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第8部 分かたれる道

3-7人生初の新居祝いはサプライズで一杯だった

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 新しい家を探し始めてから、三週間が経過した。十件以上の家を見て回って、かなり悩んだけど。結局〈東地区〉の海沿いにある、大きな一軒家に決めた。あの家の第一印象が、一番よかったからだ。

 それに、最初の希望通り〈東地区〉だったし。周囲に、濃いマナラインが多く、物凄く、風が気持ちよかったのも、大きな決め手だった。

 ちなみに、ここの家賃は、月に五十万ベル。しかし、ユキさんが、上手く交渉してくれて、半額の二十五万ベルに、値引きしてもらえた。オーナーさんも『スカイ・プリンセスが、借りてくれるのであれば』と、喜んでOKしてくれたそうだ。

 それでも、以前の私なら、目の飛び出るような金額だけど。ユキさんは『必要経費と考えたら、これぐらい当たり前』と、言っていた。上位階級の中には、月百万ベル以上の物件に、住んでいる人もいるので、むしろ、安いほうなんだって。

 まぁ、協会からもらっている『上位階級手当』だけでも、十分に払えるし。そもそも、私、月の生活費が、物凄く安いので、お金は余っている。

 そう考えると、家賃にお金を掛けるぐらいしか、使い道がないので。必要経費と、割り切っていいのかもしれない。

 ユキさんに手伝ってもらい、契約の各種手続きは、全て完了した。引っ越しも、一日であっさり終了。そもそも、荷物が、ほとんどないので、ダンボール箱二つで、済んでしまった。

 私服が数着と、マグカップに置物。枕と座布団。ビックリするぐらい、持って行くものが少なかった。マナケトルとストーブは、引っ越し先に、最新式の物があるので、置いて行くことに。

 引っ越し後、ユキさんのアドバイスに従い、食器類や調理器具を、たくさん買い足した。と言っても、私は料理をしないので、あくまで、来客用だ。

 また、庭師の人を呼んで、庭の手入れをしてもらった。四月になり、春になったので、芝刈りのついでに、色んな花を植えた。私は、芝だけでも、十分だったんだけど。やっぱり、花があると、華やいで見える。

 あとは、カーテンを新調したり、備品をそろえたりと、結構、やることは多かった。今までと違い、家が大きいので、なかなか大変だ。今後は、来客があることも、考えなければならないし。

 なお、この家は、物凄く大きいので、自分で掃除するのは難しい。そこで、ユキさんが紹介してくれた、清掃業者さんと契約し、定期的に、庭と屋内の掃除に、来てもらうことになった。

 結局、家の紹介から、契約や法的な手続き、引っ越し後の準備まで。全て、ユキさんが、手を回してくれた。引っ越しは、初めてなので、ここまで大変だとは、思わなかった。きっと、一人じゃ、全然できなかったと思う……。

 親身になって、何から何までやってくれて。ユキさんには、感謝の気持ちでいっぱいだ。町内会長さんに相談して、本当によかった。

 ちなみに、今日は、朝早く起きて、パーティーの準備をしていた。オープン・キッチンでは、手伝いに来てくれた、ナギサちゃんが、せっせと、料理を作っている。

 フィニーちゃんは、時折り、つまみ食いをしながら、食器類を並べていた。キラリスちゃんは『こっちのほうがクールだろうか?』なんて、ブツブツ言いながら、飾りつけをしている。私は、庭にテーブルを並べたり、主に力仕事をやっていた。

 あと、私たちの後輩の、クリスちゃん、ヴィオちゃん、セラちゃんも、朝早くから来て、雑用を手伝ってくれている。

 引っ越し後も、日々観光案内に飛び回り、新居の準備も色々あったため、目の回るような忙しさだった。なので、延び延びになってしまったけど。この町では、引っ越し後に『新居祝い』のをするのが、習わしだ。

 普段、お世話になっている人たちを呼んで、思い切り騒いで楽しむことで、新居に幸運が来るらしい。

 でも、借家だし、無理してやらないでいいかなぁー、と思って、ナギサちゃんに相談したら『やるに決まってるでしょ!』と、厳しく怒られた。どうやら、向こうの世界の『引っ越し祝い』と違い、とても重要な行事のようだ。

