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第7部 才能と現実の壁
2-4人って一緒にいれば自然に仲良くなるもんだよね?
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夜、静寂に包まれた、屋根裏部屋で。私は、マギコンを起動し、空中モニターを見ながら勉強中だった。でも、以前のような、切羽詰まった感じはない。試験は、すでに全てクリアしているので、最近は、一般教養の勉強がメインだからだ。
とはいえ、まだまだ、学ぶことは多い。以前に比べて、だいぶマシにはなったけど。この世界にいる年数が短いので、知らないことが、沢山あるからだ。昔なら、あいまいに放置していた知識も、最近では、細かく調べて勉強している。
流石に、エア・マスターになって、知らないことが有るのはマズイし。私のあとから始めた、新人たちも沢山いるので。階級に見合った、実力や教養を、身につけなければならないからだ。
町を飛び回っている、新人の子を見かける度に『もっと頑張らなければ』と、自然に、気持ちが引き締まる。先達として、頼りない姿は、見せられないもんね。やっぱり、立場は人を、大きく変えると思う。
スピで調べ物をしていると、着信音が鳴った。見るまでもなく分かるけど、念のため、送信者名を確認する。案の定、ユメちゃんからだった。私は、サッとELを立ちげ、返信のメッセージを打ち込んだ。
『風ちゃん、こんばんはー。元気してる?』
『こんばんは、ユメちゃん。もちろん、元気だよ。そっちはどう? また、引きこもったりしてない?』
『してないよー! 毎日、ちゃんと学校、行ってるもん』
『そっかー、偉いねぇ、ユメちゃんは』
『あぁー、子ども扱いしてるでしょ?』
ユメちゃんは、今はしっかり、学校に通っている。最初は、物凄く心配していたけど。意外と順応性はあるようで、普通に、学校に馴染んでいた。元々勉強は好きなんだから、社会生活さえできれば、何も問題ないんだよね。
『別に、そういう訳じゃないんだけど。最近、新人の子を、よく見かけるから。ユメちゃんも、新人みたいな感じだし』
『風ちゃん、社会人、三年目だし。もう、エア・マスターだもんねぇ。そんな風ちゃんから見たら、私なんて、お子様だよね……』
『いやいや、そんなことないって。ユメちゃんも、十分、大人だから』
『本当に?』
『本当に、本当!』
ユメちゃんは、以前と比べ、だいぶ雰囲気が、変わった気がする。前は、ネガティブなことは、絶対に言わなかった。でも、あれは、ただの空元気だったのかもしれない。
今は、結構、愚痴を言ったり、弱音を吐いたりするけど。こっちのほうが、自然体でいいと思う。そもそも、私より年下なんだから、無理に背伸びせずに、もっと子供っぽくても、いいんだよね。
『ところで、学校のほうはどう? 上手く行ってる?』
『うん。今のところ、問題ないかな。勉強自体は、家に籠っている間にも、毎日やってたし』
『そっかー。勉強についていけるなら、安心だね』
『一応、高校三年までの学習過程は、全て勉強済みだから』
『って、凄ーっ!! もう、学校に行く必要ないじゃん』
『ただ、暇つぶしに、やってただけだし。学校は必要だよー』
引きこもり生活中は、一日中、本を読むか、勉強をしていたみたいだ。なので、そんじょそこらの大人よりも、はるかに頭がいい。にしても、暇つぶしで、中学生が、高校レベルの学力って――。
