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第4部 理想と現実
1-7人間運が大事なら私って割とツイてるほうなのかな?
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夜、静まり返った自室にて。座布団の上に正座して、身じろぎ一つせず、じっと空中モニターを眺める。今日は昼間の『査問会』の件もあって、一日中、大人しく過ごしていた。
さすがにもう、目立ったりとか、無謀な行動をする訳にはいかないからだ。仕事が終わったあとも、さっさと家に帰ってきて、真面目に勉強をしていた。
今までは、ただ漠然と昇級に憧れていたけど、今は本気で『上に行きたい』と思っている。別に、偉くなりたい訳じゃない。でも、せめて自分の行動を、正当に評価してもらえるぐらいには、力を付けたかった。
査問会の最後に、ナギサちゃんのお母さんに言われた言葉が、脳裏に焼き付いて離れない。上に登り詰めた人だからこそ、言葉に重みがあった。
「力を付けると言ったら、やっぱ試験に受かって、昇級するしかないよね? となると、結局、勉強しかないのかなぁー」
勉強が苦手な私にとっては、最も辛く険しい道のりだ。でも、体力や力技で、どうにかなる問題じゃないもんね。実地が一年間、必要だから、私が試験を受けられるのは、来年の四月だ。それまでは、ひたすら勉強するしかないかな……。
今更ながらに痛感する。なぜ、学生時代に、先生や親から『勉強しろ』とうるさく言われていたのか。勉強なんて、何の役にも立たないと思ってた。けど、上を目指すには、絶対に必要なことだったんだ。
学生時代は、正直、勉強はサボリまくっていた。その上、異世界の知らない知識も、一から学ばなければならない。だから、覚えることが、あまりにも多すぎる。こんな事なら、昔から真面目に勉強しておくべきだった――。
私は頭を抱えながら、再び学習ファイルに視線を戻す。でも、昼間の疲れもあってか、頭が真っ白で、これ以上は入りそうにない。
ちょうどその時、メッセージの着信音が鳴った。私はすぐに、メッセージを確認する。この時間は、やっぱりユメちゃんだ。
『風ちゃん、こんばんわ。まだ、起きてるかな?』
『こんばんは、ユメちゃん。バッチリ起きてるよ』
疲れてはいるんだけど、寝たい気分にはなれなかった。たまにあるよね、凄く疲れてるのに、寝れない時って。
『また、勉強してたの?』
『うん。でも頭が疲れて、今日はこれ以上は無理そう……』
『そっかー、お疲れ様』
このいつも通りのやり取りが、凄く落ち着く。
『そういえば、ユメちゃんは「白金の薔薇」って知ってる?』
『うん、知ってるよ。超有名人だし、滅茶苦茶、綺麗な人だから』
『やっぱり、有名なんだ』
流石はユメちゃん、何でも知っている。というか、超有名人なら、誰でも知ってて当然なのかな――。
『元シルフィード・クイーンだし。物凄く綺麗で、存在感のある人だからね』
『確かに、物凄く強烈な存在感のある人だよね』
上手く言葉で表現できないけど、圧倒的な存在感だった。ノーラさんの威圧感とは、また、ちょっと違う感じ。
『歴代の中で、最も気高いシルフィードと言われてるし。あと「完璧な才女」とか「全能の女神」とか』
それ、すっごく分かる。超ビシッとしてたし、気品も極めると、あそこまで凄い迫力になるんだね。みんな、圧倒されてたし。
『いかにも、出来る女性って感じだよね。そっかー、そんなに凄い人だったんだ……』
『もしかして、何かあったの?』
うーむ、いくらなんでも『査問会』の話は、できないよね。話が重すぎるし、気分のいい話じゃないし。
『実は、私のシルフィード友達のお母さんで――』
『えぇ、すごーい! 白金の薔薇の娘さんと、友達だったの?!』
『いやー、実は、知ったの今日なんだよね。全然、知らなくて』
ナギサちゃん、そんな話、全然してなかったしなぁ。普通、親がそれだけ凄ければ、自慢の一つもすると思うんだけど。リリーシャさんみたいに、特別な事情がある訳じゃないし。
『風ちゃんは、こっちに来たばっかりだから、しょうがないよ。だいぶ前に、引退しちゃってるし』
『私、自分の会社の創始者も、知らなかったぐらいだから。いやー、まだまだ勉強不足だよね』
つくづく、知らないことが多すぎる。昔から、必要最低限の知識だけで、生きてきたから。それでも、何とかなってたし。でも、社会人になると、そうも言ってられないよね。
『一つずつ学んで行けば、大丈夫だよ。誰だって、そうやって覚えるんだから』
『そうだよね。地道に覚えるしかないよね』
一つずつ、じっくり覚えたいのは、山々なんだけど。私の場合、いつも唐突に、何か起こる場合が多いんだよね。トラブルを、引き寄せる体質なのかな……?
