私異世界で成り上がる!! ~家出娘が異世界で極貧生活しながら虎視眈々と頂点を目指す~

春風一

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第6部 飛び立つ勇気

3-5頑張ると空回りは違うって分かってはいるんだけど

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 水曜日の夕方。私はベッドの上で、ボーッと天井を眺めていた。昨日、昇級試験から帰って来たあと、ずっと、ベッドに横になっている。医務室で、点滴を打ってもらったし、もらった薬を飲んだおかげか、だいぶ良くなってきた。

 今朝、熱を測ったら、36.8度。微熱だし、体も軽くなって、普通に動けるぐらいには、回復した。軽い運動ぐらいなら、できそうな感じがする。

 でも、大事をとって、今日一日は、大人しく寝ていることにした。自分の都合で、仕事に影響を与えたくないし。今は、何と言っても、仕事が最優先。プロとして、常にベスト・コンディションにしておかないとね。

「本当に、今日が休日でよかった……。リリーシャさんに、これ以上、迷惑を掛けたくないし。それに、ずっと皆勤だったからなぁ」

 私は、左手の甲をおでこにのせがら、ボソッと呟いた。

 昨日、合格発表を見た時は、落ちたことに、物凄くショックだった。あれほど落ち込んだのは、本当に久しぶりだ。でも、今は、気持ちも落ち着いて、さほど気にならない。ぐっすり寝たせいか、身も心も、スッキリしたようだ。

「そういえば、こんなにゆっくり寝たの、久しぶりだなぁ。こっちに来てからは、休日も、早朝に起きてたし。ここ数日は、試験勉強で、夜更かし気味だったから。ちょっと、寝不足だったのかも――」

 思えば、暖房もつけずに、毎晩、深夜まで勉強していた。暖房をつけると、気が緩んで、すぐに眠くなってしまうからだ。でも、健康を考えたら、色々問題があった気がする。

「今回の風邪の原因は、それかも。やっぱ、無茶しちゃ、ダメだなぁ……」
 冷静に考えて見ると、かなり無理をして、心身ともに、疲労がたまっていた。

 実家に帰った時に、お母さんと交わした約束。ナギサちゃんとフィニーちゃんが、先に昇級したこと。それらが、知らず知らずのうちに、物凄く大きなプレッシャーになって、焦ってたんだと思う。

「焦ったって、何も変わらないのにねぇ――」

 私はいつも、早とちりや、空回りばっかりだ。ついつい、先走ったり、無茶しちゃうんだよね。あとになって、冷静に考えて、初めて気付く。いくら気を付けても、こういう性格だから、どうにもならないんだけどね。

 とその時、お腹が、盛大な音を鳴らした。

「あははっ、お腹は元気みたい。パンでも、買いに行こうかなぁ……」

 考えて見たら、昨日の朝から、何も食べていなかった。試験会場でもらった、水一口と、飴玉一つだけだ。

 私は、ベッドからゆっくり降りると、小さく伸びをする。昨日に比べれば、ずいぶんと体が軽くなっていた。まだ、少しぼんやりしているけど、頭もクリアになっている。

 ふと、机に視線を向けると、そこには、メモが置いてあった。

『目が覚めたら、顔を出しな』 
 これは、ノーラさんの筆跡だ。  
 
「何だろう? とりあえず、行ってみようかな」
 私は、サッと着替えると、はしごをゆっくり降りて行った。


 ******


 私は、ノーラさんの部屋の、ダイニングにいた。テーブルの前に座って、大人しく待機している。部屋を訪問したら『食事の用意ができてるから、入りな』と、言われたからだ。私は、何も言わず、その言葉に大人しく従った。

 病み上がりで、寒い外に出るのもキツイし。階段を降りていて気付いたけど、お腹が、グーグー鳴りっぱなしだった。想像以上に、お腹が空いていたみたいだ。

 まったく、現金な胃袋だよね。回復したとたんに、これなんだから。まぁ、元気になった証拠、ってことかな?

 テーブルの上には、次々と料理が並べられていく。ただ、いつもとは、少しメニューが違う。野菜主体で、スープ類が多い。消化の良さそうな物ばかりだ。

 トマトのリゾット、かぼちゃのポタージュ、野菜と魚のクリーム煮、フルーツヨーグルト。いかにも、病み上がりに、ピッタリな料理ばかりだ。

 ノーラさんが席に着くと、
「さて、食事にするか。よく噛んで食べな」
 と声を掛けて来る。

「はい。豊かな恵に感謝します」 
 私は、両手を組んで目を閉じると、心から感謝した。

 一日ぶりの、しかも、物凄く豪華な食事。本当に、心から感謝で一杯だ。

 まずは、カボチャのポタージュを、一口だけ飲んでみる。トロっとした、滑らかな食感と、カボチャの優しい甘さが、口の中に広がった。

 最初は、おっかなびっくり、ゆっくり食べていたけど、次々と色んな料理に手を出していく。どれも、滅茶苦茶、美味しいうえに、体にも優しい。まるで、体の中に、スーッと染み込んで行くような感じだ。

 本当に、ノーラさんの作る料理は、物凄く美味しい。見た目も美しいし、細かいところまで、手間暇かけているのが分かる。流石は、リリーシャさんの料理の師匠だ。

「それだけ食欲があれば、大丈夫そうだな」 
「昨日は、本当に酷かったですけど。今日は、だいぶ良くなりました。これで、また明日から、元気一杯に働けます」
 
「そんな病み上がりで、仕事に行くつもりか? 明日も、休んだほうがいいだろ?」 
「いえ。私、回復は、凄く早いんで。それに、心配を掛けたくないんです。リリーシャさん、物凄く過保護なんで」 

