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第8部 分かたれる道

1-9超盛大な昇進パーティーで決意を新たにする

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 夜、七時過ぎ。今日の営業を、全て終えたあと。私は、大型クルーザーの〈ホワイト・キャッスル〉の船内にいた。私にしては珍しく、高価なドレスを着て、ネックレスやイヤリングなども身につけ、妙にオシャレをしている。

 これらは全て、ユメちゃんのお母さんが、用意してくれたものだ。着付けや、化粧などは、専属のメイドさんたちが、全てやってくれた。

 ちなみに、今乗っている〈ホワイト・キャッスル〉は、超豪華なクルーザーだ。船内には、大きなシャンデリアがあったり、高そうなじゅうたんに、様々な装飾品。また、四百人も乗れる、物凄い大きさだった。
 
 このクルーザーは、ユメちゃんのお父さんの所有物で、無料で貸し出してくれた。さらには、とても豪華なパーティーも、全て、ただで用意してくれたのだ。準備は、ユメちゃんの家の、執事さんやメイドさんが、総出でやってくれた。

 私は、最初、その申し出を辞退した。気持ちは、とても嬉しいんだけど。あまりにも、豪華すぎたからだ。

 リリーシャさんたち、三人の『シルフィード・クイーン』の、昇進祝いだって、会社でひっそりやったのに。私一人の、プリンセスの昇進祝いで、これは、流石にやり過ぎだと思う。

 でも、頑固なユメちゃんは『ファン1号として、当然の義務』と言って、引いてくれず。ユメちゃんのご両親も『いつもお世話になっているので、ささやかなお礼です』なんて感じで、結局、押し切られてしまった。

 ただ、私は、お世話するようなこと、何もしてないんだよね。むしろ、ユメちゃんには、常連客として、お世話になってるし。それに、全然、ささやかじゃないし。あまりにも盛大すぎて、申し訳なさすぎる……。

 でも、やると決まってしまったからには、仕方がない。心から感謝して、楽しむことにしよう。それに『何人でも呼んでいい』と、言われたので、知っている人たち全てに、招待状を渡しに行った。

 通常は、郵送で送るんだけど。せっかくなので、世間話とお礼のついでに、一人一人に、手渡しで回って行った。でも、行った先々で、みんな、大喜びしてくれた。中には、感動して涙を流してくれる人もいて、私も思わず、もらい泣きしてしまった。

 そんなこんなで、船内のメインホールには、たくさんの人たちが集まっていた。また、ホールのテーブルには、高級レストラン並の、超豪華な料理が、大量に並べられている。

 見習いのころなら、真っ先に飛びついて、モリモリ食べてたところだけど。流石に、今は、そうはいかない。上位階級としての立場があるし。今日は、大事なお披露目会だ。

 とても賑やかで、楽しい雰囲気が漂っている中。私は、滅茶苦茶、緊張していた。自分の立場と重責を、改めて感じさせられる。

 ホールでは、ユメちゃんの家で働いている、メイドさんや執事さん。あと、以前、お手伝いに行った〈アクアリウム〉のスタッフたちも、メイド姿で、せわしなく動き回っていた。

 本当は、お客様として、招待したんだけど。店長のアディ―さんに、招待状を渡しに行ったら『そういうことなら、私に任せなさい』と、今回のパーティーを、仕切ってくれたのだ。

 流石に、アディ―さんが仕切っているだけあって、実に手際がいい。しかも、飾りつけも料理も、物凄く本格的だった。事前に、全スタッフと、綿密な打ち合わせをし、かなり時間を掛けて、準備してくれたらしい。