 結局、例のごとく、ナギサちゃんが細かく企画し、滅茶苦茶、本格的なパーティーになった。招待状も、たくさんの人に送ってある。

 パーティーは、お昼からだが、十時ごろには、リリーシャさん、ツバサさん、メイリオさん、カナリーゼさん、ミラージュさんが、手伝いに来てくれた。しかも、新居祝いの差し入れを、大量に持ってきてくれたのだ。

 このメンバーは、以前やった、町内会対抗の野球以来、付き合いがある。後輩同士、仲がいいので、先輩たちも、仲良くしているようだ。

 さっそく、新居祝いの食べ物に、フィニーちゃんが、興味津々に張り付いて来る。だが、ナギサちゃんに、すぐに追い払われた。ここら辺のやり取りは、上位階級になっても、全く変わらない。

 十一時を回ったころ、ノーラさんが、やってきた。やはり、手には、大量の新居祝いが握られている。

 来客のたびに、お祝いの品が増え、とんでもない量になっていた。お祝い事は、大量のプレゼントを渡し、盛大に祝う。『富と幸せは、みんなで分け合う』というのが、この町での、古くからの習慣だからだ。

「お忙しいところ、ご足労、ありがとうございます。あと、引っ越しのご挨拶が遅れて、申し訳ありませんでした」
 私は、ノーラさんに、深々と頭を下げる。

 彼女には、本当に、言葉では言い尽くせないほど、今までお世話になって来た。ノーラさんが、部屋を貸してくれなければ、この世界には、いられなかっただろうし。食事の世話をしてくれなければ、そもそも、生きて行けなかったかもしれない。

 ただ、仕事が忙しい上に、引っ越しが、想像以上に大変で。正式な挨拶に、行けていなかったのだ。

「今さら、何を改まってるんだ、気持ち悪い。いつも通りでいいよ。それに『出て行け』と言ったのは、こっちだからね」
 ノーラさんは、さばさばと言い放つ。

「ちょっと、いいですか? 家の中を、案内したいので」
「あぁ、構わないよ。ちょうど、どんな家か、見てみたかったからね」

 私は、ノーラさんを連れ、部屋を、一つずつ案内する。一階が終わると、二階を案内し、最後に、寝室に行って、大きなバルコニーに出た。

「いい眺めじゃないか、風もいいし」
「やっぱり、そうですよね。眺めのよさと、風の気持ちよさで、選んだので」

「立場に見合った家を選べ、と言ったが。また、ずいぶんと、思い切ったもんだね」
「正直、抵抗はありました。けど、知り合いの専門家の人に『信仰の対象だから、神様が住む家を探すようなものだ』って、言われて――」

「まぁ、あながち、間違っちゃいないね。象徴ってのは、そういうものさ」
 ノーラさんは、海を眺めながら、静かに答える。

「その、今回は、ありがとうございました。あと、色々すいませんでした……」
「それは、何に対しての、礼と詫びだい?」
「背中を押してくれたことと、自分の甘さについてです」

 ノーラさんに、出て行けと言われなければ、ずっと、あの屋根裏部屋に、こもっていたと思う。当然、上位階級としての自覚も、持てないままだったはずだ。

「正直、出て行けと言われときは、滅茶苦茶ショックでした。あの部屋は、大好きだし、私の城のようなもので。あの狭い空間にいると、色々安心できたんです」

「ただ、それは、自分の殻に、籠っていただけだと思うんです。あそこにいれば、新しい世界を、見ずに過ごしてましたし。ノーラさんは、それが分かったうえで、背中を押してくれたんですよね――?」

 仕事では、どんどん成長していたのに。プライベートは、全く成長できていなかった。でも、それでいいと思ってたし。あの部屋にいる限り、私はずっと、見習い時代と同じままでいられた。

『初心を保つ』という名目だったけど。単に、より上の世界に行くのが、怖かっただけかもしれない。色々果敢に挑戦してきたけど。今まで、平凡な一般人として、ずっと生きてきた私が、ワンランク上の世界に行くのは、結構、怖いものだ。

 セレブなんて柄じゃないし、いまだに、これといった特技もない。かと言って、特別、気品がある訳でも、貫禄がある訳でもなく。立場に見合った人間になれる、自信がなかったのだ。

 しばらくの沈黙のあと、ノーラさんは、静かに口を開いた。

「ま、そこまで分かれば、ちょっとは、成長したようだね。人はいつか、変わらなければならない。昔とは、百八十度、違う自分に。それが、成長であって、子供が、大人になるということだ」

