上 下
211 / 363
第6部 飛び立つ勇気

1-3蜃気楼のような生まれ故郷の平和な日常

しおりを挟む
 年が明け、一月一日。私は、実家で年を越し、とても平和な正月を迎えていた。つい先日までは、まさか、こんな展開になるとは、思っても見なかった。ほぼ、絶縁状態だったのだから、奇跡のような状況だ。

 最初は、物凄く怖かったけど、勇気を出して帰ってきて、本当によかったと思う。一応、仲直りもできたし、何より、心の中がスッキリした。今までは、ずっとモヤモヤした気持ちを、抱えていたからね。

 先日の話し合いのあと、お母さんは、同意書にサインをしてくれた。その後、お父さんも交えて、今までの出来事や、今後のことを話し合った。結局、私は一月五日まで、実家で、のんびり過ごす運びになったのだ。

 話し合いのあとは、一緒に食事をして、久々に家族団らんの、楽しい時間を過ごした。最初は、ちょっと、ぎくしゃくした感じだったけど、一日ですぐに、昔通りに戻った。まぁ、家族って、こんなものなのかもね。

 家族で一緒に、年越しそばを食べながら、除夜の鐘を聴き。年が明けたら、伊勢海老の入った、豪華なおせちを食べて。何だかんだで、お年玉まで貰ってしまった。

 ちなみに、昨日、中学時代の友達に、連絡を入れてみた。そうしたら、物凄く盛り上がり、中学時代の仲のよかったメンバーで集まって、遊びに行こう、という話になった。

 ただ、謝りに来たのに、うろちょろ遊びに行っていいものかと、少し悩んだ。同意書に、サインはしてくれたものの、100%認めてもらったわけじゃ無いし。まだ、見習いの分際で、浮かれてる場合じゃないもんね。

 でも、お母さんに話したら『友達付き合いは大事だから、行ってきなさい』と、すんなり許してくれた。なので、今日は、旧友たちと会うため、駅までやって来たのだ。

 最後に会ったのが、昨年の三月だから、実に十ヶ月ぶりの再会だった。みんなは、よく会っているらしい。でも、私は久しぶりなので、ちょっぴり緊張していた。 

 駅でバスを降りて、待ち合わせ場所の、ファーストフード店に着くと、ゆっくり入り口をくぐる。元日なので、あまり人は入っていない。お蔭で、すぐに、目的の相手が見つかった。

 私が声を掛けるよりも先に、
「風歌ー、こっちこっちー!」
 相手のほうから、声を掛けてきた。
 
 入口の左側にある、壁際の席に、目的の三人が集まっている。みんな、笑顔で手を振ってくれた。

 私は、早足で皆の所に向かうと、
「早紀ちゃん、恵真ちゃん、愛ちゃん、超久しぶりー!!」
 元気いっぱいに声を掛ける。

 ついでに、両手を前に差し出すと、みんな笑顔で、ハイッタッチしてくれた。これが、私たちの、お約束のあいさつだ。

 私は、中学時代、男女問わず、クラス中の子と仲良くしていた。でも、彼女たちは、ずっとつるんでいた、特別に仲のよいメンバーだ。全員、同じ陸上部で、何をやる時も、いつも一緒だった。

