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第4部 理想と現実
1-8超豪華メンバーが結集した打ち上げパーティー
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一日の仕事を終えた夕方。私はノーラさんの部屋に、夕食に招かれていた。しかし、今回はいつもとは違う。ナギサちゃんとフィニーちゃんに加え、リリーシャさんまで一緒だからだ。
実は、今朝ノーラさんに出会った時に『査問会が無事終わったので、軽い打ち上げをしよう』と、提案してくれた。しかも、友人も呼んでいいということで、いつも通りのメンバーになった。
あと、リリーシャさんにも声を掛けたら、一発返事でOKしてくれた。リリーシャさんとノーラさんって、仲がいいもんね。
大人数での夕飯なんて、久しぶりなので、すっごく楽しみ。基本、いつもは、一人で寂しく、パンをかじってるので。やっぱ、ご飯はみんなで食べたほうが、美味しいよね。
でも、何でノーラさんが『査問会』のこと知ってたんだろ? やっぱ、リリーシャさんから聴いたのかな?
キッチンでは、リリーシャさんが、ノーラさんを手伝って、盛り付けや料理を運んだりしている。私たち三人は、その様子をじっと見守っていた。
ナギサちゃんは、何やら神妙な表情で。フィニーちゃんは、期待一杯に目を輝かせながら。私は、じっとしてるのが苦手なので、少しうずうずしながら待機中だった。
新人の私が、何もしないで座ってるのも悪いので、もちろん手伝おうとした。でも『邪魔だからじっとしてな』と、ノーラさんに、あっさり断れらてしまった。
うーむ、この扱いの差はなに? 私とリリーシャさんに対する態度が、ずいぶん違う気がするんですけど。そりゃ、私と違って、リリーシャさんは、家事も完璧だけど。ちょっと、塩対応すぎない? やる気は充分あるのに……。
とか何とか考えている内に、あっという間にテーブルの上は、料理で埋め尽くされて行った。本当に、二人は手際がよく、息もピッタリ合っている。
いやー、相変わらずだけど、ノーラさんの手料理は、本格的で美味しそう。しかも、ボリュームが凄い。フィニーちゃんは、先ほどから早く食べたくて、ソワソワしっぱなしだ。
ナギサちゃんも、別の意味で落ちつかない様子だった。現役の『スカイ・プリンセス』に加え『元シルフィード・クイーン』と同席するとあって、かなり緊張している様子だ。
来た時も、しっかり手土産を持参したうえに『お招きいただき、大変光栄です』なんて、凄く堅苦しいあいさつをしていた。昼間、ノーラさんの正体を話した時は、ナギサちゃん固まってたし。かなり気合を入れて来たみたい――。
まぁ、私はいつも会ってるから、普通の会社の先輩と、アパートの大家さんって感覚なんだけどね。
もちろんフィニーちゃんは、いつも通り、何も気にした様子はない。というか、単に食べ物に、つられて来ただけな感じだ。本当に、ブレないよねぇ。
全ての準備ができ、全員が着席すると、
「食事の前に、まずは、風歌から一言」
ノーラさんが、私に声を掛けてきた。
「えぇっ、私ですか?!」
「今回は、お前が主役なんだ。何か言うことあるだろ?」
確かに、色々と迷惑を掛けてしまったし。でも、いきなり振らずに、事前に言っておいて欲しいんですけど……。
「えー、今回は、色々とご迷惑をおかけいたしました。特に、リリーシャさん。会社にまで、ご迷惑をおかけして、本当に申し訳ありませんでした」
私は深々と頭を下げた。
「いいえ、迷惑だなんて、全く思っていないわ。丸く収まって、本当に良かった」
リリーシャさんは、優しい笑顔で答える。
「ナギサちゃんも、今回は、色々協力してくれて、本当にありがとう」
「べ、別に、私は何もしてないわよ」
私がお礼を言うと、例のごとく、サッと顔を背けてしまった。
「ノーラさんも、わざわざ打ち上げを開いてくださって、ありがとうございます」
「今回の件に懲りて、しばらくは大人しくしてな」
「はい、そうします――」
流石に、あんなのはもう、コリゴリだ。今後はよく考えて、自重しながら行動しようと思う。
「フィニーちゃんは……いつも友達でいてくれて、ありがとう」
「問題ない」
フィニーちゃんは、ビシッと親指を立てて答える。
「さて、面倒なのはこれぐらいにして、食事にするか。そこの嬢ちゃんが、待ちきれなさそうだからな」
「おぉっ!」
待ってましたとばかりに、フィニーちゃんは、勢いよくフォークを手に取った。
「ちょっと、フィニーツァ。食前のお祈りぐらいしなさいよ」
「いいさ、好きに食べな。今日は、内々の気軽なパーティーだからな」
フィニーちゃんは、さっそくモグモグと料理を食べ始めた。リリーシャさんとナギサちゃんは、ちゃんと食前のお祈りをする。
「いただきます!」
私は元気よく、いただきますをすると、スプーンを手に取った。まずは、目の前のスープを飲み始める。
んー、美味しー!! すっごくクリーミーで、コーンも美味しー!
下手に声に出すと、表現力のなさを、ナギサちゃんに突っ込まれそうなので、心の声で我慢する。
隣では、リリーシャさんが、ノーラさんのグラスにワインを注いでいた。流石はリリーシャさん、どんな時でも気配り上手だ。私も何かしたいんだけど、下手に手を出すと、ノーラさんに怒られるので――。
フィニーちゃんが勢いよく食べている隣では、ナギサちゃんが、フォークとナイフを使って、上品に魚料理を切り分けていた。口に料理を入れた瞬間、驚きの表情に変わる。
まぁ、そうだよね。ノーラさんの料理って、お店で出してもおかしくないぐらい、凄く美味しいもん。リリーシャさんは分かるけど、ノーラさんが、何でこんなに料理が上手いのかは謎だ。
シルフィードの現役時代も、かなり豪快な人だったみたいだし。どちらかと言うと、私みたく、体育会系だからね。
「あの、ノーラさん、一つ訊いてもいいですか?」
「何だい、改まって?」
「ノーラさんって、何でこんなに料理が上手なんですか?」
前からずっと、疑問に思ってたんだよね。だって、上手いと言っても、家庭料理レベルじゃなくて、プロ級なんだもん。
「料理をやるようには、見えないってことかい?」
「いえいえ、そうじゃなくて。あまりにも本格的なので、どうやって覚えたのかと思いまして」
不機嫌そうに答えるノーラさんに、私は慌ててフォローを入れる。確かに、料理やるようには、見えないのも事実なんだけど……。
「ノーラさんのおばあさまは、物凄い料理名人だったのよ。ご実家が、有名なレストランだったから」
隣にいたリリーシャさんが、笑顔で説明してくれる。
「じゃあ、この料理って――?」
「全部、祖母から教わったものさ。でも、有名なレストランじゃなくて、小さな個人店だ。まぁ、味は中々のもので、地元では人気だったようだがな」
ノーラさんは、言い終えると、ワインをグッと飲み干した。
「なるほど、それでこの味なのですね。どれもとても美味しいですし、高級レストランの味にも、負けていないと思います」
静かに食事していたナギサちゃんが、話に加わって来る。ナギサちゃんって、相当な辛口評価だから、素直に褒めるなんて、かなり珍しい。
「高級レストランは、ほめ過ぎだろ。私はプロの料理人じゃないんだから」
「でも、本当に美味しいです。これなら、毎日でも食べたいぐらいです」
「私は、三食たべたい」
ひたすら食べ続けていたフィニーちゃんも、賛同する。私もその意見には、激しく同意。こんな料理、毎食たべられたら幸せ過ぎる。でも、フィニーちゃんは、基本、何を食べても、美味しいって言うんだけどね。
「そういえば、リリーシャんの料理と、ちょっと似てる感じがしますね」
以前、リリーシャさんの家で、お世話になっていた時。作ってもらった料理が、どこなく似ている気がする。
「それは、ノーラさんが、私の料理の師匠だからよ」
「ええっ?! そうだったんですか? どうりで、味が似てるわけですね」
リリーシャさんも、相当に料理が上手だ。だけど、まさかノーラさんが師匠だったとは……。
「風歌ちゃんも、ノーラさんに教えて貰ったら? 何でも作れるようになるわよ」
「おぉー、それ、いいかもしれないですね」
私も少しは、料理を覚えておかないと。一人暮らしだと、自炊は必須だもんね。
「フッ、誰がお前みたいな、ポンコツに教えるか。米の炊き方すら、知らなかったくせに」
「んがっ――。ポンコツは言いすぎですよぅ。今はちゃんと、お米を研いだりとか、できるようになったし」
と言っても、ノーラさんに教わったんだけどね。
