12 / 13
第壱蟲 『抑蟲』
彩蓮
しおりを挟む
「ん?」
キキョウの花束を手に、家路つくナダレ。
だが、何やら周囲の景色がオカシイ。
「なんだか視界がぼやけているような。」
日々通っている筈の道。
だが何かが『欠けて』ぼやけている。
いつもと変わらぬ風景の筈なのにどこか『鮮やかさ』が足りない。
「……疲れからだろうか?」
ナダレは眉間にしわをよせ、首を傾げる。
そして赤く光らぬ信号を見、道路を横断した。
と彼は思っていた。
ごすっ
彼の右半身に何か巨大な物体が追突する。
「え?」
体の内部からミシミシと骨のしなる音が鳴り響き、刹那に強烈な力で吹き飛ばされる。
彼の体は宙を舞い、景色は回転する。
そしてわけのわからないまま地面へと叩きつけられた。
周囲からは誰とも知れぬ悲鳴が聞こえ、顔面に擦り付けられたアスファルトからはごつごつとした肌触りと冷たさを感じる。
ナダレの身体は血溜まりに浸され、意識はだんだんと朦朧としている。
だが、赤く色付いている筈である体液は、色の抜け落ちたように白く、さながらミルクでも染み出している様にも見えた。
しかし不思議と痛みは感じず、寧ろ心地よささえも感じる。
「そうか……これが……罰か……。」
薄れゆく意識の中、彼はそのように口漏らす。
身体が鉛のように重く、指先一つ動かせない。
己から流れ出る液体が、花束に染み浸る様を眺める事しかもう出来ない。
「ごめんな……ユキ……。」
脳裏に浮かぶは娘の姿。
初めて目にした小さな命。
愛を誓った一人の女性。
己を導いたかつての恩師。
父と母。
後悔と感謝が入り混じり、自然と笑みと涙がこぼれる。
走馬灯の最中、ふと見慣れないモノが映りこむ。
彼の目に最期に映ったのは娘の姿でも、妻の姿でも、はたまた既にこの世を去っていた父と母の姿でもなかった。
『蟲』。
彼に巣食っていた『抑蟲』である。
彼の虚ろな眼前には『蟲』がいた。
「何……だ……この……虫……?」
蟲は何を語るわけでもなく、こちらをジッと見つめている。
「どうして……俺……を見て……いる……?」
蟲に感情などある筈無い。
だがその蟲はこちらを憂う様な雰囲気を漂わせているように思えた。
「どう……して……そんな……に……悲し……そうに……」
救急車のサイレンの鳴り響く中、ナダレの視界は閉じ暗黒へと染まった。
キキョウの花束を手に、家路つくナダレ。
だが、何やら周囲の景色がオカシイ。
「なんだか視界がぼやけているような。」
日々通っている筈の道。
だが何かが『欠けて』ぼやけている。
いつもと変わらぬ風景の筈なのにどこか『鮮やかさ』が足りない。
「……疲れからだろうか?」
ナダレは眉間にしわをよせ、首を傾げる。
そして赤く光らぬ信号を見、道路を横断した。
と彼は思っていた。
ごすっ
彼の右半身に何か巨大な物体が追突する。
「え?」
体の内部からミシミシと骨のしなる音が鳴り響き、刹那に強烈な力で吹き飛ばされる。
彼の体は宙を舞い、景色は回転する。
そしてわけのわからないまま地面へと叩きつけられた。
周囲からは誰とも知れぬ悲鳴が聞こえ、顔面に擦り付けられたアスファルトからはごつごつとした肌触りと冷たさを感じる。
ナダレの身体は血溜まりに浸され、意識はだんだんと朦朧としている。
だが、赤く色付いている筈である体液は、色の抜け落ちたように白く、さながらミルクでも染み出している様にも見えた。
しかし不思議と痛みは感じず、寧ろ心地よささえも感じる。
「そうか……これが……罰か……。」
薄れゆく意識の中、彼はそのように口漏らす。
身体が鉛のように重く、指先一つ動かせない。
己から流れ出る液体が、花束に染み浸る様を眺める事しかもう出来ない。
「ごめんな……ユキ……。」
脳裏に浮かぶは娘の姿。
初めて目にした小さな命。
愛を誓った一人の女性。
己を導いたかつての恩師。
父と母。
後悔と感謝が入り混じり、自然と笑みと涙がこぼれる。
走馬灯の最中、ふと見慣れないモノが映りこむ。
彼の目に最期に映ったのは娘の姿でも、妻の姿でも、はたまた既にこの世を去っていた父と母の姿でもなかった。
『蟲』。
彼に巣食っていた『抑蟲』である。
彼の虚ろな眼前には『蟲』がいた。
「何……だ……この……虫……?」
蟲は何を語るわけでもなく、こちらをジッと見つめている。
「どうして……俺……を見て……いる……?」
蟲に感情などある筈無い。
だがその蟲はこちらを憂う様な雰囲気を漂わせているように思えた。
「どう……して……そんな……に……悲し……そうに……」
救急車のサイレンの鳴り響く中、ナダレの視界は閉じ暗黒へと染まった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説


王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
すべて実話
さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。
友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。
長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*

本当にあった怖い話
邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。
完結としますが、体験談が追加され次第更新します。
LINEオプチャにて、体験談募集中✨
あなたの体験談、投稿してみませんか?
投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。
【邪神白猫】で検索してみてね🐱
↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください)
https://youtube.com/@yuachanRio
※登場する施設名や人物名などは全て架空です。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる