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第7部 才能と現実の壁
2-6因縁が渦巻く町内対抗の交流イベント
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私は〈東地区〉にある〈緑風公園〉に来ていた。折り畳み椅子が、たくさん並んでおり、敷地内には『東地区町内会』の主だったメンバーが、勢ぞろいしていた。定期的に、この公園に集まって、何らかのイベントを行うからだ。
ただ、特に用がない時でも『町内会議』と称して、世間話や情報交換などをやっていた。料理を持ち寄ったり、バーベキューをしたり、ただ、楽しく食事会をする場合もある。基本は、懇親会みたいな感じかな。
そういえば、こないだやったバーベキュー、すっごく美味しかったなぁ。肉屋のハリスさんは、超高級肉や希少部位を。八百屋のメイズさんは、とても新鮮な野菜を提供してくれた。お店をやってる人が多いから、食材が何気に豪華なんだよね。
ここの町内会の人たちは、みんな、とても仲がいい。なにより、滅茶苦茶、結束力が強かった。問題があれば、腹を割って話し合うし。困った人がいれば、みんなで助け合う。まるで、全員が、家族のような存在だ。
今日は『大事な会議がある』と聴いて、私が〈ホワイト・ウイング〉の代表としてやってきた。この町の伝統の『広場会議』にのっとり、この町内会の会議も、いつも公園で行われている。青空の下で話すのも、開放感があっていいと思う。
ちなみに、町内会のイベントは、ほとんど、私が参加している。リリーシャさんは、相変わらず予約が一杯で、物凄く忙しいからだ。本来の仕事とは、ちょっと違うけど。町内会の参加も、会社への貢献になるから、全力で頑張っている。
参加者は、年配の人が多いけど、みんな凄く元気だ。年齢を感じさせない、エネルギッシュな人が多い。会議が始まるまでの間は、ワイワイと世間話で盛り上がる。普段から仲良しだから、いざイベントをやる時も、一致団結するんだよね。
私も、その中に交じって、色々な話をする。商店街の人たちは、たくさんのお客様を相手にしているせいか、私の知らない、様々な情報を持っていた。特に、奥様方の情報網は広く、滅茶苦茶、勉強になる。
人気のお店、新店の評判、特売の情報など。やはり、買い物や飲食店に関しては、主婦の情報に勝るものはない。私は、自分の生活と観光案内のため、物凄く真剣に、話を聴き入っていた。必要に応じて、メモもとっておく。
しばらくすると、みんなの前に、町内会長さんが現れた。彼が、ゴホンと咳払いをすると、急に静まり返る。
「えー、それでは〈東地区商店街〉の、定例会議を始めたいと思います。まず、本題に入る前に、何か話すべき案件は、あるでしょうか?」
町内会長さんは、皆の顔を見回したが、何も意見は出てこなかった。
「では、さっそく、本題について話を始めましょう。ご存知の通り、我が商店街は、ここ数年、非常にマズイ状況にあります。何とか、今年こそは、挽回したいのですが。何か、よい意見は、あるでしょうか?」
会長さんの言葉のあと、皆の表情が、とても険しくなる。腕を組んだり、顔をしかめたりして、黙り込んでしまった。いつもの明るい雰囲気とは、正反対だ。
以前やった『ホワイトウイング・フェア』以降、お客さんの数が、かなり増えたと聴いてたけど。また、売り上げが、落ち込んでしまったのだろうか?
「あの……一ついいでしょうか?」
状況がよく分からないので、私は、小さく手を挙げる。
すると、周囲にいた全員の視線が、私に集中した。しかも、なにやら、期待に満ちた目をしている。
えぇっ――?! いったい、何事?
「おぉ、風歌ちゃん。また、何かいいアイディアでも、あるのかな?」
「いえ……そうではなくて。状況が、今一つ、呑み込めていないのですが。また、お客様が、減ってしまったのでしょうか――?」
「そういえば、風歌ちゃんは『東西戦』については、初めてだったね」
「えっ、東西戦……?」
何かの勝負事? 二つに分かれて、売り上げを、競ったりとかするのかな?
