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第9部 夢の先にあるもの
4-4どんな時でもシルフィードは人々の希望でなければならない
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私は〈東地区〉の上空を、エア・カートで飛んでいた。カフェにいた人たちと、道中で出会った人たちを、避難所に送り届けたあと。私は、急いで〈ホワイト・ウイング〉に向かっていた。リリーシャさんと、合流するためだ。
リリーシャさんなら、的確な判断と対応をしていると思う。とはいえ、会社に向かう間、地上の凄惨な様子を見て、どんどん不安が、大きくなってきた。至るところで、建物が崩壊し、がれきの山になっている。
中には、煙が噴き出し、火事になっている家もあった。救出作業を、必死に行っている人たちの姿も見える。私も、手伝いに入りたい気持ちで、一杯だったが、まずは、リリーシャさんの安否を、確かめるのが最優先だ。
やがて、私の視界には、見慣れた建物が見えて来た。だが、トレードマークの、白い翼の看板が見えなかった。どうやら、地震で看板が落ちてしまったようだ。
敷地に近付いて行くと、テラスのテーブルやいすは、地面に転がり、置いてあった、観葉植物の植木鉢も、全て倒れていた。私は、不安で高鳴る鼓動を抑えながら、急いで敷地に着陸する。
エア・カートを降りると、そこは、別世界だった。窓ガラスが割れ、壁も一部くずれたり、ヒビが入ったりしている。幸い、建物の崩壊は免れたが、いつもの、平和で穏やかな風景は、どこにもなかった。まるで、放置された廃墟のように見える。
私は、早足で入り口に向かう。事務所の中を見た瞬間、私は、唖然として言葉が出なかった。床一面に、ガラスの破片や、色んな物が散乱し、足の踏み場もないぐらいに荒れていた。朝出て行く時は、とても綺麗だったのに、見る影もない。
しばらくして、我に返ると、
「ただいま帰りました! リリーシャさん、いませんか!」
大きな声を張り上げる。しかし、事務所内は、静まり返ったままだった。
まだ、帰っていないんだろうか……? それとも、観光案内中に、あの地震に、巻き込まれてしまったのだろうか――?
悪い想像をして、急に背筋が寒くなる。だが、受付カウンターの上で、ふと視線が留まった。そこには、メモが置いてあったのだ。私は、急いで目を通す。
『風歌ちゃん、私は、幸い飛行中だったので、怪我もなく無事です。お客様を、避難所にお連れしたあと、救助活動にあたります。風歌ちゃんも、今できることをやってください。だだし、絶対に無茶はしないこと』
その筆跡は、間違いなく、リリーシャさんのものだった。
「よかったー。リリーシャさんも、無事だったんだ……」
私は、メモを読んで、フゥーッと安堵の息をもらした。
近くに置いてあったペンを手に取ると、
『私も飛行中だったので、無事です。今から、救助活動に向かいます』
メモの下のほうに、サラッと一文を書き加える。
「よし、これで、安心して行動できる。私は、私のやれることをやろう!」
バシッと頬を叩くと、すぐに、事務所をあとにした。
私は、エア・カートに乗り込むと、最寄りの〈東第二小学校〉に向かった。ここは、私が先ほど先導して、避難した人たちがいる場所だ。
生き埋めになった人たちの、救助をしようかとも思ったけど。すでに、あちこちで、プロのレスキューの人たちが、救出活動を行っていた。なので、避難している人のお手伝いをするほうが、役に立てるはずだ。
幸いなことに〈東第二小学校〉には、知っている人たちが、結構、来ていた。〈東地区商店街〉の人たちに加え、セラちゃんや〈ミルキーウェイ〉の社員たち。みんな、顔見知りや、親しい人ばかりだ。
私たちは、無事の再会を喜び合ったあと、避難所の中を動き回り、まずは、けが人の手当てを行う。そのあとは、炊き出しや、毛布などの配布のお手伝い。避難して来た人たちの、安全確保のために奔走した。