「ほら、風歌、早く座りなよ」
「うん。でも、何か買ってこないと」

「いいよ、私が買ってくるから。いつものでしょ?」
「あぁ、うん。ありがとう、早紀ちゃん」

 早紀ちゃんは、微笑むとサッと席と立って、カウンターに向かう。彼女は、昔からとても気の利く、優しい子だった。何となく、感じがツバサさんに似ている。

「ところで、理沙ちゃんは?」
 私は席に着くと、二人に尋ねる。仲のいいメンバーは、もう一人いるからだ。

「あぁー、今日は、親戚回りだって」
「理沙んち、厳しいからねぇ」
「そういえば、毎年、お正月は、親戚の家に行くって、言ってたっけ……」
 
 うちは、特にそういうの無いけど。家によっては、親戚が全員、集まったりとか。かなり大掛かりな、親戚行事をするみたいだ。

「でも、変わらずに元気だよ」
「ま、私たちって、元気だけが取り柄じゃん。昔から」
「あははっ、それもそうだねぇ」

 私たちは、みんな結構、似ていると思う。同じ、体育会系なのもあるけど。基本的には、全員アクティブな性格だ。その中でも、私は一人、飛びぬけてたけどね。

 色んな話している間に、早紀ちゃんが、トレーを持って戻って来た。

「はい、お待たせ、風歌」
「早紀ちゃん、ありがとー!」
 私は財布を取り出し、お金を渡そうとする。だが、

「いいって、これぐらい」
「いや、そんな訳には行かないよ。私、一応、社会人なんだし」

「たっぷり、お年玉もらったから。『風歌お帰り記念』でいいじゃん」
「まぁ、そういうことなら――。ごちになります」

 私たちの間では、おごったり、おごられたりは、昔は日常茶飯事にやっていた。でも、今は、お金の大切さが分かるから、何か申しわけない気がする。

「そういや、風歌って、社会人なんだよねー」
「なーんか、信じられないよね。あの風歌がねぇ」

 恵真ちゃんと愛ちゃんは、笑いながら言う。

「やっぱ、そう見えないかな? まだ、一年も経ってないし、そう簡単には、変わらないよね」

「まぁ、風歌は、どこまで行っても風歌だからね」
「だよねぇー、あの風歌だもんね」

 二人は、とても楽しそうに、笑いながら答える。

「んがっ……。それって、褒めてるの、けなしてるの?」

 大人になったね、とかいう言葉を、多少は期待してたのに。あまりに、微妙すぎる反応じゃない? まだ、一人前になった訳じゃないから、しょうがないんだけど。

「そんなことないよ。風歌は、変わったと思う」
 微笑みを浮かべながら、静かに聴いていた早紀ちゃんが、口を開く。

「えっ、本当に? どこら辺が?」
「ちょっと、おばさんっぽくなった」
「ちょっ――。お、おばさん?!」

 その言葉に、みんなは、大笑いするのだった。


 ******


 私たちは、ファーストフード店を出たあと、近所にある小さな神社に、初詣に行った。試合の前とか、試験前に、何度か行った記憶がある。昔は、全然、勉強しなかったから、試験前は、割と真剣に神頼みしてたんだよね。

 お参りのあとは、ワイワイ世間話をしながら、商店街の中を歩いて行く。いつもだと、デパートの中を見て回るんだけど、元日は、どこもお休みだ。逆に、商店街は、開いているお店が多かった。

 昔は、古い商店街など、全く興味がなかったけど、今は見て回るだけで楽しい。どことなく、向こうの世界の〈東地区商店街〉に似ているからだ。近くに住んでいたのに、知らない店も、かなり多い。

 途中で、たい焼き、ソフトクリーム、ドーナツなど、スイーツを買い食いしながら、歩いて行く。

 何か懐かしいなぁー、こういうの。まるで、中学時代に戻ったみたいな感じ。昔は、学校の帰りは、必ず買い食いしたり、寄り道してたもんね。こういうのが、懐かしく感じるのが、おばさんっぽい、ってことなのかなぁ……?

 歩き回っている内に、寒くなって来たから『どこかの店に入ろう』ということになった。確かに、今日は物凄く寒い。それに〈グリュンノア〉に比べて、こっちのほうが気温が低いので、私は、ますます寒く感じていた。

 とりあえず、ゲームセンターに入って、ユーフォ―・キャッチャーでも盛り上がったあと、お約束のプリを撮る。プリ撮るのも、超久しぶりだよね。

 体も温まったところで、次に向かったのが、これまたお約束の、カラオケだった。昔は、何かある度に、よく打ち上げに行っていた。最後に行ったのが、去年の三月の、卒業式のちょっと前。確か『卒業前倒しパーティー』だった気がする。

 部屋に入ると、早紀ちゃんはメニューを開いて、すぐに、フロントに注文を入れた。愛ちゃんは、端末を手にすると、みんなの歌の予約を入れて行く。恵真ちゃんは、マイクやタンバリンの用意をする。

