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第3部 笑顔の裏に隠された真実
4-2風を切って走っている時が一番生きてる実感がするんだよね
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夜、静まり返った、自室の屋根裏部屋。私は、机の前に座布団をしいて正座し、マギコンで表示した、空中モニターを凝視していた。恒例の『お勉強タイム』だ。最初のうちは、しんどかったけど、最近は、すっかり習慣化してきた。
毎日、勉強するなんて、学生時代からは、考えられないことだ。テスト前の『一夜漬け』しか、したことないので。
本日分の勉強のノルマを終え、今は『スポーツ・フェスタ』と『ノア・マラソン』について、スピで調べているところだ。
ちなみに、この世界には『オリンピック』がない。似てる部分も多いけど、向こうでは、割と当たり前のものが、ぽっかり無かったりする。その代わりに、世界各地の有名な観光都市で、大型のスポーツイベントが、行われていた。
競技だけでなく、お祭りもセットになっている。なので、オリンピックよりも、エンターテイメント性の高いイベントだ。
ただ、WSCA(世界スポーツ競技協会)に登録されているイベントは、ちゃんと『世界公式記録』が残る。この町で行われる『スポーツ・フェスタ』も、公式登録されたイベントだ。
そのため、世界中から、プロの選手たちもやってくる。水上・陸上の、様々な競技が行われるが、やはり、一番の目玉は『ノア・マラソン』だ。
図書館には、まだ行ってないけど、スピにも非常に多くの情報が、のっていた。ダイジェスト映像なら、スピでも見ることができる。実際に見てみると、自分が想像していた以上に、かなり過酷なレースのようだ。
年によっては、完走率が、五割を切る場合もある。雨が降っていたり、気温が高かったりすると、通常よりも、はるかに負担が大きくなるからだ。
あと、フルマラソンよりも長いのが、一番の問題だと思う。数字にすると、約八キロほどの違いだ。しかし、疲れている時のこの距離の差は、非情に大きい。
うーむ……これは、かなりトレーニングして鍛えないと、完走は厳しいかも。私は、短距離から長距離まで走れる、オールラウンダーだ。でも、長距離のトレーニングには、時間が掛かる。持久力は、一朝一夕で、つくものではないからだ。
これからは、毎朝、ジョギングしようかなぁー。でも、早朝出勤の前に走るとなると、さらに早起きしないとだし。これ以上、早く起きられるんだろうか……? 走ることより、起きられるかのほうが、心配なんだよね。
なら、仕事が終わったあと、夜走るべきだろうか? でも、夜だと暗いから、慣れない場所は走り辛いし。おそらく、疲れてしまって、勉強が全くできなくなってしまうと思う。
勉強を疎かにしたら、完全に本末転倒だ。この町には、走りに来たんじゃなくて、シルフィードになりに来たんだから――。
どうしたものかと、うんうん唸っていると、メッセージの着信音が鳴る。確認すると、ユメちゃんからだ。
『こんばんは、風ちゃん。起きてる?』
『ユメちゃん、こんばんは。起きてるよー』
私はすぐに、返信を打ち込む。
何気に、ユメちゃんからのメッセージを、心待ちにしている。昼は私から送るけど、夜はだいたい、ユメちゃんからだ。昼は気兼ねなく送れるけど、夜は『邪魔しちゃ悪いかなぁー』なんて、ちょっと遠慮してる。
学生時代は、平気で夜中に、メッセージ送ったりしてた。けど、社会人になると、ある程度、相手の都合や常識を、考えるようになるんだよね。
『もしかして、勉強中だった?』
『今日の分の勉強は終わって、調べものしてた』
『何を調べてるの?』
『スポーツ・フェスタと、ノア・マラソンについて』
『もう、そんな時期なんだ。スポフェスが近づくと、秋だなーって、感じがするね』
ユメちゃんにとって、各種イベントは、季節や一年の時の流れの、目安になっているようだ。イベントそのものには、あまり興味はないみたい。地元の人にとっては、毎年、見てるから、特に珍しくはないのかもね。