 なお、私が、招待状を渡しに行ったのは、顔見知りの人、全員だ。まず、最初に誘ったのは、シルフィードの知り合いたちだった。

 リリーシャさん、ツバサさん、メイリオさん、ミラージュさん、カナリーゼさんたち、先輩方。もちろん、ノーラさんや、ナギサちゃんのお母さん、マリアさんたち、大先輩も。

 ノーラさんたちは、大御所だけあって、渡す時は、超緊張したけど。三人とも、快く、招待を受けてくれた。

 あとは、私の同期の、大切な友達たちだ。ナギサちゃん、フィニーちゃん、キラリスちゃん。アンジェリカちゃん、カレンティアちゃん、リスティーちゃん。あと、ナギサちゃんと、フィニーちゃんの、会社の同僚たちも、多数、参加している。

 次に、回ったのが〈東地区商店街〉の人たちだ。見習い時代から、大変お世話になっているし、みんな顔見知りだ。なので、商店街の人たちに、片っ端から、招待状を配って行った。しかも、嬉しいことに、全員、参加してくれている。

 招待状を渡しに行って、最も盛り上がったのが〈東地区商店街〉の人たちだった。みんな、滅茶苦茶、喜んでくれて、心から祝福してくれた。ここの人たちは、凄く優しい上に、家族のような存在だ。

 加えて、私がよく通っている、お店の御主人や女将さん、ご縁のあった人たち。〈北地区〉にある〈レモンハウス〉〈宿り木〉〈マーカス・グリーンファーム〉など。〈南地区〉の喫茶店〈水晶亭〉にも行って来た。

 あと〈東地区〉の孤児院の〈あおぞら学園〉の子供たちと、園長先生。子供たちは『学園にスカイ・プリンセスがやって来た!』と、物凄く興奮して、大喜び。全員、元気一杯に祝福してくれた。やっぱり、子供って、可愛くていいよね。

 他にも、連絡先を知っている、お客様もご招待した。ちなみに、大陸にいる、写真家のエヴァンシェールさんに連絡したところ、一発返事でOK。しかも『パーティーの写真撮影なら任せて!』と、撮影係を引き受けてくれた。

 最初は、数人で、小規模にやる予定だったんだけど。調子に乗って、声を掛けまくったら、三百人以上が集まる、超大型パーティーになってしまった。

 アディ―さんたちや、ユメちゃんの家の、執事さんたちがいなければ、絶対に、回らなかったと思う。手伝ってくれた、スタッフの方たちには、本当に、感謝の気持ちでいっぱいだ。

 賑やかに盛り上がっている、豪華な大ホールの中。私は、一人ずつ、あいさつに回って行く。どの人たちも、とても大事な存在で、今の私のがあるのも、みんなのお蔭と言える。なので、心を込めて、感謝の言葉を伝えていく。

 真っ先に向かったのが、ユメちゃんの所だ。お父さんのジークハルトさんと、お母さんのエリザベートさんも、一緒に参加している。流石に、本物の上流階級だけあって、とても上品で洗練されていた。

 今日は、珍しく、ユメちゃんも、綺麗なドレスで正装している。いつも、Tシャツに短パンとかだから、全然、別人のようだった。でも、本来は、生粋のお嬢様なんだよね。

「ジークハルト様、ごきげんよう。本日は、お忙しいところ、ご足労いただき、大変、光栄です。また、このような素敵な船をお貸しいただき、誠にありがとうございます。お蔭様で、とても素晴らしいパーティーを、開催できました」

 私は、スカートの両端をつまむと、丁寧にあいさつをした。

 ユメちゃんのお父さんは、アッシュフィールド財閥の現当主で、政財界では、知らない人がいないぐらいの、強い影響力を持っている。本来なら、一般人は、話すことができないほど、凄い人だ。

「これは、ご丁寧なご挨拶、痛み入ります。『天使の翼』エンジェルウイングの昇進祝いに参加できて、私こそ、光栄の極みです」
 
 彼は、素敵な笑顔で答えてくれた。本当は、滅茶苦茶、偉い人なんだけど。ユメちゃんに似て、かなり気さくな人だ。

「天使の羽、ご機嫌よう。そのドレス、本当に、お似合いですね。まるで、本物の天使が、舞い降りて来たようですわ」 
 ユメちゃんのお母さんの、エリザベートさんは、とても優雅に、話し掛けてきた。
 