 みんな手慣れていて、昔から、だいたい役割が決まっていた。ちなみに、私は、いつも見ているだけ。そういうキャラなので、みんなも、何も文句は言わなかった。

 うーむ。私って、家だけじゃなくて、外でも、何もやってなかったんだね。そりゃ、お母さんも、うるさく怒るわけだわ――。

 その後、四人で、大熱唱が始まった。お正月のせいか、みんな異常にテンションが高い。私は、久しぶりなので、最初は少し抵抗があった。でも、その内、すっかり忘れて、ノリノリになって来た。

 私は、数曲、歌ったったあと、席について、飲み物に手を伸ばす。ジュースを飲みながら、他の子が歌っているのを見て、ふと違和感を覚えた。

 あれっ、なんだろう、コレ……? 突然、周りにいた三人が、物凄く遠くにいるように感じてしまった。まるで、私一人だけ、異世界にいる気分だ。

 急に冷静になると、今日一日のことを、振り返ってみた。久しぶりに、親しい友達に再会できて、滅茶苦茶、楽しくて嬉しいはずなのに。

 ずっと、おかしな違和感があった。時々『心ここにあらず』の状態になっていた。笑顔を浮かべながらも、気持ちが、常に別の場所に向かっている。

 そう、何をやっている時も、向こうの世界のことを、考えてしまうのだ。ここが、自分の本当の居場所じゃないような、何とも言えない孤独感。

 自分の生まれ育った世界なのに、まるで、向こうが自分の故郷で、こちらが異世界のような感覚。それに、この微妙に不安な感じは、何なのだろうか――?

 私は、皆の楽しそうな歌声が響く中、一人、遠い世界に身を置いて、色々と考え込むのだった……。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

次回――
『ぎりぎり赤点回避で満足しちゃいけないよね』

 小さなステージで満足しないで、広い世界に目を向けていけよ
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後

澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。 ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。 ※短いお話です。 ※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

【完結】帝国から追放された最強のチーム、リミッター外して無双する

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  スペイゴール大陸最強の帝国、ユハ帝国。  帝国に仕え、最強の戦力を誇っていたチーム、『デイブレイク』は、突然議会から追放を言い渡される。  しかし帝国は気づいていなかった。彼らの力が帝国を拡大し、恐るべき戦力を誇示していたことに。  自由になった『デイブレイク』のメンバー、エルフのクリス、バランス型のアキラ、強大な魔力を宿すジャック、杖さばきの達人ランラン、絶世の美女シエナは、今まで抑えていた実力を完全開放し、ゼロからユハ帝国を超える国を建国していく。   ※この世界では、杖と魔法を使って戦闘を行います。しかし、あの稲妻型の傷を持つメガネの少年のように戦うわけではありません。どうやって戦うのかは、本文を読んでのお楽しみです。杖で戦う戦士のことを、本文では杖士(ブレイカー)と描写しています。 ※舞台の雰囲気は中世ヨーロッパ〜近世ヨーロッパに近いです。 〜『デイブレイク』のメンバー紹介〜 ・クリス(男・エルフ・570歳)   チームのリーダー。もともとはエルフの貴族の家系だったため、上品で高潔。白く透明感のある肌に、整った顔立ちである。エルフ特有のとがった耳も特徴的。メンバーからも信頼されているが…… ・アキラ(男・人間・29歳)  杖術、身体能力、頭脳、魔力など、あらゆる面のバランスが取れたチームの主力。独特なユーモアのセンスがあり、ムードメーカーでもある。唯一の弱点が…… ・ジャック(男・人間・34歳)  怪物級の魔力を持つ杖士。その魔力が強大すぎるがゆえに、普段はその魔力を抑え込んでいるため、感情をあまり出さない。チームで唯一の黒人で、ドレッドヘアが特徴的。戦闘で右腕を失って以来義手を装着しているが…… ・ランラン(女・人間・25歳)  優れた杖の腕前を持ち、チームを支える杖士。陽気でチャレンジャーな一面もあり、可愛さも武器である。性格の共通点から、アキラと親しく、親友である。しかし実は…… ・シエナ(女・人間・28歳)  絶世の美女。とはいっても杖士としての実力も高く、アキラと同じくバランス型である。誰もが羨む美貌をもっているが、本人はあまり自信がないらしく、相手の反応を確認しながら静かに話す。あるメンバーのことが……

処理中です...