『スポーツと言えば秋、って感じするもんね。私、秋は超大好き』
『私も秋は好きだよ。読書するのに、いい時期だし』
読書の秋って言うけど、昔から本とは縁がないから、私には関係ないんだよね。読書感想文の宿題で、渋々読んでたぐらいかな……。
『でも、ユメちゃんは、一年中、読書してるから、あまり変わらないのでは?』
『あははっ、そうかも。でも、秋って不思議と色んなことに、集中できるんだよね』
『分かる分かる。仕事とかも、凄く集中してできるし』
陽気がいいせいか、体が物凄く軽く感じる。お蔭で、仕事が物凄くはかどるし、苦手な勉強ですら、割と集中してできていた。
『風ちゃんは、スポフェスの競技、何か参加するの?』
『うん。ノア・マラソンに、参加する予定だよ』
『うわぁー、凄い! あれって、スポフェスの中で、最も過酷な競技じゃない?』
『マラソンは、元々過酷な競技だからねぇ』
でも、大変なら大変なほど、私は燃えるタイプだ。乗り越えた時の達成感が、半端ないからね。
『私、長距離走とか、絶対に無理。たぶん、一キロでも無理だと思う――』
『トレーニングすれば、十キロぐらいは、普通に走れると思うよ』
『全然、走れる気がしないよー。だから、マラソンとか走る人、尊敬しちゃう』
その若さで、一キロも走れないのは、流石に運動不足すぎかも。でも、ユメちゃんは、本ばかり読んで、全然、運動してなさそうだもんね。
逆に、私はじっとしてるのが、無理なんで。一日中、本を読んでいられるユメちゃんのことを、物凄く尊敬している。
『別に、そんなに凄い訳では、ないと思うけど……』
『いや、超凄いよ。そもそも普通の人は、走ろうとさえ思わないもん。何で風ちゃんは、ノア・マラソンに出ようと思ったの?』
走る理由かぁ。そういえば私、走る理由なんて、考えたことなかった。だって、走るのが好きだから走るという、物凄く単純なことだから。
『走るのが、好きだからかな。あと、走ってる時、気持ちがいいから』
走ってる時の、エネルギーを燃焼している感じが好き。あと、風を全身に浴びるのも大好き。エア・ドルフィンで飛んでる時も、気持ちいいけど。自分の足で走ると、また格別なんだよね。
『体を動かすのが苦手だから、その感覚は、私には分からないかも。でも、走るの辛くない? マラソンとか、超辛そうだけど』
『もちろん、辛さもあるよ、特に長距離は。走ってるうちに、足が痛くなって、体が重くなって、息が切れて、頭が真っ白になって――』
一瞬で終わる、短距離走とは違い、長距離走は、本当に辛い競技だ。心臓が、はちきれそうになっても、足が岩のように重くなっても、走り続けなければならない。
『何で、そんな辛い思いしてまで、走るの?』
『辛いけど、楽しさもあるんだよね。いい結果が出た時とか、走り切った時の達成感とか』
ゴールした時の、やり切った感は、走った人にしか分からない。
『やっぱり、優勝したり、いい結果を出したいから?』
『んー、それもあるけど、一番は生きてる実感かなぁ。風を切って走ってる時「生きてるなぁー」って、感じがするんだよね』
走っている時は、まるで風になったような感じがする。それに、バクバクと脈打つ鼓動は、まさに生きている証だ。
『何となく、分かるかも。それって、充実感みたいな?』
『そうだね。あまり深く考えたこと無かったけど、充実感なのかも』
『本を読んでる時は、私も「生きててよかったー」って、思うことあるよ』
ユメちゃんらしい答だ。読書に、人世を懸けてる感じだもんね。
『私の場合、本を読むと眠くなっちゃうけど。ユメちゃんは、そういうのない?』
『それは、ないかな。逆に、本を読んでると、血がたぎってくる感じ』
『本で、血がたぎるの……?』
うーむ、私には、今一つ理解できない感覚だ。活字が頭の中に渦巻くと、眠くなったり、意識を失いそうになる。
『熱い展開とか、ドキドキするシーンとか。私は、体を動かさない代わり、本の中の世界で、思いっ切り走り回ってるから』
本の中で走り回る? バーチャル・リアリティ的な――?
