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第一章

五話 婿養子、ダンジョン脱出する

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 結果的に、レベルが18上がる影響は、とても大きい事が分かった。

 僕も三十路を超え、肉体的には如何に衰えないようにするかという鍛錬に移行し、技を研ぎ澄ます時期に差し掛かっていた。

 それが明らかに身体能力が向上しているんだ。それも経験した事のないレベルで。

 例えるなら寝たきりでいた人が、急に普通に動けるようになったくらいの変化だろうか?

 いや、例えようがないか。

 ただ、自分の肉体と感覚が同調するのにわ然程時間は必要なかった。

 これは僕の推測だが、身体能力だけじゃなく、思考速度や反射神経といったものも、同時に向上しているからだと思う。

 この世界のレベルの平均が気になる。




 お義父さんと二人で身体の動きと感覚の調整をしていると、皐月とお義母さんからストップがかかった。

「ちょっと! 修ちゃん! お父さんも、いい加減にしてちょうだい!」
「お父さん、いつまでこの陰気な場所にいるのですか。早くお日様の下に行きましょう」
「あ、ごめんなさい」
「う、うむ、済まんな」

 武芸の腕がどうでも、奥さんには逆らえないのは千葉家のみならず、世のお父さんに当て嵌まると思う。

「修二君、同田貫はどうだね」
「そうですね。何時も使ってた居合用のものより、なんかしっくりくる気がします」
「では地上に脱出する準備をするか」
「お義父さん、その前にキシャール様が言ってたダンジョンコアを回収しましょう」
「ふむ、では私が念の為、皐月や佐那の護衛につこう。修二君、頼めるかね」
「分かりました」

 この部屋の中に魔物の気配は感じないが、未知の場所で皐月たちだけを残しておけない。
 僕はお義父さんに皐月たちを任せてダンジョンコアの回収に向かう。




 ボス部屋の奥の小部屋にそれは有った。

 台座にソフトボールくらいの大きさの丸い石と言えばいいのか、黒い水晶玉の様な物が有った。

「これがコアか……」

 恐る恐る手に取ると、手に持つ石から大きな力を感じた。

 そしてその力と同じ様なものが、自分の中にも存在する事が分かる。

〔魔力感知スキルを取得しました〕

 頭の中に無機質なアナウンスが流れ、コアが内包する力が魔力だと理解する。

 危険な感じはしなかったし、キシャール様もコアを回収する様に言っていたので、コアを持っているだけで危険はないだろう。

 此処でずっと試してみたかった収納スキルを試してみる。

 無限収納スキルを意識すると、コアを持つ手の側に黒い穴が開く。

「おお! びっくりした!」

 恐る恐る黒い穴に手を入れてみる。

「あれ? 中に色々と入ってるぞ」

 無限収納の中に手を差し入れると、頭の中に入っている物のリストが浮かんだ。
 そう言えばアマテラス様が言ってたな。他にもキシャール様も色々と入れておいてくれたんだろう。僕の無限収納の中には、水や食料に始まり各種工具類に加え木材などの材料も一杯入っていた。
 それも結構な量が入っている。

「そうか。ダンジョンの場所が、人の来ない僻地だって言ってたな。水や食料がなかったら詰んでたな。色んな工具類や木材は、自分で家を建てろって事なのかな?」

 何は兎も角、アマテラス様やキシャール様が気を利かせてくれて本当に良かった。
 僕や皐月どころか、お義父さんやお義母さんも、その辺りまで気が回ってなかったと思う。

「しかも皆んなの替えの下着や服、毛布やテントにランプと、なんだか色々とあるな」

 そのまま食べれる様な保存食だけでなく、新鮮な食材と鍋やフライパン、コンロまである。
 コンロやランプに至っては、魔力で動く魔道具というらしい。


「いや、先にコアを収納だった」

 手に持っていたコアを黒い穴に入れてみる。

「おっ、本当に無くなったよ」

 コアを入れ、無限収納スキルを閉じるイメージをすると、無事に空間に空いた黒い穴は消えた。

「取り出すには……っと、大丈夫みたいだな」

 もう一度、収納スキルを意識すると、僕が思った空間に黒い穴が開いた。
 手を入れてみると、頭の中に収納したコアがリストに表示される。リストに表示されたコアを選択すると、手にコアが握られていた。

 それから何度か、コアの出し入れをして収納スキルの使い勝手を確かめた。




 ボス部屋へと戻ると、皐月たちが宝箱を前にワイワイと賑やかに話していた。

 皐月とお義母さんの機嫌が良いので、宝石でも入ってたんだろうか。

「戻りました」
「戻ったか修二君、それで、コアとやらは有ったのか?」
「はい。回収しました」
「あっ、修ちゃん! そんな事より、宝箱だよ、宝箱!」
「修二君、宝石よ、宝石! 金貨も入ってたわよ!」

 皐月とお義母さんの興奮した様子に、僕とお義父さんは顔を見合わせて苦笑いする。

 こんな時の千葉家の女に逆らっちゃダメだと知っている。

「他にはどんな物が入ってたんだ? キシャール様が言うには、生まれたばかりのダンジョンだから、たいしたものは入ってない筈だけど」
「神様の言う生まれたばかりって、私たち人と比べると、感覚が違うんじゃないかしら。これでたいした事ないんだったら、普通のダンジョンの中には、どんなお宝が眠っているのかしら」
「本当ね。折角だから、ダンジョン行ってみる?」
「イヤイヤ、お義母さん、危ないですから」
「やあね。冗談よ、冗談。ホホホホッ」