「風歌は、シルフィードのことだけじゃなく、一般常識も知らないのよね……」
ナギサちゃんが、ため息交じりにつぶやく。
「ナギサちゃんまで酷い――。って、ナギサちゃんは、ご飯炊けるの?」
「当然でしょ。そんなの、小さな子供だって出来るわよ」
ナギサちゃんは、冷たく言い放つ。
うーむ、私の家事能力って、小さな子供以下ってこと……? でも、ナギサちゃんって、パンしか食べないのかと思ってた。だって、いつもサンドイッチばかり食べてるから。
ワイワイ盛り上がっていると、チャイムの音が鳴った。荷物でも届いたのかな?
「ようやく、スペシャル・ゲストが来たようだな」
ノーラさんは、言いながら入り口に向かう。
「あれっ、他にも誰か呼んでたんだ。誰だろ――?」
全員シルフィードの集まりだから、ノーラさんの知り会いかな?
部屋に入って来た人物を見て、私は驚いて心臓が飛び跳ねた。
だが、私より先に、
「お母様?! なぜ、こちらに?」
ナギサちゃんが、ガタッと立ち上がった。
「あら、ナギサも来ていたのね。『疾風の剣』に、お招きいただいたのよ」
「あの……お二人は、知り合いだったのですか?」
ナギサちゃんは、驚きの表情を浮かべながら尋ねる。
「現役時代に、イベントやら会議やらで、割と顔を合わせる機会が多くてな」
「かなり前から、ご懇意にさせていただいているのよ。ただ、ここ数年は、お会いする機会がなかったけれど」
ほへぇー。やっぱり、上位階級の人同士って、お付き合いがあるんだねぇ。
彼女はノーラさんに勧められ、一番奥の上座に着く。歩くのも、座るのも、動作が物凄く気品にあふれている。
「今回は、急に無理なお願いをして、すまなかったな」
「いえ、疾風の剣のたっての頼みとあれば、お断りできませんわ」
「もう、私は引退した身だ。その呼び方は止めてくれ、白金の薔薇」
大物二人の会話を、私は緊張しながら聴いていた。目の前にいるのに、何か凄く遠く感じる。ナギサちゃんも、唖然とした表情で見つめている。
「それなら私も、とうの昔に引退していますが?」
「あんたは、協会で理事をやってるだろ。それは現役と同じことさ」
二人は、リリーシャさんが注いだワイングラスで、乾杯した。
「でも、結局、あなたからの口添えが無かったとしても、結果は変わらなったでしょうね。私は、公正に判断するだけですから」
白金の薔薇は、私に意味ありげな視線を向けて来る。
「えーと――何のお話ですか?」
何のことだか、私にはサッパリ分からない。
「あら、聴いていなかったの? 査問会の前日に『あなたのことを頼む』と、疾風の剣から、連絡をいただいたのよ」
「えぇー?! ノーラさんが、私のことを……?」
全く聴いていない。というか、そもそも二人が知り合いなんて、全然しらなかったんですけど。
「大げさだな。ただの保険だよ保険。どうせ、大したことにはならないと、最初から思ってたからな」
ノーラさんは、一気にワインを飲み干すと、リリーシャさんの前にグラスを差し出した。
「それにしても、あなたが新人の子に、そこまで熱を入れるとは、意外ですね」
「アパートの大家として、預かってる責任があるだろ。こんなお馬鹿な子でも、何かあったら、親御さんに合わせる顔がないからな」
ノーラさんは、リリーシャさんに注いでもらったワインに、再び口をつける。
「頭悪いのは認めますけど、みんながいる所で、お馬鹿なんて言わなくても――」
「ふんっ、お馬鹿は一生死ぬまで、お馬鹿なんだよ」
「んがっ!」
ノーラさん、お酒のペースが速い。まさか、酔ってるんじゃないよね?
