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第3部 笑顔の裏に隠された真実

2-6ピザを頼む時はチーズ増量のLLサイズが基本

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 午後六時。私は、風歌とナギサと、夕飯を食べに集まっていた。定期的に、三人で夕飯にいく。風歌は、この集まりを『女子会』と言っている。そのほうが『言い方がカワイイから』って言ってるけど、よく分からない。

 会社の食堂も好きだけど、たまに外食するのも好き。食堂にはない、色んな料理が、食べられるからだ。

 いつもは〈東地区〉か〈西地区〉に行く。風歌の希望で、安い店を選ぶからだ。でも、今日は珍しく〈南地区〉に来ていた。今いるのは〈オレガノ〉というビザ屋だ。人気の店らしく、物凄く混んでいた。

 テラスは、満席だったので、今日は店内のテーブル席に座っている。外のほうが、風に当たれて好き。でも、店内だと、石ガマでピザを焼く様子が見れて、とても楽しい。

 最初『ピザ屋に行こう』と言ったら、風歌は渋っていた。〈南地区〉は高いし、ピザは、風歌には高級品らしい。

 この店のピザは、一枚、千数百ベル。物によっては、二千ベル以上する。私は、特に気にならない。けど、一食、三百ベルで生活している風歌には、ちょっと厳しいかもしれない。  

 でも『食べ放題の無料券がある』と言ったら、大喜びして、飛びついてきた。店についてからも、風歌はいつも以上に、テンションが高かった。ピザを食べるのは、久しぶりらしい。

 私も、いつも以上に、やる気が上がっていた。無料なのも嬉しいけど『食べ放題』に、ワクワクしない訳がない。遠慮せずに、好きなだけ食べられる。いつもは、コース料理とかなので、ちょっと物足りなかった。

「結構、高そうなお店だね。内装も高級そうだし、さすがは南地区……」
 風歌は、メニューボードの価格を、難しそうな顔で見つめていた。

「ここは、特に高いお店じゃないわよ。この地区では、いたって標準。もしくは、安いほうだと思うわ」
 ナギサは、当たり前そうに答える。

 私も、ナギサの言う通りだと思う。デリバリーのピザに比べれば、少し安い。

「でも、ピザ一枚で、私の一日の食費より、高いんだもん――」
「相変わらず、大変そうね。ご両親に謝って、仕送りして貰ったら?」
「それは、絶対ダメ! 自分の力でやるって、決めたんだから」

 風歌は、自力でやることに、物凄くこだわっていた。でも、私にはよく分からない。助けてもらえるなら、助けてもらったほうが、いいに決まっている。そのほうが、絶対に楽だから。

「強い信念があるのは、いいけれど。お客様の前で、お腹を鳴らしたりしないようにね」

 ナギサの言葉で、私は風歌が、お客の前で『グーッ』と、大きな音を鳴らしているのを想像した。思わず笑いそうになり、両手で口元をおさえて、我慢する。

「いや、流石にそんなことはしないから。って、フィニーちゃん、笑わないでよー」
「わっ……笑って――ない。ぷっ……」 

 私は、横を向きながら、口元が緩むのをじっと耐えた。私は、滅多に笑わない。でも、風歌に会ってから、たまに笑うようになった。風歌たちといると、色々と面白いことが、多い気がする。

「それはそうと、何でフィニーツァが、無料券なんか持っているのよ?」
「もらった。メイリオ先輩に」

 私は、ポケットからチケットを取り出し、ナギサに渡した。

「これ、株主優待券じゃない。メイリオさんは、株をやっているの?」
「分からない。でも、ハーブ店の株がどうとかって、前言ってた気がする」

 株とか興味ない。そもそも、株が何だか、よく分からなかった。

「なるほど。ここって〈ナチュラル・ハーブ〉の、系列店なのね」
 ナギサは、チケットの裏を見ながらつぶやく。

「それって、こないだマリアさんと、お茶したお店だよね?」
「えぇ、そうよ。不意打ちで『元シルフィード・クイーン』に会わされた店ね」
「うっ――だから、ゴメンって。本当に、知らなかったんだから」

