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第2部 母と娘の関係
3-7母親と娘の関係ってどの家庭も難しいんだね
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私は〈東地区〉の上空をゆっくり飛んでいた。天気もよく風も心地よい。何より、今日は調子がいいので、とても気分がよかった。
エア・ドルフィンに乗っていると、加速具合とかで、その日の調子が分かるんだよね。調子がいい日は、魔力制御がいつもより上手くいくので、スムーズに飛ぶことができる。
今日は練習飛行ではなく、会社の備品の買い出しだ。私、お使いって、大好きなんだよね。実家にいた時は、お使いとか超嫌がってたけど、こっちに来てから凄く好きになった。
空を飛んでお使いに行くのは、気持ちがいいし、お店の人との世間話も、楽しみの一つだ。この町の人たちって、みんな気さくなので、凄く話しやすい。だから、よく行くお店の人は、みんな仲良しだ。
以前は、リリーシャさんがやっていたけど、今は全ての買い出し業務を、私が引き継いでいる。リリーシャさんは、相変わらず忙しいし、私にできる数少ない仕事だからだ。
備品といっても、色んなものがある。今日、買いに行くのは、お茶とお菓子だ。来社してくださったお客様に出すので、お茶とお菓子は、物凄く大事なアイテムだった。もちろん、休憩時間に、私たちも食べるけどね。
ちなみに、会社によって、出す飲み物やお菓子が違うので、それも、会社の個性になっている。中には、ピザとか、料理を出す会社もあるらしい。おもてなしのアイテムで、利用する会社を選ぶ人もいるらしいので、凄く重要だよね。
お茶は、先ほど買って来たので、次に向かうのは、なじみの洋菓子店だ。そのお店は、アリーシャさんの代からずっと付き合いがあり、リリーシャさんは、子供のころから、よくお使いに行ってたらしい。
リリーシャさんとツバサさんは、子供のころ、よく〈ホワイト・ウイング〉に遊びに来ていて、元々は二人のおやつを買いに行くのが、目的だったんだって。リリーシャさんって、子供のころから、甘いものが大好きだったんだねぇ。
会社で使う備品は、ほぼ全て〈東地区〉の商店で揃えている。大手と違って大量には必要ないし、うちのような小さな会社は、地元とのつながりを大事にしているからだ。会社というよりは、個人商店に近いからね。
町を眺めながら飛んでいると、やがて目的のお店の屋根が見えてきた。青い屋根の上には、大きな『金色の鐘』のオブジェが設置してある。洋菓子店〈ウインド・ベル〉のトレードマークだ。上空から見ても、物凄く目だつ。
〈ホワイト・ウイング〉もそうだけど、この町って『風』や『翼』に関係する名前の、お店や会社が多い。『幸運の象徴』なので、商売では好んで使われるからだ。
店の前に静かに着地すると、エア・ドルフィンをゆっくり降りた。ガラス窓から中をのぞくと、店内には、大きなウインドウ・ケースが置かれている。
ケース内には、とても華やかな、色とりどりのケーキが並んでいた。お花畑のように色鮮やかで、見ているだけでテンションが上がって来る。
残りの半分のスペースには、様々な焼き菓子が置かれていた。ここのお菓子はどれも美味しく、贈答品としても人気がある。
うーん、いつ来ても美味しそう。特に、綺麗な装飾のケーキには、物凄く目がひかれる。でも、節約中の私にとっては、目の毒なんだよね……。
ケーキ一個分の値段で、いくつもパンが買えるし。下手をすると、私の一日分の食費に相当するので、物凄く贅沢品だ。
どうしようかなぁ、買っちゃおうかなぁ――。でも、ダメダメ!『蒼海祭』に向けて、節約中なんだから。
私は頬を軽く叩き、グッと気を引き締めると、扉を開け店に入る。
「あら、風歌ちゃん、いらっしゃい」
「ロナさん、こんにちは」
顔なじみの女将さんは、優しい笑顔で迎えてくれた。
「いつもので、いいかしら?」
「はい、いつものお願いします」
流石に、付き合いの長いお店だけあって『いつもの』だけで、通じてしまう。会社に買い置きしておくお菓子も、アリーシャさんの時から、ずっと同じなんだって。
「仕事のほうはどう?」
「お蔭様で、今のところ順調です。でも、もっともっと勉強して、早く一人前になりたいです」
以前ほど焦らなくはなったけど、それでも、一日も早く、一人前になりたい気持ちは変わらない。
「本当に、風歌ちゃんは偉いわねぇ。努力家だし、働き者だし」
「そんなこと有りませんよ。私は出来ることをしているだけで。リリーシャさんには、まだ遠く及びませんし」
そう、実際には、まだまだ未熟だ。かなり仕事も覚えて、慣れては来たと思うけど。リリーシャさんを見ていると、はるか遠くの存在に感じる。
「でも、雑用とか嫌がる子が多いでしょ? そういう、基本的な仕事を真面目にやる子は、必ず大物になるわよ」
「ありがとうございます。私、雑用だけはプロ級なので」
二人で顔を見合わせると、クスクス笑う。
その時、私の横を誰かが通り過ぎた。
「ちょっと、ロゼ。お客様には、ちゃんと挨拶なさいと、いつも言ってるでしょ!」
少女はピタリと足を止めると、こちらに振り向く。
「……いらっしゃいませ」
一瞬、嫌そうな顔をしたあと、小さな声で呟いた。
すぐに前を向くと、サッと店の外に出て行った。
「まったく、あの子ったら。挨拶一つ、ロクにできないんだから――」
「まぁまぁ、難しい年ごろなんじゃないですか?」
私はフォローを入れておく。
顔も似てたし、あの会話の感じからすると、娘さんかな? 歳は近い感じがするけど、少し下だろうか?
「と言っても、中学二年だから、風歌ちゃんと二つしか違わないのよ。店の手伝いは全然しないし、家事もやらないし。自分の部屋は散らかし放題。家にいてもゴロゴロするだけで、何の役にもたたないのよ」
ぐっ……。昔の自分のことを言われているようで、心に突き刺さる。
「でも、まだ中学生ですし、その内しっかりするんじゃないですか?」
中学生なんて、そんなのが普通だし。あまり期待し過ぎちゃ、可愛そうだと思う。って、あの子のフォローというより、過去の自分をフォローしている気がするんだけど――。
「どうかしらねぇ? これからも変わらない気がするけど。その点、風歌ちゃんは本当に偉いわね。毎日、一生懸命に働いて。一人暮らしで、家事も全部やっているんでしょ?」
「しかも、素直で明るくて、礼儀正しいし。さぞかし、親御さんも鼻が高いでしょうねぇ」
ぐはっ……。褒められてるはずなのに、言葉がプスプスと心に突き刺さる。
今現在、勘当中だし、親とも仲悪いし、家事も全くできないんですけど――。変に過大評価されると、逆に辛い。
「い、いえ……全然、そんなことないですよ」
「そういう、謙虚なところも素敵よ。流石は、リリーちゃんが見染めた新人さんね」
ロナさんは、ニコニコしている。
ここまで期待されると、本当のことは言えない――。リリーシャさんは、本物の才女だけど、私の場合は、ただのハリボテであることを。
会社だって、単にお情けで入れて貰っただけだし、私はシルフィード学校すら行っていない。結局、会社とリリーシャさんの知名度のお蔭で、私の評価も、無駄に上がっちゃっているんだよね。
「はい、お待たせ。あと、これオマケで入れておくから、あとでリリーちゃんと食べてね」
ロナさんは、買い置きのお菓子の入った紙袋に、クッキーの袋も入れてくれた。私がお使いに来ると、よくオマケを付けてくれる。
「わぁ、ありがとうございます。いつも、色々頂いちゃってすいません」
