私異世界で成り上がる!! ~家出娘が異世界で極貧生活しながら虎視眈々と頂点を目指す~

春風一

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第3部 笑顔の裏に隠された真実

4-5ナギサちゃんと結婚したら物凄く健康になりそう

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 十二時を、少し回ったころ。私は〈ホワイト・ウイング〉の庭で、ナギサちゃんとフィニーちゃんの、お出迎えをしていた。ナギサちゃんは、大きなバスケットを。フィニーちゃんは、両手に袋を持っている。

 今日は、会社のダイニングで、三人で『昼食会』をすることになっていた。もちろん、リリーシャさんに、許可はもらってある。

 ただ、今回の昼食会は、ちょっと『訳アリ』だった。先日の夜『ELエル』で私が、ある発言をしたのが、きっかけなんだよね。

 私は『ノア・マラソン』に向け、出勤前に一時間。退社後に、二時間のランニングを、毎日、行っている。トレーニングは順調だけど、一つ問題が発生していた。

 それは、圧倒的な『カロリー不足』だった。何キロも走るためには、非常に多くの、カロリーが必要になる。なので、毎食、二、三個のパンだけでは、全然、足りなかったのだ。

 加えて、たんぱく質も不足していた。いくら体を鍛えても、良質なたんぱく質をとらないと、筋肉はつかない。

 中学時代、陸上部をやっていた時は、肉や魚など、かなりガッツリと食べていた。今思うと、母親が栄養バランスには、かなり気を遣ってくれていた気がする。

 その栄養不足の惨状を、ELでつぶやいたところ、
『まったく、しょうがないわね。お昼に栄養のある物を、作って持って行くわよ』
 とナギサちゃんが、差し入れを、持って来てくれることになったのだ。

 渋々な感じだった割には、とても律儀なことに、その翌日から毎日、お昼に手作りの差し入れを持って来てくれた。しかも、栄養バランスが、非常によく考えられており、味も物凄くおいしかった。

 ナギサちゃんって、本当に、女子力が高いんだよね。それに、言動や態度と違って、とても優しい。困ってる時は、必ず助けてくれるもん。

 今までは、広場のベンチに座って、食べていた。けど、今日は、フィニーちゃんも、差し入れを持って来てくれるので、うちの会社のダイニングを、使うことになった。

 私は、二人を案内し、事務所に入って行く。受付の横を通り過ぎ、事務所の奥の、ダイニング・キッチンに移動した。

「お茶を淹れるから、二人は好きな所に座って」

 私は『クッキング・プレート』に、やかんを載せ、お湯を沸かし直す。さっき過熱しておいたので、すぐに湧くはずだ。ポットもティーカップも、全て準備はOK。

 料理は、てんでダメだけど、お茶の用意だけは、得意になったんだよね。リリーシャさんに、お茶を淹れるのが、日課なので。

 二人は、自分の持ってきた荷物を広げると、テーブルの上に、料理を並べて行った。三人分なので、今日は量が多めのようだ。

 お茶の用意が終わり、ティーカップをトレーにのせ、運んでいく。すると、テーブルの上は、料理で埋め尽くされていた。

「えーと……これ、夕飯じゃなくて、お昼ごはんだよね?」 

 夕飯でも、多過ぎるんじゃないかと思うほど、物凄い量が並んでいる。特に、フィニーちゃんのは、明らかに三人分の量を超えていた。しかも、料理が全部、茶色い。

「ちょっと、フィニーツァ。何で全部、肉なのよ?」
「風歌、タンパク質、たりないって言ってた。だから、肉いっぱい持ってきた」

 確かに、たんぱく質は凄くとれそう。でも、完全にフィニーちゃんの、好きな物を持って来た感じだ。

「それはそうだけど、栄養バランスというものが、あるでしょ? それに、いくらなんでも、量が多過ぎよ」
「大丈夫。私が全部、たべるから」 
 
「今日は、風歌のための食事会なのよ」
「ちがう、みんなの食事会」

 例のごとく、仲がいいんだか悪いんだか、お約束の言い合いから始まった。

 ナギサちゃんが持って来てくれたのは、見た目もとても綺麗な、サンドイッチだ。ナギサちゃんと言えば、サンドイッチ。どの店に行っても、必ず食べてるし。自分で作るのも、凄く得意なんだよね。

 味はもちろん、栄養バランスも考えて、肉・魚・野菜・チーズなど、まんべんなく入っている。

 ちなみに、ナギサちゃんの作るサンドイッチは、店で売ってるのと同じか、それ以上に美味しい。パンも具も、かなり上質なものを、使っているのだと思う。その他にも、卵焼きやサラダなど、非常に体によさそうなメニューだ。

 対して、フィニーちゃんが持って来たのは、プラスチックの容器に入った、ボリューム満点の肉料理だった。

 唐揚げ・メンチカツ・酢豚・レバニラ炒め・肉団子・手羽先の照り焼き。びっくりするぐらい、茶色に染まっている。しかも、量が尋常じゃなく多い。まだ、温かいので、作り立てのようだ。