 ナギサは、割と根に持つタイプらしい。

「話戻るけど、株って高いんでしょ? スカイ・プリンセスって、そんなにお給料が高いの?」
 風歌が、私に視線を向けて来る。

「知らない。お給料とか、あんま興味ない」
「あなたは、知らなさ過ぎ。お姉様のことぐらい、もう少し、知っておきなさいよ」

 そういえば、メイリオ先輩のこと、あまり深くは知らない。でも、お菓子や料理が上手くて、ハーブに詳しくて、とても優しい。これだけ知ってれば、十分。

「でも、二人とも、とても仲がよさそうだよね」
 風歌が、フォローを入れてくる。

 実際、メイリオ先輩とは、仲がいい。姉妹になってからは、前以上に、一緒にいる時間が多くなった。

「ちなみに『スカイ・プリンセス』と『エア・マスター』では、お給料が全然、違うらしいわよ。あと、上位階級になると、副収入が多くなるわ」
「お給料以外にも、収入があるの?」

「広告・MVの出演、イベントの参加や講演会。様々なところから収入があるのよ。あと『スカイ・プリンセス』以上の階級には『映像公開権』があるから。雑誌に載ったり、ニュースに出たりするだけで、ライセンス料が発生するのよ」

 ナギサが、細かく説明する。よく分かんないけど、面倒なのは理解した。MVとか雑誌に出るの、超面倒くさそう。

「じゃあ、ちょっと写真が出たりするだけでも、お金が入ってくるの?」
「そういうこと。上位階級のシルフィードは、それだけ特別な存在なのよ」

 メイリオ先輩も、たまにイベントに参加したり、セミナーの講師をしたりしている。昇級すると、色々大変そうだ。私は、一人前にさえなれれば、程々でいいかも。

 世間話をしている内に、注文したピザがやってきた。チーズと香ばしい匂いが、強烈に漂ってくる。焼きたてで、チーズがトロトロになってて、評判どおり、とてもおいしそうだ。

「きゃー、超美味しそう!! しかも、サイズが大きい! 食べ切れるかな?」
「よゆうで、食べれる」
「いくら無料だからって、ある程度、節度を考えなさいよ」

 ナギサは『Mサイズ』を頼もうとしたけど、私と風歌の意見で、三枚とも『LLサイズ』にした。大きくても、大丈夫。私一人で、三枚食べることも、出来るからだ。

「いただきます」
「豊かな恵みに感謝します」

 二人が食前の祈りをしている間に、私はさっさと、ピザに手を伸ばした。ピザは、熱々のうちに食べないと、おいしくない。一切れ取ると、一番乗りでかぶりつく。

「ちょっと、フィニーツァ、食べ物への感謝ぐらいできないの?」
「まぁまぁ、せっかくフィニーちゃんが、誘ってくれたんだし。楽しくやろうよ」

 不機嫌そうなナギサを、風歌がなだめる。いつも通りだ。私は食べ物には、とても感謝している。でも、それは言葉じゃない。食べる時は、集中して全力で食べる。これが、私の食べ物への、感謝のしかただ。

 まずは、目の前の、私が頼んだ『ミート・スペシャル・ピザ』を一切れ食べた。肉が入っていると、ガッツリした食べ応えがある。肉の油とチーズの油がたっぷりで、超おいしい。やっぱり、一枚目はこれだ。

 次に、風歌が頼んだ『シーフード・ミックス・ピザ』に手を伸ばす。エビ・イカ・サーモンなんかが入っていて、口の中で、ジュワッとうまみが広がった。肉に比べると淡泊だけど、魚貝類は大好き。この町で、シーフード料理に、ハズレはない。

 次は、ナギサが頼んだ『ヘルシー・トマト・ピザ』だ。スライスしたトマトが、綺麗に並べてあって、バジルの葉とスライスしたオリーブも、のっている。見た目が、とても鮮やかだ。

 トマトの水分と酸味のおかげで、とてもサッパリして食べやすい。トマトは大好きだし、口直しになるので、これも凄くおいしい。

 私は、一種類ずつ、ローテンションしながら、順に食べて行った。風歌は、最初は『美味しいー!』などと声を上げていたが、段々ペースアップして、黙々と食べ始めた。ナギサは、相変わらず、ゆっくり上品に食べている。

 LLサイズ三枚だったけど、大して時間が掛からず、皿が空になった。風歌は満足そうな表情をし、ナギサはすでに、お腹が一杯のようだ。私は、一番たくさん食べたけど、まだまだ物足りない。

