237 / 363
第6部 飛び立つ勇気
4-6この世界って広いようで意外と狭いよね
しおりを挟む
今日は『シルフィード・フェスタ』の三日目。私は〈南地区〉の上空を飛んでいた。ここは、最も観光客の多い地区だからだ。相変わらず、私に予約は入って来ないので、午前中の仕事が終わったあとは、お客様探しをしなければならなかった。
ただ、あまりにも人が多すぎて、この中からお客様を見つけるのは、物凄く難しい。何となく、地元の人と観光客の、見分けはつくんだけど。案内が必要かどうかまでは、見ただけでは、全く見分けがつかないんだよね。
ちなみに、ベテランになると、見た瞬間に、案内が必要か分かるらしい。けど、私はまだ、その域には達していなかった。『どこに行くのかなぁ?』程度の、簡単な予想しかできない。
今までは、練習飛行をしてたのって、イベントのない、平常時だったし。いざ、本番になると、なかなか上手くは、行かないもんだよねぇ。かと言って、何もしないで、ボーッと過ごす訳にもいかないし。
なので、人の波の中に視線を向け、必死になって観察を続ける。すでに、一時間以上、マン・ウォッチングをしているけど、何一つ成果はなかった。
「うーむ。〈南地区〉は人が多すぎて、上級者向きなのかなぁ?〈西地区〉とか、もう少し、人の少ない場所のほうが、いいのかも……」
人が少ないほうが、当然、見分けはつきやすい。でも、その分、観光客の数は減ってしまうので、悩ましいところだ。
『そろそろ、移動しようかなぁ』と考えていた時、ふと、違和感のある人物が、視界に入って来た。大きな人の流れの中で、右往左往しているのだ。
よく見ると、小さな女の子で、危うく見落とすところだった。視線が泳いでいるので、もしかしたら、迷子かもしれない。
困った人がいたら、手を差し伸べる。これは、シルフィードの基本理念だ。もっとも、ただの理念なので、全ての人が、守っている訳ではない。でも、私の場合は『どんな時でも人助け最優先』が、ポリシーだ。
急いで地上を確認し、エア・ドルフィンが停められるスペースを探す。人混みの中に、僅かなスペースを見つけると、素早く着陸する。これも、見習い時代に散々やった、練習の成果だ。
私は、エア・ドルフィンを降りると、人混みをすり抜けながら、早足で少女の元に向かった。
「どうしたの? 大丈夫?」
私は、不安げな表様を浮かべていた少女の前に、静かにかがみ込むと、笑顔で声をかけた。
「ママが、いないの――」
彼女は、目に涙を浮かべながら答える。どうやら、迷子で間違いないらしい。
「大丈夫。お姉ちゃんが、見つけてあげるからね」
「本当に……?」
「うん。お姉ちゃん、人探しのプロだから。任せておいて」
すると、少女の表情が、パッと明るくなった。
私は、彼女の手を取り、エア・ドルフィンに戻ると、そっと後部座席に乗せた。彼女から、少しだけ状況を聴いたあと、ゆっくり上空に舞い上る。
この人の量だと、地上から見付けるのは、まず無理だ。持ち前の視力を活かして、上空から見付けるしかない。
会話から分かったのは、彼女の名前は、ルナちゃん。年齢は六歳。大陸からイベントを見に来て、おじいちゃんの家に、二日前から泊まっている。今日は、お母さんと二人で見に来たけど、いつの間にか、はぐれてしまった。
よくよく、話を聴いてみると、リリーシャさんの大ファンらしい。将来は、彼女のような、素敵なシルフィードになりたいんだって。先日のパレードの際も〈シルフィード広場〉に行って、リリーシャさんの舞台挨拶を、見に行っていたそうだ。
私が『リリーシャさんと、同じ会社で働いている』と言ったら、物凄く興奮して、色々と質問攻めにされた。興味があるのは〈ホワイト・ウイング〉と、リリーシャさんのことだけ。でも、何だか、悪い気はしない。
色々話している内に、事情は、だいたい分かった。ただ、問題は、どう探すかだよね。これほど、人が多い中から、顔も知らない人を見つけるのは、不可能に近い。そもそも、どこではぐれたかも、全く分からない状態だ。
あと、子供の表現力は、意外とあいまいだ。お母さんの特徴を聴いたけど、今一つピンと来ない。服装も、よく覚えてないみたいだし。
ここは素直に『迷子センター』に預けるのが、確実かもしれない。イベント期間中は、何ヵ所か、迷子センターが設置されている。でも、せっかくの縁だし、同じ人のファンなので、他人事には思えない。
結局、ゆっくり低空飛行しながら、人混みの中から、目視で彼女の母親を探すことにした。視力には、物凄く自信があるので、ルナちゃんから聴いた特徴をもとに、次々と女性の顔を観察して行く。
顔はよく分からないので、大事なのは、目線の動きだ。目線を見れば、大体の思考が読み取れる。これは、お客様を探す時の、基本でもあった。
探し始めてから、二十分ほど。楽しそうに進んで行く人たちの中で、目線が、激しく動いている女性を発見する。普段から、マン・ウォッチングをしているので、瞬時に、周りの人との違いに気が付いた。
「ルナちゃん、あの人は違う?」
「えーっと――。あっ、ママだっ! ママー! ママー!!」
後ろに乗っていたルナちゃんは、地上に向かって、大きな声で叫んだ。地上にいた女性も、その声に反応し、キョロキョロしたあと、上空にいた私たちの姿を発見する。こちらを見つけた瞬間、表情が明るくなり、大きく両手を挙げた。
私は、空きスペースを見つけると、静かに機体を降下させて行った……。
******
私の目の前では、ルナちゃんが、お母さんに、ヒシっと抱き付いている。思った以上に早く見つかって、本当によかった。
正直、この人の中から見つけるのは、かなり難しいと思っていた。でも、二人とも、はぐれた地点から、あまり動いていなかったので、運よく見つけられたのだ。
「本当に、本当に、ありがとうございました」
「いえ、お気になさらずに。これだけ人が多いと、はぐれることも有りますので」
世界中から観光客が来るので、イベントがあった時の、この町の人の数は、尋常じゃなく多くなる。だから、時には、大人だって迷子になることがあるからね。
「あの、もしかして……その社章は〈ホワイト・ウイング〉の方ですか?」
「はい。うちの会社を、ご存じなんですか?」
「今までに、何度か、利用したことがあるんです。『天使の羽』に、観光案内をしていただいて」
「ご利用、ありがとうございます。それで、ルナちゃんが、リリーシャさんのこと、詳しかったんですね」
なるほど、うちの常連さんだったんだ。それにしても、リリーシャさんって凄いよね。こんな小さな子まで、ファンだなんて。
「イベントの最中に、手を煩わせてしまって、申し訳ありませんでした。有名企業の方ですから、さぞ、お忙しいでしょうに」
「いえいえ。私は、全然、忙しくないんです。まだ、一人前に、昇級したてなので、予約も入っていませんし」
「そうなんですか?」
「はい。今も、お客様を探すために、街中を飛び回っていたところで」
私は、苦笑いを浮かべながら答えた。
こんなに、イベントで盛り上がっているのに。お客様がいないなんて、悲し過ぎるよね。でも、新人シルフィードなんて、実際は、こんなものだ。
「あの、それって、予約なしでも大丈夫、ってことですか?」
「リリーシャさんのような、大人気シルフィードは、完全に予約制ですけど。私は、いつも、飛込み営業ですので」
「では、もし、よろしければ、案内をお願いしてもいいですか?」
「えっ?! 私で、いいんですか? まだ、新人ですけど」
その時、スッとルナちゃんが前に進み出て、私の制服の裾をつかんだ。
「私、このお姉ちゃんがいい。リリーシャさんのこと、もっと聴きたい」
その言葉に、ルナちゃんのお母さんと私は、ちょっと、微妙な笑顔を浮かべた。
まぁ、子供ってのは、凄く正直だからね。そりゃ、人気シルフィードのほうが、いいに決まってる。でも〈ホワイト・ウイング〉の常連さんだし。理由はどうあれ、私を選んでくれただけでも、十分に嬉しい。
結局、そんなこんなで、私は、二人を案内することになった。今日、乗って来たのは、後部座席が一つの、ワンシートタイプなので、徒歩で案内する。歩いたほうが、お祭りの雰囲気が楽しめるし。何と言っても、醍醐味は沢山の出店だ。
私は、イベントや町のことを、色々と説明しながら、出店を中心に回って行った。二人とも、私の話を、興味深げに聴いてくれた。特に、ルナちゃんは、キラキラした目で、とても楽しそうに聴いている。
いやー、こんなに真剣に聴いてもらえると、勉強した甲斐があるよねぇ。真面目に勉強してて、本当によかったー。初めて、勉強の大切さが分かったかも。
私たちは、一時間ほど、あちこち歩き回ったあと、カフェに入って、休憩することにした。テラス席に座って、三人でお茶にする。
「やはり、流石は〈ホワイト・ウイング〉の、シルフィードさんですね。とても、素敵な案内でした」
「超楽しかったー!」
お母さんの言葉に反応して、ルナちゃんも、笑顔で答える。
「ありがとうございます。喜んでいただけて、嬉しいです」
リリーシャさんと比較されたり、社名負けしないように、割と必死だった。でも、途中からは、私自身も、素で楽しんでたような気がする。そんな案内で、大丈夫だったんだろうか――?
「そういえば〈東地区〉のおじい様の家に、滞在中なんですよね?」
「はい。祖父は〈東地区商店街〉で、肉屋をやっているんです。子供のころから、よく行っていて。〈ホワイト・ウイング〉も、近かったので」
なるほど、それで〈ホワイト・ウイング〉を、使ってくれていたんだね。うちの会社は〈東地区商店街〉の人たちと、昔から仲がいいし。ん……あそこの商店街の、肉屋って?
「肉屋って、もしかして〈ゴールデン〉ですか?」
「あら、祖父のお店を、ご存知でしたか?」
「私、あの店の常連ですので。――って、えぇーっ?! じゃあ、あなたは、ハリスさんの……」
「私が孫で、この子が、ひ孫なんです」
いやー、全然、気づかなかったよ。お孫さんがいるなんて、一度も聴いたことなかったし。そもそも、ひ孫までいるような年齢にも、見えなかったから。ということは、ハリスさんって、若く見えるけど、結構な歳だよね――?
「似てないから、分かりませんよね?」
「いえ、そんなことは……。でも、広いようで、狭い世界ですね。こんなに沢山の人がいるのに、知り合い繋がりの人に、出会うなんて」
「本当に、その通りですね。〈ホワイト・ウイング〉のシルフィードのうえに、祖父の知り合いだなんて」
「風のお導きかもしれませんね」
二人でくすくすと笑う。
この世界はとても広い。でも、出会う人は、出会うべくして、現れるような気がする。運命は、全く信じない人間だったけど。こちらの世界に来てから、運命はあるんじゃないかと、思い始めてきた。
そういえば、私には『シルフィードの加護がある』って、以前フィニーちゃんのおばあさんに言われたよね。加護には、色んな形があるらしいけど。私の場合は、運命の人に、出会う力なのかもしれない。
だとすれば、今までの素敵な出会いにも、納得が行く。あまりにも、凄い人や、自分の未来を変える人に、出会いまくってるからね。
これからも、人との出会いを大切に生きて行こう。私の人生は、いつだって、素敵な出会いと共にあるのだから……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回――
『イベント最終日にメイド姿で走り回る』
あんたもメイドなら、萌え萌えキュンキュンしろよ!
