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第4部 理想と現実
5-3仕事とはいえ犯人を尾行することになるなんて……
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時刻は夜の十八時。本来なら、夕食を早々に終え、自室に戻って、勉強を始めているころだ。だが、私は会社の敷地の北にある〈エミールノルデ館〉の一室にいた。普段は、全く足を運ばない場所だ。
この館は、一階は大きなホールになっており、式典やパーティーなどの、イベント時に使われる。二階はサロンになっていて、お茶会をしたりなど、社員の憩いの場になっていた。ただし、サロンは、一定の階級以上でなければ使えない。
他にも、客室がいくつか用意されており、宿泊することもできる。客室は主に、賓客が来た際に使われる部屋だ。そのため、部屋の中は、高級ホテル並みの、豪華な内装になっている。
つまり、見習い階級の私には、全く縁のない場所だ。それに、私は仕事が終わったら直帰なので、こんな時間に出歩いたりはしない。
建物内は、完全に静寂に包まれていた。何か特別なイベントがない限り、あまり使われないからだ。また、この館のサロンは、予約制のうえに少し距離がある。そのため、大人数で集まらない限りは、本館のほうのサロンを使う人が多い。
今この館にいるのは、私一人だけだ。できれば、こんな遅い時間に、人気のないところに一人でいたくない。だが、ミス・ハーネスから受けた依頼を、無事に遂行するためには、やむを得なかった。
今私がいるのは『管理室』だ。いつもなら制服だが、私服で待機している。もし、犯人を見つけたら、尾行しなければならないので、制服のままではマズイからだ。
おそらく、犯人も、目立つ制服では外出しないだろう。〈ファースト・クラス〉の制服は、この町の人なら、誰が見てもすぐに分かるからだ。
この部屋には、沢山のスイッチがついた機器が置かれている。これは、ホールの照明・映像・音楽などを、操作する装置だ。また、館内と館の外を監視できる、防犯装置も完備してある。賓客が来ることもあるので、防犯体制は万全だった。
私の目の前には、館の外の防犯カメラの映像が見れる、空中モニターが、複数表示されていた。館の周辺はもちろん、裏門付近の様子も映っている。
敷地の内には、南側の正門と、北側の裏門があった。通常は正門を使うが、ごく少数、裏門を使う者もいる。ただし、十七時になると、完全に閉鎖される。鍵がかけられているので、開けることはできない。
となると、おそらくは、周囲に張りめぐらされている柵を乗り越え、夜間外出しているのだと思う。柵をよじ登るなど〈ファースト・クラス〉の社員として、あるまじき行為なので、あまり考えたくはないが……。
先ほどから、チラチラと空中モニターを見ているが、特に変わったことは無かった。そもそも、この時間帯に、こんな人気のない場所に来る人間は、いないはずだ。
私も今まで、敷地の北側に来たことは、全くなかった。ここに来たのは、入社式でこの館を使って以来だ。
正門は、二十四時間体制で、警備員が立っている。なので、そこから無断外出はあり得ない。となると、やはり裏門しかなかった。
しばらくは、モニターをチェックしていたが、特に異常はないようだ。なので、私は学習ファイルを開いて、勉強をすることにした。いついかなる時も、時間を無駄にする訳にはいかないからだ。
万一、裏門付近の監視カメラに変化があれば、アラームが鳴るように設定してある。だから、ずっと見続ける必要もないだろう。
自分の部屋とは違うが、とても静かなので、勉強をするのに特に問題はない。私は学習ファイルを開くと、いつも通り勉強を始める。
しばらくして、学習ファイルから視線を外すと、時間は十九時三十分を回っていた。結構、長い時間、集中していたようだ。
一通り、全ての監視カメラの映像を確認するが、今のところ、何も変化はなかった。私はお茶を入れたステンレスボトルを取り出すと、一服することにした。
それにしても、本当に来るのだろうか? 仮に、無断外出をしている者がいたとしても、今日、来るとは限らない。となると、最悪の場合、現れるまで、何日も張り込む必要がある。
まったく、何で私が、こんな探偵みたいなことを――。いくら会社の名前を守るためとはいえ、シルフィードのやる仕事ではないわよね? それこそ、プロの警備員に、任せればいいのに。
