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第5部 厳しさにこめられた優しい想い
3-5真面目VS自由奔放の火花が飛び散る女子会パート2
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私は、エア・ドルフィンに乗って〈西地区〉の上空を飛んでいた。やっぱり〈西地区〉は、とても風が気持ちいい。少し離れたところには、ナギサちゃんとフィニーちゃんも、速度を合わせて飛んでいる。今日は、三人で一緒に、練習飛行をしていた。
一応、二人にも、リリーシャさんから出された条件は、話してあった。なので、割とゆっくり目に飛んで、機体間距離も、多目にとってくれていた。
本気で飛ぶと、ナギサちゃんは、かなり速い。フィニーちゃんは、上昇・下降・急旋回なんかが、物凄く速かった。私も本気を出せば、それなりに出来るんだけど。『安全飛行講習』以降は、超安全運転を心がけている。
飛ぶ前も、必ず『マナチェッカー』のアプリを起動して、自分の魔力状態を計測するのを、忘れずに行っていた。ここ最近は、マナの状態も、かなり安定している。
私たちは〈西地区〉に入ると〈ウインド・ストリート〉に向かった。よく行く、定番の飛行コースだ。人が多いので、マン・ウオッチングには、いい場所だった。
私は、地上を歩いている人たちを、じっくり観察していると、ふと声を掛けられた気がした。耳を澄ましつつ、視線を動かしていくと、少し離れた場所で、手を振っている人物を発見する。
「おーい、風歌っちー!」
あの派手な格好は、以前、河原で出合った、カレンティアちゃんだ。声もよく響くけど、何と言っても、格好が物凄く目立つ。
一般人ならまだしも、シルフィードであの格好の人は、他に見たことないからね。制服は着崩してるし、化粧も派手だった。
「ねぇ、二人とも。知り合いに呼ばれたから、ちょっと、カフェに寄って行ってもいい?」
私は、少し前を飛んでいた、ナギサちゃんたちに、大きな声で呼びかける。すると、二人ともスピードを落として、スーッと私の横に並んできた。
「まぁ、少しなら構わないけれど」
「おぉ、カフェ! 何かたべる」
とりあえず、二人とも納得してくれたようだ。特に、フィニーちゃんは、ノリノリである。
私たちは、空きスペースを見つけて、ゆっくり着陸すると、目的のカフェに向かう。テラス席では、カレンちゃんがスピを見ながら、のんびりとティータイム中だった。
「やっほー、風歌っち。おひさー」
「カレンちゃん、久しぶり。よく分かったね」
「んー、三人固まって、飛んでたしさ。あたし、割と目がいいんだよねー」
シルフィードは、目のいい人が多い。毎日、空を飛んで、遠くを見たり、細かい物を見てるから、自然によくなるんだと思う。まぁ、ちゃんと練習をしていれば、の話だけど。
「同席しても、大丈夫?」
「もち、超暇してたしー」
彼女は、笑顔で答える。そんな訳で、私たちは、彼女と同じテーブルに着くことになった。
「そちらは、同僚ちゃんたち?」
「いや、私たち全員、別の会社だよ。でも、同じ新人同士なんだ」
「あぁー、そういえば、制服のデザイン違うじゃん。アハハッ、受けるー」
カレンちゃんは、相変わらず、妙にテンションが高いし、ノリが軽い。
でも、その様子を見たナギサちゃんが、少し不快な表情をしていた。初対面の人には、厳しい態度をするのも有るけど。間違いなく、ナギサちゃんが、苦手なタイプな気がする……。
「あたしは、カレンティア・アルファーノ。〈ベル・フィオーレ〉所属の、新米シルフィードやってまーす。みんな、よろー!」
カレンちゃんは、二本指で敬礼しながら、元気に挨拶した。
「――私は〈ファースト・クラス〉所属の、ナギサ・ムーンライト。よろしく」
ナギサちゃんは、険しい表情で挨拶する。明らかに不機嫌そうだ。
「フィニーツァ・カリバーン。〈ウィンドミル〉所属」
フィニーちゃんは、メニューを見ながら、小さな声で挨拶する。すでに、何を食べるかに、夢中なようだ。興味のないことには、全く反応しないのは、いつも通りだ。
「へぇー、二人とも、一流企業じゃん。超テンアゲだわー」
カレンちゃんは、嬉しそうに語る。
「てんぷら?!」
フィニーちゃんが、激しく反応した。
「アハハッ、何それ受けるー。天ぷらじゃなくて、テンアゲ。てか、何このちっちゃな子。超きゃわたんじゃん」
カレンちゃんは、ジーッと見つめる。でも、フィニーちゃんは、気にした様子もなく、店員さんを呼んで、さっさと注文を始めた。隣のナギサちゃんを見ると、眉がぴくぴく動いている。コレ、たぶん、怒ってるよね……?
