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第7部 才能と現実の壁
1-3どんなに成長しても人の本質は変わらない気がする
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夕方の五時半過ぎ。私は〈東地区〉にある、イタリアン・レストラン〈アクアマリン〉に来ていた。今日は恒例の、月に一度の、楽しい女子会だ。何だかんだで、一回目の開催から、ほぼ毎月、欠かさずやっていた。
昇進して、お給料も増えたので、もっと高級なお店に行くこともできる。でも、ここが一番、落ち着くんだよね。レストランと言っても、食堂に近い感じで、肩が凝らないし。初めて、三人が揃った、思い出の場所でもあるので。
私は、テラス席に座り、二人を待つ間、ボーッと周囲を眺めていた。このお店は、二年前から、何も変わっていない。というか、この付近は、何一つ変化がなかった。
〈南地区〉や〈西地区〉は、新しい建物やお店ができたりで、常に目まぐるしく変わっている。でも〈東地区〉は、相変わらず、古き良き街並みを保ち、人も建物も、ずっと同じままだ。
新しく発展していくのは、いいことだけど。この地区だけは、今のままであって欲しいと思う。私のホームだし、第二の故郷のようなものなので。
のんびりした街並みを眺めていると、上空からエンジン音が、二つ同時に聞こえて来た。一つは、やや甲高く、初めて聞く音。もう一つは、とても静かで、よく聞き慣れた音だ。
ほどなくして、店の横の駐機スペースに、赤いエア・カートと緑色のエア・ドルフィンが、並んで降りて来た。同時に、ピタリと着陸する。
流石は、ナギサちゃんとフィニーちゃん。素晴らしい、操縦技術だ。実は、並行飛行の同時着陸って、物凄く難しいんだよね。
ちょっとでもミスすれば、接触するし。着陸の際、風圧で位置がズレる。しかも、ここの駐機スペースは、物凄く狭いため、さらに難しい。
危険なので、普通は、タイミングをずらして着陸する。よほど、相手を信頼していないと、できないからだ。あの二人の場合、単に、先を譲りたくないだけかもしれないけど……。
機体から降りると、ナギサちゃんは、ビシッと背筋を伸ばして。フィニーちゃんは、大きなあくびをしながら。二人そろって、ゆっくり近づいてきた。私は笑顔で、小さく手を振る。
「お仕事、お疲れ様。一緒に来たの?」
「単に、偶然、出会っただけよ」
「目の前に、派手なのが飛んでたから。ついて来ただけ」
二人とも、興味なさげに、あっさり答える。相変わらず、仲がいいんだか悪いんだか、よく分からない反応だ。
「それにしても、ナギサちゃんの凄い機体だね。新しく買ったの?」
いかにも高級そうな、スポーツタイプのエア・カートだ。光沢のある赤いボディーが、とても美しい。
「ナギサお姉様に、借りたのよ。ちょうど、エア・ドルフィンを、定期メンテナンスに出していたから」
「へぇー。ツバサさんとは、仲良くやってるみたいだね」
「まぁ、それなりにね」
ちなみに、ナギサちゃんの『それなり』や『まあまあ』は、上手く行っているという表現だ。
二人が席に着くと、定員さんに注文を済ませ、世間話を始める。
「最近、調子はどう? 上手く行ってる?」
「以前に比べれば、仕事は入るようになったけど、まだまだよ。私の実力だけで、お客様をとってる訳じゃないから」
「それって、会社から回してもらってる、ってこと?」
「それもあるけど。『白金の薔薇』の娘や『深紅の紅玉』の妹だから、という理由で来るお客様も、結構いるのよ」
ナギサちゃんは、とても不服そうな表情を浮かべた。それでも、お客様が来てくれるなら、十分だと思うんだけど。どうあっても、自分の実力じゃないと、納得できないらしい。
「フィニーちゃんは、どんな感じ?」
「ぼちぼち。会社とメイリオ先輩がらみのお客さんも、たまに来る」
「へぇー、やっぱりそうなんだ。私も、リリーシャさんのお客様を、回してもらったりとかで。なかなか、自分についてくれるお客様って、いないよねぇ――」
リトル・ウイッチに、昇進したばかりのころに比べれば、仕事は増えた。でも、結局は、お手伝いやサポートの域を、抜けきっていない。それは、どこの会社のエア・マスターも、似たり寄ったりのようだ。