「ただ、仕事ができれば、一人前という訳じゃない。特に、上位階級はね。人格や精神性が、大きく問われるんだ」

 ノーラさんは、じっと私の目を見つめると、
「大人になれ、風歌。それが、これから、お前がやるべきことだ」
 静かだけど、とても心に響く言葉だった。

「はい。精一杯、頑張って、立派な大人になります」

 きっと、私に足りないものは、それなんだろう。リリーシャさんたち、先輩の上位階級との、決定的な違いは、そこだと思う。

 やっぱり、私、まだまだ、子供なんだなぁ。いつまでも、甘えていないで、早く大人にならないと……。


 ******
 

 一通りの準備が、終わったあと。庭に設置したテーブルには、大量の料理が並んでいた。買ってきた物もあるけど、ほとんどは、手作りだ。ナギサちゃん、リリーシャさん、メイリオさん。料理が得意な三人が、手に寄りをかけて作ってくれたのだ。

 あと、ミラージュさんが持ってきてくれた、大きなブロック肉は、ノーラさんが、ステーキにしてくれた。凄くいい肉のようで、甘い香りが漂い、とても美味しそうだ。さっきから、フィニーちゃんが、目を輝かせ、肉の前に張り付いている。

 十一時半ごろになると、続々と、お客様がやって来た。いつも、親しくしてもらっている〈東地区商店街〉の人たち。もちろん、町内会長さんと、ユキさんも来てくれた。

 あとは、何度もお世話になった、メイドカフェ〈アクアリウム〉の人たち。アディーさんは、また『お手伝いするわよ』と、言ってくれたけど。今回は、丁重にお断りし、完全なゲストとして来てもらった。

 ちなみに、ナギサちゃんのお母さんにも、招待状を送っておいた。都合が合わなかったみたいだけど『大事な門出だから』と、仕事をキャンセルして、わざわざ来てくれたのだった。

 あと、もう一人、凄い人が参加してくれた。カナリーゼさんのお母さんの、カナリアさん。彼女は、元シルフィード・クイーンで、二つ名は『砂糖の笑顔シュガースマイル』だ。

 現役時代の人気は、もちろん。今では、世界的に有名な、超大人気の料理研究家だ。MVに頻繁に出ており『奇跡の料理人ミラクルシェフ』の名が、知れ渡っている。

 以前、写真でも見たけど、本当に二つ名通り、最高に素敵な笑顔の人だった。来て早々に、あり合わせの材料で、サッと三品作ってくれた。流石は、カリスマ料理研究家だ。

 さらに、もう一人。ダメもとで、招待状を送っておいたんだけど。嬉しいことに『聖なる光』セイクリッドライトのマリアさんが、参加してくれた。休日は、シスターの仕事で、忙しいみたいだけど。休みをとって、参加してくれたのだ。

 相変わらず、腰の低い人で、来るなり『私のような一般人を呼んでいただいて、心から感謝します』なんて、言っていた。でも、彼女は昔『次期グランド・エンプレス候補の筆頭』だった。さらに『聖女』として、滅茶苦茶、有名人だ。

 とんでもない、大物たちが来たので、周りの人たちが、滅茶苦茶、驚いていたのは、言うまでもない。通常は、MVや雑誌でしか、お目に掛かれない、芸能人みたいな人たちなので。

 あと、ユメちゃんと、彼女のお母さんも、来てくれた。ユメちゃんは、新居を見て、とても気に入ったようだ。物凄くはしゃいで、自分のことのように喜んでいた。

 大きなエア・カートには、ビックリするほど、大量の新居祝いが積んであって、家に運び込むだけでも、大変だった。

 普段、親しくしてくれている人たちを、呼んだだけなんだけど。『元シルフィード・クイーン』四名。『現シルフィード・クイーン』四名。『スカイ・プリンセス』三名。上位階級が、十一名も揃う、超豪華なメンバーだった。

 こうして、改めて考えてみると。見習い時代から、人の縁には、物凄く恵まれていたよね。お金がなくて、生活は、カツカツだったけど。人の縁だけは、困った記憶がない。

 全員にグラスが行きわたると、私は、皆の前に立ち、挨拶をする。

「本日は、大変お忙しい中、新居祝いのパーティーに、ご参加下さり、本当に、心より感謝いたします」

「特に、お仕事がお忙しい中、来てくださった『白金の薔薇プラチナローズ』『砂糖の笑顔』『聖なる光』には、深く感謝しております」
 視線を送ると、三人とも静かに頷く。