私は、今になって、ようやく気が付いた。このメンバーは、まったく歯車がかみ合っていないことに。かなりタイプは違うけど、フィニーちゃんも、カレンちゃんも、物凄く自由な性格だ。
しかも、カレンちゃんは、性格だけでなく、見た目もフリーダムだ。真面目の塊のような、ナギサちゃんが、素直に認めるはずがない。
「確か〈ベル・フィオーレ〉は、業界、第四位の会社よね――?」
ナギサちゃんが、静かに口を開く。相変わらず、凄く不機嫌そうだ。
「へぇー、カレンちゃんの会社って、そんなに有名だったんだ?」
全然、聞いたことのない社名だったので、うちと同じような、中小企業だと思ってた。でも、業界で第四位と言ったら、かなり大きな会社だよね?
「うちの会社、業界四位とか、そマ? 有名なのは、親会社の〈ベル・ステラ〉のほうじゃん?」
「その、ベル何とかって……なに?」
どっちも、私の全く知らない社名だった。
「相変わらず、風歌は物を知らないわね。〈ベル・ステラ〉は、有名な大手化粧品メーカー。そこが経営している、シルフィード会社が〈ベル・フィオーレ〉よ」
「へぇー、そうなんだ――。ナギサちゃん、化粧とかしないのに、詳しいね」
私は、こちらに来てからはもちろん、向こうにいた時だって、化粧品なんて、一度も買ったことがない。なので、化粧品知識については、全くのゼロだ。
「化粧をしなくても、普通は、常識として知ってるわよ」
「って、ナギサっち、スッピンなの? 素材いいのに、もったいねぇー。化粧すれば、超綺麗になるじゃん」
カレンちゃんは、会社のことなんかは、全く興味がないらしい。以前、会った時もそうだけど、遊びやオシャレにしか、感心がないようだ。
「うちの会社は、見習い期間中は、化粧が禁止なのよ。新人は、勉強が仕事なのだから。そもそも、必要ないでしょ?」
「うわっ〈ファースト・クラス〉マジ無いわー。化粧ダメとか、あたしだったら、即死案件。いくらなんでも、考え古すぎっしょ」
二人の意見は、完全に対極的だ。まぁ、性格も考え方も正反対だから、無理もない。それに、真面目で古風なナギサちゃんと、いかにも、今時の若者のカレンちゃんとでは、全てが違いすぎる。
「はぁ? シルフィードの見た目は、内面がにじみ出るもの。派手に化粧したところで、中身がダメなら意味ないわ。それは、今も昔も変わらないのよ」
「いやいや、見た目は、外見が全てっしょ? いくら中身があろうとも、外見ダサダサじゃ、意味なくない?」
カレンちゃんは、気楽に話してるけど、ナギサちゃんは、かなり感情的になって来ている。
うーむ……マズイ、これは非常にマズイよ――。フィニーちゃんの時よりも、かなりマズイ状況な気がする……。
「まぁまぁ、会社によって、色々社風があるからね。カレンちゃんの会社は、化粧とかしてても、何も言われたりしないの?」
私は慌てて、間に割って入った。
「うちは、全社員、普通に化粧してるし。むしろ、化粧したり、着飾ったりは、会社で推奨してるんだ。会社のモットーは『美と個性の追求』だし」
「へぇー、そうなんだ。さすが、化粧品メーカーが、親会社なだけあるね」
「それに惹かれて、この会社に入ったかんね。新作の試供品、タダでもらえるし。社割で、化粧品が買えるし。化粧するのも、お金かかるからさー」
「なるほど、そういう目的で、入る人もいるんだねぇ」
なんかもう、シルフィード云々とは、全く関係のない動機だ。
「だったら、シルフィード会社じゃなくて、化粧品メーカーに、入ればよかったんじゃないの? そんな甘い考えで、やって行ける業界じゃないわよ」
案の定、ナギサちゃんは、大変ご立腹である。
「それなー。でも、化粧品を作るより、使って着飾るほうがいいなぁーって。オシャレして空飛ぶの、超気持ちいいじゃん?」
「私たちシルフィードは、着飾るのではなく、お客様をご案内するのが仕事でしょ? 自分が楽しんでどうするのよ? ふざけてるの?」
うん、それは私も同感。でも、ナギサちゃん、言い方――。
「いや、あたし、超マジなんですけど。お客だって、だっさい格好で接客されるより、綺麗なシルフィードに、案内されたいじゃん?」
「綺麗とは、化粧で決まるものじゃないわよ。姿勢・雰囲気・話し方・気品・教養。あらゆる内面が、磨き上げられてこそでしょ?」
「いや、内面なんて、所詮は自己満じゃん? 目に見えるのは、外見だけだし」
「いいえ、内面は、ちゃんと目に見えるわよ。内面が空っぽの人間には、見えないだけでしょ」
二人とも、段々ヒートアップしてきた。今まで、ニコニコしてたカレンちゃんも、険しい表情になって来た。何となく、合わなそうとは思ってたけど、恐ろしく正反対すぎる。
ど、どうしよー……。誰か、助けてぇぇー!