「二人とも、私のために、本当にありがとね。いつか必ず、お礼はするから」  
「別に、そんなのいいわよ。お礼のために、やっているんじゃないのだから」
「私も、お礼いらない。食べ物の調達なら、まかせて」

 ナギサちゃんは、いつも通りの照れ隠し。フィニーちゃんは、食べられれば、何でもオッケーな感じかな。

 私は、二人の前にお茶を置き、席に着くと、
「それでは、二人の友情に感謝して、いただきます!」
 両手を合わせて、元気よく、いただきますをする。

「豊かな恵みに感謝します」
 ナギサちゃんは、いつも通り、胸の前で手を組むと、目をつぶり祈りをささげた。

 フィニーちゃんは、すでに食べ始めている。これも、いつも通りだね。

 私は、ダイニングに置いてある『マイお箸』を手にとる。すると、真っ先に手を伸ばしたのが、唐揚げだった。やっぱり、唐揚げって、真っ先に手が伸びちゃうよね。学生時代のお弁当の時も、最初に食べていたのが、唐揚げだった。

「この唐揚げ、超美味しいー! まだ、揚げたてみたいだけど、これフィニーちゃんが作ったの?」

 サクッとした食感のあとに、口の中にジュワッと、肉汁があふれ出る。しかも、まだ暖かくて柔らかいので、物凄く美味しい。塩加減も絶妙だ。

「ちがう。会社の食堂のおばちゃんに頼んで、作ってもらった」
「えっ、もしかして、これ全部?」
「うん」

 フィニーちゃんは、次々と肉料理に手を伸ばして、黙々と食べ続ける。

「〈ウィンドミル〉の食堂では、お弁当まで、作ってもらえるんだ?」
「おばちゃんと仲いいから、特別に」 
「あー、なるほどね」

 そういえば、フィニーちゃんって、割と誰とでも、仲良くなるんだよね。特に、歳上受けがいいみたい。見た目がカワイイいし、娘や孫みたいに、見えるのかもねぇ。

 次は、ナギサちゃんが作って来た、卵焼きに手を伸ばす。売り物みたいに、見た目が物凄く綺麗だ。やっぱり、几帳面な性格が、料理にも表れるんだね。

「うーん、この卵焼きおいしー。私この味付け大好き」
 かなり甘めで、ふんわりした食感がたまらない。

「糖分も必要だと思って、甘めにしておいたのよ。それに、以前、甘い卵焼きが好きだって、話していたでしょ」
「えっ、そんな話、覚えてくれてたんだ? 何か超嬉しい!」

 甘い卵焼きなんて、実家にいた時以来、食べていない。昔は、ほぼ毎日、食べてたんだよね。食事だけじゃなく、お弁当にも入ってたし。

「まったく、大げさね。たまたま、覚えていただけよ」
 ナギサちゃんは、プイッと横を向く。

 でも、絶対に、たまたまじゃないと思う。ナギサちゃんって、結構、人のことよく見てるし。一度、話した内容って、しっかり覚えてるんだよね。その細やかな気遣いは、シルフィードには、とても大事なものだ。私も見習わないと。

 お次は、メインディッシュの、サンドイッチに手を伸ばす。食べなくても、もう見ただけで、美味しいのが分かる。

 最初は、定番のハムサンドから。何層も重ねてある薄切りハムと、かんだ瞬間、口の中に広がる、からしマヨネーズ。新鮮なレタスの、シャキシャキした食感。全てが絶妙のバランスだ。でも、何と言っても、ハムが物凄く美味しい。

「超美味しー! これって、かなり高級なハム使ってない?」
「近所のデパートで買った、普通のハムよ」
「それ間違いなく、高級食材じゃん。安いの買うなら、スーパーに行くでしょ?」

 私の頭の中では『デパート = 高級』の認識だ。私の場合、買い物は、商店街かスーパーの特売品だけ。もちろん、値引きシール付きも、欠かせない。そもそも、デパートなんて、恐れ多くて、近付きすらしなかった。

「大げさね。デパートのほうが、会社の寮から近いし。一ヶ所で、全ての買い物が済むから楽なのよ。それに、値段だって、数十ベルぐらいしか、違わないと思うわ」

 ナギサちゃんは、サラッと答える。

 いや、その数十ベルのために、いくつもの店を、はしごしてるんですけど――。この庶民的な感覚は、ナギサちゃんには、分からないんだろうなぁ。

 でも、私もこっちに、来てからなんだけどね。チラシを真剣に見る、主婦の気持ちが、分かったのって。

 ま、今は細かいことは気にせず、食事を楽しもう。値段はさて置き、物凄く美味しいのは、事実なんだから。

 ナギサちゃんの料理と、フィニーちゃんが持ってきた料理を、交互に食べるのが、ちょうどいい感じ。

 ヘルシーで、サッパリした料理を食べたあと、ボリューム満点で、こってりした味付けの料理を食べる。これは、最高のローテーションだった。片方だけの場合が多いから、この対極的な料理の組み合わせは、非常に贅沢だと思う。