「風歌は、常連の子がいるんでしょ?」
「あぁ、ユメちゃんね。確かに、月に数回、指名を入れてくれるけど。友達だから、気を遣ってくれてる感じで。お客様とは、ちょっと違うんだよね」
「それでも、熱心なファンが一人いるだけでも、いいじゃない」
「まぁ、そうなんだけどねぇ。ちょっと、複雑な気分かな」
普通、地元の人って、まず、シルフィードの予約は、入れないんだよね。自家用機で回れるし。メインターゲットは〈グリュンノア〉の外から来る、観光客なので。
予約してくれるのは、凄く嬉しいんだけど。友達にお金を出させるのも、気が引ける。しかも、年下の子だし。
「そういえば、フィニーちゃんも、定期的に指名を入れてくれる子が、いるんだよね?」
「うん。エフィー、月に一回は、予約してくる」
「迷子の時、助けてあげた子だっけ?」
「そう。一緒に、おいしい店めぐりとかする」
「人の縁って、意外なところで出来るよねぇ」
私も、フィニーちゃんの場合も、唯一のファンは、営業とは関係ないところで生まれた縁だ。何がキッカケで、ファンが出来るかって、分からないものだよね。
「ぐっ……私だけじゃない、ファンがいないの」
「いやいや、一番お客様が多いの、ナギサちゃんじゃない。私たちよりも、はるかに、営業成績がいいでしょ?」
実際、ナギサちゃんは、お客様がかなり多い。見習い時代から、優秀だったのもあり、最優先で、会社からお客様が回って来る。それに、リリーシャさんと同じで、母子二代でシルフィードだから、母親のファンもやって来るんだよね。
でも、一番は、ナギサちゃんの実力だと思う。知識は豊富だし、とても上品だし、何をやっても完璧だし、全く欠点が見当たらない。
それに、実力を抜きにしても、誰もが目を惹かれる、美しい外見だけでも、お客様は、いくらでもやってくると思う。ただ、当の本人が、その見た目を、全く武器にしようとはしていない。
「多いだけじゃ、意味がないのよ。私自身を、評価してくれるお客様でなければ。大事なのは、実力が評価されることで、営業成績は、ただの結果論よ」
その営業成績が伸びなくて、多くのシルフィードが、思い悩んでいるのに。ナギサちゃんは、相変わらず、意識が高い。常に完璧じゃないと、満足できないのだ。
「でも、私は、例え他の目的だったとしても、お客様がいっぱい来てくれたら、嬉しいなぁ。お客様がいないと、寂しいもん。町を飛び回るだけで、一日が終わった時の、虚しさと言ったら――」
お客様が一人もいなかった日は、かなりへこむ。何度、経験しても、嫌なものだ。
「私は、いないほうが、楽でいい。のんびり、昼寝できるし」
「今も、勤務中に、昼寝とかしてるの?」
「ちゃんと、ばれないようにやってる」
フィニーちゃんは、あくびしながら、ダルそうに答える。
マイペースも、ここまで行くと、凄いよね。見習いの時なら、まだしも。さすがに、エア・マスターになってまで、昼寝する勇気はない。
「ばれなければ、よい訳じゃないでしょ。いい加減、自覚を持ちなさいよ。新人たちにだって、悪影響を与えるのだから」
「大丈夫、新人にも見つからないように、気を付けてる」
「そういう問題じゃなくて、心構えの問題よ」
「予約がない時は、自由時間」
「そんな訳、ないでしょ!」
例のごとく、フィニーちゃんの緩い言動に、ナギサちゃんの厳しい突っ込みが入る。
なんというか、結局、人の本質は変わらないよね。昇級して、ちょっぴり大人になって、周囲の環境も色々変わった。でも、三人とも、二年前と、大して変わってない気がする。
「まぁまぁ、二人とも。せっかく、久しぶりに会ったんだから、仲良くやろうよ」
こうして女子会をしたり、お茶をしたりは、やってるけど。以前に比べ、会う機会が、大幅に減ってしまった。しかも、昇級するたびに、会う時間が少なくなっている。お互いの都合があわない時は、月に一度、女子会で顔をあわせるだけだ。
特に、二人は大手なので、様々な集まりや、社内の付き合いもある。今は、後輩たちの、面倒も見なければならない。
最初のころは、凄く寂しかったけど、だんだん慣れて来た。新しいお客様との出会いもあるし、まだまだ、勉強することも多い。見習い時代とは違う、別の忙しさがあるのは、みんな一緒だ。
