私異世界で成り上がる!! ~家出娘が異世界で極貧生活しながら虎視眈々と頂点を目指す~

春風一

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第6部 飛び立つ勇気

4-4無茶振りはこの業界の伝統みたい……

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 私は〈南地区〉にある、カフェ〈アウローラ〉に来ていた。お茶をしに来たんだけど、今日は、ナギサちゃんとフィニーちゃんに加え、リリーシャさんとツバサさんも一緒だった。何やら『大事な話』があるからと、呼び出されたのだ。
 
 今日は、水曜日で仕事がお休みなので、皆リラックスして、穏やかな雰囲気だった。ただ一人、ナギサちゃんを除いては。

 ナギサちゃんは、いつも通りビシッとしていて、一分の隙もない。表情も、物凄く真剣だった。対して、フィニーちゃんは、緊張感の欠片もなく、大先輩の前でも、平気であくびをしている。

 まぁ、リリーシャさんもツバサさんも、細かいことは気にしない性格だから、平気だけど。厳しい先輩だったら、こうはいかないよねぇ。

 それにしても、大事な話って、いったい何だろうか? しかも、この三人が、一緒に呼ばれるなんて。ナギサちゃんたちも、全く心当たりがないらしい。

 注文したお茶が届き、しばらくは、和やかな世間話が続く。でも、途中でツバサさんが、急に話題を変えた。

「ところで、今度のシルフィード・フェスタなんだけど。僕とリリーで、クルーザーを一台、借りることにしたんだ」
「それって、お二人で『クルージングを仕切る』ということですか?」

 ナギサちゃんは、ツバサさんに訊き返す。

「まぁ、そうなるね。上位階級のシルフィードは、クルージング・イベントの参加は、必須なんだ。単独でやってもいいし、誰かと組んでもOK。リリーとは、以前も組んでやったことが有るから、慣れてるんだよね」

「ツバサちゃんとは、子供のころからの、長い付き合いだし。細かく言わなくても通じるから、やりやすいのよね」

 隣にいたリリーシャさんが答えると、ツバサさんは笑顔で頷く。

「確かに、二人とも、息がピッタリですし。どんなクルージングになるか、とても楽しみですね。きっと、お客様たちも、大喜びですよ」

 二人はいつも仲良しだし、割と少ない言葉で、しっかり通じ合っている。しかも、お互いに、気遣いの出来る人だから、驚くほどに息が合っていた。

 それに『深紅の紅玉』クリムゾン・ルビー『天使の羽』エンジェル・フェザーのコラボ。新進気鋭の、人気シルフィード二人のおもてなしが、同時に受けられるなんて。普段なら、絶対にあり得ない、贅沢な組み合わせだ。

「今日、私たちを呼んだのは、それを伝える為だったのですか? 普通に、言ってくだされば、よかったのに。いつも、顔を合わせているのですから」
「いやー、久々に、ナギサちゃんたちと、デートしたくてさ」
 
 爽やかな笑顔で答えるツバサさんに対し、ナギサちゃんは、不機嫌そうな表情を浮かべる。相変わらず、ナギサちゃんには、冗談が通じない。

「というのも有るんだけど、実は、みんなに、お願いしたいことが有ってね」
「お手伝いできることがあれば、何でも言ってください!」

 私は、待ってましたとばかりに、声をあげる。元々クルージングには、凄く興味があったし。一人前になったあとも、割りと暇しているからだ。

「いやー、流石は風歌ちゃん。話が早くて助かるよ。じゃあ、遠慮なく、お願いしようかな」  
「雑用なら、お任せ下さい。力仕事でも何でも、喜んでやりますので」

 雑用歴、一年。来る日も来る日も、雑用で鍛えた経験は、伊達ではない。もはや、雑用のプロともいえる……。

「でも、今回お願いしたいのは、雑用じゃないんだ。クルージングの仕切りを、任せようと思ってね」 

「ん――えーっと、仕切り? それって、ツバサさんとリリーシャさんが、やるのでは?」

 通常は、上位階級のシルフィードが、ホストになって、仕切りをする。他のシルフィードは、サポートで入るだけだ。

「まぁ、何事も経験だから。今回は、三人に、全て任せようと思ってね」
 ツバサさんは、ニコニコしながら、軽やかに語る。

「って、ちょっと、待ってください! 定員は、何人なんですか? そもそも、私たちのような新人がやっても、お客様は集まりませんよ」

 黙って聴いていたナギサちゃんが、急に驚いた声をあげた。

「定員は八十人。それに、僕たちも同乗するから、大丈夫。名目上は、僕とリリーの仕切りになってるから、お客様は、普通に来ると思うよ。三人は、企画立案・準備・進行をやるだけだから、簡単でしょ?」

 ツバサさんは、サラッと言い放つ。隣にいるリリーシャさんは、黙って笑顔を浮かべていた。

「八十人って、無理ですよ、そんなの! 私たち、まだ、何の経験もないんですよ。しかも、この二人とでは、なおのこと無理です!」 
「ちょっ、ナギサちゃん……。『この二人とは』って、どういうこと?」

「決まってるでしょ。あなたたち二人に、こんな高度なことが、できる訳ないじゃない。考えなしの風歌と、やる気のないフィニーツァに、何ができるというのよ?」 
「んがっ――。それは、さすがに言いすぎでは……」

