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第4部 理想と現実
4-5草むらで見つけた子はド派手なシルフィードだった
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午後二時過ぎ。私は〈東地区〉の上空を飛んでいた。例のごとく、日課になっている練習飛行中だ。今日は初心に戻って、ホームエリアを回っている。商店街は全て把握しているので、普段あまり行かない、住宅街を細かくチェックしていた。
住宅街を案内する機会は、まずないと思うので、ほとんど飛ぶ機会がない。どこかの家に行く場合、普通はタクシーを使うからね。
でも、道に迷った人を、案内したりは有るかもしれない。以前も、迷っていた老紳士を、送って行ったことがあったし。
私は地図を見ながら、番地の確認をして行った。〈東地区〉の住宅街は、平屋がとても多く、似たような建物ばかりで、覚えるのが難しい。地上だと違いが分かるんだけど、空から見ると、どれも似たりよったりなんだよね。
それに、この世界には、電柱や鉄塔などが全くなかった。電気がないから電柱はないし、電波も使ってないから電波塔も必要ない。
なので、目印になるものが、非常に少ないのだ。結局、特徴のある屋根や庭の形で、根気よく覚えて行く。
まぁ、ナビを使えば、現在地も住所も、一発で分かるんだけどね。でも、シルフィードは、ナビを見ないのが伝統だ。自分の力だけで、町中を案内できてこそ、一人前なので。
一つずつ建物をチェックしながら、住宅街を飛ぶこと数時間。時計を確認すると、三時をちょっと回っていた。四時までに会社に戻ればいいので、もうちょっとだけ、時間がある。
うーん、どうしようかな……? そうだ、あそこに行ってみよう!
私はふと思いついた目的地に、一目散に飛んでいった。しばらく進んでいくと、川が見えてきた。この川は〈東地区〉と〈南地区〉の境目に流れている。取り立てて、見所がある訳ではないので、普段は全く来ない。
しかし、私にとっては『特別な場所』だった。なぜなら、ここは、初めてリリーシャさんと出会った場所だからだ。
まだ、こちらの世界に来たばかりのころ。面接を受けた会社が全滅した私は、この河原で、ひどく落ち込んでいた。そんな私に、優しく手を差し伸べてくれたのが、リリーシャさんだった。今の生活の全てが、ここから始まった。
大げさな言い方かもしれないけど、私の人生の、そしてシルフィードの、スタート地点だ。だから『聖地』みたいな感じかな。
私は川に沿ってゆっくり飛びながら、全ての始まりの場所を探す。思い出の大事な場所ではあるけど、色々忙しくて、すっかり忘れてた。最初のころなんかは、日々の生活だけで、一杯一杯だったので。
どこら辺だったか、記憶を頼りに探していると、草むらの中で何かが動いた。普通だったら、気付かないかもしれないけど、私の視力は、かなりいい。上空から、歩いている猫を、見つけたりできるからね。
でも、目を凝らしてみると、動物ではなく人のようだった。白い制服を着ているところを見ると、シルフィードだろうか? しかも、草むらの中で、四つん這いになっていた。
こんな何もない所で、いったい何やってるんだろ? 探し物かな――?