私は、チラッと、フィニーちゃんに視線を向ける。すると、美味しそうに、チョコレートパフェを食べていた。私は必死に、目でサインを送る。その時、私とフィニーちゃんの目が合った。
「どっちも、大事」
フィニーちゃんが、ボソッとつぶやく。すると、睨み合っていた二人の視線が、フィニーちゃんに向いた。
「このパフェと、おなじ」
フィニーちゃんは、パフェのグラスを前に押して、二人に見せる。
「どゆこと、フィニーっち?」
カレンちゃんは、首をかしげた。
「パフェ、見た目、超だいじ。見た目よくないと、おいしそうに見えない」
「確かに。パフェって、見た目が綺麗だと、それだけで美味しそうだよね」
私もその意見に同意する。
店によって、盛り付けは違うけど、どこのパフェも、凄く見た目が美しい。見ているだけで、幸せな気分になってくるよね。
「でも、味も超大事。見た目だけよくても、おいしくないと、ガッカリする」
フィニーちゃんは、再び手元に引き戻すと、パフェを食べ始めた。
一見、関係なさそうな話だけど、しっかり的を得ていると思う。しかも、何気に話が分かりやすい。二人は、フィニーちゃんの話を聴いて、ポカーンとしていた。
「私も、フィニーちゃんの意見に、賛成かな。今は、内面を鍛えるだけで、一杯一杯だけど。将来的には、オシャレにも、力入れたいかなぁー、って思うよ。両方よければ、お客様も、喜んでくれるんじゃないかな?」
リリーシャさんや、他の上位階級のシルフィードたちも、化粧は普通にしている。といっても、カレンちゃんほど、濃くはないけど。でも、化粧だけで、キレイな訳じゃないのは事実だ。
やはり、内面から出て来る、気品のようなものは、みんな持ってるんだよね。それに加えて、自分に合った、化粧の仕方を知っているんだと思う。
私は、オシャレ系は、全くノータッチだけど、必要性は感じている。今はただ、金銭的にも精神的にも、余裕がないだけで。いずれ、勉強しなきゃとは、思っている。
「まぁ、両方できれば、無敵だよね。気品とかも、大事だと思うし――」
「お姉さま方も、化粧はしているし。美しく見せることも、必要よね……」
「ナギサっち、ゴメン。古いとか自己満は、言いすぎたわ」
「私も、少し言い過ぎたわ」
二人とも、お互いにお詫びを言い合う。頑固なナギサちゃんにしては、珍しい。でも、とりあえずは、納得してくれたようだ。
それにしても、フィニーちゃんは、時々凄いことを言う。物事の核心をついたことを、サラッと口にするのだ。
フィニーちゃんに視線を向けると、追加で注文した、フルーツパフェを、食べているところだった。相変わらず、よく食べるよね。
こうして見ると、ちゃんと考えて言ったのかどうか、疑問だけど――。
綺麗さや美しさって、シルフィードにとっては、とても大事なことだ。でも、それは1つの形じゃなくて、人によって色々あるんだよね。みんな、違う美しさだし。真似したから、同じになるわけでもない。
今は、全く想像がつかないけど。私は、どんな美しさのシルフィードに、なるんだろうか……?
