私異世界で成り上がる!! ~家出娘が異世界で極貧生活しながら虎視眈々と頂点を目指す~

春風一

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第6部 飛び立つ勇気

3-9逆境を乗り越えて臨む2度目の昇級試験

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 三月一日。時間はハ時半。私は、朝早くから〈シルフィード協会〉に来ていた。前回、惨敗だった昇級試験に、リベンジするためだ。気持ちを落ち着けるため、三十分前には、試験会場に入り、席についている。

 今朝は、五時半に起きて、念のため『メディカル・チェック』と『マナ・チェック』をやってみた。どちらも全く問題なく、いたって正常値だった。

 ちなみに、試験の一週間前からは、前回とは逆に、勉強時間を減らして、早く休むようにした。昨夜も早く寝たせいか、目覚めはスッキリ。体も軽く、絶好調だった。

 しっかり朝食をとって、軽く復習もして、アパートの庭で、準備運動もしてきた。まさに、予定通りで、ベスト・コンディションを作ることには、大成功だった。

 ただ、全く不安がない訳じゃない。前回、酷い失敗をしたこと。昔から勉強が苦手だったこと。これらを考えると、どうしても、不安になってしまう。だから今は、気持ちを落ち着けて、集中することが大切だ。

 私は、部屋に入って席に着くと、呼吸を整えながら、周囲を軽く観察した。私よりも、早く来ていた人も数名おり、一人また一人と、静かに部屋に入って来る。

 やはり、数回目ともなると、気合が入っているのだろう。みんな真剣な面持ちで、部屋の中には、ピリっとした重い空気が漂っていた。

 前回に比べると、だいぶ人数が少ない。おそらく、二回目で受かった人が、多いのだと思う。そう考えると、取り残されないため、誰もが、大きなプレッシャーを抱えているはずだ。

 室内を観察している内に、だんだん気持ちが落ち着いてきた。緊張や不安があるのは、自分だけじゃないことが、分かったからだ。

 そりゃ、そうだよね。一発合格の人以外は、あまり勉強が得意じゃないんだろうし。一度でも落ちていたら、不安やプレッシャーがあるよね。特に、同期の子がいる会社は、なおさらだと思う。その点、うちは新人が一人だから、まだ楽かも。

 試験開始の十分前になると、試験官が入室してくる。試験の予定について、淡々と説明が行われた。試験の順番は、日によって違うが、開始直前になってから、発表される。

 今日は、一教科目は『マナ工学』からスタートだ。一番、苦手な教科だけど、むしろ、いいかもしれない。頭の疲労がたまる前に、重い教科を終えたほうが、楽だからだ。それに、今回も、最も力を入れて勉強したのが、マナ工学なので。

 やがて、試験開始のブザーが鳴ると同時に、目の前に、試験問題と回答用の空中モニターが現れる。

 私はまず、暗記問題から取り組んで行った。これは、ナギサちゃんからのアドバイスで、暗記問題で、満点を取る作戦だ。あとは、残った時間で計算問題を解いて、加点を狙う。『この方法なら、六割は取れるはず』と言われていた。

 マナ工学は、六割と割り切って、他の教科で、いい点数を取って行く。六割でいいなら、だいぶ気が楽だよね。

 ナギサちゃんが、過去問を分析して作ってくれた資料は、効果てきめんだった。ちゃんと、その中に書いてあった内容が、しっかり問題として出題されている。

 暗記問題の回答を埋めたあと、見直しをして、次は、計算問題に取り掛かった。以前に比べて、頭はスッキリしている。とはいえ、急に計算が、速くなるわけじゃない。私は、じっくり時間を掛けて、少しずつ回答していく。

 計算問題を解いている最中に、終了のブザーが鳴って、空中モニターが消える。やはり、最後までは解き切れなかった。でも、前回は、四割程度だったのに、今回は、八割ぐらい埋められた。

 その後も、次々と試験は進み、あっという間に、お昼休憩に。午前中は、まずまずの出来だった。何より、落ち着いて取り組めたのが大きい。

 午後になり『航空法』の試験のあと、いよいよ、ラストの『歴史』の試験がスタートした。正直、かなり頭が疲れてきている。しかも、二番目に苦手な教科だ。

 私は、記憶を振りしぼりながら、必死に回答欄を埋めて行く。歴史については、ユメちゃんにも、かなり協力してもらった。ELエルの会話のやり取りを思い出しながら、回答していく。自信のない部分もあるけど、一応、全ての回答欄は埋められた。

 見直しをしている最中に、終了のブザーが鳴り、空中モニターが、スッと消える。できれば、最後までチェックしたかったけど。すでに、脳の疲労がピークに達して、素早く思考が動かなかった。

 その後、試験官から、簡単な説明が行われる。最速の合格発表が見たい人は、教室待機で、二十分後。あとでもいい人は、一時間後に、マギコンでも結果が見れるそうだ。もちろん、私は、部屋で待機を選ぶ。

