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第9部 夢の先にあるもの

5-10それでも私たちは果てなき夢を追い続ける

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 私は、リビングでソファーに座り、お茶を飲みながら、テレビを見ていた。その番組では、異世界の話題をやっている。ここ最近、若者たちの間で『異世界就職ブーム』が、巻き起こっているようだ。

 主人は、身を乗り出して、真剣に、テレビに見入っていた。なぜなら、番組内で、風歌の特集があるからだ。何でも、ブームの火付け役は風歌で、その足跡そくせきをたどって行くらしい。

 テレビには、風歌の通っていた中学校や通学路、駅周辺の様子が、映し出されていた。ごく普通の見慣れた風景だが、場面が切り替わる度に『これ近所じゃないか!』『おぉ、ここ知ってる!』と、主人は、はしゃいでいる。
 
 場所は変わって、人通りの多い空港。時空航行船の乗り場に繋がる、長い通路が、映し出されていた。レポーターの女性が、ゆっくり歩きながら、色々と説明をしている。

『ここは、今現在「シンデレラ・ロード」と呼ばれています。ご覧ください、通路の途中には、当時、十五歳だったころの、如月風歌さんの像が立っています。「待ち受けにすると幸運が訪れる」として、毎日、多くの人たちが訪れています』

 若者たちが、風歌の像の前に立ち、写真を撮影している場面が、映っていた。皆、笑顔でとても楽しそうだ。

『今、第二の「異世界シンデレラ」を目指し、多くの若者たちが、エレクトラに飛び立っています。中でも、一番人気は「シルフィード」です。やはり、風歌さんの影響が、大きいと言えるでしょう』

『ちなみに、向こうの世界に行く際に、ある事をやるのが、若者たちの間で、流行っているのですが。みなさんは、ご存知でしょうか?』

『シルフィードの聖地〈グリュンノア〉に行くには、特急便で二時間、通常便で三時間半、ナイトラインだと八時間かかります。ナイトラインは、非常に時間が掛かり、あまり人気がなかったのですが、ここ最近、ほぼ満席状態になっています』

『というのも、風歌さんにあやかって「面接の前日に夜行便で向かうと、合格する」と、言われているからです。実際、そのお蔭で合格した人たちも、たくさんいるようです』

『今現在、シルフィードを始め、様々な分野に、この世界の若者たちが、大きな夢を持って、挑戦しています。これからも、次々と『異世界成功者』が、誕生するかもしれません』

 今、若者たちの間で、一番人気が『異世界就職』だ。異世界での成功は、とても夢があり、お洒落で、人生大逆転の可能性があるとして、流行になっているらしい。かつての『アメリカン・ドリーム』のようなものだ。

 一昔前までは、異世界就職など、物凄く非常識で、誰も考えもしなかった。しかし、その非常識な行為を、風歌が、常識に変えてしまったのだ。

「流石は、風歌! 今じゃ、若者たちの、カリスマ的な存在だし。予想の斜め上を行くのは、昔から変わらないよなぁー」
「まったく、世の中はどう転がるか、分からないものね……」

 私は、無邪気に話している主人に、呆れながら答えた。風歌は、主人に似て、能天気で、考えなしの行動ばかりする。そのせいもあって、常識を大切にする私とは、昔はよく喧嘩になっていた。

 でも、案外、そういう非常識な人間のほうが、大きなことを、成し遂げるのかもしれない。過程はどうあれ、結果的には、誰もがうらやむ、輝かしい大成功を収めたのだから――。


 ******


 私が『グランド・エンプレス』になってから、二年半が経過した。時が経つのは早いもので、こちらの世界に来てから、今年で八年目。私は、二十二歳になった。

 エンプレスの就任後は、本当に、目の回るような忙しさだった。あらゆるメディアからの、取材や出演依頼。各種イベントや、パーティーへの参加。数々の講演会や、各種セミナーでの登壇。

 この町だけではなく、世界中の人たちから、注目され、求められた。そのため、私は、年中無休で、世界中を飛び回った。必要としてくれる人がいる以上、私は、その全て想いに、答えなければならないからだ。

