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第4部 理想と現実

3-2昼ごはんに迷ったら量が多いほうを選ぶのが正解

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 今日は、朝から会社の新人セミナーがあって、すごく疲れた。でも、十二時ちょっとまえ。もうすぐ、昼ごはんの時間だ。

 一日の本番は、昼ごはんから。朝ごはんは、ちょっと少ないから物足りない。いつも、やる気が出てくるのは、昼ごはんを食べてから。

 だから、とても大事で、楽しみな時間。でも、私たちは、ちょっとだけ揉めていた。正確には、私は関係ない。さっきから、目の前の二人が言い争っている。

 今日のスイーツは、何を食べるのか。そのあとは、今日の昼ごはんは何にするか。ずっと、意見がすれ違っている。正直、私は何でもいい。そこそこ、おいしくて、量があれば十分。

 今日もまた、スイーツ仲間の、ミューリアとメイベルが一緒にいる。セミナーで、偶然、席が隣になったからだ。

 その流れで、昼ごはんとスイーツを、三人で食べに行くことになった。でも、この二人は、なかなか意見がまとまらない。いつものことだけど、超面倒。

「社食でいいじゃん、外行くの面倒だし。やっぱり、ガッツリ食べたいよな?」 
「おぉー、ガッツリ!」  

 私はミューの意見に賛成した。食事で大事なのは量だ。せっかく食べても、満足感がないと意味がない。

「昨日も、社食だったじゃない。やっぱり、変わったもの食べたいでしょ?」
「おぉー、変わったもの!」

 でも、メイの意見も一理ある。好き嫌いはないけど、変わったものも食べたい。『色んな物をたべると、世界が広がる』って、おばあちゃんが言ってた。

 結局、話がまとまらず、また二人が口論になった。どっちの意見も、間違ってはない。けど、このままだと、いつまで経っても、昼ごはんに行けそうになかった。長時間のセミナーのせいで、かなり空腹だ。今すぐ、おなか一杯たべたい。 

 私はマギコンを起動すると『ペコナビ』を開いた。ここは『腹ペコナビ・裏路地版』という、地元民向けの、グルメサイトだ。他にも、いろんなサイトがあるけど、私はここが一番すき。

『ペコラー』と言われる、食べ歩きが大好きな有志たちが、日々色んな情報を書き込んでいる。私もペコラーの一人。だから、たまに私も情報を書いていた。おいしいものは、みんなで共有するのが基本だ。

 ここには、裏路地にあるマイナーな個人店や、出店の情報ものっている。あと、食べ応えがある、大盛りの店も多い。今日は、パスタの店の特集をしていた。

 おぉー、パスタ! 今日は、パスタの気分だ。パスタなら、変わったのあるし、おなかも一杯になる。

 私は条件に『デカ盛り』を加え検索してみる。すると、気になる店が出てきた。デカ盛りメニューがあるうえに『パスタの国』という店名も気に入った。

 今までの経験上、デカ盛りの店にハズレはない。ただ量が多いんじゃなくて、ちゃんと味にもこだわっていた。量が多いほうが、味がハッキリわかる。だから、味自慢の店が、デカ盛りをやっている場合が多い。

 私は言いあっている二人の前に、
「今日は、ここに行く」
 空中モニターで、店の情報を表示した。

「へぇー、パスタか。結構ボリュームあるじゃん」
「色んな種類があって、いいかも」

 すぐに口論を止めると、モニターに釘付けになる。二人とも、パスタは大好きだ。知り合いの食べ物の好みは、全て把握している。そのほうが、食事に行くとき楽だから。

「じゃ、先行ってるから」
 付き合ってたら、昼休憩が終わってしまう。それに、もう胃袋は、パスタを食べる準備ができていた。いちど決めたら、もう変えられない。

「って、こらこら、待てって」
「ちょっと、置いてかないでよー」

 私は、エア・ドルフィンを停めてあるガレージに、早足で向かう。すると、二人とも急いで追い掛けてきた。


 ******


〈パスタの国〉は〈西地区〉の海沿いにあった。普段、ここら辺は、めったに来ない場所だ。いつもは、町の中心部しか行かない。

 町の中心からは外れてるけど、店はかなり大きかった。メニューもいっぱいあるし、海が見えるのでいい感じだ。

 量は、ミニ・ハーフ・普通・大盛・特盛・極盛から自由に選べる。ただ、壁に貼ってある『スペシャル・メニュー』に、すぐに目がとまった。

 この店、デカ盛りファンのことを、よく分かってる。絶対に、これを食べるしかない。私は、即決で頼む料理を選んだ。

「コレにする」
 私は、サッと壁のメニューを指さした。

「ちょっと、本気? これは、フィニーでも、厳しいんじゃない?」
「いくらなんでも、無理だよ。午後も仕事あるんだから」
 二人とも反対するが、もう胃袋の準備はできていた。

「大丈夫。問題ない」
 私が選んだのは『神盛ナポリタン』だ。名前からして、凄そうなのが分かる。

「これ社食の『究極盛』より、量が多いんじゃない?」
「それに、失敗したら四千ベルだよ。流石にマズイよ」
 二人は、本気で止めたいようだ。

「お金あるし、食べきるから大丈夫」
 でも、全部たべたら、大盛りと同じ八百ベルだ。どうせ、残さず食べきるし。この値段で、デカ盛りが食べられるのは、とてもお得だ。

 私は気にせず、呼び出しボタンを押した。やってきた店員に、反対する二人を気にせず、さっさと注文する。でも、なぜか店員にも止められた。

 何で? 体が小さいから? 体が小さいのは、別に気にしてない。けど、こういう時は、子ども扱いされるから、超面倒くさかった。社食なら、いつも一発で注文を受けてくれるのに。 
 