私はゆっくり高度を下げると、少し離れた場所に、静かに着地する。相手のほうは気付いた様子もなく、草むらの中を、ガサガサと動き回っていた。
かなり集中しているようなので、よほど大事なものを探しているんだろうか? 私はゆっくり近づくと、そっと声を掛けてみる。
「あのー、何かお探しですか?」
「のわっ……超ビビったー!」
彼女は振り返った瞬間、尻もちをついた。
「ごめんなさい。驚かすつもりは無かったんですけど――」
「おけおけ。あたし、結構ビビリだからさー。いやー、マジ恥ずいとこ見せちったわー」
彼女は笑いながら答える。
私は彼女の顔を見た瞬間、物凄く驚いた。なぜなら、耳にはいくつもピアスがついており、ピンクの口紅に、濃いアイシャドウに、大きな付けまつ毛。
胸元は少し開いて、制服を完全に着崩している。首にはネックレスを下げ、腕輪と指輪もつけていた。
何というか、滅茶苦茶、派手で目立つ格好だ。向こうの世界の『ギャル』みたいな感じ。一般人ならまだしも、シルフィードで、こんな格好の人は初めて見る。
「あたしは、カレンティア・アルファーノ。〈ベル・フィオーレ〉所属の、新米シルフィードやってまーす」
彼女は、左手でピースしながら、笑顔で名乗って来た。
なんだか、突き抜けて明るい子だ。でも、新米ってことは、私と同期なんだね。化粧が濃いから、てっきり、私より先輩かと思った……。
「私は、如月風歌。〈ホワイト・ウイング〉所属で、私も入ったばかりの、見習い中なんだ」
「あー、タメかー。よろー、風歌っち」
彼女は笑顔で手を差し出してきた。私も手を出すと、握った手を上下にブンブン動かしながら握手する。
なんだか、ずいぶん人懐っこい子だなぁー。私も、人見知りはしないタイプだけど、いきなり、ここまでズケズケ行ったりはしない。
「こちらこそ、よろしくね。えーと――カレンちゃん、って呼んでいい?」
「もち。みんなには、そう呼ばれてる」
「ところで、カレンちゃんは、こんな所で何をやっていたの?」
それが最大の謎だった。そもそも、こんな全身にオシャレしている子が、草むらで、四つん這いになっていること自体がおかしい。
「それがさー、マギコン落としちゃったみたいでー。マジうけるよね」
「いやいや、うけるとか言ってる場合じゃないよ。絶対に見つけなきゃ! 凄く大事な物でしょ?」
なんという楽天的な答え。私も深く考えないほうだけど、ここまでじゃないよ。
「あー、友達の連作先、全部入ってるし。見付けないと、ヤベーわ」
「えっ、困るのそこ……? じゃなくて、シルフィードのライセンスとか、色々はいってるでしょ?」
全てがデータ化されているのは便利だけど、マギコンがないと、何もできないのがネックだ。なので、マギコンを紛失すると、非常にマズイ。
「それなー。アレないと、営業NGなんだっけ? もしかして、ピンチっぽ?」
カレンちゃんは、まるで他人事のように、気楽に話している。
「いや、滅茶苦茶ピンチでしょ! 下手したら、会社クビになっちゃうかもよ?」
「うおっ、マジ?」
「私も手伝うから、早く見つけちゃおう」
という訳で、二人で四つん這いになり、草むらの中を探し回った。はたから見たら、物凄く奇妙な光景だと思う。ただ、幸い人が滅多に来ない場所だ。
私は一生懸命に探すが、思いのほか草が生い茂っていて、地面が見えない。なので、ひたすら、手探りするしかなかった。
探すこと、約三十分――。いまだに、マギコンは見つかっていない。
「ねぇ、カレンちゃん。そっちは見つかった?」
「んー、ないわー。風歌っちはどう?」
「こっちも、片っ端から探してるけど、見つからないねぇー」
必死に探しているが、それらしいものは、全く見つからなかった。周り中は草だらけだし、落ちているのは石ころばかりだ。