 でも、仕事や義務で、嫌々やっている訳ではない。単に、私がやりたくて、やっているだけ。なので、休みが一日もなくても、とても充実した日々を送っていた。

 ちなみに、今日は、久々の休日で、私の自宅の庭で『女子会』をやっている。せっかくなので、同期の友人だけではなく、先輩や後輩のシルフィードも、お誘いした。なので、大人数でワイワイと、とても賑やかなパーティーになっている。

 参加したのは、ナギサちゃん、フィニーちゃん、キラリスちゃんの、おなじみの同期メンバーたち。

 リリーシャさん、ツバサさん、メイリオさん、ミラージュさん、カナリーゼさんの、お世話になっている先輩たち。

 あとは、クリスちゃん、ヴィオちゃん、セラちゃん、ユメちゃんの、私の可愛い後輩たちだ。

 新旧シルフィードたちが集まり、とても華やかなパーティーになっていた。中には、凄く久しぶりに会う、懐かしい人もいる。私は、一人一人に、元気に声を掛けて行った。

「リリーシャさん、お店のほう、物凄く大好評ですね。私もこないだ、ケーキを食べましたけど、滅茶苦茶、美味しかったです」
「ありがとう、風歌ちゃん。お陰さまで、だいぶ、軌道に乗って来たわ」

 リリーシャさんは、以前にもまして、柔らかなで素敵な笑顔で答えた。昔と違って、とても自然な笑顔になった気がする。

 彼女は、私が、エンプレスに就任したあと。私に仕事の引継ぎをすると、シルフィードを引退した。でも、アリーシャさんの事故直後のような、後ろ向きな理由ではない。新しい道に挑戦するための、前向きな引退だ。

 リリーシャさんは、大陸に渡り、おばあさんのお店で、パティシエの修行をすることになった。子供のころからの、長年の、本当の夢を果たすためだ。

 基礎からみっちり鍛えられ、その後、この町に戻って来て〈東地区〉に〈天使の羽〉という、洋菓子店を作った。それが、今からちょうど、四ヵ月前だ。

『王室御用達』の、大陸の名店の系列。加えて『元クイーン』のお店ということもあり、開店前から、大きな話題に。開店後は、滅茶苦茶、美味しくて、あっという間に、口コミで広がった。

 今では〈グリュンノア〉のスイーツ店の中でも、トップクラスの大人気。毎日、長蛇の行列ができており、大盛況だ。

 このお店のお蔭で〈東地区商店街〉は、若者が増え、さらに、お洒落なお店や、有名チェーン店も進出。今では、すっかり、活気のある商店街になり、観光名所の一つになりつつある。

「ユメちゃんも、すっかり、仕事に慣れたみたいね」
「はい。風ちゃん……いえ、風歌先輩の、ご指導のお蔭です」
 ユメちゃんと、リリーシャさんは、楽しそうに話していた。

 エンプレスに就任する少し前から、私は、リリーシャさんに、経営の仕事の、手ほどきを受けていた。リリーシャさんが引退したら、全て、私がやらなければならないからだ。

 でも、元々数字は苦手なので、想像以上に大苦戦。一応、覚えたは覚えたんだけど。あまりに、仕事に時間が掛かり過ぎていた。やはり、頭を使う仕事は、根本的に、向いていないらしい。

 それを、ELエルで、ユメちゃんに話したところ。『手伝ってあげる』と、学校の放課後や、休みの日に、アルバイトで、来てくれることになったのだ。

 しかも、私が苦戦していた仕事を一瞬で覚え、完璧に、しかも、物凄いスピードでこなすようになった。流石は、名門校で成績トップの秀才だ。その後、学校を卒業して〈ホワイト・ウイング〉に、正式に入社することになった。

 ユメちゃんとは親友なうえに、賢くて、ずば抜けて優秀だし。私としては、滅茶苦茶、嬉しかったんだけど。首席卒業の彼女は、大手シルフィード会社にも、楽々入れるだけの能力があった。実際、色んな会社から、お誘いがあったそうだ。