「そもそも、フィニーツァが、全く成長しないのが、悪いんでしょ。私だって、好き好んで、言ってる訳じゃないのだから。後輩だって沢山いるんだし。先輩としての、自分の立場を自覚しなさいよ」
「先輩後輩とか、興味ない。私は、やりたいようにやる。シルフィードは、自由と平和の象徴」
本当に、ブレないよね、フィニーちゃんは。昔から、上下関係は、まったく気にしてなかったし。普通なら、結構、問題になるんだけど。フィニーちゃんの場合、それで、許されてしまう。可愛いし、憎めない性格だからかな。
「自由と規律は、別問題でしょ。常に周りから、注目されているのだから。立場をわきまえなさい、と言ってるのよ。シルフィードにとって、最も重要なのは、人格なのだから」
ナギサちゃんも、全くブレずに、昔から言うことは、規則と常識だ。最近、ますます、真面目さに磨きが掛かった気がする。階級も上がって、後輩もいるからかな。私には後輩がいないので、先輩としての気持ちは、よく分からないけど。
「ナギサは、口の悪さも成長した」
「何ですって!」
「だからー、仲良くやろうってばー……」
こうして、埋まらない温度差の中、楽しい女子会が進んで行くのだった。いつものことだから、あまり、気にはしないけど。二人とも、もう少し大人になって、妥協点を見つけてくれると、いいんだけどなぁ――。
三人とも、エア・マスターになり、しっかり、観光案内の仕事も、するようになった。十分、一人前になったと思う。それでも、やっぱり、人って簡単には、変わらないよね。
たまに会っても、特に変わってないから、むしろ、安心する。『二人に、置いて行かれるのでは?』という心配も、今では、杞憂だった訳だし。
私は、どうなんだろうか? 自分では、結構、成長したと思うけど。二人から見たら、案外、何も変わっていないのかもしれない。
ただ、私たちも、いずれは、大きく変わるべき時が、来るような気がする。でも、それがいつなのか、どう変わるのかは、今はまだ分からない……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回――
『中身だけじゃなく外見や世間体も大事なのかも』
それぐらいでいいのさ。女は外見でナメられたら終わりだよ
昇進して、お給料も増えたので、もっと高級なお店に行くこともできる。でも、ここが一番、落ち着くんだよね。レストランと言っても、食堂に近い感じで、肩が凝らないし。初めて、三人が揃った、思い出の場所でもあるので。
私は、テラス席に座り、二人を待つ間、ボーッと周囲を眺めていた。このお店は、二年前から、何も変わっていない。というか、この付近は、何一つ変化がなかった。
〈南地区〉や〈西地区〉は、新しい建物やお店ができたりで、常に目まぐるしく変わっている。でも〈東地区〉は、相変わらず、古き良き街並みを保ち、人も建物も、ずっと同じままだ。
新しく発展していくのは、いいことだけど。この地区だけは、今のままであって欲しいと思う。私のホームだし、第二の故郷のようなものなので。
のんびりした街並みを眺めていると、上空からエンジン音が、二つ同時に聞こえて来た。一つは、やや甲高く、初めて聞く音。もう一つは、とても静かで、よく聞き慣れた音だ。
ほどなくして、店の横の駐機スペースに、赤いエア・カートと緑色のエア・ドルフィンが、並んで降りて来た。同時に、ピタリと着陸する。
流石は、ナギサちゃんとフィニーちゃん。素晴らしい、操縦技術だ。実は、並行飛行の同時着陸って、物凄く難しいんだよね。
ちょっとでもミスすれば、接触するし。着陸の際、風圧で位置がズレる。しかも、ここの駐機スペースは、物凄く狭いため、さらに難しい。
危険なので、普通は、タイミングをずらして着陸する。よほど、相手を信頼していないと、できないからだ。あの二人の場合、単に、先を譲りたくないだけかもしれないけど……。
機体から降りると、ナギサちゃんは、ビシッと背筋を伸ばして。フィニーちゃんは、大きなあくびをしながら。二人そろって、ゆっくり近づいてきた。私は笑顔で、小さく手を振る。
「お仕事、お疲れ様。一緒に来たの?」
「単に、偶然、出会っただけよ」