「今回は、衣装や、高価な装飾品まで、お貸しくださって、本当に、ありがとうございました」
 私は、頭を下げて、心からお礼をする。

 今着ているドレスは、もちろんのこと。身につけている宝飾品は、どれも、数百万ベルはする、超高価な物ばかり。私は、衣装も装飾品も、何も持っていなかったので、エリザベートさんの私物を、快く貸してくれたのだ。

「娘が、いつもお世話に、なっておりますから。これぐらいは、当然ですわ」
「えぇ、この程度。ユーメリアを救ってくれた、ご恩に比べれば、足りないぐらいです」

 二人とも、笑顔で答える。

 なんか、ユメちゃんのご両親には、会うたびに、感謝の言葉を掛けられていた。私は、友人として、当たり前の行動をしただけで。別に、大したことをしたとは、思っていない。なので、過度の感謝は、少々心苦しい気もする。

「もう、二人とも、堅苦しい話は、それぐらいにしてよ。風ちゃんは、私の親友なんだからね」
 途中で、ユメちゃんが、割り込んできた。

「何度も言ったけど。改めて、昇進おめでとう! 私、超超超うれしいよ!! 私が、世界で一番、風ちゃんの昇進を、祝福してるからね!」
 ユメちゃんは、私の両手を握ると、ブンブンと大きく振った。

「うん、ありがとう。私も、超超超うれしい!! 真っ先に、ユメちゃんに、祝福して欲しかったから。最高に、幸せだよ!」

 ユメちゃんは、私がこの世界に来て、初めてできた友達。しかも、まだ、無名の新人時代から、私のファンだと言ってくれた、正真正銘の『ファン1号』だ。本当に、彼女には、数え切れないほど、心の支えになって貰って来た。

 しばらく、ユメちゃんと、思い出話などで盛り上がる。でも、他も回らないとならないので、ちょっと残念そうなユメちゃんを尻目に、私は別の場所に移動した。

 次に向かったのは、大御所シルフィードのところだ。一ヶ所だけ、空気の違う場所があり、すぐに、目的の人物を発見した。三人で、ワイングラスを片手に、談笑中だった。

疾風の剣ゲイルソード』のノーラさん。『白金の薔薇プラチナローズ』のローゼリカさん。『聖なる光セイクリッドライト』のマリアさんだ。やはり、大先輩だけあって、風格が違う。気になって、視線を向ける人はいるが、話し掛ける人は、ほとんどいない。大物過ぎて、話し掛け辛いのだろう。

「ごきげんよう。本日は、お忙しいところ、ご足労、誠にありがとうございます」
 私は、静かに近づいて行くと、丁寧にあいさつをする。

「お招き、ありがとうございます、天使の翼。これほど盛大な、昇進パーティーは、初めてです。準備が、大変だったのでは?」
 ローゼリカさんが、静かに声を掛けてきた。

「それが、友人のご両親が、全て手配してくれまして。このクルーザーも、快く貸してくださいました」

「もしかして、ジークハルト氏と、知り合いなのですか?」
「はい。友人のお父様で、色々とご縁がありまして」

「なるほど。財界のトップと人脈があるとは、流石ですね。人脈は、強力な武器です。大事になさい」
 ローゼリカさんは、小さく微笑む。

 まぁ、偶然、ユメちゃんのお父さんが、超大物だっただけで。私は、何の努力もしてないんだけどね……。

「昇進、おめでとうございます、天使の翼。私のような者まで、お招き下さり、大変、光栄です」
 隣にいたマリアさんが、とても穏やかな声で、話し掛けてきた。

「とんでもありません。私こそ、物凄く光栄です。マリアさんほどの方に、ご出席いただけるなんて」

 彼女は、相変わらず、物凄く腰が低い。でも、かつて『次期グランド・エンプレスに最も近い存在』と言われ、ドキュメンタリー映画まで作られた、超有名人だ。目の病気さえなければ、本当に、エンプレスに、なっていたかもしれない。