「この素敵な家を、紹介してくださった、町内会長さんとユキさんにも、本当に、感謝しています」
 二人とも、とても嬉しそうに、笑顔を浮かべる。

「また、三年以上もの間、私に部屋を貸して下さり、色々と世話をしてくださった、ノーラさんには、感謝の言葉もありません」
 ノーラさんに視線を向けると、一瞬、驚いた表情を浮かべたあと、そっと微笑む。

「同じく、見習い時代から、私を優しく見守り、導いてくれた、リリーシャさん。ここまで来れたのも、こうして、素敵な日を迎えられたのも、全ては、リリーシャさんのお蔭です。本当に、本当に、心から感謝しています」

 リリーシャさんは、いつにもまして、柔らかな笑顔で頷いてくれた。

「あと、この世界に来て、最初に友達になってくれて、ずっと、応援してくれたユメちゃんにも、心から感謝しています」 
 ユメちゃんに視線を向けると、とても嬉しそうな笑顔で、手を振ってくれる。

「それと、見習い時代から、ずっと仲良くしてくれて、常に協力してくれた。親友で同期の、ナギサちゃん、フィニーちゃん、キラリスちゃんにも、心から感謝しています」 

 フィニーちゃんは、ボーッとした表情のまま。ナギサちゃんは、サッと視線を横に向ける。キラリスちゃんは、ドヤ顔で。この反応は、いつも通りだ。

「いつも、家族のように、優しく接してくれる〈東地区商店街〉の皆さんにも、本当に、心から感謝しています」
 商店街のみんなから、歓声が上がる。

「参加してくださった皆様に、心よりお礼を申し上げます。ここまでやって来れたのは、全て皆様のご助力のお蔭です。今後とも、よろしくお願いいたします」 
 私が、深々と頭を下げると、歓声と拍手が巻き起こった。  

 最後に、私は、シャンパン・グラスを手に取ると、お祝いの言葉を口にする。

「新しい安住の地を見つけられたことに、大地と風と、火と水の精霊に、心より感謝します。これからも、多くの幸があらんことを。全ての人たちに、永遠の風の祝福と、大きな幸運があらんことを。乾杯!」

「乾杯!!」 
 全員で、グラスをかかげたあと、一気に飲み干す。

 挨拶が終わったあとは、みんな談笑しながら、和やかな雰囲気で、楽しんでいた。私も、一人一人の所を回って、世間話をする。

 それにしても、元クイーン四人の所だけ、妙に貫禄があった。大物ぞろいで、他の人たちも、話し掛けづらいようで、そこだけ、別世界になっていた。私も、話し掛ける際には、妙に緊張してしまった。

 逆に、現役シルフィード・クイーンの四人は、とても話しやすいようで、みんなに囲まれ、盛り上がっていた。やはり、話の中心にいるのは、ツバサさんだ。

 フィニーちゃんと、妹のクリスちゃん、キラリスちゃんは、黙々と料理を食べていた。ナギサちゃんと、妹のヴィオちゃんは、せっせと料理を運んだり、空いた皿を片付けたりしている。ここら辺も、いつも通りだ。

 ちなみに、セラちゃんとユメちゃんは、意気投合したようで、妙に盛り上がっている。二人とも、かなり人見知りだけど。私の『熱狂的なファン』ということで、気が合ったようだ。

 私の凄いところや、各種実績を、二人で、熱く語り合っていた。何か聴いていて、とても気恥ずかしい――。

 夕方まで、四時間近く、パーティーは続いた。皆『料理が美味しかった』と、非常に満足げだった。料理上手な人たちが、頑張ってくれたお蔭だ。

 あと、この新居は『とても素敵だ』『よく見付けたね』と、みんな褒めてくれた。これも、全ては、ユキさんの功績だった。結局、全て、誰かの力を借りただけで、私は、何もやっていない……。

 なので、嬉しい反面、自分の力のなさを知り、ちょっと、複雑な気分だった。それでも私は、みんなを、笑顔でお見送りする。一人ずつ、順番に挨拶して、送り出していると、ノーラさんの番になった。