『シルフィードになると、やっぱり横のつながりとかできるの? 白金の薔薇の娘さんって、他社の人でしょ?』
『自分の先輩の知り合いとかは、紹介して貰えるけど。それ以外の人は、練習中に偶然、出会っただけだから』
ナギサちゃんも、連中飛行中に出会ったんだよね。最初は、ちょっと険悪な感じだったけど、今は『出会えて本当によかった』って、心の底から思ってる。あの時、偶然、出会わなければ、永遠に赤の他人だったかもしれない。
『やっぱり、風ちゃんは持ってるね』
『えっ? 私、才能もお金も、何も持ってないけど?』
おそらく、全シルフィードの中でも、ダントツで何も持ってない人間だと思う。
『そういうんじゃなくて「人間運」のこと。だって、風ちゃん、いつも有名人とばかり、出会ってるじゃない』
『あー、不思議と私の周りって、凄い人が多いんだよねぇ』
『それって、確実に持ってると思うよ。普通、そんな高確率で、凄い人に会わないもん』
『言われて見れば、そうかも……。でも、全然、私が凄い訳じゃないからね』
近くに凄い人が多すぎて、当たり前な感じになっちゃってるけど。冷静に考えると、自分の力のなさを、改めて実感する。もちろん、学ぶ部分は沢山あるけど、比較すると、不安になるんだよね。
『いや、凄いよ。うちの親が言ってたけど、世の中に出て最も大事なのは、良い人と出会えるかの人間運だって』
『リリーシャさんたちと出会えたのは、とても幸運だったと思う。でも、人間運って、考えたことなかったなぁー』
私が今まで気にしてたのって、金運と勉強運ぐらいだもんね。中学時代の友達は、恋愛運ばっかり、気にしてたけど。私には、サッパリ縁のない話なんで――。
『あと、人脈は最高の武器だから、沢山の人と知り合いになりなさい、ってよく言われるよ』
『へぇー、人脈かぁ』
私は人と仲良くなるのは好きだけど、そういうの考えたことないなぁ。というか、気付いたら、仲良くなってる感じ。知り合いや友達は、多いほうが楽しいし。よほど敵対的な人じゃない限りは、誰とでも仲良くなっている。
『でも、私はかなり人見知りだから。なかなか知り合い、できないんだけどね』
『へぇー、意外だね。いつも、普通に話してるじゃん?』
割とテンション高いことも多いし、人見知りって感じじゃないけどなぁ。むしろ、かなりおしゃべり好きで、ユメちゃんから話題を振ってくるほうが多い。
『風ちゃんは、特別だよー。超話しやすいもん』
『そう? でも、私知らないこと多いし、よく友達にも突っ込まれてるけど……』
『そういうの、全然、関係ないよ。話してて楽しいし、凄く元気出るし』
『いやー、そう言ってもらえると嬉しいなぁー』
私って、学生時代から結構、無知で、おっちょこちょいで。友達たちからも、よく突っ込まれてた。完全に、ボケキャラが定着してたもんね。特別、会話が上手い訳でもなく、よく『天然』なんて言われてた。
『風ちゃん、友達多いでしょ?』
『まぁ、学生時代は、クラス全員友達だったよ。部活のみんなとも仲良かったし』
『今は?』
『今は、シルフィードの友達が数人。でも、知り合いは一杯いるかな。東地区商店街の人たちとは、全員、知り合いだし』
やっぱり、社会人になると、友達作るの難しいよね。大企業ならまだしも、うちは個人企業で、同期の子が一人もいないし。私の周りって、歳上ばかりだから。
『そう、それ! 普通、そんなに知り合い沢山いないから』
『そうなの? よく買い物に行くから。何回か行ったら、仲良くなるでしょ?』
『いや、普通ならないよー。私、何十回も行ってるお店でも、世間話すらしたことないもん』
『そうなの? 色々話すことあると思うけど』
天気の話やイベントの話、最近あった出来事など。ちょっとした、ご近所付きあいみたいな感じだからね。特に難しい話はしていない。
『それを、さも当たり前にできちゃうのが、風ちゃんなんだよねぇ。やっぱり、凄いよー』
『いやいや、別に凄いこと何もしてないから』
大人の人なんかは、景気がどうのとか、政治がどうのとか話してるけど。私は、そういうのは、さっぱり分からないんで。