 数名が席を立ったが、ほとんどの人は、席についたままだ。私は、ボーッと外を眺めながら、時間を潰す。ここまで来たらもう、自分の努力と運を信じるしかない。

 時折り、部屋の時計を見て、やきもきしながら待つこと、ニ十分。部屋の正面に、大きな空中モニターが表示された。全員の視線が、一斉にそこに集中する。

 私は、ドキドキしながら、急いで自分の番号を探した。

 一通り番号を確認したあと、
『えーっと……ちょっと待って――』
 マギコンで受験者番号を確認する。

 そのあと再び、合格発表のモニターを確認した。

 私の番号は、
『……あった! よし、よしっ、間違いない! 合格だぁぁーー!!』
 私は、スッと立ち上がると、思い切りガッツポーズをとった。

 最初に見た時は、ちょっと信じられなくて、もう一度、再確認したのだ。自分でも合格が信じられないって、自分、どんだけ自信ないのよ――。

 周囲を見ると、私のように嬉しそうな顔をしたり、ガッツポーズをしている人たちが見えた。どうやら、みんな無事に受かったようだ。緊張に包まれていた部屋の中が、急に、穏やかな空気に変わった気がする。

 いやー、よかった、よかった! 本当に、よかった!! 私も、みんなも。

 私は、急いでELを立ち上あげると、
『大空に羽ばたきました!』
 リリーシャさんや友人たちに、一斉送信メッセージを送った。

 これは『桜咲く』と同じで、こちらの世界での、合格を意味する言葉だ。私はメッセージを送信すると、足早に部屋を出て、軽やかな足取りで会社に向かうのだった……。


 ******


 私は〈ホワイト・ウイング〉に戻ると、エア・ドルフィンから、勢いよく飛び降りた。合格のメッセージを送ったとはいえ、やはり一秒でも早く、自分の口から、リリーシャさんに、合格を伝えたかったからだ。

 会社に着くと、急に実感がわき出して来た。今までの、一年間の苦労を思い出し、体の底から、熱いものがこみ上げてくる。

 長かった――本当に長かった。でも、これで私もようやく、一人前だ!!

 私は、意気揚々と、事務所の扉を開ける。だが、事務所には、誰もいなかった。時間は四時半。もう、お客様の対応も終わって、リリーシャさんは、帰って来ているはずだ。なのに、事務所内は、妙に静かだった。

「おかしいな……。奥にいるのかな?」
 私は、少し考えたあと、事務所の奥に向かっていく。
 
 だが、ダイニングに入ろうとした瞬間。暗かった部屋が、急に明るくなる。目の前には、色とりどりの光の玉が現れ、一斉に炸裂した。まるで、室内で、花火でも上がったかのようだ。

「なっ、何事っ?!」  

 光が収まってから、室内を見ると、見知った人たちが、こちらを見つめていた。リリーシャさん、ツバサさん、ナギサちゃんにフィニーちゃんが、待ち構えていたのだ。

「風歌ちゃん、おめでとう」
「ナイスファイト、風歌ちゃん!」
「まぁ、合格おめでとう」
「風歌、おめでとう」

 みんなから次々に、祝福の声が上がった。

「えぇーっ?! 何で、みんなこんな所に?」

 よく見ると、テーブルの上には、様々な料理が並び、その中央には、特大サイズのケーキまで置いてあった。

 ケーキには『風歌ちゃん合格おめでとう!』と書かれた、チョコプレートが乗っかっていた。滅茶苦茶、でっかいケーキなので、あらかじめ用意してあったのだろう。ナギサちゃんたちのお祝いの時より、さらに大きい。

「リリーに、合格祝いをどうするか、相談されてさ。それで、どうせなら『サプライズにしたら?』って、話になったんだよね」
「ツバサちゃんは、サプライズが大好きだから」

 ツバサさんとリリーシャさんは、笑顔で答える。

「ってことは――。もしかして、ナギサちゃんたちも、知ってたの?」
「二週間ほど前に、ツバサお姉様から、聴いてたから」
「私は、ナギサに聴いた」
 
 どうやら、全員グルだったようだ。

「でも、それって、合格前提ですよね? もし、落ちちゃったら、どうするつもりだったんですか?」

 受かるかどうかなんて、当日になるまで、分からない。しかも、私の場合は、かなり不透明だ。

「あれを使うことにならないで、本当によかったわ」

 リリーシャさんが、視線を向けた先には、お皿が置いてあった。そこには『風歌ちゃん頑張れ!』と書かれた、チョコプレートが置かれていた。

「なるほど。落ちた時用も、準備してあったんですね……」
「当然でしょ、風歌の学力を考えれば」
 ナギサちゃんの、冷静な突っ込みが入る。

「んがっ――」

 いや、そりゃそうだけどさ。せっかく受かったのに、相変わらず、ナギサちゃんの言葉は、容赦がない。今ぐらい、素直に褒めてくれたって……。

「でも、私は信じていたわよ。改めて、おめでとう、風歌ちゃん。これからは、本当の意味で、一緒にお仕事ができるわね」
「はいっ!!」

 私は、リリーシャさんが差し出してきた手を、ギュッと握りしめた。

 これでようやく、私も会社に貢献できる。リリーシャさんと一緒に、本命の観光案内の仕事ができるのだ。合格して昇級したことより、これから恩返しができることが、何よりも嬉しかった。

 でも、ここがゴールじゃない。まだ、ようやく、スタートラインに立ったばかりだ。まだまだ、リリーシャさんの背中は、はるか先にある。少しでも近づいて、いずれは横に並べるように、誠心誠意、頑張って行こう。

 それに、個人的な、頂点を狙うという野望もある。だから、一人前になった程度で、浮かれてちゃダメだ。もっともっと頑張って、今より、ずっと高いところを目指して行かなければ……。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

次回――
『一人前になってもやる事はほとんど変わらない』

 見習いを極めた人が一人前
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