「ふぅー、ちょい休憩しよ? 超疲れたし、マジおなぺこ」
「でも、急いで見つけないと、暗くなったら大変だよ」
「それなー、超つらみ」
カレンちゃんは、疲れ果てた表情を浮かべながら答える。
私が来る前から探してたんだし、相当、疲れているのかも。でも、もう夕方だから急がないと……。その時、私はふとひらめいた。
「ねぇ、カレンちゃん。マギコンのID教えてくれる?」
「んー、おけ。でも、あたしマギコンないから、出れんよ」
「いや、そうじゃなくて、着信音でわかるんじゃない?」
「あー、それな! 風歌っち、神じゃん」
向こうの世界でも、友達が携帯なくした時、電話をかけて着信音で探した記憶がある。マギコンも、携帯と仕組みは似てるのに、すっかり忘れてた。
私は教わった番号を入力し、コールしてみる。すると、川に近い場所から、じゃかじゃかと、かなり派手な着信音が聞こえてきた。
カレンちゃんは、音の鳴るほうに近付いて行くと、
「ゲッチュー!! こんなとこ有ったんかよー!」
マギコンを上に持ち上げて、嬉しそうにこちらに見せた。
「ふぅー、よかった。大丈夫、壊れてない?」
「へーきへーき。そういや、さっき川の中のぞき込んだ時、落としたんかも。マジ助かったわー。サンキュ、風歌っち」
いやー、本当に良かった。見つかるまで、ずっと付き合うつもりだったから、私もホッとしたよ。
「気にしないで。でも、何でこんな所で、マギコン落としちゃったの?」
「ちょい、時間潰しててさー。そん時、ポケットから落ちたっぽ」
「休憩してたの?」
「いや、普通にサボりー」
彼女は笑みを浮かべながら、正々堂々と答える。
「えぇー?! サボってたの?」
「普通っしょ? 適当にサボって、体力温存みたいな。仕事のあと遊びいくしー」
「いやいや。私、一度もサボったこと無いよ――」
私はいつだって、仕事は真剣に全力でやっている。早く一人前になりたいし、リリーシャさんに恩返ししたいし。それに、お給料をもらってやってるんだから、ちゃんと仕事するのは、当然だよね。
「えっ、マジ?! 風歌っち、ガチな人?」
まるで、私が変なことを言ったかのように、彼女は驚きの表情を浮かべた。
「仕事だし、いつだって、一生懸命にやってるよ。それに、私の場合は、向こうの世界から来たから。色々と、学ぶべきことも多いし」
私は、この町に遊びに来たわけじゃない。それに、こちらの世界の人たちに比べ、色々とハンデがある。だから、普通の人より、数倍の努力が必要だ。
「そマ?! あたし、異世界ピーポーと初めて会ったわー。風歌っち、超クールじゃん!」
「え、いや……別に普通だと思うけど」
こっちの世界に来てから、異世界人で驚かれるのって、滅多にないんだよね。何か普通に馴染んでて、誰も気にしてないからだ。騒いでたの、キラリスちゃんぐらいだよね。
「ねぇ、向こうってどんな感じ? 遊ぶとことか一杯ある?」
「こっちと、そんなに変わらないんじゃないかなぁ。でも、都心に行けば、この町よりも、娯楽施設は一杯あるけど」
「へぇー、マジかー! 超行ってみてー。そだ、風歌っちは、ブヤとかよく行ってたの?」
「ぶ、ぶや――?」
その後もカレンちゃんと、向こうの世界の話で盛り上がった。
彼女は、仕事のことは興味ないみたいだけど、遊びとかお洒落のことなんかは、興味津々だ。あと、流行に関しては、滅茶苦茶、詳しい。
ただ、時々通じない言葉もあったりする。ギャル語ってやつかな? でも、テンション高めだし、凄く楽しそうに話してる。私の周りに、こういうタイプの子はいなかったから、何か新鮮だ。
それに、物凄く明るくて話も面白いし、基本、とてもいい子だと思う。今度、化粧やネイルの仕方を、教えてくれると言われたけど、それは丁重にお断りした。
