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第6部 飛び立つ勇気
3-7ナギサちゃんのツッコミが相変わらず厳し過ぎる件……
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会社が休みの、水曜日。いつもなら、買い出しや洗濯などの家事を終えたあと、街をぶらぶらして、帰ってきたら、屋根裏部屋で勉強する。これが、休日の生活パターンだ。でも、今日は、とんでもなく広い、超豪華なリビングで勉強中だった。
実は、先日の試験の結果を、ELで報告したところ、ナギサちゃんに、滅茶苦茶、怒られた。まぁ、連絡する前から、反応は分かってたんだけどね……。
ただ、ナギサちゃんが怒っていたのは、勉強よりも、体調管理についてだ。確かに、私自身も、今回の一番の敗因は、体調管理だった思う。
結局、試験の復習と栄養補給もかねて、ナギサちゃんの家で、昼食会&勉強会を行うことになった。フィニーちゃんも、来たがってたけど、昼食だけが目当てだったので、あっさり却下された。
本当は、三人でやりたかったんだけど、今日は、あくまで勉強が目的だからね。そんなわけで、ナギサちゃんと二人で、勉強会をすることになった。
ただ、ナギサちゃんの家に来るのは、今回が初めてだ。〈南地区〉に、実家があるのは聴いていたので、それなりに、大きなのを想像していた。しかし、実際に来てみて、驚きを隠せなかった。
なぜなら、私がイメージしてたよりも、はるかに大きなマンションだったからだ。十二階建てで、敷地も大きな、とても綺麗な建物。外観だけでも、超高級マンションなのが、容易に想像がついた。流石は南地区、セレブ感が半端ない。
でかっ?! これ、マンションというより、高級ホテルに近いよね……。
入り口付近には、警備員の人が立っており、一階は、大きなロビーになっていて、ソファーなども置いてある。何か入り辛いので、ナギサちゃんにELで連絡して、一階まで迎えに来てもらった。
ナギサちゃんがやってくると、私はおっかなびっくり入り口をくぐり、大人しくあとについて行く。途中で、魔力関知ゲートを通過したりと、空港並みの、厳重なセキュリティだ。
しかも、設置されているフローターが、物凄く大きな最新型だった。廊下も広いし、床は綺麗な絨毯が、端から端まで、敷き詰められている。
あまりにも豪華すぎて、部屋につくまでの間、緊張しっぱなしだった。うちの、古びたアパートとは、次元が違いすぎる――。
フローターで向かったのは、屋上だった。屋上のワンフロアを、丸ごと占有しているらしい。部屋の扉を開けた瞬間、あまりの広さに、唖然として固まった。
玄関だけでも、私の屋根裏部屋よりも、広いぐらいだ。廊下も広々して、途中に、いくつも部屋がある。
私たちが向かったのは、一番、奥にある、リビングだった。だが、ここでまた、驚いて棒立ちになる。
なっ……なんじゃこりゃー?!
部屋の端から端まで、走れるぐらいに広い。お洒落なオープンキッチンにダイニング。また、リビングが、敷居なしに、広々と続いている。部屋というより、ホールみたいだ。
さらに、大きなガラス窓の外には、広々とした空中庭園が見える。庭には、テラス席まで用意してあり、芝生や木々も、キレイに手入れされていた。あまりに凄過ぎて、声も出なかった。
ただ、凄く驚いた半面、納得もした。前々から思ってたけど、やっぱりナギサちゃんって、本物のお嬢様だったのだ。アンジェリカちゃんに比べれば、庶民的だけど。にじみ出る気品や、お嬢様オーラは、隠しようがない。
私が、驚いてボーッとしている間に、ナギサちゃんは、手際よく、お茶とお菓子の用意をしていた。相変わらず、テキパキと、動きに無駄ながない。
お茶の準備ができると、私は、物凄く長くて大きなテーブルに着き、お茶を口にする。カップは、いかにも高級そうで、出された焼き菓子も、凄く高そうな物だ。
「ねぇ、ナギサちゃん――」
「何よ?」
「ナギサちゃんって、やっぱり、超お嬢様じゃん!」
「って、違うわよ。なんで、急にそんな話になってるのよ?」
ナギサちゃんは、慌てて否定する。
「だって、こんな超高級マンションに、住んでるじゃん。どう考えても、庶民じゃないよ」
「だから、母が凄いのであって。私は、ごく普通の一般人なのよ」
どこが一般人なの? と突っ込もうとするが、それは止めた。誰がどう見たって、お嬢様なのに。本人は、完全に無自覚なんだよね。でも、何でそこまで、否定するんだろう? 変に自慢するのも何だけど、別に隠すことじゃないのに。
「親が凄いのは、いいことじゃない? 誇って、いいと思うけど」
「親が凄くたって、自分が凄くなければ、意味がないのよ。私は、他人の功績を誇ったりなんて、低レベルなことは、絶対にしないわ」
実に、ナギサちゃんらしい考え方だ。他人の力は、頼らないし。自分の功績以外は、一切、認めない。ある意味、物凄く気高いよね。
「子供のころから、ずっと、ここに住んでるの?」
「昔は、別のマンションに、住んでいたけど。母が、シルフィード・クイーンになってから、ここに引っ越して来たのよ。オーナーさんとも、知り合いだったみたいで」
「へぇぇー、そうなんだ。やっぱり、シルフィード・クイーンって凄いね」
「凄いに、決まってるでしょ。誰よりも、優れた能力を持っているのだから」
ナギサちゃんは、ティーカップを置くと静かに答えた。話し方は冷静だけど、お母さんのことを語る時は、どことなく、嬉しそうな気もする。
「それも、あるけど。みんな、こんな豪邸に住んでるのかなぁー、って」
「人によるでしょ。風歌は、お金持ちになりたくて、上を目指しているわけ?」
「いや、それは違うよ。私は、沢山の人を幸せに出来る、そんなシルフィードを目指すんだ。だって、シルフィードって『幸運の使者』だもん」
もちろん、こんな豪華な生活に、憧れがあるのも事実だ。でも、誰かが喜んでくれたり、笑顔になってくれるほうが、私は嬉しいかな。
「なら、さっさと、一人前になりなさいよ。最初の試験すら通過しないようじゃ、人を幸せにするなんて、絶対にできる訳ないんだから」
「んがっ……。それは、そうなんだけど――」
相変わらず、ストレートすぎて、何のフォローにもなっていない。落ちたことを報告した時も、次に頑張ればいいとか、何の慰めの言葉も、言われなかった。むしろ、けちょんけちょんに、けなされたし……。
「取りあえず、試験問題のチェックをして行くわよ」
ナギサちゃんが、マギコンを操作すると、目の前の空中モニターに、試験問題が表示された。
「あれっ、何で試験問題もってるの――?」
「協会のアーカイブで、過去の試験問題が見れるのよ。まさか、過去問をチェックしないで、試験を受けたわけ?」
「うん。だって、知らなかったもん……」
覚えるのに必死で、それどころじゃなかった。でも、考えて見たら、過去の問題集とかって、色々あるよね。私、そもそも中卒で、受験したことないから。そういうのは、全く意識していなかった。
ナギサちゃんは、大きなため息を吐いて、額に手を当てる。いや、何もそこまで、呆れなくたっていいじゃん――。
「ちゃんと、答え合わせはしたの? 自分の回答、覚えているんでしょ?」
「いやー、それが。熱で頭がボーッとしてたから、ほとんど覚えてなくて」
「それじゃ、全然ダメじゃないのよ!」
「……はい。その通りです――」
まったくもって、その通りだ。これじゃあ、復習のしようがないよね。でも、あの時は、意識を保つだけで精一杯で。自分の行動すら、よく覚えていなかった。
「まぁ、いいわ。一度、全ての問題を回答して、実力診断から始めるわよ。まずは、マナ工学からね」
「えっ?! また、最初からやるの?」
正直、マナ工学は、あまりやりたくない。苦手意識が強いし、計算問題は、滅茶苦茶、神経がすり減るからだ。
「当たり前でしょ。これが、全問、解けないんだったら、次の試験でも、いい点数とれる訳ないんだから。さっさと、始めるわよ。制限時間は、四十分」
「ええっ?! 本番より短いの?」
「二度目なんだから、当然でしょ」
「ちょっと、待ってー!」
ナギサちゃんは、問答無用でタイマーを起動する。
まさか、いきなり、マナ工学から始まるとは思わなかった。しかも、試験をやるなんて、聴いてないよぉ……。
私は、必死になって、頭と手を動かした。何となく、問題は覚えていたので、試験で回答できたところは、比較的スムーズに埋めて行く。ただ、問題は、計算の部分だ。前回の回答は、そもそも、計算が正しく出来ていなかったと思う。
目の前では、腕を組んだナギサちゃんが、ジーッとこちらを監視している。そのプレッシャーのせいで、本番さながらの、空気の重さだった。
