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第2部 母と娘の関係
3-4久々に三人そろった楽しいランチタイム
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私は〈エメラルド・ビーチ〉にあるカフェ〈リトル・マーメイド〉に来ていた。ここは、ナギサちゃんたちと、よくランチをしに来る、お気に入りのお店だ。
ランチセットの値段も手ごろだし、味も美味しい。それに〈東地区〉は、地元の人がメインなので、落ち着いた雰囲気で、のんびりできる。
テラス席のすぐ目の前は、白い砂浜になっており、海を見ながらの食事は開放感があって気持ちがよい。この町では、屋外で食事をする習慣が根強く、ほぼ全てのお店で、テラス席が用意されていた。
〈グリュンノア〉の創成期、仕事が終わった人たちで集まり、屋外に椅子やテーブルを並べて酒宴をしていたのが、起源と言われている。
今日は、ナギサちゃんとフィニーちゃんと、三人でランチタイムだ。ここのところ上手く予定が合わず、三人一緒のランチは久しぶりだった。
私は、いつもフリーなんだけど、大手の会社は、セミナーや研修も多い。それに、同じ会社の人との付き合いもある。学生時代のクラスの付き合いと同じで、同期と食事や遊びに行くことも、よくあるらしい。
ナギサちゃんは、セミナー以外の時は、いつでも付き合ってくれる。でも、フィニーちゃんは、社内での付き合いが意外とあり、来れない場合も多かった。無口な割には、交友関係が広かったりする。
でも、何となく分かるなぁ。一緒にいるとホッとするし。素直で可愛いから、誰からも好かれるんだろうね。みんなの『マスコット・キャラ』みたいな存在かな。
食事が一段落すると、お茶を飲みながら会話を再開する。やはり、今の時期の話題は『蒼海祭』だ。
「ナギサちゃんとフィニーちゃんの会社は、何かお店を出したりするの?」
「ファースト・クラスは、毎年、出店しているわよ」
「うちも、毎年やってるっぽい」
二人とも、さも当たり前そうに答えた。
やっぱり、大手は違うなぁ。私は〈ホワイト・ウイング〉が大好きだし、二人でこじんまりやっているのも、アットホームで気に入っていた。でも、私が知らないことを、色々やっている二人の話を聴くと、大企業がちょっぴり羨ましく感じる。
「じゃあ、二人とも『蒼海祭』は忙しい感じ?」
「やると言っても、大したことはしないわよ。毎年、販売する物は、ほぼ同じだし、新人は出店の準備をするだけで、基本、売り子は先輩方だし。人気のシルフィードがいたほうが、お客様も集まるから」
「うちも、おなじ」
それを聴いて、ちょっとホッとした。私一人だけ、置いてけぼりなのは嫌だし。それに、いつものメンバーで、一緒にお祭りに行けるのは、物凄く嬉しい。
「じゃあ、また三人で、一緒にお祭り回れるね! 私、今年が初参加だから、また色々教えてよ」
「まぁ、最低限の知識は身につけないと、シルフィードとしてマズイわよね。案内はするけど、遊びじゃないんだから、そこを忘れないように」
ナギサちゃんに、早くも釘を刺される。
彼女は、本当にいつも真面目だ。プライベートだろうが、お祭りだろうが、全てが真剣なんだよね。そのプロ魂は凄いと思う。
「出店のことなら、まかせて。おいしい店、一杯しってる」
フィニーちゃんは、眠そうだった表情がとたんに明るくなり、自信ありげに答えた。普段は無表情でやる気なさそうだけど、食べ物のこととなると、俄然、光り輝く。実際、食べ物の知識では、ナギサちゃん以上なんだよね。
「出店、超楽しみだよね。私、魚介類が大好きだし、食べたいもの多すぎて、困っちゃうなぁ」
「全部まわれば、大丈夫」
フィニーちゃんは、ビシッと親指を立てた。
「えぇー、全部?! うわぁー、食べきれるかな?」
私の食事の量は標準的。ナギサちゃんは、やや小食。フィニーちゃんは、私たちの倍以上は食べる。なので、フィニーちゃんに合わせると、大変なことになってしまう……。
「だから、遊びじゃないって、言ってるでしょ。これは、とても大事で神聖な、海の感謝祭なのよ」
