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第5部 厳しさにこめられた優しい想い
2-1暇なのでたまには図書館で真面目に勉強してみる
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午後、一時ごろ。私は〈中央区〉にある〈グリュンノア中央図書館〉にやって来た。午前中に『安全飛行講習』を終え、途中の広場で、パンで軽く昼食を済ませたあと、ここまで歩いてきたのだ。
エア・ドルフィンなら、かなり近いけど、徒歩だと、三十分以上かかる。でも、ここのところ座ってばかりなので、ちょうどいい運動になった。
図書館なんて、普段、私には全く縁のない場所だ。でも、時間もたっぷりあるし、狭い屋根裏部屋にこもって勉強していると、息が詰まってしまう。なので、気分転換も兼ねているんだよね。
なお、この町には、いくつかの図書館がある。でも、この〈グリュンノア中央図書館〉が、最も大きい。『映像アーカイブ』や『データファイル』はもちろん、紙の本が、非常に多く揃っていた。
この世界は、ほぼ全てが、データ化されているので、これほど紙の本があるのは、ここぐらいだ。他の図書館も、データがメインだった。データファイルは、とても便利だけど、紙の本があまりないのも、ちょっと寂しいよね。
私は、大きな入口をくぐると、すぐ横にある空中モニターで、館内図を確認した。一階から七階が、紙の本。八階はカフェ。地下一階は、情報スペースになっていた。
うーむ、相変わらず、でっかいなぁ。本好きの人なら、超楽しめそう。ユメちゃんなんか、大喜びしそうだよね。
ちなみに『情報スペース』は、パーテーションで区切られた机に、一台ずつ専用の情報端末が置かれていた。これを使うことで、図書館内のデータファイルを検索し、自由に閲覧することが可能だ。
映像アーカイブを含めると、八千万以上のデータファイルがある。元々『魔法都市』であった〈グリュンノア〉は、昔から、本や情報が、とても多かったためだ。
1つずつ、スペースが区切られ、窓もなく静かなので、試験勉強などで使う学生も多いらしい。以前『ノア・マラソン』について、調べに来た時も、情報スペースで、映像アーカイブを見ていた。
私は、案内を見ながら、少し考えたあと、一階の奥に進んで行った。一階は、新聞・雑誌・新書が置かれているコーナーで、本屋に近い感じだ。上の階とは違い、広々しており、壁面も大きなガラス張りになっている。
観葉植物や椅子が、あちこちに置いてあるので、休憩がてらに、気楽に読んでいる人たちが多い。
パーテーションはないが、情報端末が置かれているテーブルもある。私は、窓際のほうにある、誰もいないテーブルを選んだ。席に着いたあと、一通り館内を見回してみる。平日の昼間のせいもあってか、人は少なかった。
ここなら、外も見えるし、開放的な感じでいいかも。それにしても、広々してていいなぁー。密閉されて、天井の低い屋根裏部屋とは、大違いだよね。あまり、狭いところ、好きじゃないし。
私は、軽く伸びをしたあと、机に置いてあった、情報端末を起動する。コンソールを操作すると、検索窓に『アルティナ祭』と入力してみた。今日は、いつもの昇級試験の勉強ではなく、もうすぐ始まる、イベントについて調べるのが目的だ。
実は、明日から『アルティナ祭』がスタートする。上空から見ていないから、詳しくは分からない。でも、町の中は、あちこちで、お祭りの準備が進んでいた。
買い物に行ったパン屋にも『アルティナ祭』のポスターが貼ってあり、店外と店内には、派手な飾りつけがしてあった。
いつもだったら、お祭り前で、ワクワクしっぱなしなはずだ。でも、今回ばかりは、そうも言っていられない。営業停止処分中なうえに、安全飛行講習を、受けに行っている最中だからだ。
なので、今回のイベントは自重して、私は参加しないことに決めた。このことについては、ナギサちゃんたちにも、ちゃんと連絡済みだ。
