来るモノに気付く。

「ん? 魚……にしては、大きい?」

 もの凄い勢いで近付くモノを訝しみながらも見ていると、特徴的な三角のヒレの様なものが水を切っているのが確認できた。

「え、えっと、ひょっとして、サメなのか?」

 近付くにつれ、そのモノの大きさがおかしな事に気が付き、慌てて浜辺から遠ざかる。

 ザッバァァァァーーン!!

「ウワァァーーッ!」

 ドッガァーーン!!

 バタンッ! バタンッ!! バタンッ!

「……………………」

 ザクッ!

「…………このサメ、バカなのか?」

 その体長20メートルを超えるバケモノサメが、何を思ったのか、猛烈な勢いのまま陸地へと突撃して来た。

 ネイチャー系の番組で、シャチが砂浜のアザラシをハンティングするのを観た記憶があるが、コイツ……陸地で動けなくなるって。

 ジタバタする巨体に気をつけながら、同田貫を頭に刺し込む簡単な作業だった。

「海の上なら脅威だったんだろうけど……」



 ・グレートシャーク Cランク

  海に生息する魔物の中でも、非常に獰猛な個体。非常に嗅覚に優れており、数キロ先の獲物の匂いを感知する。
  牙は、鋭利で鋭く武器の素材として使われる。肉は淡白で美味しい。



「美味しいんだ。フカヒレ食べれるかな」

 この鑑定で表示される情報って、何処からなんだろう。必ず食べれるかどうか書いてある気がする。

 動かなくなったグレートシャークの死体を収納する。
 大き過ぎて解体が大変だろうと想像できるけど、食料になるものは確保できる時にしておいた方がいいに決まってる。

 キシャール様やアマテラス様が用意してくれた、無限収納の中に入っている物も有限だからな。




「そうか、東側はダメだな。しかし塩をストックするのはアリだな」
「明日、西側を探索してみて、それから行動するか決めればどうですか? 皐月が塩を錬金術で得るなら、皆んなで行った方がいいでしょう」

 東側の探索から帰って、お義父さんと話し合っていた。

「皐月、錬金術は使える様になった?」
「うん。大丈夫だよ修ちゃん。まだ単純な分解や抽出と合成じゃないと無理だけど、海水から塩を取り出すくらいなら全然問題ないわ」

 僕が北へ南へと走っていた頃、皐月やお義母さんが何もしていなかった訳じゃない。

 特に、治癒術師というジョブをもつ皐月は、回復魔法の練習と、錬金術にチャレンジしていた。

 回復魔法は、佐那が病気に罹ったり怪我をした時の事を考え、最優先で取り組んでいる。

 本当は、調薬も勉強したいらしいが、ポーション類のレシピはジョブのお陰で基本的なものは分かるらしいのだが、肝心の薬草などの素材がないので、泣く泣く後回しにしているそうだ。

「じゃあ、明日は西側を頑張るか」





 翌朝早くから、西へと猛烈なスピードで走るのは、勿論僕の役目だ。

 既に二時間を駆け続けているが、走り続けるのも四日目にもなると、効率の良い走り方を習得するのか、より長距離を移動出来ている。

 そして背丈の低い雑草すらまばらだった荒野に、段々と緑の下草が増えてきた。

「西が当たりか?」

 更に一時間駆け続けると、低くはあるが、ポツポツと低木が姿を見せ始める。

 走り続けて、そろそろ四時間に差し掛かった時、風景に劇的な変化があった。

「やった……、此処なら拠点に出来るかもしれない」

 四時間走り続けた僕の足元には、既に荒野はなく、青々とした草原が広がっている。

 所々に木々も見え、更にかなり遠いが北東には大きな面積の森がある。

 そのまま真っ直ぐ西へと走ると、なだらかな傾斜の丘があり、その頂上付近まで駆け上がると、視界の先に豊かな水を貯える大きな湖と、流れ込む川と流れ出す川も確認できた。

 流れ込む川と流れ出す川の水面が、日の光に照らされキラキラと輝いている。

「丘の傾斜も緩やかだし、此処はアリなんじゃないかな。皐月と佐那も気に入りそうだ」

 水質は分からないが水が豊富に有り、森林資源も心配なさそうだ。耕作に向く平らな土地もある。

「あとは、この周辺に国があるのか。生息する魔物の種類や強さだな」

 美しい自然の風景に上機嫌になった僕は、一刻でも早く皐月たちに知らせてあげたくて、往路以上のスピードで駆け出した。



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