「ぜんぶ感謝しながら食べるから、大丈夫」
明らかに二人の目的がずれており、会話がかみ合わない。
「そうじゃなくて、お祭りの意義を考えなさいって、言っているのよ」
「お祭りは楽しむもの。ナギサが勘違いしてるだけ」
「な――なんですって?!」
いやー、相変わらずの正反対っぷりだ。歩く規則のナギサちゃんと、フリーダム全開のフィニーちゃんじゃ、どうしたって、価値観が合うはずがない。
でも、昔に比べて、ずいぶん親しくなったし、仲良し同士の言い合いだから、気にする必要はなかった。『喧嘩するほど仲がいい』って言うもんね。
とはいえ、ずっと放置する訳にもいかないので、さりげなく話題を変える。
「ところで、二人の会社は、どんなお店を出すの?」
「人気シルフィードの各種グッズと、手作り菓子の販売よ。お祭り限定のグッズもあるし、シルフィードの手作り菓子は、幸運アイテムとして人気があるから。当日は、かなりのお客様がいらっしゃるわ」
ナギサちゃんは不機嫌そうだったが、説明を始めると、すぐに真面目な表情に変わった。基本、質問やお願いをすると、すぐに機嫌を直して、いつも通りに切り替わる。どこまでも、真面目なんだよね。
「へぇー、お菓子って『ウイング・マドレーヌ』みたいな?」
「今年は、手作りのクッキーとチョコレートを、出品するわ。毎年、すぐに完売するから、量を用意するのが大変なのよ」
なるほど、確かにシルフィードの手作りなら、御利益を期待して、買う人も多そうだよね。この町の人たちは、シルフィードを特別な存在として見ているから。
「フィニーちゃんのところは?」
「うちも、同じ感じ」
フィニーちゃんは、気だるそうに答える。出店を回る話をしていた時の、活き活きした表情は、すでに消えていた。相変わらず、仕事に関しては、全く興味がないみたいだ。
「お菓子とかも、販売するの?」
「たぶん……。そういえば、メイリオ先輩――自家栽培のハーブティーを出品するって言ってた」
「それは、とても美味しそうだね」
「メイリオ先輩のハーブティーは、この町で一番おいしい」
以前〈ウィンドミル〉に行った時に、メイリオさんに出してもらったお茶は、すっごく美味しかった。あれが、メイリオさんの自家栽培のハーブティーなのかも。
「なら、二人の会社の出店も、見にいかないとね」
各シルフィード会社が、どんなお店を出すのか、ちょっと興味がある。もし、いい感じだったら、来年は、うちもやってみたいし。リリーシャさん、お菓子作りが凄く上手いし、絶対に売れると思う。
「いいわよ別に。自分の会社のなんか見ても、面白くないし」
「下手に行くと、手伝わされそうでやだ」
「あー、そういうことね……」
私から見ると、会社の出店とか羨ましいのに。意外と興味ないんだね、二人とも。私だったら、喜んで手伝うんだけどなぁ。リリーシャさんと二人で売り子とか、凄く楽しそう。
「でも、メインイベントは、やっぱり『サファイア・カップ』でしょ? みんなで一緒に参加しようよ!」
『サファイア・カップ』とは、毎年〈サファイア・ビーチ〉で行われる、ウォーター・ドルフィンのレースだ。
WDR (ワールド・ドルフィン・レース)には登録されていない、ローカルレースだけど、賞品や優勝トロフィーもあるし、ちゃんとシルフィードの実績にもなる。
「私はやめとくわ」
「私もやらない」
二人とも、あっさり断った。
「えぇー、何で? 優勝すれば、十万ベルの商品券もらえるよ。それに、実績にもなるんだよ。出ない理由なんてないじゃん」
露出の少ない私たち見習いにとって、皆に注目される大会は、唯一アピールできる場所だ。それに、優勝できれば、ちゃんと自分の経歴にもつくし。
「だから、私はいいわよ。風歌だけ出ればいいでしょ」
「疲れるし、出店まわる時間なくなるから嫌」
二人とも、全く興味がないようだ。
うー、せっかく三人で、一緒に出ようと思ってたのに――。まぁ、フィニーちゃんは動くの嫌いだから、しょうがないとして。ナギサちゃんは、普通に行けるんじゃないかなぁ? ん、もしかすると……。
「ナギサちゃん、もしかして泳げないとか?」