『へぇー、そういう楽しみ方もあるんだ。スポーツ物のストーリーとかも読む?』
『うん、スポ根とか熱血系は、大好きだよ』
『それは、ちょっと意外かも』
大人しい文学少女のイメージだから、スポ根とか熱い展開とかは、全く興味ないんだと思ってた。まぁ、自分がやるのは好きじゃなくても、見るのは好きな人もいるよね。
『憧れみたいな感じかな。私、体が弱くて、運動とかできないから。頑張ってる人を見ると、勇気を貰えるんだ』
『そうだったんだ。よく夜更かし、してるみたいだけど、体は大丈夫なの?』
もしかして、何か持病とかあるのかな? いつも家にいるみたいだし。でも、スピで知り合った友達って、お互いに事情を詮索しないのが、暗黙の了解なんだよね。なので、彼女が本好きの中学生、ということぐらいしか、私は知らない。
『それは、大丈夫。激しい運動は無理だけど、日常生活には、支障がないから』
『そうなんだ。それはよかった』
少しホッとする。
『でも、元気に動き回ってる人を見ると、うらやましいなぁ、って思うことは良くあるよ。風ちゃんのことも、そう』
『何か、ゴメンね……』
『悪い意味じゃなくて、目標として、尊敬してるって意味だからね。私もいつか、風ちゃんみたいになりたいって、いつも思ってるもん』
『いやー、私なんか目標にしても、どうなんだろう?』
ユメちゃんは、よく私のことを『凄い』って褒めてくれる。でも、実際のところ、勉強もできないし、知らないことも多いし。経験も浅いし、女子力も低いし。リリーシャさんの、足元にも及ばないんだけどなぁ――。
『前も言ったじゃない。風ちゃんの元気や行動力に、憧れてるって』
『あー、そんな話もあったね』
『それに、私が風ちゃんの、ファン一号なんだから。忘れないでね』
『あははっ、そうだね』
最初は、冗談だと思ったけど、何度も言ってるので、どうやら本気らしい。やっぱり、一人でもファンがいてくれると、嬉しいよね。それに『もっと頑張らなきゃ』って、原動力になるし。
『ノア・マラソンも、MV見ながら、全力で応援するから。頑張ってね』
そういえば、ノア・マラソンって、MVで生中継されるんだよね。しかも、全世界に放送される。もっとも、参加者が多いから、先頭集団で走るか、有名選手じゃないと、まず映らないと思うけど。
『初出場だけど、完走を目指して頑張るよ。応援、よろしくね』
『うん、応援なら任せて!』
このあとも、スポーツ・フェスタを中心に、色んな世間話をして盛り上がった。勉強で疲れたり、悩みごとで行き詰っている時、彼女と話していると、凄くスッキリするんだよね。いつも、元気をくれてありがとね、ユメちゃん。
よし、ユメちゃんに、カッコイイところを見せるためにも、頑張りまっしょい!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回――
『やらずに後悔するぐらいならやって失敗する方がいいと思う』
失敗や寄り道をしなきゃ、見つからないものもある
毎日、勉強するなんて、学生時代からは、考えられないことだ。テスト前の『一夜漬け』しか、したことないので。
本日分の勉強のノルマを終え、今は『スポーツ・フェスタ』と『ノア・マラソン』について、スピで調べているところだ。
ちなみに、この世界には『オリンピック』がない。似てる部分も多いけど、向こうでは、割と当たり前のものが、ぽっかり無かったりする。その代わりに、世界各地の有名な観光都市で、大型のスポーツイベントが、行われていた。
競技だけでなく、お祭りもセットになっている。なので、オリンピックよりも、エンターテイメント性の高いイベントだ。
ただ、WSCA(世界スポーツ競技協会)に登録されているイベントは、ちゃんと『世界公式記録』が残る。この町で行われる『スポーツ・フェスタ』も、公式登録されたイベントだ。
そのため、世界中から、プロの選手たちもやってくる。水上・陸上の、様々な競技が行われるが、やはり、一番の目玉は『ノア・マラソン』だ。
図書館には、まだ行ってないけど、スピにも非常に多くの情報が、のっていた。ダイジェスト映像なら、スピでも見ることができる。実際に見てみると、自分が想像していた以上に、かなり過酷なレースのようだ。
年によっては、完走率が、五割を切る場合もある。雨が降っていたり、気温が高かったりすると、通常よりも、はるかに負担が大きくなるからだ。
あと、フルマラソンよりも長いのが、一番の問題だと思う。数字にすると、約八キロほどの違いだ。しかし、疲れている時のこの距離の差は、非情に大きい。