『勉強が好きだと、学校、楽しそうだよねぇ』
『でも、勉強だけが、目的じゃないし。ずっと、普通の学生生活を、エンジョイして見たかったんだよね』
『学生時代にしか、出来ないこともあるし。青春って、大事な経験だよね。でも、本当に、一年からで良かったの? ユメちゃんなら、三年からでも、余裕で通用する学力があるのに』
『ちょっと、悩んだんだけどね。やっぱり、一からやり直したほうが、いいかなぁーって。そうすれば、失われた時間が、取り戻せるような気がして。まぁ、実際に、時が戻ることは、絶対にないんだけど……』
気楽に言ってるけど、この決断には、そうとう悩んだはずだ。外に出るだけでも、ユメちゃんにとっては、大変な勇気が必要な、未知の挑戦だった。それに加え、二年遅れは、精神的な負担も大きいはずだ。
ただ、学校をやり直すのは、彼女なりのケジメであり、精神的な区切りとして、必要な行為なんだと思う。今なお、ユメちゃんは、過去の悲しい事件と、戦っているのだから。
『時間は戻らなくても、人生は何度でも、やり直しが利くからね。だから、納得するまで、色々やってみればいいと思うよ。絶対に、取り戻せるから。失った時間とか、夢とか青春とか』
生きている限り、何度だってやり直せる。それに、何度もやり直していれば、いつかは、必ず上手く行く。私は、そう強く信じて、日々を精一杯に生きて来た。不器用だから、そういうやり方しか、出来なかったのもあるけど――。
『だと、いいなぁ。でも、風ちゃんが言うと、凄く説得力があるね』
『いやぁー、失敗だらけの人生だから。その都度、やり直してたもんね』
『でも、失敗が多いのは、一杯、挑戦しているからだよ。私は、失敗が少ないけど、挑戦を避けてたからで。風ちゃんは、挑戦の天才だよね』
『そ、そうかな……?』
いつも、周囲からは、無謀だの、考えなしだの、散々に言われている。唯一、私の行動を褒めてくれるのは、ユメちゃんだけだ。
『私も、色々挑戦しなきゃなぁー、って思うんだけど。口で言うのは、簡単でも、実際には、難しいよね』
『今、学校に通ってること自体が、挑戦じゃないの?』
『それも、そうだけど。一般的に見たら、全然、挑戦じゃないもん。もっと、ちゃんとした挑戦をしたいなぁ』
『何か、やりたい事でもあるの?』
一年前は、外に出るのですら、やっとだったのに。どんどん、挑戦のハードルが上がって来ていた。これは、いい傾向だと思う。そもそも、ユメちゃんは、意識高い系だし、かなり負けず嫌いだからね。
『まずは、シルフィードになるために、色々身につけたいかな』
『でも、今は「シルフィード養成科」に行ってるんだよね? なら、少しずつ、学んでいけば、いいんじゃないの?』
〈ナターシャ叡智学館〉は、一年は普通科で、二年からは、シルフィード養成科になっている。彼女は、今まさに、シルフィードの勉強を、進めている最中だ。
『そうなんだけどね。ただ、色々足りないなぁー、って思うんだ』
『ユメちゃんでも、出来ないことってあるの? 勉強、物凄く得意なのに』
『うーん、学科のほうは、全く問題ないんだよね。引き籠っている間に、シルフィードの勉強もしてたし。だから、授業では、復習してる感じ』
『それって、全く問題ないのでは――?』
流石は、ユメちゃん。中学生なのに、高校過程の勉強もしてるし。向こうの世界の勉強までやっている。加えて、シルフィードの学科まで、終えてるとか。どんだけ、勉強が大好きなの……?