『でも、生まれた時からこの町にいる私より、こっちに来て数ヶ月の風ちゃんのほうが、十倍以上、知り合いいると思うよ』
『そうなの?』
ユメちゃんの場合、そもそも外に出ないから、出会いが少ないのかもしれない。
『たぶん、偶然じゃないと思う。風ちゃんが凄い人に会うの。間違いなく、風ちゃん自身の力だよね』
『うーむ、何もしてないけど』
『無意識に仲間を増やしてるの、全然、気付いてないんだね――』
『ただ、笑いながら世間話する関係が、仲間って言えるのかな?』
本当に、ただ笑いながら、話してるだけなんだけど。
『これだから、コミュ力高い人は。人見知りの苦労なんて、全く分からないよね』
『うっ、何かゴメンね』
『違う違う、私がちょっと愚痴こぼしただけ。風ちゃんが、ちょっと羨ましくて』
うらやましがられる物なんて、何も持ってないけどなぁ。ユメちゃんのほうが、よっぽど色々持ってると思うけど……。
『ユメちゃんも、普通に話せば、友達、一杯できるんじゃないかな?』
私から見れば、ユメちゃんは、普通以上に明るい子だと思う。気遣いもできて、優しい子だから、すぐに友達ができるはずだ。
『普通に話せないから、人見知りなんだよー。そうだ、人と上手く話す方法教えて、風歌先生』
『なぬっ、先生ですとっ?! ゴホンッ、では、人と仲良くなるための、第一条から――』
こうして、夜のひと時が楽しく過ぎて行くのだった。先ほどまでの、重い空気がなくなり、いつの間にかスッキリしていた。
確かに、認めてくれない人や批判的な人も、一部はいるかもしれない。でも、こうして、私のことを分かってくれる人たちも沢山いる。
だから、そういう人たちのためにも、地道に頑張って行こう。私は一人じゃないんだから……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回――
『超豪華メンバーが結集した打ち上げパーティー』
パーティーを楽しんで、間違いを経験して、たくさん笑いなさい
さすがにもう、目立ったりとか、無謀な行動をする訳にはいかないからだ。仕事が終わったあとも、さっさと家に帰ってきて、真面目に勉強をしていた。
今までは、ただ漠然と昇級に憧れていたけど、今は本気で『上に行きたい』と思っている。別に、偉くなりたい訳じゃない。でも、せめて自分の行動を、正当に評価してもらえるぐらいには、力を付けたかった。
査問会の最後に、ナギサちゃんのお母さんに言われた言葉が、脳裏に焼き付いて離れない。上に登り詰めた人だからこそ、言葉に重みがあった。
「力を付けると言ったら、やっぱ試験に受かって、昇級するしかないよね? となると、結局、勉強しかないのかなぁー」
勉強が苦手な私にとっては、最も辛く険しい道のりだ。でも、体力や力技で、どうにかなる問題じゃないもんね。実地が一年間、必要だから、私が試験を受けられるのは、来年の四月だ。それまでは、ひたすら勉強するしかないかな……。
今更ながらに痛感する。なぜ、学生時代に、先生や親から『勉強しろ』とうるさく言われていたのか。勉強なんて、何の役にも立たないと思ってた。けど、上を目指すには、絶対に必要なことだったんだ。
学生時代は、正直、勉強はサボリまくっていた。その上、異世界の知らない知識も、一から学ばなければならない。だから、覚えることが、あまりにも多すぎる。こんな事なら、昔から真面目に勉強しておくべきだった――。
私は頭を抱えながら、再び学習ファイルに視線を戻す。でも、昼間の疲れもあってか、頭が真っ白で、これ以上は入りそうにない。
ちょうどその時、メッセージの着信音が鳴った。私はすぐに、メッセージを確認する。この時間は、やっぱりユメちゃんだ。
『風ちゃん、こんばんわ。まだ、起きてるかな?』
『こんばんは、ユメちゃん。バッチリ起きてるよ』
疲れてはいるんだけど、寝たい気分にはなれなかった。たまにあるよね、凄く疲れてるのに、寝れない時って。
『また、勉強してたの?』
『うん。でも頭が疲れて、今日はこれ以上は無理そう……』
『そっかー、お疲れ様』
このいつも通りのやり取りが、凄く落ち着く。
『そういえば、ユメちゃんは「白金の薔薇」って知ってる?』