 皐月から見せられた宝箱の中には、確かに大粒の宝石や金貨が入っていた。日本で売れば億万長者間違いなしだろう。

 でも、流石にダンジョンへ行こうとするのは、ナシだと思う。

 冗談だと笑っているお義母さんが、半分本気なのは、お義父さんの反応を見れば分かる。

「取り敢えず無限収納に中身を入れて、ダンジョンから出よう」
「あっ、修ちゃん、私にさせて」
「いいけど、スキルの使い方分かる?」
「大丈夫! 何度か試したから」

 皐月はそう言うと、宝箱の中身を全て収納していく。



「お金が手に入ったのはラッキーでしたね」
「そうだな。日本でも異世界でも、先立つものは必要だからな」
「あっ、これってアレかな?」

 僕がお義父さんと話していると、皐月が栄養ドリンクくらいの大きさの瓶を手に持っていた。

「皐月、鑑定してごらん」
「あっ、そうだった。鑑定すればいいのね。…………修ちゃん、中級ポーションらしいよ」
「へえ、ポーションって事は、怪我を治すやつだろう? 中級って、どのくらい効くんだろうな」
「さあ、そこまで詳しくは鑑定できないわ」

 結局、宝箱の中に入っていたのは、宝石や30枚ほどの金貨の他に、中級のヒールポーションが二本、一振りのナイフ、そして一枚の羊皮紙だった。

「ミスリルナイフだって。凄く切れそうね」
「羊皮紙は……、スキルスクロール! 土魔法が使える様になるよ!」



 名前 ミスリルナイフ

 等級 レア

 ・自動修復、靭性強化、腐蝕耐性

 ミスリル製のナイフ。魔力の通りが良く、切れ味も一級品。


 名前 スキルスクロール(土魔法)

 等級 レア

 ・土魔法の適性を保つ者が使用すると、土魔法スキルを得る。既に土魔法スキルを保つ者が使用すると、スキルレベルが上昇する。


 僕達が宝箱の中身を確認していると、佐那の呼ぶ声が聞こえてきた。

「まま! パパは! パパはどこ!」

 肝が太いのか、二度寝してた佐那が起きたようだ。

「ハイハイ、起っきしましたか。パパはここに居ますよ」
「パパ! パパ!」

 佐那を抱いていたお義母さんから受け取る。

「パパ、ここどこ?」
「何処だろうね。パパもよく知らないんだ」
「おうち、かえらないの?」
「そうだね。暫くお出かけしようか」
「おでかけ! サナ、おでかけするの!」
「ハイハイ、佐那はママのところにいらっしゃい」

 皐月に佐那を渡す。

「修二君、そろそろ此処を出よう」
「そうですね。その前に、車を収納しておきますね」

 そうお義父さんに断ってから、車へと近付き触れて収納する。

「ママ! くるまがきえた!」
「大丈夫よ佐那。車はパパがナイナイしたのよ」
「パパすごーい!」

 石造りの広い部屋という初めて見る光景に、佐那は興奮している。

 大人の僕たちは、ダンジョンという事で、感動よりも未知の不安や恐怖心が先にくるんだろうけど、まだ2歳の佐那は好奇心一杯でキョロキョロと部屋の中を見ている。

「修二君が先頭、間に皐月と幸子、殿を私が努めよう」
「ジィジ、サナはぁ?」
「佐那はママと一緒にいるのだぞ」
「はぁーい! サナ、ママといっしょ!」

 本来、魔物と遭遇するかもしれない、緊迫したダンジョンの脱出行だけど、佐那が居るだけでホッコリとした空気になる。

「じゃあ、行きます」

 僕はいつでも同田貫を抜けるよう鯉口を切り、入り口だろうボス部屋の大きな扉をに手を掛ける。

 分厚い石の扉だけど、それ程の抵抗もなく開き、比較的広い真っ直ぐの通路に出た。

「何も居ないみたいですね」
「うむ、私も気配は感じない。修二君、慎重に進んでくれ」
「了解です」

 この階層は、ボス部屋までの一本道だったらしく、迷わずに階段までたどり着けた。

 その間、魔物も出没する事はなかったのだが、ダンジョンと言えば罠などがある可能性もある。慎重に慎重を重ねて進んだので、ペースとしてはとてもゆっくりだ。

 階段を上がり、此処からが本格的にダンジョンの探索になる。

 九階層で初めて魔物との遭遇を果たした。

「修二君は右を!」
「はい!」

 曲がり角の向こうに、二つの魔物の気配を察知した。
 お義父さんが後方から駆けだしながら僕に指示を出す。

 僕もお義父さんに並ぶように駆けだした。

 魔物はまだ僕たちに気付いていない。

 角を曲がった先に居たのは、大きな狼が二頭だった。

 漆黒の毛に赤い目を輝かせ、僕たちに気付くと襲いかかろうと走り出す。

 大きな口を開けて襲いかかる狼を、すれ違い回避すると同時に、僕の腰から同田貫が鞘走る。

 ドサッと重なる音がして、二頭の狼が同時に首を落とされ地面に転がった。

 流石お義父さんだ。余裕をもって斬り捨てている。

「おっ、成る程、ダンジョンではこの様になるのか」
「なんだか、本当にゲームみたいですね」

 首を落とされた狼が煙のように消え、その後にピー玉くらいの石が残された。

「修ちゃん、大丈夫!」
「ああ、大丈夫だよ」

 皐月とお義母さんが合流する。

「さて、先を急ぐか」
「そうですね」

 気を引き締めて再び歩き始めたのだが、結果的に魔物との戦闘は、あの一度きりだった。

 ダンジョンコアが無くなったからか、魔物の姿は見えず、その代わりに地面には先程の狼が残したのと同じような石と、時折牙や爪、毛皮や錆びたナイフなどが落ちていた。


 結果、佐那が飽きてグズり、あやすのに疲れる事はあったが、何とか数時間掛けてダンジョンの一階層へとたどり着いた。



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