「いいのよ。こちらこそ、いつも買いに来てくれて、ありがとうね」
私は袋を受け取ると、元気に挨拶をして店を出た。
そういえば、あの子はどうしたのかな? 娘さんがいる話は、以前から聴いていたけど、直接、見るのは初めてだった。
そっけない態度をしていたけど、あの年ごろって気難しいし、親と上手く行ってない子もいるからね。私も、親とはあまり仲良くなかったので、よく分かる。だって、口を開くたびに、小言をいって来るんだもん。
中学時代の友達たちは、みんな親と上手くやっていたので、とても羨ましかった。中には、母親と買い物や食事に行ったりと、凄く仲のよい親子もいた。
でも、うちでは絶対に無理。だって、母親は、私を怒るために、いるような存在だったから……。
やっぱり、うちと同じような親子関係の家庭もあるんだねぇ。まぁ、親子だからと言って、必ずしも価値観が同じわけじゃないし。相性がいいとも限らないもんね。私は大雑把で、母親は几帳面だったから、性格的に合うわけがない。
「さて、帰ったら、お茶とお菓子の在庫を補充して、事務所の清掃。あとは、リリーシャさんが帰ってきたら、さっき貰ったクッキーで、ティータイムにしよう」
私はウキウキしながら、エア・ドルフィンで空に舞い上がった。
やっぱり、おやつが有るとテンション上がるよねぇ。ほぼ毎日、リリーシャさんと一緒に、ティータイムをしていた。予約の合間や、その日の予約が全て終わったあとなど。忙しい時でも、ティータイムは欠かさない。
会社のお茶やお菓子は『自由に食べていいわよ』と言われていた。でも、一人でお茶しても味気ないので、リリーシャさんの予定に合わせて、必ず一緒にティータイムにしていた。
店から少し進んだところで、ふと視線がとまった。なぜなら、水路のわきに、気になる人物がいたからだ。
うつむいていて、よく顔は見えないけど。先ほどお店で見掛けた、ロナさんの娘さんだと思う。
「どうしたのかな――?」
彼女は建物の前の階段に、膝を抱えてボーっと座り込んでいた。先ほどの、お店でのやり取りと、関係があるのだろうか?
私は一瞬、考えたあと、ゆっくりと高度を落として行った……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回――
『本気は言葉じゃなくて態度で示すべきだと最近は思う』
いつだって世界を変えるのは夢を本気で追い求めるヤツだ
エア・ドルフィンに乗っていると、加速具合とかで、その日の調子が分かるんだよね。調子がいい日は、魔力制御がいつもより上手くいくので、スムーズに飛ぶことができる。
今日は練習飛行ではなく、会社の備品の買い出しだ。私、お使いって、大好きなんだよね。実家にいた時は、お使いとか超嫌がってたけど、こっちに来てから凄く好きになった。
空を飛んでお使いに行くのは、気持ちがいいし、お店の人との世間話も、楽しみの一つだ。この町の人たちって、みんな気さくなので、凄く話しやすい。だから、よく行くお店の人は、みんな仲良しだ。
以前は、リリーシャさんがやっていたけど、今は全ての買い出し業務を、私が引き継いでいる。リリーシャさんは、相変わらず忙しいし、私にできる数少ない仕事だからだ。
備品といっても、色んなものがある。今日、買いに行くのは、お茶とお菓子だ。来社してくださったお客様に出すので、お茶とお菓子は、物凄く大事なアイテムだった。もちろん、休憩時間に、私たちも食べるけどね。
ちなみに、会社によって、出す飲み物やお菓子が違うので、それも、会社の個性になっている。中には、ピザとか、料理を出す会社もあるらしい。おもてなしのアイテムで、利用する会社を選ぶ人もいるらしいので、凄く重要だよね。