不安そうな人や、落ち込んでいる人達には、一人一人、明るく元気に、声を掛けていく。みんな、私のことを知っているようで『天使の翼がいてくれるなら安心だ』と言って、笑顔を浮かべてくれた。
想像以上に、上位階級の、知名度と影響力は大きい。泣いている子供もいたけど、私が声を掛けた瞬間、すぐに、泣き止んでくれた。
他のシルフィードたちも、声を掛けて回っていたけど。私が声を掛けると、皆、一段と元気になっていた。
この施設で、上位階級は、私一人だけだ。なので、自然と、私がリーダー的な存在になり、他のシルフィードや、お手伝いしてくれる人に、指示を出していた。
本当は、人の上に立つような柄じゃないし、指示を出すのも、苦手なんだけど。次々とみんなが、私に意見を求めて来るので、その期待には、答えなければならない。
私は、不安な気持ちを抑え、精一杯の笑顔と、自信に満ちた態度で、テキパキと指示を出して行った。
幸い〈東地区商店街〉の人たちも、多く来ていたため、炊き出しなどは、かなり順調に進んでいた。日ごろから、お店の営業や、各種イベントを行っているので、とても手際がいい。
私は、料理はサッパリなので、そこら辺は、得意な奥様方にお任せして、配布や声掛けに専念した。
夜になると、念のため、施設内を巡回して回る。また、食料などの在庫チェックも行った。災害用備蓄が、かなり用意されていたので、今のところ、一週間以上もちそうだ。
あと、夕方、行政府の人がやってきて、状況確認をしていった。行政府の人も、私を知っているようで、とても好意的に対応してくれた。私が、不足している物を伝えると、追加の医療品や食料は、明日には持って来てくれることになった。
全ての作業が終わり、周囲の人たちが、眠りについたのを確認すると、すでに、時間は0時を回っていた。私も、避難所の隅で、毛布にくるまる。すると、どっと疲れが押し寄せて、暗闇の中に、意識が引き込まれて行った――。
******
大地震の翌日。まだ、頻繁に、余震が起こっていた。かなり大きな揺れもあり、その都度、恐怖で背筋が寒くなり、不安にさいなまれる。
だが、私は、平静を装い、けっして笑顔を崩さなかった。なぜなら、私が取り乱せば、周囲の人たちにも、動揺が広がってしまうからだ。
それに、みんなが、私を特別視しているのは、明らかだった。別に、私は、特別な力がある訳ではない。でも、そう思われてる以上、希望の光で、あり続けなければならなかった。誰もが、頼れる存在を、求めているからだ。
今日も早朝から、私は、忙しく走り回っていた。まずは、朝の炊き出しの準備からだ。他のシルフィードや、お手伝いの人たちも、黙々と仕事をしている。大変な状況なのに、笑顔を浮かべている人も多い。
特に〈東地区商店街〉の人たちは、いつも通り、陽気だった。彼らのお蔭で、施設内がいい雰囲気で、とても助かっている。私も、精一杯の笑顔で、明るく振る舞っていた。こんな時だからこそ、前向きに行動しなければならない。
朝食の配布が終わり、校庭から、避難所の体育館に向かおうとした時。私は、ピタリと足を止めた。一瞬、何かが聞こえた気がしたからだ。
「えっ……誰? 今、声が聞こえたような気が――」
周囲を見回すが、特に、異変は見当たらない。
私は、意識を集中して、耳を澄ます。すると、再び声が聞こえて来た。
『……助けて――誰か……』
それは、か細い女の子の声だった。再び、周囲を見回すが、それらしい子の姿は見えない。だが、妙な胸騒ぎがして、放ってはおけなかった。私は、一瞬、考えたあと、すぐに行動に移る。
「ごめん、セラちゃん! 私、ちょっと出て来るから、しばらくよろしくね」
「えっ、風歌先輩?! どちらへ?」
「すぐ戻るから」
私は、停めてあったエア・カートに、小走りで向かうと、勢いよく乗り込んだ。すぐに、エンジンを起動すると、上空に舞いあがる。空から地上を見下ろすと、町中が、がれきの山になっていた。
昨日は、気が焦って、しっかり見ていなかったけど。こうして、あらためて冷静に見てみると、とんでもない、惨状なのが分かる。がれきが多すぎて、町のどこなのかも、ハッキリと分からない。
私は、二十メートルほどの高さまで上昇し、滞空すると、意識を耳に集中する。聞こえてくるのは、風の音だけだ。