 私は追加で、LLサイズを三枚頼む。二人に止められたが『私が全部たべるから』と、強引に注文した。実際、一人で三枚ぐらい、よゆうで食べられる。今まで食べた特盛メニューは、全部一人で食べていたので、それに比べれば楽勝だ。

 しばらくして、注文したピザが、再びテーブルに並ぶ。LLサイズが三つ並ぶと、物凄く壮観だ。テーブルに、ぎっちり料理が並んでるの好き。それだけで、元気と食欲が湧いてくる。

 まずは、目の前の『ホワイト・ポテト・ピザ』を食べる。ポテトとホワイトソースがよく合う。トロッとした、シチューを食べてるみたいな感じ。具はポテトのみだけど、クリーミーで、とてもおいしい。

 次に、風歌の前に置いてある『ミックスチーズ・ピザ』に手を伸ばす。具を使わずに、何種類ものチーズをミックスした、物凄くシンプルなピザだ。でも、チーズ本来のおいしさと、生地の食感が楽しめる。これぞピザって感じで、かなり好き。

 最後に、ナギサの前に置いてある『トロピカル・デラックス・ピザ』に手を伸ばした。このピザは、パイナップルとハムがのっている。一見、ミスマッチな感じだけど、甘さとしょっぱさが、よく合う。味に微妙な変化がついて、凄くおいしい。

 私は再び、一種類ずつ順番に食べる、ローテーションに入った。一切れごとに、味が変わるので、全然あきない。

 しかも、どれも超美味しいので、いくらでも食べられる。結局、追加の三枚のピザも完食。でも、まだ、ちょっと物足りない。それに、折角の『食べ放題』なんだから、もっと色々食べたかった。

 追加で頼もうとすると、再び二人に止められる。でも『私が残さず全てたべるから』という条件で、今度は少し控えめに、Lサイズを三枚、追加注文した。

 結局、風歌は一回目の追加でほぼ力尽きて、二回目の追加では、一切れ食べただけ。ナギサは、最初の注文ですでに満腹になっており、追加には全く手を出さず、ずっとお茶を飲んでいた。なので、ほぼ一人で、Lサイズ三枚を食べきった。

「相変わらず、常識を超えた食欲ね。でも、そのエネルギーが、どこに消えているのか、本当に謎だわ。それだけ食べて、なぜ、横にも縦にも、大きくならないのかしら?」

 ナギサは、不思議そうな表情を浮かべる。

 それは、他の人たちにも、よく言われていた。たくさん食べて、太らない体質の人はいても、背が大きくならない人は、少ない。栄養は、十分なはずなのに、ここ数年、ほとんど身長は伸びていなかった。

「LLサイズ六枚に、Lサイズ三枚。女子三人で食べる量じゃないよね。まぁ、ほとんどは、フィニーちゃんが、完食したんだけど。ピザって、かなりお腹に溜まるけど、胸やけとかしないの?」

「全然、平気。次はデザート頼む」 
 私は、胸やけとかしたことが無い。食べれば食べるほど、元気になる。

「ちょっと、これだけ食べて、まだ食べる気なの?」
「大丈夫。デザートも、食べ放題だから」
「そういう意味じゃなくて。健康的に、問題あるんじゃないか、ってことよ」

 ナギサは、相変わらず、健康だのなんだのと、細かいことにうるさい。普段から、魚とサラダばっかりだし。超健康マニアだ。

「あははっ、フィニーちゃんらしいね。そっか、デザートも、食べ放題に入ってるんだね。なら、私も頑張らなきゃ!」
「ちょっと、風歌まで……」

 結局、このあと沢山デザート食べて、私たちは、大満足で店を出る。風歌もナギサも、甘いものは大好きらしく、何だかんだ言いながらも、結構たべてた。甘いものが別腹なのは、みんな同じらしい。

「無料券もらったら、また来よう」 
 私が歩きながらつぶやくと、

「いや、ピザは当分見たくない――」
 二人そろって、同じ答えを返してきた。

 私は、毎日でもいいんだけど。二人とも、ピザはあまり好きじゃないのかな……?


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次回――
『迷子の少女を見つけたけ場合どうすればいいと思う?』

 年中迷子のはぐれ雲のゆく先は、お巡りさんにも解らんさ
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