おそらく、リリーシャさんは、こんな些細なことで、怒ったりはしないと思う。でも、気持ち的に、ちょっとね……。
ただ、シルフィードとしては、イベントを知っておく必要がある。順調にいけば、来年には、一人前になっているからだ。そうなると、お客様の案内をする時に、細かい説明が必要になる。
検索候補の一覧から、まずは『アルティナ祭の歴史』の、データファイルを開いてみた。最初の章に目を通すと、書かれていたのは『水竜の魔女』アルティナ・ミレニウムの、人物像についてだった。
彼女は、貴族である『ミレニウム家』の次女として、生を受けた。いわゆる、良家のお嬢様である。
ミレニウム家は、学者や官僚をたくさん輩出している、学問に秀でた家系だ。中には『魔導士』になる者もいたが、昔はそんなに有名ではなかった。『魔法御三家』と言われるようになったのは、全て『水竜の魔女』の功績らしい。
彼女は、幼少時代より非常に賢く、あらゆる学問を、物凄いスピードで習得した。そのため『稀代の天才』と、言われていたそうだ。また、水魔法においては、大人の魔法使いも敵わないほどの、物凄い実力だった。
学問も魔法も、飛びぬけた才能を持っており、大人たちは、どの方面に進ませるべきか、かなり悩んだらしい。
そんな天才肌の彼女が、強く興味を持っていたのが、意外にも『農業』だった。暇があれば、家を抜け出し、畑を見に行っていたらしい。自宅の庭にも菜園を作り、作物の研究もしていたそうだ。
彼女は品種改良や、より効率的な育成方法。作物の病気や害虫の対策、新しい肥料の開発など。農家の人たちからも、様々な情報を聴きながら、勉強を進めていた。
また、農家のご婦人たちから、パンの焼き方を教わり、パン作りにハマったそうだ。沢山の使用人がいたにもかかわらず、食卓に並ぶパンは、彼女の作ったものだったらしい。
物凄く勉強熱心で、料理も得意って、なんか、ナギサちゃんに似てるよね。まぁ、ナギサちゃんは、畑仕事なんて、やらないだろうけど……。
彼女は、将来、官僚になって、農地の開墾などの仕事をするか、自分でパン屋を開くつもりだった。しかし、王城から『宮廷魔導士』になるように、召喚状が届いたのだ。
宮廷魔導士は、高官クラスの待遇であり、ミレニウム家始まって以来の快挙だった。これは、大変に名誉なことであり、親族たちは、みな大喜びした。そのため、受けざるを得なかったらしい。
結局、彼女は宮廷魔導士になり、魔法研究の分野でも、多大な功績を立てた。また、戦が激しくなると、戦場にも出て、魔法で多大な戦果をあげる。いつしか、彼女は『水竜の魔女』と呼ばれるようになった。
だが、世界中で激しい戦争が行われた『第四次水晶戦争』のさなか、彼女は『大地の魔女』の誘いを受けた。最初は断ったが、彼女の熱意に負け『グリュンノア計画』に、参加することになった。
彼女は『グリュンノア創成期』において、経済面を、一手に引き受けていた。元々は、大陸の南東にある、何一つない、海に囲まれた無人島だった。その島を、一からインフラの整備を行い、世界的に知られるぐらいの、大都市に育て上げた。
その功績は大きく『彼女がいなければ〈グリュンノア〉は、存在しなかった』と言われるほどだ。今でも、彼女の作った経済システムが、数多く使われいる。また、農業の発展にも、多大な影響を与えていた。
森を切り開いて開墾し、沢山の麦畑を作った。さらに、その麦を使った、パン作りを広めたのも彼女だ。
多芸な人で、何をやっても、器用にこなしていた。だが、中でも、最も力を入れていたのが、農業とパン作りだった。
自ら鍬を持って畑仕事をしたり、自作の石窯でパンを焼いたりと、割と泥臭いことも、やっていたらしい。おそらく、幼少期の夢を、この町で果たしたのだろう。
私的には、彼女の最大の功績は、パン作りを、この町に広めたことだと思う。そのお蔭で、こうして、毎日、美味しいパンが、食べられているんだからね。
安くて、美味しくて、種類もいっぱいあって。パンだけの生活でも、耐えられるのは、全て彼女の努力のお蔭だ。