不謹慎かもしれないけど、現れるなら、さっさと現れて欲しい。そして、一刻も早く、こんな無駄な時間からは、解放されたい気持ちで一杯だった。
私がお茶を飲みながら、悶々と考えていると、突然、アラーム音が鳴り出した。モニターの一つが赤く点滅し、そこには、一人の不審人物が映っていた。
「本当に来たの?!」
まさか、こんなに早く来るとは、思いもしなかった。
私はカップを置き、モニターを『トレースモード』にすると、急いで部屋を出て、館の外に向かう。移動しながら、表示されているモニターを確認すると、不審人物は柵をよじ登って、難なく飛び越えて行った……。
******
私は外に出ると、停めてあったエア・ドルフィンに乗り、すぐに空中に舞い上がった。空中モニターには、小走りで進んで行く人物が、しっかり映っていた。
『トレースモード』は、特定の人物を、カメラで追い続けることができる。ただし、一定の範囲しかトレースできないので、後は自分で追い掛けなければならない。
私はモニターを頼りに、目視で目的の人物を発見した。暗くてよく見えないので、顔まではよく分からない。カメラに映っていたのも、後ろ姿だけだ。こうなったら尾行して、目的地に着いたら、直接、問いただすしかないだろう。
少し距離を置きながら追跡すると、その人物は、途中の小さな駐車場に入る。停めてあったエア・ドルフィンに乗ると、すぐに飛び上り、南のほうに向かって行った。今のところ、こちらには気付いていないようだ。
かなりスピードを出しているので、何やら急いでいる様子だ。私も速度を上げて、振り切られないよう尾行を続ける。
「この方向は……まさか〈新南区〉に行くつもり?」
〈新南区〉は、二十四時間営業の店が立ち並ぶ区画で、大きな繁華街だ。ただ『カジノ』や『飲み屋街』などもあるため、あまり風紀のいい場所ではない。
つまり、ここへ向かうということは、夜遊びしている可能性が非常に高かった。こんな時間に、繁華街に向かう理由など、遊び以外に考えられない。
しかし、我々は、伝統と格式ある〈ファースト・クラス〉のシルフィード。しかも、見習いが、こんな所で遊び歩いているなど、言語道断だ。個人の問題だけならまだしも、最悪、会社全体に迷惑をかけることになる。
まったく、何を考えているの? ルール違反以前に、モラルや常識を疑うわ。そんなに遊びたいなら、もっとゆるい会社に入ればいいじゃないの。それ以前に、シルフィードに、ならなければよかったのでは?
いい加減な気持ちでやっている人間を見ると、物凄くイライラする。こちらは、人世を懸けて、必死にやっているのだから。
しばらく進んでいくと〈ドリーム・ブリッジ〉の上空を飛び〈新南区〉に入って行った。夜だというのに、物凄い明るさだ。
〈南地区〉も明るいが、全然、雰囲気が違う。向こうは、落ち着いた明るさだが、ここは、物凄く派手で、目の疲れる明るさだった。
あちこちで、ネオンや電飾が点滅している。特にカジノは、物凄く派手に光っていた。人通りも多く、街全体がざわめいている。
正直、私はこういう雰囲気が嫌いだ。煩いうえに、下品な感じがするからだ。そもそも、私は夜、町に出ることはないし、こんな繁華街に来たこともない。毎晩、こんな所で遊び歩いている人間の、気が知れなかった。
町の上空を少し進んで行ったところで、前の機体が減速し、下降を始めた。私は速度を少し上げ、見失なわないように追いついた。幸い、周囲がうるさいので、近付いても気づかれなさそうだ。
上空から様子を見ていると、ある店の前に着陸する。監視対象は、エア・ドルフィンを降りると、何のためらいもなく、店の中に入って行った。
その店は〈8beat〉という、カラオケ屋だった。看板のネオンが派手に輝いている。私は少し離れた場所に着陸して、様子をうかがった。
さて、どうしたものかしら? 下手に入る訳にも行かないわよね。そもそも、私はカラオケなんて行ったことないから、中がどうなってるかも分からないし――。
でも、朝方に帰って来ていると言っていたから、ずっと出てこない可能性もある。流石に、ここで朝まで張り込むつもりはない。早く帰って勉強したいし、何より、夜更かしは、翌日の体調に大きく影響してしまう。
しばらく、様子を見ながら考え込む。しかし、ジッとしていても何も始まらないので、店に近付いて行った。入り口の自動ドアから中をのぞくと、そこには見覚えのある人物がいた。受付に、店員の格好をして立っていたのだ。
どういうこと……? 遊びに来たのではなく、働いていたの?