だが、しばらくすると、また、女の子の声が聞こえて来る。
『――助けて……ママ、パパ――』
間違いない! 今声が聞こえた。方向は……おそらく、北西のほう。
私は、ハンドルを切って、方向を変えると、全神経を集中したまま、ゆっくり前進を始める。
時折り、とても小さな声が、頭の中に響いて来た。すすり泣いている音も、聞こえて来る。私は、それを頼りに、大量のがれきの上空を進んで行った。少しずつだが、声が大きくなってくる。だが、途中で、急に声が聞こえなくなった。
「どこ? どこにいるの――?」
私は、機体を停止させると、少し焦りながら、周囲を見回す。
その時、私の目が、地面のある場所でとまった。そこには、崩れてしまった、民家が見えた。完全に崩壊しているが、がれきの多さから見ると、おそらく、二階建てだったのだろう。近くには誰もいないが、妙に気になる。
「えっ……?! まさか、あそこに?」
私は、すぐに、エア・カートを着陸させると、その場所に向かった。
目の前にあるのは、ただのがれきの山だ。特に、人の気配はない。だが、念のため、近づいて声を掛ける。
「誰か、誰かいませんか? いたら、声をあげてください!」
私は、がれきに向かって、大きな声を張り上げた。
すると、中から、小さな声が聞こえて来る。
「助けて――」
私は、急いで、がれきに近付いた。
「あなた、大丈夫? 今助けるから、待ってて!!」
私は、マギコンを取り出すと、すぐさま、救助要請のコールをする。建物は、跡形もなく崩れており、内部の構造も分からないので、どこにいるのか、よく分からない。それに、がれきの量が多すぎて、私一人でどかすのは、無理そうだ。
「すぐに、救助が来るから! もう少しだけ、待っててね!」
「助けて……くれるの?」
「うん、必ず助けるから! それに、私は『幸運の使者』だから、絶対に大丈夫だよ!」
「シルフィードなの――?」
彼女の声が、ほんの少しだけ、明るくなった気がする。
「そうだよ。私は『天使の翼』の如月風歌。あなたは?」
「メイリー……」
「そっか、メイリーちゃん。もうちょっとだけ、頑張って。レスキューが来るまで、私とお話ししよう。シルフィードは、好き?」
「うん、好き――。私『天使の翼』の、大ファンなんだ」
「そっかー、ありがとう! メイリーちゃんに会えて、超嬉しいよ!」
「私も、超嬉しい。あとで、サインもらってもいい……?」
「もちろんだよ!」
私は、大きな声で、彼女と世間話を続けた。彼女も、少しずつ、元気が出てきたようだ。十分ほどして、サイレンの音と共に、レスキューの機体が到着する。
私が説明すると、すぐに、救助活動が行われた。超小型のドローンを、がれきの隙間に入れて、位置を確認。そのあと、中に、エアジャッキや、マナフィールド発生装置を入れていき、安全を確保する。
準備が終わると、声を掛け合いながら連携し、次々とがれきを排除していった。流石は、プロのレスキュー隊員。素人とは違い、非常に迅速で、滅茶苦茶、手際がいい。
開始から、十分ちょっとで、がれきの下から、女の子が救出された。ホコリまみれになっているけど、大きなケガはなさそうだ。
助け出された少女は、緊張の糸が切れたのか、急に大声で泣きだし、私に抱きついて来た。私は、そっと、彼女の頭をなでてあげる。
しばらくして、彼女が落ち着くと、救急コンテナで運ばれて行った。念のため、病院で、精密検査を受けるらしい。後日、サインをしてあげる約束をして、私は、笑顔で送り出した。
それにしても、何で声が聞こえたんだろう――? 避難所からは、一キロ以上も離れているし。がれきの中からでは、ほとんど、声が聞こえないはずなのに。その点については、事情聴取の際、レスキュー隊員の人も、首をかしげていた。
まぁ、よく分からないんじゃ、考えてもしょうがないよね。今は、私の出来ることを、精一杯やらないと。避難所のお手伝いもあるし。
私は、再び気を引き締めると、エア・カートに乗り、急いで、その場を飛び去るのだった……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回――