「疾風の剣から、連絡がきたことも驚いたけど。それと同じことを言いに、ナギサが訪ねて来たのには、もっと驚いたわ」
「えっ……ナギサちゃんも、頼んでくれたの?」
「ち、違うわよっ! 保険よ保険」
ナギサちゃんは、頬を紅くすると、プイッとそっぽを向いてしまった。
「フフッ、風歌ちゃんは、みんなから愛されているわね。この縁は、これからも大事にしないと」
リリーシャさんが、私に柔らかな笑顔を向けて来る。
「はいっ、もちろんです!」
私は元気いっぱいに答えた。
『元シルフィード・クイーン』二名と、現役の『スカイ・プリンセス』一名が参加する、超豪華メンバーのパーティー。普通なら、見習いの私が、参加できるような場所じゃない。
でも、色々あって、こうして縁ができた。誰一人、知り合いのいなかった異世界で、これは大きな奇跡だと思う。私って、凄い幸せ者だよね。
結局、パーティーは大いに盛り上がって、夜遅くまで続いたのだった。フィニーちゃんが、テーブルの上の料理を、全て平らげてしまったこと。あと、お酒の入った、ナギサちゃんのお母さんに、色々とお説教されたのは、また別の話――。
今回は、本当にみんなには、感謝の気持ちで一杯だ。これからは、自分のことだけじゃなく、周りの人たちのことも考えて、もっと自重して行動しないとね……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回――
『一日中机の前でお勉強って滅茶苦茶つらいんですけど……』
勉強して発明するんだ。勉強しなくても頭のよくなる機械を
実は、今朝ノーラさんに出会った時に『査問会が無事終わったので、軽い打ち上げをしよう』と、提案してくれた。しかも、友人も呼んでいいということで、いつも通りのメンバーになった。
あと、リリーシャさんにも声を掛けたら、一発返事でOKしてくれた。リリーシャさんとノーラさんって、仲がいいもんね。
大人数での夕飯なんて、久しぶりなので、すっごく楽しみ。基本、いつもは、一人で寂しく、パンをかじってるので。やっぱ、ご飯はみんなで食べたほうが、美味しいよね。
でも、何でノーラさんが『査問会』のこと知ってたんだろ? やっぱ、リリーシャさんから聴いたのかな?