 本人も言ってたけど、リリーシャさんは、かなりの心配性だ。私が熱を出して寝込んだ、なんて言えば、また、凄く心配させるに、決まっている。滅茶苦茶、過保護だから、仕事もさせてもらえないかも……。

「確かに、そうだが。ぶり返したら、意味ないだろ?」
「大丈夫です。その点は、超気を付けますので。今回は、私の体調管理が、甘かったせいなので。二度と、同じことは繰り返しません」

 勉強を頑張ることばかりに集中して、体調管理を、完全におろそかにしていた。食事は、あまり食べてなかったし、休憩や睡眠も、全く足りていなかった。どう考えても、自己管理が甘かったよね。

 一つに集中すると、周りが全く見えなくなるのが、私の最大の欠点だ。これは、ゆくゆく直して行かないと――。

「なら、いいけどな。昨日のように、見ず知らずの人間にまで、迷惑を掛けるようなことはするなよ」
「えっ……見ず知らず?」 

 そういえば、昨日、試験会場で会った隣の席の子が、初対面にもかかわらず、物凄く良くしてくれたんだった。医務室に連れて行ってくれたうえに、私が寝ている間も、ずっと、そばに付いていてくれた。

 しかも、帰りは、彼女のエア・ドルフィンの後ろに乗せて、送って来てくれたのだ。正直、あの状態じゃ、自力て帰って来るのは、相当、厳しかったと思う。

「覚えていないのか? その子と二人で、お前を五階まで運ぶの、偉く大変だったんだぞ」
「あぁ――そういえば」 

 二人に支えられ、やっとの思いで、屋根裏部屋まで帰って来たんだった。ノーラさんの部屋に泊めてくれる、って言われたけど、私は断って、自室に帰って来たのだ。

 心身ともに最悪だったので、一刻も早く自分の部屋に戻って、落ち着きたかった。さすがに、他人の家で、落ち込んだりできないからね。

「あの、昨日はご迷惑をお掛けして、大変、申し訳ありませんでした!」
 私は、サッと立ち上がると、思い切り頭を下げた。

「私は構わないが、その子には、お礼を言っとけよ」
「あぁ、はい。あとで、連絡しておきます」

 一応、名前と所属会社は、聴いておいた。ELエルのID交換は、していないので、あとで彼女の会社に、連絡してみよう。

「いいから、座って食事をしろ。悪いと思うなら、さっさと体を治せ。まだ、完全に、回復した訳じゃないんだろ?」
「熱は下がって来たので、明日には、元通りになると思います」

「なら、どんどん食べて、早く治せ」
「はい……そうします」

 私は、再び食事を再開し、黙々と食べ続けた。一口、食べるたびに、元気が湧いてくるような気がする。

 食事が一段落したところで、
「それで、試験は、どうだったんだ?」
 ノーラさんが、静かに訊いてきた。

「いやー、もう、ボロボロでした。勉強もしっかりして、やったところも、出たんですけど。意識が、もうろうとして、答えが中々出て来なくて。マナ工学なんて、最悪でしたよ。簡単な計算も、全然できなくて」

 あれでは、落ちても当然だ。自分の実力の、半分も出せなかったのだから。

「つまり、落ちたってことか?」
「はい、見事に落ちました」

「それにしては、ずいぶん、スッキリしてるじゃないか?」
「昨日、合格発表を見た時は、滅茶苦茶、落ち込んだんですけど。そのあと、思いっきり寝たら、スッキリしました」

 本当に、不思議なもので、思いっきり寝まくったら、気持ちがリセットされていた。いつもなら、超落ち込みそうなのに。何か、色々と吹っ切れた気がする。

「これで、終わりじゃないですし。落ち込んでる暇があったら、次の試験に向けて、勉強したほうが、いいですから」

「そうかい、なら、大丈夫そうだな。まぁ、一回目は、落ちるやつも多いから。気にしたって、しょうがないことだ」

 ノーラさんは、言いながら、ティーカップに口を付ける。

「リリーシャさんは、一発で受かってますし。友達二人も、一発合格だったので。ちょと、焦り過ぎたのかもしれません。次は、もっと落ちついて、臨みます」

「焦ったところで、急にいい点数が、とれる訳ないだろ? ま、私も昇級試験は、一発合格だったけどな」  
「って、みんな一発で、受かってるじゃないですか?!」
 
 結局、私の周りで落ちたのって、私だけじゃん。何だかんだで、みんな優秀だからなぁ――。

「そりゃ、普通はそうだろ。でも、お前は、お馬鹿なんだから。普通の人間と、一緒に考えるな」
「んがっ……。それ、全然フォローになってませんよ!」

 それを聴いたノーラさんは、豪快に笑った。

「無理をするんじゃなくて、当たり前のことを、当たり前にやる。それができる人間は勝つし、それが出来ない人間は負ける。ただ、それだけのことだ」 
「確かに――そうかもしれませんね」
 
 本当に、その通りだと思う。無理をした結果が、この有様だ。今までも、散々痛い目に、遭って来たのに、どうして、毎度こうなっちゃうんだか。

 でも、もう大丈夫。無理せず、背伸びせず。次こそは、確実に合格を手にしよう。私は私。周りの優秀な人たちを、気にしたってしょうがない。私には、私だけの勝ち方しか、出来ないのだから……。


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次回――
『心優しい彼女は本物のシルフィードだった』

 贋作が本物に劣ると誰が決めた?
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