「目の前に、派手なのが飛んでたから。ついて来ただけ」
二人とも、興味なさげに、あっさり答える。相変わらず、仲がいいんだか悪いんだか、よく分からない反応だ。
「それにしても、ナギサちゃんの凄い機体だね。新しく買ったの?」
いかにも高級そうな、スポーツタイプのエア・カートだ。光沢のある赤いボディーが、とても美しい。
「ナギサお姉様に、借りたのよ。ちょうど、エア・ドルフィンを、定期メンテナンスに出していたから」
「へぇー。ツバサさんとは、仲良くやってるみたいだね」
「まぁ、それなりにね」
ちなみに、ナギサちゃんの『それなり』や『まあまあ』は、上手く行っているという表現だ。
二人が席に着くと、定員さんに注文を済ませ、世間話を始める。
「最近、調子はどう? 上手く行ってる?」
「以前に比べれば、仕事は入るようになったけど、まだまだよ。私の実力だけで、お客様をとってる訳じゃないから」
「それって、会社から回してもらってる、ってこと?」
「それもあるけど。『白金の薔薇』の娘や『深紅の紅玉』の妹だから、という理由で来るお客様も、結構いるのよ」
ナギサちゃんは、とても不服そうな表情を浮かべた。それでも、お客様が来てくれるなら、十分だと思うんだけど。どうあっても、自分の実力じゃないと、納得できないらしい。
「フィニーちゃんは、どんな感じ?」
「ぼちぼち。会社とメイリオ先輩がらみのお客さんも、たまに来る」
「へぇー、やっぱりそうなんだ。私も、リリーシャさんのお客様を、回してもらったりとかで。なかなか、自分についてくれるお客様って、いないよねぇ――」
リトル・ウイッチに、昇進したばかりのころに比べれば、仕事は増えた。でも、結局は、お手伝いやサポートの域を、抜けきっていない。それは、どこの会社のエア・マスターも、似たり寄ったりのようだ。
「風歌は、常連の子がいるんでしょ?」
「あぁ、ユメちゃんね。確かに、月に数回、指名を入れてくれるけど。友達だから、気を遣ってくれてる感じで。お客様とは、ちょっと違うんだよね」
「それでも、熱心なファンが一人いるだけでも、いいじゃない」
「まぁ、そうなんだけどねぇ。ちょっと、複雑な気分かな」
普通、地元の人って、まず、シルフィードの予約は、入れないんだよね。自家用機で回れるし。メインターゲットは〈グリュンノア〉の外から来る、観光客なので。
予約してくれるのは、凄く嬉しいんだけど。友達にお金を出させるのも、気が引ける。しかも、年下の子だし。
「そういえば、フィニーちゃんも、定期的に指名を入れてくれる子が、いるんだよね?」
「うん。エフィー、月に一回は、予約してくる」
「迷子の時、助けてあげた子だっけ?」
「そう。一緒に、おいしい店めぐりとかする」
「人の縁って、意外なところで出来るよねぇ」
私も、フィニーちゃんの場合も、唯一のファンは、営業とは関係ないところで生まれた縁だ。何がキッカケで、ファンが出来るかって、分からないものだよね。
「ぐっ……私だけじゃない、ファンがいないの」
「いやいや、一番お客様が多いの、ナギサちゃんじゃない。私たちよりも、はるかに、営業成績がいいでしょ?」
実際、ナギサちゃんは、お客様がかなり多い。見習い時代から、優秀だったのもあり、最優先で、会社からお客様が回って来る。それに、リリーシャさんと同じで、母子二代でシルフィードだから、母親のファンもやって来るんだよね。
でも、一番は、ナギサちゃんの実力だと思う。知識は豊富だし、とても上品だし、何をやっても完璧だし、全く欠点が見当たらない。
それに、実力を抜きにしても、誰もが目を惹かれる、美しい外見だけでも、お客様は、いくらでもやってくると思う。ただ、当の本人が、その見た目を、全く武器にしようとはしていない。
「多いだけじゃ、意味がないのよ。私自身を、評価してくれるお客様でなければ。大事なのは、実力が評価されることで、営業成績は、ただの結果論よ」
その営業成績が伸びなくて、多くのシルフィードが、思い悩んでいるのに。ナギサちゃんは、相変わらず、意識が高い。常に完璧じゃないと、満足できないのだ。
「でも、私は、例え他の目的だったとしても、お客様がいっぱい来てくれたら、嬉しいなぁ。お客様がいないと、寂しいもん。町を飛び回るだけで、一日が終わった時の、虚しさと言ったら――」