憧れでシルフィードになる子が多いって聞いたけど、最近は、こんな感じの子が多いのかなぁ? まぁ、全ての人が、上位階級を狙ってる訳じゃないし。これだけ沢山のシルフィードがいれば、当然、個性的な子もいるよね。
何にせよ、また友達が一人増えた。私にとって、この仕事の楽しみは、人との出会いじゃないかなぁーって思う。シルフィードになってから、知り合いが物凄く増えた。あちこち飛び回ってると、人と出会う機会が多いからね。
元々は、誰一人、知り合いがいない、完全な未知の世界だった。だから、知り合いが出来たり、絆が広がっていくのは、物凄く嬉しい。知り合いが増える度に、ここが、私の居場所だと思えるからだ。
できれば、この町の全ての人と、仲良くなりたいなぁ。そして、異世界人じゃなくて、この世界の人間だと認めてもらいたい……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回――
『甘く香る友人宅でのわくわくリンゴパーティー』
もし世界が明日終わるのだとしても、私は今日りんごの木を植える
住宅街を案内する機会は、まずないと思うので、ほとんど飛ぶ機会がない。どこかの家に行く場合、普通はタクシーを使うからね。
でも、道に迷った人を、案内したりは有るかもしれない。以前も、迷っていた老紳士を、送って行ったことがあったし。
私は地図を見ながら、番地の確認をして行った。〈東地区〉の住宅街は、平屋がとても多く、似たような建物ばかりで、覚えるのが難しい。地上だと違いが分かるんだけど、空から見ると、どれも似たりよったりなんだよね。
それに、この世界には、電柱や鉄塔などが全くなかった。電気がないから電柱はないし、電波も使ってないから電波塔も必要ない。
なので、目印になるものが、非常に少ないのだ。結局、特徴のある屋根や庭の形で、根気よく覚えて行く。
まぁ、ナビを使えば、現在地も住所も、一発で分かるんだけどね。でも、シルフィードは、ナビを見ないのが伝統だ。自分の力だけで、町中を案内できてこそ、一人前なので。
一つずつ建物をチェックしながら、住宅街を飛ぶこと数時間。時計を確認すると、三時をちょっと回っていた。四時までに会社に戻ればいいので、もうちょっとだけ、時間がある。
うーん、どうしようかな……? そうだ、あそこに行ってみよう!
私はふと思いついた目的地に、一目散に飛んでいった。しばらく進んでいくと、川が見えてきた。この川は〈東地区〉と〈南地区〉の境目に流れている。取り立てて、見所がある訳ではないので、普段は全く来ない。
しかし、私にとっては『特別な場所』だった。なぜなら、ここは、初めてリリーシャさんと出会った場所だからだ。
まだ、こちらの世界に来たばかりのころ。面接を受けた会社が全滅した私は、この河原で、ひどく落ち込んでいた。そんな私に、優しく手を差し伸べてくれたのが、リリーシャさんだった。今の生活の全てが、ここから始まった。
大げさな言い方かもしれないけど、私の人生の、そしてシルフィードの、スタート地点だ。だから『聖地』みたいな感じかな。
私は川に沿ってゆっくり飛びながら、全ての始まりの場所を探す。思い出の大事な場所ではあるけど、色々忙しくて、すっかり忘れてた。最初のころなんかは、日々の生活だけで、一杯一杯だったので。
どこら辺だったか、記憶を頼りに探していると、草むらの中で何かが動いた。普通だったら、気付かないかもしれないけど、私の視力は、かなりいい。上空から、歩いている猫を、見つけたりできるからね。
でも、目を凝らしてみると、動物ではなく人のようだった。白い制服を着ているところを見ると、シルフィードだろうか? しかも、草むらの中で、四つん這いになっていた。
こんな何もない所で、いったい何やってるんだろ? 探し物かな――?
