部長と私のカンケイ

桜井 ミケ

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第05話 決断

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 一通り話しをした後、両親は私と部長を二人きりにして出ていってしまった
「…部長、なんでいるんですか?」
  扉が閉まったのを確認して、ずっと聞きたかった事を質問する
 普段の生活を見るに部長は私に恋愛感情など抱いていないはすだ
「…俺に結婚してくれと懇願してきただろ?」
「……は?」
予想外の答えに驚愕し、口をぱくぱくしてしまう
「まさか…忘れたのか?」
「いやいや、私がよりにもよって部長に結婚を懇願?ありえませんって!」
「完璧に記憶から消えているらしいな」
「…いつ、そんな事…」
「お前を家に送った日」
「うそ…」
 あの日はすごく酔っぱらっていたから、そういう妄言を言ってしまっていてもおかしくはない
「こんなところで嘘ついてどうする」
 部長の言葉が追い討ちをかける
 確かにそうだ。ここで嘘をついたって何も得をしない。むしろ、損しかしないだろう
「……そうですよね。ところで、どうして私と結婚なんて…。部長、私なんかと結婚するより、もっといい相手選び放題でしょう?」
 思ったままを口に出し、首をかしげる
「まぁ、確かにな。俺くらいだと相手は選び放題だな」
「…は?」
「…冗談は置いといて。…別にこの縁談の話はお前のためだけじゃない。俺にも得がある」
部長は真面目な顔をして私を見つめる
「…部長の得って?」
「それはいえない」
「何故ですか!」
 目をそらしてもしつこく質問する私にため息をついて仕方ないという風に口を開く
「…教えてほしければこの話に乗るんだな」
「えっ。この話って…結婚の話?」
「それ以外に何がある」
「はは…」
「……ちゃんとお前の親の借金は俺が返す」
「へ?」
 唐突に真面目な顔でそう言うもんだから、変な声をだしてしまった
「…もちろん、結婚するならな。…だが、俺の他にいい男がいたんなら断ってもいい」
「え」
「まぁ、いないだろうが」
「…」
部長の発言に言葉を失う。普段はこんなこと言わないんだけどな…と思いながら
「…佐倉、俺を選べ」
何故かほんの少しだけ本気の色を滲ませた瞳を吸い寄せられるように見つめてしまった








「…それで、茉莉ちゃん、いい男の人、いた?」
 家に帰って、ぐったりする私に母親はニコニコしながら聞いてきた。今日の部長で一応お見合いは全て終わったのだ
「いたか?」
 母の言葉を繰り返す父の顔は期待に満ちている
「お母さんはね、やっぱり吉岡くんがオススメかな!きゃっ」
 「吉岡くんはダントツだねー、でも、川崎さんとこの息子さんもお父さん、推してる!」
「あらー、まぁ、あの人は優しそうな方でしたけどね…やっぱり吉岡くんでしょー」
女子が恋愛トークをするみたいに両親は盛り上がってる
「お父さん、お母さん、吉岡部長は職場の上司なのよ?」
「それがどうした?社内恋愛なんてスリル満天で楽しいじゃないか」
「あのねー…そういう問題じゃ…」
「それで茉莉ちゃんは、結婚したいと思える人、いた?」
父にツッコみを入れている最中なのに母は話しかけてきた
「……うーん」
…全体的に考えて部長でしょ。だけど、部長なんだよね。部長。…貴幸さんもいいんだんだけど…でもなんかちょっと…
…はー。私、結婚したくないんだな。本当は。普通に恋愛結婚したかった。でもそうもいってらんないわ!
 誰か選ばないと家は終わる。家庭崩壊どころではない。…別に結婚をしてからだって恋愛は出来る
「…いなかったら無理に選ばなくたっていいんだぞ」
 父が心配そうに私の様子を伺っている
「…私、決めたよ」
 両親の顔を順番に見て、私は口を開いた









「…というわけでよろしくお願いします、部長」
  次の日の会社終わり私は部長を誘い、今は二人、会社から離れた私の家の近くのカフェにいた
「…あぁ、正しい判断が出来たんだな」
「…なんですか、正しい判断て」
「全てを考慮して俺を選んだことだ」
 部長は向かいの席で腕を組んで私を見た
「…まぁ、はい」
 珈琲に砂糖とミルクを入れながら曖昧に応える
「それで…いくつか条件がある」
「え…条件?」
 そんなの聞いてないんですけど
「あぁ。…一つ目は俺たちのことを会社には秘密にすること」
「…そうですね。仕事に支障が出ると困りますもんね」
「…2つ目は、お互い相手に惚れないこと」
「は?」
 一つ目は理由分かるけど…なんで惚れちゃダメなの?いや、部長になんて惚れることないと思うけど
「…俺は恋とか愛には興味ない。だが、結婚すれば一つ面倒が減る。だから、俺にそういう感情を抱いていないお前にこの話しを持ちかけたんだ」
 部長が何を言いたいのかよく分からないが、どうやら本当に部長にもメリットがあるようだ
「そう…ですか。わかりました。」
「三つ目は、家族だけを呼んで軽い式を挙げる。そして、その日にお前は俺の家で一緒に暮らすこと」
 式?あ、結婚式か…。それより結婚の後にすぐ部長の家に住むって…まぁ結婚したら一緒に暮らすのは当然かもしれないけと…なんか想像つかない。でも、もう決めたんだからこんな条件くらいのまなきゃね
「…わかりました」
 そう言うと、部長は自分の前にあるココアに口をつけた
「あ、でも結婚したこと、美好にだけ教えてもいいですか?」
 慌てて質問すると、部長は「いつもお前といるやつか…」と呟いて少し悩んでいる素振りを見せた
「…」
 様子を伺っていると、部長はカップをテーブルの上に戻し、口を開いた
「…ダメだ。どこから情報が漏れるか分からない」
「…そうですか」
 美好に秘密に…出来るかな
「…誰にもこのことを言うなよ」
「はい…」
 そうしてカフェでの会話は終わった

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