良家のお嬢様の上に『稀代の天才』と聞いていたので、もっと上品で、クールなイメージだと思っていた。でも、こうして調べてみると、なかなか庶民的で、人間味のある人だよね。
ただ、現在『商売の女神』として信奉されているように、金勘定や数字の得意な、デジタルな一面も持っていた。お金に厳しく、1ベルたりとも妥協せず、商人も舌を巻くほどの、交渉上手だったと記述されている。
それと同時に、食べ物に対しての、感謝の気持ちを、とても大事にする人だったらしい。『蒼海祭』や『収穫祭』を発案したのも、彼女だった。
とても、頭の切れる人だったけど、アナログな部分も持っている。不思議な魅力のある人だよね。
彼女の死後、しばらくして『収穫祭』から『アルティナ祭』に、名称が変更された。彼女の功績を称えることと、食べ物を大切にする気持ちを、引き継ぐためだ。
元々は、その年に収穫した作物を『大地の聖母』メイスノームに奉納し、大地の恵に感謝する、神聖な儀式だった。でも、今は、ノア産の様々な特産品を売る、食の祭典になっている。
どのイベントも、元は神事や特別な意味があったけど、今は完全に、娯楽になっているからね。でも、そのお蔭で、たくさんの観光客が来ているので、結果オーライだと思う。
やはり『アルティナ祭』一番の目玉は、パンの販売やイベントだ。そのため『パンの感謝祭』とも言われていた。
町中のパン屋が、様々なイベント用のパンを作って、腕を競い合う。また、パン好きの人たちが、世界中から集まって来る。パンマニアの間では、パンの聖地で行われる、超有名なお祭りなんだよね。
パン喰い競争・巨大パンの制作・新作パンの発表会・パンの創作コンテストなど。パンのイベントが、目白押しだった。有名な大企業のパンメーカーの人たちも、視察に来るらしい。
アルティナ祭の起源・お祭りの概要・イベントの一覧などを確認したあと。今度は『映像アーカイブ』も見てみる。
まずは『パン喰い競争』の映像から。山積みになったパンを、必死に食べてる人たちが、映っていた。毎年、パンが変わり、昨年は『くるみパン』だった。今年は『揚げパン』になるんだって。
これ、フィニーちゃんが、凄く喜びそう。出たら、優勝するんじゃないかなぁ? フィニーちゃんが、黙々とパンを食べている姿を想像したら、何かほっこりしてきた。
次に見たのが『パンの創作コンテスト』の映像だ。このコンテストでは『飾パン』という、様々なデザインをパンで作り、腕を競い合う。
映像では、大きな塔・お城・家・動物・花飾りなど、様々なパンが出てきた。中には、エア・ドルフィンや、時空航行船まである。どれも、ビックリするぐらい、精巧にできている。
うわー、滅茶苦茶リアル! パンで、何でも作れちゃうんだねぇー。この雪の掛かった家、すっごく美味しそう。レンガ造りの家の、瓦の屋根に、雪を模した砂糖が、たっぷり振りかけてある。
他にも、様々な映像アーカイブがあり、とにかく、パンだらけだった。あと、どの映像にも共通しているのは、みんなが、凄く幸せそうな笑顔を、浮かべていることだ。
やっぱ、楽しそうだなぁー、アルティナ祭。町中が、パンだらけになるなんて、超ハッピーに決まってるもん。
今までの、どのイベントも楽しかったけど。実は、一番、気になっていたのが、このお祭りだ。何せ、毎日、三食パンを食べ続けて、今ではすっかり、パン通だからね。町の隅々のパン屋まで、熟知しているし。
でも、残念ながら、今回は参加できない。『安全飛行講習』が、まだ終わってないし。自分がやってしまったことへの、ケジメだからね。
〈飛行教練センター〉などの、お役所関連は、イベント中でも、普通に営業中だ。『魔法祭』のような、建国記念以外のイベントは、平常運転なんだよね。なので、私は講習を受けたあと、帰ってきたら、部屋で大人しくお勉強だ。
まぁ、講習の帰りに、パン屋にちょっと寄るぐらいなら、いいよね。どうせ、お昼ご飯と夕飯を、買わなきゃだし。せめて、雰囲気ぐらいでは、楽しまないとね。
私は、楽しそうなお祭りの映像を、ジッと見つめながら、自分が参加している姿を、思い浮かべるのだった……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回――