『私の柄じゃないけど皆が求めるなら英雄として振る舞おう』
英雄とは自分のできることをした人である
リリーシャさんなら、的確な判断と対応をしていると思う。とはいえ、会社に向かう間、地上の凄惨な様子を見て、どんどん不安が、大きくなってきた。至るところで、建物が崩壊し、がれきの山になっている。
中には、煙が噴き出し、火事になっている家もあった。救出作業を、必死に行っている人たちの姿も見える。私も、手伝いに入りたい気持ちで、一杯だったが、まずは、リリーシャさんの安否を、確かめるのが最優先だ。
やがて、私の視界には、見慣れた建物が見えて来た。だが、トレードマークの、白い翼の看板が見えなかった。どうやら、地震で看板が落ちてしまったようだ。
敷地に近付いて行くと、テラスのテーブルやいすは、地面に転がり、置いてあった、観葉植物の植木鉢も、全て倒れていた。私は、不安で高鳴る鼓動を抑えながら、急いで敷地に着陸する。
エア・カートを降りると、そこは、別世界だった。窓ガラスが割れ、壁も一部くずれたり、ヒビが入ったりしている。幸い、建物の崩壊は免れたが、いつもの、平和で穏やかな風景は、どこにもなかった。まるで、放置された廃墟のように見える。
私は、早足で入り口に向かう。事務所の中を見た瞬間、私は、唖然として言葉が出なかった。床一面に、ガラスの破片や、色んな物が散乱し、足の踏み場もないぐらいに荒れていた。朝出て行く時は、とても綺麗だったのに、見る影もない。
しばらくして、我に返ると、
「ただいま帰りました! リリーシャさん、いませんか!」
大きな声を張り上げる。しかし、事務所内は、静まり返ったままだった。
まだ、帰っていないんだろうか……? それとも、観光案内中に、あの地震に、巻き込まれてしまったのだろうか――?
悪い想像をして、急に背筋が寒くなる。だが、受付カウンターの上で、ふと視線が留まった。そこには、メモが置いてあったのだ。私は、急いで目を通す。
『風歌ちゃん、私は、幸い飛行中だったので、怪我もなく無事です。お客様を、避難所にお連れしたあと、救助活動にあたります。風歌ちゃんも、今できることをやってください。だだし、絶対に無茶はしないこと』
その筆跡は、間違いなく、リリーシャさんのものだった。
「よかったー。リリーシャさんも、無事だったんだ……」
私は、メモを読んで、フゥーッと安堵の息をもらした。
近くに置いてあったペンを手に取ると、
『私も飛行中だったので、無事です。今から、救助活動に向かいます』
メモの下のほうに、サラッと一文を書き加える。
「よし、これで、安心して行動できる。私は、私のやれることをやろう!」
バシッと頬を叩くと、すぐに、事務所をあとにした。
私は、エア・カートに乗り込むと、最寄りの〈東第二小学校〉に向かった。ここは、私が先ほど先導して、避難した人たちがいる場所だ。
生き埋めになった人たちの、救助をしようかとも思ったけど。すでに、あちこちで、プロのレスキューの人たちが、救出活動を行っていた。なので、避難している人のお手伝いをするほうが、役に立てるはずだ。
幸いなことに〈東第二小学校〉には、知っている人たちが、結構、来ていた。〈東地区商店街〉の人たちに加え、セラちゃんや〈ミルキーウェイ〉の社員たち。みんな、顔見知りや、親しい人ばかりだ。
私たちは、無事の再会を喜び合ったあと、避難所の中を動き回り、まずは、けが人の手当てを行う。そのあとは、炊き出しや、毛布などの配布のお手伝い。避難して来た人たちの、安全確保のために奔走した。
不安そうな人や、落ち込んでいる人達には、一人一人、明るく元気に、声を掛けていく。みんな、私のことを知っているようで『天使の翼がいてくれるなら安心だ』と言って、笑顔を浮かべてくれた。
想像以上に、上位階級の、知名度と影響力は大きい。泣いている子供もいたけど、私が声を掛けた瞬間、すぐに、泣き止んでくれた。
他のシルフィードたちも、声を掛けて回っていたけど。私が声を掛けると、皆、一段と元気になっていた。