「どうか、あなたの進む道に、光と幸運があらんことを」
「ありがとうございます。さらに、精進いたします」

 彼女は、両手を組んで、祈りを捧げてくれた。流石は『聖女』と呼ばれる人だ。慈愛に満ちた言葉は、心が洗われるようだった。

「それにしても『馬子にも衣装』とは、よく言ったものだな」
 すぐ横にいた、ノーラさんも声を掛けて来る。

「ちょっ――それは、言わないで下さいよ。私だって『全然、似合ってないなぁ』って、自覚してるんですから。でも、礼儀作法とかも、ちゃんと、勉強してきたんですよ。どこか、間違ってましたか?」

「付け焼刃感が凄いが、一応、合格点だな」
「んがっ……。き、厳し過ぎる――」
 ノーラさんは、ゲラゲラと笑う。

「でも、ま、よくやったな、風歌。だが、まだ、夢の途中なんだから、絶対に、途中で立ち止まるなよ」
「はいっ! 今まで以上に、全力で頑張ります」

 物言いは厳しいけど、ノーラさんは、今まで、ずっと私を支え続けてくれた。本当に、色んな意味での、私の恩人だ。ただ、上位階級になったので、毎度いじるのは、止めて欲しいんだけど……。

 彼女たちと少し世間話したあと、次に向かったのは、いつもお世話になっている、先輩たちだ。やはり、人気シルフィードだけあって、物凄く目立っている。先ほどから、沢山の人に声を掛けられ、握手やサインを求められていた。

 私の向かう先には、リリーシャさん、ツバサさん、メイリオさん、ミラージュさんが、四人で固まって話をしている。

 元々、リリーシャさん、ツバサさん、メイリオさんは、後輩の私たちが、仲がいいので、イベントの際などには、仲良くしていたらしい。ミラージュさんは、野球の交流試合以降、親しくなったようだ。

「ごきげんよう。本日は、お忙しいところ、ご足労、ありがとうございます」
 私は、リリーシャさんたちの前に立つと、スカートのすそを持ち上げ、丁寧にあいさつした。

「やぁ、風歌ちゃん、お招きありがとう。あと、昇進おめでとう! 見習い時代から、知っているから、物凄く嬉しいよ。リリーの大事な後輩は、僕にとっても、妹のようなものだからね」

 ツバサさんは、最高に爽やかな笑顔で、祝福してくれる。

「ありがとうございます。これも、ツバサさんたち、先輩方のご指導の賜物です」
 リリーシャさんの、幼馴染みということもあり、ツバサさんにも、今まで、色々よくして貰って来た。

 同じ体育会系で、話が合うし。しばしば、元気づけて貰っていた。リリーシャさんが姉だとすると、ツバサさんは兄的な存在だ。

「そのドレス姿、超カワイイね! 今夜は、お持ち帰りしちゃおうかなぁ」
「あははっ――それは、ちょっと」

 ツバサさんは、こういうセリフを、サラッと言ってくる。でも、カッコイイから、様になってるんだよね。

「風歌ちゃん、改めておめでとう。これからは、イベントなどでも、一緒に仕事が出来るわね」
「はいっ、物凄く楽しみです!」

 リリーシャさんは、いつにもまして、優しい笑顔で声を掛けてくれた。

 私が昇進して、一番、嬉しく感じるのは、リリーシャさんといる時間が、さらに増えることだ。上位階級になると、シルフィード関連のイベントや式典は、全て強制参加の義務がある。