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回――
『性格が正反対のほうが人間関係って上手く行くのかもね』
ワイン同様、熟成に時間を要する人間関係もある
一応、二人にも、リリーシャさんから出された条件は、話してあった。なので、割とゆっくり目に飛んで、機体間距離も、多目にとってくれていた。
本気で飛ぶと、ナギサちゃんは、かなり速い。フィニーちゃんは、上昇・下降・急旋回なんかが、物凄く速かった。私も本気を出せば、それなりに出来るんだけど。『安全飛行講習』以降は、超安全運転を心がけている。
飛ぶ前も、必ず『マナチェッカー』のアプリを起動して、自分の魔力状態を計測するのを、忘れずに行っていた。ここ最近は、マナの状態も、かなり安定している。
私たちは〈西地区〉に入ると〈ウインド・ストリート〉に向かった。よく行く、定番の飛行コースだ。人が多いので、マン・ウオッチングには、いい場所だった。
私は、地上を歩いている人たちを、じっくり観察していると、ふと声を掛けられた気がした。耳を澄ましつつ、視線を動かしていくと、少し離れた場所で、手を振っている人物を発見する。
「おーい、風歌っちー!」
あの派手な格好は、以前、河原で出合った、カレンティアちゃんだ。声もよく響くけど、何と言っても、格好が物凄く目立つ。
一般人ならまだしも、シルフィードであの格好の人は、他に見たことないからね。制服は着崩してるし、化粧も派手だった。
「ねぇ、二人とも。知り合いに呼ばれたから、ちょっと、カフェに寄って行ってもいい?」
私は、少し前を飛んでいた、ナギサちゃんたちに、大きな声で呼びかける。すると、二人ともスピードを落として、スーッと私の横に並んできた。
「まぁ、少しなら構わないけれど」
「おぉ、カフェ! 何かたべる」
とりあえず、二人とも納得してくれたようだ。特に、フィニーちゃんは、ノリノリである。
私たちは、空きスペースを見つけて、ゆっくり着陸すると、目的のカフェに向かう。テラス席では、カレンちゃんがスピを見ながら、のんびりとティータイム中だった。
「やっほー、風歌っち。おひさー」
「カレンちゃん、久しぶり。よく分かったね」
「んー、三人固まって、飛んでたしさ。あたし、割と目がいいんだよねー」
シルフィードは、目のいい人が多い。毎日、空を飛んで、遠くを見たり、細かい物を見てるから、自然によくなるんだと思う。まぁ、ちゃんと練習をしていれば、の話だけど。
「同席しても、大丈夫?」
「もち、超暇してたしー」
彼女は、笑顔で答える。そんな訳で、私たちは、彼女と同じテーブルに着くことになった。
「そちらは、同僚ちゃんたち?」
「いや、私たち全員、別の会社だよ。でも、同じ新人同士なんだ」
「あぁー、そういえば、制服のデザイン違うじゃん。アハハッ、受けるー」
カレンちゃんは、相変わらず、妙にテンションが高いし、ノリが軽い。
でも、その様子を見たナギサちゃんが、少し不快な表情をしていた。初対面の人には、厳しい態度をするのも有るけど。間違いなく、ナギサちゃんが、苦手なタイプな気がする……。
「あたしは、カレンティア・アルファーノ。〈ベル・フィオーレ〉所属の、新米シルフィードやってまーす。みんな、よろー!」
カレンちゃんは、二本指で敬礼しながら、元気に挨拶した。
「――私は〈ファースト・クラス〉所属の、ナギサ・ムーンライト。よろしく」
ナギサちゃんは、険しい表情で挨拶する。明らかに不機嫌そうだ。
「フィニーツァ・カリバーン。〈ウィンドミル〉所属」
フィニーちゃんは、メニューを見ながら、小さな声で挨拶する。すでに、何を食べるかに、夢中なようだ。興味のないことには、全く反応しないのは、いつも通りだ。
「へぇー、二人とも、一流企業じゃん。超テンアゲだわー」
カレンちゃんは、嬉しそうに語る。
「てんぷら?!」
フィニーちゃんが、激しく反応した。
「アハハッ、何それ受けるー。天ぷらじゃなくて、テンアゲ。てか、何このちっちゃな子。超きゃわたんじゃん」
カレンちゃんは、ジーッと見つめる。でも、フィニーちゃんは、気にした様子もなく、店員さんを呼んで、さっさと注文を始めた。隣のナギサちゃんを見ると、眉がぴくぴく動いている。コレ、たぶん、怒ってるよね……?