夜間の無断外出が、禁止されているのはもちろんのこと、副業も禁止されている。もし、この事実がばれれば、確実に即解雇になるだろう。
だが、規則違反をしたのは、本人の問題なので、私には全く関係のない話だ。ここは、サッサと終わらせてしまおう。
私は意を決すると、店の中に入って行く。
「いらっしゃいませ――」
彼女は声を掛けてくるが、私の顔を見た瞬間、顔面蒼白になった。
私は受付カウンターの前に立つと、
「少し、話を訊いてもいいかしら?」
彼女にそっと声を掛けた。
一瞬、固まったあと、彼女は『少し待ってて』とつぶやくと、奥にいた別の店員に声を掛けに行った。ほどなくして、カウンターから出て来る。
「外で話しましょう」
彼女は小声で言うと、すぐに表に出て行った。私もそのあとに続く。
事情はよく分からないけど、無断外出者は見つけたわ。これで、無事に解決してくれるといいのだけど……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回――
『規則と一人の人生のどちらを取るべきだろうか?』
廊下で転んだら鼻血が出るけど…人生で転んだら…涙が出る
この館は、一階は大きなホールになっており、式典やパーティーなどの、イベント時に使われる。二階はサロンになっていて、お茶会をしたりなど、社員の憩いの場になっていた。ただし、サロンは、一定の階級以上でなければ使えない。
他にも、客室がいくつか用意されており、宿泊することもできる。客室は主に、賓客が来た際に使われる部屋だ。そのため、部屋の中は、高級ホテル並みの、豪華な内装になっている。
つまり、見習い階級の私には、全く縁のない場所だ。それに、私は仕事が終わったら直帰なので、こんな時間に出歩いたりはしない。
建物内は、完全に静寂に包まれていた。何か特別なイベントがない限り、あまり使われないからだ。また、この館のサロンは、予約制のうえに少し距離がある。そのため、大人数で集まらない限りは、本館のほうのサロンを使う人が多い。
今この館にいるのは、私一人だけだ。できれば、こんな遅い時間に、人気のないところに一人でいたくない。だが、ミス・ハーネスから受けた依頼を、無事に遂行するためには、やむを得なかった。
今私がいるのは『管理室』だ。いつもなら制服だが、私服で待機している。もし、犯人を見つけたら、尾行しなければならないので、制服のままではマズイからだ。
おそらく、犯人も、目立つ制服では外出しないだろう。〈ファースト・クラス〉の制服は、この町の人なら、誰が見てもすぐに分かるからだ。
この部屋には、沢山のスイッチがついた機器が置かれている。これは、ホールの照明・映像・音楽などを、操作する装置だ。また、館内と館の外を監視できる、防犯装置も完備してある。賓客が来ることもあるので、防犯体制は万全だった。
私の目の前には、館の外の防犯カメラの映像が見れる、空中モニターが、複数表示されていた。館の周辺はもちろん、裏門付近の様子も映っている。
敷地の内には、南側の正門と、北側の裏門があった。通常は正門を使うが、ごく少数、裏門を使う者もいる。ただし、十七時になると、完全に閉鎖される。鍵がかけられているので、開けることはできない。
となると、おそらくは、周囲に張りめぐらされている柵を乗り越え、夜間外出しているのだと思う。柵をよじ登るなど〈ファースト・クラス〉の社員として、あるまじき行為なので、あまり考えたくはないが……。
先ほどから、チラチラと空中モニターを見ているが、特に変わったことは無かった。そもそも、この時間帯に、こんな人気のない場所に来る人間は、いないはずだ。
私も今まで、敷地の北側に来たことは、全くなかった。ここに来たのは、入社式でこの館を使って以来だ。