 いや、まぁ、完全に外れてる訳でもないけど。私たちはもう、れっきとした一人前だし。私は、少なからず、やる気だけは満々だよ。隣に座っているフィニーちゃんは、我関せずと、あくびをしているけど――。

「難しく考えないでいいのよ。シルフィード・フェスタは、お祭りなのだから。上手くやろうとしなくても、お客様が楽しんでくれれば、それでいいの」
「それは、そうですが……。万一、失敗したら、お二人の名前に傷が」

 柔らかな笑顔で言うリリーシャさんに、ナギサちゃんは、物凄く不安げに答える。

「平気平気。やれば、どうにかなるから。失敗しても、僕たちがフォローするし」 
「でも――」 

「僕たちも昔、アリーシャさんに、同じことを言われたんだよね。いきなり、百二十人が乗れる、大型のクルーザーを用意されてさ」
「あの時は、ビックリしたわね。母はいつも、いきなりだから」

 ツバサさんとリリーシャさんは、楽しそうに、昔話をしている。
 
「それって、アリーシャさんの仕切りで、お二人が、準備や進行をしたってことですか?」

「そうそう。グランド・エンプレスが仕切りの、超重要なクルージングを任されるなんて。かなり大雑把な僕でも、凄いプレシャーだったよ。その点、僕らの仕切りなんて、大したことないでしょ?」

 ツバサさんは、両手を広げて、おどけながら答えた。

「なるほど――。それで、具体的には、何をやればいいんでしょうか?」
「好きにやっていいよ。まずは、どんなクルージングにするか、コンセプトを決めることだね」

 うーむ、好きにやっていいと言われるのが、一番、難しいんだよね。なんせ、知識も経験も、全くないからなぁ。

 私は、ナギサちゃんに、そっと視線を向ける。同時に、フィニーちゃんも、ナギサちゃんを見ていた。

「ちょっ、何で私を見るのよ?」
「ナギサちゃん、仕切るの上手でしょ? 色々知ってるし」

 仕切りと言えば、ナギサちゃん。何をやる時でも、いつも陣頭に立つのは、彼女の役割だ。何だかんだで、いつも上手いこと、まとめてくれるんだよね。

「私だって、クルージングのことは、全く知らないわよ。参加したことも、勉強したことも、無いんだから」
「うーむ。それもそうか……」

 クルージングは、誰でも参加できるイベントではない。ファンの数は、非常に多いうえに、定員には限りがある。なので、チケットの予約は、超高倍率の、抽選になるのが普通だ。

「とりあえず、どんどん、アイディアを出してみたらどうかしら? 私たちの時も、アイディア出しから始めたし」
「そうそう。思い付きで出していくと、意外といい案が、出たりするんだよね」

 リリーシャさんとツバサさんが、笑顔でアドバイスしてくれる。

 なるほど、思い付きか――。だったら、何かあるかも。あっ、そうだ……。

「メイドカフェ的なのは、どうかな? ほら、こないだ、やったばかりだし」
「ちょっと、何でクルージングで、あんなのを、やらなきゃならないのよ?」

「だって、お客様たち、凄く喜んでくれてたじゃん」
「あれは、客層が違うでしょ? 今回、来るのは、普通のお客様たちよ」

 そうかなぁ? 誰でも、普通に喜んでくれそうだけど。

「それ、いいね! 面白そうじゃない」
「ちょっと、ツバサお姉様! 本気で、言ってますか?」

「本気、本気。そういう、意外性があるほうが、喜んでくれると思うよ」
「どこのクルージングも、無難にやる場合が、多いものね」
「そんな、リリーシャさんまで――」

 ナギサちゃんは、なんか凄く嫌そうだ。メイドカフェでは、人気ナンバーワンだったのに。

「全員メイドだと、面白くないから。僕とリリーは、執事をやるのはどうかな?」
「それ、いいですね! 特に、リリーシャさんの執事姿は、意外性、抜群ですね」

「私に、タキシード姿が、似合うかしら?」
「絶対に似合いますよ! ねっ、ナギサちゃん」
「って、何で私に振るのよ……?」
 
 適当な思い付きだったけど、だんだん話が盛り上がって来た。みんなから、次々と色んなアイディアが出て来る。

「ねぇ、フィニーちゃんも、それでいい?」
「――おいしい物、たべれる?」

「よし、終わったあとは、盛大に打ち上げをやろうか。打ち上げ会場、予約しておくから任せて」
「おぉっ、打ち上げ! なら、やる」

 ツバサさんの言葉に、コロッと落ちるフィニーちゃん。流石は、ツバサさん。よく分かっていらっしゃる。

 これで『全員一致でOK』ってこといいかな。ナギサちゃんだけは、複雑そうな表情をしているけど、いつも最初は、こんなもんだから大丈夫。どうせ、本番になれば、一番、張り切るんだし。

「じゃあ、頑張って、成功させましょう!」
「おぉー!」
「……おぉー」 

 私の掛け声に、ツバサさんは元気よく、フィニーちゃんは小さな声で。リリーシャさんは、無言のまま、ニコニコと。ナギちゃんは黙ったまま、微妙な表情を浮かべていた。

 それぞれ、テンションが違うけど、これは、いつものことなので。どうせ始まれば、上手くまとまるはず。

 よしっ、初めてのイベント運営、気合を入れて頑張りまっしょい!


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次回――
『パレードの参加で私もついにシルフィードデビュー』

 デビューはゴールではなくスタートライン
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