ただ、あまりにも人が多すぎて、この中からお客様を見つけるのは、物凄く難しい。何となく、地元の人と観光客の、見分けはつくんだけど。案内が必要かどうかまでは、見ただけでは、全く見分けがつかないんだよね。
ちなみに、ベテランになると、見た瞬間に、案内が必要か分かるらしい。けど、私はまだ、その域には達していなかった。『どこに行くのかなぁ?』程度の、簡単な予想しかできない。
今までは、練習飛行をしてたのって、イベントのない、平常時だったし。いざ、本番になると、なかなか上手くは、行かないもんだよねぇ。かと言って、何もしないで、ボーッと過ごす訳にもいかないし。
なので、人の波の中に視線を向け、必死になって観察を続ける。すでに、一時間以上、マン・ウォッチングをしているけど、何一つ成果はなかった。
「うーむ。〈南地区〉は人が多すぎて、上級者向きなのかなぁ?〈西地区〉とか、もう少し、人の少ない場所のほうが、いいのかも……」
人が少ないほうが、当然、見分けはつきやすい。でも、その分、観光客の数は減ってしまうので、悩ましいところだ。
『そろそろ、移動しようかなぁ』と考えていた時、ふと、違和感のある人物が、視界に入って来た。大きな人の流れの中で、右往左往しているのだ。
よく見ると、小さな女の子で、危うく見落とすところだった。視線が泳いでいるので、もしかしたら、迷子かもしれない。
困った人がいたら、手を差し伸べる。これは、シルフィードの基本理念だ。もっとも、ただの理念なので、全ての人が、守っている訳ではない。でも、私の場合は『どんな時でも人助け最優先』が、ポリシーだ。
急いで地上を確認し、エア・ドルフィンが停められるスペースを探す。人混みの中に、僅かなスペースを見つけると、素早く着陸する。これも、見習い時代に散々やった、練習の成果だ。
私は、エア・ドルフィンを降りると、人混みをすり抜けながら、早足で少女の元に向かった。
「どうしたの? 大丈夫?」
私は、不安げな表様を浮かべていた少女の前に、静かにかがみ込むと、笑顔で声をかけた。
「ママが、いないの――」
彼女は、目に涙を浮かべながら答える。どうやら、迷子で間違いないらしい。
「大丈夫。お姉ちゃんが、見つけてあげるからね」
「本当に……?」
「うん。お姉ちゃん、人探しのプロだから。任せておいて」
すると、少女の表情が、パッと明るくなった。
私は、彼女の手を取り、エア・ドルフィンに戻ると、そっと後部座席に乗せた。彼女から、少しだけ状況を聴いたあと、ゆっくり上空に舞い上る。
この人の量だと、地上から見付けるのは、まず無理だ。持ち前の視力を活かして、上空から見付けるしかない。
会話から分かったのは、彼女の名前は、ルナちゃん。年齢は六歳。大陸からイベントを見に来て、おじいちゃんの家に、二日前から泊まっている。今日は、お母さんと二人で見に来たけど、いつの間にか、はぐれてしまった。
よくよく、話を聴いてみると、リリーシャさんの大ファンらしい。将来は、彼女のような、素敵なシルフィードになりたいんだって。先日のパレードの際も〈シルフィード広場〉に行って、リリーシャさんの舞台挨拶を、見に行っていたそうだ。
私が『リリーシャさんと、同じ会社で働いている』と言ったら、物凄く興奮して、色々と質問攻めにされた。興味があるのは〈ホワイト・ウイング〉と、リリーシャさんのことだけ。でも、何だか、悪い気はしない。
色々話している内に、事情は、だいたい分かった。ただ、問題は、どう探すかだよね。これほど、人が多い中から、顔も知らない人を見つけるのは、不可能に近い。そもそも、どこではぐれたかも、全く分からない状態だ。
あと、子供の表現力は、意外とあいまいだ。お母さんの特徴を聴いたけど、今一つピンと来ない。服装も、よく覚えてないみたいだし。
ここは素直に『迷子センター』に預けるのが、確実かもしれない。イベント期間中は、何ヵ所か、迷子センターが設置されている。でも、せっかくの縁だし、同じ人のファンなので、他人事には思えない。
結局、ゆっくり低空飛行しながら、人混みの中から、目視で彼女の母親を探すことにした。視力には、物凄く自信があるので、ルナちゃんから聴いた特徴をもとに、次々と女性の顔を観察して行く。
顔はよく分からないので、大事なのは、目線の動きだ。目線を見れば、大体の思考が読み取れる。これは、お客様を探す時の、基本でもあった。