 今までは、毎回、留守番で、ちょっと寂しかったけど。これからは、いつも一緒に、参加することが出来る。リリーシャさんと、一緒に仕事できることが、私にとっては、最高の幸せだ。

「風歌ちゃん、昇進おめでとう。『天使の翼』は、とても素敵な二つ名ね。これからも、大きく羽ばたいて行ってね」
「はい。さらに上を目指して、頑張ります」

 メイリオさんも、とても穏やかな表情で、声を掛けてくれた。やっぱり、リリーシャさんと並んでると、マイナスイオンが半端ない。

「こないだの『ノア・グランプリ』は、実にいい勝負だったな。『絶対に勝つ』という、熱い闘志が、MVを通じて伝わって来たぞ」

「あの時は、もう『何が何でも負けられない!』って、無我夢中でしたので。僅差でしたが、なんとか勝てました」

「あれは、僅差じゃない。明らかに差があった。ここの違いさ、分かるか?」
 ミラージュさんは、ポンと、私の胸を軽く小突いた。

「えーと……心、ですか?」
「そう、心の強さの問題だ。勝負ってのは、たいていは、心の強さで決まる。あの時は、お前のほうが、明らかに心が強かった」

 確かに、そうかもしれない。私は、必死の覚悟だったけど、フィニーちゃんは、そこまでじゃなかったと思う。

「シルフィードは、上品な仕事だが。俺は、どんなことも、強い心が大事だと思う。これからも、強い心と意思で頑張れよ」
「はいっ。全身全霊で頑張ります!」

 ミラージュさんが、拳を突き出して来たので、私も拳を作って、コツンと当てる。

 流石は『金剛の戦乙女ダイアモンドヴァルキュリア』の二つ名を持つ人だ。やっぱり、カッコイイなぁー。私、こういう熱いノリって、超大好きなんだよね。

 次に向かったのが〈東地区商店街〉の人たちが、集まっている場所だ。家族連れで参加している人が多く、大きな集団になっているので、とても分かりやすい。しかも、物凄く賑やかだ。

 私が近づいて行くと、みんなから、大歓声が上がった。上品に楽しんでいる人が多い中、ここだけ、何か雰囲気が違う。いつも、商店街の集まりをやっている時と、全く同じで、ホッとする。私は、こういう、肩が凝らない雰囲気のほうが好きだ。

「おぉー、我らがヒーローが来たぞ!」
「いよっ、東地区商店街の星!」
「プリンセス昇進、おめでとう!」
「風歌ちゃん、ばんざーい! ばんざーい!」
 
 滅茶苦茶、盛り上がっていて、いきなり万歳が始まった。嬉しいは、嬉しいんだけど。流石に、これは目立ち過ぎだ。周囲の視線が、一斉に注がれる。

「あ――ありがとうございます。ただ、そんなに、大げさなものでは、ありませんので。まだ、これからですし」

「何言ってるんだ、凄い大出世じゃないか」 
「そうだよ。東地区商店街から、念願のプリンセスが登場したんだから」
「それなら、リリーシャさんだって、同じじゃないですか?」
 
 ちなみに、リリーシャさんは『エア・マスター』になってすぐに、スピード昇進している。まぁ、シルフィード校を首席卒業の上に、母親が『グランド・エンプレス』だったので。そうとう、注目されていたんだと思う。

「でも、リリーちゃんは、あっさり昇進したからなぁ」
「そうそう。あの子は、ずば抜けて優秀な子だったから、当たり前な感じだし」
「風歌ちゃんが昇進したからこそ、感動なんだよ」

「それじゃ、私がまるで、ダメな子みたいじゃないですか?」
 この言葉で、みんなから、一斉に笑いが巻き起こった。

 うー、みんなの私の評価って……。確かに、リリーシャさんと比較すると、欠点だらけなのは、事実なんだけど。

 その時、メイズさんが、前に進み出て来た。

「許してやっておくれ。みんな、嬉しくてたまらないのさ。リリーちゃんには、アリーシャちゃんがいたけど。風歌ちゃんは、一人だったから。みんな、自分の娘のように思ってるのさ。娘が偉くなって、喜ばない親なんていないだろ?」