私はゆっくり高度を下げると、少し離れた場所に、静かに着地する。相手のほうは気付いた様子もなく、草むらの中を、ガサガサと動き回っていた。
かなり集中しているようなので、よほど大事なものを探しているんだろうか? 私はゆっくり近づくと、そっと声を掛けてみる。
「あのー、何かお探しですか?」
「のわっ……超ビビったー!」
彼女は振り返った瞬間、尻もちをついた。
「ごめんなさい。驚かすつもりは無かったんですけど――」
「おけおけ。あたし、結構ビビリだからさー。いやー、マジ恥ずいとこ見せちったわー」
彼女は笑いながら答える。
私は彼女の顔を見た瞬間、物凄く驚いた。なぜなら、耳にはいくつもピアスがついており、ピンクの口紅に、濃いアイシャドウに、大きな付けまつ毛。
胸元は少し開いて、制服を完全に着崩している。首にはネックレスを下げ、腕輪と指輪もつけていた。
何というか、滅茶苦茶、派手で目立つ格好だ。向こうの世界の『ギャル』みたいな感じ。一般人ならまだしも、シルフィードで、こんな格好の人は初めて見る。
「あたしは、カレンティア・アルファーノ。〈ベル・フィオーレ〉所属の、新米シルフィードやってまーす」
彼女は、左手でピースしながら、笑顔で名乗って来た。
なんだか、突き抜けて明るい子だ。でも、新米ってことは、私と同期なんだね。化粧が濃いから、てっきり、私より先輩かと思った……。
「私は、如月風歌。〈ホワイト・ウイング〉所属で、私も入ったばかりの、見習い中なんだ」
「あー、タメかー。よろー、風歌っち」
彼女は笑顔で手を差し出してきた。私も手を出すと、握った手を上下にブンブン動かしながら握手する。
なんだか、ずいぶん人懐っこい子だなぁー。私も、人見知りはしないタイプだけど、いきなり、ここまでズケズケ行ったりはしない。
「こちらこそ、よろしくね。えーと――カレンちゃん、って呼んでいい?」
「もち。みんなには、そう呼ばれてる」
「ところで、カレンちゃんは、こんな所で何をやっていたの?」
それが最大の謎だった。そもそも、こんな全身にオシャレしている子が、草むらで、四つん這いになっていること自体がおかしい。
「それがさー、マギコン落としちゃったみたいでー。マジうけるよね」
「いやいや、うけるとか言ってる場合じゃないよ。絶対に見つけなきゃ! 凄く大事な物でしょ?」
なんという楽天的な答え。私も深く考えないほうだけど、ここまでじゃないよ。
「あー、友達の連作先、全部入ってるし。見付けないと、ヤベーわ」
「えっ、困るのそこ……? じゃなくて、シルフィードのライセンスとか、色々はいってるでしょ?」
全てがデータ化されているのは便利だけど、マギコンがないと、何もできないのがネックだ。なので、マギコンを紛失すると、非常にマズイ。
「それなー。アレないと、営業NGなんだっけ? もしかして、ピンチっぽ?」
カレンちゃんは、まるで他人事のように、気楽に話している。
「いや、滅茶苦茶ピンチでしょ! 下手したら、会社クビになっちゃうかもよ?」
「うおっ、マジ?」
「私も手伝うから、早く見つけちゃおう」
という訳で、二人で四つん這いになり、草むらの中を探し回った。はたから見たら、物凄く奇妙な光景だと思う。ただ、幸い人が滅多に来ない場所だ。
私は一生懸命に探すが、思いのほか草が生い茂っていて、地面が見えない。なので、ひたすら、手探りするしかなかった。
探すこと、約三十分――。いまだに、マギコンは見つかっていない。
「ねぇ、カレンちゃん。そっちは見つかった?」
「んー、ないわー。風歌っちはどう?」
「こっちも、片っ端から探してるけど、見つからないねぇー」
必死に探しているが、それらしいものは、全く見つからなかった。周り中は草だらけだし、落ちているのは石ころばかりだ。
「ふぅー、ちょい休憩しよ? 超疲れたし、マジおなぺこ」
「でも、急いで見つけないと、暗くなったら大変だよ」
「それなー、超つらみ」
カレンちゃんは、疲れ果てた表情を浮かべながら答える。
私が来る前から探してたんだし、相当、疲れているのかも。でも、もう夕方だから急がないと……。その時、私はふとひらめいた。
「ねぇ、カレンちゃん。マギコンのID教えてくれる?」
「んー、おけ。でも、あたしマギコンないから、出れんよ」
「いや、そうじゃなくて、着信音でわかるんじゃない?」