「ノーラさん、本日は、お忙しいところ、ご足労ありがとうございました」
「いや、いいさ。久しぶりに、旧友に会えて、楽しかったからね」

 四人の元クイーンたちは、とても楽しそうに、昔話をしていた。特に、カナリアさんと、ノーラさんは、物凄く仲がいいようだ。お互いに、料理好きだから、話が盛り上がっていた。

「色々お世話になった上に、新居祝いまで、何とお礼を言っていいか――」
「あぁ、まだ、渡してなかったな。ちょっと、マギコンを出してみろ」

 私は、言われた通り、マギコンを取り出した。直後、ノーラさんのマギコンから、何かが送られてくる。

「何ですか、これ……?」
「そいつの、キーだよ」
 ノーラさんは、自分が乗って来た、白いエア・カートを指さした。

「えぇーっと――貸してくれるんですか?」
「新居祝いなんだから、お前にやるよ」
「ん……。ええぇぇぇーー?! ちょっ、何言ってるんですか?!」 

 流線形が美しい、スポーツタイプのエア・カートだ。ピカピカに磨いてあり、綺麗に光沢が浮き上がっていた。以前、ガレージの掃除を手伝った時、見た記憶がある。

「お前、古いエア・ドルフィンしか、持ってないだろ? しかも、借り物の」
「それは、そうですけど――」
 
 今乗っているのは、かなり旧式の、年季の入ったエア・ドルフィン。リリーシャさんからの、借り物だ。

「プリンセスになって、自分のカートすら持ってないんじゃ、様にならないだろ? 家だけじゃなく、そういうところも、気を使え」
 
「確かに……。でも、いくら何でも、こんな凄い物、もらえませんよ。これ、滅茶苦茶、高い機体ですよね――?」 

 元々、スポーツ・タイプのエアカートは、物凄く高額だ。数百万ベルから、数千万ベル。中には、億を超える機体もあるらしい。特に、ノーラさんのコレクションは、レアものが多く、一般人では手が出せない、高級機ばかりだった。

「細かいことは、気にするな。これが、私がやってやれる、最後の手助けだ。一日も早く、その機体に、ふさわしいシルフィードになれよ」
 ノーラさんは、そう言うと、リリーシャさんのカートの、助手席に乗り込んだ。

「じゃあ、また会社でね、風歌ちゃん」
 リリーシャさんは、軽く微笑むと、運転席に乗り込む。

 エア・カートは、ゆっくりと空に舞い上がり、飛び去って行った。

 私は、エア・カートが見えなくなるまで、ボーッと眺めていた。あまりにも、唐突すぎて、まだ、事実が受け止められていない。

 改めて、白い機体を見ると、ちょっと、胸が痛くなった。滅茶苦茶、嬉しいけど。でも、私は、いつも、もらってばかりで、何一つ、返せていない。特に、ノーラさんには、何から何まで、もらいっぱなしだ。

 果たして、私のこれからの人生で、受けた恩を、全て返し切れるのだろうか……?

「おーい、風歌! 見送りが終わったなら、こっちの片付け、手伝えよー」
 その時、キラリスちゃんの声で、ふと我に返った。

「ごめんねー、片付けまで、手伝わせちゃってー」
 私は笑顔で、彼女たちの元に、走って行く。

 同期の友人たちと、その後輩の子たちは、全員、残って、後片付けをしてくれている。準備から後片付けまで、今回は、大活躍してくれた。本当に、いい友人を持ったものだと、つくづく思う。

 私、決めた。どんな、上位階級のシルフィードになるのか。特別、優れた能力はないけど、私にも、できることがある。

 今までは、自分のことに、精一杯に生きてきたけど。もう、私自身、たくさんの人たちから、一生分の幸せをもらったから。これからは、誰かのためだけに、生きていこう。

 目に付く全ての人の、力になれるシルフィード。世界中の人に、幸せを運べるシルフィード。それが、私が、これから目指す道だ。

 途方もなく大変なのは、分かっている。でも、無茶をするのも、夢見がちなのも、昔からだし。壮大な夢や理想を持ったって、構わないよね。

 それに、シルフィードは『幸運の使者』なのだから。それを、現実にするために、私の人生の全てを懸けて、前に進んで行こう……。


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次回――
『今度こそ本物のゴールにたどり着くために』
 
 ゴールの向こう側について語られる物語を僕はまだ知らない
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