『うん、知ってるよ。超有名人だし、滅茶苦茶、綺麗な人だから』
『やっぱり、有名なんだ』
流石はユメちゃん、何でも知っている。というか、超有名人なら、誰でも知ってて当然なのかな――。
『元シルフィード・クイーンだし。物凄く綺麗で、存在感のある人だからね』
『確かに、物凄く強烈な存在感のある人だよね』
上手く言葉で表現できないけど、圧倒的な存在感だった。ノーラさんの威圧感とは、また、ちょっと違う感じ。
『歴代の中で、最も気高いシルフィードと言われてるし。あと「完璧な才女」とか「全能の女神」とか』
それ、すっごく分かる。超ビシッとしてたし、気品も極めると、あそこまで凄い迫力になるんだね。みんな、圧倒されてたし。
『いかにも、出来る女性って感じだよね。そっかー、そんなに凄い人だったんだ……』
『もしかして、何かあったの?』
うーむ、いくらなんでも『査問会』の話は、できないよね。話が重すぎるし、気分のいい話じゃないし。
『実は、私のシルフィード友達のお母さんで――』
『えぇ、すごーい! 白金の薔薇の娘さんと、友達だったの?!』
『いやー、実は、知ったの今日なんだよね。全然、知らなくて』
ナギサちゃん、そんな話、全然してなかったしなぁ。普通、親がそれだけ凄ければ、自慢の一つもすると思うんだけど。リリーシャさんみたいに、特別な事情がある訳じゃないし。
『風ちゃんは、こっちに来たばっかりだから、しょうがないよ。だいぶ前に、引退しちゃってるし』
『私、自分の会社の創始者も、知らなかったぐらいだから。いやー、まだまだ勉強不足だよね』
つくづく、知らないことが多すぎる。昔から、必要最低限の知識だけで、生きてきたから。それでも、何とかなってたし。でも、社会人になると、そうも言ってられないよね。
『一つずつ学んで行けば、大丈夫だよ。誰だって、そうやって覚えるんだから』
『そうだよね。地道に覚えるしかないよね』
一つずつ、じっくり覚えたいのは、山々なんだけど。私の場合、いつも唐突に、何か起こる場合が多いんだよね。トラブルを、引き寄せる体質なのかな……?
『シルフィードになると、やっぱり横のつながりとかできるの? 白金の薔薇の娘さんって、他社の人でしょ?』
『自分の先輩の知り合いとかは、紹介して貰えるけど。それ以外の人は、練習中に偶然、出会っただけだから』
ナギサちゃんも、連中飛行中に出会ったんだよね。最初は、ちょっと険悪な感じだったけど、今は『出会えて本当によかった』って、心の底から思ってる。あの時、偶然、出会わなければ、永遠に赤の他人だったかもしれない。
『やっぱり、風ちゃんは持ってるね』
『えっ? 私、才能もお金も、何も持ってないけど?』
おそらく、全シルフィードの中でも、ダントツで何も持ってない人間だと思う。
『そういうんじゃなくて「人間運」のこと。だって、風ちゃん、いつも有名人とばかり、出会ってるじゃない』
『あー、不思議と私の周りって、凄い人が多いんだよねぇ』
『それって、確実に持ってると思うよ。普通、そんな高確率で、凄い人に会わないもん』
『言われて見れば、そうかも……。でも、全然、私が凄い訳じゃないからね』
近くに凄い人が多すぎて、当たり前な感じになっちゃってるけど。冷静に考えると、自分の力のなさを、改めて実感する。もちろん、学ぶ部分は沢山あるけど、比較すると、不安になるんだよね。
『いや、凄いよ。うちの親が言ってたけど、世の中に出て最も大事なのは、良い人と出会えるかの人間運だって』
『リリーシャさんたちと出会えたのは、とても幸運だったと思う。でも、人間運って、考えたことなかったなぁー』
私が今まで気にしてたのって、金運と勉強運ぐらいだもんね。中学時代の友達は、恋愛運ばっかり、気にしてたけど。私には、サッパリ縁のない話なんで――。
『あと、人脈は最高の武器だから、沢山の人と知り合いになりなさい、ってよく言われるよ』
『へぇー、人脈かぁ』
私は人と仲良くなるのは好きだけど、そういうの考えたことないなぁ。というか、気付いたら、仲良くなってる感じ。知り合いや友達は、多いほうが楽しいし。よほど敵対的な人じゃない限りは、誰とでも仲良くなっている。