『安全飛行講習の最終日に決意を新たに前に進み始める』
しかし、やり遂げる決意が必要だ
エア・ドルフィンなら、かなり近いけど、徒歩だと、三十分以上かかる。でも、ここのところ座ってばかりなので、ちょうどいい運動になった。
図書館なんて、普段、私には全く縁のない場所だ。でも、時間もたっぷりあるし、狭い屋根裏部屋にこもって勉強していると、息が詰まってしまう。なので、気分転換も兼ねているんだよね。
なお、この町には、いくつかの図書館がある。でも、この〈グリュンノア中央図書館〉が、最も大きい。『映像アーカイブ』や『データファイル』はもちろん、紙の本が、非常に多く揃っていた。
この世界は、ほぼ全てが、データ化されているので、これほど紙の本があるのは、ここぐらいだ。他の図書館も、データがメインだった。データファイルは、とても便利だけど、紙の本があまりないのも、ちょっと寂しいよね。
私は、大きな入口をくぐると、すぐ横にある空中モニターで、館内図を確認した。一階から七階が、紙の本。八階はカフェ。地下一階は、情報スペースになっていた。
うーむ、相変わらず、でっかいなぁ。本好きの人なら、超楽しめそう。ユメちゃんなんか、大喜びしそうだよね。
ちなみに『情報スペース』は、パーテーションで区切られた机に、一台ずつ専用の情報端末が置かれていた。これを使うことで、図書館内のデータファイルを検索し、自由に閲覧することが可能だ。
映像アーカイブを含めると、八千万以上のデータファイルがある。元々『魔法都市』であった〈グリュンノア〉は、昔から、本や情報が、とても多かったためだ。
1つずつ、スペースが区切られ、窓もなく静かなので、試験勉強などで使う学生も多いらしい。以前『ノア・マラソン』について、調べに来た時も、情報スペースで、映像アーカイブを見ていた。
私は、案内を見ながら、少し考えたあと、一階の奥に進んで行った。一階は、新聞・雑誌・新書が置かれているコーナーで、本屋に近い感じだ。上の階とは違い、広々しており、壁面も大きなガラス張りになっている。
観葉植物や椅子が、あちこちに置いてあるので、休憩がてらに、気楽に読んでいる人たちが多い。
パーテーションはないが、情報端末が置かれているテーブルもある。私は、窓際のほうにある、誰もいないテーブルを選んだ。席に着いたあと、一通り館内を見回してみる。平日の昼間のせいもあってか、人は少なかった。
ここなら、外も見えるし、開放的な感じでいいかも。それにしても、広々してていいなぁー。密閉されて、天井の低い屋根裏部屋とは、大違いだよね。あまり、狭いところ、好きじゃないし。
私は、軽く伸びをしたあと、机に置いてあった、情報端末を起動する。コンソールを操作すると、検索窓に『アルティナ祭』と入力してみた。今日は、いつもの昇級試験の勉強ではなく、もうすぐ始まる、イベントについて調べるのが目的だ。
実は、明日から『アルティナ祭』がスタートする。上空から見ていないから、詳しくは分からない。でも、町の中は、あちこちで、お祭りの準備が進んでいた。
買い物に行ったパン屋にも『アルティナ祭』のポスターが貼ってあり、店外と店内には、派手な飾りつけがしてあった。
いつもだったら、お祭り前で、ワクワクしっぱなしなはずだ。でも、今回ばかりは、そうも言っていられない。営業停止処分中なうえに、安全飛行講習を、受けに行っている最中だからだ。
なので、今回のイベントは自重して、私は参加しないことに決めた。このことについては、ナギサちゃんたちにも、ちゃんと連絡済みだ。
おそらく、リリーシャさんは、こんな些細なことで、怒ったりはしないと思う。でも、気持ち的に、ちょっとね……。
ただ、シルフィードとしては、イベントを知っておく必要がある。順調にいけば、来年には、一人前になっているからだ。そうなると、お客様の案内をする時に、細かい説明が必要になる。