「本当に、よくここまで頑張ったね。風歌ちゃんは、私たちのヒーローで、最高に親孝行な娘だよ。あんたの成長が見守れて、物凄く幸せさ」

 メイズさんは、私を抱きしめて、背中をポンポンと、軽くたたいてくれた。その瞬間、私は、思わず、目頭が熱くなってしまった。

「はい――。みんなの応援のお蔭です。異世界人のよそ者なのに、いつも、家族のように、優しくしてくれて。本当に……本当に、心から感謝しています」

 商店街の人たちには、どれほど、助けられてきたことか。みんなが、優しく受け入れてくれたから。私は、異世界人であることを、すっかり忘れ、この世界に、なじむことが出来た。

 どんなに辛くても〈東地区商店街〉という、ホームがあったからこそ、頑張って来れたのだ。私のホームであり、シルフィードのスタート地点。第二の故郷でもあり、もう一つの、実家のようなものだ。もう、ここ無しでは、何も語れない。

「風歌ちゃん、私たちは全員、本物の家族だよ」
「そうそう。一緒にいて楽しければ、それはもう、家族なんだから」
 町内会長さんと、その孫のユキさんも、優しい笑顔で答えてくれる。

「はい。これからも、家族のために頑張りますので、応援よろしくお願いします」
 再び、歓声と万歳コールが巻き起こった。

 そのあと、一人一人に挨拶して、世間話をする。やっぱり、ここの人たちは、物凄く温かい。まるで、親戚のおじちゃん、おばちゃんと、話している感覚だ。

 次に向かったのは、よく行くお店の、ご主人や女将さんたち。あと、何度か、ご利用してくださった、お客様。また、ひょんなことで知り合った、ご縁のある人たち。

 メイドカフェで知り合った、二人組の男性も、しっかり、来てくれていた。二人とも大興奮しながら、私を祝福してくれた。聴けば、シルフィード名鑑の更新って、二人がやってくれていたんだって。

 もう一人、大事な友人が来てくれていた。洋菓子店〈ウインドベル〉の娘さんの、ロゼちゃんだ。彼女は、仕事が忙しい中、わざわざ、このパーティのために、大陸から来てくれたのだった。

 プレゼントに、手作りの服を、何着も持ってきてくれた。また、祝福してくれたと同時に『物凄く勇気をもらったので、私も頑張ります』と、熱く語った。やはり、夢を追う者同士、熱量が高く、とても気が合う。

 あと、写真家のエヴァさんは、パーティ前に、空港に迎えに行ったら『いつかやると思ってたよー!』と、涙を流しながら、抱き着いて来た。相変わらず、喜怒哀楽が激しく、楽しい人だ。

 このあと、会場に向かう間中、滅茶苦茶、たくさん写真を撮ってくれた。今も、ホールの中を動き回って、片っ端から、写真を撮影している。

 次に、友達のシルフィードたちを、一人一人、回って行く。皆、心から祝福してくれて『お互いに頑張ろうね!』と、励まし合った。みんな、他社なうえに、ライバルなのに。本当に、優しくいい子ばかりだ。

 キラリスちゃんは、お酒が入っていたせいか『クフフッ、流石は、我が認めた魂の友よ!』と、変なポーズをとりながら、昔の感じに戻っていた。まぁ、楽しんでくれているようで、何よりだ。

 会場中の人たちに、一通り挨拶を終えると。最後に向かったのは、いつもの二人のところだった。

 ナギサちゃんは、ワイングラスを片手に、上品に。フィニーちゃんは、山盛りの料理の皿と、格闘中だった。ドレスで着飾ってはいるが、この二人は、いつもと、全く雰囲気が変わらない。二人のそばに近付くと、安心して、ホッと一息ついた。