正門は、二十四時間体制で、警備員が立っている。なので、そこから無断外出はあり得ない。となると、やはり裏門しかなかった。
しばらくは、モニターをチェックしていたが、特に異常はないようだ。なので、私は学習ファイルを開いて、勉強をすることにした。いついかなる時も、時間を無駄にする訳にはいかないからだ。
万一、裏門付近の監視カメラに変化があれば、アラームが鳴るように設定してある。だから、ずっと見続ける必要もないだろう。
自分の部屋とは違うが、とても静かなので、勉強をするのに特に問題はない。私は学習ファイルを開くと、いつも通り勉強を始める。
しばらくして、学習ファイルから視線を外すと、時間は十九時三十分を回っていた。結構、長い時間、集中していたようだ。
一通り、全ての監視カメラの映像を確認するが、今のところ、何も変化はなかった。私はお茶を入れたステンレスボトルを取り出すと、一服することにした。
それにしても、本当に来るのだろうか? 仮に、無断外出をしている者がいたとしても、今日、来るとは限らない。となると、最悪の場合、現れるまで、何日も張り込む必要がある。
まったく、何で私が、こんな探偵みたいなことを――。いくら会社の名前を守るためとはいえ、シルフィードのやる仕事ではないわよね? それこそ、プロの警備員に、任せればいいのに。
不謹慎かもしれないけど、現れるなら、さっさと現れて欲しい。そして、一刻も早く、こんな無駄な時間からは、解放されたい気持ちで一杯だった。
私がお茶を飲みながら、悶々と考えていると、突然、アラーム音が鳴り出した。モニターの一つが赤く点滅し、そこには、一人の不審人物が映っていた。
「本当に来たの?!」
まさか、こんなに早く来るとは、思いもしなかった。
私はカップを置き、モニターを『トレースモード』にすると、急いで部屋を出て、館の外に向かう。移動しながら、表示されているモニターを確認すると、不審人物は柵をよじ登って、難なく飛び越えて行った……。
******
私は外に出ると、停めてあったエア・ドルフィンに乗り、すぐに空中に舞い上がった。空中モニターには、小走りで進んで行く人物が、しっかり映っていた。
『トレースモード』は、特定の人物を、カメラで追い続けることができる。ただし、一定の範囲しかトレースできないので、後は自分で追い掛けなければならない。
私はモニターを頼りに、目視で目的の人物を発見した。暗くてよく見えないので、顔まではよく分からない。カメラに映っていたのも、後ろ姿だけだ。こうなったら尾行して、目的地に着いたら、直接、問いただすしかないだろう。
少し距離を置きながら追跡すると、その人物は、途中の小さな駐車場に入る。停めてあったエア・ドルフィンに乗ると、すぐに飛び上り、南のほうに向かって行った。今のところ、こちらには気付いていないようだ。
かなりスピードを出しているので、何やら急いでいる様子だ。私も速度を上げて、振り切られないよう尾行を続ける。
「この方向は……まさか〈新南区〉に行くつもり?」
〈新南区〉は、二十四時間営業の店が立ち並ぶ区画で、大きな繁華街だ。ただ『カジノ』や『飲み屋街』などもあるため、あまり風紀のいい場所ではない。
つまり、ここへ向かうということは、夜遊びしている可能性が非常に高かった。こんな時間に、繁華街に向かう理由など、遊び以外に考えられない。
しかし、我々は、伝統と格式ある〈ファースト・クラス〉のシルフィード。しかも、見習いが、こんな所で遊び歩いているなど、言語道断だ。個人の問題だけならまだしも、最悪、会社全体に迷惑をかけることになる。
まったく、何を考えているの? ルール違反以前に、モラルや常識を疑うわ。そんなに遊びたいなら、もっとゆるい会社に入ればいいじゃないの。それ以前に、シルフィードに、ならなければよかったのでは?