「それについては、俺から説明しよう」
スッと立ち上がったのは、牛乳屋の御主人の、ドナさんだった。身長が高く、体つきも筋肉質で、がっちりしている。何か、スポーツでも、やってそうな感じだ。
「実は、年に一度『東地区町内会』と『西地区町内会』の、交流イベントが行われるんだ。もう、かれこれ、十年以上も続いている、伝統行事でな」
「なるほど、そんな事をやってたんですか。何か、楽しそうですね」
「いや、そんな、楽しいもんじゃないんだ。その交流イベントってのは、東西対抗の、野球試合だからな」
「へぇー、スポーツ交流ですか。いいじゃないですか、野球の試合」
私は、それを聴いた瞬間、急にワクワクしてきた。しかも、試合と聴いて、血が騒いでくる。子供のころは、よく男子たちに交じって、野球をやっていた。足が速いので、結構、活躍してたし。球技系全般は、かなり得意なので。
ただ、私のテンションとは逆に、周囲にいた人たちの表情は暗く、なぜか、空気が重かった。いつも、ノリのいい商店街の人たちが、こんなに大人しいのは珍しい。
しばしの沈黙のあと、ドナさんは、大きなため息をついてから、話を続けた。
「まぁ、俺は野球が好きだし、試合するのは構わん。だが、勝てればの話だ。ここ十年の結果は、0勝10負。完膚なきまでに、やられているんだ――」
「しかも、あいつら。そのことで、やたらと小馬鹿にしてきやがる。新参者の癖しやがって。歴史的には〈東地区商店街〉のほうが、はるかに昔からやってるんだから、大先輩だというのに」
ドナさんは、物凄く悔しそうな表情で語る。
「そーだ、そーだ。あいつら、野球に勝ったぐらいで、でかい顔しやがって!」
「まったく、何も分かっちゃないんだよ。新参者たちは!」
「だいたい、やつらは、やり方が汚いんだ!」
ドナさんの言葉に同調して、次々と不満の声が上がった。
ちなみに〈東地区商店街〉は、この町で、一番、最初に作られた商店街。四魔女がいた、戦時中からあったため、非常に歴史が古い。対して〈西地区商店街〉は、戦後、かなり経ってから作られた、新しい商店街だ。
客層も雰囲気も、真逆だし。元々〈西地区〉に対しては、何となく、ライバル心があるような気はしていた。でも、流石に、ここまでとは思わなかった。
うーむ……これって、ただの交流イベントじゃ、なさそうだよね? なんか、色々と因縁があって、ややこしい事になってるみたいだし。これじゃ、むしろ、イベントをやるだけ、逆効果な気がするけど――。
皆の不満の声が、一段落したところで、私は、遠慮がちに提案してみた。
「あのー……そんなに嫌なら『やらない』という、選択肢はないのですか?」
やればやるほど、遺恨が深まって行くような気がする。
「そんなの、絶対にダメだ! もし、ここで引いたら、奴ら『逃げ出した』と言うに決まってる」
「そーだ、そーだ。勝つまでは、絶対に止めないぞ!」
「そーよ、鼻を明かしてやらないと、気が済まないわ!」
「今年こそは、コテンパンにしてやる!」
私の一言で、ますます、過熱してしまった。
これは、やっぱり、試合するしかないのかなぁ――。確かに、負けっぱなしというのも、気分がよくないよね。交流イベントなのに、勝ち負けにこだわるのも、大人げない気がするけど。私も、かなりの負けず嫌いなので、気持ちは分かる。
「でも、十連敗って、相手は、そんなに強いんですか? ある程度、力が拮抗していれば、だいたい、五分五分になると思うんですけど……」
素人の草野球なら、よほど強い選手でもいない限りは、そこまで、極端な戦績にはならないと思う。
「それがな『西地区町内会』の奴ら、毎回、強い助っ人を連れ来るんだよ」
「まったく、えげつないよな。ただの交流試合に、助っ人とか」
「奴らは、勝つためなら、手段は選ばないからな」
あー、なるほど、そういうことね。でも、助っ人を呼ぶということは、相手は、かなり本気で、勝ちに来ているようだ。
「助っ人ありのルールなんですか? なら、うちも助っ人を呼んでは?」
「ルール上は、禁止ではないからな。だが、俺たちは、正々堂々やりたいんだ」
「そうだ。正々堂々勝ってこそ、意味があるってもんよ」
「でも、それで、ずっと負けちゃってるんですよね?」
私の言葉で、シーンと静まり返った。
〈東地区商店街〉の人たちって、歴史が古いせいか、昔気質で、物凄く真っ直ぐなんだよね。対して〈西地区商店街〉は、比較的、新しいし、考え方が柔軟なんだと思う。
「別に、助っ人は、悪いことじゃないと思いますよ。プロ野球だって、助っ人枠がありますし。相手が使ってないのに使ったら、ズルいかもしれませんけど。同じ条件なら、フェアプレイじゃないですか?」
「とは言っても、うちらには、助っ人なんて、当てがないしなぁ」
「若い者は、みんな、大陸に行ってしまっているからねぇ」
「この地域は、年寄りばかりだからな」
