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第4部 理想と現実

2-6チームワークならどこにも負けない東地区商店街

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 午前九時過ぎ。私は〈東地区商店街〉に来ている。『今日は商店街の手伝いをして来ていいから』と、リリーシャさんに言われたからだ。敷地と事務所内の掃除をサッと終わらせ、こちらにやって来た。

 まだ、午前中なのに、いつもと違い、人がたくさんいて活気がある。なぜなら、みんな『ホワイト・ウイング・フェア』の準備をしているからだ。商店街の人はもちろん、町内会のメンバーも総出で、準備を行っている。

 ご近所の民家からも、次々と手伝いに人が集まってきていた。人が増えるにつれ活気が増し、みんな元気に動き回っている。

 私も、他の人に負けないぐらい、物凄く気合が入っていた。〈ホワイト・ウイング〉も、東地区町内会の一員だし。何といっても、今回の主役だからね。 

 あと、自分が言い出した企画なので、物凄く思い入れがあった。まさか、本当に実現できるとは思わなかったし。だから、一生懸命、頑張って、何が何でも成功させないとね。

 よし、やるぞー!! うぉぉー、何か燃えてきたー!

 町内会の倉庫からは、各種資材が運ばれてきていた。垂れ幕や装飾品、照明など。すでに、飾を取り付けたり、出店のセッティングも始まっている。また、出店で使う商品や食材が、段ボールに入って続々と運び込まれていた。

 みんな慣れているせいか、物凄く手際がいい。あれよあれよという間に、どんどん組み上がっていく。それに、何といっても、チームワークが素晴らしかった。自分のところが終わると、別の場所に移動して、黙々と手伝っている。

 あと、足りない材料なんかも、それぞれに声を掛け合って、自宅や店から持ち寄って、素早く補充していた。流石は商店街、何でもそろっている。

 うーん、こういうチームプレーを見てると、凄く気分がいいなぁ。みんなで一丸になって、一つに向かっている気がして。周りの人たちが、全員チームメイトのようで、とても頼もしく見えた。

 私は、イベント準備は初めてなので、あまり手際よくはできない。なので、荷物運びなどの、力仕事を手伝っていた。不器用だから、細かい飾りつけとかをするより、持ち前の体力を活かして、荷物を運ぶのが、一番、向いてると思うので。

 私は、町内会の倉庫と商店街を、せっせと何往復もしていた。足りない材料なんかが有れば、時には買い出しに行ったりもする。

 普段、雑用をこなしているので、買い出しなんかは、かなり得意分野だ。手が空くと、屋台の組み立てなども手伝いながら、常時いろんな場所に移動していく。

 みんなが、あまりに手際がいいので、最初は戸惑っていたけど、段々慣れてきた。常に周りの様子を見ながら、先回りして、作業を手伝うようにする。

 会社とは違って、言われて動くんじゃなくて、自分で仕事を見つけることが大切だ。でも、息がぴったり合ってくると、声を掛けずに作業が進むようになり、何だか気持ちがいい。

 ちなみに、リリーシャさんは、手先が器用なので、商品の作成や箱詰めなどを手伝っていた。

 焼き菓子などの日持ちするものは、今から作っておく。お菓子作りが得意なリリーシャさんは、ここでも大活躍。周りの奥様方から、料理の上手さや器用さを、物凄く褒められていた。

 流石はリリーシャさん。そうでしょう、そうでしょう。何をやっても上手いからね。私が褒められてるんじゃないのに、何か誇らしい。

 私は、いても邪魔になるだけなので、ひたすら、力仕事や雑用に専念する。料理は、からっきしだし、元々細かい作業は、性に合わないので。適材適所ってやつだよね。

 そんなこんなで、みんながせわしなく動いている中、一人だけ違う行動をしている人物がいた。

 マギコンを片手に、先ほどから、ひたすら撮影だけをしている女性がいる。少しずつ移動しながら、いろんな角度で、パシャパシャと写真を撮りまくっていた。何をやっているんだろうか?

 私が、その様子を見ていると、彼女のほうから声を掛けてきた。

「こんにちはー。お手伝い、ご苦労様」
「こんにちは。えーと、あなたは……?」
「あぁ、挨拶がまだだったわね。私はPR担当のユキ」

 彼女は、笑顔でハキハキと答える。

 髪を後ろで束ね、Tシャツにショートパンツの、へそ出しルックにサンダル。古風な商店街には似合わない、ずいぶんと、スタイリッシュな格好をしていた。

「――もしかして、町内会長のお孫さんの?」
「そうそう。おじいちゃんと似てなくて、驚いたでしょ?」
「えぇ、まぁ」

 耳に複数のピアスを付け、ビビッドな色の、マニュキュアとペディキュア。地味で真面目な感じの町内会長さんとは、対照的すぎる。あまりにも派手な格好で、似ても似つかなかった。

「あなた、風歌ちゃんでしょ? おじいちゃんから、話は色々聴いてるわ。とても優秀なシルフィードみたいね」

「いえ、とんでもないです。私なんて、まだ見習いですし。優秀なのは、リリーシャさんのほうですから」

 優秀とは、まさにリリーシャさんのために、あるような言葉だ。対して私は、今のところ、シルフィードとしては、取り立てて優秀な部分が何もない。欠点なら、いくらでも有るんだけどね……。  

「あら、謙遜? 今じゃ、この町で、あなたのことを知らない人なんて、ほとんどいないのに」
「は――?」

 何かの聴き間違え? それとも、ただのお世辞?