この施設で、上位階級は、私一人だけだ。なので、自然と、私がリーダー的な存在になり、他のシルフィードや、お手伝いしてくれる人に、指示を出していた。
本当は、人の上に立つような柄じゃないし、指示を出すのも、苦手なんだけど。次々とみんなが、私に意見を求めて来るので、その期待には、答えなければならない。
私は、不安な気持ちを抑え、精一杯の笑顔と、自信に満ちた態度で、テキパキと指示を出して行った。
幸い〈東地区商店街〉の人たちも、多く来ていたため、炊き出しなどは、かなり順調に進んでいた。日ごろから、お店の営業や、各種イベントを行っているので、とても手際がいい。
私は、料理はサッパリなので、そこら辺は、得意な奥様方にお任せして、配布や声掛けに専念した。
夜になると、念のため、施設内を巡回して回る。また、食料などの在庫チェックも行った。災害用備蓄が、かなり用意されていたので、今のところ、一週間以上もちそうだ。
あと、夕方、行政府の人がやってきて、状況確認をしていった。行政府の人も、私を知っているようで、とても好意的に対応してくれた。私が、不足している物を伝えると、追加の医療品や食料は、明日には持って来てくれることになった。
全ての作業が終わり、周囲の人たちが、眠りについたのを確認すると、すでに、時間は0時を回っていた。私も、避難所の隅で、毛布にくるまる。すると、どっと疲れが押し寄せて、暗闇の中に、意識が引き込まれて行った――。
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大地震の翌日。まだ、頻繁に、余震が起こっていた。かなり大きな揺れもあり、その都度、恐怖で背筋が寒くなり、不安にさいなまれる。
だが、私は、平静を装い、けっして笑顔を崩さなかった。なぜなら、私が取り乱せば、周囲の人たちにも、動揺が広がってしまうからだ。
それに、みんなが、私を特別視しているのは、明らかだった。別に、私は、特別な力がある訳ではない。でも、そう思われてる以上、希望の光で、あり続けなければならなかった。誰もが、頼れる存在を、求めているからだ。
今日も早朝から、私は、忙しく走り回っていた。まずは、朝の炊き出しの準備からだ。他のシルフィードや、お手伝いの人たちも、黙々と仕事をしている。大変な状況なのに、笑顔を浮かべている人も多い。
特に〈東地区商店街〉の人たちは、いつも通り、陽気だった。彼らのお蔭で、施設内がいい雰囲気で、とても助かっている。私も、精一杯の笑顔で、明るく振る舞っていた。こんな時だからこそ、前向きに行動しなければならない。
朝食の配布が終わり、校庭から、避難所の体育館に向かおうとした時。私は、ピタリと足を止めた。一瞬、何かが聞こえた気がしたからだ。
「えっ……誰? 今、声が聞こえたような気が――」
周囲を見回すが、特に、異変は見当たらない。
私は、意識を集中して、耳を澄ます。すると、再び声が聞こえて来た。
『……助けて――誰か……』
それは、か細い女の子の声だった。再び、周囲を見回すが、それらしい子の姿は見えない。だが、妙な胸騒ぎがして、放ってはおけなかった。私は、一瞬、考えたあと、すぐに行動に移る。
「ごめん、セラちゃん! 私、ちょっと出て来るから、しばらくよろしくね」
「えっ、風歌先輩?! どちらへ?」
「すぐ戻るから」
私は、停めてあったエア・カートに、小走りで向かうと、勢いよく乗り込んだ。すぐに、エンジンを起動すると、上空に舞いあがる。空から地上を見下ろすと、町中が、がれきの山になっていた。
昨日は、気が焦って、しっかり見ていなかったけど。こうして、あらためて冷静に見てみると、とんでもない、惨状なのが分かる。がれきが多すぎて、町のどこなのかも、ハッキリと分からない。
私は、二十メートルほどの高さまで上昇し、滞空すると、意識を耳に集中する。聞こえてくるのは、風の音だけだ。
だが、しばらくすると、また、女の子の声が聞こえて来る。
『――助けて……ママ、パパ――』
間違いない! 今声が聞こえた。方向は……おそらく、北西のほう。
私は、ハンドルを切って、方向を変えると、全神経を集中したまま、ゆっくり前進を始める。
時折り、とても小さな声が、頭の中に響いて来た。すすり泣いている音も、聞こえて来る。私は、それを頼りに、大量のがれきの上空を進んで行った。少しずつだが、声が大きくなってくる。だが、途中で、急に声が聞こえなくなった。
「どこ? どこにいるの――?」
私は、機体を停止させると、少し焦りながら、周囲を見回す。
その時、私の目が、地面のある場所でとまった。そこには、崩れてしまった、民家が見えた。完全に崩壊しているが、がれきの多さから見ると、おそらく、二階建てだったのだろう。近くには誰もいないが、妙に気になる。
「えっ……?! まさか、あそこに?」
私は、すぐに、エア・カートを着陸させると、その場所に向かった。
目の前にあるのは、ただのがれきの山だ。特に、人の気配はない。だが、念のため、近づいて声を掛ける。
「誰か、誰かいませんか? いたら、声をあげてください!」
私は、がれきに向かって、大きな声を張り上げた。
すると、中から、小さな声が聞こえて来る。
「助けて――」
私は、急いで、がれきに近付いた。
「あなた、大丈夫? 今助けるから、待ってて!!」
私は、マギコンを取り出すと、すぐさま、救助要請のコールをする。建物は、跡形もなく崩れており、内部の構造も分からないので、どこにいるのか、よく分からない。それに、がれきの量が多すぎて、私一人でどかすのは、無理そうだ。
「すぐに、救助が来るから! もう少しだけ、待っててね!」
「助けて……くれるの?」
「うん、必ず助けるから! それに、私は『幸運の使者』だから、絶対に大丈夫だよ!」
「シルフィードなの――?」
彼女の声が、ほんの少しだけ、明るくなった気がする。
「そうだよ。私は『天使の翼』の如月風歌。あなたは?」
「メイリー……」
「そっか、メイリーちゃん。もうちょっとだけ、頑張って。レスキューが来るまで、私とお話ししよう。シルフィードは、好き?」
「うん、好き――。私『天使の翼』の、大ファンなんだ」
「そっかー、ありがとう! メイリーちゃんに会えて、超嬉しいよ!」
「私も、超嬉しい。あとで、サインもらってもいい……?」
「もちろんだよ!」
私は、大きな声で、彼女と世間話を続けた。彼女も、少しずつ、元気が出てきたようだ。十分ほどして、サイレンの音と共に、レスキューの機体が到着する。
私が説明すると、すぐに、救助活動が行われた。超小型のドローンを、がれきの隙間に入れて、位置を確認。そのあと、中に、エアジャッキや、マナフィールド発生装置を入れていき、安全を確保する。
準備が終わると、声を掛け合いながら連携し、次々とがれきを排除していった。流石は、プロのレスキュー隊員。素人とは違い、非常に迅速で、滅茶苦茶、手際がいい。
開始から、十分ちょっとで、がれきの下から、女の子が救出された。ホコリまみれになっているけど、大きなケガはなさそうだ。
助け出された少女は、緊張の糸が切れたのか、急に大声で泣きだし、私に抱きついて来た。私は、そっと、彼女の頭をなでてあげる。
しばらくして、彼女が落ち着くと、救急コンテナで運ばれて行った。念のため、病院で、精密検査を受けるらしい。後日、サインをしてあげる約束をして、私は、笑顔で送り出した。
それにしても、何で声が聞こえたんだろう――? 避難所からは、一キロ以上も離れているし。がれきの中からでは、ほとんど、声が聞こえないはずなのに。その点については、事情聴取の際、レスキュー隊員の人も、首をかしげていた。
まぁ、よく分からないんじゃ、考えてもしょうがないよね。今は、私の出来ることを、精一杯やらないと。避難所のお手伝いもあるし。
私は、再び気を引き締めると、エア・カートに乗り、急いで、その場を飛び去るのだった……。
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次回――
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英雄とは自分のできることをした人である
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