「大丈夫。麺一本のこさず、完食するから」 
 私が少しむっとして答えると、

「この子、会社でも超大食いで、有名なんです」
 ミューがフォローしてくれた。

 店員は、腑に落ちない表情でオーダーを受ける。

 結局、私はナポリタンの神盛。ミューはペペロノチーノの大盛。メイはカニのトマトクリームの普通。無事、注文が終わり、あとは到着するのを待つだけだ。

 料理を待つ時間は大好き。早く食べたいけど、待てば待つほど、食べた時おいしくなる。待っている間、どんどん期待がふくらんで行く。

「結局、頼んじゃったなー」
「まぁ、いつも通りだよねぇ」
「完食するから、問題ない」

 私は頼んだ料理は、絶対に残さない。それが、食べ物と、作ってくれた人への礼儀だ。

「いつも思うんだけどさぁ、フィニーって、食べた物どこに入ってるんだろ?」
「私も、それは疑問に思ってた。だって、どう考えても、胃袋の大きさより、食べてる量が多いもん」

 二人は不思議そうな顔をして、私をまじまじと見つめてくる。

「たぶん、すぐに吸収してる」
 食べたあと、おなか一杯になるけど、ちょっと時間が経つと、すぐにおなかが減る。だから、消化が早いのかも。

「いやいや、普通はそれ、二、三時間は掛かるよ」
「それも有るけど、吸収した栄養がどこに行ってるのかが、謎だよねぇ」
 二人とも、また私をジーッと見つめた。

 食べた栄養がどこに行くかは、私も知らない。子供のころから体が小さかったので、おばあちゃんが『一杯たべて大きくなりなさい』って、よく言ってた。それで、一杯たべるようになった気がする。でも、全然、大きくならないけど。

 しばらく世間話をしていると、いい香りを漂よわせながら、店員二人が、注文の料理を持ってくる。

 一人は、ミューとメイの皿。もう一人が、重そうに抱えているのは、私が頼んだ『神盛ナポリタン』だ。見ただけで分かる。あれは、絶対においしい!

 先に二人の皿が置かれ、最後に私の目の前に、神盛の皿が置かれた。山のようにもられた真っ赤なパスタが、熱々と湯気を立て、まるで火山みたいだ。

「って、おいおい。私たちのパスタが、ミニサイズに見えるよ……」
「何か、見てるだけでも、お腹いっぱいになりそう――」
「食べなきゃ、おなか一杯にならない」

 私は置いてあった粉チーズを、上からドバッとかけると、フォークを手にとる。二人が唖然としている前で、さっさと食べ始めた。

 うん、おいしい! 熱々でゆで加減もちょうどいい。甘さと酸味もいい感じ。私この味付け好き。

 最初はゆっくり味わうと、徐々にスピードを速めて行った。おいしいから手が止まらない。大量のパスタが、次々と胃袋に吸い込まれていく。

 夢中になって、黙々と食べ続けていると、 

「何か、普通に食べきれそうな気がしてきた……」
「うん、相変わらず、食欲も凄いけど、ペースも早いよね――」

 二人は手を止め、小さく声を上げる。

 皿の上のパスタが、どんどん減っていった。でも、今日はいつもに比べると、ゆっくりめだ。時間制限がないから、のんびり味わえる。

 ただ、あまり時間を掛けると、冷めてしまう。それに、凄くおいしいから、結局ペースが上がって、いつもとあまり変わらなかった。

 いつの間にか、周囲がざわざわしてきた。店員たちも、何やら、ひそひそ話している。周囲から視線が集まってるみたいだけど、特に気にしない。どうせ、いつものことだから。

 残りが、三分の一ぐらいになったところで、ラストスパートを掛ける。料理は、残りが少なくなったら、一気にかき込むのが好き。凄く『食べたなー』って感じがするから。

 手と口の回転を上げ、いよいよ、残りわずかになったところで、皿を傾けた。残り全ての麺と具を、一気に口に放り込んだ。

 最後の一口を飲み込むと、私はフォークを置いて、紙ナプキンで口を拭いた。そのあと、全身の力を抜いて、椅子にもたれかかった。

「ふぅー、おいしかった」

 凄く大満足だ。盛り加減だけじゃなく、味もよかった。ここのシェフ、いい仕事してる。あとで『ペコナビ』に感想を書いておこう。この店は、デカ盛りファンに、安心しておすすめできる。

 一息ついた瞬間、店中から一斉に拍手が巻き起こった。よく見ると、来ていた他の客や、店員たちも拍手している。

「フィニーは、やっぱ只者じゃないな。何か感動した」
「おめでとう、フィニーちゃん。凄かったよ」
 よく分からないけど、二人が感極まっていた。

 何で? 私は、普通に昼ごはんを食べただけなのに。みんな、大げさ過ぎ。それにしても『神盛ナポリタン』超おいしかった。また、食べに来よう。

「ご飯たべたら、甘いもの欲しくなった。今日はどこいく?」 
 いくらおいしくても、同じものをたくさん食べると、口直しがしたくなる。

「って、まだ食べるの……?」
「流石に、今日はやめといたら――?」
「食後のデザートは大事。食べないと、やる気でない」

 さて、今日のティータイムは、どこのスイーツ食べに行くかな? そういえば、メイリオ先輩の部屋で読んだ雑誌で、プリンの特集してた。確か、巨大プリンの店があったはず。

 私は大満足でお腹をさすりながら、山盛りスイーツを想像するのだった……。


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次回――
『お嬢様が挑む人生初のタイムセール争奪戦』

 私たち一人一人カートを持ってる、そして世界はスーパーなの!
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