『ただ、私は実技面が、ほぼ壊滅状態なんだよね。体育の授業は、毎回すぐにダウンしてるし。エア・ドルフィンは、上手く飛ばせないし。接客もサッパリだし――』
『何ていうか、私と、完全に真逆だね……。でも、意外。体力面は、しょうがないとしても、エア・ドルフィンは、操縦できるんだと思ってた。あと、コミュニケーションだって、普通に、できてるみたいだし』
ユメちゃんは、この世界で生まれ育っているので、魔力関連に関しては、小さいころから触れている。まして、これだけ頭がいいのだから、マナ工学なども、非常に詳しいはずだ。
『学校の行き来も、どこに出かける時も、エア・カートで、送り迎えして貰ってたから。今まで、自分で運転したこと、一度もなくて。だから、魔力コントロールが、サッパリなの(涙)』
『あー、そういうことね』
こうして話していると、普通の女の子だけど。よくよく考えて見たら、超箱入りのお嬢様だった。専属の運転手や、執事さんまでいるんだから。自分で運転する必要が、全くないもんね。これは、極めて特殊なケースだ。
『あと、私、接客とか、滅茶苦茶、下手なんだけど。敬語を使うの、慣れてないし。そもそも、知らない人と話すのも、凄く苦手だし』
『そうなの? 普通に、話せてるじゃん?』
『それは、風ちゃんだからだよ。前にも言ったけど、私、超人見知りだから。引きこもってた理由の一つが、それも、あるんだよね――』
『へぇぇーー、そうなの?』
人見知りにも、色んなタイプがある。全ての人と、コミュニケーションが取れない人もいるけど、ユメちゃんはそうじゃない。仲のいい人なら、普通に話せる。だから、練習や慣れで、どうにかなると思うんだよね。
『でも、操縦も接客も、練習さえすれば、上手くなるよ。私も、エア・ドルフィンは、最初は、超苦戦したから。そもそも、エンジンが、全く掛からなくて。ほんの数センチ浮かすのに、二週間以上、掛かったからね……』
最初は、本当に大変だった。気合を入れ、頭に血を登らせて、唸り声をあげたりとか。でも、いくらやっても、気合で飛ぶことはできなかった。あのころは、魔力の何たるかを、全く理解してなくて。魔力と気合は、全く別物なんだけど――。
『へぇー、意外。風ちゃんなら、運動神経いいから、あっさり、乗りこなしたのかと思ってた』
『いやいや、運動神経と、魔力コントロールは、全く関係ないから。でも、接客は、特に勉強せずに、できるようになったかな。毎日、すぐそばで、リリーシャさんを見ていたから。見よう見まねでやってるうちに、自然に覚えた感じ』
一応、学習ファイルでも、勉強はしたけど。結局、接客は、実践で覚えたほうが、早いと思う。それに、ほぼ全て、リリーシャさんを参考にしている。
レビューサイトでも、リリーシャさんの接客は、常に満点が付いている。それ程、ハイレベルな接客なのだ。入社、初日から、毎日、最高レベルの接客を見て来たので、上手くなるのは、当然だよね。
『問題は、そこだよ。それは、風ちゃんだから、出来るの。私は、いくら学習ファイル読んでも、全くできないから』
『うーん、なんでだろ? ただ、挨拶して、楽しく話せば、いいだけだなのに』
『だーかーらー! それは、コミュ力が高い人の理論なの!! コミュ力が皆無の私には、難し過ぎて、分からないよー!』
『うーむ……そうなんだ?』
人と仲良くなる方法とか、上手く話す方法は、今一つ上手く説明できない。特に、考えてやってないし。そのことで、今まで、一度も悩んだことがないからだ。誰とでも、気付いたら、いつの間にか、仲良くなってるもんね。
そもそも、人って一緒にいれば、自然に、仲良くなるもんなんじゃないの? どんなに気難しい人でも、時間が解決してくれるし。普通の人なら、数分、話せば、仲良くなれると思う。
『エア・ドルフィンは、まだしも。接客のほうは、気が重いなぁ――』
『でも、友達とは、普通に話せてるんでしょ? 友達が作れるなら、普通に、コミュ力あるんじゃないの?』
『今、仲のいい子は、趣味が全く同じだから、話も合うし。私、思考が近い人とじゃないと、上手く、話せないんだよね』
『なら、違うタイプの子とも、友達になって見たら?』