確かに、若者が多い〈西地区〉に比べ〈東地区〉は、年配の人たちが多い。お店の店主や女将さんたちも、ほとんどが中高年だ。
「助っ人は〈東地区〉に住んでいれば、誰でもいいんですか?」
「いや、あいつらの助っ人は〈西地区〉以外の者もいるからな」
「とりあえず、この町に住んでれば、いいんじゃないか? 厳密なルールもないし」
「そうですか。それなら、私に心当たりが有りますけど」
私が答えた瞬間、みんなの視線が、一斉に突き刺さる。
「おぉ、流石は風歌ちゃん!」
「やっぱり、風歌ちゃんは〈東地区商店街〉の救世主だな!」
「いやー、頼りになるわね、風歌ちゃんは!」
「風歌ちゃんがいれば、今年こそ、勝てるな!」
私の、何気ない一言で、偉い盛り上がりになってしまった。
「あの――心当たりが、少しあるだけで。まだ、決まった訳では……」
知り合いのシルフィードに、当たってみるだけで、正直、確証はない。いきなり頼んでも、試合に出てくれるかどうか――?
「平気、平気。わしらなんか、何の当てもないからなぁ」
「そうそう、風歌ちゃんなら、また、やってくれるわ」
「また、こないだのフェアの時みたいに、パーっと頼むよ」
みんなが、あまりにも、嬉しそうに声をあげるので、断るに断れない状況になってしまった。
ぐっ――なんか、期待が重すぎる。とはいえ〈東地区商店街〉は、私のホームだし。何とかして、力になってあげたい。
それに、スポーツなら、私は何だって得意だし。大事な人たちが、負けるのも見たくないし。こうなったら、私が一肌脱いで、とことんやるしかないよね。
よし、商店街のみんなのためにも、勝利のためにも、全力で頑張りまっしょい!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回――
『ちょっと本気だしたらドリームチームが出来てしまった』
本気ですればたいていの事はできる。本気ですれば誰かが助けてくれる
ただ、特に用がない時でも『町内会議』と称して、世間話や情報交換などをやっていた。料理を持ち寄ったり、バーベキューをしたり、ただ、楽しく食事会をする場合もある。基本は、懇親会みたいな感じかな。
そういえば、こないだやったバーベキュー、すっごく美味しかったなぁ。肉屋のハリスさんは、超高級肉や希少部位を。八百屋のメイズさんは、とても新鮮な野菜を提供してくれた。お店をやってる人が多いから、食材が何気に豪華なんだよね。
ここの町内会の人たちは、みんな、とても仲がいい。なにより、滅茶苦茶、結束力が強かった。問題があれば、腹を割って話し合うし。困った人がいれば、みんなで助け合う。まるで、全員が、家族のような存在だ。
今日は『大事な会議がある』と聴いて、私が〈ホワイト・ウイング〉の代表としてやってきた。この町の伝統の『広場会議』にのっとり、この町内会の会議も、いつも公園で行われている。青空の下で話すのも、開放感があっていいと思う。
ちなみに、町内会のイベントは、ほとんど、私が参加している。リリーシャさんは、相変わらず予約が一杯で、物凄く忙しいからだ。本来の仕事とは、ちょっと違うけど。町内会の参加も、会社への貢献になるから、全力で頑張っている。
参加者は、年配の人が多いけど、みんな凄く元気だ。年齢を感じさせない、エネルギッシュな人が多い。会議が始まるまでの間は、ワイワイと世間話で盛り上がる。普段から仲良しだから、いざイベントをやる時も、一致団結するんだよね。
私も、その中に交じって、色々な話をする。商店街の人たちは、たくさんのお客様を相手にしているせいか、私の知らない、様々な情報を持っていた。特に、奥様方の情報網は広く、滅茶苦茶、勉強になる。
人気のお店、新店の評判、特売の情報など。やはり、買い物や飲食店に関しては、主婦の情報に勝るものはない。私は、自分の生活と観光案内のため、物凄く真剣に、話を聴き入っていた。必要に応じて、メモもとっておく。
しばらくすると、みんなの前に、町内会長さんが現れた。彼が、ゴホンと咳払いをすると、急に静まり返る。
「えー、それでは〈東地区商店街〉の、定例会議を始めたいと思います。まず、本題に入る前に、何か話すべき案件は、あるでしょうか?」
町内会長さんは、皆の顔を見回したが、何も意見は出てこなかった。
「では、さっそく、本題について話を始めましょう。ご存知の通り、我が商店街は、ここ数年、非常にマズイ状況にあります。何とか、今年こそは、挽回したいのですが。何か、よい意見は、あるでしょうか?」
会長さんの言葉のあと、皆の表情が、とても険しくなる。腕を組んだり、顔をしかめたりして、黙り込んでしまった。いつもの明るい雰囲気とは、正反対だ。
以前やった『ホワイトウイング・フェア』以降、お客さんの数が、かなり増えたと聴いてたけど。また、売り上げが、落ち込んでしまったのだろうか?