お客様が一人もいなかった日は、かなりへこむ。何度、経験しても、嫌なものだ。
「私は、いないほうが、楽でいい。のんびり、昼寝できるし」
「今も、勤務中に、昼寝とかしてるの?」
「ちゃんと、ばれないようにやってる」
フィニーちゃんは、あくびしながら、ダルそうに答える。
マイペースも、ここまで行くと、凄いよね。見習いの時なら、まだしも。さすがに、エア・マスターになってまで、昼寝する勇気はない。
「ばれなければ、よい訳じゃないでしょ。いい加減、自覚を持ちなさいよ。新人たちにだって、悪影響を与えるのだから」
「大丈夫、新人にも見つからないように、気を付けてる」
「そういう問題じゃなくて、心構えの問題よ」
「予約がない時は、自由時間」
「そんな訳、ないでしょ!」
例のごとく、フィニーちゃんの緩い言動に、ナギサちゃんの厳しい突っ込みが入る。
なんというか、結局、人の本質は変わらないよね。昇級して、ちょっぴり大人になって、周囲の環境も色々変わった。でも、三人とも、二年前と、大して変わってない気がする。
「まぁまぁ、二人とも。せっかく、久しぶりに会ったんだから、仲良くやろうよ」
こうして女子会をしたり、お茶をしたりは、やってるけど。以前に比べ、会う機会が、大幅に減ってしまった。しかも、昇級するたびに、会う時間が少なくなっている。お互いの都合があわない時は、月に一度、女子会で顔をあわせるだけだ。
特に、二人は大手なので、様々な集まりや、社内の付き合いもある。今は、後輩たちの、面倒も見なければならない。
最初のころは、凄く寂しかったけど、だんだん慣れて来た。新しいお客様との出会いもあるし、まだまだ、勉強することも多い。見習い時代とは違う、別の忙しさがあるのは、みんな一緒だ。
「そもそも、フィニーツァが、全く成長しないのが、悪いんでしょ。私だって、好き好んで、言ってる訳じゃないのだから。後輩だって沢山いるんだし。先輩としての、自分の立場を自覚しなさいよ」
「先輩後輩とか、興味ない。私は、やりたいようにやる。シルフィードは、自由と平和の象徴」
本当に、ブレないよね、フィニーちゃんは。昔から、上下関係は、まったく気にしてなかったし。普通なら、結構、問題になるんだけど。フィニーちゃんの場合、それで、許されてしまう。可愛いし、憎めない性格だからかな。
「自由と規律は、別問題でしょ。常に周りから、注目されているのだから。立場をわきまえなさい、と言ってるのよ。シルフィードにとって、最も重要なのは、人格なのだから」
ナギサちゃんも、全くブレずに、昔から言うことは、規則と常識だ。最近、ますます、真面目さに磨きが掛かった気がする。階級も上がって、後輩もいるからかな。私には後輩がいないので、先輩としての気持ちは、よく分からないけど。
「ナギサは、口の悪さも成長した」
「何ですって!」
「だからー、仲良くやろうってばー……」
こうして、埋まらない温度差の中、楽しい女子会が進んで行くのだった。いつものことだから、あまり、気にはしないけど。二人とも、もう少し大人になって、妥協点を見つけてくれると、いいんだけどなぁ――。
三人とも、エア・マスターになり、しっかり、観光案内の仕事も、するようになった。十分、一人前になったと思う。それでも、やっぱり、人って簡単には、変わらないよね。
たまに会っても、特に変わってないから、むしろ、安心する。『二人に、置いて行かれるのでは?』という心配も、今では、杞憂だった訳だし。
私は、どうなんだろうか? 自分では、結構、成長したと思うけど。二人から見たら、案外、何も変わっていないのかもしれない。
ただ、私たちも、いずれは、大きく変わるべき時が、来るような気がする。でも、それがいつなのか、どう変わるのかは、今はまだ分からない……。
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次回――
『中身だけじゃなく外見や世間体も大事なのかも』
それぐらいでいいのさ。女は外見でナメられたら終わりだよ
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