キッチンでは、リリーシャさんが、ノーラさんを手伝って、盛り付けや料理を運んだりしている。私たち三人は、その様子をじっと見守っていた。
ナギサちゃんは、何やら神妙な表情で。フィニーちゃんは、期待一杯に目を輝かせながら。私は、じっとしてるのが苦手なので、少しうずうずしながら待機中だった。
新人の私が、何もしないで座ってるのも悪いので、もちろん手伝おうとした。でも『邪魔だからじっとしてな』と、ノーラさんに、あっさり断れらてしまった。
うーむ、この扱いの差はなに? 私とリリーシャさんに対する態度が、ずいぶん違う気がするんですけど。そりゃ、私と違って、リリーシャさんは、家事も完璧だけど。ちょっと、塩対応すぎない? やる気は充分あるのに……。
とか何とか考えている内に、あっという間にテーブルの上は、料理で埋め尽くされて行った。本当に、二人は手際がよく、息もピッタリ合っている。
いやー、相変わらずだけど、ノーラさんの手料理は、本格的で美味しそう。しかも、ボリュームが凄い。フィニーちゃんは、先ほどから早く食べたくて、ソワソワしっぱなしだ。
ナギサちゃんも、別の意味で落ちつかない様子だった。現役の『スカイ・プリンセス』に加え『元シルフィード・クイーン』と同席するとあって、かなり緊張している様子だ。
来た時も、しっかり手土産を持参したうえに『お招きいただき、大変光栄です』なんて、凄く堅苦しいあいさつをしていた。昼間、ノーラさんの正体を話した時は、ナギサちゃん固まってたし。かなり気合を入れて来たみたい――。
まぁ、私はいつも会ってるから、普通の会社の先輩と、アパートの大家さんって感覚なんだけどね。
もちろんフィニーちゃんは、いつも通り、何も気にした様子はない。というか、単に食べ物に、つられて来ただけな感じだ。本当に、ブレないよねぇ。
全ての準備ができ、全員が着席すると、
「食事の前に、まずは、風歌から一言」
ノーラさんが、私に声を掛けてきた。
「えぇっ、私ですか?!」
「今回は、お前が主役なんだ。何か言うことあるだろ?」
確かに、色々と迷惑を掛けてしまったし。でも、いきなり振らずに、事前に言っておいて欲しいんですけど……。
「えー、今回は、色々とご迷惑をおかけいたしました。特に、リリーシャさん。会社にまで、ご迷惑をおかけして、本当に申し訳ありませんでした」
私は深々と頭を下げた。
「いいえ、迷惑だなんて、全く思っていないわ。丸く収まって、本当に良かった」
リリーシャさんは、優しい笑顔で答える。
「ナギサちゃんも、今回は、色々協力してくれて、本当にありがとう」
「べ、別に、私は何もしてないわよ」
私がお礼を言うと、例のごとく、サッと顔を背けてしまった。
「ノーラさんも、わざわざ打ち上げを開いてくださって、ありがとうございます」
「今回の件に懲りて、しばらくは大人しくしてな」
「はい、そうします――」
流石に、あんなのはもう、コリゴリだ。今後はよく考えて、自重しながら行動しようと思う。
「フィニーちゃんは……いつも友達でいてくれて、ありがとう」
「問題ない」
フィニーちゃんは、ビシッと親指を立てて答える。
「さて、面倒なのはこれぐらいにして、食事にするか。そこの嬢ちゃんが、待ちきれなさそうだからな」
「おぉっ!」
待ってましたとばかりに、フィニーちゃんは、勢いよくフォークを手に取った。
「ちょっと、フィニーツァ。食前のお祈りぐらいしなさいよ」
「いいさ、好きに食べな。今日は、内々の気軽なパーティーだからな」
フィニーちゃんは、さっそくモグモグと料理を食べ始めた。リリーシャさんとナギサちゃんは、ちゃんと食前のお祈りをする。
「いただきます!」
私は元気よく、いただきますをすると、スプーンを手に取った。まずは、目の前のスープを飲み始める。
んー、美味しー!! すっごくクリーミーで、コーンも美味しー!