検索候補の一覧から、まずは『アルティナ祭の歴史』の、データファイルを開いてみた。最初の章に目を通すと、書かれていたのは『水竜の魔女』アルティナ・ミレニウムの、人物像についてだった。
彼女は、貴族である『ミレニウム家』の次女として、生を受けた。いわゆる、良家のお嬢様である。
ミレニウム家は、学者や官僚をたくさん輩出している、学問に秀でた家系だ。中には『魔導士』になる者もいたが、昔はそんなに有名ではなかった。『魔法御三家』と言われるようになったのは、全て『水竜の魔女』の功績らしい。
彼女は、幼少時代より非常に賢く、あらゆる学問を、物凄いスピードで習得した。そのため『稀代の天才』と、言われていたそうだ。また、水魔法においては、大人の魔法使いも敵わないほどの、物凄い実力だった。
学問も魔法も、飛びぬけた才能を持っており、大人たちは、どの方面に進ませるべきか、かなり悩んだらしい。
そんな天才肌の彼女が、強く興味を持っていたのが、意外にも『農業』だった。暇があれば、家を抜け出し、畑を見に行っていたらしい。自宅の庭にも菜園を作り、作物の研究もしていたそうだ。
彼女は品種改良や、より効率的な育成方法。作物の病気や害虫の対策、新しい肥料の開発など。農家の人たちからも、様々な情報を聴きながら、勉強を進めていた。
また、農家のご婦人たちから、パンの焼き方を教わり、パン作りにハマったそうだ。沢山の使用人がいたにもかかわらず、食卓に並ぶパンは、彼女の作ったものだったらしい。
物凄く勉強熱心で、料理も得意って、なんか、ナギサちゃんに似てるよね。まぁ、ナギサちゃんは、畑仕事なんて、やらないだろうけど……。
彼女は、将来、官僚になって、農地の開墾などの仕事をするか、自分でパン屋を開くつもりだった。しかし、王城から『宮廷魔導士』になるように、召喚状が届いたのだ。
宮廷魔導士は、高官クラスの待遇であり、ミレニウム家始まって以来の快挙だった。これは、大変に名誉なことであり、親族たちは、みな大喜びした。そのため、受けざるを得なかったらしい。
結局、彼女は宮廷魔導士になり、魔法研究の分野でも、多大な功績を立てた。また、戦が激しくなると、戦場にも出て、魔法で多大な戦果をあげる。いつしか、彼女は『水竜の魔女』と呼ばれるようになった。
だが、世界中で激しい戦争が行われた『第四次水晶戦争』のさなか、彼女は『大地の魔女』の誘いを受けた。最初は断ったが、彼女の熱意に負け『グリュンノア計画』に、参加することになった。
彼女は『グリュンノア創成期』において、経済面を、一手に引き受けていた。元々は、大陸の南東にある、何一つない、海に囲まれた無人島だった。その島を、一からインフラの整備を行い、世界的に知られるぐらいの、大都市に育て上げた。
その功績は大きく『彼女がいなければ〈グリュンノア〉は、存在しなかった』と言われるほどだ。今でも、彼女の作った経済システムが、数多く使われいる。また、農業の発展にも、多大な影響を与えていた。
森を切り開いて開墾し、沢山の麦畑を作った。さらに、その麦を使った、パン作りを広めたのも彼女だ。
多芸な人で、何をやっても、器用にこなしていた。だが、中でも、最も力を入れていたのが、農業とパン作りだった。
自ら鍬を持って畑仕事をしたり、自作の石窯でパンを焼いたりと、割と泥臭いことも、やっていたらしい。おそらく、幼少期の夢を、この町で果たしたのだろう。
私的には、彼女の最大の功績は、パン作りを、この町に広めたことだと思う。そのお蔭で、こうして、毎日、美味しいパンが、食べられているんだからね。
安くて、美味しくて、種類もいっぱいあって。パンだけの生活でも、耐えられるのは、全て彼女の努力のお蔭だ。
良家のお嬢様の上に『稀代の天才』と聞いていたので、もっと上品で、クールなイメージだと思っていた。でも、こうして調べてみると、なかなか庶民的で、人間味のある人だよね。
ただ、現在『商売の女神』として信奉されているように、金勘定や数字の得意な、デジタルな一面も持っていた。お金に厳しく、1ベルたりとも妥協せず、商人も舌を巻くほどの、交渉上手だったと記述されている。