同じタイプに見えても、人の性格は、それぞれ違う。逆に言えば、真逆のタイプの人と、物凄く気が合う場合もある。こればかりは、付き合ってみないと、分からないんだよねぇ。
『でも、趣味の違う子と、どうやって話すキッカケ作ればいいか、分からないよ』
『そんなの、遊びに誘うだけでいいじゃん。一緒に遊ぶのが、仲良くなる、一番の早道だよ。おすすめは、カラオケ。ワイワイ盛り上がれば、すぐに仲良くなるよ』
社会人が、飲みニケーションなら、学生は、カラオケ―ションだ。みんなで、大声を出して盛り上がれば、いつの間にか、仲間意識が芽生えてくる。
『えぇー?! 私、恥ずかしくて、みんなの前で歌うなんて、絶対に無理っ!』
『いやいや、お客様の前で、歌うんじゃないし。友達同士なら、別に恥ずかしがる必要ないよ。私も、そんなに歌、上手くないけど、よく行ってたし』
大事なのは、ノリと勢いだ。楽しければ、上手い下手なんて、関係ないもんね。多少、音を外すぐらいは、愛嬌だ。
『うー……。そもそも、カラオケなんて、行ったことないもん』
『なら、今度、一緒に行こうか。私と二人なら、平気でしょ? 歌い方とか、盛り上げ方とか、色々教えてあげるよ』
『えぇっ、本当に? お願いします、風歌師匠!!』
『あははっ、どーんと、任せておいて!』
特技と言えるかは、分からないけど。場を盛り上げるのは、結構、得意だ。伊達に、昔から『ムードメーカー』とか『晴れ女』って、言われてた訳じゃない。声もデカいし、元気は、あり余ってるんで。
その後も、学校の話や世間話で盛り上がる。愚痴や弱音も、かなり出て来るけど、そもそも、本当の友達との会話って、こんなもんだよね。ようやくユメちゃんも、背伸びをせずに、等身大になれた気がする。
この調子なら、学校は大丈夫そうだね。元々物凄く頭のいい子だから、シルフィードだって、難なくなれるはずだ。
あとは、過度に干渉しない程度に、温かく成長を見守ってあげようと思う。私が今まで、先輩たちに、そうして貰っていたように……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回――
『素直すぎる性格も考えものよね……』
本当は嬉しくても、素直になれない人だっているわよ
とはいえ、まだまだ、学ぶことは多い。以前に比べて、だいぶマシにはなったけど。この世界にいる年数が短いので、知らないことが、沢山あるからだ。昔なら、あいまいに放置していた知識も、最近では、細かく調べて勉強している。
流石に、エア・マスターになって、知らないことが有るのはマズイし。私のあとから始めた、新人たちも沢山いるので。階級に見合った、実力や教養を、身につけなければならないからだ。
町を飛び回っている、新人の子を見かける度に『もっと頑張らなければ』と、自然に、気持ちが引き締まる。先達として、頼りない姿は、見せられないもんね。やっぱり、立場は人を、大きく変えると思う。
スピで調べ物をしていると、着信音が鳴った。見るまでもなく分かるけど、念のため、送信者名を確認する。案の定、ユメちゃんからだった。私は、サッとELを立ちげ、返信のメッセージを打ち込んだ。
『風ちゃん、こんばんはー。元気してる?』
『こんばんは、ユメちゃん。もちろん、元気だよ。そっちはどう? また、引きこもったりしてない?』
『してないよー! 毎日、ちゃんと学校、行ってるもん』
『そっかー、偉いねぇ、ユメちゃんは』
『あぁー、子ども扱いしてるでしょ?』
ユメちゃんは、今はしっかり、学校に通っている。最初は、物凄く心配していたけど。意外と順応性はあるようで、普通に、学校に馴染んでいた。元々勉強は好きなんだから、社会生活さえできれば、何も問題ないんだよね。
『別に、そういう訳じゃないんだけど。最近、新人の子を、よく見かけるから。ユメちゃんも、新人みたいな感じだし』
『風ちゃん、社会人、三年目だし。もう、エア・マスターだもんねぇ。そんな風ちゃんから見たら、私なんて、お子様だよね……』
『いやいや、そんなことないって。ユメちゃんも、十分、大人だから』
『本当に?』
『本当に、本当!』
ユメちゃんは、以前と比べ、だいぶ雰囲気が、変わった気がする。前は、ネガティブなことは、絶対に言わなかった。でも、あれは、ただの空元気だったのかもしれない。