下手に声に出すと、表現力のなさを、ナギサちゃんに突っ込まれそうなので、心の声で我慢する。
隣では、リリーシャさんが、ノーラさんのグラスにワインを注いでいた。流石はリリーシャさん、どんな時でも気配り上手だ。私も何かしたいんだけど、下手に手を出すと、ノーラさんに怒られるので――。
フィニーちゃんが勢いよく食べている隣では、ナギサちゃんが、フォークとナイフを使って、上品に魚料理を切り分けていた。口に料理を入れた瞬間、驚きの表情に変わる。
まぁ、そうだよね。ノーラさんの料理って、お店で出してもおかしくないぐらい、凄く美味しいもん。リリーシャさんは分かるけど、ノーラさんが、何でこんなに料理が上手いのかは謎だ。
シルフィードの現役時代も、かなり豪快な人だったみたいだし。どちらかと言うと、私みたく、体育会系だからね。
「あの、ノーラさん、一つ訊いてもいいですか?」
「何だい、改まって?」
「ノーラさんって、何でこんなに料理が上手なんですか?」
前からずっと、疑問に思ってたんだよね。だって、上手いと言っても、家庭料理レベルじゃなくて、プロ級なんだもん。
「料理をやるようには、見えないってことかい?」
「いえいえ、そうじゃなくて。あまりにも本格的なので、どうやって覚えたのかと思いまして」
不機嫌そうに答えるノーラさんに、私は慌ててフォローを入れる。確かに、料理やるようには、見えないのも事実なんだけど……。
「ノーラさんのおばあさまは、物凄い料理名人だったのよ。ご実家が、有名なレストランだったから」
隣にいたリリーシャさんが、笑顔で説明してくれる。
「じゃあ、この料理って――?」
「全部、祖母から教わったものさ。でも、有名なレストランじゃなくて、小さな個人店だ。まぁ、味は中々のもので、地元では人気だったようだがな」
ノーラさんは、言い終えると、ワインをグッと飲み干した。
「なるほど、それでこの味なのですね。どれもとても美味しいですし、高級レストランの味にも、負けていないと思います」
静かに食事していたナギサちゃんが、話に加わって来る。ナギサちゃんって、相当な辛口評価だから、素直に褒めるなんて、かなり珍しい。
「高級レストランは、ほめ過ぎだろ。私はプロの料理人じゃないんだから」
「でも、本当に美味しいです。これなら、毎日でも食べたいぐらいです」
「私は、三食たべたい」
ひたすら食べ続けていたフィニーちゃんも、賛同する。私もその意見には、激しく同意。こんな料理、毎食たべられたら幸せ過ぎる。でも、フィニーちゃんは、基本、何を食べても、美味しいって言うんだけどね。
「そういえば、リリーシャんの料理と、ちょっと似てる感じがしますね」
以前、リリーシャさんの家で、お世話になっていた時。作ってもらった料理が、どこなく似ている気がする。
「それは、ノーラさんが、私の料理の師匠だからよ」
「ええっ?! そうだったんですか? どうりで、味が似てるわけですね」
リリーシャさんも、相当に料理が上手だ。だけど、まさかノーラさんが師匠だったとは……。
「風歌ちゃんも、ノーラさんに教えて貰ったら? 何でも作れるようになるわよ」
「おぉー、それ、いいかもしれないですね」
私も少しは、料理を覚えておかないと。一人暮らしだと、自炊は必須だもんね。
「フッ、誰がお前みたいな、ポンコツに教えるか。米の炊き方すら、知らなかったくせに」
「んがっ――。ポンコツは言いすぎですよぅ。今はちゃんと、お米を研いだりとか、できるようになったし」
と言っても、ノーラさんに教わったんだけどね。
「風歌は、シルフィードのことだけじゃなく、一般常識も知らないのよね……」
ナギサちゃんが、ため息交じりにつぶやく。
「ナギサちゃんまで酷い――。って、ナギサちゃんは、ご飯炊けるの?」
「当然でしょ。そんなの、小さな子供だって出来るわよ」
ナギサちゃんは、冷たく言い放つ。
うーむ、私の家事能力って、小さな子供以下ってこと……? でも、ナギサちゃんって、パンしか食べないのかと思ってた。だって、いつもサンドイッチばかり食べてるから。
ワイワイ盛り上がっていると、チャイムの音が鳴った。荷物でも届いたのかな?
「ようやく、スペシャル・ゲストが来たようだな」
ノーラさんは、言いながら入り口に向かう。
「あれっ、他にも誰か呼んでたんだ。誰だろ――?」
全員シルフィードの集まりだから、ノーラさんの知り会いかな?