『でも、私はかなり人見知りだから。なかなか知り合い、できないんだけどね』
『へぇー、意外だね。いつも、普通に話してるじゃん?』
割とテンション高いことも多いし、人見知りって感じじゃないけどなぁ。むしろ、かなりおしゃべり好きで、ユメちゃんから話題を振ってくるほうが多い。
『風ちゃんは、特別だよー。超話しやすいもん』
『そう? でも、私知らないこと多いし、よく友達にも突っ込まれてるけど……』
『そういうの、全然、関係ないよ。話してて楽しいし、凄く元気出るし』
『いやー、そう言ってもらえると嬉しいなぁー』
私って、学生時代から結構、無知で、おっちょこちょいで。友達たちからも、よく突っ込まれてた。完全に、ボケキャラが定着してたもんね。特別、会話が上手い訳でもなく、よく『天然』なんて言われてた。
『風ちゃん、友達多いでしょ?』
『まぁ、学生時代は、クラス全員友達だったよ。部活のみんなとも仲良かったし』
『今は?』
『今は、シルフィードの友達が数人。でも、知り合いは一杯いるかな。東地区商店街の人たちとは、全員、知り合いだし』
やっぱり、社会人になると、友達作るの難しいよね。大企業ならまだしも、うちは個人企業で、同期の子が一人もいないし。私の周りって、歳上ばかりだから。
『そう、それ! 普通、そんなに知り合い沢山いないから』
『そうなの? よく買い物に行くから。何回か行ったら、仲良くなるでしょ?』
『いや、普通ならないよー。私、何十回も行ってるお店でも、世間話すらしたことないもん』
『そうなの? 色々話すことあると思うけど』
天気の話やイベントの話、最近あった出来事など。ちょっとした、ご近所付きあいみたいな感じだからね。特に難しい話はしていない。
『それを、さも当たり前にできちゃうのが、風ちゃんなんだよねぇ。やっぱり、凄いよー』
『いやいや、別に凄いこと何もしてないから』
大人の人なんかは、景気がどうのとか、政治がどうのとか話してるけど。私は、そういうのは、さっぱり分からないんで。
『でも、生まれた時からこの町にいる私より、こっちに来て数ヶ月の風ちゃんのほうが、十倍以上、知り合いいると思うよ』
『そうなの?』
ユメちゃんの場合、そもそも外に出ないから、出会いが少ないのかもしれない。
『たぶん、偶然じゃないと思う。風ちゃんが凄い人に会うの。間違いなく、風ちゃん自身の力だよね』
『うーむ、何もしてないけど』
『無意識に仲間を増やしてるの、全然、気付いてないんだね――』
『ただ、笑いながら世間話する関係が、仲間って言えるのかな?』
本当に、ただ笑いながら、話してるだけなんだけど。
『これだから、コミュ力高い人は。人見知りの苦労なんて、全く分からないよね』
『うっ、何かゴメンね』
『違う違う、私がちょっと愚痴こぼしただけ。風ちゃんが、ちょっと羨ましくて』
うらやましがられる物なんて、何も持ってないけどなぁ。ユメちゃんのほうが、よっぽど色々持ってると思うけど……。
『ユメちゃんも、普通に話せば、友達、一杯できるんじゃないかな?』
私から見れば、ユメちゃんは、普通以上に明るい子だと思う。気遣いもできて、優しい子だから、すぐに友達ができるはずだ。
『普通に話せないから、人見知りなんだよー。そうだ、人と上手く話す方法教えて、風歌先生』
『なぬっ、先生ですとっ?! ゴホンッ、では、人と仲良くなるための、第一条から――』
こうして、夜のひと時が楽しく過ぎて行くのだった。先ほどまでの、重い空気がなくなり、いつの間にかスッキリしていた。
確かに、認めてくれない人や批判的な人も、一部はいるかもしれない。でも、こうして、私のことを分かってくれる人たちも沢山いる。
だから、そういう人たちのためにも、地道に頑張って行こう。私は一人じゃないんだから……。
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『超豪華メンバーが結集した打ち上げパーティー』
パーティーを楽しんで、間違いを経験して、たくさん笑いなさい
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