 それに、うちで働けば、アリーシャさんの件もあって、嫌なことを思い出すかもしれない。なので、考え直すように、言ったんだけど。彼女は、頑として聞かなかった。

 結局、ユメちゃんは、全てのお誘いを断って、うちにやってきた。今は二人で、毎日、せっせと、会社を切り盛りしている。

 彼女は、順調に昇進し、今では『エア・マスター』だ。飲み込みが早いし、やる気も根性あるので、もしかしたら将来、大物シルフィードになるかもしれない。

「ナギサちゃん、最近、物凄くあちこちに出ているね。こないだの『超豪華クルーズ旅』の番組、MVで見たよ」

「最近、その手の依頼が多いのよ。お蔭で、観光してばかりだわ。私は、楽しむ側ではなく、お客様を案内する立場なのに」

 ナギサちゃんは、現在『シルフィード・クイーン』だ。最近、お母さんと一緒に、雑誌やMVによく出ている。以前、ある番組で親子出演して以来、大人気になった。今では『金と銀の薔薇親子』『世界一のセレブ親子』なんて言われていた。

 二人とも美人なうえに、気品があり、並んでいる姿は、物凄く絵になる。お蔭で、セレブの代名詞にもなっており、豪華客船の旅や、高級レストランの食レポなど。セレブ系の旅行やグルメの番組に、いつも二人で出演している。

 ナギサちゃんは、シルフィードの仕事がメインなので、不満を言っているけど。それでも、どことなく嬉しそうだ。お母さんと一緒にいる時間も増え、最近は、物凄く仲がいいらしい。

 あと、仕事の完璧さは、相変わらずだ。今では『史上、最も完璧なシルフィード』と、言われている。美しさや気品にも、さらに磨きがかかり、本当に、誰よりも完璧なシルフィードだと思う。

「フィニーちゃんも、最近は、MVで大活躍だね。物凄いペースで出てるけど、体は大丈夫?」
「全然、へーき。ただで、おいしいもの一杯、食べれるから。いくらでも、大丈夫」

 フィニーちゃんも、昇進して、現在は『シルフィード・クイーン』だ。でも、昔と、あまり変わった感じがしない。相変わらず、よく食べるし。そもそも、上位階級になった経緯も、大食い動画が、大ブレイクしたからだ。

 その後も、大食いやグルメレポートの動画は、大好評。今では、様々なグルメ番組や、グルメ雑誌に出ている。また、数々の『デカ盛りグルメ』を制覇し、大食い大会でも、無敗のチャンピオンだ。

 彼女が、食べている姿を映すだけで、視聴率が爆上がりするらしく、あちこちの番組から、引っ張りだこになっている。

 また、フィニーちゃんは、すでに、二十歳を越えているのに、昔と体形が変わらず、小柄なうえに、物凄く童顔だ。今でも、子供に間違らえることがあるらしい。なので、そのカワイイ見た目も、人気の要因だ。

 もちろん、シルフィードとしても、大人気。美味しい物を求めてくる人は、みんな彼女を指名して来る。グルメ好きの人たちの、アイドルみたいな存在だ。今では『大食いクイーン』とか『世界一のグルメマスター』なんて呼ばれている。

「キラリスちゃん、最近、調子はどう? こないだの試合、凄かったね。もう、ミラージュさんも、超えたんじゃない?」
「まぁ、調子はいいけどな。でも、ミラ先輩は、別次元の強さだからなぁー」

 キラリスちゃんは、シルフィードと兼業で、MMAの『プロ格闘家』を続けている。今では、彼女の名前を知らない人はいないぐらいの、超人気格闘家だ。彼女も、昇進して『シルフィード・クイーン』になった。二つ名は『音速の勇者ソニックブレイブ』だ。

 ちなみに、昨年、彼女の師匠だった、ミラージュさんが引退。そこで、空席になったチャンピオン位をかけて、長年のライバルだった、ミシュリー選手と、戦うことになった。

 激しい死闘の末に、見事に、キラリスちゃんが勝利し、現在は、MMAの『アンリミテッド・スタイル』で、世界チャンピオンだ。二人続けて、世界チャンピオンを出した『ATFジム』は、入門者が殺到しているらしい。

 彼女のスピードを活かした、テクニカルな戦いは、人々を魅了し『世界最速の格闘家』『スピードスター』などと、言われている。

 なお、現在、MVの『戦隊もの』の主人公で出演しており、子供たちの間で『正義のヒーロー』として、滅茶苦茶、人気がある。超一流の格闘家であるとともに、正義感の強い性格もあって、シルフィードとしても、大人気だ。