八割ほど、回答を書き込んだところで、終了のブザーが鳴り響く。集中していたせいか、思ったよりも、終わるのが早かった。
「あー、また、最後まで行けなかった。あと十分、時間があれば――」
「十分前までに、終わってなければ、見直しが出来ないでしょ?」
「なるほど、そうかも……」
暗記問題は、どうにかなるんだけど。計算問題は、どうしても時間が掛かってしまう。
ナギサちゃんは、回答をサッとチェックしたあと、
「まるで、なってないわね」
容赦なく言い放つ。
「えぇっ?! そんなにダメだった?」
「計算ミスに、用語の覚え間違い。引っ掛け問題に、見事に引っ掛かってるし。まるで、駄目じゃないの。こんなので受かったら、奇跡よ」
「んがっ――。そこまで言わなくても。必死に、頑張ったのに……」
「頑張ったって、点数が取れなければ、意味ないのよ。試験は、頑張るのが目的じゃなくて、点数を取るのが目的なんだから」
ものすごーく正論だ。でも、言い方がキツイので、ブスブスと心に突き刺さる。
「いくら駄目でも、取れる問題で、しっかり取りなさいよ。ほら、こことここ。あと、ここだって、覚えてさえいれば、全て取れるでしょ?」
「あぁ、確かに――」
「風歌の計算能力が、壊滅的なのは、分かったわ。だから、暗記問題で勝負よ」
「か……壊滅的って」
結局このあと、夜までみっちり、ナギサちゃんの猛特訓が、続くのだった。頭の中は、色んな知識で、グルグルうず巻いている。でも、お蔭で、試験問題の理解は、かなり進んだと思う。
まぁ、容赦のないツッコミで、心がボコボコにへこんで、心身ともに、滅茶苦茶、衰弱したけどね――。
だ、大丈夫……。これも、頂点を狙うための、努力なんだから。私、数式なんかに、絶対、負けないぞぉぉーー!!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回――
『大らかな性格が大物の資質なのかもしれない』
才能や経歴に隠れて見えないが、一番大切なのは心の資質
実は、先日の試験の結果を、ELで報告したところ、ナギサちゃんに、滅茶苦茶、怒られた。まぁ、連絡する前から、反応は分かってたんだけどね……。
ただ、ナギサちゃんが怒っていたのは、勉強よりも、体調管理についてだ。確かに、私自身も、今回の一番の敗因は、体調管理だった思う。
結局、試験の復習と栄養補給もかねて、ナギサちゃんの家で、昼食会&勉強会を行うことになった。フィニーちゃんも、来たがってたけど、昼食だけが目当てだったので、あっさり却下された。
本当は、三人でやりたかったんだけど、今日は、あくまで勉強が目的だからね。そんなわけで、ナギサちゃんと二人で、勉強会をすることになった。
ただ、ナギサちゃんの家に来るのは、今回が初めてだ。〈南地区〉に、実家があるのは聴いていたので、それなりに、大きなのを想像していた。しかし、実際に来てみて、驚きを隠せなかった。
なぜなら、私がイメージしてたよりも、はるかに大きなマンションだったからだ。十二階建てで、敷地も大きな、とても綺麗な建物。外観だけでも、超高級マンションなのが、容易に想像がついた。流石は南地区、セレブ感が半端ない。
でかっ?! これ、マンションというより、高級ホテルに近いよね……。
入り口付近には、警備員の人が立っており、一階は、大きなロビーになっていて、ソファーなども置いてある。何か入り辛いので、ナギサちゃんにELで連絡して、一階まで迎えに来てもらった。
ナギサちゃんがやってくると、私はおっかなびっくり入り口をくぐり、大人しくあとについて行く。途中で、魔力関知ゲートを通過したりと、空港並みの、厳重なセキュリティだ。
しかも、設置されているフローターが、物凄く大きな最新型だった。廊下も広いし、床は綺麗な絨毯が、端から端まで、敷き詰められている。
あまりにも豪華すぎて、部屋につくまでの間、緊張しっぱなしだった。うちの、古びたアパートとは、次元が違いすぎる――。
フローターで向かったのは、屋上だった。屋上のワンフロアを、丸ごと占有しているらしい。部屋の扉を開けた瞬間、あまりの広さに、唖然として固まった。
玄関だけでも、私の屋根裏部屋よりも、広いぐらいだ。廊下も広々して、途中に、いくつも部屋がある。
私たちが向かったのは、一番、奥にある、リビングだった。だが、ここでまた、驚いて棒立ちになる。
なっ……なんじゃこりゃー?!