探し始めてから、二十分ほど。楽しそうに進んで行く人たちの中で、目線が、激しく動いている女性を発見する。普段から、マン・ウォッチングをしているので、瞬時に、周りの人との違いに気が付いた。
「ルナちゃん、あの人は違う?」
「えーっと――。あっ、ママだっ! ママー! ママー!!」
後ろに乗っていたルナちゃんは、地上に向かって、大きな声で叫んだ。地上にいた女性も、その声に反応し、キョロキョロしたあと、上空にいた私たちの姿を発見する。こちらを見つけた瞬間、表情が明るくなり、大きく両手を挙げた。
私は、空きスペースを見つけると、静かに機体を降下させて行った……。
******
私の目の前では、ルナちゃんが、お母さんに、ヒシっと抱き付いている。思った以上に早く見つかって、本当によかった。
正直、この人の中から見つけるのは、かなり難しいと思っていた。でも、二人とも、はぐれた地点から、あまり動いていなかったので、運よく見つけられたのだ。
「本当に、本当に、ありがとうございました」
「いえ、お気になさらずに。これだけ人が多いと、はぐれることも有りますので」
世界中から観光客が来るので、イベントがあった時の、この町の人の数は、尋常じゃなく多くなる。だから、時には、大人だって迷子になることがあるからね。
「あの、もしかして……その社章は〈ホワイト・ウイング〉の方ですか?」
「はい。うちの会社を、ご存じなんですか?」
「今までに、何度か、利用したことがあるんです。『天使の羽』に、観光案内をしていただいて」
「ご利用、ありがとうございます。それで、ルナちゃんが、リリーシャさんのこと、詳しかったんですね」
なるほど、うちの常連さんだったんだ。それにしても、リリーシャさんって凄いよね。こんな小さな子まで、ファンだなんて。
「イベントの最中に、手を煩わせてしまって、申し訳ありませんでした。有名企業の方ですから、さぞ、お忙しいでしょうに」
「いえいえ。私は、全然、忙しくないんです。まだ、一人前に、昇級したてなので、予約も入っていませんし」
「そうなんですか?」
「はい。今も、お客様を探すために、街中を飛び回っていたところで」
私は、苦笑いを浮かべながら答えた。
こんなに、イベントで盛り上がっているのに。お客様がいないなんて、悲し過ぎるよね。でも、新人シルフィードなんて、実際は、こんなものだ。
「あの、それって、予約なしでも大丈夫、ってことですか?」
「リリーシャさんのような、大人気シルフィードは、完全に予約制ですけど。私は、いつも、飛込み営業ですので」
「では、もし、よろしければ、案内をお願いしてもいいですか?」
「えっ?! 私で、いいんですか? まだ、新人ですけど」
その時、スッとルナちゃんが前に進み出て、私の制服の裾をつかんだ。
「私、このお姉ちゃんがいい。リリーシャさんのこと、もっと聴きたい」
その言葉に、ルナちゃんのお母さんと私は、ちょっと、微妙な笑顔を浮かべた。
まぁ、子供ってのは、凄く正直だからね。そりゃ、人気シルフィードのほうが、いいに決まってる。でも〈ホワイト・ウイング〉の常連さんだし。理由はどうあれ、私を選んでくれただけでも、十分に嬉しい。
結局、そんなこんなで、私は、二人を案内することになった。今日、乗って来たのは、後部座席が一つの、ワンシートタイプなので、徒歩で案内する。歩いたほうが、お祭りの雰囲気が楽しめるし。何と言っても、醍醐味は沢山の出店だ。
私は、イベントや町のことを、色々と説明しながら、出店を中心に回って行った。二人とも、私の話を、興味深げに聴いてくれた。特に、ルナちゃんは、キラキラした目で、とても楽しそうに聴いている。
いやー、こんなに真剣に聴いてもらえると、勉強した甲斐があるよねぇ。真面目に勉強してて、本当によかったー。初めて、勉強の大切さが分かったかも。
私たちは、一時間ほど、あちこち歩き回ったあと、カフェに入って、休憩することにした。テラス席に座って、三人でお茶にする。
「やはり、流石は〈ホワイト・ウイング〉の、シルフィードさんですね。とても、素敵な案内でした」
「超楽しかったー!」
お母さんの言葉に反応して、ルナちゃんも、笑顔で答える。
「ありがとうございます。喜んでいただけて、嬉しいです」
リリーシャさんと比較されたり、社名負けしないように、割と必死だった。でも、途中からは、私自身も、素で楽しんでたような気がする。そんな案内で、大丈夫だったんだろうか――?