「ツバサさん、最近、物凄い大活躍ですね。あらゆる番組で、見かけますし。ドラマも、滅茶苦茶、評判いいですし」

「いやー、意外と向いてたのかもねぇ、この仕事。人を喜ばせるのが好きだから、つい張り切って、演技しちゃうんだよね」

 ツバサさんは、以前、ある舞台劇に出たところ、大評判に。その後も、様々な舞台に出ている内に、今度は、MVのドラマにも出演。瞬く間に、大人気俳優になった。今は、シルフィードを引退し、プロの俳優業に専念している。

 ツバサさんは、何といっても、カッコよくて、昔から、女性に圧倒的な人気があった。俳優になってからは、その見た目と、演技力で、さらに人気が高まった。また、外見だけでなく、物凄くユーモアがあり、話術が巧みだ。

 なので、最近は、バラエティー番組でも、引っ張りだこ。ドラマ・バラエティー・CMなど、いたるところで、ツバサさんの姿を見かける。今では、知らない人は誰もいないぐらいの、世界的な人気俳優だ。

 現在は、人気の朝ドラの主役をやっており、新作映画の撮影も行われている。これから、ますます、人気になりそうだ。元々明るい性格で、ノリがいいし。目立つのも大好きなので、まさに、天職だと思う。

「メイリオさん。こないだは、ハーブティーを送って下さって、ありがとうございました。お店のほう、大盛況みたいですね」
「あくまでも、趣味の延長線なのだけど。沢山の人に喜んで貰えて、嬉しいわ」

 メイリオさんは、ハーブ専門店〈癒しの風〉を開店した。ハーブティーや、ハーブを使ったお菓子、アロマなどの売り場と、ハーブ料理が食べられるレストランが、併設されている。

 メイリオさんは『ハーブマスター』と言われ、以前から、ハーブ愛好家としても有名だった。それもあってか、一瞬で人気店に。特に、ハーブを使ったスイーツは、開店前に並ばないと、買えないぐらいの、大人気だ。

 最初は〈西地区〉にオープンしたが、その後、各地区に一店舗ずつ出店。それぞれのお店ごとに、特徴を持たせることで、さらに大人気に。今では、大陸にも出店し、続々と数が増えている。

 現在は、料理番組や料理雑誌に、多数、出演。半年前には『世界ハーブ協会』の役員になり、ハーブの良さを広めるため、講演会なども行っている。もちろん、シルフィードとしても、相変わらずの、人気ぶりだ。

「ミラージュさん、最近は、色んな番組や雑誌に、出てますよね。CMでも、よく見かけますし」

「あんま、取材やMV出演は、好きじゃないんだけど。一応、MMAの広告塔でもあるし、喜んでくれる人もいるからな。でも、やっぱ俺は、リングに立ってるほうが、性に合ってるよ」

 ミラージュさんは、MMAを『十二連覇』したところで『永世チャンピオン』の称号を授けられた。それと同時に、ファンたちに惜しまれながらも、あっさり引退。

 特に、ケガなどをした訳ではなく『やるだけのことはやったから、これからは後輩の指導に専念する』と、引退の際に、彼女は言っていた。

 結局、ミラージュさんは、デビューから引退まで、全戦全勝。ただの一度も、負けたことはなく、リングに倒れたこともなかった。そのため『常勝不敗の武神』『史上最強の格闘家』と、非常に高い評価を受け、生きた伝説となっていた。

 引退後は、MMA協会の理事の一人になり、今は『ATFジム』で、強化選手たちのトレーナーをやっている。また、格闘技はもちろん、様々なスポーツで、人気解説者として、MVに出演していた。

 最近は、CMやバラエティー番組にも、多数、出演している。サッパリした性格が、物凄く人気なのだ。

 なお、トレーナーとMV出演が忙しく、最近は、予約を大幅に減らしているが、現役クイーンとしても、大活躍していた。当然だが、半端なく人気があり、常に予約が殺到している。

「カナリーゼさん、また、会社を移転して、大きくなったんですよね。MVもあるから、大変じゃないですか?」

「お蔭さまで、たくさんのお客様が、来てくれているわ。従業員も、だいぶ増えたし。まぁ、MVのほうは楽しいし、レギュラーになっちゃったから。いまさら、辞められないのよねぇ」
 
