大学生の僕

はるく

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思い出フルスイング

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 午前11時16分。起床。
とっくに1限の授業は終わり、はやくも2限がスタートしている時間だ。
お昼すこしまえのこの時間に目が覚め、目が覚めてもなおベッドに寝転がり、腹がへってはいるが、何か買いに行くのが面倒なのでベッドからでない。ただごろごろ。いわば一人暮らしの大学生が朽ち果てていった結果生じる、最悪の私生活を僕は今行っている。
僕は今日も心で唱える、「今日はホリデイ」と。有名なミュージシャンがそんな歌詞の歌を歌ってくれたおかげで、なんだか自分のしている行為が正当化されているような気分になる。
ここ最近の僕は、そこらへんのニートの兄ちゃんよりも怠惰で惰性的な日々をすごしている。
いつでるかわからないやる気の噴水をただ待っている状態だった。
そんな堕落生に僕がなりさがってしまったのにも理由がある。最近の僕にふりかかった災難が少しひどすぎたのだ。災難は短いスパンで立て続けに二つ重なっておこった。




 10月9日、土曜日、午後11時15分、スマホから鳴り響く着信音で目覚めた。電話にでると、つきあって5年目になる彼女からだった。
「もうあなたを性的な目でみれなくなったわ」
と彼女は言った。唐突すぎた。おきたばかりの僕の頭の中では理解できないその十数文字の言葉が、僕の青いスマホから音波となって僕の耳に届いた。ハテナでいっぱいの僕に彼女は、
「新しく好きなひとができたから、・・・・・わかれてほしい」
とおいうちをかけた。
お互い無言のまま何秒かすぎた。
つきあって5年にもなるのにそれはないだろ。よく考えてだした結論なのか。てゆーか、キスもセックスもまだしたことないのに君が僕を性的な目で見ていたことなんてあったのか。いろんな疑問が僕の頭をよぎったが、僕は口にださずにいた。
「そうか、わかった。今までありがとう。」
僕はそう言って電話をきった。心に穴があいたようなそんな気分だった。

 10月10日、日曜日、午後3時54分、実家で飼っていたゴールデンレトリバーのマチが死んだと連絡がはいる。とうとうきたか、そう思った。僕がまだ5歳だったころに家に来たマチを、僕はずっとかわいがっていた。僕が大学にはいって、一人暮らしをしていくことが決まったころ、マチはもうよぼよぼのばあちゃん犬で、いつ死んでもおかしくない状況だった。だから、心のなかでは準備ができていたつもりだった。でも、いざマチが死んだとなると、お別れは想像以上に僕にショックを与えた。昨日の失恋とは違うなにかよくわからない寂しさを僕は感じていた。

 彼女もマチも僕にとって、とても大事な存在だった。たくさんの思い出を振り返ると、なんだかつらくなった。もうそこには戻れないと思うと苦しかった。考えるのをやめるために眠った。目が覚めても、そのまま目を閉じ、眠る努力をした。案外いつまででも眠れるもんだった。




 僕が眠れる森の少年となって5日目の夕方、友人の東が僕のアパートのインターホンをならした。無視しているのに6,7回呼び鈴を鳴らし続けるのは彼ぐらいしかいない。しかたなくでると、僕の顔をみて東が言う。
「おまえ、やつれたなー。」
僕はドアを閉めた。
東がドア越しにしつこく謝ってくるので、しかたなくまた開ける。
そしてまた東が言う。
「見たい映画があるんだけど、一緒に行かへん?」
僕はまたドアを閉める。
また東がドア越しにわめく。





東に連れられ5日ぶりに外に出た。なんだか外は寒くなっていて、季節においてかれているように感じた。映画館へ行くために地下鉄にのり、久しぶりに人に囲まれた。僕が世界と拒絶している間もこの人たちはいつもと変わらぬ平穏な日々をすごしていたのだろうと思うと、なんだか不思議な気持ちになった。所詮僕は世界の70億人の人間の1人で、僕の人生のことなんて他の人々は何も気にしていない。そう考えると、なんだか楽になった。
「次の駅で降りるで。」
と僕の耳元で東が話す。
東の肩を意味もなく一発なぐっておいた。


映画はつまらなかった。もしくは今の僕にとって退屈なものだった。映画好きの東が言うことには、最近の映画にはないしんみりとした時間の流れを感じることのできる良作だったらしい。要するに退屈な作品なのだ。僕はそう解釈した。

映画館を出る際に、映画の半券を捨てようとゴミ箱に手をのばすと、東が
「おい、なにしてんねん!映画の半券見せれば、隣にあるバッティングセンターで一回ただやねんで!」
となぜかいらいらする声で言う。バッティングをする気分でもなかったが今日はこいつに付き合おう、僕はそう思い半券をポケットにしまった。

映画館の隣のバッティングセンターに行く途中も、東は最近の学校での出来事をずっと僕に話し続けていた。ただ相槌をうつだけの僕に彼は長々と話し続けた。そして最後にこう言った。
「なんやかんやで今のオレは人生楽しんでんねん。」
東の横顔がすがすがしかった。

そんな横顔を見て僕は決心した。
バッティングセンターを出るときまでには、元気な僕に戻ってやると。



平日夜8時半のバッティングセンターにはお客さんは僕たちしかいなかった。まだどこの打席に入るか迷っている東をおいて、僕は映画の半券をおじちゃんにわたし、一番はじにおいてある、右打ち120キロの打席に向かった。

冴えない僕を好きだと言ってくれた彼女。小さいころから一緒に暮らしてきたマチ。二人とはたくさんの思い出があった。二人の存在が僕からなくなるのが寂しくてしょうがなかった。でも前に進んでかなくちゃいけない。
涙が頬をつたった。
僕はスタートボタンをおして打席に入った。
涙で球は見えなかったが、力いっぱいスイングした。
その夜の僕の20回の大きな空振りは、確かに僕をとても強くした。





 次の日、朝7時のアラームとともに僕は起床し、あついシャワーをあびてから学校に行った。







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