今は、結構、愚痴を言ったり、弱音を吐いたりするけど。こっちのほうが、自然体でいいと思う。そもそも、私より年下なんだから、無理に背伸びせずに、もっと子供っぽくても、いいんだよね。
『ところで、学校のほうはどう? 上手く行ってる?』
『うん。今のところ、問題ないかな。勉強自体は、家に籠っている間にも、毎日やってたし』
『そっかー。勉強についていけるなら、安心だね』
『一応、高校三年までの学習過程は、全て勉強済みだから』
『って、凄ーっ!! もう、学校に行く必要ないじゃん』
『ただ、暇つぶしに、やってただけだし。学校は必要だよー』
引きこもり生活中は、一日中、本を読むか、勉強をしていたみたいだ。なので、そんじょそこらの大人よりも、はるかに頭がいい。にしても、暇つぶしで、中学生が、高校レベルの学力って――。
『勉強が好きだと、学校、楽しそうだよねぇ』
『でも、勉強だけが、目的じゃないし。ずっと、普通の学生生活を、エンジョイして見たかったんだよね』
『学生時代にしか、出来ないこともあるし。青春って、大事な経験だよね。でも、本当に、一年からで良かったの? ユメちゃんなら、三年からでも、余裕で通用する学力があるのに』
『ちょっと、悩んだんだけどね。やっぱり、一からやり直したほうが、いいかなぁーって。そうすれば、失われた時間が、取り戻せるような気がして。まぁ、実際に、時が戻ることは、絶対にないんだけど……』
気楽に言ってるけど、この決断には、そうとう悩んだはずだ。外に出るだけでも、ユメちゃんにとっては、大変な勇気が必要な、未知の挑戦だった。それに加え、二年遅れは、精神的な負担も大きいはずだ。
ただ、学校をやり直すのは、彼女なりのケジメであり、精神的な区切りとして、必要な行為なんだと思う。今なお、ユメちゃんは、過去の悲しい事件と、戦っているのだから。
『時間は戻らなくても、人生は何度でも、やり直しが利くからね。だから、納得するまで、色々やってみればいいと思うよ。絶対に、取り戻せるから。失った時間とか、夢とか青春とか』
生きている限り、何度だってやり直せる。それに、何度もやり直していれば、いつかは、必ず上手く行く。私は、そう強く信じて、日々を精一杯に生きて来た。不器用だから、そういうやり方しか、出来なかったのもあるけど――。
『だと、いいなぁ。でも、風ちゃんが言うと、凄く説得力があるね』
『いやぁー、失敗だらけの人生だから。その都度、やり直してたもんね』
『でも、失敗が多いのは、一杯、挑戦しているからだよ。私は、失敗が少ないけど、挑戦を避けてたからで。風ちゃんは、挑戦の天才だよね』
『そ、そうかな……?』
いつも、周囲からは、無謀だの、考えなしだの、散々に言われている。唯一、私の行動を褒めてくれるのは、ユメちゃんだけだ。
『私も、色々挑戦しなきゃなぁー、って思うんだけど。口で言うのは、簡単でも、実際には、難しいよね』
『今、学校に通ってること自体が、挑戦じゃないの?』
『それも、そうだけど。一般的に見たら、全然、挑戦じゃないもん。もっと、ちゃんとした挑戦をしたいなぁ』
『何か、やりたい事でもあるの?』
一年前は、外に出るのですら、やっとだったのに。どんどん、挑戦のハードルが上がって来ていた。これは、いい傾向だと思う。そもそも、ユメちゃんは、意識高い系だし、かなり負けず嫌いだからね。
『まずは、シルフィードになるために、色々身につけたいかな』
『でも、今は「シルフィード養成科」に行ってるんだよね? なら、少しずつ、学んでいけば、いいんじゃないの?』
〈ナターシャ叡智学館〉は、一年は普通科で、二年からは、シルフィード養成科になっている。彼女は、今まさに、シルフィードの勉強を、進めている最中だ。
『そうなんだけどね。ただ、色々足りないなぁー、って思うんだ』
『ユメちゃんでも、出来ないことってあるの? 勉強、物凄く得意なのに』
『うーん、学科のほうは、全く問題ないんだよね。引き籠っている間に、シルフィードの勉強もしてたし。だから、授業では、復習してる感じ』
『それって、全く問題ないのでは――?』
流石は、ユメちゃん。中学生なのに、高校過程の勉強もしてるし。向こうの世界の勉強までやっている。加えて、シルフィードの学科まで、終えてるとか。どんだけ、勉強が大好きなの……?