部屋の端から端まで、走れるぐらいに広い。お洒落なオープンキッチンにダイニング。また、リビングが、敷居なしに、広々と続いている。部屋というより、ホールみたいだ。
さらに、大きなガラス窓の外には、広々とした空中庭園が見える。庭には、テラス席まで用意してあり、芝生や木々も、キレイに手入れされていた。あまりに凄過ぎて、声も出なかった。
ただ、凄く驚いた半面、納得もした。前々から思ってたけど、やっぱりナギサちゃんって、本物のお嬢様だったのだ。アンジェリカちゃんに比べれば、庶民的だけど。にじみ出る気品や、お嬢様オーラは、隠しようがない。
私が、驚いてボーッとしている間に、ナギサちゃんは、手際よく、お茶とお菓子の用意をしていた。相変わらず、テキパキと、動きに無駄ながない。
お茶の準備ができると、私は、物凄く長くて大きなテーブルに着き、お茶を口にする。カップは、いかにも高級そうで、出された焼き菓子も、凄く高そうな物だ。
「ねぇ、ナギサちゃん――」
「何よ?」
「ナギサちゃんって、やっぱり、超お嬢様じゃん!」
「って、違うわよ。なんで、急にそんな話になってるのよ?」
ナギサちゃんは、慌てて否定する。
「だって、こんな超高級マンションに、住んでるじゃん。どう考えても、庶民じゃないよ」
「だから、母が凄いのであって。私は、ごく普通の一般人なのよ」
どこが一般人なの? と突っ込もうとするが、それは止めた。誰がどう見たって、お嬢様なのに。本人は、完全に無自覚なんだよね。でも、何でそこまで、否定するんだろう? 変に自慢するのも何だけど、別に隠すことじゃないのに。
「親が凄いのは、いいことじゃない? 誇って、いいと思うけど」
「親が凄くたって、自分が凄くなければ、意味がないのよ。私は、他人の功績を誇ったりなんて、低レベルなことは、絶対にしないわ」
実に、ナギサちゃんらしい考え方だ。他人の力は、頼らないし。自分の功績以外は、一切、認めない。ある意味、物凄く気高いよね。
「子供のころから、ずっと、ここに住んでるの?」
「昔は、別のマンションに、住んでいたけど。母が、シルフィード・クイーンになってから、ここに引っ越して来たのよ。オーナーさんとも、知り合いだったみたいで」
「へぇぇー、そうなんだ。やっぱり、シルフィード・クイーンって凄いね」
「凄いに、決まってるでしょ。誰よりも、優れた能力を持っているのだから」
ナギサちゃんは、ティーカップを置くと静かに答えた。話し方は冷静だけど、お母さんのことを語る時は、どことなく、嬉しそうな気もする。
「それも、あるけど。みんな、こんな豪邸に住んでるのかなぁー、って」
「人によるでしょ。風歌は、お金持ちになりたくて、上を目指しているわけ?」
「いや、それは違うよ。私は、沢山の人を幸せに出来る、そんなシルフィードを目指すんだ。だって、シルフィードって『幸運の使者』だもん」
もちろん、こんな豪華な生活に、憧れがあるのも事実だ。でも、誰かが喜んでくれたり、笑顔になってくれるほうが、私は嬉しいかな。
「なら、さっさと、一人前になりなさいよ。最初の試験すら通過しないようじゃ、人を幸せにするなんて、絶対にできる訳ないんだから」
「んがっ……。それは、そうなんだけど――」
相変わらず、ストレートすぎて、何のフォローにもなっていない。落ちたことを報告した時も、次に頑張ればいいとか、何の慰めの言葉も、言われなかった。むしろ、けちょんけちょんに、けなされたし……。
「取りあえず、試験問題のチェックをして行くわよ」
ナギサちゃんが、マギコンを操作すると、目の前の空中モニターに、試験問題が表示された。
「あれっ、何で試験問題もってるの――?」
「協会のアーカイブで、過去の試験問題が見れるのよ。まさか、過去問をチェックしないで、試験を受けたわけ?」
「うん。だって、知らなかったもん……」
覚えるのに必死で、それどころじゃなかった。でも、考えて見たら、過去の問題集とかって、色々あるよね。私、そもそも中卒で、受験したことないから。そういうのは、全く意識していなかった。
