私異世界で成り上がる!! ~家出娘が異世界で極貧生活しながら虎視眈々と頂点を目指す~

春風一

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第6部 飛び立つ勇気

4-2目指すは伝説のシルフィード!

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 夜、静まり返った屋根裏部屋。私は、小さな机の前に、座布団をしいて正座し、空中モニターを、ジッと凝視していた。お約束の『お勉強タイム』だ。これは、一人前になっても、毎晩、変わらず続けている。

 というか、一人前になっても、仕事もライフスタイルも、何一つ変わってないんだよね。だから、あまり一人前になった実感が、湧いてこない。次の試験もあるから、勉強も続けなきゃだし。

『リトル・ウイッチ』以降は、半年の実務経験で、昇級試験が受けられる。なので、気を抜いていると、あっという間に、次の試験だ。

 ちなみに『リトル・ウイッチ』と『ホワイト・ウイッチ』は、学科重視。『エア・マスター』になると、実技が重視される。なので、学科試験のための勉強は、まだまだ必要だ。

 とはいえ、時間はあるので、焦らずじっくりと進めている。また、体調を崩したら、シャレにならないし。それに、以前と違って、かなり心に余裕ができたからね。

 一人前になった安心感と、試験に受かった自信。これが、物凄く大きい。一度は落ちたものの、受かっちゃえば、こっちのもの。けっして、過信や油断は、しちゃいけないけど。初めて得た自信は、大事にするべきだと思う。

 まぁ、私が勉強で自信を得たのって、これが、人生で初めてだんもんねぇ。学生時代は、ロクに勉強したこと無かったので……。

 コツコツ勉強をしていると、マギコンから、メッセージの着信音が鳴った。確認すると、ユメちゃんからだ。私は喜んで、急ぎELエルを立ち上げる。

 試験直前は、勉強に集中するため、しばらくの間、封印していた。その反動もあってか、最近、滅茶苦茶、ELが楽しい。
 
『風ちゃん、こんばんはー。頑張ってる?』 
『こんばんは、ユメちゃん。ぼちぼち、頑張ってるよー』

『よかった。だいぶ、落ち着いたみたいだね』
『うん。無事、昇級できて、色々スッキリしたからねぇ』

 会社への貢献、友人に追いつくこと、親との約束。それらが、まとめて解消できたため、一気に肩の荷が下りた。母親との約束は、まだ、はるかに先だけど、最低限の面目は立ったからね。

『そうだ、おめでとう風ちゃん! シルフィード名鑑も、更新されてたね』
『あぁー。一応、一人前だもんね』

『もう、チェックした?』
『まだ、だけど。ノア・マラソンの時、見て以来かなぁ』

 シルフィード名鑑は、一人前以上の、全シルフィードの情報が載っている、有志で作られた、非公式サイトだ。ただ、私の場合は、ノア・マラソンの時、見習いにも関わらず、例外的に登録されていた。想像以上に、MV効果があったからだ。

『えぇー、絶対、見たほうがいいよ! 色々追加で書かれてるから』
 ユメちゃんから、サイトのリンクが送られ来る。

 リンクをタッチすると、新たな空中モニターが開く。それは、名鑑内の、私の情報が書かれたページだった。

『如月風歌 15歳 ホワイト・ウイング所属 
 リトル・ウイッチ(世界歴2061年2月昇級)

 2060年10月に行なわれた、ノア・マラソンに出場し
 途中で左足を怪我するトラブルに見舞われる。

 だが、雨天の最悪のコンディションの中
 50キロの距離を走り切り
「シルフィード史上初のノア・マラソン完走」の偉業を成し遂げた。

 その際の死闘は、全世界にMV中継され
 多くの人たちに、勇気や希望を与えた。

 伝説のシルフィードと言われた
「白き翼」ホワイト・ウイングアリーシャ・シーリングを彷彿とさせる
 彗星のごとくの登場であった。

 しかも、彼女はマイアの出身であり
 異世界人のシルフィードとしても、史上初である。

 今まで誰も採用していなかった
 名企業ホワイト・ウイングに入社した時点で
 その才能の片鱗をうかがわせている。

 なお、2060年11月に行われた
 東地区での「ホワイトウイング・フェア」は
 彼女による企画立案であり

 たった、3日間の開催であったにも関わらず
 5千人以上が集まる、大盛況となった。

 シルフィードの能力だけでなく
 企画・経営戦略でも、優れた能力を発揮している。

 昨年の4月に入社しているが
 繰り上げ申請により、今年の2月の試験で見事に昇級。

「天使の羽」エンジェル・フェザーリリーシャ・シーリングと共に
 超エリート・シルフィードとして
 非常に注目度の高い、期待の新星である。

※なお、異世界出身で情報が少ないため
 現在、新しい情報を募集中』
 
 そこには、私が『ノア・マラソン』で、走っている時の写真。さらに『ホワイトウイング・フェア』の時の写真も、しっかり載っていた。

 私は、全文を読み終わったあと、あまりの恥ずかしさに、顔が熱くなった。

『なっ、なんじゃこりゃー……?!』
『ね、凄いでしょ! 風ちゃんの経歴が、ばっちり書いてあるし』

『いやいや。いくらなんでも、脚色され過ぎでしょ!』
『そんなことないよ。凄くかっこいいし、風ちゃん凄いじゃん』
 
 毎度のことだけど、情報とは恐ろしい。いい点でも悪い点でも、色々と尾ひれ背びれが付いてしまう。確かに、アリーシャさんやリリーシャさんは、本当に凄い人だ。でも、私はまだ、何も結果を出していない。