お茶は、先ほど買って来たので、次に向かうのは、なじみの洋菓子店だ。そのお店は、アリーシャさんの代からずっと付き合いがあり、リリーシャさんは、子供のころから、よくお使いに行ってたらしい。
リリーシャさんとツバサさんは、子供のころ、よく〈ホワイト・ウイング〉に遊びに来ていて、元々は二人のおやつを買いに行くのが、目的だったんだって。リリーシャさんって、子供のころから、甘いものが大好きだったんだねぇ。
会社で使う備品は、ほぼ全て〈東地区〉の商店で揃えている。大手と違って大量には必要ないし、うちのような小さな会社は、地元とのつながりを大事にしているからだ。会社というよりは、個人商店に近いからね。
町を眺めながら飛んでいると、やがて目的のお店の屋根が見えてきた。青い屋根の上には、大きな『金色の鐘』のオブジェが設置してある。洋菓子店〈ウインド・ベル〉のトレードマークだ。上空から見ても、物凄く目だつ。
〈ホワイト・ウイング〉もそうだけど、この町って『風』や『翼』に関係する名前の、お店や会社が多い。『幸運の象徴』なので、商売では好んで使われるからだ。
店の前に静かに着地すると、エア・ドルフィンをゆっくり降りた。ガラス窓から中をのぞくと、店内には、大きなウインドウ・ケースが置かれている。
ケース内には、とても華やかな、色とりどりのケーキが並んでいた。お花畑のように色鮮やかで、見ているだけでテンションが上がって来る。
残りの半分のスペースには、様々な焼き菓子が置かれていた。ここのお菓子はどれも美味しく、贈答品としても人気がある。
うーん、いつ来ても美味しそう。特に、綺麗な装飾のケーキには、物凄く目がひかれる。でも、節約中の私にとっては、目の毒なんだよね……。
ケーキ一個分の値段で、いくつもパンが買えるし。下手をすると、私の一日分の食費に相当するので、物凄く贅沢品だ。
どうしようかなぁ、買っちゃおうかなぁ――。でも、ダメダメ!『蒼海祭』に向けて、節約中なんだから。
私は頬を軽く叩き、グッと気を引き締めると、扉を開け店に入る。
「あら、風歌ちゃん、いらっしゃい」
「ロナさん、こんにちは」
顔なじみの女将さんは、優しい笑顔で迎えてくれた。
「いつもので、いいかしら?」
「はい、いつものお願いします」
流石に、付き合いの長いお店だけあって『いつもの』だけで、通じてしまう。会社に買い置きしておくお菓子も、アリーシャさんの時から、ずっと同じなんだって。
「仕事のほうはどう?」
「お蔭様で、今のところ順調です。でも、もっともっと勉強して、早く一人前になりたいです」
以前ほど焦らなくはなったけど、それでも、一日も早く、一人前になりたい気持ちは変わらない。
「本当に、風歌ちゃんは偉いわねぇ。努力家だし、働き者だし」
「そんなこと有りませんよ。私は出来ることをしているだけで。リリーシャさんには、まだ遠く及びませんし」
そう、実際には、まだまだ未熟だ。かなり仕事も覚えて、慣れては来たと思うけど。リリーシャさんを見ていると、はるか遠くの存在に感じる。
「でも、雑用とか嫌がる子が多いでしょ? そういう、基本的な仕事を真面目にやる子は、必ず大物になるわよ」
「ありがとうございます。私、雑用だけはプロ級なので」
二人で顔を見合わせると、クスクス笑う。
その時、私の横を誰かが通り過ぎた。
「ちょっと、ロゼ。お客様には、ちゃんと挨拶なさいと、いつも言ってるでしょ!」
少女はピタリと足を止めると、こちらに振り向く。
「……いらっしゃいませ」
一瞬、嫌そうな顔をしたあと、小さな声で呟いた。
すぐに前を向くと、サッと店の外に出て行った。
「まったく、あの子ったら。挨拶一つ、ロクにできないんだから――」
「まぁまぁ、難しい年ごろなんじゃないですか?」
私はフォローを入れておく。
顔も似てたし、あの会話の感じからすると、娘さんかな? 歳は近い感じがするけど、少し下だろうか?