「だって、ノア・マラソンで奇跡の走りをした、超有名人じゃない」
「いやいや、あれは、かなり酷い走りでしたし。もう、イベントも終わってますから、みんな忘れてますよ」 

 自分の中では、さっさと忘れたい、黒歴史になっている。ケガをして、仕事に支障が出たうえに、査問会にまで呼ばれてしまった。もう、散々だよね……。

「あなた、スピの拡散力を知らないみたいね。いまだに、あっちこっちの掲示板やSNSで、あなたのこと、話題になってるわよ」
「ええっ?! そんなはずは――」

 予想外の言葉に、私は唖然とする。

「歴史初のシルフィードの完走者に加え〈ホワイト・ウイング〉所属だし。あと、あなたの情報が少ないから、むしろ盛り上がってるのよね。『謎の少女』って」

 まぁ、向こうから来たばかりだし、見習いなんだから、情報なんて出てる訳ないよね。普通は、一人前になったって、そうそう名前が知られることはないから。

 シルフィードは、沢山いるうえに、入れ替わりが非常に激しい業界だ。人気職のため、毎年、新人の子たちが、大勢はいって来るので。だから、世間に認知されるのは、ほんの一握りの『上位階級者』だけだった。

「それに、今回、このイベントのPRを引き受けたのだって、あなたが参加するって聴いたからよ」
「えっ、そうなんですか……?」

 別に、私が参加したって、何も変わらないよね? 無名だし、結局、雑用しかできない訳だし。

「ただの、商店街のイベントなら、いくらおじいちゃんの頼みでも、貴重な時間を潰してまで来ないわよ。でも、風歌ちゃんが出るなら、話は別。ちゃんと、SNSとかで拡散させれば、あなたを見るために、大勢の人が押し寄せるから」

「いや、まさか――。みんなのお目当ては、リリーシャさんですよ」

 リリーシャさんは、とにかくファンが多い。一度、接客した人は、ほぼ全員リピーターになっているぐらいだ。接客の素晴らしさはもちろん、何といっても、容姿も仕草も、美し過ぎるからね。老若男女の幅広い層に、沢山のファンがいる。

「もちろん、人気のスカイ・プリンセスを、見に来る人もいるでしょうけど。でも、今皆が見たいのは、あなたのことよ。なんと言っても、時の人なんだから」
「私が……時の人?」

 あははっ、まさかね――。単に、悪い意味で目立っちゃっただけだし。

「一度、話題に上ったら、そう簡単に忘れられたりしないわよ。まぁ、放っておいても、一ヶ月は続くでしょうね。他に、よほど大きな話題でも、出てこない限り」

 うーむ、一ヶ月も、あのヘロヘロの姿の動画が流れるのかぁ。一度あがっちゃったら、消えることはないから、ずっと残っちゃうんだろうけど。いまさらだけど、超ハズカシイ……。

「と言うわけだから、何枚か写真を撮らせてね。あなたが、このフェアの主役なんだから」
 彼女は笑顔で、私の両肩をガシッと掴む。

「いやいや、それはないですよ、本当に。あと、今は、あまり目立つとマズイですので――」

「あー、協会に突っつかれたって、アレでしょ? おじいちゃんから、話は聴いてるわ。大丈夫、大丈夫。目立ち過ぎないように、上手く調整しておくから」
 彼女は、特に気にした様子もなく、笑顔で言い放つ。

 うーん、本当に大丈夫なのかなぁ? これ以上、余計なことすると、完全に目を付けられてしまう。商店街のお手伝いをするのはいいけど、目立つのは……。

「風歌ちゃん、これだけは覚えておいて。ファンは、みんなあなたの味方よ。それに、ファンが圧倒的に多くなれば、お偉いさんだろうが、誰も文句を言えなくなるんだから。この機に、しっかり、ファンにアピールしておきなさい」

 彼女は自信ありげな表情で語る。

「はぁ――」
「じゃ、撮るから、笑って笑ってー」
 私は少し引きつった笑みを浮かべた。何か上手いこと乗せられた気がする。

「あとは、適当に撮らせてもらうから。こっちは気にせず、続けちゃって」
 彼女は素早く別の場所に移動すると、再び撮影を開始した。ちょこちょこ動き回りながら、いろんな場所を撮影している。

 なんだか、偉くアクティブな人だなぁ。ま、細かいこと気にしても、しょうがないか。いくらタイアップ企画と言っても、ただの商店街のイベントだから、そんなに人来ないだろうし。今は私のやれることに専念しよっと。

 私は再び手伝いに戻ると、テキパキと作業を進めるのだった……。


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次回――
『ホワイトウイングの知名度がとんでもなかった件』

 知名度が低いことを心配するより、実績を上げることだ
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