私は、今になって、ようやく気が付いた。このメンバーは、まったく歯車がかみ合っていないことに。かなりタイプは違うけど、フィニーちゃんも、カレンちゃんも、物凄く自由な性格だ。
しかも、カレンちゃんは、性格だけでなく、見た目もフリーダムだ。真面目の塊のような、ナギサちゃんが、素直に認めるはずがない。
「確か〈ベル・フィオーレ〉は、業界、第四位の会社よね――?」
ナギサちゃんが、静かに口を開く。相変わらず、凄く不機嫌そうだ。
「へぇー、カレンちゃんの会社って、そんなに有名だったんだ?」
全然、聞いたことのない社名だったので、うちと同じような、中小企業だと思ってた。でも、業界で第四位と言ったら、かなり大きな会社だよね?
「うちの会社、業界四位とか、そマ? 有名なのは、親会社の〈ベル・ステラ〉のほうじゃん?」
「その、ベル何とかって……なに?」
どっちも、私の全く知らない社名だった。
「相変わらず、風歌は物を知らないわね。〈ベル・ステラ〉は、有名な大手化粧品メーカー。そこが経営している、シルフィード会社が〈ベル・フィオーレ〉よ」
「へぇー、そうなんだ――。ナギサちゃん、化粧とかしないのに、詳しいね」
私は、こちらに来てからはもちろん、向こうにいた時だって、化粧品なんて、一度も買ったことがない。なので、化粧品知識については、全くのゼロだ。
「化粧をしなくても、普通は、常識として知ってるわよ」
「って、ナギサっち、スッピンなの? 素材いいのに、もったいねぇー。化粧すれば、超綺麗になるじゃん」
カレンちゃんは、会社のことなんかは、全く興味がないらしい。以前、会った時もそうだけど、遊びやオシャレにしか、感心がないようだ。
「うちの会社は、見習い期間中は、化粧が禁止なのよ。新人は、勉強が仕事なのだから。そもそも、必要ないでしょ?」
「うわっ〈ファースト・クラス〉マジ無いわー。化粧ダメとか、あたしだったら、即死案件。いくらなんでも、考え古すぎっしょ」
二人の意見は、完全に対極的だ。まぁ、性格も考え方も正反対だから、無理もない。それに、真面目で古風なナギサちゃんと、いかにも、今時の若者のカレンちゃんとでは、全てが違いすぎる。
「はぁ? シルフィードの見た目は、内面がにじみ出るもの。派手に化粧したところで、中身がダメなら意味ないわ。それは、今も昔も変わらないのよ」
「いやいや、見た目は、外見が全てっしょ? いくら中身があろうとも、外見ダサダサじゃ、意味なくない?」
カレンちゃんは、気楽に話してるけど、ナギサちゃんは、かなり感情的になって来ている。
うーむ……マズイ、これは非常にマズイよ――。フィニーちゃんの時よりも、かなりマズイ状況な気がする……。
「まぁまぁ、会社によって、色々社風があるからね。カレンちゃんの会社は、化粧とかしてても、何も言われたりしないの?」
私は慌てて、間に割って入った。
「うちは、全社員、普通に化粧してるし。むしろ、化粧したり、着飾ったりは、会社で推奨してるんだ。会社のモットーは『美と個性の追求』だし」
「へぇー、そうなんだ。さすが、化粧品メーカーが、親会社なだけあるね」
「それに惹かれて、この会社に入ったかんね。新作の試供品、タダでもらえるし。社割で、化粧品が買えるし。化粧するのも、お金かかるからさー」
「なるほど、そういう目的で、入る人もいるんだねぇ」
なんかもう、シルフィード云々とは、全く関係のない動機だ。
「だったら、シルフィード会社じゃなくて、化粧品メーカーに、入ればよかったんじゃないの? そんな甘い考えで、やって行ける業界じゃないわよ」
案の定、ナギサちゃんは、大変ご立腹である。
「それなー。でも、化粧品を作るより、使って着飾るほうがいいなぁーって。オシャレして空飛ぶの、超気持ちいいじゃん?」
「私たちシルフィードは、着飾るのではなく、お客様をご案内するのが仕事でしょ? 自分が楽しんでどうするのよ? ふざけてるの?」
うん、それは私も同感。でも、ナギサちゃん、言い方――。
「いや、あたし、超マジなんですけど。お客だって、だっさい格好で接客されるより、綺麗なシルフィードに、案内されたいじゃん?」
「綺麗とは、化粧で決まるものじゃないわよ。姿勢・雰囲気・話し方・気品・教養。あらゆる内面が、磨き上げられてこそでしょ?」
「いや、内面なんて、所詮は自己満じゃん? 目に見えるのは、外見だけだし」
「いいえ、内面は、ちゃんと目に見えるわよ。内面が空っぽの人間には、見えないだけでしょ」
二人とも、段々ヒートアップしてきた。今まで、ニコニコしてたカレンちゃんも、険しい表情になって来た。何となく、合わなそうとは思ってたけど、恐ろしく正反対すぎる。
ど、どうしよー……。誰か、助けてぇぇー!