『ただ、私は実技面が、ほぼ壊滅状態なんだよね。体育の授業は、毎回すぐにダウンしてるし。エア・ドルフィンは、上手く飛ばせないし。接客もサッパリだし――』
『何ていうか、私と、完全に真逆だね……。でも、意外。体力面は、しょうがないとしても、エア・ドルフィンは、操縦できるんだと思ってた。あと、コミュニケーションだって、普通に、できてるみたいだし』
ユメちゃんは、この世界で生まれ育っているので、魔力関連に関しては、小さいころから触れている。まして、これだけ頭がいいのだから、マナ工学なども、非常に詳しいはずだ。
『学校の行き来も、どこに出かける時も、エア・カートで、送り迎えして貰ってたから。今まで、自分で運転したこと、一度もなくて。だから、魔力コントロールが、サッパリなの(涙)』
『あー、そういうことね』
こうして話していると、普通の女の子だけど。よくよく考えて見たら、超箱入りのお嬢様だった。専属の運転手や、執事さんまでいるんだから。自分で運転する必要が、全くないもんね。これは、極めて特殊なケースだ。
『あと、私、接客とか、滅茶苦茶、下手なんだけど。敬語を使うの、慣れてないし。そもそも、知らない人と話すのも、凄く苦手だし』
『そうなの? 普通に、話せてるじゃん?』
『それは、風ちゃんだからだよ。前にも言ったけど、私、超人見知りだから。引きこもってた理由の一つが、それも、あるんだよね――』
『へぇぇーー、そうなの?』
人見知りにも、色んなタイプがある。全ての人と、コミュニケーションが取れない人もいるけど、ユメちゃんはそうじゃない。仲のいい人なら、普通に話せる。だから、練習や慣れで、どうにかなると思うんだよね。
『でも、操縦も接客も、練習さえすれば、上手くなるよ。私も、エア・ドルフィンは、最初は、超苦戦したから。そもそも、エンジンが、全く掛からなくて。ほんの数センチ浮かすのに、二週間以上、掛かったからね……』
最初は、本当に大変だった。気合を入れ、頭に血を登らせて、唸り声をあげたりとか。でも、いくらやっても、気合で飛ぶことはできなかった。あのころは、魔力の何たるかを、全く理解してなくて。魔力と気合は、全く別物なんだけど――。
『へぇー、意外。風ちゃんなら、運動神経いいから、あっさり、乗りこなしたのかと思ってた』
『いやいや、運動神経と、魔力コントロールは、全く関係ないから。でも、接客は、特に勉強せずに、できるようになったかな。毎日、すぐそばで、リリーシャさんを見ていたから。見よう見まねでやってるうちに、自然に覚えた感じ』
一応、学習ファイルでも、勉強はしたけど。結局、接客は、実践で覚えたほうが、早いと思う。それに、ほぼ全て、リリーシャさんを参考にしている。
レビューサイトでも、リリーシャさんの接客は、常に満点が付いている。それ程、ハイレベルな接客なのだ。入社、初日から、毎日、最高レベルの接客を見て来たので、上手くなるのは、当然だよね。
『問題は、そこだよ。それは、風ちゃんだから、出来るの。私は、いくら学習ファイル読んでも、全くできないから』
『うーん、なんでだろ? ただ、挨拶して、楽しく話せば、いいだけだなのに』
『だーかーらー! それは、コミュ力が高い人の理論なの!! コミュ力が皆無の私には、難し過ぎて、分からないよー!』
『うーむ……そうなんだ?』
人と仲良くなる方法とか、上手く話す方法は、今一つ上手く説明できない。特に、考えてやってないし。そのことで、今まで、一度も悩んだことがないからだ。誰とでも、気付いたら、いつの間にか、仲良くなってるもんね。
そもそも、人って一緒にいれば、自然に、仲良くなるもんなんじゃないの? どんなに気難しい人でも、時間が解決してくれるし。普通の人なら、数分、話せば、仲良くなれると思う。
『エア・ドルフィンは、まだしも。接客のほうは、気が重いなぁ――』
『でも、友達とは、普通に話せてるんでしょ? 友達が作れるなら、普通に、コミュ力あるんじゃないの?』