「あの……一ついいでしょうか?」
状況がよく分からないので、私は、小さく手を挙げる。
すると、周囲にいた全員の視線が、私に集中した。しかも、なにやら、期待に満ちた目をしている。
えぇっ――?! いったい、何事?
「おぉ、風歌ちゃん。また、何かいいアイディアでも、あるのかな?」
「いえ……そうではなくて。状況が、今一つ、呑み込めていないのですが。また、お客様が、減ってしまったのでしょうか――?」
「そういえば、風歌ちゃんは『東西戦』については、初めてだったね」
「えっ、東西戦……?」
何かの勝負事? 二つに分かれて、売り上げを、競ったりとかするのかな?
「それについては、俺から説明しよう」
スッと立ち上がったのは、牛乳屋の御主人の、ドナさんだった。身長が高く、体つきも筋肉質で、がっちりしている。何か、スポーツでも、やってそうな感じだ。
「実は、年に一度『東地区町内会』と『西地区町内会』の、交流イベントが行われるんだ。もう、かれこれ、十年以上も続いている、伝統行事でな」
「なるほど、そんな事をやってたんですか。何か、楽しそうですね」
「いや、そんな、楽しいもんじゃないんだ。その交流イベントってのは、東西対抗の、野球試合だからな」
「へぇー、スポーツ交流ですか。いいじゃないですか、野球の試合」
私は、それを聴いた瞬間、急にワクワクしてきた。しかも、試合と聴いて、血が騒いでくる。子供のころは、よく男子たちに交じって、野球をやっていた。足が速いので、結構、活躍してたし。球技系全般は、かなり得意なので。
ただ、私のテンションとは逆に、周囲にいた人たちの表情は暗く、なぜか、空気が重かった。いつも、ノリのいい商店街の人たちが、こんなに大人しいのは珍しい。
しばしの沈黙のあと、ドナさんは、大きなため息をついてから、話を続けた。
「まぁ、俺は野球が好きだし、試合するのは構わん。だが、勝てればの話だ。ここ十年の結果は、0勝10負。完膚なきまでに、やられているんだ――」
「しかも、あいつら。そのことで、やたらと小馬鹿にしてきやがる。新参者の癖しやがって。歴史的には〈東地区商店街〉のほうが、はるかに昔からやってるんだから、大先輩だというのに」
ドナさんは、物凄く悔しそうな表情で語る。
「そーだ、そーだ。あいつら、野球に勝ったぐらいで、でかい顔しやがって!」
「まったく、何も分かっちゃないんだよ。新参者たちは!」
「だいたい、やつらは、やり方が汚いんだ!」
ドナさんの言葉に同調して、次々と不満の声が上がった。
ちなみに〈東地区商店街〉は、この町で、一番、最初に作られた商店街。四魔女がいた、戦時中からあったため、非常に歴史が古い。対して〈西地区商店街〉は、戦後、かなり経ってから作られた、新しい商店街だ。
客層も雰囲気も、真逆だし。元々〈西地区〉に対しては、何となく、ライバル心があるような気はしていた。でも、流石に、ここまでとは思わなかった。
うーむ……これって、ただの交流イベントじゃ、なさそうだよね? なんか、色々と因縁があって、ややこしい事になってるみたいだし。これじゃ、むしろ、イベントをやるだけ、逆効果な気がするけど――。
皆の不満の声が、一段落したところで、私は、遠慮がちに提案してみた。
「あのー……そんなに嫌なら『やらない』という、選択肢はないのですか?」
やればやるほど、遺恨が深まって行くような気がする。
「そんなの、絶対にダメだ! もし、ここで引いたら、奴ら『逃げ出した』と言うに決まってる」
「そーだ、そーだ。勝つまでは、絶対に止めないぞ!」
「そーよ、鼻を明かしてやらないと、気が済まないわ!」
「今年こそは、コテンパンにしてやる!」
私の一言で、ますます、過熱してしまった。