うーむ……これは、かなりトレーニングして鍛えないと、完走は厳しいかも。私は、短距離から長距離まで走れる、オールラウンダーだ。でも、長距離のトレーニングには、時間が掛かる。持久力は、一朝一夕で、つくものではないからだ。
これからは、毎朝、ジョギングしようかなぁー。でも、早朝出勤の前に走るとなると、さらに早起きしないとだし。これ以上、早く起きられるんだろうか……? 走ることより、起きられるかのほうが、心配なんだよね。
なら、仕事が終わったあと、夜走るべきだろうか? でも、夜だと暗いから、慣れない場所は走り辛いし。おそらく、疲れてしまって、勉強が全くできなくなってしまうと思う。
勉強を疎かにしたら、完全に本末転倒だ。この町には、走りに来たんじゃなくて、シルフィードになりに来たんだから――。
どうしたものかと、うんうん唸っていると、メッセージの着信音が鳴る。確認すると、ユメちゃんからだ。
『こんばんは、風ちゃん。起きてる?』
『ユメちゃん、こんばんは。起きてるよー』
私はすぐに、返信を打ち込む。
何気に、ユメちゃんからのメッセージを、心待ちにしている。昼は私から送るけど、夜はだいたい、ユメちゃんからだ。昼は気兼ねなく送れるけど、夜は『邪魔しちゃ悪いかなぁー』なんて、ちょっと遠慮してる。
学生時代は、平気で夜中に、メッセージ送ったりしてた。けど、社会人になると、ある程度、相手の都合や常識を、考えるようになるんだよね。
『もしかして、勉強中だった?』
『今日の分の勉強は終わって、調べものしてた』
『何を調べてるの?』
『スポーツ・フェスタと、ノア・マラソンについて』
『もう、そんな時期なんだ。スポフェスが近づくと、秋だなーって、感じがするね』
ユメちゃんにとって、各種イベントは、季節や一年の時の流れの、目安になっているようだ。イベントそのものには、あまり興味はないみたい。地元の人にとっては、毎年、見てるから、特に珍しくはないのかもね。
『スポーツと言えば秋、って感じするもんね。私、秋は超大好き』
『私も秋は好きだよ。読書するのに、いい時期だし』
読書の秋って言うけど、昔から本とは縁がないから、私には関係ないんだよね。読書感想文の宿題で、渋々読んでたぐらいかな……。
『でも、ユメちゃんは、一年中、読書してるから、あまり変わらないのでは?』
『あははっ、そうかも。でも、秋って不思議と色んなことに、集中できるんだよね』
『分かる分かる。仕事とかも、凄く集中してできるし』
陽気がいいせいか、体が物凄く軽く感じる。お蔭で、仕事が物凄くはかどるし、苦手な勉強ですら、割と集中してできていた。
『風ちゃんは、スポフェスの競技、何か参加するの?』
『うん。ノア・マラソンに、参加する予定だよ』
『うわぁー、凄い! あれって、スポフェスの中で、最も過酷な競技じゃない?』
『マラソンは、元々過酷な競技だからねぇ』
でも、大変なら大変なほど、私は燃えるタイプだ。乗り越えた時の達成感が、半端ないからね。
『私、長距離走とか、絶対に無理。たぶん、一キロでも無理だと思う――』
『トレーニングすれば、十キロぐらいは、普通に走れると思うよ』
『全然、走れる気がしないよー。だから、マラソンとか走る人、尊敬しちゃう』
その若さで、一キロも走れないのは、流石に運動不足すぎかも。でも、ユメちゃんは、本ばかり読んで、全然、運動してなさそうだもんね。
逆に、私はじっとしてるのが、無理なんで。一日中、本を読んでいられるユメちゃんのことを、物凄く尊敬している。
『別に、そんなに凄い訳では、ないと思うけど……』
『いや、超凄いよ。そもそも普通の人は、走ろうとさえ思わないもん。何で風ちゃんは、ノア・マラソンに出ようと思ったの?』
走る理由かぁ。そういえば私、走る理由なんて、考えたことなかった。だって、走るのが好きだから走るという、物凄く単純なことだから。
『走るのが、好きだからかな。あと、走ってる時、気持ちがいいから』
走ってる時の、エネルギーを燃焼している感じが好き。あと、風を全身に浴びるのも大好き。エア・ドルフィンで飛んでる時も、気持ちいいけど。自分の足で走ると、また格別なんだよね。
『体を動かすのが苦手だから、その感覚は、私には分からないかも。でも、走るの辛くない? マラソンとか、超辛そうだけど』
『もちろん、辛さもあるよ、特に長距離は。走ってるうちに、足が痛くなって、体が重くなって、息が切れて、頭が真っ白になって――』