部屋に入って来た人物を見て、私は驚いて心臓が飛び跳ねた。
だが、私より先に、
「お母様?! なぜ、こちらに?」
ナギサちゃんが、ガタッと立ち上がった。
「あら、ナギサも来ていたのね。『疾風の剣』に、お招きいただいたのよ」
「あの……お二人は、知り合いだったのですか?」
ナギサちゃんは、驚きの表情を浮かべながら尋ねる。
「現役時代に、イベントやら会議やらで、割と顔を合わせる機会が多くてな」
「かなり前から、ご懇意にさせていただいているのよ。ただ、ここ数年は、お会いする機会がなかったけれど」
ほへぇー。やっぱり、上位階級の人同士って、お付き合いがあるんだねぇ。
彼女はノーラさんに勧められ、一番奥の上座に着く。歩くのも、座るのも、動作が物凄く気品にあふれている。
「今回は、急に無理なお願いをして、すまなかったな」
「いえ、疾風の剣のたっての頼みとあれば、お断りできませんわ」
「もう、私は引退した身だ。その呼び方は止めてくれ、白金の薔薇」
大物二人の会話を、私は緊張しながら聴いていた。目の前にいるのに、何か凄く遠く感じる。ナギサちゃんも、唖然とした表情で見つめている。
「それなら私も、とうの昔に引退していますが?」
「あんたは、協会で理事をやってるだろ。それは現役と同じことさ」
二人は、リリーシャさんが注いだワイングラスで、乾杯した。
「でも、結局、あなたからの口添えが無かったとしても、結果は変わらなったでしょうね。私は、公正に判断するだけですから」
白金の薔薇は、私に意味ありげな視線を向けて来る。
「えーと――何のお話ですか?」
何のことだか、私にはサッパリ分からない。
「あら、聴いていなかったの? 査問会の前日に『あなたのことを頼む』と、疾風の剣から、連絡をいただいたのよ」
「えぇー?! ノーラさんが、私のことを……?」
全く聴いていない。というか、そもそも二人が知り合いなんて、全然しらなかったんですけど。
「大げさだな。ただの保険だよ保険。どうせ、大したことにはならないと、最初から思ってたからな」
ノーラさんは、一気にワインを飲み干すと、リリーシャさんの前にグラスを差し出した。
「それにしても、あなたが新人の子に、そこまで熱を入れるとは、意外ですね」
「アパートの大家として、預かってる責任があるだろ。こんなお馬鹿な子でも、何かあったら、親御さんに合わせる顔がないからな」
ノーラさんは、リリーシャさんに注いでもらったワインに、再び口をつける。
「頭悪いのは認めますけど、みんながいる所で、お馬鹿なんて言わなくても――」
「ふんっ、お馬鹿は一生死ぬまで、お馬鹿なんだよ」
「んがっ!」
ノーラさん、お酒のペースが速い。まさか、酔ってるんじゃないよね?
「疾風の剣から、連絡がきたことも驚いたけど。それと同じことを言いに、ナギサが訪ねて来たのには、もっと驚いたわ」
「えっ……ナギサちゃんも、頼んでくれたの?」
「ち、違うわよっ! 保険よ保険」
ナギサちゃんは、頬を紅くすると、プイッとそっぽを向いてしまった。
「フフッ、風歌ちゃんは、みんなから愛されているわね。この縁は、これからも大事にしないと」
リリーシャさんが、私に柔らかな笑顔を向けて来る。
「はいっ、もちろんです!」
私は元気いっぱいに答えた。
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でも、色々あって、こうして縁ができた。誰一人、知り合いのいなかった異世界で、これは大きな奇跡だと思う。私って、凄い幸せ者だよね。
結局、パーティーは大いに盛り上がって、夜遅くまで続いたのだった。フィニーちゃんが、テーブルの上の料理を、全て平らげてしまったこと。あと、お酒の入った、ナギサちゃんのお母さんに、色々とお説教されたのは、また別の話――。
今回は、本当にみんなには、感謝の気持ちで一杯だ。これからは、自分のことだけじゃなく、周りの人たちのことも考えて、もっと自重して行動しないとね……。
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次回――
『一日中机の前でお勉強って滅茶苦茶つらいんですけど……』
勉強して発明するんだ。勉強しなくても頭のよくなる機械を
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セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
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