私は、チラッと、フィニーちゃんに視線を向ける。すると、美味しそうに、チョコレートパフェを食べていた。私は必死に、目でサインを送る。その時、私とフィニーちゃんの目が合った。
「どっちも、大事」
フィニーちゃんが、ボソッとつぶやく。すると、睨み合っていた二人の視線が、フィニーちゃんに向いた。
「このパフェと、おなじ」
フィニーちゃんは、パフェのグラスを前に押して、二人に見せる。
「どゆこと、フィニーっち?」
カレンちゃんは、首をかしげた。
「パフェ、見た目、超だいじ。見た目よくないと、おいしそうに見えない」
「確かに。パフェって、見た目が綺麗だと、それだけで美味しそうだよね」
私もその意見に同意する。
店によって、盛り付けは違うけど、どこのパフェも、凄く見た目が美しい。見ているだけで、幸せな気分になってくるよね。
「でも、味も超大事。見た目だけよくても、おいしくないと、ガッカリする」
フィニーちゃんは、再び手元に引き戻すと、パフェを食べ始めた。
一見、関係なさそうな話だけど、しっかり的を得ていると思う。しかも、何気に話が分かりやすい。二人は、フィニーちゃんの話を聴いて、ポカーンとしていた。
「私も、フィニーちゃんの意見に、賛成かな。今は、内面を鍛えるだけで、一杯一杯だけど。将来的には、オシャレにも、力入れたいかなぁー、って思うよ。両方よければ、お客様も、喜んでくれるんじゃないかな?」
リリーシャさんや、他の上位階級のシルフィードたちも、化粧は普通にしている。といっても、カレンちゃんほど、濃くはないけど。でも、化粧だけで、キレイな訳じゃないのは事実だ。
やはり、内面から出て来る、気品のようなものは、みんな持ってるんだよね。それに加えて、自分に合った、化粧の仕方を知っているんだと思う。
私は、オシャレ系は、全くノータッチだけど、必要性は感じている。今はただ、金銭的にも精神的にも、余裕がないだけで。いずれ、勉強しなきゃとは、思っている。
「まぁ、両方できれば、無敵だよね。気品とかも、大事だと思うし――」
「お姉さま方も、化粧はしているし。美しく見せることも、必要よね……」
「ナギサっち、ゴメン。古いとか自己満は、言いすぎたわ」
「私も、少し言い過ぎたわ」
二人とも、お互いにお詫びを言い合う。頑固なナギサちゃんにしては、珍しい。でも、とりあえずは、納得してくれたようだ。
それにしても、フィニーちゃんは、時々凄いことを言う。物事の核心をついたことを、サラッと口にするのだ。
フィニーちゃんに視線を向けると、追加で注文した、フルーツパフェを、食べているところだった。相変わらず、よく食べるよね。
こうして見ると、ちゃんと考えて言ったのかどうか、疑問だけど――。
綺麗さや美しさって、シルフィードにとっては、とても大事なことだ。でも、それは1つの形じゃなくて、人によって色々あるんだよね。みんな、違う美しさだし。真似したから、同じになるわけでもない。
今は、全く想像がつかないけど。私は、どんな美しさのシルフィードに、なるんだろうか……?
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次回――
『性格が正反対のほうが人間関係って上手く行くのかもね』
ワイン同様、熟成に時間を要する人間関係もある
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代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
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