『今、仲のいい子は、趣味が全く同じだから、話も合うし。私、思考が近い人とじゃないと、上手く、話せないんだよね』
『なら、違うタイプの子とも、友達になって見たら?』
同じタイプに見えても、人の性格は、それぞれ違う。逆に言えば、真逆のタイプの人と、物凄く気が合う場合もある。こればかりは、付き合ってみないと、分からないんだよねぇ。
『でも、趣味の違う子と、どうやって話すキッカケ作ればいいか、分からないよ』
『そんなの、遊びに誘うだけでいいじゃん。一緒に遊ぶのが、仲良くなる、一番の早道だよ。おすすめは、カラオケ。ワイワイ盛り上がれば、すぐに仲良くなるよ』
社会人が、飲みニケーションなら、学生は、カラオケ―ションだ。みんなで、大声を出して盛り上がれば、いつの間にか、仲間意識が芽生えてくる。
『えぇー?! 私、恥ずかしくて、みんなの前で歌うなんて、絶対に無理っ!』
『いやいや、お客様の前で、歌うんじゃないし。友達同士なら、別に恥ずかしがる必要ないよ。私も、そんなに歌、上手くないけど、よく行ってたし』
大事なのは、ノリと勢いだ。楽しければ、上手い下手なんて、関係ないもんね。多少、音を外すぐらいは、愛嬌だ。
『うー……。そもそも、カラオケなんて、行ったことないもん』
『なら、今度、一緒に行こうか。私と二人なら、平気でしょ? 歌い方とか、盛り上げ方とか、色々教えてあげるよ』
『えぇっ、本当に? お願いします、風歌師匠!!』
『あははっ、どーんと、任せておいて!』
特技と言えるかは、分からないけど。場を盛り上げるのは、結構、得意だ。伊達に、昔から『ムードメーカー』とか『晴れ女』って、言われてた訳じゃない。声もデカいし、元気は、あり余ってるんで。
その後も、学校の話や世間話で盛り上がる。愚痴や弱音も、かなり出て来るけど、そもそも、本当の友達との会話って、こんなもんだよね。ようやくユメちゃんも、背伸びをせずに、等身大になれた気がする。
この調子なら、学校は大丈夫そうだね。元々物凄く頭のいい子だから、シルフィードだって、難なくなれるはずだ。
あとは、過度に干渉しない程度に、温かく成長を見守ってあげようと思う。私が今まで、先輩たちに、そうして貰っていたように……。
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次回――
『素直すぎる性格も考えものよね……』
本当は嬉しくても、素直になれない人だっているわよ
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チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが……
・アキラ(男・人間・29歳)
杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が……
・ジャック(男・人間・34歳)
怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが……
・ランラン(女・人間・25歳)
優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は……
・シエナ(女・人間・28歳)
絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……
【完結】貧乏令嬢の野草による領地改革
うみの渚
ファンタジー
八歳の時に木から落ちて頭を打った衝撃で、前世の記憶が蘇った主人公。
優しい家族に恵まれたが、家はとても貧乏だった。
家族のためにと、前世の記憶を頼りに寂れた領地を皆に支えられて徐々に発展させていく。
主人公は、魔法・知識チートは持っていません。
加筆修正しました。
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