これは、やっぱり、試合するしかないのかなぁ――。確かに、負けっぱなしというのも、気分がよくないよね。交流イベントなのに、勝ち負けにこだわるのも、大人げない気がするけど。私も、かなりの負けず嫌いなので、気持ちは分かる。
「でも、十連敗って、相手は、そんなに強いんですか? ある程度、力が拮抗していれば、だいたい、五分五分になると思うんですけど……」
素人の草野球なら、よほど強い選手でもいない限りは、そこまで、極端な戦績にはならないと思う。
「それがな『西地区町内会』の奴ら、毎回、強い助っ人を連れ来るんだよ」
「まったく、えげつないよな。ただの交流試合に、助っ人とか」
「奴らは、勝つためなら、手段は選ばないからな」
あー、なるほど、そういうことね。でも、助っ人を呼ぶということは、相手は、かなり本気で、勝ちに来ているようだ。
「助っ人ありのルールなんですか? なら、うちも助っ人を呼んでは?」
「ルール上は、禁止ではないからな。だが、俺たちは、正々堂々やりたいんだ」
「そうだ。正々堂々勝ってこそ、意味があるってもんよ」
「でも、それで、ずっと負けちゃってるんですよね?」
私の言葉で、シーンと静まり返った。
〈東地区商店街〉の人たちって、歴史が古いせいか、昔気質で、物凄く真っ直ぐなんだよね。対して〈西地区商店街〉は、比較的、新しいし、考え方が柔軟なんだと思う。
「別に、助っ人は、悪いことじゃないと思いますよ。プロ野球だって、助っ人枠がありますし。相手が使ってないのに使ったら、ズルいかもしれませんけど。同じ条件なら、フェアプレイじゃないですか?」
「とは言っても、うちらには、助っ人なんて、当てがないしなぁ」
「若い者は、みんな、大陸に行ってしまっているからねぇ」
「この地域は、年寄りばかりだからな」
確かに、若者が多い〈西地区〉に比べ〈東地区〉は、年配の人たちが多い。お店の店主や女将さんたちも、ほとんどが中高年だ。
「助っ人は〈東地区〉に住んでいれば、誰でもいいんですか?」
「いや、あいつらの助っ人は〈西地区〉以外の者もいるからな」
「とりあえず、この町に住んでれば、いいんじゃないか? 厳密なルールもないし」
「そうですか。それなら、私に心当たりが有りますけど」
私が答えた瞬間、みんなの視線が、一斉に突き刺さる。
「おぉ、流石は風歌ちゃん!」
「やっぱり、風歌ちゃんは〈東地区商店街〉の救世主だな!」
「いやー、頼りになるわね、風歌ちゃんは!」
「風歌ちゃんがいれば、今年こそ、勝てるな!」
私の、何気ない一言で、偉い盛り上がりになってしまった。
「あの――心当たりが、少しあるだけで。まだ、決まった訳では……」
知り合いのシルフィードに、当たってみるだけで、正直、確証はない。いきなり頼んでも、試合に出てくれるかどうか――?
「平気、平気。わしらなんか、何の当てもないからなぁ」
「そうそう、風歌ちゃんなら、また、やってくれるわ」
「また、こないだのフェアの時みたいに、パーっと頼むよ」
みんなが、あまりにも、嬉しそうに声をあげるので、断るに断れない状況になってしまった。
ぐっ――なんか、期待が重すぎる。とはいえ〈東地区商店街〉は、私のホームだし。何とかして、力になってあげたい。
それに、スポーツなら、私は何だって得意だし。大事な人たちが、負けるのも見たくないし。こうなったら、私が一肌脱いで、とことんやるしかないよね。
よし、商店街のみんなのためにも、勝利のためにも、全力で頑張りまっしょい!
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次回――
『ちょっと本気だしたらドリームチームが出来てしまった』
本気ですればたいていの事はできる。本気ですれば誰かが助けてくれる
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