「ぐっ――。別に、泳げないんじゃないわよ、泳がないだけよ!」
ナギサちゃんは、妙にムキになって答える。
「それって、要するに泳げないんだよね?」
「なっ、煩いわね! 別に泳げなくても困らないし、今まで泳ぎに行く機会が、たまたま無かっただけよ」
なるほど……泳げないんじゃしょうがない。ライフ・ジャケットを着るから大丈夫とはいえ、泳げない人が、海上を高速で走るのは怖いもんね。
「しょうがない――。じゃあ、私一人で出るかぁー。でも、その代わりに、応援には来てよね」
まだ、こっちの世界に来て日が浅いし、初めて出る競技なので。個人技とはいえ、一人で出るのは、ちょっぴり心細い。
「応援ぐらいなら。レースの見学も、立派な勉強だし」
「サファイア・ビーチも、出店一杯あるから、食べながら見る」
目的はともかく、二人とも応援には来てくれるようだ。元々は、私的な参加理由だし、今回は一人で頑張ってみよう。
「それよりも、風歌は『ウォーター・ドルフィン』に乗ったことがあるの?」
「ないけど。ぶっつけ本番じゃ、やっぱダメかな?」
ジェットスキーみたいな感じ、という情報しか、今のところは知らない。もちろん、向こうの世界でも、ジェットスキーなんて、乗ったことはない。ただ、持ち前の運動神経で、何とかする自信はある。
「そんなの、駄目に決まっているでしょ。参加者は皆、レース経験者や、たくさん練習を積んできた人ばかりよ。それに、万一、レース中に大怪我でもしたら、どうするつもり?」
「だよねー。一度は、練習しなきゃダメかぁ……」
どっかで、ウォーター・ドルフィン借りられないかな? あとで、リリーシャさんに相談してみよう。
その後も『蒼海祭』の話題で盛り上がる。ナギサちゃんは、歴史や心得について。フィニーちゃんは、出店や食べ物について。二人とも地元出身だけあって、流石に詳しい。
レースに全員で参加できないのは、ちょっと残念だけど、お祭りを思いっ切り楽しむぞー。楽しむのも、見習いの立派な仕事だからね。
蒼海祭に向けて、色々頑張りまっしょい!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回――
『やっぱり焼きたてのサンマは最高に美味しい』
空腹はお料理を美味しくする最高のスパイスなのですよ
ランチセットの値段も手ごろだし、味も美味しい。それに〈東地区〉は、地元の人がメインなので、落ち着いた雰囲気で、のんびりできる。
テラス席のすぐ目の前は、白い砂浜になっており、海を見ながらの食事は開放感があって気持ちがよい。この町では、屋外で食事をする習慣が根強く、ほぼ全てのお店で、テラス席が用意されていた。
〈グリュンノア〉の創成期、仕事が終わった人たちで集まり、屋外に椅子やテーブルを並べて酒宴をしていたのが、起源と言われている。
今日は、ナギサちゃんとフィニーちゃんと、三人でランチタイムだ。ここのところ上手く予定が合わず、三人一緒のランチは久しぶりだった。
私は、いつもフリーなんだけど、大手の会社は、セミナーや研修も多い。それに、同じ会社の人との付き合いもある。学生時代のクラスの付き合いと同じで、同期と食事や遊びに行くことも、よくあるらしい。
ナギサちゃんは、セミナー以外の時は、いつでも付き合ってくれる。でも、フィニーちゃんは、社内での付き合いが意外とあり、来れない場合も多かった。無口な割には、交友関係が広かったりする。
でも、何となく分かるなぁ。一緒にいるとホッとするし。素直で可愛いから、誰からも好かれるんだろうね。みんなの『マスコット・キャラ』みたいな存在かな。
食事が一段落すると、お茶を飲みながら会話を再開する。やはり、今の時期の話題は『蒼海祭』だ。
「ナギサちゃんとフィニーちゃんの会社は、何かお店を出したりするの?」
「ファースト・クラスは、毎年、出店しているわよ」
「うちも、毎年やってるっぽい」
二人とも、さも当たり前そうに答えた。
やっぱり、大手は違うなぁ。私は〈ホワイト・ウイング〉が大好きだし、二人でこじんまりやっているのも、アットホームで気に入っていた。でも、私が知らないことを、色々やっている二人の話を聴くと、大企業がちょっぴり羨ましく感じる。