 単に、会社が凄というだけで。私自身は、何一つ、誇れるような結果は出していないのだ。『ノア・マラソン』は、シルフィードには、直接、関係ないし。そもそも、査問会や墜落事故なんかも、この間にあったんだから――。

『うー。何か、胃が痛くなってきた……』
『えーっ、何で何で?』

『みんな、真実を知らないだけだよ。ホワイト・ウイングに入ったのは、行き場がなくて、路頭に迷っていたところを、拾ってもらっただけだし。ノア・マラソンは、おまけの完走だし。フェアは、会社とリリーシャさんの知名度だし』

『昇級試験だって、一回、落ちてるんだから。エリートなんて、とんでもない。私には、最も遠い言葉だよ』

 馬鹿だのダメだのなんてのは、今までの人生の中で、数え切れないほど、言われてきた。まぁ、実際にそうだから、しょうがないんだけど――。

『いいじゃない、別に。結果よければ、全てよしだよ』
『いやいや。メッキがはがれた時が、超怖いよぉー!』

『なら、実際に、超エリート・シルフィードに、なっちゃえばいいじゃん?』
『そんな、簡単に……』

 エリートとは、リリーシャさんや、ナギサちゃんにこそ、相応しい言葉だ。何をやっても完璧だし。対して私は、何をやっても、失敗だらけで不完全だった。

『でも、案外そんなもんじゃない? 他の名鑑も、見てみれば分かるけど。どれも、結構、大げさに書かれてるし。大衆は、常に英雄を求めるものだから。噂が先行して、後に凄くなった人も、いると思うよ』

『そんなものなのかなぁ――?』

 私には、今一つピンと来ない。でも、今までも、シルフィードだから、ホワイト・ウイングの社員だから。ただ、その理由だけで、過剰に評価されていることは、よくあった。

『歴史上の偉人だって、結構、美化や過大評価は、されてるからね。例えば「四魔女」なんかが、いい例だよ。でも、本人たちも、それを理解したうえで、努力したんじゃないかな?』

 確かに、歴史上の人物は、美化されている場合が、多いと聞く。でも、四魔女の場合は、全員、物凄い実績を残してるからね。

『つまり、評価に合わせて頑張った、ってこと?』
『うん。過剰評価だって、追い付いちゃえば、正当な評価になるでしょ?』
『なるほど、言われてみれば……』

 リリーシャさんも、物凄い高評価だから、その実現のために、頑張っているんだろうか? 

『風ちゃんは、シルフィード・クイーンになるんでしょ?』
『うん。というか、グランド・エンプレスが、最終目標だけど』

『だったら、超エリートにならなきゃ』
『うーむ。どうしたら、エリートになれるんだろ? 学力? それとも、何事も完璧にこなす、器用さ?』

 どちらも、今の私には、決定的に欠けている部分だ。そもそも、今までは、全力で頑張れば上に行けると、物凄く単純に考えてたし――。

『たぶん、そういうんじゃ、ないと思う。風ちゃんにしか出来ないことを、やる事じゃないかな? ノア・マラソンの時みたいに』
『でも、あんな事したら、また協会に怒られちゃうよ……』

『大丈夫だよ。もう、一人前なんだから。思い切って行動して、名鑑に、どんどん伝説を刻んで行けば、自然に、上に行くんじゃないかな?』
『伝説って――。やらかしちゃうのは、エリートとは、真逆な気がするけど』

 昔から、考えなしに、無謀な挑戦をするから、度々トラブルを引き起こしている。挑戦とは、いつだって、トラブルや失敗が付き物だから。

『優等生=エリートじゃないよ。全てを完璧にこなすやり方もあれば、前人未到のことをやるのも、エリートじゃない? 風ちゃんは、後者だと思うけど』
『私って、そんなイメージなの……?』

『果敢にチャレンジするのが、風ちゃんじゃない。無理に、優等生を目指さないで、風ちゃんらしく、伸び伸びやったほうが、いいと思うよ。何か、最近の風ちゃん、ちょっと窮屈そうな感じがする』

 確かに、そうかもしれない。こっちに来たばかりころは、とんでもない、チャレンジスピリッツの塊で、怖いもの知らずだった。でも、色々トラブルがあってから、大人しくすることばかり、考えるようになってきた。

 周りの人に迷惑を掛けるのが、怖くなってきたからだ。もちろん、迷惑を掛けるのは、よくないけど、何でもやってみる精神は、無くしちゃいけないのかもしれない。

『そうだね。また、ドーンとやってみるよ』
『やっちゃえ、やっちゃえー! 名鑑を、伝説で埋め尽くしちゃえばいいよ』
『あははっ。別の意味で、伝説になりそうだね』

 その後も、ユメちゃんと、色んな世間話で盛り上がる。お蔭で、すっかり元気が出てきた。それと同時に、久しぶりに心の奥から、沸々とした、熱い感情が沸き上がって来る。

 多分これは、忘れかけていた、あくなき挑戦の炎だ。消えてしまったわけではなく、一時的に、くすぶっていただけだと思う。

 たぶん私は、ノーラさんの言う通り、お馬鹿な子なんだろう。だから、どんなに頑張っても、リリーシャさんやナギサちゃんのような、完璧なエリートには、なれないと思う。でも、それならそれで、やりようがある。

 誰もやらなかった、誰もやれなかった、前人未踏の領域を目指すだけだ。果敢に挑戦を続け、誰も真似できないシルフィードを目指すことで、頂点に進んで行けばいいのだから。

 私は、不安定で不完全。でも、目指すは、伝説のシルフィード!


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次回――
『一人前になってちょっぴり大人になったかも?』 

 人生のゴールは何ごとについても大人になることさ
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