いい加減な気持ちでやっている人間を見ると、物凄くイライラする。こちらは、人世を懸けて、必死にやっているのだから。
しばらく進んでいくと〈ドリーム・ブリッジ〉の上空を飛び〈新南区〉に入って行った。夜だというのに、物凄い明るさだ。
〈南地区〉も明るいが、全然、雰囲気が違う。向こうは、落ち着いた明るさだが、ここは、物凄く派手で、目の疲れる明るさだった。
あちこちで、ネオンや電飾が点滅している。特にカジノは、物凄く派手に光っていた。人通りも多く、街全体がざわめいている。
正直、私はこういう雰囲気が嫌いだ。煩いうえに、下品な感じがするからだ。そもそも、私は夜、町に出ることはないし、こんな繁華街に来たこともない。毎晩、こんな所で遊び歩いている人間の、気が知れなかった。
町の上空を少し進んで行ったところで、前の機体が減速し、下降を始めた。私は速度を少し上げ、見失なわないように追いついた。幸い、周囲がうるさいので、近付いても気づかれなさそうだ。
上空から様子を見ていると、ある店の前に着陸する。監視対象は、エア・ドルフィンを降りると、何のためらいもなく、店の中に入って行った。
その店は〈8beat〉という、カラオケ屋だった。看板のネオンが派手に輝いている。私は少し離れた場所に着陸して、様子をうかがった。
さて、どうしたものかしら? 下手に入る訳にも行かないわよね。そもそも、私はカラオケなんて行ったことないから、中がどうなってるかも分からないし――。
でも、朝方に帰って来ていると言っていたから、ずっと出てこない可能性もある。流石に、ここで朝まで張り込むつもりはない。早く帰って勉強したいし、何より、夜更かしは、翌日の体調に大きく影響してしまう。
しばらく、様子を見ながら考え込む。しかし、ジッとしていても何も始まらないので、店に近付いて行った。入り口の自動ドアから中をのぞくと、そこには見覚えのある人物がいた。受付に、店員の格好をして立っていたのだ。
どういうこと……? 遊びに来たのではなく、働いていたの?
夜間の無断外出が、禁止されているのはもちろんのこと、副業も禁止されている。もし、この事実がばれれば、確実に即解雇になるだろう。
だが、規則違反をしたのは、本人の問題なので、私には全く関係のない話だ。ここは、サッサと終わらせてしまおう。
私は意を決すると、店の中に入って行く。
「いらっしゃいませ――」
彼女は声を掛けてくるが、私の顔を見た瞬間、顔面蒼白になった。
私は受付カウンターの前に立つと、
「少し、話を訊いてもいいかしら?」
彼女にそっと声を掛けた。
一瞬、固まったあと、彼女は『少し待ってて』とつぶやくと、奥にいた別の店員に声を掛けに行った。ほどなくして、カウンターから出て来る。
「外で話しましょう」
彼女は小声で言うと、すぐに表に出て行った。私もそのあとに続く。
事情はよく分からないけど、無断外出者は見つけたわ。これで、無事に解決してくれるといいのだけど……。
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『規則と一人の人生のどちらを取るべきだろうか?』
廊下で転んだら鼻血が出るけど…人生で転んだら…涙が出る
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