ナギサちゃんは、大きなため息を吐いて、額に手を当てる。いや、何もそこまで、呆れなくたっていいじゃん――。
「ちゃんと、答え合わせはしたの? 自分の回答、覚えているんでしょ?」
「いやー、それが。熱で頭がボーッとしてたから、ほとんど覚えてなくて」
「それじゃ、全然ダメじゃないのよ!」
「……はい。その通りです――」
まったくもって、その通りだ。これじゃあ、復習のしようがないよね。でも、あの時は、意識を保つだけで精一杯で。自分の行動すら、よく覚えていなかった。
「まぁ、いいわ。一度、全ての問題を回答して、実力診断から始めるわよ。まずは、マナ工学からね」
「えっ?! また、最初からやるの?」
正直、マナ工学は、あまりやりたくない。苦手意識が強いし、計算問題は、滅茶苦茶、神経がすり減るからだ。
「当たり前でしょ。これが、全問、解けないんだったら、次の試験でも、いい点数とれる訳ないんだから。さっさと、始めるわよ。制限時間は、四十分」
「ええっ?! 本番より短いの?」
「二度目なんだから、当然でしょ」
「ちょっと、待ってー!」
ナギサちゃんは、問答無用でタイマーを起動する。
まさか、いきなり、マナ工学から始まるとは思わなかった。しかも、試験をやるなんて、聴いてないよぉ……。
私は、必死になって、頭と手を動かした。何となく、問題は覚えていたので、試験で回答できたところは、比較的スムーズに埋めて行く。ただ、問題は、計算の部分だ。前回の回答は、そもそも、計算が正しく出来ていなかったと思う。
目の前では、腕を組んだナギサちゃんが、ジーッとこちらを監視している。そのプレッシャーのせいで、本番さながらの、空気の重さだった。
八割ほど、回答を書き込んだところで、終了のブザーが鳴り響く。集中していたせいか、思ったよりも、終わるのが早かった。
「あー、また、最後まで行けなかった。あと十分、時間があれば――」
「十分前までに、終わってなければ、見直しが出来ないでしょ?」
「なるほど、そうかも……」
暗記問題は、どうにかなるんだけど。計算問題は、どうしても時間が掛かってしまう。
ナギサちゃんは、回答をサッとチェックしたあと、
「まるで、なってないわね」
容赦なく言い放つ。
「えぇっ?! そんなにダメだった?」
「計算ミスに、用語の覚え間違い。引っ掛け問題に、見事に引っ掛かってるし。まるで、駄目じゃないの。こんなので受かったら、奇跡よ」
「んがっ――。そこまで言わなくても。必死に、頑張ったのに……」
「頑張ったって、点数が取れなければ、意味ないのよ。試験は、頑張るのが目的じゃなくて、点数を取るのが目的なんだから」
ものすごーく正論だ。でも、言い方がキツイので、ブスブスと心に突き刺さる。
「いくら駄目でも、取れる問題で、しっかり取りなさいよ。ほら、こことここ。あと、ここだって、覚えてさえいれば、全て取れるでしょ?」
「あぁ、確かに――」
「風歌の計算能力が、壊滅的なのは、分かったわ。だから、暗記問題で勝負よ」
「か……壊滅的って」
結局このあと、夜までみっちり、ナギサちゃんの猛特訓が、続くのだった。頭の中は、色んな知識で、グルグルうず巻いている。でも、お蔭で、試験問題の理解は、かなり進んだと思う。
まぁ、容赦のないツッコミで、心がボコボコにへこんで、心身ともに、滅茶苦茶、衰弱したけどね――。
だ、大丈夫……。これも、頂点を狙うための、努力なんだから。私、数式なんかに、絶対、負けないぞぉぉーー!!
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次回――
『大らかな性格が大物の資質なのかもしれない』
才能や経歴に隠れて見えないが、一番大切なのは心の資質
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