「じゃあ、二人とも『蒼海祭』は忙しい感じ?」
「やると言っても、大したことはしないわよ。毎年、販売する物は、ほぼ同じだし、新人は出店の準備をするだけで、基本、売り子は先輩方だし。人気のシルフィードがいたほうが、お客様も集まるから」
「うちも、おなじ」
それを聴いて、ちょっとホッとした。私一人だけ、置いてけぼりなのは嫌だし。それに、いつものメンバーで、一緒にお祭りに行けるのは、物凄く嬉しい。
「じゃあ、また三人で、一緒にお祭り回れるね! 私、今年が初参加だから、また色々教えてよ」
「まぁ、最低限の知識は身につけないと、シルフィードとしてマズイわよね。案内はするけど、遊びじゃないんだから、そこを忘れないように」
ナギサちゃんに、早くも釘を刺される。
彼女は、本当にいつも真面目だ。プライベートだろうが、お祭りだろうが、全てが真剣なんだよね。そのプロ魂は凄いと思う。
「出店のことなら、まかせて。おいしい店、一杯しってる」
フィニーちゃんは、眠そうだった表情がとたんに明るくなり、自信ありげに答えた。普段は無表情でやる気なさそうだけど、食べ物のこととなると、俄然、光り輝く。実際、食べ物の知識では、ナギサちゃん以上なんだよね。
「出店、超楽しみだよね。私、魚介類が大好きだし、食べたいもの多すぎて、困っちゃうなぁ」
「全部まわれば、大丈夫」
フィニーちゃんは、ビシッと親指を立てた。
「えぇー、全部?! うわぁー、食べきれるかな?」
私の食事の量は標準的。ナギサちゃんは、やや小食。フィニーちゃんは、私たちの倍以上は食べる。なので、フィニーちゃんに合わせると、大変なことになってしまう……。
「だから、遊びじゃないって、言ってるでしょ。これは、とても大事で神聖な、海の感謝祭なのよ」
「ぜんぶ感謝しながら食べるから、大丈夫」
明らかに二人の目的がずれており、会話がかみ合わない。
「そうじゃなくて、お祭りの意義を考えなさいって、言っているのよ」
「お祭りは楽しむもの。ナギサが勘違いしてるだけ」
「な――なんですって?!」
いやー、相変わらずの正反対っぷりだ。歩く規則のナギサちゃんと、フリーダム全開のフィニーちゃんじゃ、どうしたって、価値観が合うはずがない。
でも、昔に比べて、ずいぶん親しくなったし、仲良し同士の言い合いだから、気にする必要はなかった。『喧嘩するほど仲がいい』って言うもんね。
とはいえ、ずっと放置する訳にもいかないので、さりげなく話題を変える。
「ところで、二人の会社は、どんなお店を出すの?」
「人気シルフィードの各種グッズと、手作り菓子の販売よ。お祭り限定のグッズもあるし、シルフィードの手作り菓子は、幸運アイテムとして人気があるから。当日は、かなりのお客様がいらっしゃるわ」
ナギサちゃんは不機嫌そうだったが、説明を始めると、すぐに真面目な表情に変わった。基本、質問やお願いをすると、すぐに機嫌を直して、いつも通りに切り替わる。どこまでも、真面目なんだよね。
「へぇー、お菓子って『ウイング・マドレーヌ』みたいな?」
「今年は、手作りのクッキーとチョコレートを、出品するわ。毎年、すぐに完売するから、量を用意するのが大変なのよ」
なるほど、確かにシルフィードの手作りなら、御利益を期待して、買う人も多そうだよね。この町の人たちは、シルフィードを特別な存在として見ているから。
「フィニーちゃんのところは?」
「うちも、同じ感じ」
フィニーちゃんは、気だるそうに答える。出店を回る話をしていた時の、活き活きした表情は、すでに消えていた。相変わらず、仕事に関しては、全く興味がないみたいだ。
「お菓子とかも、販売するの?」
「たぶん……。そういえば、メイリオ先輩――自家栽培のハーブティーを出品するって言ってた」
「それは、とても美味しそうだね」
「メイリオ先輩のハーブティーは、この町で一番おいしい」
以前〈ウィンドミル〉に行った時に、メイリオさんに出してもらったお茶は、すっごく美味しかった。あれが、メイリオさんの自家栽培のハーブティーなのかも。
「なら、二人の会社の出店も、見にいかないとね」