一瞬で終わる、短距離走とは違い、長距離走は、本当に辛い競技だ。心臓が、はちきれそうになっても、足が岩のように重くなっても、走り続けなければならない。
『何で、そんな辛い思いしてまで、走るの?』
『辛いけど、楽しさもあるんだよね。いい結果が出た時とか、走り切った時の達成感とか』
ゴールした時の、やり切った感は、走った人にしか分からない。
『やっぱり、優勝したり、いい結果を出したいから?』
『んー、それもあるけど、一番は生きてる実感かなぁ。風を切って走ってる時「生きてるなぁー」って、感じがするんだよね』
走っている時は、まるで風になったような感じがする。それに、バクバクと脈打つ鼓動は、まさに生きている証だ。
『何となく、分かるかも。それって、充実感みたいな?』
『そうだね。あまり深く考えたこと無かったけど、充実感なのかも』
『本を読んでる時は、私も「生きててよかったー」って、思うことあるよ』
ユメちゃんらしい答だ。読書に、人世を懸けてる感じだもんね。
『私の場合、本を読むと眠くなっちゃうけど。ユメちゃんは、そういうのない?』
『それは、ないかな。逆に、本を読んでると、血がたぎってくる感じ』
『本で、血がたぎるの……?』
うーむ、私には、今一つ理解できない感覚だ。活字が頭の中に渦巻くと、眠くなったり、意識を失いそうになる。
『熱い展開とか、ドキドキするシーンとか。私は、体を動かさない代わり、本の中の世界で、思いっ切り走り回ってるから』
本の中で走り回る? バーチャル・リアリティ的な――?
『へぇー、そういう楽しみ方もあるんだ。スポーツ物のストーリーとかも読む?』
『うん、スポ根とか熱血系は、大好きだよ』
『それは、ちょっと意外かも』
大人しい文学少女のイメージだから、スポ根とか熱い展開とかは、全く興味ないんだと思ってた。まぁ、自分がやるのは好きじゃなくても、見るのは好きな人もいるよね。
『憧れみたいな感じかな。私、体が弱くて、運動とかできないから。頑張ってる人を見ると、勇気を貰えるんだ』
『そうだったんだ。よく夜更かし、してるみたいだけど、体は大丈夫なの?』
もしかして、何か持病とかあるのかな? いつも家にいるみたいだし。でも、スピで知り合った友達って、お互いに事情を詮索しないのが、暗黙の了解なんだよね。なので、彼女が本好きの中学生、ということぐらいしか、私は知らない。
『それは、大丈夫。激しい運動は無理だけど、日常生活には、支障がないから』
『そうなんだ。それはよかった』
少しホッとする。
『でも、元気に動き回ってる人を見ると、うらやましいなぁ、って思うことは良くあるよ。風ちゃんのことも、そう』
『何か、ゴメンね……』
『悪い意味じゃなくて、目標として、尊敬してるって意味だからね。私もいつか、風ちゃんみたいになりたいって、いつも思ってるもん』
『いやー、私なんか目標にしても、どうなんだろう?』
ユメちゃんは、よく私のことを『凄い』って褒めてくれる。でも、実際のところ、勉強もできないし、知らないことも多いし。経験も浅いし、女子力も低いし。リリーシャさんの、足元にも及ばないんだけどなぁ――。
『前も言ったじゃない。風ちゃんの元気や行動力に、憧れてるって』
『あー、そんな話もあったね』
『それに、私が風ちゃんの、ファン一号なんだから。忘れないでね』
『あははっ、そうだね』
最初は、冗談だと思ったけど、何度も言ってるので、どうやら本気らしい。やっぱり、一人でもファンがいてくれると、嬉しいよね。それに『もっと頑張らなきゃ』って、原動力になるし。
『ノア・マラソンも、MV見ながら、全力で応援するから。頑張ってね』
そういえば、ノア・マラソンって、MVで生中継されるんだよね。しかも、全世界に放送される。もっとも、参加者が多いから、先頭集団で走るか、有名選手じゃないと、まず映らないと思うけど。
『初出場だけど、完走を目指して頑張るよ。応援、よろしくね』
『うん、応援なら任せて!』
このあとも、スポーツ・フェスタを中心に、色んな世間話をして盛り上がった。勉強で疲れたり、悩みごとで行き詰っている時、彼女と話していると、凄くスッキリするんだよね。いつも、元気をくれてありがとね、ユメちゃん。
よし、ユメちゃんに、カッコイイところを見せるためにも、頑張りまっしょい!
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『やらずに後悔するぐらいならやって失敗する方がいいと思う』
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