それと同時に、食べ物に対しての、感謝の気持ちを、とても大事にする人だったらしい。『蒼海祭』や『収穫祭』を発案したのも、彼女だった。
とても、頭の切れる人だったけど、アナログな部分も持っている。不思議な魅力のある人だよね。
彼女の死後、しばらくして『収穫祭』から『アルティナ祭』に、名称が変更された。彼女の功績を称えることと、食べ物を大切にする気持ちを、引き継ぐためだ。
元々は、その年に収穫した作物を『大地の聖母』メイスノームに奉納し、大地の恵に感謝する、神聖な儀式だった。でも、今は、ノア産の様々な特産品を売る、食の祭典になっている。
どのイベントも、元は神事や特別な意味があったけど、今は完全に、娯楽になっているからね。でも、そのお蔭で、たくさんの観光客が来ているので、結果オーライだと思う。
やはり『アルティナ祭』一番の目玉は、パンの販売やイベントだ。そのため『パンの感謝祭』とも言われていた。
町中のパン屋が、様々なイベント用のパンを作って、腕を競い合う。また、パン好きの人たちが、世界中から集まって来る。パンマニアの間では、パンの聖地で行われる、超有名なお祭りなんだよね。
パン喰い競争・巨大パンの制作・新作パンの発表会・パンの創作コンテストなど。パンのイベントが、目白押しだった。有名な大企業のパンメーカーの人たちも、視察に来るらしい。
アルティナ祭の起源・お祭りの概要・イベントの一覧などを確認したあと。今度は『映像アーカイブ』も見てみる。
まずは『パン喰い競争』の映像から。山積みになったパンを、必死に食べてる人たちが、映っていた。毎年、パンが変わり、昨年は『くるみパン』だった。今年は『揚げパン』になるんだって。
これ、フィニーちゃんが、凄く喜びそう。出たら、優勝するんじゃないかなぁ? フィニーちゃんが、黙々とパンを食べている姿を想像したら、何かほっこりしてきた。
次に見たのが『パンの創作コンテスト』の映像だ。このコンテストでは『飾パン』という、様々なデザインをパンで作り、腕を競い合う。
映像では、大きな塔・お城・家・動物・花飾りなど、様々なパンが出てきた。中には、エア・ドルフィンや、時空航行船まである。どれも、ビックリするぐらい、精巧にできている。
うわー、滅茶苦茶リアル! パンで、何でも作れちゃうんだねぇー。この雪の掛かった家、すっごく美味しそう。レンガ造りの家の、瓦の屋根に、雪を模した砂糖が、たっぷり振りかけてある。
他にも、様々な映像アーカイブがあり、とにかく、パンだらけだった。あと、どの映像にも共通しているのは、みんなが、凄く幸せそうな笑顔を、浮かべていることだ。
やっぱ、楽しそうだなぁー、アルティナ祭。町中が、パンだらけになるなんて、超ハッピーに決まってるもん。
今までの、どのイベントも楽しかったけど。実は、一番、気になっていたのが、このお祭りだ。何せ、毎日、三食パンを食べ続けて、今ではすっかり、パン通だからね。町の隅々のパン屋まで、熟知しているし。
でも、残念ながら、今回は参加できない。『安全飛行講習』が、まだ終わってないし。自分がやってしまったことへの、ケジメだからね。
〈飛行教練センター〉などの、お役所関連は、イベント中でも、普通に営業中だ。『魔法祭』のような、建国記念以外のイベントは、平常運転なんだよね。なので、私は講習を受けたあと、帰ってきたら、部屋で大人しくお勉強だ。
まぁ、講習の帰りに、パン屋にちょっと寄るぐらいなら、いいよね。どうせ、お昼ご飯と夕飯を、買わなきゃだし。せめて、雰囲気ぐらいでは、楽しまないとね。
私は、楽しそうなお祭りの映像を、ジッと見つめながら、自分が参加している姿を、思い浮かべるのだった……。
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『安全飛行講習の最終日に決意を新たに前に進み始める』
しかし、やり遂げる決意が必要だ
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