各シルフィード会社が、どんなお店を出すのか、ちょっと興味がある。もし、いい感じだったら、来年は、うちもやってみたいし。リリーシャさん、お菓子作りが凄く上手いし、絶対に売れると思う。
「いいわよ別に。自分の会社のなんか見ても、面白くないし」
「下手に行くと、手伝わされそうでやだ」
「あー、そういうことね……」
私から見ると、会社の出店とか羨ましいのに。意外と興味ないんだね、二人とも。私だったら、喜んで手伝うんだけどなぁ。リリーシャさんと二人で売り子とか、凄く楽しそう。
「でも、メインイベントは、やっぱり『サファイア・カップ』でしょ? みんなで一緒に参加しようよ!」
『サファイア・カップ』とは、毎年〈サファイア・ビーチ〉で行われる、ウォーター・ドルフィンのレースだ。
WDR (ワールド・ドルフィン・レース)には登録されていない、ローカルレースだけど、賞品や優勝トロフィーもあるし、ちゃんとシルフィードの実績にもなる。
「私はやめとくわ」
「私もやらない」
二人とも、あっさり断った。
「えぇー、何で? 優勝すれば、十万ベルの商品券もらえるよ。それに、実績にもなるんだよ。出ない理由なんてないじゃん」
露出の少ない私たち見習いにとって、皆に注目される大会は、唯一アピールできる場所だ。それに、優勝できれば、ちゃんと自分の経歴にもつくし。
「だから、私はいいわよ。風歌だけ出ればいいでしょ」
「疲れるし、出店まわる時間なくなるから嫌」
二人とも、全く興味がないようだ。
うー、せっかく三人で、一緒に出ようと思ってたのに――。まぁ、フィニーちゃんは動くの嫌いだから、しょうがないとして。ナギサちゃんは、普通に行けるんじゃないかなぁ? ん、もしかすると……。
「ナギサちゃん、もしかして泳げないとか?」
「ぐっ――。別に、泳げないんじゃないわよ、泳がないだけよ!」
ナギサちゃんは、妙にムキになって答える。
「それって、要するに泳げないんだよね?」
「なっ、煩いわね! 別に泳げなくても困らないし、今まで泳ぎに行く機会が、たまたま無かっただけよ」
なるほど……泳げないんじゃしょうがない。ライフ・ジャケットを着るから大丈夫とはいえ、泳げない人が、海上を高速で走るのは怖いもんね。
「しょうがない――。じゃあ、私一人で出るかぁー。でも、その代わりに、応援には来てよね」
まだ、こっちの世界に来て日が浅いし、初めて出る競技なので。個人技とはいえ、一人で出るのは、ちょっぴり心細い。
「応援ぐらいなら。レースの見学も、立派な勉強だし」
「サファイア・ビーチも、出店一杯あるから、食べながら見る」
目的はともかく、二人とも応援には来てくれるようだ。元々は、私的な参加理由だし、今回は一人で頑張ってみよう。
「それよりも、風歌は『ウォーター・ドルフィン』に乗ったことがあるの?」
「ないけど。ぶっつけ本番じゃ、やっぱダメかな?」
ジェットスキーみたいな感じ、という情報しか、今のところは知らない。もちろん、向こうの世界でも、ジェットスキーなんて、乗ったことはない。ただ、持ち前の運動神経で、何とかする自信はある。
「そんなの、駄目に決まっているでしょ。参加者は皆、レース経験者や、たくさん練習を積んできた人ばかりよ。それに、万一、レース中に大怪我でもしたら、どうするつもり?」
「だよねー。一度は、練習しなきゃダメかぁ……」
どっかで、ウォーター・ドルフィン借りられないかな? あとで、リリーシャさんに相談してみよう。
その後も『蒼海祭』の話題で盛り上がる。ナギサちゃんは、歴史や心得について。フィニーちゃんは、出店や食べ物について。二人とも地元出身だけあって、流石に詳しい。
レースに全員で参加できないのは、ちょっと残念だけど、お祭りを思いっ切り楽しむぞー。楽しむのも、見習いの立派な仕事だからね。
蒼海祭に向けて、色々頑張りまっしょい!
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次回――
『やっぱり焼きたてのサンマは最高に美味しい』
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