「そういえば〈東地区〉のおじい様の家に、滞在中なんですよね?」
「はい。祖父は〈東地区商店街〉で、肉屋をやっているんです。子供のころから、よく行っていて。〈ホワイト・ウイング〉も、近かったので」
なるほど、それで〈ホワイト・ウイング〉を、使ってくれていたんだね。うちの会社は〈東地区商店街〉の人たちと、昔から仲がいいし。ん……あそこの商店街の、肉屋って?
「肉屋って、もしかして〈ゴールデン〉ですか?」
「あら、祖父のお店を、ご存知でしたか?」
「私、あの店の常連ですので。――って、えぇーっ?! じゃあ、あなたは、ハリスさんの……」
「私が孫で、この子が、ひ孫なんです」
いやー、全然、気づかなかったよ。お孫さんがいるなんて、一度も聴いたことなかったし。そもそも、ひ孫までいるような年齢にも、見えなかったから。ということは、ハリスさんって、若く見えるけど、結構な歳だよね――?
「似てないから、分かりませんよね?」
「いえ、そんなことは……。でも、広いようで、狭い世界ですね。こんなに沢山の人がいるのに、知り合い繋がりの人に、出会うなんて」
「本当に、その通りですね。〈ホワイト・ウイング〉のシルフィードのうえに、祖父の知り合いだなんて」
「風のお導きかもしれませんね」
二人でくすくすと笑う。
この世界はとても広い。でも、出会う人は、出会うべくして、現れるような気がする。運命は、全く信じない人間だったけど。こちらの世界に来てから、運命はあるんじゃないかと、思い始めてきた。
そういえば、私には『シルフィードの加護がある』って、以前フィニーちゃんのおばあさんに言われたよね。加護には、色んな形があるらしいけど。私の場合は、運命の人に、出会う力なのかもしれない。
だとすれば、今までの素敵な出会いにも、納得が行く。あまりにも、凄い人や、自分の未来を変える人に、出会いまくってるからね。
これからも、人との出会いを大切に生きて行こう。私の人生は、いつだって、素敵な出会いと共にあるのだから……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回――
『イベント最終日にメイド姿で走り回る』
あんたもメイドなら、萌え萌えキュンキュンしろよ!
0
お気に入りに追加
109
あなたにおすすめの小説
【完結】ご都合主義で生きてます。-商売の力で世界を変える。カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく-
ジェルミ
ファンタジー
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
その条件として女神に『面白楽しく生活でき、苦労をせずお金を稼いで生きていくスキルがほしい』と無理難題を言うのだった。
困った女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
この味気ない世界を、創生魔法とカスタマイズ可能なストレージを使い、美味しくなる調味料や料理を作り世界を変えて行く。
はい、ご注文は?
調味料、それとも武器ですか?
カスタマイズ可能なストレージで世の中を変えていく。
村を開拓し仲間を集め国を巻き込む産業を起こす。
いずれは世界へ通じる道を繋げるために。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。
この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。
ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。
少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。
更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。
そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。
少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。
どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。
少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。
冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。
すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く…
果たして、その可能性とは⁉
HOTランキングは、最高は2位でした。
皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°.
でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )
妹にお兄ちゃんって言わせたい!
Seraphim
ファンタジー
「あのっ……!私のこと、ここにおいてくれませんかっ……?!」
数ヶ月前に唯一の肉親である母親を亡くし、一人暮らしを始めた主人公『霜方 風真(しもかた ふうま)』。
彼のところに、碧眼の白髪猫耳少女『凪(ナギ)』が現れる。
普段なら間違いなくドアにチェーンをかけて拒絶しているところだが、人肌恋しさから彼女を居候として受け入れ周囲には義理の妹として取り繕うことにした。時間が経つにつれて、社交的でパワフルな凪とそれを支える風真のコンビは周囲から『風凪兄妹』として親しまれる存在に。凪も自らを『風真の妹』と名乗るようになり、自他ともに認める本当の兄妹のような関係性になったと思っていた。
しかし、凪はそのような関係性にも関わらず風真のことを名前で呼び続ける。まるで本当は『兄妹』であることを認めていないかのように。風真の中にくすぶるその疑問は、その後の二人の関係性を徐々に変化させていく。互いの真意に気づかぬまま、正反対な二人の奇妙な日常は思わぬ方向に進んでいく……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる