私異世界で成り上がる!! ~家出娘が異世界で極貧生活しながら虎視眈々と頂点を目指す~

春風一

文字の大きさ
上 下
352 / 363
第9部 夢の先にあるもの

4-6光り輝く太陽のような人間からは誰も目を背けられない

しおりを挟む
 私は〈シルフィード協会〉の会議室で、理事会に参加していた。ここ最近は、理事会の回数が、非常に多い。震災後の、町の復興支援計画について、度々議論が行われているからだ。

 町の復興は、本来、行政府の仕事だが、我々シルフィード業界も、一丸となって、支援を行っている。というのも『行政府』も『シルフィード』も、観光をメインの収入源にしているため、一蓮托生なのだ。

 被災者の生活の問題に加え、町が崩壊したままでは、観光業が、全く成り立たない。なので、今は、一刻も早く町を復興し、元の状態に戻すのが、急務だった。

 全シルフィードは、通常営業を中止し、日々飛び回って、被災者の手助けをしていた。我々理事も、それぞれの、権限や人脈を生かし、あらゆる手段で、町の復興に従事している。

 幸い理事には、大手企業や財閥、政治家たちと、繋がりのある人が多く、次々と大きな支援を引き入れていた。また、自分が経営する企業や、関連企業を、復興支援のために、直接、指揮している者もいる。

 私も〈ファースト・クラス〉に赴き、陣頭に立って、全社員の指揮を行った。あれほどの、大災害のあとにもかかわらず、皆、冷静かつ、迅速に動いていた。

 流石は、伝統ある〈ファースト・クラス〉の社員だ。各自が、強い誇りと意思を持ち、毅然とした態度で行動していた。これこそが、日ごろの厳しい教育の、賜物と言える。

 さらには、世界中から、資金・物資・人的資源の援助が、多数、送られて来た。〈グリュンノア〉は、世界を平和に導いた象徴であり、特別な存在だ。また、日ごろから、行政府による、外交努力が行われていた。

 その甲斐もあって、世界中の国の協力のもと、驚異的なスピードで、復興が進んでいる。まだ、完全な復興には、時間が掛かるが。行政関連の施設や、空港に港。大型施設や、メインストリートなど。主だった部分は、修復が、ほぼ終わっている。

 町の復旧が、予想以上に早く進んでいるのもあり、先日、全シルフィード会社の、営業停止を解除。ようやく、通常営業が、再開されたばかりだ。

「それでは、本日の会議を始めたいと思います。各理事たちの、多大なご協力のお蔭で、順調に町の復旧が進み、ようやく、本業の再開にこぎつけました。皆様の献身的な活動に、心より感謝いたします」

「さて、本日は、長らく保留になっていた『グランド・エンプレス』の選出を、議題にしたいと思います。まだ、色々と大変ですが、このような状況だからこそ、明るい話題が必要だからです」

 議長が淡々と話を進めると、聴いていた理事たちが、静かに頷く。

「間が空いてしまったので、一応、おさらいしておきます。最終的に絞られたのは『銀色の妖精シルバーフェアリー『金剛の戦乙女』ダイヤモンドヴァルキュリア白銀の薔薇ミスリルローズ』『天使の翼エンジェルウイング』でした。ただ、これは、以前の話ですので、意見が変わられた方々も、いるかと思います」

「一応、四名を中心としつつ、別の候補をあげたい方は、意見を出してください。なお、今は〈グリュンノア〉も〈シルフィード協会〉も、非常に大変な時期です。明るい未来のために、是非、私心を捨て、公正な判断をお願いします」

 議長が語り終えると、しばし、沈黙に包まれた。以前のように、気楽に意見が出せるような、雰囲気ではないからだ。誰もが、今の厳しい現状を、よく知っている。

「この四名は、今の状況下において、誰がなっても、問題なさそうですね」
「確かに。能力的にも、人格的にも、申し分ないと思います」
「四人とも、優れた部分が違うので、甲乙つけがたいですな」

 それぞれに、違った長所と個性がある。能力的には、皆、高水準なので、もはや、優劣の問題ではなく、どの方向性を目指すかによるだろう。

「知名度で言えば『銀色の妖精』ですし、威厳や力強さなら『金剛の戦乙女』ですね。気品や完璧さでは『白銀の薔薇』が、抜きん出ていますし。話題性で言うなら、やはり『天使の翼』でしょう」

 ある理事が発言すると、部屋の中が、ザワザワし始めた。

「いやー『天使の翼』の話題性は、相変わらず、凄いですね」
「いやはや、まったく。常に、予想の斜め上を行きますからな」
「しかし、あの救出劇は、本当に見事としか、言いようがありません」
「今回のMVPは、間違いなく、彼女でしょうな」

 前回は、賛否両論だったが、明らかに、皆の『天使の翼』を見る目が、変わっていた。なぜなら、彼女の奇跡の救出劇は、世界中に報道され、大変な話題になっていたからだ。

「それにしても、なぜ、あのようなことが出来たんでしょうね?」
「本人は『声が聞こえた』とか『シルフィードの勘』と、言っているようですが」
「もし、本当だとしたら『奇跡の力を持っている』ということですよね?」
「彼女にも、魔女の資質が、あるのではないですか?」

「彼女を『英雄』や『聖女』という声も、非常に多いですね」
「やはり、こんな時だからこそ、英雄が必要なのでは?」
「避難所でも、彼女の的確な指揮と対応は、評判だったらしいじゃないですか」
「これだけの実績を出すと、もはや、その能力は疑いようがないでしょう」

 次々と『天使の翼』の、好意的な意見が出て来た。前回までの、難しい表情とは違い、皆、笑顔で誇らしげに語っている。

 私も、今回の彼女の働きは、本当に、素晴らしかったと思う。人の本当の能力は、有事の際にこそ、分かるものだからだ。彼女の行動は、まさに、本物のシルフィードだった。

 彼女は、異世界人でありながら、本来のシルフィードの姿を、身をもって実践して見せたのだ。

「確かに、彼女の行動は、見事でしたし、人気も評判も、申し分ありません。しかし、こんな時だからこそ、この町とシルフィード業界の今後を、真剣に考えるべきでは有りませんか?」

 発言したグレゴリー理事に、皆の視線が集中した。彼は、保守派のゴドウィン理事と親しく、常に足並みをそろえている。

「話題や人気などは、すぐに収束するものです。そう考えると、今後の復興と発展に、最も貢献するシルフィードでなければ、なりません。彼女は確かに、勇敢で優秀です。しかし、あまりにも、バックが弱すぎます」

「個人企業に所属しているので、仮に彼女がエンプレスになっても、経済効果は、たかが知れているでしょう。平時ならいざ知らず、今は、町の経済の活性化が、最も重要な時期なのです」

「むろん、ビジネスだけで考えるのは、よく有りませんが。それでも、大震災以降、観光客の数は、激減しています。実際、倒産した会社も、多数、出ていますし。今後、さらに、悪化する可能性もあるのです」

 彼は、身振りを加えながら、大げさに語る。普段は、軽い性格だが、彼は、演説が非常に上手い。

「なるほど、確かにその通りですな……」
「大企業は、まだしも。中小企業は、かなり苦しい状況ですからね――」
「昨年に比べ、観光客数が、30%以上、減っていますし……」
「そう考えると、やはり、大企業からの選出が、安全でしょうか――?」

 他の三人の所属は、いずれも大企業で、唯一、個人企業の所属なのは『天使の翼』だけだ。もちろん、所属の企業で、選ぶべきではない。ただ、今は、この町とシルフィード業界の、一大事であるのも確かだった。

 次々と意見が出され、話が膠着状態になる。だが、頃合いを見て、議長が口を開いた。

「えー、皆さん、少しよろしいでしょうか。実は『天使の翼』について、ある方たちから、後見人の話が来ています」

「今後、彼女の後見人となり、全面的に援助してもいいと、おっしゃられております。ですので、彼女が、エンプレスになった暁には、宣伝はもちろん。〈シルフィード協会〉にも、多大なご支援を、いただけるかと思います」
 
 部屋が静まり返り、議長に視線が集中した。

 後見人とは、スポンサーのことだ。通常は、シルフィード会社につくものだが、極まれに、シルフィード個人につく場合がある。 

「その、後見人を申し出ているのは、どなたですか……?」
「一人は、ジークハルト・アッシュフィールド氏。もう一人は、ジェームズ・リッチモンド氏です」

 その直後、室内に驚きの声があふれた。

「あの『アッシュフィールド財閥』と『リッチモンド財閥』の、現当主がですか?!」
「世界四大財閥の内、二つが、後見人になると?!」
「まさか、あの気難しくて有名な、ジェームズ氏が?!」
「いったい、どういう風の吹き回しですか?! まったく、信じられません」

 四大財閥は、世界経済を動かすほどの、資金力と権力を持っている。そこらの大手シルフィード会社などとは、比べ物にならないぐらい、非常に大きな力を持っているのだ。

 そういえば『天使の翼』の昇進パーティーに、ジークハルト氏が来ているのを、見掛けた記憶がある。しかも、世界最大財閥の、リッチモンド家とまで繋がりを持っているとは、驚きだ。

 ここにいる理事たちも、いずれも、名家の出で、大きな権力と財力を持っている。そんな彼らが、取り乱すほど、四大財閥は、強い影響力を持つ存在なのだ。

「しかし、それが本当なら、何も問題ありませんな」
「いや、むしろ、彼らがバックにいるなら、大歓迎ですよ」
「それにしても、とんでもない人脈ですな」
「人脈もまた、立派な才能です。素晴らしいではありませんか」

「両財閥は、今回、多額の復興資金を、援助してくださったそうですし」
「もしや『天使の翼』と繋がりがあるから、協力的だったのでは?」
「四大財閥とつながりを持つのは、今後のために、大きなチャンスですよ」

 彼女に、強力な後見人が付いたと知るや否や、各理事から、次々と好意的な意見が出て来る。

 だが、一人だけ、納得のいかない表情をしている者がいた。以前『天使の翼』の昇進の時も、最後まで、強く反対していた、ゴドウィン理事だ。何か言いたげな表情だったが、一言も発しなかった。

 彼が、妙に静かなのが、少し気になるが。町やシルフィード業界の現状を考えると、強い希望の光になる存在が必要だ。さらに、とても大きなバックが付いたことで、今のところ『天使の翼』が、一歩リードしている状態だった。

 私としても『天使の翼』で、問題ないと思う。やや、不安定さを感じていたが、今回の件で、彼女の真の力が見て取れた。

 また、彼女は、何かある度に、大きく成長している。成長スピードが、他者と比べて、異常に速いのだ。今後も、もっと立派なシルフィードに、成長していくのだろう。十分に、将来性が期待できる存在と言える。

 一通り意見が出たところで、議長の提案で、いったん休憩を挟むことになった。皆、ぞろぞろと退出し、私も、考えをまとめながら、部屋をあとにするのだった……。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

次回――
『明るい未来のための最善の選択とは?』

 私たちができる最善は、私たち自身を変えることです
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

処理中です...