「と言っても、中学二年だから、風歌ちゃんと二つしか違わないのよ。店の手伝いは全然しないし、家事もやらないし。自分の部屋は散らかし放題。家にいてもゴロゴロするだけで、何の役にもたたないのよ」
ぐっ……。昔の自分のことを言われているようで、心に突き刺さる。
「でも、まだ中学生ですし、その内しっかりするんじゃないですか?」
中学生なんて、そんなのが普通だし。あまり期待し過ぎちゃ、可愛そうだと思う。って、あの子のフォローというより、過去の自分をフォローしている気がするんだけど――。
「どうかしらねぇ? これからも変わらない気がするけど。その点、風歌ちゃんは本当に偉いわね。毎日、一生懸命に働いて。一人暮らしで、家事も全部やっているんでしょ?」
「しかも、素直で明るくて、礼儀正しいし。さぞかし、親御さんも鼻が高いでしょうねぇ」
ぐはっ……。褒められてるはずなのに、言葉がプスプスと心に突き刺さる。
今現在、勘当中だし、親とも仲悪いし、家事も全くできないんですけど――。変に過大評価されると、逆に辛い。
「い、いえ……全然、そんなことないですよ」
「そういう、謙虚なところも素敵よ。流石は、リリーちゃんが見染めた新人さんね」
ロナさんは、ニコニコしている。
ここまで期待されると、本当のことは言えない――。リリーシャさんは、本物の才女だけど、私の場合は、ただのハリボテであることを。
会社だって、単にお情けで入れて貰っただけだし、私はシルフィード学校すら行っていない。結局、会社とリリーシャさんの知名度のお蔭で、私の評価も、無駄に上がっちゃっているんだよね。
「はい、お待たせ。あと、これオマケで入れておくから、あとでリリーちゃんと食べてね」
ロナさんは、買い置きのお菓子の入った紙袋に、クッキーの袋も入れてくれた。私がお使いに来ると、よくオマケを付けてくれる。
「わぁ、ありがとうございます。いつも、色々頂いちゃってすいません」
「いいのよ。こちらこそ、いつも買いに来てくれて、ありがとうね」
私は袋を受け取ると、元気に挨拶をして店を出た。
そういえば、あの子はどうしたのかな? 娘さんがいる話は、以前から聴いていたけど、直接、見るのは初めてだった。
そっけない態度をしていたけど、あの年ごろって気難しいし、親と上手く行ってない子もいるからね。私も、親とはあまり仲良くなかったので、よく分かる。だって、口を開くたびに、小言をいって来るんだもん。
中学時代の友達たちは、みんな親と上手くやっていたので、とても羨ましかった。中には、母親と買い物や食事に行ったりと、凄く仲のよい親子もいた。
でも、うちでは絶対に無理。だって、母親は、私を怒るために、いるような存在だったから……。
やっぱり、うちと同じような親子関係の家庭もあるんだねぇ。まぁ、親子だからと言って、必ずしも価値観が同じわけじゃないし。相性がいいとも限らないもんね。私は大雑把で、母親は几帳面だったから、性格的に合うわけがない。
「さて、帰ったら、お茶とお菓子の在庫を補充して、事務所の清掃。あとは、リリーシャさんが帰ってきたら、さっき貰ったクッキーで、ティータイムにしよう」
私はウキウキしながら、エア・ドルフィンで空に舞い上がった。
やっぱり、おやつが有るとテンション上がるよねぇ。ほぼ毎日、リリーシャさんと一緒に、ティータイムをしていた。予約の合間や、その日の予約が全て終わったあとなど。忙しい時でも、ティータイムは欠かさない。
会社のお茶やお菓子は『自由に食べていいわよ』と言われていた。でも、一人でお茶しても味気ないので、リリーシャさんの予定に合わせて、必ず一緒にティータイムにしていた。
店から少し進んだところで、ふと視線がとまった。なぜなら、水路のわきに、気になる人物がいたからだ。
うつむいていて、よく顔は見えないけど。先ほどお店で見掛けた、ロナさんの娘さんだと思う。
「どうしたのかな――?」
彼女は建物の前の階段に、膝を抱えてボーっと座り込んでいた。先ほどの、お店でのやり取りと、関係があるのだろうか?
私は一瞬、考えたあと、ゆっくりと高度を落として行った……。
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