「あー、それな! 風歌っち、神じゃん」
向こうの世界でも、友達が携帯なくした時、電話をかけて着信音で探した記憶がある。マギコンも、携帯と仕組みは似てるのに、すっかり忘れてた。
私は教わった番号を入力し、コールしてみる。すると、川に近い場所から、じゃかじゃかと、かなり派手な着信音が聞こえてきた。
カレンちゃんは、音の鳴るほうに近付いて行くと、
「ゲッチュー!! こんなとこ有ったんかよー!」
マギコンを上に持ち上げて、嬉しそうにこちらに見せた。
「ふぅー、よかった。大丈夫、壊れてない?」
「へーきへーき。そういや、さっき川の中のぞき込んだ時、落としたんかも。マジ助かったわー。サンキュ、風歌っち」
いやー、本当に良かった。見つかるまで、ずっと付き合うつもりだったから、私もホッとしたよ。
「気にしないで。でも、何でこんな所で、マギコン落としちゃったの?」
「ちょい、時間潰しててさー。そん時、ポケットから落ちたっぽ」
「休憩してたの?」
「いや、普通にサボりー」
彼女は笑みを浮かべながら、正々堂々と答える。
「えぇー?! サボってたの?」
「普通っしょ? 適当にサボって、体力温存みたいな。仕事のあと遊びいくしー」
「いやいや。私、一度もサボったこと無いよ――」
私はいつだって、仕事は真剣に全力でやっている。早く一人前になりたいし、リリーシャさんに恩返ししたいし。それに、お給料をもらってやってるんだから、ちゃんと仕事するのは、当然だよね。
「えっ、マジ?! 風歌っち、ガチな人?」
まるで、私が変なことを言ったかのように、彼女は驚きの表情を浮かべた。
「仕事だし、いつだって、一生懸命にやってるよ。それに、私の場合は、向こうの世界から来たから。色々と、学ぶべきことも多いし」
私は、この町に遊びに来たわけじゃない。それに、こちらの世界の人たちに比べ、色々とハンデがある。だから、普通の人より、数倍の努力が必要だ。
「そマ?! あたし、異世界ピーポーと初めて会ったわー。風歌っち、超クールじゃん!」
「え、いや……別に普通だと思うけど」
こっちの世界に来てから、異世界人で驚かれるのって、滅多にないんだよね。何か普通に馴染んでて、誰も気にしてないからだ。騒いでたの、キラリスちゃんぐらいだよね。
「ねぇ、向こうってどんな感じ? 遊ぶとことか一杯ある?」
「こっちと、そんなに変わらないんじゃないかなぁ。でも、都心に行けば、この町よりも、娯楽施設は一杯あるけど」
「へぇー、マジかー! 超行ってみてー。そだ、風歌っちは、ブヤとかよく行ってたの?」
「ぶ、ぶや――?」
その後もカレンちゃんと、向こうの世界の話で盛り上がった。
彼女は、仕事のことは興味ないみたいだけど、遊びとかお洒落のことなんかは、興味津々だ。あと、流行に関しては、滅茶苦茶、詳しい。
ただ、時々通じない言葉もあったりする。ギャル語ってやつかな? でも、テンション高めだし、凄く楽しそうに話してる。私の周りに、こういうタイプの子はいなかったから、何か新鮮だ。
それに、物凄く明るくて話も面白いし、基本、とてもいい子だと思う。今度、化粧やネイルの仕方を、教えてくれると言われたけど、それは丁重にお断りした。
憧れでシルフィードになる子が多いって聞いたけど、最近は、こんな感じの子が多いのかなぁ? まぁ、全ての人が、上位階級を狙ってる訳じゃないし。これだけ沢山のシルフィードがいれば、当然、個性的な子もいるよね。
何にせよ、また友達が一人増えた。私にとって、この仕事の楽しみは、人との出会いじゃないかなぁーって思う。シルフィードになってから、知り合いが物凄く増えた。あちこち飛び回ってると、人と出会う機会が多いからね。
元々は、誰一人、知り合いがいない、完全な未知の世界だった。だから、知り合いが出来たり、絆が広がっていくのは、物凄く嬉しい。知り合いが増える度に、ここが、私の居場所だと思えるからだ。
できれば、この町の全ての人と、仲良くなりたいなぁ。そして、異世界人じゃなくて、この世界の人間だと認めてもらいたい……。
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次回――
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