 やっぱり、このメンバーが、一番、落ち着くなぁー。見習い時代から、何も変わってないし……。

「二人とも、お疲れ様」
「おつかれ」
「風歌こそ、お疲れ様。挨拶、大変だったでしょ?」

「そうでもないよ。みんなと改めて話せて、とても楽しかった。凄く祝福してくれたし。『この世界に来てよかったなぁー』って、改めて思ったよ」

「でも、本当に、一番よかったのは、二人と友達になれたこと。ここまで、やってこれたのも、二人のお蔭だよ。いつも、本当に、ありがとうね」
 私は、二人に向かって、軽く頭を下げた。

「って、何よ、今さら改まって。別に、何もしてないし。全ては、風歌の努力の賜物でしょ」
 ナギサちゃんは、サッと顔を背けてしまう。

 でも、見習い時代から、ずっと助けてくれていた。知識や常識を、色々教えてくれて。試験勉強の時も、査問会の時も、昇進の面接の時も。ナギサちゃんがいなければ、どうなっていたか、分からない。

「風歌は、だいじな友達。一緒にいるのも、助け合うのも、あたりまえ」
 フィニーちゃんは、食べる手を止め、静かに答える。

 フィニーちゃんは、無口で自由気ままだけど。一緒に居るだけで、心が安らぐし。落ち込んでいる時、色々と励ましてもらった。この町の素晴らしさや、風のこと、美味しい食べ物など。彼女からも、多くのことを学んだ。

「初めて、昇進した時、ちょっと不安だったんだ。二人との関係が、終わってしまうんじゃないかって。でも、こうして今も、親友を続けられている。これからも、大丈夫だよね――?」

 見習い時代から、三人でいるのが当り前で、かけがえのない親友だ。他にも、たくさん友達はいるけど、彼女たちは、特別だった。いつだって、私の心の支えで。言いたいことを、本音で言える、数少ない存在だ。

 だから、昇進の度に『疎遠になってしまうのでは?』と、少し心配になる。特に、今回は、私一人だけが、少し先に進んでしまった。そもそも、一番、最初に昇進するのは、ナギサちゃんだと思ってたので……。

「当然でしょ。そもそも、風歌は、頼りないんだから。最後まで、ちゃんと、面倒を見るわよ。それに、私もすぐに昇進するから、待ってなさい」
 
「風歌のこと、好き。だから、ずっと友達。いつでも、おいしいもの、一緒に食べに行く」 

 二人とも、ごく当然のように答えてくれる。私の心配は、杞憂のようだった。やっぱり、持つべきは、親友だよね。

 ただ、このあと、どちらが先に昇進するかで、ナギサちゃんとフィニーちゃんが、口論になったんだけど。これもまた、いつも通りの、平和な光景だった。

 時間になると、私は改めて、みんなの前で、お礼のあいさつをした。場内からは、盛大な拍手と、祝福の歓声が上がった。こうして、楽しい昇進パーティーは、無事に終了した。

 私は、改めて、どれだけ多くの人に、支えられてきたかを認識した。自分の努力もあったけど。結局、一人の力では、限界がある。昔は、何でも一人で出来ると、軽く考えていたけど。あれは、ただの思い上がりだった。

 これからも、きっと、たくさんの人たちに、支えられながら、前に進んで行くのだと思う。

 常に、感謝の気持ちを忘れずに。私自身も、たくさんの人の支えになれるように、頑張って行こう。笑顔で、参加者の人たちを見送りながら、新たな決意を、胸に秘めるのだった……。


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次回――
『プレゼントで大事なのは相手を想う気持ちだよね』

 プレゼントより、君の友達でいれるほうがうれしいよ
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八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。 優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。 家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。 主人公は、魔法・知識チートは持っていません。 加筆修正しました。 お手に取って頂けたら嬉しいです。

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