 カナリーゼさんは、現在『シルフィード・クイーン』だ。私が、エンプレスになって、数ヵ月後。彼女は、念願の『スカイ・プリンセス』に昇進した。二つ名は『陽光の笑みサンスマイル』だ。なお、彼女の昇進は、大変な話題になった。

 というのも、二十五歳での上位階級への昇進は、物凄く異例だったからだ。今までは『十代で芽が出ないと、もう駄目だ』と、言われていた。その常識を覆し、見事にプリンセスとなり、その一年後には、クイーンにまで昇進。

 彼女の上位階級への昇進後、シルフィードの離職率が、大幅に下がった。今までは、十代で上手く行かない場合、辞めてしまう人が多かったが、彼女は、ベテラン・シルフィードの、大きな希望になったのだ。

 元々〈シュガー・キャンディー〉は、うちと同じ、個人企業だった。だが、彼女が昇進後、爆発的な人気になり、少しずつ、会社の規模を大きくしていったのだ。今では、社員二十人の、中堅企業にまで成長した。

 あと、料理研究家として大人気の、元シルフィード・クイーンのお母さんと、今は一緒に、色んな料理番組に出ている。明るく笑顔が素敵な親子として、大人気だ。様々な食品CMにも出演し、バラエティー番組でも、よく見かける。

 ふと視線を動かすと、奥のほうにある、小さなテーブルには、クリスちゃん、ヴィオちゃん、セラちゃんの、三人の後輩たちが集まって、楽しそうに話をしていた。彼女たちは、性格も会社も違うけど、同期で、とても仲良しだ。

 彼女たちは、無事に『エア・マスター』に昇進し、今では、立派な一人前。まだ、お客様を見つけるのに、苦戦しているみたいだけど。今後、どんどん成長して、いずれは、立派なシルフィードになると思う。

 最後に、私は、というと。エンプレスになってから、しばらくは、あまりの忙しさに、振り回されていた。

 私は、リリーシャさんから〈ホワイト・ウイング〉を受け継ぎ、社長になった。ただでさえ、経営業務で忙しい中、予約が殺到し、半年先まで、予約が埋まっている状態。それに加え、雑誌の取材・MV出演・イベント・パーティー・講演会など。
 
 とにかく、やることが多すぎて、ロクに休憩すら、とれない状態だった。でも、途中から、だんだん慣れて来て、色んなことに手を出し始めた。

 まず、最初に始めたのが、被災地・孤児院・老人ホームなどへの慰問。ボランティア活動をしながら、たくさんの人たちと触れ合った。

 その次にやったのが、あるイベントの企画だ。私が、まだ見習いのころ。車いすの少女のエリーちゃんが、自力で〈サファイア・ビーチ〉に向かう挑戦を、お手伝いしたことがあった。その後も、私は彼女と、ちょくちょく、お出掛けしていた。

 その際に『また海に行ってみたい』と、言っていたことがあった。なので『どうせなら、同じ状況の人たちと一緒にやってみたら?』と、提案した。珍しい病気とはいえ、フリージング病の人は、世界中にいるからだ。

 ただ、体が不自由な人が、長距離を移動するには、手助けしてくれる人が、たくさん必要だった。さらに、人数が多い場合、交通規制なども、必要になって来る。そこで、私が〈行政府〉に掛け合ったところ、快く協力してくれることになった。

 また、議会で話し合った結果『海を見る日』という、正式なイベントとして制定。〈行政府〉の職員や、たくさんのボランティアの人たちの協力によって『車いすマラソン』が、開催されることに。

 ちなみに、スタート地点は、エリーちゃんの家の牧場だ。また〈行政府〉の配慮により、未舗装だった道が、全て綺麗に舗装された。世界中から、車いすの人たちが集まり、第一回目は、無事に成功。

 この際に、私が作ったのが『明日への翼』という団体だ。難病の人や、ボランティアの人たちで構成されており、車いすマラソンに加え、各種シンポジウム、懇親会などを行っている。

 あと、私はもう一つ〈行政府〉に、あるお願いをした。それは『フリージング病』の、治療研究の協力依頼だ。

『フリージング病』は、かつて『大地の魔女』の命をも奪った難病で、未だに、治療法が確立されていない。これも、議会に通され、議論の末『国家プロジェクト』として可決された。

 現在『第二次シルフィード・プロジェクト』として、世界中から、一流の研究者たちが集められ、日々研究が行われている。いつか、治療法が確立されれば、皆、普通の生活が出来るようになり、自分の足でも、歩けるようになるはずだ。

 あと一つ、私が、精力的に取り組んだのが、マイアとエレクトラの交流だった。エンプレスの就任式でも『二つの世界の架け橋になる』と公言しており、どう実現させるか、色々考えた。その結果『異世界への就職支援』を、行うことにしたのだ。

 私が、エンプレスに就任後。マイアから、たくさんの若者たちが、就職希望で、こちらの世界に訪れている。でも、当然、異世界での就職は難しい。文化も考え方も違うし、異世界人への偏見が、完全に、なくなった訳ではないからだ。

 私自身も、こちらに来て、大変な苦労をしたので。これから異世界で就職する若者には、何とかして協力してあげたい。とはいえ、ただでさえ、仕事が忙しいので、これ以上は、手が回らない状態だった。そこで、ある人物に相談をした。

 相談相手は、メイドカフェ〈アクアリウム〉の店長の、アディ―さんだ。彼には、過去に、何度もお世話になっている。お姉言葉で、ちょっと、変わった人だけど。気配り上手で、誰にでも優しいうえに、非常に頭の切れる人だ。

 私の想いを伝えると、彼は、喜んで協力してくれることに。そこで、私は、就職支援を専門とする〈make your dream〉という会社を、立ちあげることにした。

 私は、エンプレスの仕事が忙しいので、名前だけ社長になり、アディ―さんがCEOとして、会社の全てを、統括をすることになった。

 この会社の業務は、こちらの世界の様々な企業と提携し、マイアの就職希望者との、仲介を行うことだ。シルフィード会社を始め、様々な企業と提携した。最初は、数が少なかったけど。今では、千社以上と提携していた。

 また、シルフィードのように、見習い期間のお給料が安い、特殊な職業もある。そのため、低価格で住める、下宿やホームステイ先の斡旋。これにより、見習い期間中も、安心して仕事に専念できるようになった。

 あと、とても嬉しいことに、新しく建て直した、ノーラさんのマンションも『新人シルフィード専用の下宿』として、提携してくれた。昔、私がノーラさんのアパートに住んでいたこともあり、物凄く大人気で、満室状態だ。

 現在、この会社を通して、たくさんのマイアの若者たちが、こちらの世界で就職している。今では、すっかり有名企業になり、どんどん提携先の企業が、増え続けていた。ブームになったのもあるけど、アディーさんの、経営手腕も大きい。

 次は、こちらの世界の若者が、マイアで就職するための支援を、準備中だ。まずは、二つの世界の若者たちの交流を進め、ゆくゆくは、全ての年齢層の人に、理解を深めて行って欲しいと思っている。私の近況は、こんな感じだ。

 今日、ここに集まっているのは、大きな実績を出し、世界的にも有名になった人ばかりだ。世間の人から見れば『人生の大成功者』に見えると思う。それでも皆、さらに上に行くために、日々必死に頑張っている。

 最近、私は、つくづく思う。夢にゴールはないのではないかと。ゴールだと思う場所に到達しても、さらに、その先に道がある。それは、何度、到達しても、繰り返されて行く。

 あと、もう一つ。夢を達成するのは、もちろん嬉しいけど。夢に向かって、必死に進んでいる時が、一番、楽しいのではないかと思う。もちろん、辛く大変なことも、一杯あるけど。夢中になって、頑張っている時が、何だかんだで楽しいのだ。

 これからも私は、色んな挑戦をして、前に進み続けるだろう。たくさん失敗して、痛い目を見て。時には、心が折れたり、涙を流すことも、あるかもしれない。それでも、私は、前に進み続ける。

 それは、エンプレスとしての、使命もあるけど。一番は、私自身が、そういう生き方をしたいからだ。

 例え、非常識でも、無謀でも、可能性が低くても。私は、新しい挑戦を続けていく。永遠に終わらない夢を、追い続けるために……。


 ―― 完 ――

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