「うーん、どれも超美味しい! 最高に幸せー」

 さっぱり味も好きだし、こってり油っぽいのも好き。いつもは、三食パンだけだから、夢のように豪華な食事だ。

「風歌は、何でも美味しそうに、食べるわね。ごく普通の、料理だと思うけど」
「だって、本当においしいんだもん。こんなちゃんとした料理、めったに食べられないから」

「相変わらず、パンばかり食べているの?」
「パンばかりというか、パンしか食べてないけど……」

 普段も、かなり、ギリギリの生活をしているけど、今月はさらに苦しい。というのも、トレーニング・ウェアと、ランニング・シューズを購入したいからだ。

 長時間、しかも朝夕、走って汗をかくから、ウェアは毎日、洗わなければならない。夜洗って乾すと、翌日、生乾きの時もあるんだよね。走ってる間に、乾くからいいけど。あまり、気分のいいものではない。

 靴も走る距離が長いから、靴底がすり減ってしまう。そもそも、中学時代のシューズを持ってきたから、結構、痛んでいた。

 買うかどうか、かなり迷ったけど、本気でやるなら、最低限の準備は必要だ。五十キロも走るなら、万全の準備が必要だよね。

 ただ、食費の一週間分ほどの、大きな出費が必要になる。そのため、ただでさえ少なかった食費を、さらに切り詰め、完全な『カロリー不足』になってしまった。そこで、今回、二人に助けてもらったのだ。

「まったく、そんな食生活をしていたら、いつか体を壊すわよ。まぁ、ノア・マラソンが終わったあとも、定期的に、差し入れしてあげるわよ」
「えっ、本当にいいの?」

 おぉー!! それは、滅茶苦茶うれしい。ナギサちゃんの料理、凄くおいしいし。何より、栄養バランスが、しっかり計算されている。

「万一、倒れたりでもしたら、困るでしょ。仕送りもない、実家にも帰れない、病院に行くお金もない。何かあったら、どうするつもりよ?」
「んがっ――。そこまでは、考えてませんでした。何とかなるかなぁー、なんて」

「相変わらず、考えなしね。何とかならないから、差し入れしてるんでしょ」
「ぐっ……その通りです、はい」

 まったくもって、返す言葉がない。たいていは何とかなるけど、栄養問題だけは、気合じゃ解決できないもんね――。

「まぁ、料理は好きだし。一人分も二人分も、手間は変わらないから、これからも差し入れはするけど。ちゃんと、健康や生活のこと、考えなさいよ。一人前になるのは、まだ先のことなんだから」

 確かに、まだまだ先は長いからね。健康も、しっかり考えないと。

「ありがとう、ナギサちゃん。もう、私と結婚してー」
「はぁ?! 何ふざけたこと、言ってるのよ? 私にそんな趣味ないわよ!」

 冗談で言ったんだけど、真に受けるナギサちゃん。冗談にマジレスして来るのは、いつものことだ。

「ナギサ、私の分も、差し入れ作って」  
 黙々と食べていたフィニーちゃんが、ボソッと呟く。

「フィニーツァは、仕送りも貰っているし、社員食堂で安く食べられるでしょ?」
「じゃあ、ママになって。そしたら、毎食、作ってもらえる」
「それいいねー。私もナギサママに、養ってもらいたい」

 私も、フィニーちゃんの冗談に乗っかる。

「誰がママよ?! こんな大きな子供が、いるような歳じゃないわよ!」
 案の定、本気で返して来た。

 その必死の表情に、私は思わず、ゲラゲラと笑ってしまった。フィニーちゃんも、口元を手で押さえ、横を向いて、体が小刻みに震えていた。

「ちょっと、あなたたち。行儀が悪すぎるわよ! 食事の時ぐらい、大人しくできないの? あと、フィニーツァは、肉ばっかり食べてないで、野菜も食べなさい」 

 いつもの、お説教モードが始まるが、

「わかった、ナギサママ」
「はーい、ナギサママ」

 私たちは、笑顔で切り返す。

「って、全然、分かってないじゃないのよ!」

 フィニーちゃんと私がボケて、ナギサちゃんが突っ込むスタイルが、最近は、すっかり定着してしまった。

 でも、フィニーちゃんも、以前より話すようになったし。ナギサちゃんも、だいぶ肩の力が、抜けてきた気がする。やっぱ、この三人で集まると、凄く楽しいなぁ。

 今日は、本当にありがとね、ナギサちゃん、フィニーちゃん。二人の友情と、優しさに答えるためにも、私、精一杯、頑張るよ。

 栄養もしっかりとれたし、これからもトレーニング、全力で頑張りまっしょい!


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次回――
『スポ根と言えば浜辺の全力ダッシュは基本でしょ』

「体力」「精神力」最後は「根性」
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